AI時代、コミュニケーション職に求められる「リーダーシップ」―ガバナンスからナラティブまで、変わる役割を考える―世界のインターナルコミュニケーション最前線㉔
最終更新日:2026.10.14
目次
生成AIの活用が急速に広がる中、コミュニケーション専門職に問われているのは、AIツールを使いこなすスキルだけではありません。AIを組織の中でどう位置づけ、どう使い、ステークホルダーとの信頼をどう守るのか。その意思決定にコミュニケーションの視点を組み込むことが、これまで以上に重要になっています。
ここでいう「コミュニケーション・リーダーシップ」とは、平たく言うと、AIの使い方を決める場面で、「社員や社会にどう受け止められるか」という視点から組織の意思決定をリードしていく姿勢のことです。文章をつくるのが上手いかどうかではなく、組織がAIと向き合うときの「判断の質」を高める役割だと言い換えられるでしょう。
あなたの会社のAI利用ルールは、コミュニケーション部門が知らないところで決まっていませんか? そして、決まった後に「これを社員に周知して」と依頼されてはいないでしょうか。もし心当たりがあるなら、今回の議論はきっと他人事ではないはずです。
IABC(国際ビジネスコミュニケーション協会)のWeb誌”Catalyst”に9月21日掲載された”AI and the Communication Leadership Moment: Circle of Fellows #132“(AIにコミュニケーション職がリーダーシップを発揮する時)では、Global Allianceが実施した調査をもとに、Shel Holtz氏の進行で、IABCフェローのAdrian Cropley氏、Bonnie Caver氏、Mike Klein氏が、AI時代にコミュニケーション専門職が果たすべき役割について議論しています。
結論から言えば、議論のポイントは次の3つにまとめられます。
- AIガバナンスには、設計段階からコミュニケーションの視点を組み込む必要がある
- AI利用の開示は「使ったか」ではなく「何に使ったか」という文脈で判断する
- コミュニケーション専門職の役割は、「書く人」から「ナラティブを設計する人」へと移っていく
本記事では、これらの論点を順にご紹介するとともに、自社の現状を確かめる「自己診断チェック」と、明日から動き出せる「実践ステップ」もあわせて解説します。
AIガバナンスに欠かせないコミュニケーションの視点
AIガバナンスとは、噛み砕いて言えば、組織の中でAIを「誰が、何に、どこまで使ってよいか」を定め、その運用に責任を持つためのルールや仕組みのことです。
Global Allianceの調査では、95.9%の組織が従業員によるAI利用を認めている一方、正式なAIガバナンスをコミュニケーション専門職が主導している組織は8.6%にとどまります。
逆に言えば、逆に言えば、9割を超える組織では、コミュニケーション専門職が主導していません。従業員の働き方や社外への発信に直結するルールが、コミュニケーションの視点を十分に反映しないまま決まっている組織も少なくない可能性があります。
では、コミュニケーション部門がAIガバナンスそのものを主導すべきなのでしょうか。
Cropley氏は、必ずしもそうではないとしながらも、少なくとも意思決定の場に加わる必要があると指摘します。AIをどの程度使ったのか、人間がどこまで関与しているのか、そしてその結果をどう伝えるのか。こうしたコミュニケーションの文脈を理解しないまま、組織のAI利用のルールが決められることに懸念を示しています。
Holtz氏も、コミュニケーション部門は従業員が施策をどう受け止めるかを理解しているからこそ、ガバナンスが決まった後に「これをコミュニケーションして」と依頼されるのではなく、その設計段階から関与すべきだと述べています。
設計段階から関わらないと、何が起きるでしょうか。具体的には、現場の実態とかけ離れたルールが一方的に通知され、社員は「結局、何をしてよくて、何がダメなのか分からない」と戸惑うことになるでしょう。その結果、ルールを避けて個人的にAIを使う、いわゆる「シャドーAI」が広がることにもなりかねません。そして、そのしわ寄せを受けるのは、後から「伝える役」だけを任されたコミュニケーション部門だと思われます。
AIガバナンスへの関わり方による違い
【決まった後に「伝える役」を担う(従来型)】
- ルールの浸透:通知して終わりになり、「なぜ」が伝わらず形骸化しやすい
- 従業員の受け止め:「禁止事項が増えた」と受け止められ、不安や反発が生じやすい
- リスク対応:シャドーAIや不適切な発信が起きてから、後追いで対応することになる
- 部門の存在価値:「文面を整える部署」にとどまる
【設計段階から関与する(これからの姿)】
- ルールの浸透:背景や意図まで含めて伝わり、現場で使われるルールになる
