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変化するメディア環境で問われるメディア・リレーションズ ―細分化するメディアと「信頼」の築き方―世界のインターナルコミュニケーション最前線㉓

メディア・リレーションズとは、平たく言うと「届けたい相手に、その相手が信頼している人を通じて情報を届けるための、関係づくりの仕事」のことです。プレスリリースを配信する作業そのものを指す言葉ではありません。

「リリースを送っても、以前のようには載らない」。もし、そう感じていらっしゃるとしたら、それは発信の質だけの問題ではないのかもしれません。届け先であるメディアそのものが、いま大きく姿を変えているからです。

新聞やラジオなどのローカルメディアが縮小する一方、独立系ジャーナリストやニュースレター、ポッドキャスト、インフルエンサーなど、新たな情報発信者が存在感を増しています。さらに「ペイ・トゥ・プレイ」の広がりや、情報の信頼性をめぐる問題も浮上しています。こうした変化の中で、コミュニケーション専門家は誰に、どのようにアプローチすればよいのでしょうか。

IABC国際ビジネスコミュニケーター協会のフェローによる座談会「Circle of Fellows」第131回 ”The Evolving Media Landscape and What It Means for Media Relations” では IABCフェロー4名が、IABCフェローでもあるShel Holtz氏(司会)の進行のもとで、変化するメディア環境とこれからのメディア・リレーションズについて議論しました。

結論から言えば、議論が示していたのは「まったく新しい仕事を始める必要はない。ただし、届け先の地図は描き直さなければならない」ということだと思われます。いま使っているメディアリストを更新しないまま使い続けることは、現状維持ではありません。届く範囲が少しずつ狭まっていくほうを選んでいる、と言い換えることもできるでしょう。

本記事では、座談会の要点を整理したうえで、自社の状態を測る自己診断チェックと、明日から着手できる4週間のステップをご紹介します。

ローカルメディアの縮小で失われるもの

議論の冒頭で大きなテーマとなったのが、新聞やラジオなどローカルメディアの縮小です。Edward “Ned” Lundquist氏は、小さな町の日刊紙や週刊紙、大手新聞の地域版など、「ローカルメディアと呼ぶ一つのセグメント全体を失ってしまった」と指摘します。

ローカルメディアが失われることは、単に情報を伝える媒体が減るだけではありません。Martha Muzychka氏は、地域の編集者や住民とつながり、地域のコンテンツや情報源を提供することがメディア・リレーションズで非常に有効だったと振り返ります。地域の文脈があるからこそ、一つのテーマがそれぞれの地域でどのような意味を持つのかを伝えることができたのです。

Jennifer Wah氏も、地域に密着した報道がなくなることで、地方版のニュースにはそのコミュニティ特有の細かなニュアンスが抜け落ちていることが積み重なり、地域住民が「これは何か違う、どうも腑に落ちない」と感じることがよくあると話します。

こうした状況は、企業のメディア・リレーションズだけでなく、人々が自分の暮らす地域について知る機会そのものにも影響を与えています。これは「地方に拠点を持つ企業だけの話」ではありません。全国紙の一面には届かない情報でも、地域の紙面やラジオでは主役になれた。言い換えれば、その回路が静かに失われつつある、ということです。

例えば、地元の学生に採用メッセージを届けたい、工場やオフィスがある地域に事業の意味を理解してもらいたい。そうした場面で機能していた経路が、気づかないうちに一本ずつ減っているのではないでしょうか。

そして厄介なのは、この変化が「掲載されませんでした」という形では通知されないことです。何も起きていないように見えるまま、届く範囲だけが静かに縮んでいきます。


 

自社に置き換えて考えるための3つの問い

ここで少し手を止めて、あなたの会社の状況を思い浮かべてみてください。

  • 3年前には連絡が取れたのに、いまは担当者が分からなくなっている媒体・記者はいませんか。
  • その媒体が担っていた「自社を地域の文脈で語る」という役割を、いまは誰が担っているでしょうか。
  • その空白を埋める手立てを、自社は持っているでしょうか。

ここまで、失われつつあるものについて見てきました。では、いま残っているメディアの側では、どのような変化が起きているのでしょうか。

「ペイ・トゥ・プレイ」が突きつける倫理の問題

もう一つの大きな変化が、記事掲載に広告や費用が必要な「ペイ・トゥ・プレイ」の広がりです。Diana Degan氏は、以前ならクライアントの情報を提供し、記事掲載につなげることができた媒体から、「広告を買わなければ記事にしてもらえない」とお金を求められるようになった経験を紹介しました。

