組織力が低下する原因|大企業向け強化施策のポイントと事例を解説
最終更新日:2026.08.03
目次
組織力の強化は、多くの企業の課題です。将来予測が困難なVUCA時代において、企業が生き残るためには、環境変化に迅速に対応できる強固な組織力が欠かせません。組織力を強化するためには、組織力がなぜ必要なのか、低下していると何が起きるのか、どうしたら組織力が強化できるのかをしっかりと踏まえてから施策を実行することが重要です。
本記事では、組織力強化のポイントと具体的な事例について、最新のフレームワークを交えて解説します。
組織力の定義と本質
まず「組織」とは、共通の目的を持って集まり、その目的を達成するために分業や調整を行う人々の集団を意味します。ソフィアでは、組織力が高い状態を「組織内の意見調整や意思決定がスムーズに進む状態」であると考えています。組織のビジョンを実現し戦略を推進するためには、経営方針や事業戦略の決定から会議やシフトの日程調整・購入備品の決定まで、大小さまざまな「意思決定」が必要です。意思決定のスピードは組織のパフォーマンスを大きく左右するものであり、スムーズに行うためにはコミュニケーションが重要となります。
さらに「意見調整」とはコミュニケーションそのものです。組織によるコミュニケーションのあり方は、その組織の持つ特徴や、組織力に直結していると考えられるのではないでしょうか。
従業員が一体となって団結し、会社のビジョンや経営戦略を実現するために発揮する「実行力」こそが組織力の本質です。優秀な人材が集まっていても、各自の方向性がバラバラでは組織力とは言えません。全社員が同じベクトル(方向性)を持って業務に取り組むことで初めて、組織力が発揮され会社の成長につながります。
レジリエントとアジリティの重要性
柔軟で弾力があり修復性が高いといった意味の「レジリエント」、機敏さ・素早さなどの意味を持つ「アジリティ」という言葉があります。両者によって、「組織力はコミュニケーション力で成り立つ」ということが証明されています。
レジリエントな企業は、環境の変化に迅速かつ柔軟に対応することができ、リスクを反発力に変えることで成長します。アジリティは、状況の変化に対応して素早く組織を変革していく能力です。どちらも、社会の移り変わりが激しい現代における組織力には、必要不可欠な要素です。
しかし、組織文化や風土によって、柔軟で迅速な対応の妨げになっている場合が見受けられます。その解決策になるのが「コミュニケーション」です。社内で積極的なコミュニケーションが交わされることで、情報共有や意思疎通が頻繁に行われ、組織の文化や風土に関係なく、さまざまな変化に対応できるのです。今の時代、環境の変化に対応できてこその「組織力」なのではないでしょうか。
本セクションのまとめとして、以下の3点を押さえておきましょう。
- 組織力とは、共通の目的を達成するための「実行力」であり、意見調整や意思決定がスムーズに進む状態を指します。
- 激しい環境変化に対応するためには、レジリエント(柔軟性)とアジリティ(機敏さ)が必要不可欠です。
- 優秀な人材が揃っていてもベクトルが合っていなければ意味がなく、積極的なコミュニケーションが組織力の基盤となります。
組織力強化が必要な背景
あなたは日頃の仕事の中で「調整業務」に悩まされていませんか?調整業務は、なんらかの意思決定に向けて関係者の合意形成を行う必要がある際に発生します。
たとえば、調整なしに一方的な意思決定をすれば、利害関係者の不満のもとになります。また、一見合意したように見えても各人の思い描いているものが実はバラバラであれば、後々のトラブルにつながります。だからといって調整業務に果てしなく時間をかけていたら、組織のパフォーマンスは低下してしまいます。
近年では、事業のテーマや環境、テクノロジーなど刻々と変化している不確実な世の中です。顧客のニーズも細分化され、「何が成功するか」を読むことが難しい状況です。さらに人材は多様化し流動的で、盤石に見える企業であっても、社会の大きな変化に潰れてしまう可能性すらあります。そのため、組織における調整の難しさはさらに増し、今の時代に見合った組織力がなければ、時代の波に取り残されてしまうかもしれません。

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VUCA時代と労働環境の激変
