インターナルコミュニケーション

心理的安全性の作り方とは?測定方法と高めるための具体策を事例から解説

目次

人材が重要視される現代の企業・組織の運営において、人間関係やコミュニケーションの促進は早急に対処すべき課題ではないでしょうか。そのような中、近年とくに注目されているのが心理的安全性の概念です。しかし、どのように取り入れ、その機能を高めていけばよいのか、概念であるがゆえ運用方法がわかりにくいのが難点と言えるでしょう。

弊社ソフィアの調査では、大企業社員の約8割が「社内コミュニケーションに問題がある」と感じていることが明らかになっています。本記事では、心理的安全性がどのような概念かを解説し、チーム・組織内での作り方、測定方法、高めるための具体的な方法などについて詳しく解説します。

心理的安全性とは何か?

心理的安全性(Psychological Safety)とは、職場のメンバーがミスや発言を理由に周囲から否定されたり罰せられたりしないと確信できる状態を指します。ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が1990年代に提唱した概念で、「個人の言動によって人間関係が悪化しない」という安心感がチーム内で共有されている状態とも説明されています。この状態ではメンバーは自分らしく振る舞い、失敗を恐れずに発言や挑戦ができるようになります。

この心理的安全性の重要性が広く認知されるきっかけとなったのが、Google社のプロジェクト「Aristotle」の研究結果です。2010年代にGoogleが行った Project Aristotle(プロジェクト・アリストテレス)という大規模調査では、チームの成功要因の中で心理的安全性が最も重要であると報告されました。メンバーが「無知・無能・ネガティブと思われる」「邪魔者扱いされる」といった対人リスクを感じずに発言できるチームほど高い成果を上げることが確認されたのです。

要するに、心理的安全性とは「誰もが萎縮せず率直に意見を言い合える健全な組織状態」を意味します。そのような安全な雰囲気が職場に醸成されると、メンバーは失敗を恐れずに本音で議論でき、互いにフィードバックし合いながら成長できるようになるのです。

なぜ心理的安全性が重要なのか?

ビジネスの現場で心理的安全性が注目されるのは、それが組織パフォーマンス向上につながる土台だからです。心理的安全性が高いチームでは、メンバーが互いに信頼し安心して働けるため、結果として様々なメリットが生まれます。主な特徴や効果を以下にまとめます。

情報の透明性と白熱した意見交換

心理的安全性が機能した環境では、発言を否定されることがなくなるため、社員一人ひとりの意思・考え方を尊重され、多様なアイデアを生み出す土壌が作られることになります。 異なる視点や価値観を尊重する環境は、風通しの良いコミュニケーションを生み、個々の知見を結集することになる ため、革新的で新規性のあるアイデアが誕生しやすくなります。

また、情報共有の透明性は、チーム・組織内の学習サイクルを加速させ、個々の社員の成長や、業務を連携する協働の力を向上させることにもつながります。さらに、ミス・トラブル発生時にも迅速な報告と改善を行いやすくなる効果もあるため、企業・組織全体の成長に関する弊害を最小限に抑えることも可能になるでしょう。

心理的安全性を象徴する喧々囂々とした議論やブレンストーミングは、個々人の情報に格差がある場合は成立しません。つまり、喧々囂々の意見交換を下支えするために、組織内にある情報を限りなくすべての個人がアクセスできる状況にしていると言えます。

パフォーマンスが十分に発揮されていると認識できている

心理的安全性が高いチーム・組織では、個々の社員が周囲の社員を信用・信頼し、安心して業務にあたることができます。 安心感は社員の仕事へのモチベーションを向上させ、自分の仕事にやりがいや意義を感じさせてくれる ため、仕事に対する社員の幸福度や満足度にも寄与します。その結果、社員個人単位のパフォーマンスが向上し、それが集団となってチーム・組織のパフォーマンス向上にもつながるため、生産性のアップや業務効率化を促進することにもなるでしょう。