司会のShel Holtz氏も、CBS News向けの番組を制作するプロダクションから、貴社を取り上げたいと提案され、具体的な取材内容について話し合った後になって「6万ドルの参加費がかかります」と告げられた事例を紹介しています。

こうした状況についてMuzychka氏が提起したのが、倫理の問題です。複数のメディアサービスが失われ情報源が限定されれば、異なる情報を照合して検証する「三角測量」が難しくなります。スマホで簡単に発信する人たちは必ずしも、知識や、エビデンスに基づいた情報や研究に根ざしていません。またペイ・トゥ・プレイでは、結局、単一の情報源しか得られません。「私たちには批判的思考や分析が不足しています。評価するために使える情報源そのものも欠けているからです」と指摘します。

Lundquist氏は、「結局はすべて信頼に行き着きます。そして信頼は真実に基づいていなければなりません」と語ります。メディアのビジネスモデルやチャネルが変わっても、コミュニケーション専門家にとって真実と信頼が仕事の基盤であることは変わりません。

ここで問われているのは、支払うか支払わないかという一回ごとの判断ではないように思われます。端的に言えば、自社としての線引きを、案件が来る前に決めているかどうかです。基準がないまま個別に判断していると、現場は毎回迷い、「今回だけ」が静かに積み上がっていきます。そして、その積み重ねを最初に見抜くのは、読者と記者です。逆に言えば、一度「あの会社の露出はお金で買われたものだ」と受け取られてしまえば、その後にどれだけ誠実な発信をしても、同じ疑いの目で読まれることになってしまいます。

ペイ・トゥ・プレイの提案を受けたときに確認したい3つの問い

具体的には、次の3点を確認してみてはいかがでしょうか。

  • 編集権は誰にあるか
    掲載内容を最終的に決めるのは編集部でしょうか、それとも費用を払う側でしょうか。
  • 読者にどう見えるか
    広告・タイアップであることが読者に明示されるでしょうか。明示されないなら、それは読者から判断材料を奪う行為になってしまいます。
  • その先に何が残るか
    一度きりの露出で終わるのか、継続的な関係の入り口になるのか。残るものがないのであれば、それは投資ではなく支出だと言えるでしょう。

この3つの問いを社内の共通言語にしておくだけでも、判断のスピードと一貫性は大きく変わります。まずはA4一枚のガイドラインから始めてみてください。

ここまでは、既存のメディアで起きている変化を見てきました。では、そこから離れていった発信者たちとは、どのように出会えばよいのでしょうか。

細分化するメディアの見つけ方

一方、従来のメディアから離れたジャーナリストが、SubstackなどのニュースレターやYouTubeなどで独自のメディアを立ち上げる動きも広がっています。問題は、こうした新しい発信者をどのように見つけ、関係を築くかです。

これに対するDegan氏の答えは明快です。「それこそが私たちの仕事です。それがメディア・リレーションズだからです。」誰が何をしているのか、どこで発信しているのかを把握し、自分たちの領域を理解して関係を築くことは、以前からメディア・リレーションズの仕事でした。現在は、その対象がこれまで以上に複雑になり、細分化しているにすぎないというのです。

そして、どのメディアに時間を使うかを決める基準についてWah氏は、「それはオーディエンス主導であるべき」と指摘します。大手メディアだから価値があるのではなく、自分たちが届けたい相手がどこで情報を得ているのかを見極めることが重要なのです。

視点を変えれば、「有名だから」「昔から付き合いがあるから」という理由だけでリストに残っている送付先は、いま見直すべき対象だということになります。メディアリストは資産ではなく、更新しなければ劣化していく在庫だと考えたほうが、実態に近いのかもしれません。


【自己診断チェック】自社のメディア・リレーションズ成熟度

以下の5項目について、「はい」「いいえ」でお答えください。

  • 届け先の定義:「どの媒体に載せたいか」ではなく「誰に届けたいか」から発想し、その相手が実際に情報を得ている場所を言葉にできていますか。

  • リストの鮮度:使用中のメディアリストは過去1年以内に更新され、独立系ジャーナリスト、ニュースレター、ポッドキャストが含まれていますか。

  • 相手への理解:主要な送付先について、その人が直近で何を書き、何を話したかを、連絡する前に確認できていますか。

  • 関係の資産化:担当者が異動しても、「誰と、どんな関係があるのか」が組織に残る形で記録されていますか。

  • 倫理の線引き:ペイ・トゥ・プレイの提案を受けたときの判断基準が、事前に文書として決まっていますか。

「はい」が0〜2個の場合、自社の発信はすでに届いていない可能性が高い状態だと思われます。露出が減っているのは景気や話題性のせいではなく、届け先の地図が古いことが原因なのかもしれません。