将来の予測が困難な「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代」に適応し、企業として生き残るために組織力強化が欠かせなくなっています。
とくに大企業においては、IT技術やSNSの急速な進展、コロナ禍を経たリモートワークの増加、ビジネスのグローバル化など、企業を取り巻く環境は激変しています。さらに、働き方改革による労働時間の削減が強く求められる一方で、終身雇用制の崩壊により人材の流動化が進んでいます。
これら予測不能な激しい環境変化に対応するためには、現場レベルでの柔軟性と迅速な意思決定のスピード感が不可欠です。限られた労働時間の中で最大限の成果を出すためには、従業員全員が知恵を出し合うための組織力がかつてなく重要視されています。
本セクションのまとめとして、以下の3点をご確認ください。
- 調整業務に時間をかけすぎると組織のパフォーマンスは低下しますが、合意形成が不十分だとトラブルを招きます。
- VUCA時代においては事業環境やテクノロジーが刻々と変化し、何が成功するか予測することが極めて難しい状況です。
- 働き方改革による時間削減やリモートワークの普及など、労働環境の激変に対応するためには現場の実行力とスピード感が求められます。
組織力の強化と7Sフレームワーク
では、組織力の強化とはどのようなことでしょうか。そもそも強化とは、「足りない部分を見極め、補ってさらに向上させること」を意味します。
足りない部分を見極めるためには、まず「ありたい組織の状態」を描くことが必要です。そのうえで、理想と現実のギャップがどこにあるのか、どの程度あるのか、その原因は何かを見極めます。そこではじめて、現実を理想に近づけるための施策を考えることが可能になります。
目指すべき組織の状態や組織の現状、そして組織力が低下している原因は企業によって異なります。つまり、組織力の強化には万能の施策が存在するわけではなく、自組織の状態に合った施策を打つことが大切なのです。
マッキンゼーの7Sによる組織分析
自組織の現状と理想のギャップを的確に把握するためのフレームワークとして、マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した「7S」が非常に有効です。7Sは、組織を構成する要素を「ハードの3S」と「ソフトの4S」に分類し、相互の関係性を分析・評価する手法です。
これらの7つの要素のバランスを整え、整合性を確保することで、組織力を最大化できるとされています。以下の表に、それぞれの要素の概要と着眼点を整理します。
分類:ハードの3S
- 戦略(Strategy):自社の掲げる経営理念に基づいた事業の方向性や、目標達成に向けた資源配分計画
- 組織構造(Structure):組織の階層や構造、指揮命令系統など、組織内部の仕組みや権限の所在
- システム(System):人事評価制度、給与体系、経理システム、情報共有ツールなどの社内基盤全般
分類:ソフトの4S
- 共通の価値観(Shared Value):企業の掲げる理念や行動指針、社会的責任などが、どこまで社内に浸透しているか
- スキル(Skill):経営陣および従業員が保有している技術、専門知識、能力、ノウハウ
- 人材(Staff):組織内の人材構成、採用の仕組み、教育・育成制度、モチベーションの状態
- マネジメントスタイルまたは経営スタイル (Style):企業文化や暗黙のルールなど、職場に根ざす雰囲気
ハードの3Sは、経営陣の意思決定や制度設計によって比較的短期間で変更が可能ですが、ソフトの4Sは従業員一人ひとりの意識や価値観に深く根ざしているため、変革には長い時間を要します。
多くの大企業が陥りがちな失敗として、ハード面とソフト面の一貫性の欠如が挙げられます。たとえば「評価制度(システム)は整っているが、それを運用する管理職の育成(スキル)が不足している」、あるいは「新しい戦略は立案したが、現場の意識(共通の価値観)が変わっていない」といったズレです。組織力の強化には、これらの要素を総合的に見直し、自社に最適な施策を打つことが求められます。
本セクションのまとめとして、以下の3点をご確認ください。