- 従業員の受け止め:「安心して使うための指針」として受け止められやすい
- リスク対応:想定される誤解や炎上リスクを、事前に織り込める
- 部門の存在価値:経営の意思決定を支える戦略パートナーになる
ここまで、AIガバナンスにコミュニケーションの視点が欠かせない理由を見てきました。では、コミュニケーション部門は、ガバナンスの中でどのような役割を果たせばよいのでしょうか。
「守る」だけではない、機会をつくる役割
AIガバナンスが重要になる理由の一つが、レピュテーション(評判)です。Caver氏は、AIの利用方法を開示しないことや、倫理的な問題への対応不足が組織の行動として認識され、レピュテーションリスクにつながると指摘します。
例えば、AIで生成した画像や文章であることを伏せたまま発信し、後から外部に指摘されたとしたらどうでしょう。社外からの批判にとどまらず、「会社は社員にも何か隠しているのでは」という社内の不信にもつながりかねません。一度失った信頼を取り戻すには、何倍もの時間とコストがかかるでしょう。
一方で、Klein氏は、ガバナンスやレピュテーションを「防御」だけで捉えることに注意を促します。コミュニケーションリーダーにはリスクから組織を守るだけでなく、AIによって生まれる機会を見つける役割もあるからです。
Holtz氏は、コミュニケーション専門職は危機対応など「良い防御」を得意としてきたと振り返ります。これを受けてCropley氏は、コンテンツ制作やツール習得にとどまらず、リーダーシップを担う役割へ踏み出す好機だと語ります。AIをコンテンツ制作のためのツールとして学ぶだけではなく、組織がAIをどう活用するかという、より戦略的な領域へ踏み込むことが求められているのです。
視点を変えれば、守りに徹しているだけでは、AI活用の主導権は情報システム部門や外部ベンダーに移り、コミュニケーション部門は「最後に文面を整える部署」にとどまってしまうかもしれません。それに対して、例えば社員の声の分析、多言語での情報発信、マネージャーが部下と対話するための資料づくりなど、AIで「何ができるようになるか」を経営に提案できれば、部門の役割は大きく広がるのではないでしょうか。
ここまで、「守り」と「攻め」の両面からコミュニケーション部門の役割を整理してきました。では、AIを使って発信する際に、多くの組織が悩む「開示」の問題には、どのように向き合えばよいのでしょうか。
「AIを使ったか」から「何に使ったか」への転換
議論の中で特に多くの時間が割かれたのが、AI利用の「開示」です。調査では、4社に1社がAI利用をまったく開示していません。しかし登壇者たちの議論は、「開示するか、しないか」という単純な二者択一には向かいませんでした。
Cropley氏は、AIで完全に生成した画像と、文章のスペルチェックや編集にAIを使った場合を同じように扱うべきなのかと問いかけます。アイデアを得たり、文章の書式を整えたりするたびにAI利用を表示する必要があるのでしょうか。同氏は、「AIをどの程度使い、人がどこまで関与したかという度合いが重要で、議論は『何に使ったのか』という方向に移りつつあると思います」と述べています。
つまり重要になるのは、AIが制作プロセスのどこに、どの程度関与したのかという「文脈」です。
Holtz氏も具体例を挙げています。文章の読みやすさを整えるためにAIを使う程度なら、AIが文章を書いたとは言えないはずです。また、記事に添える写真がないためAIに概念的な商用グラフィックを作らせたケースについても、かつて商業アーティストに同じ役割を依頼した場合、その事実を必ずしも記事に表示してはいなかったはずだと指摘します。
さらに、インタビューをAIのノート取りツールで録音・文字起こしし、大規模言語モデルにテーマと関係のない部分を除いて自然な流れに整理させ、それを材料に人間が記事を書くケースも挙げています。AIは使われていますが、記事そのものの責任までAIに委ねているわけではありません。
Holtz氏が示す自身の判断基準は明快です。
「AIを使ったと知ったら誰かが欺かれたと感じるなら、開示する」
言い換えれば、必要なのはすべてのAI利用に一律のラベルを貼ることではなく、AIが果たした役割と、コンテンツを受け取る相手の期待との関係を考えることです。
Cropley氏も電卓を例に挙げます。かつて試験への持ち込みが「カンニング」とされた電卓も、今では持ち込みが当たり前のツールになりました。同様に、スペルチェックや書式変更などAI利用の一部は、やがて特別に意識されないものになっていく可能性があります。その反面、AIが制作プロセスの重要な部分を担ったのであれば、その活用を示す必要があるとしています。
