リーダーの役割とコミュニケーション能力とは?最新研修事例と必須スキル
最終更新日:2025.09.19

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どんなチームにもリーダーは存在し、その力量によってチーム全体の成果が左右されるといっても過言ではありません。リーダーに求められる役割は実に多岐にわたり、リーダー自身が総合的に成長しなければチームの生産性向上は望めないでしょう。その中でも特に重要とされるスキルがコミュニケーション能力です。リーダーは単に命令を下すだけでなく、日々の対話や情報共有を通じてメンバーを導かなければなりません。
実際、エン・ジャパン株式会社の調査(回答者1,838名)では、上司・部下間のコミュニケーションに課題を感じていると7割が回答しており、職場のコミュニケーション改善は多くの企業で重要課題となっています。ここでは、広義の意味でのリーダー像ではなく、職場やプロジェクトにおけるリーダーに求められる具体的な役割とコミュニケーション能力について、最新のデータや研修事例を交えながら解説していきます。
リーダーとは?
リーダーとは、組織の目的達成や課題解決に向けてチームを先導し、メンバーをまとめる役割を担うビジネスパーソンのことです。正式に任命された肩書き上のリーダーであっても、その人物が十分なリーダーシップを発揮できるかどうかによって組織全体の成果は大きく変化します。一般にリーダーシップ論にはSL理論、PM理論、サーバントリーダーなど様々な理論がありますが、理論が多岐にわたるため「結局何をすれば良いのか分からない」という声も少なくありません。
そこで本記事では、そうした抽象的な理論ではなく現場における具体的なリーダーの役割、特に実践的なコミュニケーション能力に焦点を当てて解説します。
リーダーは組織目標の達成に向けてメンバーを導く存在であり、単なる肩書きではなく実質的な影響力が求められる。
リーダーシップに関する様々な理論があるが、現場では部下とのコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、目標に向かって推進する力が重要となる。
リーダーの役割
リーダーの役割は「ただ業務を割り振るだけ」ではありません。実際にはプロジェクト管理から人材育成まで多岐にわたります。ここからは、リーダーに求められる具体的な役割を順に解説していきます。それぞれの役割を全うする上で、いかにコミュニケーション能力が鍵となるかにも注目してください。
プロジェクト管理と進捗の演出
プロジェクト管理は、各プロジェクトを統括しチームを目標達成に導くリーダーの基本的な役割です。ただし「進捗管理」というと、単にエクセルの進捗表にタスクの状況を書き込む作業を想像するかもしれませんが、それだけでは不十分です。リーダーはプロジェクトの進行状況や部下のタスクを把握した上で、メンバーに「一歩一歩前進できている」という実感を持たせるコミュニケーションを取る必要があります。
著名な研究者テレサ・アマビールは著書『マネジャーの最も大切な仕事』で、進捗状況を適切に伝え前進感を与えることがメンバーのモチベーション維持に不可欠だと述べています。リーダーが定期的に進捗を確認し、達成した点をフィードバックして称賛や是正を行うことで、メンバーは小さな達成感を積み重ねながら高いパフォーマンスを維持できるのです。
要点:プロジェクト管理におけるリーダーの役割
単なるタスク管理ではなく、メンバーに「確実に前進している」ことを実感させるフィードバックを行う。
適切なフィードバックや1on1ミーティング等を通じてメンバーの不安を解消し、達成感を醸成することでチーム全体の生産性を向上させる。
高い目標の設定とモチベーションのジレンマ
目標設定もリーダーの重要な役割の一つです。チームやプロジェクトの目標を明確に掲げ、メンバー全員の認識を揃えることで、組織は同じ方向へ力を合わせやすくなります。ただし注意したいのは、あまりに論理的で整然とした「スマートな目標」を立てるだけではメンバーの心が動かない場合があることです。紙の上では完璧な中長期計画や数値目標も、メンバーにとっては「やらされ感」を生む恐れがあります。
「できそうだ」「面白そうだ」「自分にも関係ある」と感じられるような、メンバーの感情に訴える目標設定やビジョン共有も必要です。論理的な目標を全体からブレイクダウンする過程で、各人の自主性や仕事の意義との間にギャップ(ジレンマ)が生じないよう、リーダーは丁寧に合意形成を図りましょう。また一度目標を設定した後は、権限移譲によってメンバー各自が主体的に動ける環境を作ることも大切です。メンバーが自分で設定した目標や役割をクリアしていく成功体験を積めば、チーム全体として高いモチベーションを維持できるようになります。
不確実な環境下で確実な計画を作成して実行する