- 組織力強化の第一歩は、ありたい姿を描き、現状とのギャップを見極めることです。
- マッキンゼーの7Sを用いることで、組織のハード面とソフト面の相互関係を体系的に分析できます。
- 制度や構造(ハード)だけでなく、従業員の価値観や風土(ソフト)を含めた総合的なアプローチが欠かせません。
組織力の低下が見られる企業の特徴
組織力が低下する原因は企業によってさまざまですが、組織力の低下した企業には、いくつかの典型的な状態が見られます。あなたの組織が以下の例のどれかに当てはまるのなら、組織力強化に取り組む必要があるかもしれません。これらは大手企業における「大企業病」の特徴にも当てはまります。もしそうであれば、「伸びしろがある」のではないでしょうか。
コミュニケーションの力で、より強固な組織力を構築できる可能性があります。自社がこのような状態であるかどうか、今一度チェックしてみてください。
上司の指示なしでは仕事が進まない
1つ目は、「上司の指示なしで仕事ができない」組織です。これは上司と部下の間で十分な意思疎通が図れておらず、信頼関係が構築できていないために、部下が主体的に判断して動くことができない状態を指します。
意思決定のスピードが遅く、あらゆる手続きに時間がかかるうえに、変化に対する柔軟な対応が難しく、組織として脆弱な状態といえます。
リスクをとることへの恐れ
2つ目は、「リスクをとることを恐れる」組織です。事業環境の変化への対応や、企業の成長のためには、ときに前例のない判断や新しい取り組みをすることが必要です。
しかし、目指すべき組織の状態や社員が取るべき行動がしっかり共有されていない、従業員の心理的安全性が確保されていないといった組織においては、失敗を避けるためにあらゆる取り組みが前例踏襲に陥りがちです。
そして、失敗を許容できない企業風土を放置すると、組織内に生まれたイノベーションの創出や変革の芽を摘み、組織の衰退を招くのみならず、不正の隠ぺいなどの不祥事を生み出す危険もあります。
業務以外の社員間交流の不在
3つ目は、「社員間に業務以外の交流がない」状態です。友人関係のように交流する必要はありませんが、相手の価値観や考え方のクセを知っておくことは、コミュニケーションコストを下げ、意見調整の円滑化に役立ちます。
また、業務を離れた場でも個人として話をできる関係性を構築することは、社員の心理的安全性の確保や、組織に対するエンゲージメントの向上にもつながります。もし、業務以外の社員間交流が推奨されていなかったり、そもそも交流の必要性が認識されておらず、そのような機会がないといった場合は、業務のコミュニケーションコストが上昇している可能性があります。
助け合いの精神と管理職の力量の欠如
これらに加えて、組織力が低い企業には「助け合いの精神がない」という深刻な課題も見受けられます。自分の仕事にのみ集中し、他者の仕事を避ける傾向が生じるため、部署間の連携や情報共有が滞ります。その結果、問題発生時の迅速な対応や、新規プロジェクトの立ち上げ時に他部門の協力を得ることが極めて難しくなります。
さらに、「管理職の力量がない」ことも組織力低下の大きな要因です。組織力強化には、現場を束ねる管理職の力量が不可欠です。力量のない管理職は、部下に適切な指示が出せず混乱や非効率を生むだけでなく、公平な評価基準を持たずに恣意的な評価を行いがちです。これは組織全体のモチベーションを削ぎ、組織の足を引っ張る存在となってしまいます。
本セクションのまとめとして、以下の4点をご確認ください。
- 意思疎通の不足により、指示待ち人間が増え、意思決定のスピードが著しく低下します。
- 失敗を許さない風土は前例踏襲を生み、イノベーションの芽を摘むとともに不祥事のリスクを高めます。
- 業務外の交流不足や助け合いの精神の欠如は、コミュニケーションコストを増大させます。
- 管理職のマネジメント力や公平な評価能力の不足は、組織力の低下に直結します。
組織力の高い企業の特徴
一方で、組織力の高い企業には次のような特徴が見られます。これらは、7Sの各要素がうまく連動している状態とも言えます。
全社員が同じ目標に向かう一体感
組織力は社員が団結することで発揮されます。優秀な人材が集まっていても、それぞれの方向性がバラバラでは会社のビジョンを実現できません。
