2025.07.07

ビジネスにおけるエンゲージメントとは?意味や高める方法まで徹底解説

目次

「エンゲージメント」とは、社員と企業の強いつながりを表す概念で、人材定着や業績向上にも直結する重要な指標です。昨今、人事戦略において注目されていますが、その全体像や具体的な高め方を十分に理解できていないケースも多いのではないでしょうか。実際、2023年のGallup調査によると世界の従業員エンゲージメント率は23%に留まり、日本は6%と特に低い水準にあるため、多くの企業が課題に感じています。 本記事では、エンゲージメントの意味や必要性から始めて、メリットや測定方法、エンゲージメントを高めるための施策まで、最新情報も交えてわかりやすく解説します。上級管理職の方にも役立つ実践的なポイントを網羅していますので、ぜひ最後までご覧ください。

エンゲージメントとは?

「エンゲージメント」という言葉は、元々「婚約」「誓約」「約束」などを意味する英語 engagement に由来します。ビジネスにおいては「職場(企業・組織)と従業員の深いつながり」や「企業と顧客の関係性」を示す概念として使われています。特に、人事の文脈では社員と企業との信頼関係の強さや、社員が企業や仕事に感じる愛着・思い入れを表す言葉として定着しつつあります。

エンゲージメントが高いとは、社員と企業が固い信頼関係で結ばれており、社員が自社に貢献することを約束し、企業もその貢献に報いるという双方の約束が成立している状態です。一方で、エンゲージメントが低い場合、社員は企業に対して愛着や誇りを感じられず、必要最低限の関わりしか持たない傾向があります。このため、エンゲージメントは企業にとって人材の定着や組織力向上に直結する重要な指標となっています。

なお、「エンゲージメント」という概念は近年急速に注目されてきましたが、その背景には従来使われていた「コミットメント」との使い分けがあります。コミットメント(commitment)は「責任を果たす」というニュアンスが強く、義務感による拘束を連想させるため、世界的に敬遠される傾向が出てきました。代わりに、より前向きで自主的な関わりを意味する「エンゲージメント」が用いられるようになったのです。

エンゲージメントの意味

ビジネス文脈で用いられる「エンゲージメント」は、単なる満足や義務ではなく、社員が自発的・積極的に組織に関わろうとする前向きな思いを意味します。言い換えれば、社員が企業に対して抱く「誇り」や「愛着」の度合いを示す概念です。エンゲージメントが高い社員ほど組織との結びつきが強く、「この会社のために力を尽くしたい」という意欲を持っています。その結果、離職の抑止や仕事へのコミットにもつながると考えられています。

たとえば、ある社員が自社に高いエンゲージメントを感じている場合、給与や待遇以上に「この会社で働きたい」「会社の役に立ちたい」という気持ちが強く、多少の困難があっても組織に貢献し続けようとするでしょう。一方、エンゲージメントが低い社員は、自社への思い入れが希薄で、より良い条件があれば転職も辞さない状態かもしれません。

エンゲージメントという言葉には、「明るく前向きに積極的に関わろうとする」というニュアンスが含まれています。これは、本来あるべき職場の雰囲気にふさわしいポジティブな概念と言えるでしょう。終身雇用や年功序列が当たり前だった時代には「愛社精神」という言葉も使われましたが、現代では給与や役職だけで社員を引き留めることは難しくなっています。そのため、企業側も社員に「この会社で働き続けたい」と思ってもらえるやりがいや生きがいといった目に見えない要素を提供する必要があるのです。

エンゲージメントの起源

人事領域で「エンゲージメント」の概念が登場したのは1990年代のアメリカです。ボストン大学の心理学教授ウィリアム・A・カーン (William A. Kahn) が1990年の論文で提唱したのが、従業員エンゲージメントのはじまりとされています。カーンは「人は仕事上の役割の中で自己を表現し、能動的に関与することができる」と定義し、従業員が仕事において身体的・認知的・情緒的に自分自身を投入する状態を “個人的にエンゲージする (personally engage)” と表現しました。言い換えれば、「社員が仕事に自分の全人格を発揮すること」がエンゲージメントであるとされています。この研究では、社員がエンゲージするために必要な3つの心理的条件として意味有意性(Psychological Meaningfulness)・安全性(Psychological Safety)・利用可能性(Psychological Availability)を挙げています。社員が仕事に価値や意味を感じ(意味有意性)、安心して自分を表現でき(安全性)、働く活力が十分にある(利用可能性)とき、人は仕事に没頭しやすいという指摘です。

カーン以前は、社員への給与や福利厚生を充実させれば仕事のパフォーマンスが向上する、と考えられていました。しかし実際には、待遇を良くするだけでは生産性向上に直結しないケースが多々あったのです。

カーンの理論が示唆したのは、、物質的な報酬だけでなく、社員の仕事への愛着や情熱、企業への思い入れといった情緒面を満たすことの重要性でした。彼の論文以降、「エンゲージメント」という概念は学術的にも注目され、従業員の意欲や組織への愛着心を引き出す鍵として研究が進められていきます。

また、米国の心理学者フランク・L・シュミットらもメタ分析研究を通じて従業員エンゲージメントの概念を発展させ、「仕事の満足度」と「組織へのコミットメント」を統合する新たな概念としてその重要性を説きました。 これは、従来別々に語られていた従業員満足度(仕事にどれだけ満足しているか)と組織コミットメント(組織にどれだけ愛着・責任を感じているか)を包括し、社員の意欲や定着に影響を与える要因としてエンゲージメントを位置づけたものです。

日本国内でエンゲージメントという概念が注目され始めたのは2000年代に入ってからです。当初は外資系企業を中心に普及し、その後リーマンショック以降の景気悪化や雇用の不安定化を背景に、国内企業でも従業員エンゲージメントを意識した組織作りが模索されるようになりました。

ビジネスにおける「社員エンゲージメント」とは

エンゲージメントという言葉は広義には様々な領域で使われますが、ビジネスでは主に人事領域で語られることが多く、その文脈で特に指すのが「社員エンゲージメント(従業員エンゲージメント)」です。これは企業と社員との間の信頼関係の度合いや、社員が仕事や企業に対して抱く愛着心を示す概念で、言い換えると、社員エンゲージメントが高い状態とは「社員が自社の理念やビジョンに共感し、自発的に会社へ貢献しようとする意思を持っている状態」です。

一方で、ビジネス領域には顧客エンゲージメントという概念も存在します。これは自社の商品・サービスを利用してくれる顧客との間に築かれる信頼関係や愛着心を指します。顧客エンゲージメントが高まれば、企業の売上増加や顧客からの率直なフィードバック獲得につながるため、こちらも重要な経営指標です。ただし本記事では主に社内の従業員に焦点を当て、社員エンゲージメントについて掘り下げていきます。

エンゲージメントの日本の歴史

日本企業においてエンゲージメントが注目されるようになった背景には、時代ごとのビジネス環境の変化があります。高度経済成長期〜バブル期(1970–80年代)には、日本企業は商品の品質向上に力を注ぎ、良質な製品を提供して顧客満足度を高めることに注力していました。当時の社員に対しては、終身雇用や年功序列といった安定した待遇を提示することで愛社精神を醸成し、組織へのコミットメントを高めるやり方が一般的でした。

しかし1990年代以降、経済環境が変化しバブル崩壊やゼロ成長、就職氷河期などを経て、企業は**「顧客との長期的な関係構築」に目を向けるようになります。この流れは従業員にも及び、従来のように義務感や終身雇用**で社員を縛るのではなく、社員満足度という概念を取り入れて社員一人ひとりの主張や個性を尊重する方向へシフトしました。いわば、社員と企業の関係においても「顧客関係管理(CRM)的」な発想が導入され、社員満足度や組織コミットメントの研究が国内でも盛んになります。

1990年代後半から2000年代にかけて、日本企業では社員満足度や組織コミットメント向上の取り組みが進みました。しかしその中で、**「入社7~10年目に転職する優秀層が増える」**という課題も浮上しました。賃金や昇進が頭打ちになる低成長下では、社員は「やりがいがない」「報われない」と感じ、より成長機会や待遇の良い環境を求めて転職する傾向が出てきたのです。この頃になると、単に待遇面で社員をつなぎとめるのには限界があることが指摘され始めました。

2010年代以降、「社員エンゲージメント」という概念が本格的に登場します。非正規雇用の拡大やブラック企業問題、少子高齢化など社会的背景も相まって、社員と企業がより対等な関係へ移行しつつありました。働き方改革など政策的な後押しも受け、「社員が企業・仕事に抱く愛着や情熱」を重視する考え方が広がり、従業員エンゲージメントは人材マネジメントの中核的テーマとなっています。

以上の歴史を踏まえると、従業員エンゲージメントは従業員満足度よりも踏み込んだ概念であり、「会社への義務感に縛り付ける旧来型」ではなく「社員が自然に集まり活躍したいと思う組織文化」を目指す方向へ、日本企業も舵を切ってきたといえるでしょう。コミットメントという言葉がエンゲージメントに取って代わられたのも、こうした時代の流れを反映しています。

社員は組織の何に対してエンゲージメントするのか?

