組織変革

AI時代の働き方と人材戦略:「消費する仕事」から「生成する仕事」へ

あなたの職場でも、AIツールの導入が話題になっているのではないでしょうか。ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、「自分の仕事がAIに奪われるのでは」という不安を感じる方も多いと思います。しかし、本当にそうでしょうか?

実は、AIは仕事を「奪う」というより、仕事の「質」を変える存在なのです。では、具体的にどのような変化が起きているのか、そして私たちはどのように適応すべきなのか。本記事では、「消費する仕事」と「生成する仕事」という新しい視点から、AI時代の働き方について一緒に考えていきましょう。

AI時代に迫られる働き方のパラダイムシフト

AIの進化は、これまでの働き方を根本から見直す段階に入りました。単なる業務効率化にとどまらず、雇用構造やキャリアの捉え方、そしてこれからの時代に求められる価値創造のあり方にまで大きな影響を与えています。ここからは、AI時代の働き方を理解するために重要となる4つの視点について順番に見ていきます。

AIによる業務構造の変化と雇用への影響

AIの普及に伴い、定型業務の自動化が進み、クリティカルシンキングや創造性を伴う業務の価値が高まっています。世界経済フォーラムの報告では、AI導入により失われる職業と同時に新しい職種も創出され、雇用全体が劇的に減るわけではないことが示されています。日本でも失業率はむしろ低下しており、AIは仕事を奪う存在ではなく、仕事の「中身」を作り替える存在であるといえるでしょう。

一方で、産業革命やFA化の時代と同じく、技術革新には必ず不安が伴います。歴史的に見ても、自動化の波は産業を発展させる原動力であり、変化を拒めばむしろ産業の停滞につながると言えるのではないでしょうか。

AI時代に求められるキャリア観と「生成する仕事」への移行

これまでの「与えられた仕事をこなす」働き方から、「自ら価値を生み出す働き方」へとキャリア観は転換を迫られています。AIによって退屈な作業から解放され、人間は文化的・知的な領域に集中できるようになる可能性があります。

AIは脅威ではなく、人間がより高付加価値な仕事へ移行するための大きな味方です。適応できれば高い生活水準と充実した働き方が得られ、適応しなければ逆に取り残されてしまうという構図が生まれています。

「旧富裕層 vs 新富裕層」に見る新時代の価値創造

ピーター・ティール氏の「旧富裕層と新富裕層」という概念は働き方にも当てはまります。旧富裕層的な働き方は「決まった枠組みの中で生きる」スタイルであり、新富裕層的な働き方は「まだ無い価値を生み出す」アプローチです。

特にAI時代の「創造」とは、物質的な製造ではなく、情報やイメージの創造へと比重が移っています。情報は在庫を抱える必要がなく、何度失敗してもダメージが少ないため、トライアルと改善を繰り返しやすいという特徴があります。

AIと共存する未来で人間に残る役割と専門性

AIとロボットが生産や在庫管理を担うようになる一方、人間には感性・文化・美意識に基づく価値創造が求められます。例えば自動車産業では、製造はAIに任せても「車内体験」「デザイン」「利用者の感情を満たす要素」などは人間にしか創れません。

そのためには専門性の獲得が不可欠であり、教育段階から準備する必要があります。専門性を身につけない場合はベーシックインカムに依存する生き方もありえますが、知的で創造的な生き方を望む人にとってAIは大きな味方となるでしょう。

「消費する仕事」から「生成する仕事」への転換

ここまで、AI時代における働き方の変化について見てきました。では、「消費する仕事」と「生成する仕事」とは、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

「消費する仕事」とは何か

「消費する仕事」とは、端的に言えば、既存の資産やリソースを使って定められた作業を行う働き方のことです。

たとえば、次のような仕事が該当します。マニュアルに従って定型的な事務処理を行う、既存の商品を販売する、決められた手順でデータ入力を行う、といった業務です。これらの仕事の特徴は、価値の創出よりも、既にある価値の処理や移転に重点が置かれていることです。

もちろん、これらの仕事が不要というわけではありません。組織運営には欠かせない重要な役割を担っています。しかし、AIやロボティクスの進化により、これらの業務の多くが自動化される可能性が高いのも事実です。

さらに言えば、「消費する仕事」は、働く人にとっても長期的なキャリア形成において限界があります。なぜなら、同じ作業の繰り返しでは、新しいスキルや知識の獲得が限定的になってしまうからです。

もちろん、すぐに自動化されて全ての消費する仕事がなくなるわけではありません。しかし、いずれはなくなりそうな仕事こそ、消費する仕事です。今、消費する仕事についている人は、当分大丈夫そうなら、それで安心せずに、今から既に、目の前の仕事とは違う自分にしかできない仕事を模索するべきでしょう。

