再雇用社員のモチベーションが上がらない理由―「働かないおじさん問題」に悩む人事が今考えるべきことは?

株式会社ソフィアの幾田です。私はソフィア入社以来、社員意識調査の分析などを通じて、さまざまな企業の組織課題改善に携わってきました。そのなかで数々の組織を見てきましたが、ヒアリングやアンケートを行った際には、必ずと言っていいほど「働かないおじさん*問題」に直面しました。

*「働かないおじさん」とは、仕事へのモチベーションが低い再雇用社員のことを指す。もちろん、再雇用社員には女性もいるが、男性が多数派であることからこの記事では「おじさん」と表記する。

「働かないおじさん」は、実際にこなす業務は人より少ない(もしくはサボっている姿が目立つ)のに、必死に働いている従業員よりも高い給料をもらっていたり、高い地位についていたりします。その存在に不満や苛立ちを抱えている周囲の社員が少なくないことは、容易に想像できます。
しかし本来であれば、働かないおじさん世代の人たちは、これまでに培った製品知識や人脈で若手世代のサポートに貢献できる力を多く秘めているはずです。実際に、そういったノウハウや経験活かして働く「活躍するおじさん」も存在しています。

ではなぜ、組織・企業に対する貢献価値が高いはずの世代の人たちの多くが、働かないおじさん化してしまうのでしょうか?

人事部門担当者であれば、ミドル・シニア世代の社員にどのように活躍してもらうべきなのか、どうすれば会社の成長につなげられるのか、ということについて頭を悩ませる機会は少なくないはずです。
この記事では、「ミドル・シニア社員が組織のなかで力を発揮できるようにするはどうすればよいか」という問題について、人類学的視点から手がかりを探っていきます。

「働かないおじさん」が発生する背景

社員意識調査におけるヒアリングやアンケートでは、下記のような嘆きの声を多く目にしてきました。

30〜40代の社員
「50代以降の社員に古い考え方や仕事に対する価値観を変えてもらわなければ、組織の変革はできない」

役職定年後の50代社員や再雇用の当事者である60代の社員
「仕事の内容は以前とさほど変わらないが、給与は激減し、モチベーションの維持ができない」

こういった声から、働かないおじさんが発生する背景には、「ミドル・シニア社員にとってモチベーションの維持が困難な仕事・職場環境」という問題が隠れていることが見て取れます。この章では、ミドル・シニア社員がモチベーションを維持できず、働かないおじさん化してしまう原因を見ていきましょう。

働かないおじさんと「雇用制度」の関係性

働かないおじさんが発生する背景には「メンバーシップ型雇用(日本型雇用)制度」の存在があります。メンバーシップ型雇用は、「年齢が上がる度に昇給する」「長く勤めるほど退職金が多くもらえる」というような年功序列の手法をとることで、社員の早期退職を防ぎ、終身雇用並みに長く勤めてもらう、という制度です。しかしながら、この仕組みの負の面として「働かなくても給与が入ってくるから、働くことが損になってしまう」という仕組みができあがってしまっており、ミドル・シニア世代の働かないおじさん化を促進していると考えられます。

一方、近年では、メンバーシップ型雇用の欠点を補填するため「ジョブ型雇用」へ切り替えようという動きも出てきています。ジョブ型雇用は成果で評価する、いわゆる実力主義を取る制度です。そのため、勤続年数は長くても職務を担えるスキルがない、という社員の働きに対して適正な評価ができ、働かない人の給与は抑えられることになります。
つまり、ジョブ型雇用への切り替えは、メンバーシップ型雇用に甘える働かないおじさん世代にとっては一大事と言えるでしょう。

働かないおじさんと「技術的失業」問題

ジョブ型雇用に切り替わった際、働かないおじさんには職務に見合ったスキルが足りないために評価が下がってしまうのであれば、その背景には「技術的失業(テクノロジー失業)」の問題があると言えます。
技術的失業とは技術の進歩によって起こる雇用の喪失を示しますが、社会の変化や技術の進歩のよってミドル・シニア社員の既存の知識やスキルが陳腐化しまい、社内失業的な状況に追い込まれてしまっている場合もあります。これも働かないおじさんが存在する要因の1つとして考えられるのです。