一口に「社員エンゲージメント」と言っても、社員がエンゲージ(関わりを深める)対象は様々です。社員個人が愛着や情熱を感じる対象としては、企業そのもの、企業の理念やビジョン、所属する職場やチーム、担当する仕事そのもの、共に働く同僚・上司などが挙げられます。従来の組織コミットメントは主に「企業・組織への愛着」に焦点を当てていましたが、現代の社員エンゲージメントはより広範な対象に及んでいる点が特徴です。

特に重要なのは、社員がどの対象にエンゲージしているかによってアプローチが異なることです。例えば、社員が仕事そのものに強い情熱を感じている場合(これをワークエンゲージメントと呼ぶことがあります)、仕事のやりがいや達成感を満たすことがエンゲージメント維持の鍵になります。一方、社員が企業や組織全体に愛着を感じている場合は、企業理念への共感や経営方針への納得感が重要になるでしょう。さらにチームや同僚との関係にエンゲージしている場合、職場の人間関係やチームワークを良好に保つことが欠かせません。

社員エンゲージメントは一人ひとりで微妙にフォーカスが異なります。そのため企業としては、職場環境全般(物理的・制度的な側面と人間関係・文化的側面の両方)を整えながら、社員各自がエンゲージメントを感じる対象を複数用意・強化していくことが望ましいでしょう。例えば、「企業理念に共感できる職場」であると同時に「仕事に熱中できる風土」や「良いチーム関係」がある環境を目指すことです。

社員エンゲージメントとワークエンゲージメント、組織コミットメント及び社員満足度

人事領域では、社員の態度や意欲に関する概念として社員エンゲージメント以外にもワークエンゲージメントや組織コミットメント、社員満足度などが取り上げられます。これらはいずれも社員のモチベーションや定着に関わる点で共通していますが、焦点を当てている対象や要素に違いがあります。

社員エンゲージメント: 社員が自分の仕事、同僚、組織全体に対してどれだけ意識と情熱を持ってつながっているかを示す概念。対象範囲が広く、企業文化・リーダーシップ・キャリア展望など多岐にわたる要素が含まれます。一言で言えば、「職場(組織)にどれだけ愛着を持てているか」という指標です。

ワークエンゲージメント: 社員が自分の担当する仕事や職務に対して感じる情熱・熱意・やりがいの度合いを指します。主に仕事の内容や難易度、自分の裁量範囲など個々の業務に焦点を当てた概念で、組織全体というより個々のタスクへの没頭度を測るものです。端的に言えば、「今の仕事が好きで夢中になっているか」ということです。

組織コミットメント: 社員が所属する企業・組織そのものにどれだけ愛着や帰属意識を持ち、組織の一員であろうとするかを示す概念です。かつては終身雇用的な文脈で重視され、義務感や責任感から会社に留まるというニュアンスが強い場合もあります。待遇や地位への満足によって組織に「縛り付ける」側面があるため、必ずしも社員がやりがいを感じているとは限らない点が、エンゲージメントとの大きな違いです。

社員満足度(従業員満足度, ES): 社員が働く環境にどれだけ満足しているかを測る指標です。給与・福利厚生、職場の人間関係、仕事内容、ワークライフバランスなど職場の居心地の良さに関する要素を評価します。社員満足度は数値化しやすい反面、「なぜ満足しているのか(理由)」までは問わないため、社員が感じるやりがいや貢献意欲までは測れない点が特徴です。

以上のように、社員エンゲージメントは「愛着や情熱」といった内発的な感情面を基盤としており、社員の内面から湧き上がる前向きなエネルギーを重視します。これに対し、組織コミットメントはどちらかといえば外的な条件や義務感による側面が強く、社員満足度は社員が感じる心地良さに着目した概念と言えます。重要なのは、エンゲージメントが高まれば社員は自ら進んで貢献しようとするのに対し、コミットメントが高くても義理で会社に残っているだけの場合もありうるという点です。

実際、社員エンゲージメントは社員満足度と比較的相関する(愛着を持てる職場では満足度も高まりやすい)のに対し、組織コミットメントは必ずしも満足度と相関しないとも言われます。義務感で残っている社員は待遇に不満でも転職しないことがあり、表面的には定着していても内心では不満がくすぶっている可能性があります。このため、現代の企業は義務や縛りで引き留めるのではなく、社員が心から「ここで働きたい」と思える環境作りすなわちエンゲージメント向上に注力すべきだと考えられています。

物的エンゲージメントと心的エンゲージメント

エンゲージメントを語る際によく議論になるのが、物質的な要素(給与・待遇など)と心理的な要素(やりがい・共感など)のどちらが重要かという点です。これを整理するために、本記事では便宜上、前者を「物的エンゲージメント」、後者を「心的エンゲージメント」と呼び分けます。

物的エンゲージメント

給与・賞与、福利厚生、役職や社会的地位といった目に見えるリターンを社員に提供し、組織へのつながりを強化しようとする手法です。わかりやすい例として、他社より高い給料を提示して人材を引き留めたり、昇進や肩書きを与えてモチベーションを高めたりする取り組みが挙げられます。物的エンゲージメントは数値化しやすく即効性が高いのが利点で、給与アップなどすれば短期的に社員の行動変化(離職思い留まりなど)を引き起こすことが可能です。

心的エンゲージメント

社員の感覚・感情・主観といった内面的な側面に働きかけて、組織への愛着ややりがいといった目に見えない報酬を引き出す手法です。例えば、企業の理念やビジョンに共感してもらう、仕事に社会的意義を見出してもらう、チームで達成感を味わってもらう、といった取り組みがこれに該当します。心的エンゲージメントが高まると、社員は給与や待遇以上に働く意義を感じ、「この会社で成長したい」「貢献したい」という内発的動機づけが強まります。

物的エンゲージメント:短期的には効果的ですが、弊害も指摘されています。たとえば、給与や地位だけを目的に働く社員が増えると、「高給だが働かない社員」(いわゆる窓際族)が組織に残ってしまう可能性があります。彼らは現状の待遇に固執し、不満を抱えていても転職はせず、必要最低限の働きしかしない傾向があります。企業にとって、人件費がかさむ割に生産性を発揮しない層が増えるのは大きな課題です。

一方で、心的エンゲージメントによって社員が仕事に意義や楽しさを感じていれば、多少給与が上がらなくても前向きに働き続けるものです。極端な例を言えば、「給料は平均的でも仕事が面白い会社」と「給料は高いが退屈な会社」では、前者の方が優秀な人材が長く活躍してくれるかもしれません。それだけ、社員の感情面を満たすことの効果は大きいのです。

もちろん、物的エンゲージメントが無意味というわけではなく、最低限の給与水準や待遇が整っていなければ社員の不満が高まるのも事実です。要はバランスが重要であり、「物理的満足度」と「心理的満足度」の両方を高めることが理想的だといえます。現実にはリソース(資金や制度整備)の制約もあるため、両立が難しい場合は思い切って心理的満足度の向上に注力すべきだ、という意見も専門家からは出ています。資本力で大企業に劣る中小企業ほど、物的インセンティブだけで勝負するのは困難です。その場合は、経営者自らが熱意を持ってビジョンを語り、社員の心を動かすことで物的ハンデを乗り越える努力が求められます。