本当に仕事がなくなってから探し始めても、もう遅い。まだ余裕があるうちに始めるべきです。自分の教育投資も必要でしょう。お金もかかります。日々の仕事に埋没せず、どうすれば今の自分に生成の仕事がこなせるのかを日々真剣に考えるべきです。

「生成する仕事」の特徴

一方、「生成する仕事」とは、新たな価値や知識を創出する働き方を指します。では、具体的にはどのような仕事が該当するのでしょうか。

例えば、新商品の企画開発、業務プロセスの改善提案、顧客の潜在ニーズを発掘する営業活動、データ分析から新たな知見を導き出す業務などが挙げられます。これらに共通するのは、単に与えられたタスクをこなすのではなく、自ら課題を発見し、解決策を生み出していく点です。

「生成する仕事」の最大の特徴は、AIと協働することで、その価値がさらに高まることです。たとえば、マーケティング担当者がAIを活用してデータ分析を行い、そこから得られた知見をもとに新しいキャンペーンを企画する。プログラマーがAIのコーディング支援を受けながら、高速でより革新的なシステムを開発する。このように、AIは「生成する仕事」において強力なパートナーとなるのです。

さらに重要なのは、「生成する仕事」は継続的な学習と成長を促すということです。新しい課題に取り組むたびに、新しい知識やスキルが蓄積され、それがまた新たな価値創出につながるという好循環が生まれます。

転換がもたらすキャリアへの影響

「消費する仕事」から「生成する仕事」への転換は、私たちのキャリアにどのような影響をもたらすのでしょうか。

まず、最も大きな変化は、キャリアの自律性が高まることです。「消費する仕事」では、組織から与えられた役割をこなすことが中心でしたが、「生成する仕事」では、自ら価値を生み出す方向性を定める必要があります。これは責任が重くなる一方で、自己実現の機会が大きく広がることを意味します。

また、学習の重要性が飛躍的に高まります。AIの進化スピードに対応するためには、継続的な学習とスキルアップが不可欠です。しかし、これを負担と考える必要はありません。むしろ、AIを活用することで学習効率が大幅に向上し、より短期間で新しいスキルを習得できるようになっているのです。

さらに、キャリアの多様性も広がります。「生成する仕事」では、異なる分野の知識を組み合わせることで新たな価値を生み出すことができます。たとえば、医療とAIの知識を持つ人材、教育とテクノロジーを融合できる人材など、複数の専門性を持つ「ハイブリッド人材」の需要が高まっているのです。

ハイブリッドな人材になるために、専門性も驚異的なスピードでAIに代替されているため、昨今、AIを活用している日本のビジネスパーソンの間で、「大卒者はいったい何をやるのか?」「新人の仕事がなくなるのでは?」という疑問も多く聞きます。しかし、新人が実務を通して学ぶいわゆる雑用的な実務は、過去から見れば代替されているものなど、いくらでもあります。バブル世代の新入社員は、会議用に資料を印刷しホチキスの位置をいかにきれいに止めるかということを競い合うOJTをしていた時代もありました。今の大卒は、簡単なコードやデータ分析程度はできていますし、少なくとも簡単なPPT資料は、年長者より高いレベルである人材が多いです。

AI時代に求められる人材像

ここまで、働き方の転換について見てきました。では、AI時代において企業はどのような人材を求めているのでしょうか。そして、私たちはどのような能力を身につけるべきなのでしょうか。

専門性の重要性

AI時代に最も重要となるのは、深い専門性とクリティカルシンキング(批判的思考)の組み合わせです。まず専門性について考えてみましょう。

AIは膨大な情報を処理できますが、その情報の意味を深く理解し、文脈に応じて判断することは人間の専門家にしかできません。たとえば、医療診断においてAIは画像解析で高い精度を示しますが、患者の生活背景や心理状態を考慮した総合的な診断は、やはり医師の専門性が不可欠です。

興味深いことに、専門性はクリティカルシンキングと相互に強化し合います。深い専門知識があるからこそ、より鋭い批判的思考が可能になるのです。

クリティカルシンキングの重要性

次にクリティカルシンキングです。これは、情報を鵜呑みにせず、多角的に検証し、論理的に判断する能力を指します。AIが生成する情報も完璧ではなく、時には誤りや偏りを含むこともあります。だからこそ、AIの出力を批判的に検証し、適切に活用する力が必要です。

さらに、新しい価値を生み出す上で、クリエイティブな視点も求められます。AIは基本的に既存情報の統合によってアウトプットを生成しますが、人間はその逆方向、つまり既存の枠組みにとらわれないオルタナティブを生み出すことができます。これは単なる逆張りではなく、「自分の頭で真実を探求する」姿勢そのものです。