全体として成果や生産性というよりは、個々人が十分にパフォーマンスを発揮できているという認識が重要であり、実態として業績や数字と整合性はないということも特徴です。

離職率が低い

心理的安全性の高いチーム・組織に所属する社員は、無知・無能・邪魔と思われることへの不安を感じることなく、安心して意見やアイデアを表明することができます。また、上司や先輩への恐れがなく、質問や相談に親身に対応してもらえる環境は社員間の信頼関係を築き、チームワークを強化することにもつながります。

このような環境は社員に居心地の良さを抱かせ、社員エンゲージメントを高めるため、若手や優秀な人材の定着率を向上させます。 終身雇用が崩壊し、キャリアアップの視点からも転職が当たり前の現代において、人材の確保は企業・組織にとって大きな課題 でもあるため、心理的安全性は人事の面でもポジティブな効果を発揮するでしょう。

しかし、心理的安全性は、「働きやすい」「居心地の良さ」という解釈もできます。この「働きやすい」「居心地の良さ」を目的に置き心理的安全性を解釈する社員が増えれば、自ずと業績やタスクが重要性を失い、逆効果になるという研究はいくつもあります。

気軽に質問できる雰囲気

心理的安全性が高まった状態とは、周囲が発言を拒絶しない・非協力的な態度をとらない・言動を罰しない状態であるため、社員は周囲の人々に不信感や不安を抱くことがほとんどありません。そのため、社員同士はもちろん、上司と部下の関係性においても、気軽に質問できる雰囲気ができ上がります。

こうした雰囲気は、コミュニケーションの促進や信頼関係の構築、周囲のサポートによる個々の社員の不安の軽減といった、さまざまな恩恵を生み出します。社員同士の連携においても有益で、普段から密に質問し合う関係ができていると、報告・連絡・相談といったやり取りも促進され、チームプレイの質も向上します。

心理的安全性に関する否定的意見やデメリット

心理的安全性の高い組織は、場合によっては「ぬるま湯組織」と言われてしまうことがあります。ここでは、ぬるま湯組織とはどのような組織を意味するのか、また心理的安全性の高い組織がなぜぬるま湯組織と呼ばれるのかを解説していきます。

ぬるま湯組織とは

ぬるま湯組織では、 社員が意見やアイデアを積極的に提供することを避けがちであり、新しい視点や創造性が欠如している ことがあります。成長意欲が低くなり、挑戦する機会が少ないため、モチベーションややる気が低下し、組織全体のパフォーマンスに影響を与えます。

また、新しいアイデアや意見の発信が少なく、組織の成長や変革が抑制され、挑戦や成果が適切に評価されないことで、優秀な人材が組織を離れるリスクが高まります。このような状況では、社員の能力や意欲が活かされず、組織全体の成長や競争力が低下する可能性も高くなるでしょう。

心理的安全性が高い組織がぬるま湯組織と呼ばれる背景には、いくつかの要因があります。

過剰な心理的安全性の逆効果

心理的安全性は、率直な議論や意見の自由を促す重要な要素です。しかし、過度に心理的安全性を強調すると、メンバーが意見を言いたがらず、配慮ばかりする傾向が生まれます。これにより、率直な意見交換や建設的な議論が阻害され、組織の成長や問題解決能力が低下する可能性があります。

言動と行動の一致の重要性

職場やチームでは、言動だけでなく、非言語的なコミュニケーションや行動も重要です。心理的安全性が高い環境では、メンバー同士が自分の行動や発言に責任を持ち、一貫性を保つことが求められます。しかし、言動と行動が一致しないメンバーがいると、信頼性や組織の効果的な運営に支障をきたす可能性があります。

自己正当化や不正行為のリスク

心理的安全性を盾にして、自己の不正や非倫理的な行動を正当化するメンバーが現れることもあります。また、心理的安全性が高い環境では、不正や問題行動が見過ごされる可能性もあります。これにより、組織全体の信頼性や倫理観が低下し、組織内の問題が放置されるリスクが生じます。