結論として、社員エンゲージメントを高めるには**理的な満足度」(給与・待遇など客観的条件)をある程度確保しつつ、それ以上に「心理的な満足度」(理念への共感・仕事の誇り・成長実感など)を充実させる必要があります。特に現代のように価値観が多様化し変化の激しい時代では、社員が将来に希望を持てる明確なビジョンを提示し、その物語を共有することが欠かせません。経営トップの熱意やビジョン発信力が組織を動かす原動力となり、お金では買えないエンゲージメントを生み出すのです。

エンゲージメントサーベイの項目について

社員エンゲージメントを測定する方法の一つに「エンゲージメントサーベイ(従業員意識調査)」があります。これは社員にアンケートを実施し、企業への愛着心や忠誠心、仕事への熱意などを数値化してエンゲージメントレベルを把握する手法です。多くの企業で定期的に行われており、近年では短い頻度で繰り返し調査する「パルスサーベイ」を導入する例もあります。

代表的な調査として、米国Gallup社が開発したQ12と呼ばれるエンゲージメントの質問項目セットがあります。Gallup社は世界中で従業員エンゲージメント調査を行っており、その結果から「エンゲージメントが高い職場ほど業績や生産性が高い」といった知見も報告されています(日本は残念ながらエンゲージメントが特に低い国の一つとして知られています)。GallupのQ12では、以下のような12の設問に対する社員の回答を集計します。

  • 「あなたは仕事上で、自分に何が期待されているかを理解していますか?」
  • 「仕事をする上で必要なリソースや設備は十分に与えられていますか?」
  • 「毎日、最も自分の得意なことをする機会がありますか?」
  • 「直近1週間で、良い仕事をしたと認められたり褒められたりしましたか?」
  • 「上司や同僚は、あなたのことを気にかけてくれていますか?」
  • 「仕事上であなたを励まし、成長を支援してくれる人がいますか?」
  • 「職場であなたの意見は尊重されていますか?」
  • 「会社の理念や目標に誇りを感じますか?」
  • 「同僚は高い成果を目指して仕事に取り組んでいますか?」
  • 「職場に親友と呼べる人がいますか?」
  • 「過去半年で、自分の成長について誰かと話す機会がありましたか?」
  • 「過去1年で、仕事を通じて成長できたと感じますか?」

これらの質問への回答(5段階評価など)から、社員のエンゲージメント度合いを測定します。Gallupの調査では、「自分の会社を友人に勧めたいか」「会社にどの程度満足しているか」「今後もこの会社で働き続けたいか」といった項目で総合的なエンゲージメント指数を算出し、さらに仕事への熱意(エンゲージメントレベル)やエンゲージメントのドライバー要因も分析します。例えば、仕事への熱意を測る指標としては「自分の仕事に誇りを感じるか」「仕事中に時間を忘れるほど没頭するか」などが用いられ、エンゲージメントのドライバー(原動力)として「組織的要因(人間関係・職場環境)」「職務要因(仕事の裁量度や難易度)」「個人要因(本人の資質)」の3区分で評価する手法が知られています。

もっとも、エンゲージメントサーベイは社員の傾向を大まかに掴む参考データに過ぎないとも言われます。調査結果の数字だけ見ても、それを具体的な組織運営にどう活かすかが肝心です。例え

得られたなら、その背景に何があるのか(仕事が単調なのか、目標が共有されていないのか等)を現場でヒアリングし、改善策につなげる必要があります。

実際、エンゲージメントサーベイの設問は前述のとおり主に「動機づけ」や「満足度」に関する項目ですが、職場で社員のエンゲージメントを醸成するにはそれだけでは測れない要素もあると指摘されています。たとえば「チームで大きな目標に挑戦し、成功や失敗を共に経験する」といったストーリーが、社員同士の絆や達成感を生み、深いエンゲージメントにつながることがあります。こうした物語性や困難の共有はアンケート設問からは読み取れない部分であり、本質的にエンゲージメントを高めるにはそうした職場での体験が欠かせないという見解です。

要するに、サーベイ結果はスタート地点に過ぎず、大切なのは結果を踏まえて具体的に職場やチームをどう改善するかです。そのためには、サーベイ後に経営陣や管理職が率先して社員と対話し、ボトムアップのコミュニケーションを活性化させていくことがポイントとなります。

従業員エンゲージメントと社員満足度やロイヤリティとの違い

前述したように、エンゲージメントとよく比較される概念として社員満足度や従業員ロイヤリティがあります。これらはいずれも社員の企業に対する態度を測る指標ですが、厳密にはエンゲージメントとは異なります。

社員満足度(ES)

その企業で働くことにどれだけ満足しているかを示す尺度です。アンケートでは「給与や福利厚生に満足しているか」「仕事量や働き方に不満はないか」「上司や同僚との関係は良好か」等を問います。満足度調査は社員の不平不満を洗い出すには有効ですが、「なぜ満足(不満)なのか」までは明らかにできません。極端な例として、社員が「給料が高いから満足」と答えた場合、その人が仕事にやりがいを感じているかは不明です。実際、社員満足度は企業業績と必ずしもリンクしないとも言われ、満足度が高くても生産性向上につながらない場合があります。一方、エンゲージメントは満足の理由となる内面的要因(意欲・愛着心)に焦点を当てるため、業績への影響度が高いと考えられています。

従業員ロイヤリテ

社員が企業に対してどれだけ忠誠心を持ち、従い続けようとしているかを測る概念です。ロイヤリティは上下関係を前提とすることが多く、「何らかの理由でこの会社に尽くそう(離れないでいよう)」とする気持ちです。ただしアンケートでは「忠誠心があるか」自体を問うだけで、その背景理由(例えば家族を養うため安定が必要だから等)は問いません。ロイヤリティが高い社員は離職しにくいですが、それが愛社精神によるのか、他に選択肢がないからなのかは区別が難しい点があります。

従業員エンゲージメント

社員満足度やロイヤリティと異なり、社員の内から湧き出る感情的・感覚的な情熱を基に、企業とのつながりの強さを測る指標です。合理性や社会的圧力ではなく、「社員が純粋にこの会社で働きたいと思っているか」が源泉になっている点が大きな違いです。数値化しにくい定性的な要素ですが、だからこそ給与をいくら上げても得られない本当の活力を生み出す源とも言えます。

言い換えれば、社員満足度やロイヤリティが「結果としての数字」なのに対し、社員エンゲージメントは「その背景にある想い」に着目しています。社員エンゲージメントが高まれば、たとえ給与が横ばいでも社員は没頭して働き、成果が出なくても粘り強く挑戦する姿勢を示すでしょう。一方、満足度やロイヤリティの数値だけに頼って社員をつなぎとめようとしても、それは砂上の楼閣になりかねません。たとえば給与水準だけを上げても、社員が仕事に意義を見いだせなければモチベーションは長続きしないでしょう。

したがって昨今は、「エンゲージメント>満足度・ロイヤリティ」という考え方が主流です。実際、エンゲージメントが高い組織ほど商品・サービスの品質向上や顧客満足度向上につながり、ひいては長期的な業績アップや株価上昇まで期待できるというデータもあります。単に数値化された満足度より、数値化しにくい充実感や貢献意欲こそが企業の活力源である、と肝に銘じる必要があるでしょう。

エンゲージメントを高めるメリット

ここまでエンゲージメントの概要を見てきましたが、ではエンゲージメントを高めると企業にとってどのような良いことがあるのかを整理しましょう。一般に言われるメリットは、社員のモチベーション向上、離職率の低下、業績の向上の3点です。さらに近年注目される優秀人材の確保についても触れておきます。

従業員のモチベーション向上

エンゲージメントが高まると、社員一人ひとりの仕事に対するモチベーションが向上します。組織とのつながりが強く、「自分は必要とされている」という感覚が芽生えることで、期待に応えようと自主的に努力し始めるからです。例えば、今まで受け身だった社員が「会社の役に立ちたい」と積極的に提案や改善に取り組むようになる、といった変化が期待できます。

