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プロジェクトとは?AI時代に仕事の基本単位となる新しい働き方

約半世紀ぶりとも言われる技術革新の波により、企業は従来の「オペレーション型」組織から目的志向の「プロジェクト型」組織へと急速にシフトしつつあります。AIや自動化技術の進展で日々の定型業務であるオペレーション型の仕事は機械に代替され、人間にはプロジェクトによる価値創出が求められる時代が到来しています。

すべての仕事がプロジェクト化するとも言われる今、実際のデータなど踏まえてプロジェクトという働き方の本質を改めて見直してみてはいかがでしょうか。本記事では、プロジェクトの定義や特徴から日常業務との違い、現代企業がプロジェクト型組織へ移行する背景、そしてプロジェクト時代に求められるマインドセットやスキルまでを徹底解説します。

プロジェクトの定義と一般的な解釈

まずはプロジェクトという言葉の意味を押さえておきましょう。一般的にプロジェクトとは、特定の目標を達成するために綿密に計画され、期間を区切ってチームで実行される一連の活動を指します。ビジネスにおいては「開始と終了がある」「独自の成果物を生み出す」取り組みのことで、繰り返し行う日常の定常業務(オペレーション)は含みません。

例えば、新製品開発、建設プロジェクト、ITシステム導入、組織改革プロジェクトなど、明確なゴールと期限を持つ一回きりの取り組みがプロジェクトに該当します。完了すればチームは解散するという一時的な組織形態で実行される点も特徴的です。また、成果物が唯一無二の新しい価値を生み出す点も重要と言えるでしょう。同じことを繰り返す日常業務とは異なり、プロジェクトでは何らかの変化と新規性の創出が目的となるのです。

換言すれば、プロジェクト型の仕事は、一回きりで反復がなく、新規性や変化を産み出す必要がある場合に適用される仕事の進め方と言えます。

なお、プロジェクトマネジメントの国際標準であるPMBOKでは、プロジェクトを「独自のプロダクト、サービス、成果を創造するために行われる有期的な業務」と定義しています。つまりプロジェクトの特徴は”独自性”と”有期性”にあり、これらを満たす活動だけがプロジェクトと呼ばれるのです。まずはプロジェクトの持つ基本要件として押さえておきましょう。

プロジェクトの特徴とオペレーション・定常業務との違い

プロジェクトには他の業務とは異なるいくつかの特徴があります。主なポイントを整理すると以下のとおりです。

有期性(Temporary): プロジェクトには明確な開始日と終了日があり永続しません。期限までに目標を達成すればチームは解散し、プロジェクト自体も完了します。通常業務が無期限に継続するのに対し、プロジェクトは一時的な活動であり、期限終了とともに解散するという違いがあるのです。

独自の目的・成果: プロジェクトは明確に定義された目標を持ち、その達成によって初めて完了します。結果として世の中に二つとないユニークな成果物が生まれます。一方、日常業務の成果は既存サービスの維持など反復的で標準化されたものが中心と言えるでしょう。

一時的な組織: プロジェクト遂行のために臨時のチーム(プロジェクト組織)が編成されます。メンバーはプロジェクト完了後、それぞれ元の部署へ戻ったりチーム自体が解散したりします。必要に応じ社外の専門家を招くこともあり、社内外から最適なメンバーを集めるのが特徴です。

専任のリーダー: 各プロジェクトには責任者として1人のプロジェクトマネージャー(PM)が任命され、メンバーを率いて目標達成に当たります。PMは進捗管理や課題解決、ステークホルダーとの調整など指揮を執る「船長」的存在であり、プロジェクトの成否を左右すると言えるでしょう。

リソースと予算の付与: プロジェクトにはその目的達成のため、専用の予算が与えられ、人材・設備など必要なリソースが組織から割り当てられます。言い換えれば会社はプロジェクトごとに投資を行い、人・モノ・金を集中投入するのです。限られたリソース内で成果を出すため、効率的な資源配分と管理が求められます。