相互のフィードバックと価値観の理解の必要性

心理的安全性を維持するためには、メンバー間での率直なフィードバックや意見交換が不可欠です。しかし、心理的安全性だけではなく、相互の価値観や倫理観にも配慮する必要があります。また、非言語的なコミュニケーションも重要であり、リーダーやメンバーの真意を読み取ることは容易ではありませんが、理解を深めるための努力が必要です。

適度な緊張感の重要性

心理的安全性は適度な緊張感を保ちながら築かれるべきだ という点も重要です。過度に安全な環境では、挑戦や成長の機会が制限され、組織全体のパフォーマンスが低下する可能性があります。適切な緊張感を持ちながら、自己と向き合い、成長を促す文化を育てることが求められます。

心理的に危険でもアイデアや議論はできるかもしれない?

心理的に危険を感じるチームや組織でも、アイデア出しや創造的な議論を行う事例として、投資家レイ・ダリオ率いる世界最大のヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」が挙げられます。この企業では、アイデア能力主義を掲げ、経営に「原則(Principles)」と呼ばれる哲学を取り入れています。社員同士が互いのパフォーマンスや言動を相互評価し合い、オープンな形でフィードバックを行う環境を整えています。

具体的な取り組みとして、ブリッジウォーター・アソシエイツが社内で使用している「ドットコレクター」というツールがあります。このツールは、 社員の意見をスコア化し、信頼性を客観的に視覚化して共有することで、率直さや透明性を実現 しています。

ただし、このようなツールは有益な側面がある一方で、意見や立場の差異を強調することや、多様性を目的化するデメリットも存在します。したがって、チームや組織で心理的安全性を高める際には、さまざまな手法を試み、メリットとデメリットを把握し、調整しながら最適な形に進化させる必要があります。

意見を相違や議論の焦点を明確にするアルゴリズム

先述したように、ブリッジウォーター・アソシエイツでは、「原則(Principles)」を実現するため、「ドットコレクター」と呼ばれる独自ツールを社内で運用しています。

このようなツールを用い、社員間の意見の相違や議論の焦点の明確化をアルゴリズムとして処理する方法は、果たして有益なのでしょうか。その疑問に触れるには、業界の内外で広く注目されている「原則(Principles)」の哲学が、いくつかの実害が伴うことも指摘されている事実にも触れなければなりません。

実害の1つめは、社員同士が相互評価するという文化が、一部の社員にとって高いプレッシャーとなり、過剰なストレスにつながる可能性があることです。また、オープンで透明性のある評価は個人のプライバシーを侵害する危険性もあり、自身の弱点が露見することは、逆に心理的安全性を損ねてしまうことにもつながりかねないとも言われています。

2つめは、社員が自身の評価を気にするあまり、他者との協力関係をないがしろにしてしまうリスクです。評価とは他者と相対化することでもあるため、競争心による能力向上のメリットがある一方で、他の社員に協力することで自分が損をするといった心理にもなりかねません。

これらの実害を指摘する声を考慮すると、「原則(Principles)」の哲学とそれを実現するツール「ドットコレクター」は、あくまでも投資会社という環境であるから高い効果を発揮している可能性もあるため、ポジティブな側面だけを鵜呑みにはできないことがわかります。

多様性や創造的アイデアを議論やコミュニケーションを生み出す

チーム・組織に所属する社員同士の考え方や価値観の違いが筋の良い意見・アイデアを生み出すことはわかっています。しかし、集団内の心理的安全性を高めるための施策を講じたり、ブリッジウォーター・アソシエイツの社内ツール「ドット・コレクター」のようなアルゴリズムを実践レベルにまで落とし込み、運用したりすることは非常に困難なのが現実です。

大きな理由としては、これまでの企業・組織の運営体制が、ピラミッド状に階層化され、上意下達の指示・意思疎通と、マニュアルや規範によって機械的に統率するやり方を取っていたからです。 心理的安全性の概念は、統率をしつつも、横のつながりやフラットな集団内の人間関係を基軸としている ため、これまでの運営体制が適合しなくなっていると言えるでしょう。