組織力が高い企業は、社員全員が同じベクトルで業務に取り組んでいます。そのため、ビジョンを社内に浸透させることで、社員の行動にその価値観が反映されます。一つの事業において、計画し、実施し、そこから学びを得て、共通の目標に向かい足並みを揃えることができるのです。
企業と従業員が同じ目標を共有し、「今期の業績目標」や「創業周年へ向けた指針」などの重要な目標が従業員へ共有されており、組織のメンバーが一体感をおぼえ、目標達成に対する意欲が高い状態にあります。
コミュニケーションによる円滑な情報共有
コミュニケーションが活発な企業は、組織内のメンバー間で円滑かつ頻繁に情報や意見を共有し、相互にコミュニケーションを取ることができています。たとえば、社内にコミュニケーションを促進するための適切なチャネルが整備されており、会議や定期報告など、さまざまな手段が活用され、情報の共有が円滑に行われます。また、定期的なチームミーティングやワークショップ、社内イベントなどが開催され、メンバー同士の交流や意見交換を促進するといった、コミュニケーションを活性化するための取り組みがなされています。
社内のコミュニケーションが活発になることで、情報の共有や意思決定の迅速化、チームの連携と協力の向上につながります。結果として、組織のパフォーマンスや生産性の向上に寄与するのです。
ただし、「雑談などが多く何でも話せる明るい人間関係」だけでは、適切なコミュニケーションが取れているとは言えません。心理的な葛藤を回避した対話や、標榜ばかりしているような会話では、価値を創造することはできないでしょう。お互いの意見や感情を尊重し合える、オープンマインドなコミュニケーションが、組織力につながることを理解しておくことが重要です。
経営者・リーダーによる心理的安全性の確保
経営者やリーダーは、心理的安全性を醸成するための環境づくりやコミュニケーションの促進に努める必要があります。なぜなら、心理的安全性によって失敗や間違いを恐れずに挑戦し、新たなアイデアや改善策が生まれることで、組織力が高まるからです。組織力の高い企業の経営者やリーダーは、従業員の意見や提案を積極的に受け入れ尊重し、意見や考えを自由に表明できる職場づくりを重要視しているのではないでしょうか。それによって、メンバー同士の信頼関係が構築され、自分の弱点や不安を素直に表に出し、お互いに支え合える職場となるでしょう。
また、心理的安全性を確保しようと従業員の意見を積極的に受け入れるとしても、いつも同じ人が発言していては、特定の人だけの発言力が増してしまいます。それでは、他の従業員のやる気やモチベーションが削がれてしまい、ぬるま湯化する恐れもあります。そこで組織力の高い企業のリーダーは、従業員全員に安心して発言できる場を設け、発言に対する抵抗感を払拭することに努めているのではないでしょうか。
充実した人材育成制度
人材育成制度とは、組織内の人材の能力やスキルを向上させるために計画的に育成するための仕組みやプログラムのことを指します。組織において人材育成は重要な課題であり、組織力を高めるために欠かせない要素です。従業員のスキルや知識向上などに必要な「教育・研修プログラム」や、将来のキャリアパスを明確にするための「キャリア開発プログラム」があります。さらに、パフォーマンス評価やフィードバックの仕組みも整備されています。
そのため、各階級に求められる知識やスキルを効率的に身につけることができ、自己成長を実感し意欲やモチベーションが高まるのです。よって、人材育成制度が充実している企業は競争力があり、持続的な成長と発展が見込まれます。
ここまで何度かお伝えしてきましたが、組織力には社内コミュニケーションが非常に重要であるため、従業員とのコミュニケーションを重視した研修プログラムやワークショップを導入することをおすすめします。チームビルディング活動や、コミュニケーションツールなども効果的に活用してみてはいかがでしょうか。
権限付与・多様性受容・公平な評価制度
さらに、組織力の高い企業では以下の3つの要素も充実しています。
第一に、業務の責任や権限を適切に与える「エンパワーメント」です。権限を移譲することで現場レベルでの迅速な意思決定が可能になり、従来の階層的な組織構造に比べて組織全体の柔軟性が高まります。