段階的な実行: プロジェクトは複数の工程(フェーズ)から構成され、ライフサイクルに沿って立ち上げ→計画→実行→終了と段階的に進みます。フェーズごとに成果物や判断事項があり、区切りをもって進行する点が特徴です。

不確実性と変動要素: プロジェクトでは予期しない課題やリスクが発生する可能性が常にあります。状況変化に応じて計画の修正や問題対応が求められ、先行きが読めない不確実性を内包します。そのため、綿密なリスク管理や柔軟な意思決定が欠かせないと言えるでしょう。

以上のように、プロジェクトは「期限付きの特別ミッション」と言い換えることができます。これらの特徴を理解すれば、日々のルーチンワークとの違いがはっきり見えてくるのではないでしょうか。

現在は組織内オペレーション型の部門が主流であり、既存ビジネスを支えるオペレーションが収益の大半を占めています。したがって、プロジェクト型チームの規模はまだ限定的ですが、この状況は変化しつつあります。

期限の無いプロジェクトの台頭と仕事の本質の変化

プロジェクト管理の手法として、近年特に注目されているのが「アジャイル(Agile)」です。アジャイルとは英語で「素早い」「機敏な」という意味で、その名が示す通り変化への対応速度を重視した開発手法としてソフトウェア業界を中心に普及しました。従来のウォーターフォール型開発(要件定義から設計・実装・テスト・リリースまでを一括で行う手法)では、開発開始前にすべての仕様を固めるため市場や要求の変化に弱い面がありました。しかしアジャイル開発では、「プロジェクトに変化はつきもの」という前提に立ち、途中の仕様変更にも柔軟に対応できるのです。

アジャイル開発の特徴をまとめると次のようになります。

反復的な開発: 「計画→設計→実装→テスト」の工程を小さな単位で繰り返し行い、機能ごとに段階的に完成度を上げていきます。短いスプリント(開発期間)を重ね、都度動くプロダクトをリリースしてフィードバックを得る流れです。

変化への適応: 開発途中での要件変更や追加にも対応しやすいプロセスです。優先度の高い要求から着手し、後から出てきた変更点は次のサイクルで反映することで、常に最新のニーズを製品に反映できます。

価値の最大化: ドキュメントより動くソフトウェア、計画より顧客との協調、といったアジャイル宣言の価値観にあるように、チームのゴールは仕様通りのものを作ることではなく顧客にとって価値の高いものを素早く届けることに置かれます。不要な機能に時間を割かず、本当に必要とされるものにリソースを集中できるのです。

リリースの迅速化: 小さな単位で機能を完成させ順次リリースするため、全体が完成する前でも部分的に提供を開始できます。その結果、プロジェクト全体のリードタイムが短縮され、ビジネスの機会を逸しにくくなります。例えば従来半年かかっていた開発を、アジャイルでは一部機能を1〜2ヶ月で市場投入し、以降継続的に改善していくといったことが可能になるのです。

ほとんどのデジタルアプリケーションには「完成」という概念がなく、継続的なアップデートが行われています。日々アプリケーションをアップデートしユーザーがより活用してもらうために、開発を進めています。あなたがスマートフォンで使っているアプリケーションは、開発者が活用履歴をもとに、世界各地で継続的にアップデートを続けているのです。

これは、サービスの提供と消費がほぼ同時に行われ、生産と消費の間の時間的・空間的な差が縮小していることを意味します。

つまり、常に変化することが前提であり、現状維持がないことこそがプロジェクト型の本質と言えるでしょう。

平たく言えば、「変化を起こすための非日常的な活動」がプロジェクトであり、「現状維持のための日常的な活動」がオペレーションと言えるでしょう。プロジェクトの視点を持つことで、普段の仕事にも目的意識と改善志向が生まれるはずです。