心理的安全性の標榜する安全とは危険と隣り合わせ

心理的安全性を高めるとは、いわば集団内の人同士の距離を縮めるということでもあります。しかし、どのような関係性であれ、人同士が心理的な距離を縮めると必ず互いを傷つけ合う事態になります。

心理的安全性を高めた環境にも同じことが言え、 自由に意見・アイデアを発言できるということは、必ず誰かの意見を否定するなど、多少なりとも傷つけることにつながります。 どんなに倫理的・論理的に集団内の規範を決めたとしても、所詮は統率を目的とした外圧でしかなく、個人の内面(思考・感情など)を根本的に抑圧するには至らないのです。

そのため、最終的には必ず人同士の感情的な衝突は起こると考え、その上で心理的安全性を高める環境作りをしていかなければなりません。衝突が起きた際には、上司や仲の良い同僚がその仲を取り持ったり、和解するための議論・話し合いの場をその都度設けたりする意識も必要だということです。心理的安全性を高め、継続させる仕組みさえ作れば終わりではないことは理解しておきましょう。

心理的安全性が低い場合に抱えやすい4つの不安

ここまでは、心理的安全性が高い集団について、その効果やデメリットについて解説してきました。では、心理的安全性が低い集団とはどのような状態なのでしょうか。ここからは、心理的安全性が低い職場の4つの不安について見ていきます。

➀無知だと思われる不安(IGNORANT)

無知だと思われる不安(IGNORANT)は、質問や確認などを行う際、「こんなことを聞いて印象が悪くならないか」「物事・常識を知らない人物と思われるのでは」といった不安に苛まれてしまう状態です。自身の知識不足や理解の足りなさに対し、周囲が批判的・攻撃的に接してくるかもしれないと不安に駆られています。その結果、業務上必要なコミュニケーションがおろそかになったり、行動が遅れてしまったり、ミスを引き起こしてしまったりするといった事態になります。

➁無能だと思われる不安(INCOMPETENT)

無能だと思われる不安(INCOMPETENT)は、業務で失敗した際、「この程度の仕事もできないのか」「この人には任せられない」などと思われてしまう不安に駆られ、自身の能力や判断力への信頼が揺らいでしまっている状態です。無能だと思われる不安に襲われると、印象の悪くなる情報を社員に報告しなかったり、ミスを認めなかったりするケースも多く発生します。小さな問題だとしても、積み重なることで大きなトラブルに発展することもあり、社員同士の信頼関係にも大きな悪影響を与えるでしょう。

③邪魔をしていると思われる不安(INTRUSIVE)

邪魔をしていると思われる不安(INTRUSIVE)は、議論・話し合いを行っている際、「自分の発言が邪魔になってしまうのでは」と不安を感じてしまい、積極的な意見・アイデアが出せなくなる状態です。

異論を挟むと話し合いに水を差してしまうような気がして、自分の発言が横やりになって議論がストップしてしまうのを恐れることで発言に消極的になります。その結果、議論・話し合いの場での発言回数が減り、周囲の意見・アイデアに同調し、ことなかれ主義的な立ち振る舞いをするようになるでしょう。自分から発言する社員が減ることは、アイデアや多様な視点が生まれにくくなるということでもあり、企業・組織にとって不利益にもつながります。

④ネガティブだと思われる不安(NEGATIVE)

ネガティブだと思われる不安(NEGATIVE)、プロジェクトや業務内容に対して改善案などを提案したい際、「他者の意見を批判しているネガティブな人だと思われるのでは」と不安になり、必要な指摘ができなくなっている状態です。和を乱すような否定的・批判的なことを言う人だと思われるかもしれないといった不安が大きくなり、発言に消極的になります。

このような状態になると、業務上適切な改善案や指摘だったとしても、少しでもネガティブ要素があると発言をためらってしまうため、企業・組織として課題・問題解決が遅れてしまい、トラブルを抱えてしまうことにもつながります。

