「はたらく」のこれから。 第1回 株式会社おかん・沢木恵太さん 食を通して目指すのは「誰もがあきらめなくていい社会」

#コミュニケーション#働き方#多様性

25.Oct.2018

働く環境や働き方が大きく変化しつつある現代。組織や人材に関連した新しいジャンルのサービスも次々と登場しています。
このコーナーではそうしたサービスを手掛ける新進気鋭の経営者に、ソフィアの代表・廣田が直接お話をうかがい、これからの「はたらく」とは何かを考えます。
第1回は、社員がワンコインで健康的な総菜を購入できるオフィス向けのぷち社食サービス(オフィスおかん)を提供し、急成長を遂げている株式会社おかんの代表取締役CEO・沢木恵太さんに、サービスを生み出した原体験と働く人々に向ける想いを聞きました。

取材実施日:2018年9月27日

好きな仕事を続けられない現状を変えたい

廣田
オフィスおかん、健康経営という面でもかなり注目が高まっていますよね。当社のお客様でも最近導入した企業があるんですよ。御社では「働くヒトのライフスタイルを豊かにする」というミッションステートメントを掲げていますが、創業当時からそうした考えのもと、サービスを展開されていたんですか?
沢木さん
明言化したのは、オフィスおかんを始めて社員を雇うようになってからですが、それまでもぼんやりと自分の中では考えていました。オフィスおかんに先駆けて始めていた個人向け総菜仕送りサービスも、共働きの方の家事負担軽減や一人暮らしの若者の食事改善など、働く人と切り離されたものではないと思っています。
廣田
働くヒトのライフスタイルを豊かにする方法はいろいろある中で、そもそも、どうして「食」というジャンルを選んだんでしょう。
沢木さん
私が新卒で入社したのは、フランチャイズをメインにコンサルティングを行う一部上場企業でした。すごく好きな仕事でしたが、忙しすぎて健康を害してしまい、「このままでは続けられない」という状況になってしまったんです。そのときに、どんな会社でどんな仕事をしていようとも、どんなにやりがいがあろうとも、仕事以外の生活とのバランスが取れなければ辞めざるを得ないのだ、ということを実感し、何とか解決したいと思いました。
しかも私の場合、その原因は食生活である可能性が高かったんです。当時は一人暮らしで長時間労働、食事がどんどんおろそかになっていました。昼食もお菓子で済ませているような状況でしたね。その経験から「食」のサービスを考えました。ですが、私たちはあくまで「食」はミッションにたどり着く手段のひとつだと思っています。
廣田
そうした体験を経て、すぐにこのアイデアを思いついたんですか?
沢木さん
いえ、当時はまだ事業アイデアは持っていませんでしたね。もともと学生の頃から「将来社会を動かす仕組みを作りたい」という思いはあって、起業は視野に入れていました。26~27歳になって「そろそろ……」と思ったとき、より皆さんの生活につながるような日常・生活インフラ領域でやってみたい、ただし自らが原体験を持ったことじゃないと胆力を持って続けられないだろうと思って、このサービスにチャレンジしようと決めました。
廣田
起業は何歳のときですか?
沢木さん
27歳のときですね。今年で6年目です。。
廣田
起業に早い・遅いはないでしょうけど、やはり20代で起業するのは勇気がいったんじゃないでしょうか。
沢木さん
起業した当時すでに子供が2人いましたし、妻も働いてはいなかったので、ある意味勇気はいりました。一方で、新卒当時に入社した一部上場企業はすでに倒産していたんです。上場企業に勤めていれば一生安心だとは思っていなかったので、思ったより大きな不安にはならかったですね。
廣田
奥様からのご理解も得られました?
沢木さん
そうですね。もともと新卒で入った会社の同期だったんですが、その会社自体が起業家をどんどん輩出しようという風土だったので、その点は理解してもらえました。
廣田
私も今の会社を作ったとき、「起業しようと思うんだけど」と妻に言ったら「それは相談じゃなくて報告なんでしょ」って言われましたね(笑) その後「とりあえず私から一つ言っておくことがあるとすれば……妊娠してるの」と言われて、より頑張らなくてはいけないなと身が引き締まりました。