アジャイルやアジリティとは、単に素早いということではなく、提供者と消費者が時間的な差なく同時並行的・伴走的に仕事を進めることを意味します。

この同時並行的かつ伴走的な進め方がプロジェクト型であり、なぜそれが必要とされているのかを見ていきましょう。

現代企業がプロジェクト型組織へ移行する背景

高度に分業化された定常業務とヒエラルキー型の組織によって、日本企業はかつて高い品質と効率を実現し経済成長を遂げました。しかし21世紀に入りビジネス環境の変化が激しくなると、そのやり方は次第に限界を露呈しています。現代のVUCA(不確実で変動の激しい)環境においては、従来のヒエラルキー型組織からプロジェクト型組織へのシフトが世界的に顕著です。その背景には以下のような複数の要因があると考えられます。

オペレーション型の経済から、プロジェクト指向の経済規模へ

かつて産業社会では、生産ラインを回すオペレーション型の仕事が経済活動の中心でした。しかし現在では、経済の大部分がプロジェクト型の仕事によって支えられる時代に入っています。実際、米国ではGDPの半分以上がプロジェクトワークによって生み出されていると言われます。さらにドイツでは2019年時点でGDPの41%が「プロジェクト経済」によるものだったと報告されています。2027年には世界全体でプロジェクト経済の規模が20兆ドルに拡大するとの予測もあります。このように、先進国を中心に仕事が「オペレーション型」から「プロジェクト型」へ急速にシフトしており、企業活動のあり方が根本から変わりつつあるのです。

これは、先行き不透明な世界で「安定維持」だけでなく「変化を起こす」活動が重視されるようになったことを示しています。20世紀型の大量生産・効率化モデル(オペレーション経済)の時代を経て、21世紀はプロジェクト経済の時代が到来したと言っても過言ではないでしょう。

AI時代の定型業務の自動化

近年のデジタル技術・AI技術の発展により、定型的なルーチン業務の多くが機械やソフトウェアによって自動化されつつあります。単純な作業だけでなく、決まりきった範囲内の判断業務や大量データの処理などもAIがこなせるようになり、人間が担う業務の内容は大きく変化しています。例えばOECDの報告によれば、加盟38カ国の平均で労働人口の27%がAIによる自動化リスクの高い仕事に就いているとされます。日本においても2030年までに既存業務の27%が自動化され、約1,660万人分の雇用が代替される可能性があるとの予測があります。

このように、反復可能な定型業務は今後ますます機械に代替され、人間には創造性や問題解決が求められる非定型の仕事=プロジェクトが残っていく傾向にあると言えるでしょう。企業がプロジェクト型の働き方に注力するのは、人間にしかできない付加価値創出の場としてプロジェクトが重要性を増しているためなのです。

クロス機能・専門性の結集

デジタル化や市場ニーズの変化が激しい分野では、社内外から必要なスキルを持つ人材を集めた期間限定チームで課題解決に当たるケースが増えています。従来は縦割りだった製造業や金融業でも、プロジェクト単位で部署横断・社外協働する動きが広がり始めました。例えばCFT(クロスファンクションチーム)と呼ばれる部門横断チームを組成し、特定のプロジェクトに集中して取り組むスタイルが定着しつつあります。

プロジェクト型組織であればスピードと専門性を両立でき、状況に応じて即戦力チームを編成することが可能です。組織内のサイロ(縦割り)を超えて知見を結集し、イノベーションを生むためにもプロジェクト型のアプローチが有効だと認識されているのです。

不確実性(VUCA)への対応

先行きが読めないVUCAの時代では、過去の延長線上にない未知の課題に取り組む必要が増えています。市場環境やテクノロジーがめまぐるしく変化する中、変化に素早く対応し、必要に応じて方向転換できる組織が求められます。固定的な計画や硬直的な組織体制では変化に後れを取りかねません。

その点、状況に応じて人材やリソースを柔軟に組み替えられるプロジェクト型の取り組みは、現代に適したしなやかな働き方と言えるでしょう。実際、ルーティン業務中心の企業では新たな課題に取り組む余地がなく変化に遅れをとるという指摘もあります。一方プロジェクト型なら必要に応じて組織を越えたチームを編成し、試行錯誤しながら軌道修正することが可能です。VUCA時代の不確実性に対処するため、多くの企業がアジャイル(素早く適応する)な組織への転換を図っているのです。