モチベーション向上の好循環として、努力によってスキルが伸び成果が出る→成長を実感→さらに意欲向上というポジティブループに入ることもあります。また、仮にすぐ成果が出ない場合でも、エンゲージメントが高まっていればモチベーションを維持しつつ内省し、次の挑戦につなげようとする前向きな姿勢が生まれます。要するに、エンゲージメントは社員のやる気のエンジンを継続的に回す燃料となるのです。

競合他社の調査でも、エンゲージメント向上により各従業員が企業へ継続的に貢献する意思が高まることが報告されています。モチベーション高く長く働く社員が増えれば、生産性向上はもちろん、職場の雰囲気も良くなり新たなアイデアも生まれやすくなるでしょう。このように、社員エンゲージメントは企業の競争力の源泉とも言えるのです。

離職率の低下

エンゲージメントが高い状態では、社員の離職率が低下する傾向が明らかです。社員が仕事そのものや会社で働くことに価値を見出し、できるだけ長く在籍したいと考えるようになるためです。単に仕事上の付き合いだけでなく、企業に対する愛着心が高まることで「ここを辞めたくない」と思う社員が増えます。
離職率が下がれば、優秀な社員を社内に確保し続けられるという大きなメリットがあります。特にノウハウや経験を持つ中堅・ベテラン社員が定着することは企業にとって貴重です。逆に彼らが流出してしまうと、育成や採用に莫大なコストがかかるだけでなく、組織の学習効果も停滞してしまいます。そうした意味でも、人事戦略上エンゲージメントを高めることは非常に有用です。

さらに、離職率低下の波及効果として採用面での好循環も期待できます。エンゲージメントの高い社員は自社に愛着を持っているため、知人や友人に「うちの会社は働きがいがあるよ」と推薦してくれる傾向があります。いわゆるリファラル採用(社員紹介採用)の強化につながり、結果的に優秀な人材の確保にもプラスに働きます。このように、社内にエンゲージメントの高い社員が増えるほど、人が人を呼ぶ好循環が生まれ、人材面でも組織は強くなっていくのです。

企業の業績向上

従業員エンゲージメントの高まりは企業業績の向上にも直結します。社員が高いモチベーションと愛着心を持って仕事に打ち込めば、自然と商品・サービスの品質も高まるからです。品質の高い提供ができれば顧客の満足度やロイヤリティ(顧客エンゲージメント)も向上し、売上増加や長期的な収益向上につながります。

また、社員エンゲージメントが高い企業は組織変革への対応力やイノベーション創出力も高い傾向があります。社員が会社のビジョンに共感し、「自分ごと」として仕事に取り組むため、自発的に問題解決や新提案に取り組む文化が醸成されるからです。こうした社員の主体性は、変化の激しい市場環境でも企業が持続的に成長する原動力となります。

具体的な例として、日本ユニシスでは全社的なエンゲージメント向上に取り組み、組織状態の改善と業績向上の関連性を示すデータを公表しています。この企業では経営トップ自らがエンゲージメント向上に取り組み、従業員意識と業績の相関関係をデータで示すグラフを公開しながら改革を進めたとのことです。まさに「数字がエンゲージメント効果を証明した」好例と言えるでしょう。

さらに長期的には、エンゲージメントが高まることで企業の評判向上や株価上昇といった波及効果も期待できます。社員が生き生きと働く企業は外部から見ても魅力的に映り、投資家からの評価も高まりやすい傾向があります。実際、従業員エンゲージメントを重視することは人的資本経営の観点からも重要視され始めており、これをKPIに据える企業も増えてきました。

優秀人材の確保

先述の離職率低下の項で触れましたが、エンゲージメントを高めることは優秀な人材の確保にもつながります。現代は終身雇用が事実上崩壊し、報酬体系も実力主義に移行しつつある中で、特に優秀な人材ほど短期間でキャリアアップのため転職してしまう傾向があります。待遇だけのつながりでは他社に引き抜かれるリスクが常につきまとうわけです。

しかし、社員エンゲージメントが高まり待遇以外の強い絆(仕事へのやりがいや会社への愛着)ができれば、そう簡単には人材は流出しません。むしろ前述のように社員自身が採用の担い手となり、知人を紹介してくれるなど人材獲得面でもプラスに働きます。このためエンゲージメントは今や離職防止だけでなく「人的資本経営に欠かせない指標」とも言われています。

採用難の時代において、優秀層から「この会社で働きたい」と思われる組織であることは何よりの強みです。そのためには社員一人ひとりが自社の価値や意味を理解し、誇りを持って働いている状態を作る必要があります。実際、社員が自社を進んで広報するようになると、その職場のエンゲージメントは特別な施策をしなくても自然に高まるという指摘もあります。

以上のように、エンゲージメントを高めることは社員のやる気・離職防止・業績アップ・人材確保といった多方面に良い影響をもたらします。現代の上級管理職にとって、エンゲージメント向上施策は単なる福利厚生ではなく経営戦略上の投資と位置付けるべきでしょう。

エンゲージメントが上がらない原因

メリットが多いエンゲージメントですが、現実には社員エンゲージメントがなかなか上がらない企業も存在します。その違いは一体どこから来るのでしょうか。ここでは、一般的に指摘されるエンゲージメントが低迷する主な原因を4つ挙げます。

コミュニケーションの不足

最大の原因の一つが、経営陣・上司と社員とのコミュニケーション不足です。必要十分な情報共有や対話が行われないと、社員は会社の経営方針や目標を理解できず、一体感を持てません。。「自分は何のためにこの仕事をしているのか」が腹落ちしない状態では、エンゲージメントの土台である思い入れや愛着が育ちようがないのです。

特に日本企業では、「経営の重要情報はトップ層だけで決め、現場社員には詳細を説明しない」というケースが散見されます。しかしこれは社員のエンゲージメント低下を招く典型例です。情報が降りてこない組織では社員は不安や不信感を抱き、「どうせ上は現場のことなんて分かってくれない」という諦めが蔓延します。

逆に透明性の高い経営はエンゲージメントを大きく向上させます。著名な例として、投資会社ブリッジウォーターの元CEOレイ・ダリオは、社内アンケート結果を含むあらゆる情報を社員に公開し、経営上の不都合な事実も隠さず共有したそうです。その結果、社員は会社の問題点に敏感になり「自分がどう貢献できるか」を主体的に考えるようになりました。同時に、経営陣への信頼も高まり、組織全体のエンゲージメントが飛躍的に向上したと伝えられています。

要するに、双方向コミュニケーションの欠如はエンゲージメントの大敵です。対策として、経営陣や上層部はできる限り情報を開示し、社員と対話の場を持つようにしましょう。1on1ミーティングや社内SNSでの対話なども活用し、現場の声を吸い上げながらビジョンを共有することが重要です。

フィードバックの不足

適切なフィードバックがないことも、エンゲージメント低迷の一因です。仕事は一人で完結するものではなく、上司・同僚との相互作用で進めるものですから、上司からの評価や助言、同僚からの認識合わせや称賛が不足すると、社員は成長の機会を逃し、自分の立ち位置も分からなくなってしまいます。

フィードバックが乏しい職場では、社員は「自分は正しくやれているのか」「周囲は何を期待しているのか」が掴めず、ストレスを抱えがちです。特に若手社員などは、成長実感が得られないまま放置されるとモチベーションを大きく損ない、やがて会社への愛着も薄れてしまうでしょう。

その結果、エンゲージメントは高まるどころか低下し、社員と組織のつながりも希薄になります。対策として、上司と部下の定期的なフィードバック面談や、ピアフィードバック(社員同士のフィードバック)の仕組みを導入することが有効です。日常的にお互いの仕事ぶりに関心を持ち、良い点は称賛し、課題は建設的に指摘し合う文化を育てましょう。たとえ耳が痛い指摘であっても、言うべきことを伝えない沈黙は組織全体にとってリスキーです。「愛のある叱責」ができる環境こそ、社員を本当に成長させ、エンゲージメントを高める土壌となります。