これからは「従業員の体験」に会社が投資する時代

廣田
現在は、何名くらいの社員がいらっしゃるんですか?
沢木さん
約50名です。
廣田
やはり皆さん、何かしら働く環境に対して原体験を持っている人が多いんでしょうか。
沢木さん
ミッションステートメントを最優先するマインドがあるかどうかを採用の重要な基準にしているので、何かしらの原体験を持っているメンバーが多いです。特に当社では女性のメンバーが多くて、全体の6~7割を占めています。お子さんがいる人や、出産後の仕事復帰のタイミングで当社に入ってくる人も多いですね。出産するときに「現職では絶対に両立できない」と諦めたり、小さい子供がいる状態で就職活動をして冷たい扱いを受けて「自分のやりたい仕事があってもきちんと見てもらえない」と感じたりした人もいます。
廣田
世の中、そうした面がまだまだ変わっていないのをひしひしと感じます。いまは「食」をメインにサービスを展開していますが、それ以外に手掛けたいものはありますか?
沢木さん
あくまで事業は手段で、大切なのはミッションステートメントだと思っていますので、他にも可能性はいろいろとあると思っています。例えば、健康を例に挙げれば睡眠や運動、育児家事の面では家事負担軽減や幼児教育もあるかもしれない。一方で、ソリューションだけどんどん増やせばいいというわけではありません。先ほどの女性の仕事の話題でもそうですが、我々のサービスを使っていらっしゃるお客様はある程度時代の流れに敏感で、変化に積極的な企業で、社会全体のほんの一部なんですよね。
私たちが実現したい世界を考えたとき、「現在は変化に積極的でない企業」に対して、従業員に対する投資の必要性を伝えて課題を解決したり、実現するためのソリューションをマッチングすることも必要なんじゃないかと思っています。実際、そうした課題を抱えている企業のご担当者にたくさんお会いします。定量的な調査が難しい領域なので、どうしても優先順位が下がってしまうんですよね。しかし日本の労働人口がどんどん減っている中で、「子育てがあるから働けない」という人が増えてしまうのは企業としても困るはずです。
廣田
プラスチックのストローと同じですね。現在環境の面からどんどん紙のストローに変わってきていますが、コスト的に割に合わなくても、世の中の流れが動き出したらもう不可逆です。いち早く取り入れるか否かだけの問題。社員に投資するかしないか、というのもそれと同じ状態だと思うのですが、まだ気づいていない企業が多いようです。
沢木さん
そうですね。どうしてもいかに採用に直接つながるか、いかにやりがいを持って働いてもらうかという部分に偏りがちです。欧米ではいかに安心して働けるか、という点を当たり前に保障しているからこそ、やりがいというものが成り立つんですが……。今まで福利厚生は「余暇をどう楽しむか」という点が重視されがちでしたが、社会環境が変わっている中で、より日常の面でいかに社員に投資をしていくか、というトレンドが生まれてもおかしくないだろうなと思っています。
廣田
ちなみに御社では「Employee Experience(従業員の体験)」という言葉をキーワードとして積極的に打ち出して、サミットなどを開催されていますよね。。インターナルブランディングや風土改革を支援している当社でも、従業員が気持ちよく働いてこそ、お客様によりよい商品・サービスが提供できると考えて、Employee Experienceの重要性を訴えています。御社がこの言葉を使い始めたのはいつ頃からですか?
沢木さん
1年くらい前からですね。アメリカではEmployee SuccessやEmployee Experienceという部署を明確に作って、企業が取り組むべき課題だと明言している会社があることを知り、非常に素敵だなと思いました。日本国内でもそういった文化・考え方が広まるようにと思って使うようになりました。