自分でキャリア設計する時代の仕事観

働き方に対する人々の価値観も変化しています。高度成長期には「会社に言われた仕事を忠実にこなす」ことが美徳とされましたが、もはや会社は社員を退職まで面倒を見てくれるわけではありません。ビジネスパーソンは、現代では個人の主体性や自己実現が重視される傾向があります。若い世代ほど「与えられたルーチンより、自分で考えてプロジェクトに挑戦したい」という志向が強まっているのではないでしょうか。

組織においても、新しいアイデアや変革を歓迎するカルチャーがなければ優秀な人材が定着しない時代です。しかし日本の大企業には「言ったもん負け」という残念な文化が根強く残っている例があります。これは「何か意見や提案をしようものなら、言い出した本人がその実行まで押し付けられてしまう」という皮肉を込めた表現で、現場から改善提案が出にくい雰囲気を指します。こうした変化に消極的な風土から脱却し、誰もが主体的にプロジェクトを推進できる文化への転換が求められているのです。

総じて、現代のビジネス環境では迅速な変化対応とクロス領域の協働によるイノベーション創出が不可欠となっており、そのための器としてプロジェクト型の組織運営が注目されています。次章では、こうしたプロジェクト化する環境で求められるものについてさらに掘り下げていきます。

プロジェクト化する仕事の本質的な意味とは何か?

激変するビジネス環境の中で成果を上げ続けるには、企業や個人は何を備えるべきでしょうか。この章では、プロジェクト型の働き方が広がる環境下で特に求められる要素を考えてみましょう。

プロジェクトには不安がある。定型業務には倦怠がある。

プロジェクトには常に不確実性が伴うため、上手くいくだろうかという不安がつきまといます。一方で、決まったことを繰り返す定型業務には退屈さやマンネリ感という別の課題があります。

日本企業における「言ったもん負け」という言葉は、「言ったもん勝ち」「やったもん勝ち」という勝者の教訓を茶化したレトリックであり、現在の大企業の本音を映し出すミームとなっています。反対意見や新しいアイデアを口にすることで、それに伴った行動を強制される一方で、その行動に対して名誉や評価が得られないという経験に基づく格言にすらなりつつあります。このような提案者が損をする職場では改善も革新も生まれにくく、結果として組織は倦怠に陥ってしまうでしょう。

他方で、若手の離職問題からエンゲージメント向上を急務とする企業は、社員が仕事に「やりがい」や「楽しさ」を感じる「ワクワクする職場」「ワクワクする仕事」といった表現を多用しています。「ワクワク」は単なる感情表現ではなく、社員のパフォーマンス向上、組織の活性化、そして競争力強化のための戦略的なキーワードとなっているのです。

「言ったもん負け」と「ワクワク」——これが私たちの現在地なのではないでしょうか。しかし、ここで重要なのは、不安とワクワクは実は隣り合わせであるという認識です。問題提起や問いを立てることには確かに不安が伴いますが、それは同時に提案であり、アイディアであり、未来へのビジョンの種なのです。アイディアや未来へのビジョンがなければ、本当のワクワクは生まれません。

これからの時代、企業にとって致命的なのは「失敗への不安」以上に「変化しないことへの安住」であり、その先にある停滞や衰退です。定型業務だけでは環境変化に取り残され、徐々に競争力を失ってしまうでしょう。プロジェクトには確かにリスクや不安がありますが、問いを立て、不安の中でビジョンを打ち立て、責任を引き受けてこそ、本当のワクワクが生まれ、投企としてプロジェクトが始まるのです。重要なのは、不安を恐れて現状に留まるのではなく、適切なリスク管理をしながら前向きに変化を起こすマインドを持つことなのではないでしょうか。

