インターナルマーケティングとは?従業員満足度を上げる重要性を解説
最終更新日:2026.02.17
目次
昨今、多くの大企業において、組織の分断や従業員のエンゲージメント低下が経営課題として浮上しています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や働き方の多様化が進む一方で、組織の一体感やビジョンの共有が希薄になりがちです。その解決策として、組織内において企業が従業員に対して行う「インターナルマーケティング」が再び大きな注目を集めています。
「マーケティング」は通常、顧客が商品をより多く購入するよう企業が行う活動全般を指しますが、「インターナルマーケティング」とは、その対象を「社内の従業員」に向けたものです。
なぜ今、社内に向けたマーケティングが必要なのでしょうか?それは、従業員の満足度(ES)なくして、持続的な顧客満足度(CS)や企業成長はあり得ないという認識が、経済産業省が推進する人的資本経営の広まりと共に確信へと変わってきたからです。
本記事では、このインターナルマーケティングについて、基本的な定義や重要性はもちろん、競合他社が実践している具体的な現場施策、そして弊社ソフィアの最新調査データから見えた「大企業のリアルな課題」とその対策について、網羅的かつ詳細に解説していきます。理論的な背景から実践的なツール活用まで、貴社の組織変革に役立つ知見を提供します。
インターナルマーケティングとは
インターナルマーケティングとは、「インターナル(internal)」という「内部」を意味する英単語が示すとおり、企業の内部におけるマーケティング活動を指す用語です。
インターナルマーケティングの概要
早稲田大学の木村達也教授は、著書『インターナル・マーケティング~内部組織へのマーケティング・アプローチ~』の中で「インターナル・マーケティングとは、組織がその目標を中長期的に達成することを目的として実施する、内部組織の協働のための一連のプロセスあるいはコミュニケーションの活動である」と定義しています。
具体的に、インターナルマーケティングには3つのフェーズがあると、木村氏は自身の発表した論文の中で述べています。
1.マーケティングの技術を社内に応用することで、エンプロイー(従業員)エクスペリエンス(体験)(EX) を向上させること
2.企業において顧客志向(顧客満足度を向上させるための価値を提供しつつ自社の利益も確保する考え方)を強化すること
3.企業が行うマーケティング活動を、全社に対して理解を促し浸透させることで、クライアントだけでなく従業員を含めたすべての関係を統合し、包括的なマーケティング活動を実現すること
一般的なマーケティングが相手にする市場は顧客(クライアント)ですが、インターナルマーケティングの市場は従業員(エンプロイー)であるため、エンプロイーマーケティングと言い換えることができます。
なお、前者で触れた「エンプロイーエクスペリエンス(EX)」とは「従業員体験(従業員経験)」という意味で、会社に属する社員が社内で遭遇するすべての経験を指します。企業変革においてしばしば言及される「従業員満足度」は、エンプロイーエクスペリエンスの一部です。そして、エンプロイーエクスペリエンスを向上させるというのは、社員が社内や業務、待遇などのあらゆる面で快い経験をすることと同義です。
企業がある目標を達成することにおいて、優秀な人材を開発・動機付けし、組織内にとどめておくためには、従業員が企業に求める条件をしっかりと満たしていくことが重要となります。従業員の要望をしっかりと満たしていくためのマーケティング活動を「インターナル・マーケティング」と呼んでいます。
参考:木村 達也(2016)「インターナル・マーケティングの研究 : 内部組織を対象とした、もうひとつのマーケティング・アプローチ」早稲田大学
インターナルマーケティングで従業員満足度(ES)を上げるために社内の市場原理を理解する
インターナルマーケティングにおける市場は従業員である旨はお伝えした通りです。マーケティングにおいて市場原理を理解することは必須ですが、これはインターナルマーケティングにおいても同様です。
