
2025.08.19
Web社内報を自動化して効率化するには?Power Automateの使用例を解説!

目次
Microsoft 365を導入している企業では、SharePoint Onlineを使ってWeb社内報を構築するケースが増えています。在宅勤務の普及に伴い、会社からの情報発信をタイムリーに行うツールとして、Web社内報の重要性はますます高まっています。また、社員エンゲージメント(従業員の会社への熱意や愛着心)の高い企業ほど生産性が18%高く、収益性も23%高いと報告されており、Web社内報を通じて社員のエンゲージメントを向上させることは経営面でも非常に重要です。
Web社内報は多くの情報をタイムリーに発信できるメリットがある一方で、運用を担当する広報部門からは「記事の本数が増えて業務が追い付かない」「計画的な運用ができていない」「記事を発信するのに手一杯で効果測定や改善ができていない」などの声も聞きます。
しかし、実はこれらの悩みの多くは、Microsoft社 が提供するRPAソフトであるPower Automateを活用し、定型業務を自動化することで解決することが可能です。この記事では、SharePoint Onlineで作成したWeb社内報の作成・運用業務をPower Automateを活用して自動化し、業務効率化を図りながらPDCAを回すための具体的な方法をご紹介します。
Web社内報における定型業務について
Web社内報は、複数のコンテンツを定期的または不定期に掲載する社内向けWeb媒体です。Web社内報の運用業務は、掲載する内容によって毎回若干変わるものの、基本的な業務のフローはほぼ定まっています。Power Automateを活用するためには、まずは自動化できそうな定型の業務を洗い出してみましょう。以下、代表的な定型業務の例をご紹介します。
進捗状況の管理、関係者へのアラート出し(寄稿締め切り等)
社内報制作の基本的な定型業務として、掲載するコンテンツの進行管理があります。同時に複数進められる企画のもと、寄稿者に原稿執筆を依頼したり、画像や動画を手配したりすることが求められます。企画内容によってはさらにアンケートの実施や取材などが必要な場合もあります。
これらが遅滞なく予定通り進まないと、社内報の公開日に間に合わなくなってしまいます。そのため担当者はスプレッドシートでガントチャートなどを作成し、進捗状況の把握と更新に努めなければなりません。
毎号多くの寄稿者・関係者宛にメールやTeamsなどで依頼や進捗確認を行い、締切が近くなれば個別にリマインドメールを送るなどして原稿送付を促します。他にも画像や動画、グラフなどのビジュアルコンテンツが揃っているか、上長から内容の承認が下りたか、など確認すべきことが多数あります。
担当者が複数の媒体を掛け持ちしているケースもあり、メールを目視で追いかけながら各方面との調整を進めるため、情報のキャッチアップが追いつかず、抜け漏れも起こりやすくなる業務です。
校了した記事の公開(時間指定)
校了した記事は、決められた日時になると社内ポータルに公開されます。予定より公開が遅れたり、プレスリリースなどによる公式発表前に関連情報が出てしまったりしないよう注意が必要です。
手動で公開作業を行う際には、担当者はその時間に待機して公開ボタンを押す必要があります。記事ごとに公開のタイミングが異なる場合や、公開予定時間が深夜や早朝の場合は、担当者の負担が大きくなります。
SharePoint Onlineの機能を利用したり、WordPressなどCMSを活用しているケースでは予約投稿機能で公開時間を指定できます。
ただ、これらのツールでは複数のコンテンツを異なる時間に公開するなど、複雑な指定ができません。また、既に公開済みのコンテンツを配信停止にするには手動で対応する必要があります。
アクセスログの集計と共有
既存コンテンツの改善や、より良いコンテンツの企画のためには、アクセスログの活用が不可欠です。そのため、各記事の閲覧数や「いいね!」数、コメント数や内容の確認は重要性の高い作業です。
しかし、アクセスログの情報を目視で確認し、手作業で転記・集計するのは非常に手間がかかり、転記ミス・集計ミスも起こりやすくなります。活用のためのデータ作成に手間と時間を取られてしまい、分析や活用が不十分になるようでは本末転倒です。