企業はよりプロジェクトチームに投資している事実

今日、多くの企業は従来のピラミッド型ヒエラルキー組織を機動的に変革することの難しさを痛感しています。大規模な組織構造の変更には莫大なコストと時間がかかり、変革が完了した頃には環境がさらに変わってしまうというジレンマもあります。そのため、組織図をいじるよりプロジェクトチームに直接リソースを投下する方が効果的だという考え方が広がっています。

実際、IBMでは従来の職務記述書を廃止し、社内の肩書をプロジェクト単位の役割に置き換える動きが報じられています。またドバイの大手企業エマール・プロパティーズでは名刺に所属部署ではなく担当プロジェクト名を記載するようにし、組織の垣根を越えた働き方を推進しています。これらは極端な例に見えますが、既に日本企業において、クロスファンクショナルチームや社内プロジェクトは、重要な権限と予算をつけ実施され、兼務も増えています。

また、人事部などは人事戦略部やHRBPへ、情報システム部はDX推進部へと、名称も業務内容もプロジェクト的な課題解決を目的とした部署に変化しており、その部署は外部コンサルティングサービスや専門家を活用しています。ルーティン業務は、正社員から派遣社員、BPO、機械化へと進めています。既に日本企業も、半分プロジェクト型に移行していることは自明の理と言えるでしょう。

背景には固定的な機能組織よりもプロジェクトベースで人材を動かした方が成果を出しやすいという経営判断があります。要するに、企業は環境変化に合わせ機敏にプロジェクトチームを編成・解散できる体制へと投資をシフトさせているのです。この事実から学べるのは、私たち個人も組織の肩書きや部署に縛られず、プロジェクトを通じて価値を発揮できる人材になることが重要だという点ではないでしょうか。

プロジェクト化するビジネス環境から求められている3つのマインド

以上を踏まえ、プロジェクト型のビジネス環境で個人に求められるマインドセットを整理してみましょう。ここでは特に重要な3つの心構えをご紹介します。

自分の頭で考える「探究心」

まず第一に求められるのは、未知の課題にも臆せず自分の頭で考えて探求する姿勢です。プロジェクトでは正解があらかじめ用意されていないことがほとんどであり、与えられた手順書通りに動くだけでは通用しません。常に「なぜ?」「どうすれば?」と問いを立て、情報を集め、試行錯誤しながら解を探る探究心が欠かせないのです。

これは単なる好奇心というより、本質を深掘りする思考力と言えるでしょう。定型業務では上司の指示通り動いていれば良かった場面でも、プロジェクトでは自ら課題を発見し提案していく主体性が求められます。例えば新製品開発プロジェクトなら、顧客ニーズのリサーチから技術的課題の解決策まで、自発的な調査・学習と創意工夫が不可欠です。「自分で答えを見つける」意欲こそがプロジェクト推進力の源泉となります。未知へのワクワクと知的好奇心を持って臨む人ほど、困難を突破し新しい価値を生み出せるのではないでしょうか。

ビジョンを創り出す「創造力」

次に重要なのが、ビジョンを描き出す創造力です。プロジェクトでは往々にして、目指すゴールや最終成果物のイメージをチームで共有する必要があります。リーダーに限らずメンバー一人ひとりが「こうなったら最高だ」という理想像を思い描き、それに向かって創意を発揮することが大切です。ただ与えられたタスクをこなすのではなく、自ら未来像を創造する力と言い換えても良いでしょう。

たとえば組織変革プロジェクトなら、「このプロジェクトが成功すれば自分たちの働き方や会社はどう良くなるのか?」という将来像を具体的に思い描くことで、チームのモチベーションと方向性が定まります。創造力というと芸術的才能のように聞こえますが、ビジネスにおける創造力とは未知の可能性を信じて構想し、それを実現するために試行錯誤できる力です。変化の激しい時代には、過去の延長ではない新たな解決策やアイデアを生み出すことが不可欠であり、それを支える個々人の想像力・発想力が問われるのです。