インターナルマーケティングにおいて、企業は「売り手」であり、「買い手」は人材です。売り手である企業は、「仕事内容(製品)」や「待遇(価格)」、「通勤場所や勤務形態(流通)」や「採用活動(プロモーション)」といった形でマーケティングを行います。それによって企業は買い手である人材から「労働力」という対価を得ることになります。
マーケティング活動においては、買い手の「買うべき必要性(ニーズ)」や「買いたい欲求(ウォンツ)」の両方を売り手が満たすことで、買い手を満足させられます。
インターナルマーケティングにおいてのニーズは「仕事内容に見合った待遇」であり、ウォンツは「魅力的な社風や福利厚生、モチベーションを刺激する環境」などでしょう。このニーズとウォンツをしっかりと理解することが、企業活動においては重要となります。
サービスプロフィットチェーンを回していくこと
人事用語である「サービスプロフィットチェーン(SPC)」について聞いたことはあるでしょうか。これは、顧客満足と従業員満足、業績の因果関係を示したハーバード・ビジネススクールのへスケット(J.S.Heskett)、サッサー(W.E.Sasser,Jr.)らが提唱したビジネスフレームワークです。
サービスプロフィットチェーンの基本的な概念は、下記となります。
- 組織が従業員を大切に扱う
- 従業員は顧客に対して質の高いサービスを提供する
- 顧客満足が高まり、企業のファンになることでロイヤルティが高まる
これらのサイクルによって企業の売上増加につながり、利益から得たリソースをインターナルマーケティングに投資することで従業員満足はさらに高まり、サービスの質、顧客満足度も比例して向上するという好循環が生まれるわけです。
サービスプロフィットチェーンは、日本のGDPの7割を占めるサービス業(広義)において当てはまりやすいフレームワークとされています(ホテルなどの接客業が特にわかりやすい例でしょう)。顧客と従業員との接点が極めて近く、サービスのクオリティがそのまま企業評価へ反映されるためです。したがって、従業員にむけてインターナルマーケティングを実施し、行動変容や意識醸成に向けた施策を打つことは不可欠といえます。
企業の現場で起きている「見えない」コミュニケーション不全
現代の企業組織において、社内コミュニケーションの課題は年々複雑化しています。かつてのような「飲みニケーション」や「喫煙所トーク」といったインフォーマルな場が減少する一方で、リモートワークの普及やジョブ型雇用への移行により、業務上の接点が希薄化しているからです。多くの担当者が「なんとなく雰囲気が悪い」「横の連携が取れていない」と感じていますが、それを経営課題として言語化することは容易ではありません。
あなたの会社では最近、優秀な管理職候補が退職したり、なんとなく従業員に元気がなかったりしませんか? 社内コミュニケーション上の課題や組織風土の問題があると感じているけれど、どうしたら解決できるのかわからない。または、解決に向けたプランを上司や経営陣に提言してみたもののなかなか受け入れられない、と悩んでいるコーポレート部門のご担当者も多いのではないでしょうか。
このような状況下で、担当者がまず行うべきは、漠然とした不安を客観的な事実(ファクト)として捉え直すことです。ここでは、弊社ソフィアが実施した最新の調査データを基に、日本企業のコミュニケーションの実態を解剖していきましょう。
データで見る「戦略共感」と「1on1」の実態
弊社ソフィアの調査では、非常に衝撃的なデータが明らかになっています。それは、多くの企業が「経営戦略の浸透」に課題を抱えているという事実です。
弊社ソフィアの調査では、「自社の経営目標や戦略に共感している」と回答した社員は、全体のわずか1割にとどまることが明らかになりました。多くの企業が中期経営計画の策定やビジョンの発信に多大なリソースを割いているにもかかわらず、そのメッセージは現場の社員の心に届いていない、あるいは「自分事」として捉えられていないのが現実です。この「共感の欠如」は、組織の遠心力を強め、離職率の増加や生産性の低下に直結する深刻な経営リスクと言えるでしょう。