なお、収集したアクセスデータはPower BIなどでダッシュボード化して可視化・共有すると効果的です。リアルタイムにサイト利用状況を把握できるようになり、データに基づくスピーディな改善にもつながります。
コンテンツ作成
特集記事など、Web社内報の中でも重要度が高い記事を作成するには、専門的な知識や判断軸、文章力などのスキルが必要です。一方、記事のアクセスランキング紹介など、比較的シンプルな内容のコンテンツは、内容に詳しくない新人の担当者でも作成が可能です。
しかし、たとえ単純な内容であっても、アクセスログやTeams、Yammer等でのやり取りから必要なデータを探し出し、手作業で転記してコンテンツ化するには、それなりの手間と時間がかかります。
また、海外に拠点を持つ企業や外国人従業員を雇用している企業では、社内報を多言語で提供するニーズも高まっています。既存のWeb社内報を他言語に対応させるには非常に多くの時間とコストがかかるのが現状で、各記事を英語などに翻訳・配信する作業が運用担当者の大きな負担となります。
Power Automateを活用した社内報業務自動化の事例
SharePoint Online上で運用しているWeb社内報の定型業務は、そのワークフローをPower Automateでトレースすることで、自動化できる部分が多くあります。手間がかかる割に生産性の低い業務を自動で行うことで、担当者はコンテンツの充実化や、ユーザーからより歓迎される企画づくりといったような、クリエイティブな作業に時間を使うことができます。
以下、Web社内報の代表的な定型業務を自動化した4つの事例をご紹介します。
進捗状況の管理、関係者へのアラート出し(寄稿締め切り等)の自動化
これまで進捗に応じた各種連絡はメールやTeams上で、権限変更の作業はSharePoint Online上で手作業で行っていたものを、Power Automateによって自動化し作業量の削減を図りました。
権限の設定
記事コンテンツのコーナーや作業者が多い場合、SharePoint Onlineのライブラリ内の列に一人一人のユーザーを設定するのでは複雑になるため、サイト自体にあらかじめ権限グループを用意し、そのグループ単位で権限を割り当てるようにします。
進捗の自動通知
Web社内報(サイトのページライブラリに保存したページ)やお知らせ(SharePointのリストアイテム)はサイト内のライブラリに保存されます。そこでライブラリ内に「ステータス」列を設け、各コンテンツを編集した際に値を変更する運用にしましょう。ステータスが変更された際に関連するユーザーへ自動で通知が飛ぶフローを設定することができます(※送信先および送信内容もライブラリ内の別列に予め設定しておく必要があります)。また、記事作成の所要時間や編集回数を記録しておき、期限に対する余裕度や記事作成の難易度を定量的に算出することも可能です。
記事編集権限の自動変更
担当ユーザーに対しては、コンテンツ作成作業におけるそれぞれの役割(※あらかじめSharePoint Onlineのライブラリの列上で設定しておく必要あり)に応じて、編集権限等が自動的に変更されるようなフローをPower Automateで設定します。
締め切りアラートの自動送信
さらに、SharePoint Onlineのライブラリの列上に各記事の作業期限を記載しておくことで、寄稿締め切りが近づいた際に各担当者へ自動的にリマインド通知を送るアラートフローも設定可能となります。
校了した記事の公開(時間指定)の自動化
校了したWeb社内報の記事をSharePoint Online上で公開する際は、公開したい時間に担当者が待機し、記事ごとに一つ一つ手作業で公開ボタンを押す必要がありました。深夜・早朝などに公開する場合はなおさら負担が大きくなりがちです。しかし、ライブラリ内に「公開日時」の列を設け、作業が完了した記事コンテンツの公開日時を設定しておくことで、その日時になったときに自動で記事が公開されるフローをPower Automateにて作成しました。複数の記事を同時に公開することも可能です。
異なるタイプのコンテンツの自動公開・非公開
お知らせ(SharePointのリストアイテム)等、コンテンツタイプが異なる場合でも、SharePointのバージョン管理機能を用いることで、疑似的に公開/非公開の機能を持たせることが可能です。同時にPower Automateを用いた時間指定による自動公開/非公開フローも適用できます。