廣田
オフィスおかんでは、導入することによって、置いてあるところに利用者が集まって、自然と会話をしたり一緒にごはんを食べるということが生まれると思うんですよ。そういう意味でExperienceという言葉はぴったりです。オフィスおかんを始めるときに、こうしたコミュニケーションへの影響は想定していましたか?
沢木さん
「同じ釜の飯を食う」という言葉があるくらいですから、期待はありましたね。
廣田
ちなみにおかんの社員の皆さんも、ランチはオフィスおかんなんですか?
沢木さん
はい、別に義務化しているわけではないのですが、かなりの消費量ですね。50人の会社でこんなに食べている会社って他にないくらい(笑)
廣田
現代の日本の問題点でもあるんですが、中小企業では社食を持つことが難しいので、こういうサービスはとても素敵だと思います。
沢木さん
中小企業ももちろんですし、同じような理由で医療現場やサービス業の小さな拠点、工事現場でも利用がすごく伸びています。こうしたところは、有効基準倍率も離職率も高くて、なおのこと社員への投資が必要です。いかにハードルを下げて、規模・場所を問わず利用していただけるようにするかが、我々にとっても重要な課題だなと思っています。
廣田
サービス業はお客さんの入り状況でランチの時間が不規則になりがちですから、オフィスおかんの存在はすごく応援になっているんだろうなと思います。当社でも3年ほど前から、「大企業にしか社食がないのはおかしい」ということで、近隣のレストランで使える社食券を作ったんですよ。少なくともお昼は栄養のある温かい料理を食べてもらいたくて。私自身も30歳を超えたあたりから、きちんとしたごはんを食べないと夕方パワーが出なくなりました……(笑)

豊かであることを決めるのは、働く人自身だ

廣田
「働くヒトのライフスタイルを豊かにする」というミッションを掲げていらっしゃる御社自身はどんな組織の運営をされているんですか?
沢木さん
自走式というか、積極的に各人に任せていくスタイルを追求した結果、マネージャーという存在がなくなってしまいました。だから基本的に、仕事ではすべて個人やチーム単位で意思決定をしてもらいます。チームを超えた横断的な取り組みの場合には、意思決定をするための意思決定委員会のようなチームを作っています。このチームのメンバーも、社内からの推薦で決まります。また、会社の環境づくりにも一人ひとりが主体性を持って取り組みましょう、ということで、「オフィス環境整備係」というような係を作って、それぞれ取り組んでいます。
廣田
係という名前が自然ですごくいいですよね。学校みたいで。
沢木さん
もともとは人数の少ない総務担当が全部をやるのは厳しいという理由で始めたんですが、Employee Experienceやオフィスの環境にかかわるサービスを提供している以上、我々自身も一人ひとりが意識をする必要があるだろうということで、わりとすんなり浸透しました。
廣田
おかんとして、働くヒトのライフスタイルを今後どんな形にしていきたいと思いますか?
沢木さん
「働くヒトのライフスタイルを豊かにする」というのが我々の目的なんですが、一方で「豊か」って主観的な概念なんですよね。大切なのは本人が「私はこれができて豊かだ」と思えることです。だから私たちはあえて「こういう人が豊かだ」と決めるようなことはしていません。私たちが目指すのは、働く人の選べる選択肢を増やしていくこと、会社がそれに対する積極的な姿勢を持つようになることかなと思います。それができれば、現在職に就いていない人が職に就くことができたり、より働きたい場所でやりがいを持って働くことができます。結果として、社会としての生産性も上がりますし、個々人も諦める必要がなくなって豊かになっていくんじゃないかなと思っています。
廣田
私たちも働く人たちが、いきいきと「私はこの仕事を自ら選んで働いているんだよ」と子どもにと語ることができるようになってほしいと思っています。そうした意味で目指すところは御社と同じですね。ぜひ今度、一緒に何かプロジェクトをやってみたいです。きっと面白いことができるのではないでしょうか。

(文:岡田耶万葉 撮影:八幡宏)

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