だからこそ、コミュニケーション専門職の役割は単に「開示してください」というルールをつくることではありません。社員が「この場合は何を、どこまで伝えるべきか」を判断できるよう、文脈と判断基準を提供することが重要になるでしょう。
判断基準がないままでは、社員は「念のため全部に表示する」か「面倒だから何も書かない」かの両極端に流れがちです。前者は情報のノイズを増やし、後者は信頼を損なうリスクを抱えます。どちらも、組織にとって望ましい状態とは言えないのではないでしょうか。
AIの関与度に応じた開示判断の目安
登壇者の議論をもとに、編集部で整理した一例です。自社の基準づくりのたたき台としてご活用ください。
【①補助的な利用】
- 具体例:スペル・文法チェック、書式の調整、アイデア出し
- 開示の目安:原則として不要(電卓と同じ「道具」の位置づけ)
【②素材の整理・下書き支援】
- 具体例:インタビューの文字起こし・要約、構成案の作成(最終的な文章は人間が執筆・確認)
- 開示の目安:受け手の期待次第。社内ルールで扱いを明確にしておく
【③成果物の重要な部分を生成】
- 具体例:文章の大部分をAIが生成、AI画像・音声・動画を使用
- 開示の目安:原則として開示。「何に使ったか」を具体的に示す
【最終チェック】
- 上記に関わらず、「AIを使ったと知ったら、受け手が欺かれたと感じるか」を確認する
- 「感じる」なら開示する(Holtz氏の基準)
まずは、直近の社内報や社外向けリリースなど、自社の発信物を3〜5件選んでこの目安に当てはめてみてください。部門内でも判断が分かれるケースが見つかれば、それこそが、基準づくりに着手すべきサインだと言えるでしょう。
ここまで、AI利用の開示について「文脈」で判断する考え方を見てきました。では、AIが組織に深く組み込まれていくと、コミュニケーション専門職の仕事そのものはどのように変わっていくのでしょうか。
「書く人」から「ナラティブを設計する人」への転換
AIが組織のワークフローやインフラに組み込まれていけば、コミュニケーション専門職の仕事そのものも変わっていきます。
Caver氏は、ブランドガイドラインやナラティブ、メッセージなどをAIのシステムに組み込めば、営業など他部門の社員が、それに基づいて自らコンテンツを作れるようになると指摘します。そして、「私たちは必ずしも文章を書く人ではありません。私たちはナラティブをつくる存在です。ブランドやストーリー、裏付けとなる材料を提供するのです」と語ります。
ここでいうナラティブとは、平たく言うと、組織が「自分たちは何者で、どこへ向かうのか」を語る一貫したストーリーのことです。一言で言えば、最終的な成果物を一つひとつ制作することから、組織としてのナラティブやブランド、ストーリーラインを設計し、他の人がそれを正しく活用できる環境をつくる役割への転換です。
Klein氏も、将来のコミュニケーション部門は「配信チーム」ではなく、「ガイダンスとプログラミングのチーム」の一部になる可能性を指摘しています。
これまでの役割とこれからの役割
【これまでの役割】
- 主な仕事:原稿や制作物を一つひとつ作り、配信する
- 価値の源泉:制作物の量と質
- 関わる相手:主に経営層と自部門
- 求められるスキル:ライティング、編集、デザイン
【これからの役割】
- 主な仕事:ナラティブやメッセージを設計し、AIや他部門が使える形に整える
- 価値の源泉:組織全体の発信の一貫性と信頼
- 関わる相手:経営層、他部門の社員、そしてAIのシステム
- 求められるスキル:ナラティブ設計、ガイドライン化、プロンプト(AIへの指示文)設計、判断基準の言語化
この転換に乗り遅れると、どうなるでしょうか。各部門の社員がAIを使って思い思いにコンテンツを作り、トーンもメッセージもばらばらな発信が社内外にあふれることになりかねません。ナラティブを設計する人がいない組織では、AIは発信力を高めるどころか、「ノイズ」を増幅させてしまうおそれがあるのです。
ここまで、コミュニケーション専門職に求められる役割の変化を見てきました。では、あなたの組織は今、どの段階にいるのでしょうか。次のチェックで確かめてみましょう。
【自己診断チェック】AI時代のコミュニケーション・リーダーシップ度
自社の状況を振り返り、当てはまるものをチェックしてみてください。
- 自社のAI利用ガイドラインの策定に、コミュニケーション部門が関わっている
- AI利用のルールについて、従業員が「何をしてよいか」だけでなく「なぜそうするのか」まで理解している
- 社内外の発信物について、AI利用の開示基準(何を、どこまで示すか)が決まっている
- AI利用に関する外部からの問い合わせや批判を想定した対応方針がある
- AI活用を「リスク管理」だけでなく「新たな機会」として、経営層に提案したことがある
- ブランドのナラティブやキーメッセージが、他部門の社員やAIツールが参照できる形で整備されている