私たちが生み出す不安こそが心理的危険の原因

チーム・組織において、心理的安全性が担保されない大きな理由の1つに、自分たち自身で不安を生み出し、増幅させてしまっていることも挙げられます。自分の発した意見によって自分に過度な責任が生じてしまうのではないか、あるいは他者から批難される可能性があるのではないかと反射的に考えてしまいます。

そのようなネガティブな考えは被害者意識を作り、必要以上に他者に踏み込まない方が安全だという認識となり、言動を抑制していくでしょう。言動を抑制するといった回避行動は、一時的な不安やストレスを解消する手段にはなりますが、チーム・組織などの集団の持つ不安要素の根本的な改善や、魅力的な風土・文化の醸成にはつながりません。

心理的安全性の高い環境を作るには、チーム・組織を束ねるリーダーが理解し、個々の社員が勇気を出して発言するためのきっかけを作ることが大切です。まずは社員が「不安を突破して発言する」の回数を増やすように意識しましょう。

心理的安全性はどうやって測定できるか?

「自分の職場の心理的安全性は高いのか低いのか?」それを客観的に知るための測定方法も提案されています。心理的安全性の提唱者エドモンドソンは、職場の心理的安全性の程度を測る指標として7つの質問を挙げています。メンバーに以下の質問へYES/NOで答えてもらうことで、おおまかな現状を把握できます。

7つの質問

  1. チーム内でミスを起こすと、よく批判されるか?
  2. チームでは、難しい課題やネガティブな内容について話し合えるか?
  3. チームのメンバーは、異質な意見やアイデアを受け入れない傾向があるか?
  4. このチームでは、リスクのある行動をとっても安全だと感じるか?
  5. チームの中で助けを求めにくい雰囲気があるか?
  6. チーム内に他者を欺いたり陥れようとする人はいないか?
  7. チームで仕事を進める際、自分の強みが発揮されていると実感できるか?

上記の質問に対する回答傾向(YESが多いかNOが多いか)から、チームの心理的安全性が高いか低いかを診断できます。例えば1番や3番の質問に「YES」が多い場合、批判や異質な意見への拒絶が起きていることになり、心理的安全性が低めと判断できます。逆に4番や7番に「YES」が多ければ、メンバーが安心してリスクを取れ自分の強みを活かせている状態で、心理的安全性が高い可能性が高いでしょう。

さらにエドモンドソンは、心理的安全性が高い職場に表れる3つのサインも提唱しています。以下のような兆候が職場で見られる場合、その組織には心理的安全性が行き渡っていると考えられます。

3つのサイン

  • ポジティブな話題が多い:日常的にチーム内で感謝や賞賛、建設的な話題が多く交わされている
  • 失敗や問題についても話し合う機会がある:成功体験だけでなく、失敗談や課題もメンバー同士で共有し議論できている
  • 職場に笑いやユーモアがある:チーム内に適度な余裕があり、冗談や笑い声が聞こえる雰囲気がある

以上の3つのサインが顕著な職場は、心理的安全性が高い状態だと言えます。現在の自分の職場に心理的安全性が根付いているか確かめたい場合は、前述の質問やサインをセルフチェックしてみるとよいでしょう。

心理的安全性を高めるにはどうすればいいか?

ここからは、本記事のメインテーマである心理的安全性の具体的な高め方(作り方)を紹介します。心理的安全性は知識として理解するだけでなく、実際に職場で行動に移してこそ意味がある概念です。以下に、今日から実践できる具体策をポイントごとにまとめました。組織の状況に合わせて、できるところから取り入れてみてください。

リーダー自らが信頼と尊重を示す

心理的安全性向上の第一歩は、チームリーダーや管理職の姿勢です。リーダー自身が部下やメンバーを尊重し、失敗も含めて受け入れる態度を示しましょう。例えば自分の弱みやミスをオープンに認め、「助けてほしい」と素直に頼る姿を見せることです。リーダーが自分を偽らず受容する姿勢は、メンバーがお互いをありのまま受け入れる風土につながります。また日頃からポジティブな言葉を率先して使うことも重要です。「ダメだった」ではなく「次の改善チャンスだ」と前向きに言い換えるクセをつければ、メンバーも自然と前向きな発言が増えます。