不確実と共存する「引き受ける力」

3つ目のマインドセットは、不確実性を受け入れて引き受ける力です。プロジェクトには常にリスクや不透明さが伴います。時に計画通りに進まなかったり、想定外のトラブルに見舞われることもあるでしょう。そのような状況で「こんなはずでは」「自分の責任ではない」と尻込みするのではなく、不確実性ごと引き受けて前に進める胆力が求められます。

これは「リスクを恐れずチャレンジする勇気」と言い換えることもできます。不確実な状況に飛び込むのは誰しも怖いものですが、プロジェクトではその一歩を踏み出す力が成功の分かれ目になるのです。高い不確実性に対処するためには、状況の変化を冷静に把握しつつ、適応策を考えて素早く実行に移す柔軟性も重要です。昨今ではこのような不確実な状況に耐える力を「ネガティブ・ケイパビリティ(負の能力)」とも呼び注目しています。要は、答えがすぐ見えない状況にも耐え、粘り強く対処できる精神力と言えるでしょう。プロジェクト型の仕事では、計画外の出来事も「起こり得る前提」として構え、「何とかするしかない」と引き受ける前向きな開き直りがとても大切なのです。

以上の3つのマインド(探究心・創造力・引き受ける力)は、プロジェクト時代を生き抜く私たちに共通して求められる土台と言えます。次章では、さらにプロジェクト成功のための組織の要諦について見ていきましょう。

プロジェクト型の仕事を運営する組織の要諦

最後に、プロジェクト型のビジネス環境で組織に求められる要諦(マインドセット)について述べます。これは組織運営やリーダーシップに関わる視点であり、圧倒的な成果を生み出すプロジェクト型組織を築くために不可欠なものです。

圧倒的に成果を生み出す為のプロジェクトチームへの柔軟かつ迅速なリソース配分

優れたプロジェクト型企業は、戦略上重要なプロジェクトに人材や資源を機動的に投入できる柔軟性を持っています。従来型の組織では部署ごとの固定予算や人員配置が硬直的で、プロジェクトのために人を動かすにも障壁がありました。しかし現代では、必要とあれば部署や肩書きを超えて適材を集め、予算を素早く付け替えることが求められます。

前述したように、IBMが職務記述書を廃止してプロジェクトベースの役割制に移行したのは典型例です。また、社内公募制度でプロジェクトメンバーを募ったり、プロジェクト間で人材をシェアする「社内ギグワーク」的な仕組みを導入する企業も増えています。ポイントは、社内リソースを流動的に再配置できる組織カルチャーを育むことです。トップダウンで「あの部署から何名引き抜く」ではなく、現場の判断で「このプロジェクトに自分が参加すべきだ」と人が動ける環境を整えることが理想と言えるでしょう。企業内マーケットプレイスで人材とプロジェクトをマッチングする仕組みを作っている例もあります。チャンスに迅速に資源投入できる企業がプロジェクトで圧倒的成果を上げるでしょう。

内外情報の透明性の追求

プロジェクト型組織では、社内外の情報をオープンに共有し、コラボレーションを促進する透明性が非常に重要です。プロジェクトの状況やデータが社内の限られた人だけに閉ざされていては、適切な支援や意思決定が遅れてしまいます。そこで、情報をできるだけ透明化し、関係者なら誰もがアクセスできる状態にすることが求められます。

具体的には、進捗状況や課題をリアルタイムに共有できるツールの活用、プロジェクトルームやダッシュボードの設置、他部門やパートナー企業との情報連携などが考えられます。Googleが発見したように、心理的安全性が高いチームほど情報共有と発言が活発になり、成果が向上します。誰でも自由に物が言え、必要な情報に手が届くオープンな雰囲気は、チームの創造性や主体性を高めるのです。もちろん秘匿すべき情報管理とのバランスは必要ですが、基本姿勢として「社内外の壁を低くし、知見を共有し合う」文化を追求することが、プロジェクト成功確率を高めると言えるでしょう。