こうしたクリティカルシンキングは、専門性と結びつくことでさらに精度が高まり、独自の価値創造へとつながっていくでしょう。

自分の頭で考える「探究心」

技術的なスキルに加えて、AI時代には「探究心」と「引き受ける力」という2つの資質が特に重要になります。これはどういうことでしょうか。

「探究心」とは、単に与えられた問題を解決するだけでなく、「なぜ」「どうして」と問い続け、より深い理解や新しい発見を追求する姿勢です。AIツールが身近になった今、表面的な答えは簡単に得られます。しかし、その背後にある原理や、異なる視点からの解釈を探ることは、人間にしかできない創造的な活動です。

不確実や非一般を「引き受ける能力」

一方、「引き受ける力」とは、不確実性や困難な状況でも責任を持って課題に取り組む姿勢を指します。AI時代は変化が速く、予測困難な状況が増えています。まさに私たちは、テクノロジーの激変という中で「これは自分の仕事ではない」と線引きするのではなく、「どうすれば解決できるか」と主体的に考え、行動する人材が求められているのです。これこそが、現代における「投企」的な生き方といえるでしょう。

意味を創造する主体性、単に与えられた状況を受動的に受け入れることではありません。むしろ、その状況の中で自らが意味を理解し、新たな可能性を発見・創造していくことにあります。AI時代において「引き受ける力」を持つ人材は、変化を脅威としてではなく、自己実現の機会として捉えます。彼らは、AIという新たな「道具」と共に、これまでにない価値創造の可能性に自らを投げかけていくのです。

人間は自分と関わりのあるものを通じて世界を認識し、その中で自己の存在を確立していきます。同様に、「引き受ける力」を持つ人材は、組織の課題を「他人事」ではなく「自分事」として捉えます。プロジェクトの境界を越えて、部門の壁を越えて、「これは私に関わることだ」という意識を持って行動します。

換言すれば、現在の状況に対して創造的に解釈でき、自分ゴトにできることが引き受ける能力です。これを人間がするべき本質に「判断」というのではないでしょうか?これ以外の判断は、AIは可能であり、責任を引き受けない判断は、判断ではないのではないでしょうか?

組織が求める新たな人材要件

では、実際に企業はどのような人材を求めているのでしょうか。最近の採用動向から見えてくる新たな人材要件を探ってみましょう。

まず注目すべきは、「学習アジリティ」です。これは、新しい状況に素早く適応し、経験から学び、その学びを他の場面に応用する能力を指します。技術革新のスピードが加速する中、特定のスキルよりも、新しいスキルを素早く習得する能力の方が重視されるようになっています。

次に、「協働力」も重要な要素です。ただし、これは単なるチームワークではありません。人間同士の協働に加えて、AIツールとの協働、さらには異なる専門分野の人材との協働など、多様な形態の協働を効果的に行える能力が求められています。

さらに、「倫理的判断力」の重要性も高まっています。AIの活用が広がる中、プライバシー保護、公平性の確保、説明責任など、技術の倫理的な側面を理解し、適切に判断できる人材が不可欠になっています。

これらの要件を見ると、技術的なスキルだけでなく、人間性や価値観といった要素がより重要になっていることがわかります。AI時代だからこそ、人間らしさが競争優位の源泉となるのです。

日本企業が直面する組織的課題と対応策

ここまで、AI時代に求められる人材像について見てきました。では、日本企業はこうした変化にどのように対応すべきでしょうか。日本特有の組織文化を踏まえながら、課題と対応策を考えていきましょう。

日本的経営の強みと限界

日本企業には、長年培ってきた独自の強みがあります。しかし同時に、AI時代において見直すべき点もあるのではないでしょうか。

まず強みから見てみましょう。日本企業の「現場力」は世界的に高く評価されています。製造業における品質管理、サービス業におけるきめ細やかな対応など、現場の知恵と工夫の蓄積は貴重な資産です。また、長期的な視点で人材を育成する文化も、AI時代の継続学習と親和性があります。

一方で、課題も明らかになってきています。たとえば、意思決定の遅さです。AIの活用には素早い試行錯誤が不可欠ですが、合議制を重視する日本企業では、新しい取り組みの承認に時間がかかりがちです。また、失敗を恐れる文化も、イノベーションの障壁となっています。

まとめ

「消費する仕事」から「生成する仕事」への転換は、単なるスローガンではありません。AI技術の進化により、定型的な業務が自動化される中、人間には新たな価値を創出する役割が求められています。これは脅威ではなく、むしろ人間がより人間らしい、創造的な仕事に集中できるチャンスと捉えるべきでしょう。

この転換を成功させるためには、個人と組織の両面からのアプローチが必要です。個人レベルでは、①専門性、②クリティカルシンキング、③探究心、④引き受ける力の醸成が鍵となります。