情報の透明性を確保する

組織やチーム内の情報をできる限りオープンに共有しましょう。特にリーダーは不都合な情報ほど隠しがちですが、あえて経営方針や課題を率直に開示することが信頼醸成につながります。

全員が同じ情報を持てば認識が揃い、初めて建設的な議論と合意形成が可能になります。情報の不透明さは誤解や不安を生むため、定期的な共有ミーティングを設けたり、決定プロセスを開示したりして、メンバーの「なぜ?」を減らす工夫をしましょう。

メンバー全員に発言の機会を均等に与える

会議やディスカッションでは、一部の人だけが話して他の人が黙ってしまわないよう配慮が必要です。ファシリテーター役の人は「○○さんはどう思いますか?」と声をかけ、全員が発言できる場作りをしましょう。

どんな意見にも頭ごなしに否定せず一度受け止めることも大切です。一人ひとりの意見が尊重されると「自分も発言していいんだ」という安心感が生まれ、結果として皆が意見を言うのが当たり前の雰囲気になります。

質問や相談を歓迎する姿勢を示す

部下や後輩からの質問・相談に対し、「こんなことも知らないのか」といった否定的反応は絶対にNGです。そうした態度は「無知だと思われる不安」を増大させ、誰も質問しなくなってしまいます。質問や相談を受けたらチャンスと捉え、頼ってくれたことに感謝するぐらいの気持ちで丁寧に対応しましょう。たとえ忙しい時でもぞんざいに扱わず、「後で時間を取るから大丈夫」と前向きに返答するだけで、相談しやすさは格段に向上します。

定期的にコミュニケーションの場を設ける

日常業務とは別に、1on1ミーティングやチームのオフサイト懇談など、腹を割って話せる場を定期的に持ちましょう。上司と部下が1対1で話す時間を意図的に確保すれば、互いの理解が深まり信頼関係が強化されます。会議の冒頭に雑談やアイスブレイクを取り入れたり、週一回オンラインでフリーテーマのお茶会を開いたりする企業もあります。こうしたカジュアルな交流は心理的な壁を取り払い、メンバーの人柄を知るきっかけにもなります。

実際、弊社ソフィアの調査でも「カフェタイム」「役員と自由に飲める場」など交流イベントを通じてリラックスした対話を重視する企業が多いことがわかっています。リモートワークが増え直接会う機会が減った今だからこそ、意識的にコミュニケーションの機会を設計しましょう。

多様性を受け入れる

一人ひとりの価値観や個性の違いを認め合うことも心理的安全性には欠かせません。自分と異なる意見に触れたとき、すぐ否定するのではなくまず受け止める習慣をつけましょう。「若手だから分かっていないだろう」「現場の意見は非現実的だ」などと最初から決めつけないことです。多様な意見を歓迎する姿勢があれば、メンバーは安心して自分らしい発言ができるようになります。逆に多様性を尊重しない職場では「邪魔だと思われる不安」が拡大し、発言萎縮につながります。多様なバックグラウンドを持つ人材がお互いを理解し尊重し合える風土を育みましょう。

評価制度を見直す

発言や協働を促す評価制度に改めることも必要です。個人の成果だけを重視する評価だと、ミスを恐れて発言しなくなったり、自分の失敗を隠そうとするインセンティブが働きがちです。心理的安全性を高めるには、チーム貢献や挑戦を評価する仕組みにシフトしましょう。近年注目されるノーレイティング(ランク付けしない人事評価)もその一例です。年次の序列評価をやめ、上司と部下が定期的に対話しながら目標達成度や成長を評価する方法で、米国では導入企業が増えています。

評価基準があいまいな場合も「下手な発言をすると評価が下がるかも…」とメンバーに余計な不安を与えます。定期的に評価項目を見直し、「意見提案やチームへの貢献」を適切に評価する運用にすることが重要です。