経営における徹底した権限分散と軽やかな権限移行

従来のピラミッド型組織では、重要な意思決定は上層部に集中し、現場は決められた範囲で動くスタイルが一般的でした。しかしプロジェクト型の俊敏な組織運営には、権限を現場に分散し意思決定を高速化することが不可欠です。いわゆるアジャイル型組織では、組織構造がフラットで権限が社員やチームに委譲されており、意思決定が速く変化に柔軟に対応できます。

経営陣は細部に介入せず、現場のプロジェクトチームが自律的に判断できる範囲を広げるのです。また状況に応じて権限の移行(シフト)も軽やかに行います。例えば新規プロジェクト立ち上げ時には一時的に現場リーダーに大きな裁量を与え、軌道に乗ったら通常運営に戻す、といった具合です。

権限分散が進んだ組織では、メンバーは責任と明確な役割を与えられ、自律的に行動し創造的な解決策を生み出すようになります。逆にトップに権限が集中したままだと、意思決定に時間がかかり現場の動きも鈍くなります。中央集権型から分権型へ組織文化を転換し、小さなチームが自走できるようにすることが、プロジェクト型組織の生命線と言えるでしょう。

徹底した相互フィードバックを基盤とした心理的安全性

心理的安全性は優れたチームの土台です。

プロジェクト型組織ではメンバー同士が頻繁にフィードバックを送り合い、学習し合う文化が重要になります。お互いの成果物に対して建設的な意見交換をしたり、問題発生時には非難ではなく解決策に焦点を当てたりといった相互フィードバックが根付いている組織は強いです。それにより「ミスを報告しても咎められない」「誰でも安心して発言できる」空気が醸成され、結果としてチャレンジングな目標にもチームで挑めます。

Googleのプロジェクト・アリストテレスでも、心理的安全性が高いチームほど報連相が増え、アイデアの質や主体性が向上したことが確認されています。徹底した相互フィードバックとは、単に仲良しクラブになることではありません。時には厳しい指摘もし合いますが、それが全員の成長と成功に資するという信頼関係が前提にあるのです。経営層はこの文化を奨励し、自らも透明性とオープンマインドを示すことで、組織全体の心理的安全性を高めましょう。

メンバーの効力感を下支えする組織

最後に、プロジェクト型組織ではメンバー一人ひとりの自己効力感(self-efficacy)を高める仕組み作りが求められます。自己効力感とは「自分はこの目標を達成できる」という信念であり、これが高いほど困難なプロジェクトにも意欲的に取り組めます。組織としてメンバーの効力感を下支えするには、適切な権限委譲(前述のとおり)やスキル向上の機会提供、努力に対する正当な承認と報酬などが効果的です。

例えば、プロジェクトの成果を経営層が直接称賛したり、成功事例を社内表彰・共有することで、メンバーは「やればできる」「自分たちの仕事は価値がある」と実感できます。また、失敗した場合にも頭ごなしに叱責するのではなく、建設的なフィードバックと再挑戦の機会を与えることで、心理的安全性と効力感を損なわずに済みます。人を中心に据えた組織文化を育み、メンバーが自らの成長と成果に誇りを持てるよう支援することが、ひいては組織全体の持続的なプロジェクト遂行力を高めるのです。

まとめ

テクノロジーと環境変化がめまぐるしい現代において、プロジェクトは単なる一時的業務ではなく仕事の基本単位へと変貌を遂げています。プロジェクト型組織への移行を進める企業が成果を上げる一方で、旧来型に留まる企業は変化への対応に苦戦しています。

これからのビジネスパーソンにとって、プロジェクトの知識・スキルを習得し、探究心・創造力・チャレンジ精神というマインドセットを磨くことは避けて通れません。加えて、組織としても柔軟なリソース配分や権限分散、オープンな情報共有によってプロジェクトを支援する体制を築く必要があるでしょう。

プロジェクト経済の時代に備え、ぜひ本記事の内容をヒントに、自らの働き方や組織作りをアップデートしていただければ幸いです。変化を恐れずプロジェクトに飛び込み、新しい価値を創り出していきましょう。