変化の激しいビジネス環境において、具体的で実行可能な計画の策定もリーダーの重要な役割です。KPIを達成するために一般的にPDCAサイクルを回しますが、その前提として5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を明確にし、チーム内で共有・可視化することが欠かせません。計画が明文化され皆に共有されること自体が、チーム全体の認識合わせという大事なコミュニケーションになります。
進捗が思わしくない時にリーダーが頭ごなしに「何とかしろ」と命令するのは逆効果です。リーダーの権限を活用して必要な人員や資源を社内外から確保し、チーム全体で問題に対処する時間と余裕を作り出すなど、環境を整備しましょう。また計画の遅れや想定外の問題が起きた際も、リーダー一人で抱え込まず「チーム全体の学習機会」と位置づけて共有することが重要です。失敗がつきもののプロジェクト遂行では、リーダーは常に問題を分析し、従来にとらわれないラテラルシンキング(水平思考)で解決策を提示する姿勢が求められます。
チームを組織するとは風土を創る事
リーダーはチームの風土(カルチャー)を形作る存在でもあります。毎日の業務の中で、メンバーの言動や感情の積み重ねから職場特有の「暗黙の規範」や雰囲気が生まれますが、その雰囲気に最も大きな影響を与えるのがリーダーです。リーダーの日頃のコミュニケーションスタイル、振る舞い、意思決定パターンが職場の文化を方向付けます。特に、普段関わりのない部署のメンバー同士で構成されるプロジェクトチームの場合、リーダーが率先してコミュニケーションを図り、メンバー同士の距離を縮めて心理的な安全基地を築くことが欠かせません。
近年注目される心理的安全性(メンバーが失敗や意見表明を恐れず安心して発言できる状態)は、生産性が高いチームの重要条件だとGoogle社の大規模調査でも判明しています。リーダーは積極的に対話の機会を設け、メンバーが互いに尊重し合い何でも言い合える風土を創ることで、結果として離職率の低下やイノベーション創出など組織全体の成果向上につなげることができます。
部下の模範となり部下と伴走する
リーダー自身が模範を示し、時に部下とともに走る(伴走する)ことも重要な役割です。リーダーのコミュニケーションは職場全体のコミュニケーション風土に強く影響するため、まずリーダー自身が部下の手本となる行動を心掛ける必要があります。昔は「リーダー=現場で最も経験やスキルがある人」である場合が多く、率先垂範すれば部下の良い手本となりました。現代では必ずしもリーダーが専門的経験で部下より勝っているとは限りませんが、だからこそ部下と一緒に現場課題に向き合う伴走型の関わりが求められます。
リーダーは状況に応じて自ら雑務を引き受けて部下の負荷を下げたり、他部署からリソースを調達したりと、メンバーのために縁の下の力持ちとなる覚悟が必要です。そうした共に走る姿勢そのものが、リーダー自身が掲げる目標へのコミットメントや当事者意識の表れとなり、メンバーにも良い影響を与えます。
人材育成は啐啄同時で
リーダーには、メンバーという「人財」を育成する役割もあります。各メンバーの個性や強み・弱み、将来のキャリア志向を把握し、長所を伸ばし短所を補う機会を提供するのもリーダーの務めです。そのためには定期的な1on1面談や日頃の何気ないコミュニケーションを通じてメンバーをよく知ることが欠かせません。また単にプロジェクトの業務を管理するだけでなく、部下の成長を促すことにも注力すべきです。
リーダーならではの人材育成の考え方として「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。これはヒナが内側から殻をつつくタイミングに親鳥が外側からつついて殻を破るように、教える側(リーダー)と学ぶ側(部下)の絶妙なタイミングを指す禅の言葉です。メンバーが困難や課題を自力で乗り越えようともがいている時に、リーダーがタイミング良く声をかけコミュニケーションを取ることで、大きな気づきや学びを引き出すことができます。
そのためには平時から部下の状況にアンテナを張り、悩みや成長の兆しを見逃さずキャッチする姿勢が必要です。リーダーは喜怒哀楽を伴う人間味あるコミュニケーションで日頃から部下と接し、いざという時に啐啄同時の好機を逃さず成長の支援を行いましょう。それによって部下は業務経験から貴重な学びを得て、大きく成長していくのです。
モチベーションの維持と喜怒哀楽
部下のモチベーションを高く維持することもリーダーの重要な役割です。どれほど優れた計画や体制があっても、メンバーのやる気が低ければプロジェクト成功はおぼつきません。部下のモチベーションが落ちていると感じたら、リーダーは積極的にコミュニケーションを図り、士気を高めるための働きかけを行うべきです。