また、施策面においてもパラドックス(逆説)が発生しています。弊社ソフィアの調査では、「社内コミュニケーション促進のために実施している取り組み」の第1位は「1on1ミーティング」でした。しかし同時に、「促進に効果的でない(効果を感じにくい)取り組み」の上位にも1on1がランクインしています。
これは、多くの企業で1on1が「手段の目的化」に陥っていることを示唆しています。「週に1回話す」という形式だけが先行し、上司の傾聴スキル不足や信頼関係の欠如により、部下にとっては「ただの業務報告」や「苦痛な時間」になってしまっているのです。
組織を分断する「サイロ化」の深刻度
さらに、コミュニケーション不全が起きている「場所」についても特定が進んでいます。弊社ソフィアの調査では、課題を感じる対象として「部門間」を挙げた回答者が58%で最多となり、次いで「部門内(上司と部下)」が51%、「経営陣と社員」が42%と続きました。
| 課題の所在 | 割合 | 現場で起きている事象の例 |
| 部門間(横の壁) | 58% | 「隣の部署が何をしているか分からない」「連携ミスによる手戻り」「顧客情報の共有漏れ」 |
| 部門内(縦の壁) | 51% | 「上司にバッドニュースを報告しにくい」「評価への不信感」「1on1の形骸化」 |
| 経営と現場(階層の壁) | 42% | 「現場を知らないトップダウン指示への冷めた視線」「経営メッセージの空回り」 |
特に「部門間」の課題が突出している点は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やイノベーション創出を目指す現代企業にとって致命的です。新しい価値は異質な知の結合から生まれますが、組織がサイロ化(縦割り)している状態では、その結合が阻害されてしまうからです。
経営層に承認される社内コミュニケーション施策の上申資料作成法
経営層の視点と現場の視点のギャップを埋める
ソフィアはそんな悩める担当者と一緒に、上長に納得・共感してもらえる課題解決のストーリーを作っていきます。この記事では、上申資料作成の具体的なプロセスと、施策提案・実施の事例をご紹介していきましょう。
施策の提案を通すためには、まず「なぜ通らないのか」を理解する必要があります。経営層は常に「投資対効果(ROI)」と「経営戦略との整合性」を見て判断します。一方で、現場担当者は「雰囲気」や「感情」に焦点を当てがちです。この視点のズレを埋めるのが「上申資料」の役割なのです。
なぜ社内コミュニケーション施策の提案が通らないのか
私たちは、「組織のコミュニケーション上の問題を解決したい」といった漠然とした相談をお客様から受けることがよくあります。例えば、「組織力強化や人材育成の課題として中期経営計画にはダイバーシティ推進や、イノベーション創出など色々挙げられているけれど、離職率にも歯止めが効かなくなっていて、どう優先順位を付けて何から手を付けたらいいかわからない」といった具合です。担当者は何となく問題を肌感覚では理解しているけれど、上長を納得させるだけの根拠が用意できなかったり、個々の問題の関係性が整理できないために、具体的な施策に落とし込めずにいるのです。
提案が却下される主な理由は以下の3点に集約されます。
課題の解像度が低い:「コミュニケーションが不足している」という言葉は、人によって解釈が異なります。「情報の伝達量」なのか「感情の交流」なのか、具体的に何が不足しているのかが定義されていません。
根拠(エビデンス)が弱い:「現場の声」や「感覚」だけでは、数千万円規模の予算を動かす説得材料になりません。定量的なデータが必要です。
経営課題との接続がない:その施策を行うことで、会社の利益や成長にどう貢献するのか(How it helps business)が語られていません。
「社内コミュニケーションに問題がある。早急に現状を調査して、課題解決に向けたプランを作れ」とトップから指示があれば話は早いのですが、なかなかそうはいかないのが現実です。業績不振や社員の離職といった問題の根っこが実は社内コミュニケーションにある、と最初に気付くのは往々にして現場に近い担当者ですが、そもそも担当者が経営の上層部に対して忖度なく組織の問題を指摘すること自体が難しい場合もあります。