感謝と称賛の文化を醸成する

メンバー同士が感謝の気持ちを伝え合う仕組みを導入してみましょう。例えばピアボーナスやサンクスカード制度です。ピアボーナスとは社員同士でポイントや報酬を送り合う仕組みで、Googleでは同僚からの称賛に対して現金を贈る制度を取り入れています。サンクスカードは「ありがとう」のメッセージをカードや専用アプリで送り合う取り組みです。

このように感謝を形にして伝え合うことで、メンバーは「自分は認められている」「必要とされている」という感覚を得られます。承認欲求が満たされると心理的安全性が高まり、さらに積極的な発言や協力行動が促進される好循環が生まれます。感謝の言葉が飛び交うポジティブな組織文化は、メンバーのモチベーション向上や信頼関係強化にも大きく寄与します。

共通の目標を設定しフィードバックを奨励する

チーム全員で共有する明確な目標を設定すると、一体感が生まれ心理的安全性が高まりやすくなります。有効なのがOKR(Objectives and Key Results)の導入です。OKRは組織全体の大きな目標と、それを達成するための主要な成果指標を定め、そこから各チーム・個人の目標を連動させる目標管理手法です。共通の目的に向かって皆が動くことで連帯感が生まれ、メンバー同士のコミュニケーションも円滑になります。

「何を言ってもいい」だけでは意見は出にくいものですが、明確なゴールや価値観を共有していれば建設的な提案が活発になるでしょう。またOKRは定期的なフィードバックを行う枠組みでもあります。目標に対する進捗や課題を対話する中で、たとえ厳しい指摘でもオープンに伝え合う訓練になります。こうしたフィードバック文化は組織全体の成長を促し、心理的安全性を損なわずに建設的な意見交換を根付かせるのに効果的です。

以上、心理的安全性を高めるためのポイントを挙げました。

なお弊社ソフィアが2024年に実施した大企業対象の調査によると、社内コミュニケーション活性化策として最も多くの企業が取り組んでいるのは「1on1の実施」(54%)、次いで「研修の実施」(51%)、「社内SNS等ツールの導入」(32%)である一方、「特に何もしていない」という企業も15%あることがわかりました。裏を返せば、まだ多くの企業で心理的安全性向上の余地があるということです。ぜひ上記のポイントを参考に、できるところから自社の風土改革に着手してみてください。

まとめ

心理的安全性は、多様な意見・アイデアを用いた活発な議論やオープンなコミュニケーションを通じて、個々の社員のパフォーマンスを向上させ、チーム・組織としての質の高いチームプレイを促進してくれる重要な基盤です。また、社員のメンタル面の安定、離職率の低下、組織や企業に対する愛着心の向上など、多方面に好影響を及ぼすこともわかっています。

一方で心理的安全性は目に見えない概念であり、その効果が直接は実感しにくいかもしれません。しかしどんな職場でも工夫次第で取り入れることが可能な要素です。本記事で紹介した心理的安全性の作り方を参考に、ぜひ職場にこの概念を取り入れて、安心して働けると同時にお互いが成長できる魅力的な職場環境を目指していきましょう。

心理的安全性の作り方についてよくある質問
  • なぜ経営層やコーポレート部門(経営企画・広報など)にとって心理的安全性が重要なのでしょうか?
  • 経営層や本社のコーポレート部門は、全社方針の発信や現場との橋渡し役を担うため、組織内コミュニケーションの円滑化に大きな影響力を持ちます。心理的安全性が確保されていれば、現場社員は経営方針や問題点について率直に意見を述べたりフィードバックできるようになります。

    弊社ソフィアの調査でも、「部門間のコミュニケーション」や「上司と部下」「経営陣と社員」の縦横両面で課題を感じる企業が非常に多いことが明らかになりました。経営企画部門や社内広報が中心となって心理的安全な風土づくりを推進すれば、経営メッセージの浸透力が増し、現場のエンゲージメント向上や課題の早期発見・改善につながるでしょう。要するに、心理的安全性の向上は経営視点でも組織力強化の重要テーマであり、経営層こそ主体的に取り組むメリットが大きいのです。