AI時代は、確かに大きな変化の時代です。しかし、変化は常に機会でもあります。「生成する仕事」への転換を通じて、私たち一人ひとりがより充実したキャリアを築き、組織もより高い価値を社会に提供できるようになるでしょう。

よくある質問(FAQ)
  • AIに仕事を奪われるのではないかと不安です。まず何から始めればいいですか?
  • AIは仕事そのものを奪うというより、仕事の「中身」を変える存在です。最初の一歩としておすすめなのは、今の自分の業務の中で「消費する仕事」と「生成する仕事」を意識的に仕分けしてみることです。そのうえで、生成する仕事につながりそうなタスク(企画、改善提案、振り返り、分析など)に少しずつ時間配分を増やしていきましょう。あわせて、ChatGPTなどの生成AIを日常業務で試し、「AIに任せる部分」と「自分が価値を出す部分」を切り分ける感覚を養っていくことが重要です。

  • 「消費する仕事」と「生成する仕事」の違いが今ひとつイメージできません
  • 消費する仕事は、既存のマニュアルや手順に沿って、決められた処理を行う業務が中心です。例えば、定型的な資料作成やルール通りのデータ入力、決まった商品の販売などが該当します。一方、生成する仕事は、課題の発見や新しい仕組みの提案、顧客の潜在ニーズの発掘、新サービスの企画など、「まだ形になっていない価値」を生み出す行為です。同じ職種でも、視点と関わり方を変えることで、消費から生成へと比重を移していくことができます。

  • 専門性もクリティカルシンキングも自信がありません。それでもAI時代を生き残れますか?
  • 現時点で完璧な専門家である必要はありません。大切なのは、今いる場所から少しずつ専門性を深めていく「学び続ける姿勢」と、AIが出した答えをそのまま信じるのではなく「本当にそうか?」と一度立ち止まって考える習慣です。日々の業務の中で、自分なりの仮説を立て、結果を検証し、次に活かすという小さなループを回すことで、専門性とクリティカルシンキングは同時に鍛えられていきます。AI時代に求められているのは、「完成された人材」ではなく「学び続ける人材」です。

  • 新人や若手は、AI時代にどのような経験を積むべきでしょうか?
  • 新人や若手のうちは、まず「消費する仕事」を通じて基礎的な業務スキルや業界知識を身につけることも重要です。ただし、それだけで終わらせないことがポイントです。同じ作業でも「なぜこの手順なのか」「どこを改善できそうか」と問い直し、自分なりの改善案を考えてみましょう。また、AIツールを積極的に使いながら、「AIに任せられる部分」と「自分だからこそできる価値」を早い段階から意識しておくことで、キャリアの伸びしろは大きく変わります。

  • 経営層・管理職として、組織を「生成する仕事」型にシフトさせるには何が必要ですか?
  • 最初に取り組むべきなのは、組織として「どのような価値を生成したいのか」を明確にし、繰り返し発信することです。そのうえで、定型業務をできる限り自動化・標準化し、社員が生成する仕事に使える時間と余白を意図的に作る必要があります。評価制度も、作業量や残業時間ではなく、改善提案や新しい試み、部門をまたいだ協働など「価値生成への貢献」を重視する方向に見直すことが重要です。現場に対して「失敗してもいいから試してほしい」とメッセージを出し、実際にチャレンジを評価する文化づくりがカギになります。

  • 自分が「生成する仕事」に向いているのか不安です。どんな人が向いていますか?
  • 生成する仕事に向いているのは、特別な才能がある人だけではありません。「なぜこうなっているのか気になる」「もっと良いやり方はないかと考えてしまう」「新しいツールを試すのが嫌いではない」といったタイプは、生成する仕事との相性が良いと言えます。完璧主義で考えすぎてしまう人よりも、「とりあえず小さく試してみる」「まずやってみてから学びを整理する」といった軽やかな実験思考を持てる人の方が、AI時代の変化とうまく付き合いやすいでしょう。自分の性格やスタイルを理解し、それに合った形で生成する仕事に踏み出すことが大切です。

  • 具体的に今日からできる「生成する仕事」への第一歩はありますか?
  • 難しいことから始める必要はありません。例えば、日々の定例資料に「一枚だけ、自分のコメントや示唆を加えるスライド」を足してみる、AIに要約させたレポートに自分なりの考察を一行加えて上司に共有してみる、といった小さなところから始められます。また、「今週、AIを使って仕事のやり方を1つ変えてみる」といったマイクロチャレンジを自分に課すのも有効です。こうした小さな実験を繰り返すことが、「消費する仕事」から「生成する仕事」へとシフトしていくための一番現実的で効果的な第一歩になります。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。