パフォーマンス・マネジメントの視点で人材育成をとらえ直す~ATD2016レポート

ASTD(American Society for Training & Development=米国人材開発機構)が、ATD(Association for Talent Development)と改称し2年。今年はロッキー山脈のふもとにあるコロラド州デンバーで行われたATD International Conference & Exposition2016に参加してきました。さまざまなセッションに参加する中から見えてきた人材育成のトレンドをお伝えします。

カンファレンス公式サイト(英語)

次世代への移行を視野に、学ぶ文化を醸成する

ASTDからATDへの改称にも表れているように“Training &Development”(訓練と発展)から“Talent Development”(能力開発)へと変化している時流を受け、今回はとくにパフォーマンス・マネジメントのトレンドに強く影響を受けた内容となりました。

ATDのCEOであるTony Bingham氏のキーノートスピーチでも「Culture(文化)」が強調されていましたが、多くのセッションの内容も「学ぶ文化の醸成」というテーマにつながるものでした。

この背景にはいくつかのトレンドがありそうですが、その一つに、人材の多様化のさらなる進展があります。ダイバーシティは従来から大きな課題とされていましたが、この数年間、特に今年はミレニアル世代への対応が大きなテーマとして取り上げられていました。

アメリカでは、今後就業人口において、1980年代から2000年頃に生まれたいわゆるミレニアル世代の占める割合が急速に増えるといった大きな環境変化が見込まれています。この世代間ギャップへの危機感は並大抵のものではないようですね。日本でも、当然次世代への移行といったことは必要なのでしょうが、少子高齢化のインパクトの方が大きいためか、どちらかといえば中高年対応が課題の中心に置かれているような気もします。

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巨大なコンベンションセンターの中にある今回のカンファレンスのサイン

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今回参加した最初のセッション。変化を邪魔する壁を突破して学びを定着させる。
いかに学習者が現場での実践に生かすか?その過程で陥りがちな落とし穴への対策

研修の成果をモニタリングし、日常業務でも能力開発を実践する

アメリカの著名企業が社員のパフォーマンスに対する年次評価をやめるなど、パフォーマンス・マネジメントにおける大きな変化が起きています。そうした動きに関連して、今回のカンファレンスでも、部下へのリアルタイム・フィードバックと、それを可能にするためのマネジャーへのデータフィードバック、いつでもどこでも学習できるためのマイクロラーニングなど、学習者個人に寄り添った環境整備と実践を求める内容が多く見られました。

その中でも、研修の成果目的としての「Behavior Change(行動変容)」が強調される中、学習の実践への「Transfer(変換)」「Apply(適用)」といった言葉が、従来に増して多く使われていたように感じました。

「インストラクショナル・デザイン(教育方法の設計)」という言葉は、日本ではどちらかといえばeラーニングに必要な手法として限定的に捉えられがちでした。昨今研修は組織目標達成のための手段と位置づけられています。研修そのものの質を向上させるだけではなく、その実施前後にやるべきことを事前に検討したうえで、研修が現場での実践や組織目標の達成につながったのかどうかをしっかりモニターすることの必要性が強く謳われてきています。今回はその傾向が一層強まり、多くのセッションで学習プロセス全体を再設計することの重要性がテーマとして取り上げられていました。

また、反転学習やバーチャルラーニングといった、いわゆるリモート環境での学習機会を支える技術や機能は、こうした動きを支えるための、非常に重要な役割を担うようになっています。

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The Mindset Solution for Lasting Behavior Change。行動変容にはまずはマインドセットの変化が必要。
リーダーが周囲を動かすために働きかけるマインドセットとは?

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参加者に配られるバッジ。この印刷は、参加者自身が画面操作して行う。
アメリカへの入国手続も一部セルフ化されるなど、あらゆる場面でのセルフ化が進んでいる。

能力開発への現場マネジャーの参画を推進する

高いレベルのパフォーマンスを達成するために、日常業務の中で能力開発を推進していくことが強く求められるようになりました。そうした変化の中で、現場のマネジャーが果たす役割は従来に比べ非常に重要になっています。リーダーシップ開発もこうした視点から捉え直されてきており、人事部門にとっては、いかに能力開発に現場マネジャーを参画させるかということは、大きな課題です。私たちソフィアは、集合研修を起点とした学習プロセスを見直し、学習環境に与える影響力が大きい現場マネジャーの参画を促す支援を行ってきていますが、今回のATDカンファレンスでは、その重要性をあらためて強く感じました。

こうした米国をはじめとした最先端の人材開発トレンドを踏まえながら、日本特有の事情や各企業の状況を反映させて、より現実に即した持続的な組織変革を支援していきたいと考えています。

【おまけ】デンバーの風景

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16th Street Mallはダウンタウンの繁華街。この秋ユニクロもオープン予定だそうで。
好天気にも恵まれ、地味で小さいけどきれいな町、という印象を持ちました。

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デンバーの路面電車。3両編成でかなり存在感が高い。乗ってみたかった…。
ちなみに、アメリカ人の組織開発の先生に「デンバーにいる間に必ずPrime Ribを食べろ」
と言われましたが、残念ながらその機会も作れませんでした。

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デンバーを発った飛行機からの郊外上空。ひたすら広がる農地はあまりにも広大でした。

株式会社ソフィア

ラーニングデザイン事業責任者、最高人事責任者、エグゼクティブラーニングファシリテーター

平井 豊康

企業内研修をコアにした学習デザインと実践を通じて、最適な学習経験の実現を目指しています。社内報コンサルティングの経験から、メディアコミュニケーションを通じた動機付けや行動変容の手法も活用しています。

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