だからこそ、担当者は「感情」ではなく「論理」と「データ」で武装する必要があります。上申資料は、担当者が経営層に対して忖度なく、かつ客観的に組織の病巣を提示するためのツールなのです。
上申資料の構成案テンプレート(6W2H分析の活用)
説得力のある資料を作成するために、マーケティングのフレームワークを活用して情報を整理します。以下は、社内コミュニケーション施策における上申資料の基本構成案です。
| スライド構成要素 | 内容のポイント(問い) | 記載すべき要素 |
| 1. 背景・目的 (Why) |
なぜ今、この施策が必要なのか? | 経営環境の変化、離職率の上昇、エンゲージメントスコアの低下、DX推進の停滞など |
| 2. 現状分析 (Where) |
問題はどこにあるのか? | アンケート結果、部門間の連携ミス事例、1on1実施率と満足度のギャップなど。 |
| 3. 課題の特定 (What) |
何を解決すべきか? | 「部門間の情報遮断による機会損失」「ミドルマネジメントの対話スキル不足」など |
| 4. 施策内容 (How) |
どのように解決するか? | 社内報リニューアル、管理職研修、チャットツール導入、全社イベントなど。 |
| 5. ターゲット(Who/Whom) | 誰が、誰に対して行うか? | 実施主体(事務局・全部門)、対象者(全社員・管理職・新入社員など)。 |
| 6. スケジュール (When) |
いつ実施するか? | 準備期間、トライアル期間、本番稼働、効果測定のタイミング。 |
| 7. 予算・リソース (How much) |
いくらかかるか? | ツール導入費、研修費、外部委託費、社内工数。 |
| 8. 期待効果(KPI) | どのような成果が出るか? | エンゲージメントスコア向上、離職率低下、アイデア創出数、会議時間削減。 |
この構成に沿って、ステップ・バイ・ステップで資料を作成していきましょう。
社員調査・アンケートデータの分析方法と活用手順
社員調査データからコミュニケーション課題解決のプランを立てる
何から手を付けたらいいかわからない、施策を思いついても課題の根拠や費用対効果が示せないので、上申資料が作れない。そんな状況に陥ってしまう背景には、「コーポレート部門が現場の実態をきちんと把握していない」ことがあります。形式的に従業員満足度調査、やりがい調査、コンプライアンス意識調査など数々のアンケート調査をやってはいるものの、それを十分に活用できていない会社をこれまで多く見てきました。以下では、ソフィアがご担当者と一緒に課題解決に向けての提案資料を作成する際のステップ例をご紹介していきます。
ステップ1:社員意識に関するデータを分析し、課題の優先順位をつける
最初にやるべきことは、各種社内調査の再分析です。
多くの企業では、ES調査(従業員満足度調査)やストレスチェックを行っていますが、結果が「やりっぱなし」になっているケースが散見されます。まずは手元にあるデータを徹底的に読み解くことから始めましょう。
企業によっては社員調査を行っていなかったり、調査していても分析結果の概要資料しかないために再分析ができないというケースもあるでしょう。その場合に私たちは、簡易アンケートの設問設計ノウハウや、簡単な社員インタビューのやり方などについてご担当者に情報提供し、社員のデータを集めるところから一緒に行うこともあります。
効果的なアンケート設問設計のテンプレート
現状を深く掘り下げるためには、一般的な満足度調査に加え、コミュニケーションに特化した設問が必要です。以下に推奨する設問カテゴリと例を挙げます。
| カテゴリ | 設問例(5段階評価+自由記述) | 分析の狙い |
| 経営理解 | ・経営方針やビジョンに共感している ・自分の業務が会社の目標にどう貢献しているか理解している |
「共感1割」の壁を突破するためのベースライン把握。 |
| 縦の連携 | ・上司に悪い報告も躊躇なくできる(心理的安全性) ・上司からのフィードバックは適切だ |
1on1の質や信頼関係の確認。 |