「はい」が3〜4個の場合、変化には部分的に対応できています。その反面、特定の担当者の人脈と勘に依存している段階でもあります。その方が異動した瞬間に、関係はゼロに戻ってしまいます。

「はい」が5個すべての場合、いまの環境に十分に対応できています。次は、その運用を組織の仕組みとして定着させ、後任に引き継げる形にすることが課題になるでしょう。

【実践ステップ】メディアマップの4週間再構築

「いいえ」がついた方も、どうぞご安心ください。大がかりなプロジェクトは必要ありません。週に数時間、4週間あれば最初の一巡が回ります。

ステップ1(1週目):届けたい相手を「一人」に絞る

「30代の採用候補者」ではなく、「地方の国立大学で情報系を学ぶ4年生で、就職先を親に説明したいと考えている人」というレベルまで具体化します。ここが曖昧なままだと、この後のすべての作業が「なんとなく」になってしまいます。まずは自社にとって最も重要な相手を、一人だけ決めてみてください。

ステップ2(2週目):その人の「情報源」を10個集める

その一人が、平日の朝と通勤中と週末に何を見て、何を聴いているかを洗い出します。新聞やテレビだけでなく、ニュースレター、ポッドキャスト、業界特化のオンラインメディア、専門家個人の発信も対象です。可能であれば、社内の若手社員や実際の顧客に直接聞いてみてください。想像で埋めた10個より、聞き取った3個のほうが役に立ちます。

ステップ3(3週目):優先順位づけと「売り込まない自己紹介」

集めた情報源を、「届けたい相手への到達度」で並べ替えます。発行部数や知名度ではありません。上位から10人を選び、直近の記事や配信に触れたうえで、「今後こういう情報を提供できます。不要でしたら遠慮なくお知らせください」という自己紹介を送ります。この段階では、何も依頼しないことが重要です。

ステップ4(4週目以降):関係の資産化

誰と、いつ、何を話したか。どんなテーマに関心を持っていたか。何を断られたか。これらを担当者のメールボックスではなく、チームで見られる場所に記録します。地味な作業ですが、これがあるかないかで、担当者交代時に失われるものの大きさが変わってきます。

 

ここまで、届け先を見つけ直す手順を整理してきました。では、その新しい地図の中で、いま特に注目しておきたいメディアには、どのようなものがあるでしょうか。

重要性を増すポッドキャスト

その意味で、今後さらに重要になる可能性があるのがポッドキャストです。Holtz氏は、専門家やソートリーダーを適切なポッドキャストに出演させる取り組みを紹介しています。Degan氏も、規模は小さくても、リーチしたいターゲットオーディエンスそのものに届くポッドキャストであれば、有効なメディアになり得ると話します。

さらにWah氏は、学生に「組織で働いているとしたら、どうやってメッセージを届けるか」と尋ねると、ポッドキャストは大多数の学生にとって上位二つか三つのチャネルに入ると指摘します。若い世代では、リスナーとポッドキャスターの間に「新しい形のつながりと信頼」が築かれているというのです。

Holtz氏は、ポッドキャストでの発言が主流メディアで引用されるケースも増えているとして、ポッドキャストを「新しい“街頭インタビュー”のようなもの」と表現しています。従来のメディアと新しいメディアは、必ずしも別々に存在するのではなく、相互に影響し合うようになっています。

採用の場面を思い浮かべると、この意味がはっきりするのではないでしょうか。若い世代がすでに信頼を寄せている場所に自社の名前がまったく登場しないとすれば、それは「知られていない」のではなく、「選択肢に入っていない」ということです。

とはいえ、いきなり出演を目指す必要はありません。まずは、届けたい相手が聴いている番組を3本、実際に聴いてみてください。自社の専門家が語れるテーマと、その番組が扱うテーマの重なりが見えたときが、声をかけるタイミングだと言えるでしょう。

ここまで、変わっていくものを中心に見てきました。その一方で、環境がどれだけ変わっても、変わらないものもあります。

変わらないのは「関係を築く」という仕事

では、変化する環境の中で、メディア・リレーションズの専門家には何が求められるのでしょうか。今回の議論で繰り返し登場したのが、「関係」と「信頼」という言葉です。

Muzychka氏は、メディア・リレーションズを成功させる鍵について、「人とつながり、その人たちが何を必要としているかを理解すること」と語ります。大量の売り込みを一斉に送るのではなく、相手が何を必要としているのか、どのような形で情報を受け取りたいのかを理解し、相手の時間を尊重することが重要です。