目標の不明確性

目標やビジョンが不明確なことも重大な問題です。企業全体の目標はもちろん、各部署やチームで共有すべき目標が定まっていないと、社員は自分がなぜこの仕事をするのか分からなくなります。目的が見えないままではモチベーションが湧かず、仕事が単なる作業になってしまい、エンゲージメントも高まりません。

目標は行動の原動力です。したがって、解決策はシンプルで「明確な目標を設定し、関係者全員にきちんと説明・共有する」ことに尽きます。また「あなたの役割は目標達成に不可欠だ」と各人に伝え、存在を承認することも大切です。自分ごととして捉えられる目標があれば、社員は主体的に工夫し力を発揮してくれるでしょう。
最近ではOKRやノーススター・メトリクスなど目標管理の手法も注目されていますが、大事なのは「なぜその目標なのか」を腹落ちさせることです。目標設定の背景にあるビジョンや価値を伝え、一人ひとりがやりがいを見出せるよう意味づけする工夫が求められます。それが欠けると、目標が単なるノルマになってしまい逆効果です。

将来のキャリアが見えない

社員が自社で働き続けることでどんなキャリアを歩めるか見通せない場合も、エンゲージメント向上を阻害します。多くの社員はスキルアップや昇進など成長の機会を求めています。にもかかわらず、キャリアアップにつながる挑戦や訓練の場が不足していたり、将来のキャリアパスが不透明だったりすると、社員の働くモチベーションは下がってしまいます。特に優秀層ほど、自らの市場価値を意識しています。社内で成長できないと感じれば、社外に活路を求めてしまうでしょう。これを防ぐには、社員にスキルを伸ばせる仕事の機会や新しい役割へのチャレンジを提供することです。例えばジョブローテーションで視野を広げさせたり、社内公募制で新プロジェクトに応募できる仕組みを作ったりすると効果的です。

実際、ある社員が「管理職になりたくない、専門職として腕を磨きたい」と望むなら、その希望を叶えた方が本人のエンゲージメントは高まるでしょう。日本では以前「管理職にならないと評価されない」という風潮がありましたが、今やそれは時代遅れです。社員各自が最も能力を発揮でき、満足感を得られるポジションで活躍できるよう、柔軟にキャリアを設計する視点が必要です。

要するに、社員に「この会社にいれば将来こんな成長ができる」という具体的なビジョンを持たせることが、エンゲージメント維持には欠かせません。そのために、定期的なキャリア面談やスキル開発支援、社内公募や副業許可など多様な施策を組み合わせ、社員のキャリア不安を和らげましょう。社員が「ここで成長できている」「チャンスを与えてもらっている」と実感できれば、会社への感謝と愛着も自然と高まります。

エンゲージメントはどうすれば高まるのか?

以上のような原因が分かったとしても、現状をすぐに改善するのは容易ではありません。そこで次に、エンゲージメントがどうすれば高まるのかという根本的な仕組みについて考えてみましょう。エンゲージメント向上の基本となる視点を3つ挙げます。

物理的な満足度と心理的な満足度を高めなければならない

エンゲージメントを高めるには、前述した物理的(物質的)な満足度と心理的な満足度の両方に目を向ける必要があります。企業としては、まず一定水準の給与・福利厚生・働く環境を整えることが大前提です。近年では人的資本経営が叫ばれ、1人当たりの教育投資額や有給取得率などを対外的に公表する企業も増えています。これら物理的満足度は数値化・可視化しやすいため、競合他社や業界平均と比較されやすい面があります。結果的に、資本力や規模の大きい企業ほど高水準の物理的満足を提供でき、中小企業にはハンデとなりがちです。

しかし裏を返せば、ベンチャーや中堅企業が物理的条件だけで大企業に勝つのは難しいとも言えます。そこで重要になるのが心理的な満足度です。これは、社員が企業の理念・ビジョン・目標を共有し、共感できているかに関係します。共感を得られれば社員は仕事にやりがいと誇りを感じ、心理的充足が得られます。
逆に、例えば長らく市場が停滞している業界の企業などで明確なビジョンが提示されていないと、社員は会社の将来に不安を感じエンゲージメントを下げてしまうでしょう。

総じて、エンゲージメントを高めるには「お金をかけて物理的満足度を提示し、時代に合った理念・ビジョン・目標を設定して共有する」ことが必要だと言えます。理想を言えば物質面・精神面両方満たすのがベストですが、現実には難しい場面も多いでしょう。その際は、思い切って心理的満足度に集中すべきです。端的に言えば、「経営者がより明確に、理想や夢を熱く語る」ことです。

経営者の熱意こそがお金や資本に勝る社員の動機づけになり得ます。反対に物理的満足度が高くても心理的満足度が低ければ、社員は結局「お金のためだけに働く」状態になり、心が離れてしまいます。どんなコミュニティでも、究極的に成功を左右するのはリーダーの熱意と実行力であって、お金ではありません。

例えば、職場全体でプロジェクトが前進している手応えやお客様からの評価が感じられれば、仮に今すぐ給与が上がらなくても社員は「もっと頑張ろう」と思うものです。このように経営者の熱意と前進感が職場に行き渡ることが、エンゲージメント向上の鍵となります。

エンゲージメントは職場やチームの状態に直目するべき

社員エンゲージメントの高低には、その人が属する職場(チーム)の環境が大きく影響しています。個人の意識だけでなく、周囲の雰囲気やリーダーシップがエンゲージメントを左右するからです。したがってエンゲージメントを高めるには、社員がどんな環境で仕事をしているかを見直す必要があります。

特に集団単位(職場・チーム)の環境で重要なのは、その場を仕切るリーダーの存在です。チーム内のコミュニケーションの方向性はリーダーの舵取り次第でほぼ決まります。風通しの良い雰囲気を作れるか、互いを尊重し合える文化にできるかは、リーダーの力量と姿勢にかかっています。また、空気や風土といった目に見えないものはメンバーだけではコントロールが難しいため、裁量権を持つリーダーが適切に介入し、連携を促すことが欠かせません。


具体的な方法として、リーダー自らが1on1ミーティングや対話の場を率先して設けたり、互いを理解し合うためのディスカッション機会を用意したりすることが挙げられます。。社員同士が意思疎通を図りつつ良い空気を作れば、適度な緊張感と居心地の良さが両立した理想的な職場空間ができます。そうなれば必然的にエンゲージメントも高まっていくでしょう。

昨今ではプロジェクトごとにチームを編成し目的に応じて動く働き方が主流化しつつあります。このとき重要なのは、良い雰囲気を作れるリーダーをどれだけ確保できるかです。良いリーダーとは単にスキルが高いとか業績を出せるというだけでなく、日々長時間接していても信頼され、嘘をつかない人格を備えた人です。社員は最終的に、信頼でき正直で熱意あるリーダーを求めています。この信頼・誠実・熱意に比べれば、短期的な利益率や数字上の業績は二の次とも言えるでしょう。

現実問題として、良いリーダーを育て配置することは一朝一夕にはいきません。しかし、メンバーに表面的に取り繕わずありのままで接することから始めるのがリーダーシップの第一歩です。そうした信頼関係が築けてこそ、社員エンゲージメントも高まり、チーム全体が成果を出せるようになるのです。


エンゲージメントを高めるためには組織外の状態も重要

エンゲージメントの高低に関与するのは、会社内部の環境や人間関係だけではありません。実は社員の職場外での状況、例えば家族や友人からの評価・承認も影響を及ぼします。

例えば、海外では自分の勤める会社の良い部分や共感できる理念を家族に話すビジネスパーソンが少なくありません。そこで家族から「それは素敵な会社ね」「頑張っていて偉いね」といった承認・共感を得られると、その人は自己肯定感を高め、さらに会社への愛情や好意的な気持ちを強めます。要は、社員がプライベートで自社についてどう評価されているかも、エンゲージメントに影響するのです。第三者からの承認・共感は強力なパワーを持つため、社員の家庭環境や人間関係まで視野に入れ、必要なら良好になるようサポートすることもエンゲージメント向上策の一つと言えます。