| 横の連携 | ・他部署の業務内容を知っている ・業務上の課題解決のために他部署と協力できている |
サイロ化の深刻度測定。 |
| 情報環境 | ・業務に必要な情報はタイムリーに入手できる ・社内報やポータルサイトを見ている |
情報インフラやツールの機能不全の確認。 |
必要なデータが集まったら、「社員は会社のどんな点に不安や不満や怒りを抱えているのか」、「社員は会社が発信する情報の何に理解・共感を示していて、何を理解していないのか」等の観点から調査データを分析し、現状の課題を洗い出していきます。
課題が洗い出せたら、課題の優先順位付けを行います。「短期に解決すべき課題・長期的に解決すべき課題」「担当者の主管部署でできること・他部署を巻き込まなければできないこと」など、いくつか複合的な視点から課題を分類し、どの課題を優先して解決すべきか決めていきましょう。
例えば、「チャットツールの導入」は比較的短期かつ主管部署のみで実施可能ですが、「企業風土の変革」は長期的かつ全社的な巻き込みが必要です。これらを区別せずに提案すると、議論が発散してしまいます。
参考記事:バラバラにやっている社員調査を「ただの数字」から変革のエンジンに変えるために
ステップ2:課題解決に向けた施策案を出し、KPIを設定する
調査再分析結果や、簡易調査データをもとに課題を抽出し、課題整理ができたら、コミュニケーション施策の案出しを行います。組織風土やコミュニケーション関する施策には絶対的な正解があるわけではなく、コミュニケーションの状況は会社によって異なるため他社の成功事例をそのまま取り入れてもうまくいくとは限りません。組織開発や行動科学、経営学の理論やフレームワークを活用しながらも、各社ごとの事情に留意しながら施策を立案していきます。
施策案を出したら、実施の優先順位付けと施策ごとのKPI設定を行います。KPIは、「事務局が課題の解決に向けてどれだけ行動できたか」を測る行動KPIと、「施策に対してどれだけ社員の反応があったか」を測る反応KPIに分けて設定していきましょう。
KPIツリーによる目標設定の具体例
KPIを設定する際は、最終ゴール(KGI)から逆算して指標を分解する「KPIツリー」の考え方が有効です。
KGI(重要目標達成指標):経営課題に直結する成果
例:離職率の5%低下、エンゲージメントスコアの10pt向上、プロジェクト遅延率の削減
CSF(重要成功要因):KGI達成の鍵となる状態
例:上司部下の信頼関係構築、部門間ナレッジシェアの活性化、経営ビジョンの自分事化
KPI(重要業績評価指標):CSFの進捗を測る数値
KPI設定の具体例:
| 施策 | 行動KPI(Activity) | 反応KPI(Outcome/Output) |
| 1on1ミーティング | ・実施率(月1回以上) ・管理職の研修受講率100% |
・部下の「相談しやすさ」スコア向上 ・1on1満足度アンケート(5段階中4以上) |
| Web社内報 | ・記事更新数(月4本) ・登場社員数(全社員の20%) |
・PV数、UU数(閲覧率) ・記事への「いいね・コメント」数 ・読了率(ヒートマップ分析) |
| 社内イベント | ・イベント開催数(年2回) ・部門横断チームの組成数 |
・イベント参加率 ・参加後の「他部署への理解度」スコア向上 ・イベントきっかけの新規プロジェクト数 |
KPI設定時の注意点は、測定不可能な指標を置かないことです。例えば「風通しの良さ」はそのままでは測れませんが、「役員への提案数」や「会議での発言回数」といった代替指標に置き換えることで測定可能になります。

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ステップ3:施策を経営課題と紐付け、部門連携で時間をかけて進める
施策の裏付けとなるデータと、施策案と実施計画、施策のKPIが用意できれば、ひとまず上申資料を作ることができます。しかしながら、それがすんなり承認されるかというと、残念ながらそうではありません。