記事の自動削除
非公開にした記事を一定期間経過後に自動削除することで、不要データの蓄積を防ぎストレージ容量を節約できます。Power Automateを使い、時間をトリガーとして記事を削除するフローを作成することも可能です。
アクセスログの集計と共有の自動化
Power AutomateとPowerShellを用いることにより、SharePoint Onlineサイト内の各コンテンツ(ページファイル、ドキュメントファイル等)の閲覧数や「いいね!」数等を自動的に取得・集計する仕組みを構築しました。取得したデータを自動集計し、その内容をサイト内にフィードバック(レポート表示)することでサイト改善に役立てることができます。
記事を人気順に並べ替える
各ページの閲覧数や「いいね!」数、コメント数などが取得できるため、どの記事が多く読まれているのかを把握できます。ページライブラリ内に「人気度」等の列を新設し、その列に集計値を自動で書き込むフローをPower Automateで設定することで、記事一覧を人気度順に自動ソート表示させることも可能です。
問題のある記事の把握と改善
Power AutomateとPowerShellを使えば各ファイルのデータ容量も把握できるため、「あまり読まれていないのにデータ容量が大きい記事」を自動抽出し、削除やリライト候補として検討することもできます。これは記事単体だけでなく、そもそも閲覧されていない特定のカテゴリ(コーナー)自体の整理にも役立つでしょう。
読者コメントの把握と活用
ログ取得の際、コメント数だけでなくコメント内容も取得することで、サイトや記事の詳細な改善につなげることが可能です。たとえばコメント内容をテキスト解析し、ページライブラリ内に「記事重要度」といった評価列を設けて集計すれば、単純な閲覧数だけでは測れない重要コンテンツをピックアップできます(※高度なテキスト解析には別途AIサービスの導入が必要です)。また、フィードバック結果をランキング形式で表示させ、記事担当者や部署間で競い合えるような仕掛けにすることも考えられます。ランキング表示によりコンテンツの充実や記事作成数の増加に対するモチベーションアップにもつながるでしょう。
コンテンツ自動生成の自動化
ログ解析結果やTeams、Yammer等での社員同士のやり取り、各種活動記録データを取得し、自動的に記事コンテンツを作成するフローをPower Automateで構築しました。
自動で記事を生成する際には、あらかじめ文章の配置や画像の配置などを指定した記事テンプレートをExcelファイル上で用意しておく必要があります。そしてPower Automateで作成するフローの中で、それらテンプレート中のブロック(文章や画像差し込み箇所)をどのデータ(文章や画像)に置き換えるかを設定し、指定した文章や画像を流し込んだテンプレートファイルをSharePoint Onlineに読み込ませてコンテンツ化する仕組みです。

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さまざまなタイプのコンテンツを自動生成
ページファイル形式の記事だけでなく、WordやPDFなどのドキュメントファイル、あるいはお知らせ(リストアイテム)の形式でもコンテンツを自動作成することができます。
多言語記事の自動生成
テンプレート用のExcelファイルには文章単位でテキストデータを保持しているため、記事作成フローを実行する前の段階で別途翻訳サービスとAPI連携する仕組みにすれば、翻訳済みテキストを差し込んだ多言語記事を自動作成することも可能です。
AIを活用したコンテンツ生成
近年では、生成AI(ChatGPTなど)を使って記事コンテンツの下書きを自動作成することも試みられています。実際、広報・PR業務にChatGPTを活用することでプレスリリースや社内報作成を自動化でき、業務効率が向上するケースも出てきています。社内報の現場でも、タイトルや見出し案の作成、記事内容の要約、文章の言い換え・校正などにChatGPTを活用する事例が増えており、うまく使えばコンテンツ制作の手間を大幅に削減できます。ただし、社内報には個人情報や機密情報が含まれることも多いため、AIツールに機密データを学習させない設定や利用ルールの整備が不可欠です。社内データを扱う際は十分に注意しつつ、AIも新たな「自動化」の手段として活用していきたいところです。