- 部門メンバーが、制作だけでなくガイドライン整備やプロンプト設計などの役割を担い始めている
- 従業員がAIへの不安や疑問を話せる場(対話会、FAQ、相談窓口など)がある
診断結果
【6〜8個:リーダーシップを発揮できている段階】
ナラティブ設計やAIへの組み込みなど、「攻め」の領域をさらに広げていきましょう。
【3〜5個:「防御」中心の段階】
役割を一段引き上げる好機です。下記のSTEP2・3から着手してみてはいかがでしょうか。
【0〜2個:AIのルールが、コミュニケーションの視点がないまま進んでいる可能性が大きい段階】
早急にSTEP1から着手し、意思決定の場に関与することをおすすめします。
診断の結果はいかがでしたか。では、具体的にどこから手をつければよいのでしょうか。次に、実践のステップをご紹介します。
AI時代のコミュニケーション・リーダーシップ実践4ステップ
STEP1 現状の把握
社内のどの部署・会議体でAIのルールが議論されているのかを確認しましょう。あわせて、社員がどんな業務でAIを使い、何に不安を感じているのかを、簡単なアンケートやヒアリングで把握します。「現場の実態を知っている」ことが、意思決定の場に参加するための最大の武器になるでしょう。
STEP2 意思決定の場における「席」づくり
情報システム、法務、人事など、AIガバナンスを担う部門に「従業員がどう受け止めるか」という視点を提供したいと申し出てみましょう。いきなり主導権を求める必要はありません。まずは「ガイドライン案を従業員目線でレビューする」といった、小さな関与から始めるのが現実的だと思われます。
STEP3 開示の判断基準づくりと文脈の共有
前述の「開示判断の目安」を参考に、自社版の基準をつくりましょう。ポイントは、ルールだけを通知するのではなく、「なぜそう判断するのか」という理由と具体例をセットで伝えることです。FAQや事例集にまとめておくと、社員が迷ったときの拠り所になります。
STEP4 ナラティブの「AIが使える形」への整備
自社のパーパスやキーメッセージ、トーン&マナー、使ってほしくない表現などを言語化し、他部門の社員やAIツールが参照できるガイドとして整備しましょう。「書く人」から「ナラティブを設計する人」への転換は、この一歩から始まります。
最初の30日間のアクションプラン
- 1週目:部門内で上記の自己診断を実施し、最も弱い項目を一つ選ぶ
- 2週目:AIガバナンスの担当者・会議体を確認し、担当者と30分の面談を設定する
- 3〜4週目:開示基準のたたき台(自社版の「開示判断の目安」)を作成し、経営層や関係部門に共有する
AI時代だからこそ問われるコミュニケーションの責任
今回の議論で繰り返し語られたのは、AIそのものよりも、それを組織や社会の中でどう使うかという問題でした。
Cropley氏は、かつてソーシャルメディアの導入期にも、早期に飛び込んだ少数派がいたことを挙げ、AIの受け入れ方にも似た行動パターンがあると指摘します。AIもやがて日常のコミュニケーションに組み込まれ、特別なものではなくなっていくでしょう。
だからこそ今、必要なのはAI利用を規制する「警察」になることではありません。組織がAIを責任ある形で活用できるよう、ガバナンスにコミュニケーションの視点を持ち込み、適切な判断のための文脈を提供し、ナラティブと信頼を支えることです。
ルールが固まり、AIが日常に溶け込んでしまってからでは、議論に加わる余地は小さくなってしまうでしょう。コミュニケーション専門職が役割を広げられるのは、まさに「今」なのではないでしょうか。
まとめ
本記事では、IABCフェローによる議論をもとに、AI時代にコミュニケーション専門職が果たすべき役割をご紹介してきました。まとめると、ポイントは次のとおりです。
- 95.9%の組織がAI利用を認める一方、AIガバナンスをコミュニケーション専門職が主導する組織は8.6%にとどまる
- ガバナンスが決まった後に「伝える役」を担うのではなく、設計段階から関与することが求められる
- レピュテーションを「守る」だけでなく、AIによって生まれる機会をつくる視点が欠かせない
- AI利用の開示は「使ったか」ではなく「何に使ったか」で判断し、社員に文脈と判断基準を提供する
- コミュニケーション専門職の役割は、「書く人」から「ナラティブを設計する人」へと移っていく
つまり、AIによってコミュニケーション専門職の仕事が奪われるのかではなく、AIによってその役割をどこまで戦略的な領域へ引き上げられるのかということです。今回の議論が投げかけているのは、まさにコミュニケーション専門職自身の「リーダーシップ」のあり方だと言えるでしょう。
あなたの組織では、AIのルールづくりの場に、コミュニケーションの視点は届いているでしょうか。まずは今週、30分だけ時間をとって、自己診断から始めてみませんか。