予算や人的リソースの配分を決定するのは経営層なので、いくら担当者が現場の問題意識を訴えても、「経営上優先的に手を付けるべき問題である」と認識されないことには、その上申は通りません。中期経営計画や株主説明会資料、統合報告書などに記載されている経営の重点課題や、経営層が社内外に向けて発信したメッセージ、過去に行った施策や既存施策の状況や結果と関連付けて提示することが重要です。
コミュニケーションや組織風土上の問題解決には時間がかかるものが多く、経営企画部、広報部、人事部、情報システム部などが連携して進めなければ、結果が出ないことも少なくありません。本質的な解決を行うには3年、5年とかかる場合もあります。そういった事実を踏まえ、中・長期のロードマップやマイルストーンを提示しながら根気よく取り組んでいきましょう。
ステップ4: エンプロイージャーニーマップを作成する
エンプロイージャーニーマップとは、エンプロイーエクスペリエンスをフェーズごとに図解化したものです。入社、研修、配属(先)、実務、コミュニケーション、育成、評価、キャリアアップ、退職などと従業員経験を分類して、それぞれのフェーズで従業員が何を期待し、どのような課題を感じ、どのような心理状態になるのかを想定します。そうするとエンプロイーエクスペリエンスを向上させるために打つべき施策、すなわちインターナルマーケティングの内容が定まるわけです。最近では、企業内研修の際には、「Leaner Experience(学習者体験)」、入社(新卒・中途)の際には「Onboarding Experience(入社時体験)」というように、入社から退社までだけなく、フェーズを分けて実施している企業が増えています。
社内コミュニケーション活性化の具体的な施策とKPI設定例
施策を立案する際は、弊社ソフィアが提唱する「3つの柱(対話・教育・ツール)」のバランスを考えることが重要です。ツールだけ導入しても、使う人の意識(教育)や運用(対話)が伴わなければ失敗します。ここでは、競合記事や最新トレンドも踏まえた具体的な施策をご紹介していきましょう。
【対話】1on1ミーティングの質的改善
弊社ソフィアの調査では、1on1は実施率が高いものの効果実感に乏しいという結果が出ています。これを改善するには、「業務管理」から「人材育成・対話」へと目的をシフトさせる必要があります。
施策内容:
- 1on1の目的(部下の成長支援、心理的安全性確保)を再定義し、全社に周知する。
- 上司が一方的に話すのではなく、部下が話す時間を8割にするルールを設ける。
- 「KizunaNavi」のようなAI解析ツールを導入し、対話の質(発話量、表情など)を客観的にフィードバックする仕組みを作る。
KPI:実施率だけでなく、「部下の成長実感スコア」や「上司の傾聴スキル評価」を測定する。
1on1(ワンオンワン)とは?目的やメリット、部下の成長を促すテクニックや話題例を紹介
最近は米国シリコンバレー由来の「1on1(ワンオンワン)」という新たなミーティングの手法がトレンドになっています…
【対話】「ザッソウ(雑談+相談)」の文化醸成
フォーマルな会議だけでなく、インフォーマルなコミュニケーションを誘発する仕掛けです。
施策内容:
- チェックイン:会議の冒頭数分間で、業務に関係のない「今の気持ち」や「最近のニュース」を話す時間を設ける。
- オフィス改革:マグネットスペース(コーヒーサーバーや複合機周辺)に立ち話ができるハイテーブルを設置したり、フリーアドレス制を導入して偶発的な出会いを促す。
- シャッフルランチ:部署や役職の異なるメンバーをランダムに組み合わせてランチ代を補助する。
【ツール】社内報・社内ポータルの戦略的活用
社内報は単なる「広報誌」ではなく、経営の意思を伝え、社員をつなぐ「経営ツール」です。
施策内容:
- Web化と双方向化:紙媒体からWebへ移行し、速報性を高める。「いいね」ボタンやコメント機能を実装し、社員の反応を可視化する。
- コンテンツの工夫:経営トップの人間味あふれるインタビュー、各部署の「あるある」ネタ、失敗談の共有など、読みたくなるコンテンツを作成する。
- 動画活用:社長の熱量や現場の雰囲気を伝えるために、テキストだけでなく動画メッセージを配信する。
【教育】メンター制度とタレントマネジメント
縦(上司部下)でも横(同僚)でもない、「斜め」の関係性を構築します。