第二に、「多様性(ダイバーシティ)」の受容です。性別、年齢、国籍などを尊重し、個々の能力を最大化する仕組みを整えています。ダイバーシティ研修の実施や柔軟な働き方の導入により、多様な価値観が交わり、新たなアイデアが生まれやすい環境を構築しています。
第三に、「公平な評価制度」の導入です。目標管理制度や多面評価(360度評価)などを活用し、評価基準の数値化やプロセスの透明化を図っています。これにより、不公平な評価による不満や優秀な人材の流出を防ぎ、生産性を高く保つことができています。
本セクションのまとめとして、以下の5点をご確認ください。
- 組織力の高い企業は、全社員が同じベクトルを持ち、目標達成への意欲が高い状態です。
- 定期的なミーティングやイベントを通じ、オープンマインドで円滑な情報共有が行われています。
- リーダーは心理的安全性を確保し、全員が安心して発言できる環境を整えています。
- 充実した教育プログラムと公平な評価制度により、従業員の成長意欲とエンゲージメントを引き出しています。
- 権限移譲と多様性の受容により、柔軟でイノベーションが生まれやすい組織風土が作られています。
組織力強化のために必要なこと
それでは、組織力を強化するためにはどのようなことが必要なのでしょうか。まずやるべきは、自社の現状を知り、組織力低下の原因を知り、自社に必要な取り組みは何なのかを見極めることです。ここでは、代表的な取り組みを多角的な視点からご紹介します。
企業のビジョン・理念の浸透
企業ビジョンや企業理念は、その企業で仕事をする上で従業員が大切にするべき価値観や考え方です。これらを組織に浸透させることで、コミュニケーションにおける共通言語が生まれます。
企業のビジョンや理念はただ掲げただけでは意味がなく、組織に浸透して初めてその役割を発揮します。しかし、単に上から押し付けても簡単には受け入れてもらえず、従業員がビジョンや理念を理解し、その内容に納得・共感することで浸透します。そのためには、従業員の心情や行動の変化に着目し、ビジョンや理念を好ましいものと思えるような体験をデザインしていくことが必要なのです。
具体的には、スターバックスが好事例として挙げられます。同社ではスタッフの大半がアルバイトであるにもかかわらず、新人研修に約40時間もの長い時間を費やして使命や価値観の浸透を徹底しており、これが強固な組織力の源泉となっています。
失敗を許す風土づくり
失敗を許容できない風土は「出る杭は打たれる」風土を作り、社員を萎縮させてしまいます。
数々のイノベーションを生み、世界的に有名な企業となった米Amazon社は、失敗を恐れないことを社員に強く訴えています。これは、社員にとって安心な場所を作り、企業と従業員、従業員同士の関係性を強固にすることでもあります。従業員が失敗を恐れずに安心して発言したり行動したりできる組織はコミュニケーションコストが低く、意見調整や意思決定のハードルも下がるでしょう。
そもそも、「失敗」とは学びのための結果にすぎません。考えを行動に移し挑戦した証でもあり、失敗を許容する風土を浸透させることが、不確実性の高い現代を生き抜くイノベーションの土壌となります。
従業員の動機付けとマネジメント力の向上
「人が働く理由」は、報酬や人事評価など、外発的な動機付けに基づくものだけではありません。とくに昨今では「成長のために働く」という若い社会人が増えているように、内発的な動機によって働きたいと思う人が増えています。
組織力の向上を図る上では、その土台となる組織内コミュニケーションに対して従業員が貢献したいと思えるような動機付けが必要です。そのためには、個人の持つビジョンと企業ビジョンとを紐づけていくことが近道です。企業ビジョンと個人のビジョンとが重なることで、社員は自分の成長と企業の成長とを同軸上にあると考え、企業のためにも自分のためにも周囲と積極的なコミュニケーションを取ろうと思えるようになります。
この動機付けを現場で実践するためには、管理職の「人材マネジメント力」と「課題解決力」の向上が不可欠です。部下の発言に耳を傾け、適切な声掛けや評価を行うマネジメントスキルを養うための研修プログラムを導入することが、組織力強化の近道となります。
人的資本経営の視点とKPIの設定