もっとも、個人的領域に会社が踏み込むのはデリケートです。プライベートに干渉し過ぎるとハラスメントになりかねませんし、「周囲に会社のことを良く言え」などと指示するのもおかしな話でしょう。そこで考えられるのが、社員の良い面を会社側がオフィシャルな形で家族に伝える方法です。

幸い今はSNSが発達し、無料で社内の様子を外部に発信できます。もちろんプライバシーには配慮が必要ですが、多くの社員は自分の活躍を前向きに取り上げられることを嫌がらないものです。日々の業務にはたくさんのドラマがあるはずで、それをポジティブに表現し発信すれば、各社員がストーリーの主人公として描かれることになります。家族から見ても興味深い物語となり、感動や共感が伝われば、家族は社員(夫・妻、父親・母親)を

家族の絆が強まれば、社員の企業や職場への忠誠心は強制しなくても自然に高まるはずです。SNSで社内の物語をうまく発信できるかどうかは、多くの企業がまだ気づいていないエンゲージメント向上の戦略であり、今後ますます活用が望まれます。

要するに、社員のエンゲージメントを考える際には**「職場内」だけでなく「職場外の人間関係」**にも目を向けることが大切です。社員が家族から応援され誇りに思われるような存在になれば、会社へのロイヤリティもおのずと高まります。企業広報やインナーブランディング施策の一環として、社員とその家族をつなぐ情報発信も検討してみる価値があるでしょう。

エンゲージメントとエンプロイーエクスペリエンス

エンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience, EX)とは、社員が企業で経験するあらゆる体験価値を指す概念です。実は、社員のエンゲージメントの高低はこのエンプロイーエクスペリエンスと大きく関係しています。社員が入社してから退職するまでに経験する出来事——仕事のやりがい、人間関係、評価制度、福利厚生、働き方、心身の健康状態等——が総合されてエンゲージメントに影響を与えるのです。

ここでは、エンプロイーエクスペリエンスに関連してエンゲージメントが下がりやすいタイミングやエンゲージメントの源泉(根本要因)について考えてみます。また、組織全体の状況とインターナルコミュニケーションの重要性にも触れます。

エンゲージメントが下がる時期

エンゲージメントは常に一定ではなく、波があるものです。一度高まったからと言ってずっと維持されるわけでもなく、逆に低い状態が永遠に続くわけでもありません。例えば、若手時代には高いエンゲージメントを示していた社員が、中堅・管理職に昇進した途端にエンゲージメントが低下するといったことがよくあります。
特に初めて管理職になった時期は注意が必要です。現場でバリバリ手を動かしていた頃の充実感がなくなり、代わりに事務作業やマネジメント業務が増えてしまうと、仕事へのワクワク感が減退しがちです。「人を束ねる立場にはなったが、自分自身が何かを作り出している実感がない」という状況に陥ると、仕事の意義を見失いエンゲージメントが下がってしまいます。

しかし企業組織で働く以上、経験を積めば役割が変化していくのは避け難いものです。一般的に若手時代は現場で働き、中堅以降は管理側に回るため、人によっては業務がミスマッチになってしまうケースもあります。

一例として、優秀なプログラマーがマネジメント業務を苦手とし、「コードを書いている方が性に合う」と感じて管理職への昇進を断ることがあります。このような社員の場合、希望通りスペシャリストに特化させた方が本人のエンゲージメントの観点でも職場の生産性の観点でも有利なはずです。あえて管理職コースを拒否させてでも、その人が情熱を持てる仕事に集中してもらう方法も選択肢として考える価値があります。

日本企業では「管理職にならないと評価されない」という思い込みがかつてありましたが、それはもう時代遅れです。これからは、社員一人ひとりや各チームにとって最も効率よく機能を果たせ、満足感が得られる配置を考えて職場をデザインしていく必要があります。この点についてはチームビルディングの専門記事でも詳述されていますが、重要なのは「全員がマネージャーになる必要はない」という柔軟な発想です。専門職として輝ける人にはその道を、マネージャー適性のある人には経験を積ませ視野を広げる、といった個別最適化が求められます。

エンゲージメントの源泉

社員のエンゲージメントを左右する要因はいくつもあります。前述した管理職問題もありますし、企業の理念・ビジョン・方針への共感度合い、仕事への情熱・活力など、目に見えない感情的要因が関係してエンゲージメントの高低が決まります。

一言でエンゲージメントの源泉を表すなら、それは社員の感情です。たとえば、「仕事が楽しい・やりがいがある」と感じるのも感情ですし、企業に愛着を持つのも感情が起因しています。逆に「会社の方針に不満」「仕事がマンネリでやる気が出ない」といったネガティブな反応も感情です。つまり、社員からポジティブな感情を引き出せればエンゲージメントは高まり、ネガティブ感情が増えれば低下すると言い換えられます。

給与・待遇といった物理的報酬だけでエンゲージメントが高まらない理由の一つは、人が環境に慣れて飽きてしまうからです。子供の頃、喉から手が出るほど欲しかったオモチャも、いざ手に入れると1ヶ月もしないうちに飽きてしまった経験はありませんか?大人になって仕事においても構造は同じです。どんなに良い待遇でも、いずれそれが当たり前になるとモチベーション維持にはつながらないのです。

だからこそ、社員のエンゲージメントを高めるには社員と企業のつながりを強化する施策を打ち、ポジティブな感情=エンゲージメントの源泉をいかに引き出すかが重要になります。

組織の状況及びインターナルコミュニケーション

エンゲージメントが高まる条件の一つに**「職場環境が良いこと」**が挙げられますが、それだけでは不十分です。いくら風通しが良く人間関係が良好でも、企業全体の状況や理念・ビジョンが社員に適切に伝わり、共感を得ている必要があります。

また、給与や待遇についてもしっかり提示しておかなければなりません。先述のとおりエンゲージメントの源泉は感情面ですが、だからと言って物理的要因(報酬・待遇・地位など)を無視して良いわけではないのです。社員にも生活や家庭、キャリアなどのライフプランがある以上、ある程度の安心材料は必要です。

さらに、「隣の部署が何をしているか不明」「キャリアに関する情報提供がない」など組織全体で不透明性があると、社員は不安や不満を覚えエンゲージメントを低下させてしまいます。社内で部署間の連携や情報共有が乏しいと、自分の仕事が全体の何に貢献しているか見えにくくなり、意義を感じにくくなるのです。

これらを防ぐには、インターナルコミュニケーション(社内広報)を活性化させることが有効です。社内報や全社メール、社内SNSなど様々な手段で、企業の価値観・文化・理念・ビジョンといった抽象的概念から、給与改定やキャリア制度といった具体的情報まで、社員にしっかり伝えることが重要です。

特に経営理念を共有するインナーブランディングが機能すると、社員一人ひとりが仕事を自分ごと化して取り組むようになり、企業への「思い入れ」「愛着心」も強まります。その結果、エンゲージメントも必然的に高まっていくでしょう。

インナーブランディングを進める際も、従業員の感情に訴えかけるナラティブ・ストーリーテリングの手法が有効です。エンゲージメントは感情に起因するものなので、企業の理念やビジョン・目標をドラマチックに伝えると共感を得やすくなります。ただし効果的なナラティブを創るには、発信者側(経営者側)に美意識や文章力といったセンスも求められます。皮肉なことに、日本の経営者に最も欠けている資質がこの美意識・文学性ではないか、との指摘もあります。素晴らしい商品やサービスを持ちながら表現が下手で社員に意義が伝わっていない企業も少なくないのです。

経営者にはぜひ、自社の価値と意味を人の心を動かすイメージと言葉で社員・顧客・社会に伝えていってほしいと思います。これまでは広報部門が担っていたPRも、社員一人ひとりが広報のつもりで仕事をし、自社の良さを発信できるようになることが理想です。全社員が自社の広報担当という意識を持つ職場では、エンゲージメントは自然と高まり、離職率も大幅に低下するはずです。