施策内容:
- メンター制度:他部署の先輩社員が新入社員の相談役となる制度。利害関係のない第三者だからこそ話せる悩みを受け止める。
- スキルマップの公開:誰がどのようなスキルや経験を持っているかを可視化(タレントマネジメントシステム等の活用)し、業務上の相談相手を探しやすくする。
5. 【ツール】ビジネスチャット・社内SNSの導入とルール設計
メールの堅苦しさを排除し、リアルタイムな情報共有を実現します。
施策内容:
- Slack、Microsoft Teams、WowTalkなどのツール導入。
- 運用ルールの策定:「お疲れ様です」などの定型挨拶を禁止する、スタンプでの反応を推奨するなど、心理的ハードルを下げるルールを作る。
- 雑談チャンネル:「#ペット自慢」「#美味しいランチ情報」など、業務外のチャンネルを作成し、人となりを知るきっかけを作る。
他社の社内コミュニケーション施策の成功事例
社内コミュニケーション施策上申の事例
実際にどのようなコミュニケーション課題に対して、どのような情報を集めて上申し、施策につなげていったのか、ソフィアが関わった事例の一部をご紹介していきます。
経営方針の浸透と部門間コミュニケーション改善(精密機器メーカー 経営企画部)
この会社では、「社長が発信する方針が社内に浸透していない。また、各部門でどのような意思決定が行われたかについての情報が十分に全社で共有されていないため現場のストレスにつながっている」ということが担当者の課題認識でした。
そこでまず、現場社員がどのようなことにストレスを感じているのか要因を抽出するために、過去の社員アンケートの再分析と、数名の社員へのインタビュー調査を行いました。その結果、「二重業務の発生」「取引先への不信感の増大による損失が拡大」等の要因が顕著に見られたため、アンケートの数値や社員のコメントをエビデンスとし、優先課題と位置付けて、経営層に向けた報告書を作成しました。
課題の解決に必要な施策として、会議の改善やイントラポータルの改修、トップおよびミドルマネジメントの説明スキル向上に向けた研修、WEB社内報・社内SNSの導入を提案し、経営会議でのプレゼンテーションを行った結果、必要性が理解され承認に至りました。
成功のポイント分析
この事例の勝因は、コミュニケーション不足という「定性的な問題」を、「二重業務」や「損失拡大」という「定量的な経営リスク(コスト)」に翻訳して伝えた点にあります。経営層は「社員が不満を持っている」ことよりも「無駄なコストが発生している」ことに強く反応します。アンケートの自由記述から具体的な損失事例(「情報共有が遅れたせいでクレーム対応に追われた」など)を抽出し、上申資料に盛り込むことで、投資の必要性を納得させたのです。
一体感向上に向けた拠点間情報共有の強化(素材メーカー 広報部)
担当者が認識していた課題は「全国に拠点があり、製品も事業の性質も部門やグループ会社ごとに大きく異なる中、グループとしての一体感が欠如している」ということでした。紙の社内報・Web社内報で経営情報は発信されているものの、拠点の異なる社員同士がつながりを感じる機会はほぼないという状況でした。
そこで、同じような事業形態の他社がどのような社内コミュニケーションを行っているのか、国内・海外のトレンドを収集し、施策のヒントを探りました。また、既存の冊子社内報のアンケート結果と、Web社内報のアクセスログを再分析し、課題の抽出と優先順位付けを行うとともに、とくに注力すべきターゲット層(職種、地域)を決定しました。
その上で、各拠点に配置されている社内報の通信員に対し、社内広報業務の重要性理解と情報発信スキルの向上を目的とした講習会を行いました。普段は顔を合わせることのない通信員が一堂に会して意見交換を行ったことで、広報部側が現場の抱える課題をより具体的に知ることができ、通信員との信頼関係構築にもつながり、各拠点からの情報発信が活性化しました。
一連の実践の結果とその中で得られたデータをもとに、各社内コミュニケーションツールの役割と発信情報の整理を行い、より社内の一体化に資する社内報・Web社内報へのリニューアルを提案し、上長の決済に至りました。