現在、大企業の組織力強化を推進する上で欠かせないのが、経済産業省が提唱する「人的資本経営」の視点です。人的資本経営とは、「人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的企業価値向上につなげる経営のあり方」を指します。
人材への投資は短期的なコストではなく、企業の競争力強化と中長期的な収益性向上をもたらす源泉となります。組織力を定量的に測定し、改善のサイクルを回すためには、以下のようなKPI(重要業績評価指標)を設定し、データに基づいた経営を行うことが推奨されています。
開示、測定分野と具体的なKPIの例:
- 育成・スキル:
一人あたりの研修費用・時間、研修プログラムの種類と対象者。従業員の専門能力の底上げを図り、成長機会の提供による内発的動機付けを促進します。 - エンゲージメント:
従業員エンゲージメントスコア、定期的なサーベイ結果。会社への愛着や貢献意欲を数値化し、職場の心理的安全性が保たれているかを定点観測します。 - 流動性・定着:
離職率、定着率、採用・離職コスト、後継者プールの充足率。優秀な人材の定着状況を把握し、マネジメント層の育成や配置の健全性を確認します。 - ダイバーシティ:
男女の賃金格差、属性別の従業員・管理職比率、育児休業取得率。組織内の多様性の受容度を客観的に測り、柔軟で革新的な組織風土を構築します。
特に先進的な企業では、エンゲージメントスコアなどの人的資本指標を役員報酬の評価項目に組み込むなど、経営層が主体的に組織力強化に取り組むインセンティブ設計を行っています。これらの指標を用いて自社の課題を可視化し、チーム全体で共有することが効果的です。
弊社ソフィアの調査から見る「1on1のパラドックス」
弊社ソフィアの調査では、従業員数1,000人以上の企業に勤める現場およびコーポレート部門の方623名を対象に、2025年10月にインターナルコミュニケーションの実態に関するインターネットリサーチを実施しました。
この調査では、組織力強化や社内コミュニケーション促進の取り組みとして「1on1ミーティング」が最も多く実施されている一方で、「効果を感じない施策」のトップとしても「1on1」が挙げられるという、深刻な「パラドックス」が確認されています。
この背景には、経営層と現場が「重視するポイント」に大きなズレがあることや、管理職の対話スキル(傾聴やフィードバックの技術)が不足していることが挙げられます。制度だけを導入しても、対話の質が伴っていなければ、部下にとって単なる業務報告の場や苦痛な時間となり、逆効果になってしまいます。
弊社ソフィアの調査では、効果的なインターナルコミュニケーションを実現するためには、「対話(Dialogue)」「教育(Education)」「ツール(Tools)」の三本柱をバランスよく組み合わせることが重要であることが分かっています。
コミュニケーションの場(ツール)の提供
組織力の強化に向けて組織内のコミュニケーションを活性化させるためには、コミュニケーションを行う場づくりも必要です。場の提供によって社員が情報発信・相互交流するようになることで、社員がお互いを知るきっかけが生まれます。これまでのコミュニケーションの場はオフラインが主流でしたが、現在は社内SNSなどオンラインの場(ツール)も普及し始めています。
そもそもコミュニケーションの場が存在しなければコミュニケーションが起こることもありません。コミュニケーションの機会が増えることで社員間の相互理解が進めば、「失敗を許す風土」の醸成にも役立つでしょう。
部活動や勉強会など、組織内で業務とは別の人間関係を構築できる非公式なコミュニケーションの場を用意することも推奨されます。これにより、仕事上の上下関係や、部署などの枠を越えたコミュニケーションが促され、結果的に業務にも良い影響を及ぼすことが期待できます。
本セクションのまとめとして、以下の5点をご確認ください。
- ビジョンや理念は、従業員が納得・共感できる体験を通じて浸透させる必要があります。
- 失敗を「学びの機会」として許容する風土が、心理的安全性の基盤となります。
- 個人のビジョンと企業のビジョンを紐づけ、内発的動機を引き出すマネジメントが重要です。
- 人的資本経営の視点を取り入れ、育成やエンゲージメントに関するKPIを設定し可視化します。
- 「1on1」は実施するだけでなく、対話・教育・ツールの三本柱で運用面をサポートしなければ効果が薄くなります。