エンゲージメントが高い組織と職場

エンゲージメントが常に高くキープされている組織・職場には、それ相応の理由があります。前述のエンゲージメント向上の要点を踏まえ、社員に対して適切な環境を提供していることがポイントですが、それは具体的にどのような環境設定なのでしょうか。本章では、エンゲージメントを向上させる組織とエンゲージメントを向上させる職場チームの特徴、そして仕事への「ワクワクする意味づけ」について見ていきます。

エンゲージメントを向上させる組織

まず組織全体の観点からですが、前述のとおり物理的な報酬だけではエンゲージメントは高められないと述べました。しかし、だからと言って給与・待遇が全く関係ないわけではありません。明らかに競合他社より見劣りする給与水準だったり、福利厚生が最低限すら整っていなかったりすると、社員のエンゲージメントが低下する原因になり得ます。したがって、まずは他社並みかそれ以上の一定水準の給与・待遇を維持しておく必要があります。

その上で近年注目すべきは、テクノロジーの進化・浸透による仕事の質的変化です。生成AIに代表される技術革新でルーティンワークは自動化が進み、社員が担う仕事は企画や創造性といった頭を使う業務にシフトしつつあります。このような知的労働はやりがいを生みやすく、仕事をゲームのように楽しむ感覚を社員に与えてくれます。実際、こうした労働環境の変化に柔軟に対応できている企業は、社員エンゲージメントが高い傾向があります。単調な作業に追われるより、創意工夫が求められる仕事の方が、人は没頭しやすく満足感を得られるものです。

エンゲージメントの高い職場では、一種の**「ゲーム性」**が不可欠だとも言われます。つまり、次に何が起きるか予想しながら、当たれば喜び、外れれば反省し…と、常に目的意識を持って仕事に取り組み、それをチームで共有しているような職場です。そういう環境では、誰に強制されなくても社員は楽しんで仕事に没頭し、結果的にエンゲージメントが高い状態になるはずです。

人は誰しも子供の頃、ゲームにワクワクした記憶があるでしょう。そして大人になっても、そのワクワク感自体は心の中に残っています(忘れているだけで、きっかけがあれば蘇ります)。仕事をある意味ゲームに変えていくこと、不確実な現実に対してゲーム感覚で立ち向かうこと——これらがワクワクする職場を創りだす源泉です。

例えば、子供の頃に友達と競争ゲームをしたように、営業で受注が取れれば皆で喜び、競合に負ければ皆で肩を落とすといった感情の起伏をうまく仕事に結び付けるマネジメントが理想でしょう。「いかに社員の感情を仕事というゲームに一喜一憂させるか」こそ、人事・マネージャーの腕の見せ所です。社員のエンゲージメントを下げる第一の元凶は慣れや飽きです。人は環境に慣れると刺激が無くなり、飽きると人間関係もつまらなく感じてしまいます。

これを防ぐために経営者は、新しいゲームを導入したりメンバーを入れ替えたり目標を変えたりして、常に仕事に新鮮さと適度な緊張感を生み出すべきです。そのためには、「今の世の中で新しいとは何か?」「何が人の心を捉えているのか?」という情報に経営者自身が人一倍敏感になり、社員に先駆けて世のトレンドを仕事に取り入れていく必要があります。従来の感覚や経験だけに頼らず、時流を読んだ経営判断が求められるのです。

エンゲージメントを向上させる職場チーム

次に、組織内のチーム単位で見た場合です。チームによってもエンゲージメントに差がありますが、、特に関係しているのはチーム内の人間関係と管理の仕組みです。

まず人間関係について、、エンゲージメントが高いチームはリーダーと各メンバーの1対1の信頼関係だけでなく、チーム全体でコミュニケーションが取りやすい環境を作っています。場合によっては、リーダーがいなくてもチームが自走できる状態(メンバー同士が補完し合って機能する状態)を整えている傾向があります。。つまり、リーダー対個々の信頼関係に加え、メンバー同士が信頼し支え合う関係性構築を優先し、お互いを理解・サポート・フィードバックし合う協働関係を育む場作りを行っています。

また、エンゲージメントの高いチームのリーダーは、適材適所の配置換えを柔軟に行えることも特徴です。そうしたリーダーは様々な部署で経験を積み視野を広げ、人脈を築いていくことができます。この意味で、複数の部署でリーダー経験を積み広い視野を持った社員を揃えることが、会社全体の底力になります。従来の日本企業では一つの分野を極めた専門畑のリーダーが重宝されましたが、今やそんな時代は終わりました。

経営者も、リーダーには色々な経験をさせ人脈を広げてもらうよう機会を設定すべきです。リーダーも社員もフレキシブルに、集まっては離れを繰り返しながら、その時々の目的に応じて俊敏に成果を出せる職場こそ良い職場です。要はアジャイルなチームビルディングを可能にするには、リーダー人材の厚みがカギだということです。

さらに、エンゲージメントが高いチームは**「必要以上の管理」を行わないことも特徴です。各社員を一人の自立した存在として扱い、自己判断・自己決定の裁量権を委ねることで、社員が自主的・主体的に仕事に参加している意識を持てるよう促しています。過干渉に管理せず信頼して任せることで、社員はオーナーシップ**を感じて取り組むようになるのです。

先述のエンゲージメントサーベイの活用でも触れましたが、サーベイ結果はあくまで傾向を知る参考にすぎません。肝心なのはそれを踏まえ、具体的にエンゲージメントを意識したチーム運営を行うことです。そのためにはリーダーと社員、社員同士の適切なコミュニケーション活性化が欠かせません。例えば、定期的なチームミーティングで率直な意見交換をしたり、部門を超えた交流を図ったりすることです。そうした地道な取り組みが信頼関係を強め、結果としてチームのエンゲージメントを底上げします。

ワクワクする意味づけとチームの在り方

エンゲージメントを高めるには、仕事に対する意味づけを行うことも大切です。つまり、担当する課題や責任に対して「ワクワクするような意味」を持たせ、その仕事に取り組む意義ややりがいを刺激することです。

課題・責任への意味づけがうまくいくと、各部署やチームのリーダー・管理職全員が適切な方向でリーダーシップを発揮できるようになります。全てのリーダー・管理職がそれぞれの集団内はもちろん、部門やチーム同士の連携においても信頼関係を築ければ、組織全体のパフォーマンスも高水準になるでしょう。

さらに、部署・チーム全体のパフォーマンスが向上すれば成果も出やすくなり、社員各自のエンゲージメントも高まるという好循環が生まれます。小集団単位(チーム)のパフォーマンス・エンゲージメントが向上すれば、企業全体の事業や経営にも好影響を及ぼすため、意味づけによるチームの在り方はビジネス上非常に重要な要因と言えます。

例えば、「ただのコピー取り」という作業に何の意味づけもなければ、やらされる社員にとっては退屈で無意味な仕事に感じられるでしょう。一方で、コピーを取る社員に対してその資料の重要性やコピー品質の意義が周知徹底されていれば、同じ作業でもミスをしないよう注意を払ったり、より見やすいコピーを工夫したりといった問題意識が生まれてきます。

大事なのは、社員一人ひとりに価値が伝わっているか?物語が共有されているか?という点です。ワクワク感を生み出すものこそ価値であり物語です。経営者は自社の仕事の価値と物語を絶えず社員に語りかけ、エンゲージメントを高めていくべきでしょう。

仕事の内容は時代とともに変わっていきます。価値や物語も固定的ではありません。経営者は常に、これまでとは違う新たな価値や物語を社員に語りかけていく努力を忘れてはなりません。そうすることで、社員は自分の仕事に新鮮な意味を見出し続け、長期にわたって高いエンゲージメントを維持できるのです。

エンゲージメントを向上させる施策

最後に、具体的にエンゲージメントを高めるための施策についてご紹介します。ここまで述べてきたように、エンゲージメント向上には組織文化やマネジメントの工夫が重要ですが、現場で取り組める施策もいくつかあります。特別なスキルは不要ですが、経験や慣れが必要なものもありますので、状況に応じてアレンジしながら実践してみてください。