成功のポイント分析
この事例では、いきなり大規模なシステム投資を行うのではなく、まずは「人(通信員)」への教育とネットワーク構築というスモールスタートから始めた点が評価されます。現場を巻き込んで味方につけ、小さな成功体験(クイックウィン)を作ってから、それを根拠に大きな予算(リニューアル)を獲得するという「段階的な合意形成プロセス」が功を奏しました。
社内コミュニケーション施策を進める上での注意点と失敗例
社内コミュニケーション施策のよくある失敗パターン
他社の成功事例をそのまま真似しても、自社の文化に合わなければ失敗します。以下は、多くの企業が陥りがちな失敗パターンです。
目的の不在(手段の目的化):
「流行っているから1on1を導入する」「他社がやっているから社内SNSを入れる」といった動機で始めると、現場は「やらされ仕事」と感じて反発します。何のためにやるのか(Purpose)を明確にし、腹落ちさせるプロセスが不可欠です。
経営層の不在:
担当者だけで盛り上がり、経営層が関与していないケースです。トップが「君たちで適当にやっておいて」というスタンスでは、全社的なムーブメントにはなりません。経営層が自らチャットで発信したり、イベントに参加したりする「本気度」を見せる必要があります。
「やめられない」病:
一度始めた施策(例えば月刊社内報)を、効果がないと分かっていても惰性で続けてしまうケースです。PDCAを回し、効果の薄い施策は勇気を持って廃止(スクラップ)し、リソースを新しい施策(ビルド)に振り向ける決断が必要です。
心理的安全性の軽視:
「風通しの良い職場」を目指して意見募集箱を設置したものの、投書した犯人探しが行われたり、批判的な意見が黙殺されたりすれば、逆効果になります。ツール導入以前に、何を言っても安全であるという土壌作りが先決です。
課題解決に必要なのは「諦めないこと」と「プロの知恵」
全社に関わるコミュニケーション課題を解決するためには、部門間の協力が必要になります。たとえば人事部が、社員の離職を防ぐためにデジタルツールを使ったコミュニケーションの強化や、学習システムの強化を行いたい、と考えるなら、情報システム部との連携が不可欠です。しかし、これを読んでいるあなたが人事部の方なら、「情報システム部とは業務でほとんど関わりがない」「管掌役員も違うから連携など不可能」と思うかもしれません。こういった規模の大きい施策に取り組むためにはどうしたらいいのでしょうか。
必要なアプローチは状況によって異なりますが、弊社で手掛けた例でいうと「最終的には情報システム部と広報部と経営企画部と連携して、社内コミュニケーションと学習システムの全体を見直す」という大きな絵を描きつつ、まずは第1歩として人事部のみで着手できる1年間の施策を上申する、という方法を取ることが多いです。1年目の施策が承認されたら、その結果を根拠として次の施策の必要性を訴え、2年目、3年目と施策の規模や連携する関係部の範囲を広げながら、本来の目標に向かっていくのが現実的でしょう。
ただし、ここまで考えて上申資料を作っても、決裁者の視点や経営の状況によっては通らないこともあります。重要なことは諦めないことです。一の矢を放ってダメなら、その原因を分析し、タイミングを見計らって二の矢、三の矢を継げばいいのです。
ソフィアはそれをお手伝いするだけの経験とアイディアがあります。あなたが自分の会社を変えたい、良くしたいという想いをお持ちでしたら、まずは一緒にディスカッションから始めていきませんか?
まとめ
社内コミュニケーションの課題は、一朝一夕には解決しません。しかし、客観的なデータに基づき、経営層の言語(ROIや経営リスク)で語られた上申資料があれば、組織を動かす第一歩を踏み出すことができます。本記事で紹介したフレームワークや事例を参考に、あなたの会社の未来を変えるための「最強の資料」を作成してください。
関連サービス
- 業務プロセス最適化 ―インターナルコミュニケーションの視点で業務を再設計―
- 調査・コンサルティング ―さまざまなデータから、課題解決につながるインサイトを抽出―
- メディア・コンテンツ ―読者と発信者、双方の視点に立った企画、設計―