組織力強化の施策事例
ここまで、組織力強化のために必要な取り組みを解説してきました。では、実際にこれらの施策を実践した企業ではどのような変化が生まれたのでしょうか。代表的な事例をご紹介します。
A社(企業名非公開)の事例
A社では、それまで収益を支えていた商品が途絶えてしまったのと同時に、業界全体における企業の統廃合にも直面し、自社独自の戦略を打ち出して存続を図っていくことが求められていました。そのためには管理者層と現場社員とが一体となって事業変革を推し進める必要があり、マネジメント層の一体化、マネジメント層と社員との信頼関係強化も課題となっていました。
そこでソフィアでは、マネジメント層と現場社員の対話を促進し、現場社員からの信頼を損なう要因の一つであった、マネジメント間の意思疎通の悪さを改善するために、マネジメント層の組織開発を実践しました。また、社員のエンゲージメントや関与の程度を高めるために、組織改革に向けた価値観やテーマを検討し、実際に改革を進めていくプロジェクトを立ち上げて推進を行いました。
さらに、行動指針や理念ビジョンそのものを見直していくこととなりました。こうした一連の動きがすべての社員にオープンに伝わるように、隔週で社内報を発行し、改革の動きを中心に全社員に伝達することで、組織内コミュニケーションの向上にあわせて、業績も軌道に乗せることができました。
B社(企業名非公開)の事例
顧客の価値観や生活様式が急速に変化する中で、B社はその変化に対してスピーディに対応できず、機会損失が生じていました。この原因の一つとして、過去の成功体験が意思決定基準となり、これまでのビジネスのやり方を踏襲するという問題が挙げられ、顧客中心主義の組織風土へと変革していくことが課題となっていました。
そこでソフィアでは、社員意識調査、インタビュー、フランチャイズ先の販売店へのヒアリングなどを行い、顧客中心主義の阻害要因を抽出。組織風土を変えるためのシナリオを策定しました。3年間のマイルストーンを作成し、経営と社員の対話会やマネジメント層のコミュニケーション研修、企業ビジョン策定や全部門の活動とビジョンの紐づけなど、さまざまな施策を支援し、顧客中心主義のビジネスへと変革を進めました。
現在では、フランチャイズ先も含めたバリューチェーン全体での顧客中心主義への組織風土改革の動きに進化しました。
C社(企業名非公開)の事例
働き方変革に取り組んでいたC社では、取り組みの必要性は社員に認識されていたものの、企業の目指す状態と実際の現場の状況に大きなギャップがあることが課題でした。
ソフィアでは、社員の現状を知るための意識調査の分析支援や、働き方改革のビジョン浸透に向けたセミナーの企画・運営、働き方変革ポータルサイトのリニューアル、コンテンツの制作等、各種コミュニケーション施策の立案・推進支援を行いました。
その結果、ビジョン浸透度の調査結果が大幅に改善し、とくにリーダー層の改革意識が高まるなどのポジティブ変化につながりました。
本セクションのまとめとして、以下の3点をご確認ください。
- A社は、マネジメント層の組織開発と全社員へのオープンな情報開示により信頼関係を回復しました。
- B社は、意識調査を基に3年間のマイルストーンを策定し、過去の成功体験からの脱却に成功しました。
- C社は、多角的なコミュニケーション施策により、現場と経営のギャップを埋め、ビジョン浸透度を改善させました。
まとめ
組織力強化のためにはコミュニケーション活性化が不可欠です。しかし自社のコミュニケーションがどの程度活性化しているかは、社内にいると把握しにくいものです。
そういった場合は自己判断をしてしまうのではなく、外部の企業を活用して判断を委ねるほうが、より正確な現状把握ができます。ソフィアではコミュニケーション調査を始め、組織変革、組織力強化のサポートに多数の実績を持っていますので、お気軽にお問い合わせください。
要するに、組織力とは「全社員が同じベクトルで動くための実行力」であり、その土台となるのが日々のコミュニケーションです。
マッキンゼーの7Sや人的資本経営といったフレームワークを活用しながら、自社の現状とありたい姿のギャップを丁寧に埋めていくことが、持続的な組織力強化への近道といえるでしょう。