よくある質問(FAQ)
  • プロジェクトと日常のルーチン業務は、いちばん何が違うのですか?
  • プロジェクトは「有期性(始まりと終わりがある)」「独自性(新しい価値や変化を生み出す)」という2つの特徴を持ちます。一方、日常のルーチン業務(オペレーション)は、決められた手順を繰り返し実行し、現状を維持・安定させることが目的です。平たく言えば「現状維持のための日常的な活動」がオペレーション、「変化を起こすための非日常的な活動」がプロジェクトと考えると区別しやすくなります。

  • なぜ今、企業はプロジェクト型の組織や働き方にシフトしているのでしょうか?
  • AIや自動化の進展により、定型的・反復的な仕事は機械に代替されつつあります。その一方で、環境変化が激しいVUCAの時代には、新しい価値を生み出す「変化の仕事」が重要になっています。市場や技術の変化に素早く対応し、部門をまたいで専門性を結集するために、目的ごとにチームを編成するプロジェクト型のアプローチが有利だからです。プロジェクトは、まさに「変化をつくるための器」として機能しています。

  • プロジェクトは不確実で怖いです。定型業務の方が安心なのですが、それでもプロジェクトに関わるべきですか?
  • 不安を感じるのは自然なことです。プロジェクトには正解がなく、不確実性がつきものだからです。ただし、環境が大きく変わる今の時代、「変化しないこと」自体がリスクになりつつあります。いきなり大きなプロジェクトを任される必要はありません。はじめは、小さな改善プロジェクトや、既存業務の見直しといったミニプロジェクトからで構いません。「小さく始めて、試しながら学ぶ」ことで、不安は次第に「ワクワク」に変わっていきます。

  • プロジェクト時代に個人として身につけるべきマインドは何ですか?
  • 特に重要なのは「探究心」「創造力」「引き受ける力」の3つです。探究心は「なぜ」「どうして」と問いを深める姿勢、創造力は「こうなったらいい」という未来像を描き出す力、引き受ける力は不確実性や責任を自分ごととして抱えながら前に進む力です。この3つがあると、どんなプロジェクトでも学びながら価値を生み出す土台になります。

  • プロジェクト型の働き方を進めたいのですが、組織として最初にやるべきことは何でしょうか?
  • いきなり組織構造を大きく変える必要はありません。まずは「重要な課題に対して小さなプロジェクトチームをつくり、きちんと時間と予算をつける」ところから始めるのがおすすめです。その際、メンバーを部署の枠だけでなく、スキルや適性で選び、情報をオープンに共有し、頻繁なフィードバックを促すことで、プロジェクト型のカルチャーを少しずつ根づかせることができます。成功事例を社内で共有し、「プロジェクトで成果を出した人が評価される」経験を積ませることも非常に重要です。

  • 自分の仕事がプロジェクトなのかオペレーションなのか、よく分かりません。どう見分ければいいですか?
  • 次の3つの観点で考えてみてください。①明確な終了時期やゴールがあるか ②一度きりの新しい成果物や変化を目指しているか ③チーム編成や進め方に特別な工夫や計画が必要か。この3つに当てはまるほど、その仕事はプロジェクトの性質が強いと言えます。たとえ定常業務であっても、「この半年で業務プロセスを抜本的に改善する」といった取り組みになれば、その部分はプロジェクトとして切り出して考えることができます。

  • 今日からできる「プロジェクト型の働き方」への一歩には、どんなものがありますか?
  • 身近なところで言えば、日々の仕事を「ただこなす」のではなく、「小さなプロジェクト」として捉え直してみることです。例えば「今月中にこの業務のムダを3つ減らす」「この資料を、誰が見ても分かるレベルまで改善する」といったミニ目標を自分に設定し、目的・期限・成果を意識して取り組んでみてください。また、AIツールを使って情報収集や下書きを効率化し、自分は構想や判断に時間を使うといった「AIと協働する練習」を始めるのも、プロジェクト時代に向けた良いトレーニングになります。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。