現代のビジネスでは、イノベーションや競争優位を生み出す源泉は突き詰めれば「ヒト(人的資本)」です。優秀な人材が高い意欲で協力し合えば大きな成果を出せますが、逆に人材の意欲が低下すれば組織の力は発揮されません。合理的な業務目標の達成だけでなく、人間的・精神的な側面への配慮がモチベーション維持には不可欠です。仕事上の目標(合理的側面)とメンバーの感情や信頼関係(精神的側面)を結びつけ、両面からアプローチすることがリーダーに求められます。
そして両者をつなぐものこそコミュニケーションです。リーダーは日常的にメンバーと対話し、時には雑談や相談に乗ることで喜怒哀楽を共有できる関係を築きましょう。部下が悩みや問題を抱えていても、コミュニケーションを取らなければ気付けないことが多々あります。リーダーは常に部下が相談しやすい雰囲気を作り、声をかけやすい存在でいることが肝心です。業務目標の達成ももちろん大命題ですが、その過程でメンバーのモチベーションを維持するには、仕事以外の人間的側面での支え合いが重要になります。
リーダーシップを発揮する為のコミュニケーションスキル
ここまでリーダーの様々な役割を見てきましたが、その根底には一貫してコミュニケーション能力が必要であることが分かります。実際、「リーダーシップ=コミュニケーション」と言っても過言ではありません。現代の企業ではリーダーの仕事は現場の細かな実務よりも問題解決や意思調整に多くの時間が割かれています。部下の声に耳を傾け、経営層へ課題を提言し、部署間の調整を行う──これらはいずれもリーダーの重要な役割ですが、その発揮形態はコミュニケーションなのです。
つまり現場におけるリーダー業務の本質は人と人との対話や情報伝達であり、コミュニケーション能力が不足していると会議運営の失敗やハラスメント、部門連携の不全など様々な問題が生じます。しかし日本企業では新入社員や若手向けのコミュニケーショントレーニング機会は多い一方、管理職以上には理論研修が中心で実践的なコミュニケーション教育が不足しがちだとも指摘されています。その結果、会議が建設的に進まない、パワハラ・セクハラといった問題が起こる、部署間の情報共有が滞る等、リーダークラスのコミュニケーション力不足が要因と考えられる課題も散見されます。リーダーは自らのコミュニケーションスキルを客観的に見直し、必要な能力を磨いていくことが求められます。
例えば、ある研修プログラムではリーダーに求められるコミュニケーションを5つの場面に分類し、それぞれに沿ったケーススタディやロールプレイングを通じてスキル強化を図っています。その5つとは ①部下・後輩の意識を変えるコミュニケーション、②業務遂行を支援するコミュニケーション、③未知の業務にチャレンジさせるコミュニケーション、④部下・後輩のモチベーションを高めるコミュニケーション、⑤組織の接点としてのコミュニケーション です。これらは日々のマネジメントでリーダーが直面しがちな場面であり、まさに上述してきた役割(ビジョン共有・業務支援・挑戦促進・意欲向上・部門間調整)に対応しています。このような研修事例からも分かるように、効果的なリーダーになるためにはシチュエーションごとに適切なコミュニケーション手法を身につけることが肝要です。
以下では、リーダーが現場で発揮すべき具体的なコミュニケーションスキルや手法をいくつか紹介します。それぞれのスキルがどのようにリーダーシップ発揮につながるかを理解し、日頃から実践してみましょう。
リーダーシップ=コミュニケーションと言っても過言ではありません
前述の通り、リーダーシップの発揮にはコミュニケーション能力が不可欠です。米国の経営学者ヘンリー・ミンツバーグの古典的調査でも、管理職・監督職・プロジェクトマネジャーなど組織のリーダーは日々の業務の大半を調整・交渉・説得といった対人コミュニケーションに費やしていることが明らかになっています。リーダーは現場社員の声に耳を傾け、上層部に問題提起し、部署間・上下間の人間関係を取り持つ──そうしたハブとして機能しているのです。
その意味で「リーダーシップ=コミュニケーションスキル」と言えます。逆に言えば、コミュニケーションの質が低いとリーダーに関する問題(意思疎通のズレ、チームの不和など)が集中して発生してしまいます。したがってリーダーは自身のコミュニケーション力を磨き続け、チーム内外で円滑な情報共有と意思疎通を図る必要があります。
対話
対話(ダイアログ)は、互いの立場や意見の違いを理解し、認識のズレを埋めることを目的としたコミュニケーション手法です。一見会話をしているようでも、お互いの言葉の意味を正しく共有できていなければ真の意思疎通は図れません。リーダーはメンバーとの対話を重ねることで、相手が本当に言いたいことや抱えている不安を引き出し、認識合わせを行います。対話では結論を急がず、相手の発言に耳を傾け質問を差し挟むことで、潜在的な課題や誤解を表面化させることがポイントです。リーダーがこの対話力を発揮することで、メンバーとの信頼関係が深まり、チーム内の認識違いや行き違いによるミスを減らす効果があります。