働かないおじさんと技術的失業の問題はここ最近の話に限ったことではありません。人類の歴史をみても、産業革命やそれ以降に起こった技術革新によって、それまで重宝された知識やスキルが一気に陳腐化し、新しいものに代替えされることが起こってきたはずです。

ここからは、働かないおじさんを人類学的にみた場合に、労働生産力が落ちたミドル・シニア世代は社会やコミュニティのなかでどのような役割を担ってきたのか、もしくはどのように処遇されてきたのかをみていきましょう。

組織におけるミドル・シニア世代の地位や役割について、歴史的に考える

人類学の分野では、これまでに「老い」に関するさまざまな研究がなされてきました。

  • 1945年初版『未開社会における老人の役割』:レオ・シモンズ(Leo W.Simmons)
  • 1981年発表「老人は社会の資源か?社会の重荷か?―非工業社会における老人の処遇」:グラスコック(A. P.Glascock)/ファインマン(S.L.Feinman)

などは、いずれも未開社会や非工業社会を対象として人類学的研究を行っています。
それをいちがいに現代に当てはめることはできませんが、社会において労働生産活動の一線に従事できなくなった老齢者の地位や役割については学ぶポイントもあります。

ここからは、青柳まちこ編『老いの人類学』(2004年 世界思想社)を参考に、同書で挙げられている人類学的にみた老齢者の地位・役割と、私がこれまで見てきた現代の会社組織における現状を4つの項目で比較検討してみましょう。
*緑色の太字部分は同書からの引用

1.財産の所有権

多くの老人が生産活動に参加できなくなった時点でも財産を保持し、それゆえに威厳が保持できる。

これは現代の会社では該当しないと考えられます。
公私が分けられている現代の会社組織において、個人が所有している財産の多寡で組織におけるミドル・シニア世代の地位が変わることはありません。

2.政治的特権・家長特権

親族体系のなかで長老の権限が付与されている場合には、年長であるというその事実が特権的地位を保持する。

これは該当します。
役職者はもとより役職定年者も過去に「その地位についていた」という事実に対して、ほかの社員や関係者は敬意を持って接するという文化がこれに当てはまると言えるでしょう。
たとえば、前述のように顧客との強いパイプを持っていたり、その人が前に出ると揉め事なども丸く収められたりするような人は、その地位や経験を持って社内外に向けた働きかけができるということであるため、組織にとって有効な価値(人財)となり得ます。

しかし、地位や経験を有しているだけでその力を発揮せず、口うるさく偉そうな態度をとっているばかりであれば、「老害」扱いされて煙たがられることは必至かもしれません。そもそも、「私は偉いから下っ端の仕事はしません」というような役職者然とした態度でいられたら、若い世代がどんなに忙しくても雑用的な仕事を頼みにくくなり、業務が滞る原因にもなってしまいます。

3.戦略的知識

生産活動や戦闘に関して、老人は過去の経験に基づく熟達した技能や知恵を身につけており、それを若い世代に伝達することによって尊敬を得られる。

これも現代の会社において該当します。
前述のとおり、製品に対する深い知識や生産における技術などは組織のなかで重宝されます。これまでの実績や若手社員に対する適切なアドバイスによって尊敬の眼差しを向けられることも多いでしょう。

ただし、技術革新によってそれらの知識や技術が陳腐化した場合、活躍の場を失ってしまうこともあります。

  • ある製品について高い技術を持っていたが、会社が対象の事業から撤退してしまった
  • 手作業での資料作成やファイリングに長けていたが、すべてクラウド上でのデジタル管理に切り替えられた