  • 心理的安全性を高めることは社員エンゲージメントや離職率に影響しますか?
  • はい、強い影響があります。心理的安全性が高い職場では、メンバーが「自分は大切にされている」と感じられるため、組織への愛着心(エンゲージメント)が高まります。自由に発言でき、意見が尊重される環境では仕事への主体性も増し、「この会社で成長したい」「貢献したい」という前向きな気持ちが芽生えやすくなるのです。また、安心して働ける職場は定着率の向上につながることが多く、優秀な人材ほどその傾向が顕著です。

    逆に心理的安全性が欠如した職場ではストレスや不満が蓄積し、離職の引き金となり得ます。「意見を言っても無駄だ」と感じればモチベーションが下がり、やりがいを見失って転職を検討する社員も出てくるでしょう。実際、前述の通り心理的安全性の高い職場では若手・有能人材の離職率が低いというデータもあります。このように、心理的安全性の向上は社員エンゲージメントを高め離職防止にも直結する重要な施策なのです。

  • テレワーク下で心理的安全性を維持・向上させるにはどうすればいいですか?
  • リモートワークでは対面機会が減る分、意識的な取り組みが必要です。まず、オンライン上でもこまめなコミュニケーションを心がけましょう。定期的なオンライン1on1やチームミーティングで業務状況を確認するとともに、雑談タイムやバーチャルランチなどカジュアルな交流機会を設けると効果的です。

    弊社調査でも、新型コロナ以降のテレワーク増加によって大企業内のコミュニケーション問題が一層深刻化している可能性が指摘されています。そのため、普段以上に意図的な情報共有と声かけが求められます。また、テキスト中心のやり取りでは感情が見えにくいため、チャットでは肯定的なリアクション(スタンプや絵文字の活用など)を増やし、心理的ハードルを下げる工夫をしましょう。

    ビデオ会議では相手の表情に注意を払い、相槌やリアクションを普段以上にオーバーにすることで「ちゃんと聴いている」安心感を与えることができます。さらに、オンライン上で意見を言いやすくするため、匿名の意見募集ツールやアンケートフォームを活用する方法もあります。最後に、リモート環境では成果にフォーカスするあまり雑談が減りがちなので、チームのSlackやTeamsに雑談チャンネルを作ってプライベートな話題を気軽に共有できる場を持つのも良いでしょう。要は、物理的な距離を感じさせない「心理的な近接」を意識して演出することが、テレワーク下で心理的安全性を高めるポイントです。

  • 心理的安全性を高める上で注意すべきことはありますか?
  • 前述のとおり、心理的安全性はただメンバーに優しく接すれば良いというものではありません。以下の点に注意しましょう。

    1つ目は「馴れ合い」と混同しないことです。意見を否定しない=甘やかす、ではなく、必要な指摘やフィードバックは躊躇せず行う姿勢を維持することが大切です。「相手に嫌われたくないから何も言わない」のでは組織は成長しません。

    2つ目は結果責任を曖昧にしないことです。安心できる環境でも、目標達成や業績へのコミットメントはメンバー各自が負うべきです。失敗が許容されるのは学びにつなげる前提であり、結果を出さなくていい理由にはならない点を共有しましょう。

    3つ目は不正行為を許さないことです。心理的安全性は倫理観とも両立させる必要があります。「報告しづらい雰囲気を作らない」ことと同時に、「悪いことは悪いと言える」文化も育てなければなりません。例えばハラスメントやコンプライアンス違反は、どんなに言い出しづらくても必ず声を上げ対応する体制が必要です。

    最後に、適度な緊張感を忘れないことです。心理的安全性を高めるほど居心地は良くなりますが、同時に各自が高い目標に向かって努力し続ける組織風土を維持することが重要です。「互いに挑戦し合える安心感」を目指し、安心と挑戦のバランスを意識しましょう。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。