まとめ
Web社内報の目的は、情報を発信することではありません。発信する情報を通じて社内コミュニケーションを促進し、ビジョンの浸透や組織風土の改革、社員エンゲージメントの向上など、経営課題の解決に貢献することにあるのです。
そのため、本来であれば、コンテンツの作成に際して十分企画を練り、社外向けのWebサイトと同様に公開した記事の閲覧数や離脱率、コメント数などの指標、アンケート結果などを分析して、ユーザーの関心を引き経営課題の解決に寄与するようなコンテンツ企画やコミュニケーション施策を考え、実行していくことが担当者に課せられた使命です。例えば、そうした各種データをPower BIなどでダッシュボード化して共有すれば、誰もがリアルタイムにコンテンツの効果を把握でき、データに基づく迅速な改善サイクル(PDCA)を回しやすくなるでしょう。
しかし、現実には多くの担当者が、コンテンツ発信に関連した多くの定型業務に時間を取られ、効果測定やプロセス改善、コンテンツ企画などに十分な時間を使えていません。
この記事で紹介したように、SharePoint Onlineで構築したWeb社内報は、Power Automateを活用することでさまざまな定型業務を自動化することができます。これによって、担当者はよりクリエイティブで有意義な業務に時間を割くことができます。
また、業務自動化によって生まれた余裕時間を使い、社内報をより魅力的で双方向なものに発展させる工夫もしてみましょう。例えば、社内SNSとして提供されているMicrosoft Viva Engage(旧称Yammer)などを活用し、社内報に対する社員のコメントや「いいね!」を促すことで従業員同士のコミュニケーション活性化につなげることができます。実際に、Viva Engage上で情報発信を積極的に行った従業員は、まったく投稿しなかった従業員に比べて2年後の定着率が33%高かったという調査結果も報告されており、このように社員参加型の仕組みを取り入れることはエンゲージメント向上と人材定着にも有効と言えるでしょう。
さらに、Microsoft Loopなどの最新のコラボレーションツールを使えば、複数のメンバーがリアルタイムで同じドキュメントを編集できるため、社内報の記事作成プロセス自体の効率化・高度化も期待できます。従来は部署ごとに別々に作っていた原稿やコンテンツをLoop上で統合しながら作成すれば、常に最新の情報が全員で共有された状態で記事を仕上げることが可能です。新しいツールも積極的に取り入れつつ、社内報を会社の文化醸成とエンゲージメント向上のための戦略的なプラットフォームへと発展させていきましょう。
Power Automateや業務フローの自動化については他にも解説記事があります。ぜひこれらも参考にしていただき、効率的で効果的なWeb社内報の制作・運用にお役立てください。
関連事例
よくある質問
- Power Automateとは何ですか?
マイクロソフト社が提供するPower Automate(パワーオートメイト)は、業務プロセスを自動化するためのワークフロー構築・RPA作成ツールです。オフィスワークにおける定型業務を自動化し、業務を効率化したい時に活用できます。
- 自動化でどんな省力が出来ますか?
Microsoft365を導入している企業では、SharePoint Onlineを使ってWeb社内報を構築するケースが増えています。「記事の本数が増えて業務が追い付かない」「計画的な運用ができていない」「記事を発信するのに手一杯で効果測定や改善ができていない」などの課題に対し、Microsoft社が提供するRPAソフトであるPower Automateを活用し、定型業務を自動化することで解決します。

株式会社ソフィア
コミュニケーションコンサルタント
小野寺 貴俊
業務改善を基軸とした、ITツールの調査・実践・応用が得意です。データ分析と組み合わせたDX(Digital Transformation)を推進していきます。
株式会社ソフィア
コミュニケーションコンサルタント

小野寺 貴俊
業務改善を基軸とした、ITツールの調査・実践・応用が得意です。データ分析と組み合わせたDX(Digital Transformation)を推進していきます。