Wah氏が紹介した調査では、ほとんどのジャーナリストが、自分に届く売り込みのうち実際に自分の仕事に関連があるものは25%未満だと答える一方、84%が、売り込みの前にメールで自己紹介し、関係づくりから始めてほしいと回答しているといいます。

この数字が示しているのは、噛み砕いて言えばシンプルな事実です。ジャーナリストは売り込みそのものを拒んでいるのではなく、自分と関係のない売り込みを拒んでいるのです。別の角度から言えば、先に自己紹介をして関係から始めるという、ほんの数分の手間をかけるだけで、8割以上の相手が望む形に近づけるということでもあります。

【ピッチ改善チェック】明日送るメールの見直し観点

具体的には、次の6つの観点で見直してみてください。矢印の左が「つい、やってしまいがちな形」、右が「相手の時間を尊重した形」です。

  • 宛先:同じ文面をメディアリストへ一斉配信 → 相手ごとに1〜2行を書き換える
  • 件名:「【プレスリリース】株式会社〇〇 新サービス提供開始のお知らせ」 → 「〇〇の記事を拝読しました/関連する現場データがあります」
  • 書き出し:自社の紹介と沿革から始める → 相手が直近で書いた、あるいは話した内容に触れる
  • 中身:自社が言いたいこと → その人の読者・リスナーにとって何が新しいのか
  • 依頼:「ぜひ取り上げてください」 → 「不要でしたら返信は不要です」と相手の負担を軽くする
  • タイミング:発表当日にまとめて送る → 発表前に自己紹介を済ませ、関係をつくっておく

すべてを変える必要はありません。まずは件名と書き出しの2行だけでも、十分に違いが出るはずです。

メディア環境が変われば、コミュニケーション専門家が関係を築く相手も変わります。新聞やテレビの記者だけではなく、独立系ジャーナリスト、ニュースレターの発行者、ポッドキャスターなどもその対象になります。しかし、相手を理解し、価値ある情報を提供し、時間をかけて信頼を築くという仕事の本質は変わりません。

まとめ 届け先の更新という次の一手

メディアの細分化によって、メディア・リレーションズは以前より複雑になっています。しかし今回の議論は、その変化に対応するために必要なのは、まったく新しい仕事を始めることではなく、「誰に届けたいのか」を起点に、適切な相手を見つけ、関係を築くという原点に立ち返ることだと示しています。

つまり、変わったのは仕事の中身ではなく、届け先の地図だということです。

これまで通りの場合と、いま動いた場合の違い

この1年をどう過ごすかで、差は静かに、しかし確実に開いていくと思われます。矢印の左が「これまで通りを続けた場合」、右が「いま、届け先を更新した場合」です。

  • 露出:掲載本数が理由の分からないまま減り続け、「発信力が落ちた」と社内で評価される → 規模は小さくても、届けたい相手に確実に届くルートが複数本できる
  • 有事の報道:普段から関係のある記者がおらず、危機時に自社の言い分を正確に伝えてくれる相手がいない → 平時に信頼を築いた相手が、事実確認の連絡を先にくれる
  • 採用・地域の理解:若い世代や地域住民の情報環境に自社の名前が登場せず、選択肢に入らない → 相手が信頼している場所に自社の言葉が置かれ、想起される
  • 担当者の存在価値:「リリースを配信する人」として、代替可能な業務に見られる → 「どこに、誰に届けるかを設計できる人」として、経営判断に関わる

要するに、何もしないことのコストは、請求書の形では届かないということです。だからこそ後回しになり、気づいたときには、届け先そのものが分からなくなってしまいます。

まずは今週、30分だけ時間を取ってみてください。上の自己診断チェックに答え、「いいえ」がついた項目を一つだけ選ぶ。そして、届けたい相手を一人、紙に書き出す。ここから始められます。

メディアの地図は変わりました。しかし、その地図を描き直せるのは、届けたい相手を最もよく知っている、あなた自身ではないでしょうか。

株式会社ソフィア

ビデオ・プロデューサー、コミュニケーション・コンサルタント

池田 勝彦

主にビデオ制作で撮影から編集までを担当しています。記事原稿も書いていますが、英語による取材・編集もやりますし、翻訳もできます。