プロジェクトファシリテーション
プロジェクトファシリテーションとは、プロジェクト遂行上のあらゆる障害を取り除き、スムーズに目標達成へ導くための調整・交渉のスキルです。リーダーはプロジェクトメンバーが持てる力を最大限発揮できるよう、プロセスに介入してチーム内外のコミュニケーションを円滑にする役割を担います。例えば会議で議論が停滞した際に論点を整理して前進させたり、他部署との連携が必要な場面で利害調整を行ったりするのが典型です。
プロジェクトが複雑化しやすい現代では、リーダー自身がファシリテーターとなって情報共有のハブになり、メンバー間の衝突を緩和し、皆が協力しやすい環境を整えることが求められます。ファシリテーション能力が高いリーダーは、結果としてプロジェクトの進行を滞りなくリードし、目標達成までチームを導くことができるのです。
ディスカッション
ディスカッションは、特定のテーマについて参加メンバーが自由に意見を出し合い、最適解を探る議論手法です。リーダーはメンバーと定期的にディスカッションの場を持ち、進捗状況の確認や目標の再認識、問題点の洗い出しなどを行います。不確実な課題に対して真理を追究したいとき、率直な意見交換が欠かせません。リーダーは議論を促しつつも、メンバー全員の発言を引き出すファシリテート役にも回りましょう。活発なディスカッションを通じて得られた多様な視点は、プロジェクトの軌道修正や新たな施策立案に役立ちます。
ディベート
ディベートは、肯定側と否定側に分かれて与えられた立場を擁護し合う形式的な議論です。限られた時間内で自分たちの主張が正しいことを論理立てて証明し、第三者に優劣を判定してもらうという特徴があります。リーダー業務で直接ディベートを行う機会は多くないかもしれませんが、論拠を持って相手を説得する力はディベートで培われるスキルです。
自分の主張を支えるデータや根拠を集め、論理的に説明する訓練は、部下や上司を説得して賛同を得る場面で威力を発揮します。またディベート的な思考を取り入れることで、物事を多角的に分析し反論を想定できるようになり、計画や提案の抜け漏れが減るという効果もあります。
ストーリーテリング
ストーリーテリングは、物語を用いて相手にメッセージを伝えるコミュニケーション手法です。リーダーが自らの経験談やビジョンをストーリー仕立てで語ることで、メンバーにより深い印象を与え理解を促す効果があります。単に論理的な説明をするよりも、ストーリーには人の感情に訴えかけ共感や感情移入を引き出す力があります。
リーダーがプロジェクトの目的や背景をストーリーとして語れば、メンバーは自分事として捉えやすくなり、モチベーション維持にもつながるでしょう。実際、ビジョンを数字だけでなくエピソードで示すことでチームの結束力を高めたケースも多く報告されています。リーダーは話の上手下手に関係なく、自身の言葉でストーリーを語る姿勢が大切です。
レトリック
レトリックとは、聞き手を説得し納得させるための言葉遣いや表現技法のことです。リーダーにとって伝えたいメッセージを効果的に伝達し、相手の行動を促すための説得力は重要なスキルです。巧みな言い回しや声のトーン、身振り手振りなどもレトリックに含まれ、情熱を持って語ることでメンバーの心を動かすことができます。
ただしレトリックには表裏一体の側面もあり、使い方を誤ると単なる詭弁になってしまう危険もあります。リーダーとしては、事実に基づき誠実に語ることを前提に、効果的なレトリックを用いてメッセージを伝えるようにしましょう。メンバー側もリーダーの発信意図を汲み取りつつ、相互に説得し合える関係が築ければ、プロジェクト内のコミュニケーションはより活性化します。
まとめ
本記事では、リーダーに求められる多様な役割と、それらを支えるコミュニケーション能力について解説してきました。プロジェクト管理、目標設定、計画立案、職場風土の醸成、模範行動、人材育成、モチベーション維持——リーダーの役割は実に幅広いですが、どれ一つ取っても部下との円滑なコミュニケーションが不可欠であり、それなくして成果を上げることはできません。部下との対話の機会を意図的に増やし、ファシリテーションやストーリーテリングなど様々なコミュニケーションスキルを駆使して、チームが実力を発揮できる環境を作り上げましょう。
なお、経済産業省の研究会報告書でも、組織の生産性向上には「期待役割の明確化」と「コミュニケーションの質の向上」が不可欠だと指摘されています。まさにリーダーが果たすべき役割を明確にし、それを実現するためのコミュニケーション能力を磨くことこそ、これからの組織を成功に導く鍵と言えるでしょう。リーダー自身が日々学び成長し続け、コミュニケーションを通じて組織に良い変化をもたらす存在となることで、チームとビジネスの成果は大きく飛躍するはずです。