課題や業務の再意味づけ

毎日同じような業務やプロジェクトが続くと、社員はどうしても惰性に陥りがちです。徐々に仕事の目的や意義を見失い、それと同時にエンゲージメントも低下してしまいます。このようなマンネリ状態を打破するには、仕事上の課題や業務に対して再意味づけを行うことが有効です。

具体的には、、今取り組んでいる業務に新たな課題や目標を設定し、ナラティブ(物語)やストーリーテリングの手法を用いて「その課題を解決することの目的・意義」を説明するのです。
ナラティブ・ストーリーテリングとは、物事を物語性を持って語ることを指します。。要するに、一旦社員が抱いている「この仕事は退屈だ」「自分は成長していない」というネガティブな印象を受け取り直し、同じ状況に対してドラマチックな物語性を持ったポジティブな意味づけを与えるやり方です。これによって、眠っていた熱意・共感・やりがいといった感情を引き出すことができます。例えば、「このルーティン業務も社会全体を支える重要な一部なんだ」「この単調な作業を極めればプロとして成長できる」など、新たな視点で語り直すのです。



たとえば、毎日同じような業務が続いてやる気が出ないと嘆いている従業員がいたとします。「なぜそう思うのか?」と質問すると、「成長の実感がない」といったネガティブな理由を語ったとしましょう。これに対し「仕事の成長ポイントは自身で見つけていくものだ」「繰り返しの中で自分なりの小さな変化を起こすことも大切」といった、まったく別のポジティブな課題・業務の再意味づけを、物語性=感情や共感に訴えかける言い回しで伝えるやり方です。

ナラティブ・ストーリーテリングを用いた再意味づけは、社員の感情に訴えかけるため、エンゲージメント向上にも有用な方法です。実際、毎日同じ業務でやる気が出ないと嘆く社員がいたとします。その理由を尋ねると「成長の実感がない」とネガティブな思いを語ったとしましょう。これに対し、「成長ポイントは自分で見つけるものだよ」「繰り返しの中にも自分なりの小さな改善を起こすことが大切だ」といったまったく別のポジティブな再意味づけを、物語性=感情や共感に訴える言い回しで伝えるのです。

このような対話を通じて社員の視点が変われば、「確かにそうかもしれない」と気づきが生まれます。すると眠っていた情熱が再点火し、「次はこう工夫してみよう」「小さな進歩を自分で作ってみよう」という前向きな行動につながるのです。こうした感情面へのアプローチは、一見遠回りに見えて実は最も着実にエンゲージメントを高める道と言えます。

また、職場に常に新しい風を吹き込むことも重要です。目の前の仕事自体は昨日と同じかもしれませんが、社会が変化すれば仕事の意味や価値も変わっていきます。経営者だけでなく社員も、日々の仕事に没頭するだけでなく時事問題やニュースに敏感であることが不可欠です。新しい情報やトレンドに触れることで、「今自分たちの仕事にはこんな意味が出てきた」と再解釈する材料が得られます。それをチームで共有し仕事に新鮮な意味を付与し続けることが、長期的なエンゲージメント維持には大切なのです。

コミュニケーションスキルの向上と信頼関係

従業員同士のコミュニケーションスキルを高め、上司と部下・同僚同士の信頼関係を構築することも、エンゲージメント向上には欠かせません。仕事は一人では完結せず、他者との連携や関係性の上に成り立っています。そしてこの人間関係は、従業員のエンゲージメントにも直結しています。

どんなに立派な理念・ビジョン・目標を掲げていても、社内の人間関係がうまく機能していなければ、社員が企業や仕事に「思い入れ」や「愛着心」を抱くことは難しくなります。逆に言えば、人間関係のストレスや不安があると、どれほど意義ある仕事でも心から没頭するのは難しいでしょう。したがって、エンゲージメントを高めるためには他の施策と併せて社員のコミュニケーション能力向上施策にも取り組むことが大切です。

具体的には、社内でコミュニケーション研修を実施したり、外部の研修プログラムに社員を参加させたりする方法があります。社内で行うと講師手配や時間確保にコストがかかるため、通常業務を圧迫しないよう社外の研修を活用するのも一案でしょう。たとえば「ビジネスコミュニケーション講座」や「1on1ミーティングスキル研修」など、各種プログラムが用意されています。これらを通じて傾聴力や対話力、フィードバック力といったスキルを社員全体で底上げすれば、職場のコミュニケーションは確実に円滑になります。

もちろん形式的な研修だけでなく、日々の業務の中で「相手の話をよく聞く」「誠実にフィードバックする」といった姿勢をリーダー自ら示すことも重要です。コミュニケーションは双方向のキャッチボールですから、上司から部下への一方通行にならないよう注意しましょう。社員同士が気軽に意見交換でき、問題があれば言い合える関係を作ることが、心理的安全性の確保にもつながり、エンゲージメントを下支えします。

インターナルコミュニケーション

社内コミュニケーション全般の活性化も、エンゲージメント向上には欠かせません。特に、企業・組織の理念・ビジョン・目標など経営方針全般を従業員に共有し、納得と共感を持って仕事に取り組んでもらうことが望ましいです。このために有効なのが、インターナルコミュニケーション施策です。
インターナルコミュニケーションとは、社内向けの広報活動や情報発信を指します。例えば、社内報や社内SNSで経営メッセージを発信したり、全社集会でビジョンを説明したりすることがこれに当たります。これらを通じて経営理念のインナーブランディングが機能すると、社員一人ひとりが仕事を自分ごととして捉えるようになり、組織への「思い入れ」「愛着心」も強まります。その結果、エンゲージメントもおのずと高まっていくでしょう。

さらにインナーブランディングを促進する際にも、前述したナラティブ・ストーリーテリングの手法が有効です。エンゲージメントは感情に影響されるものですから、ドラマチックに理念やビジョンを伝えることで共感を得やすくなります。例えば、新たなビジョン策定の裏話や、それに懸けるトップの想いを物語仕立てで共有する、といった工夫です。数字や理屈だけでなく心に訴えるメッセージが社員の魂を揺さぶり、エンゲージメントを引き上げてくれるでしょう。

ただし、効果的な物語を紡ぐには発信者側にセンスが必要という点も忘れてはなりません。経営者や広報担当者には、ある程度の審美眼や文章力が求められます。「良いモノを作っているのに表現が下手で社員に意義が伝わらない」というのは非常にもったいない話です。最近ではビジネスにアート思考を取り入れる動きもありますが、経営者自身が美意識やストーリーテリングの素養を磨くことが、最終的にはエンゲージメント向上につながると考えられます。

さらに、全社員が広報マンになる意識を醸成することも効果的です。これからの時代、企業広報を専任部署に丸投げするのではなく、社員一人ひとりが常に「自社の価値を伝える」意識で仕事をするべきだという考え方があります。実際、そのような企業ではエンゲージメントが特別な施策なしに高まり、離職率も大きく低下するはずだと指摘されています。

社員が自社のファンであり伝道師になる——これは究極のエンゲージメントが実現した姿と言えるでしょう。その境地を目指し、インターナルコミュニケーションを戦略的に展開していくことが、これからの企業には求められます。

まとめ

エンゲージメントは、単に報酬・待遇・地位といった物理的なものを提供するだけでは高められません。社員の内面(特に感情)がやる気の源泉となっていることを踏まえ、企業・組織・仕事に対して「思い入れ」や「愛着」を持ってもらう必要があります。エンゲージメント施策をすでに取り入れている企業も、これから検討する企業も、本記事で述べた内容を基にエンゲージメントへの理解を深め、適切な施策によってエンゲージメントを高めていただければ幸いです。

併せて、経営者自身の発信力や現場との対話、社員の主体性といったソフト面にも目を向け、組織全体でエンゲージメント文化を育んでいきましょう。社員が心から誇りと愛情を持てる企業となれば、優秀な人材が集まり、組織の潜在力は最大限に引き出されるはずです。エンゲージメント向上への旅路は、企業にとって人と組織を活性化する道に他なりません。その一歩一歩を着実に踏み出していきましょう。

検索

  • カテゴリ
  • 部門
  • ランキング
  • タグ

検索

BLOG

おすすめの記事