このような場合は、活躍の場と合わせてモチベーションも失うことになるため、働かないおじさんが発生する原因につながります。

4.呪術・宗教・儀礼的知識

宗教や儀礼は生産活動と異なり、これまでのしきたりが重視される。その意味で老人に蓄積された知識はそれだけで高い価値を有する。

呪術・宗教・儀礼とは異なりますが、「会社の歴史や文化、価値観などを伝承する役割として重宝される」という意味で該当すると言えるのではないでしょうか。

これらの知識は、組織のDNAを後世に伝えるという意味ではプラスに働きかけますが、時代の価値観に合わせて会社が生まれ変わろうとするフェーズでは足枷にもなり得ます。
たとえば、景気が右肩上がりの時代にあった「昭和の根性論」などが代表的です。今の若者からすれば、根性論は時代遅れな発想のため通用しませんし、もし強要すれば企業倫理という面でリスク要因となることもあるでしょう。

ミドル・シニア社員のモチベーションを高め、現場の活力につなげていく方法

ジョブ型雇用制度の考え方からみれば、ミドル・シニア社員であってもその知識やスキルを活かし、職務に合った成果を出せることが理想だと言えるでしょう。

技術革新によってミドル・シニア社員の知識やスキルが陳腐化して労働生産性が落ち、組織に貢献できなくなることで、組織内で技術的失業が起こる可能性が今後ますます増えていくと考えられます。ただし、たとえばスマホの台頭によるデジカメ市場の縮小や、ネット通販の普及による書店の大幅減少の例にみられるような破壊的イノベーションが起これば、その会社や業界全体が成り立たなくなってしまい、ミドル・シニア社員の問題という枠組みに収まらなくなってしまうはずです。

そういった意味では、ミドル・シニア社員が直面する組織内の技術的失業は「それまで人が行っていた業務が機械化される」といったもっと規模の小さなものが多く、学び直しで解決する場合がほとんどなのではないでしょうか。

また、人類学的にみた場合の「2.政治的特権・家長特権」と「4.呪術・宗教・儀礼的知識」から読み取れるように、知識やスキル以外にもミドル・シニア社員の地位や役割から活躍の場を見出すことは可能です。
「政治的特権・家長特権」では、いずれ自分が組織のなかでフェードアウトしていく存在であるという前提で、これまで築いてきた組織内外の人脈を若い層に引き継ぐという役割を持たせることができます。また、「呪術・宗教・儀礼的知識」では、ミドル・シニア社員は組織の長老者として歴史や文化を伝えていく重要な役割を担っていることになります。

このような理由から、人事担当者にはミドル・シニア社員に対して学び直しの機会を提供すると同時に、彼らの組織におけるポジティブな役割を見出し、適切なポジションや仕事を用意することが望まれるのです。さらに、それらの役割について現場の理解を高め、「現場がうまくミドル・シニア社員に頼る」ことで双方にとってプラスになるような働きかけを実施していく必要があります。

まとめ

この記事では、メンバーシップ型雇用制度の負の面と捉えられる「働かないおじさん」について、発生の背景から対処法までを述べてきました。
働かないおじさん世代であるミドル・シニア社員のモチベーションを高めて現場の活力へつなげていくためには、

  • ミドル・シニア社員がどのような状態なのか
  • その状態に対して、ほかの社員はどう思っているのか
  • 実際に現場にどのような課題が生じているのか

といった現状把握から始める必要があります。

現状の調査・分析を実施して改善に向けた施策を練るには、組織改革や人材開発に関する経験と知識が必要です。また、企業規模や企業文化、貴社が今後目指したい方向性、社員の心理状態などによってもふさわしい対処の仕方が異なってきます。

もし、自社のリソースでまかなえない、不安が残るという場合は、ぜひ1度ソフィアへご相談ください。ミドル・シニア社員の活躍につながるような制度設計や研修、コミュニケーション施策など、組織に関する幅広い知見を活かして、貴社の変革や成長をアシストいたします。

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株式会社ソフィア

ワークショップデザイナー

幾田 一輝

社員意識調査を通じた組織課題の分析から、IT・人事分野の改善施策の企画立案、施策実施に向けた伴走支援を担当しています。改善施策の中では、ワークショップの企画、設計を得意としています。

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