まるでオーケストラ!? 1+1を10にする「場の力」とは何か

ITの技術が進化し、リモートワークなど新しい働き方が広がってきたことで、「メールと電話とPCがあれば仕事はできる」世の中になってきた。しかし、人と人とが直接触れ合う「場」を最大限に活用し、数々のイベントや研修・ワークショップを手がけてきた、イベント演出・運営のプロフェッショナル・竹内昌弘ラーニングファシリテーター・古川貴啓は、同じ空間を共有してこそ生み出される「場の力」があると語る。それは一体、どのようなものなのだろうか?

株式会社ソフィアの竹内昌弘と古川貴啓

空間と、人と人との相互作用が場を作る

―コミュニケーションがビデオ会議などに置き換わることも増えてきましたが、お二人は、実際に同じ空間を共にすることでしか得られない「場の力」があると考えているんですよね。「場の力」を感じるのはたとえばどんなときですか?

竹内:ソフィアで毎年行っている合宿では、毎回120%「場の力」を感じるよね。2泊の合宿の間は夜の時間も一緒に過ごし、自然と普段はしないような話もする。そのせいか、合宿が終わる頃にはいつもすごく感情が高ぶって、エモーショナルになる。それは、合宿という”非日常”の状態に起因するところが大きいと思う。

古川:非日常だからできること、普段は言えなくても非日常だから言えることってありますよね。

竹内:「場」には2種類あって、1つは、たとえば「会議室」だったり、そこのインテリアや設備、それから会議のルールといった「空間としての場」。もう1つは、その場にいる人の相互作用で、「瞬間瞬間に生じる場」。「場の空気」とかよく言うけど、私は、人が持っている「振動」とか「波」みたいなものを感じることがよくあって、そういったものが相互に作用しあっていると考えています。「空間としての場」は事前に準備することができるけど、人が持っている振動はコントロールできない。そして、「場の力」は、「空間としての場」と「瞬間瞬間に生じる場」が一体となって生まれるのではないかと。

―「振動」っていうのは面白い考え方ですね。たとえば、いまこの場にいる3人は同じ振動を感じているということでしょうか?

古川: 同じものを感じている気がする。ただ、同じものを見ていても人によって見え方が少しずつちがうように、振動の感じ方も人それぞれなのではないでしょうか。

竹内:私もそう思う。同じ空間を共有して、同じ振動を感じていたとしても、必ずしもみんなが同じ方を向いたり、同じ意見を出すわけではない。

「非日常」+「正解がない」→ 普段できないこともできる

―ソフィアでは日常的にブレストをやりますよね。ブレストでも、突然ワッと盛り上がる瞬間があったりして、そこにも「場の力」があるんじゃないかと思うのですが。

竹内:「ブレストをやろう」といってみんなが会議室に集まるのも、ちっちゃな非日常なんじゃないかな。

古川:お客様向けの研修にブレストを取り入れるときは、慣れてない人もいるから、ルールを説明しますよね。「何を言ってもいいですよ」とか、「人の意見に乗っかってもいいですからね」とか。そういうルールを設定することで非日常に入るスイッチを押すことができると感じています。ソフィアのメンバーはブレストに慣れているから「ブレストをやろう」と言った時点でスイッチが入るけど。

―たまに、ブレストが盛り上がって次から次へと「自分も!自分も!」と意見が飛び出すことがありますよね。それはどうして起こっていると思いますか?

竹内:それは、そうしようと思っているわけではなく、結果そうなっただけ。もしかしたら何か引き金になるような出来事や発言があったのかもしれないけど、みんなの気持ちがすごく高いところで興奮状態にあって、バーーッとアイデアが出たのだと思う。同じ場所で、同じメンバーでブレストしても、何か嫌な出来事があってみんなが「どよ~ん」としている時だったら、たぶん同じ結果は出ない。

株式会社ソフィアの竹内昌弘と古川貴啓

―ソフィアでは、お客様向けに研修やワークショップを行う際、グループワークの結果を即興劇(寸劇、スキット)で発表してもらうことがありますが、演じるのって恥ずかしいですよね。研修やワークショップの場だとそれができてしまうのって、なぜなんでしょうか。これも場の力?

古川:参加者の多くは、発表直前まで緊張していても、いざ舞台に立つと吹っ切れるんですよね。人によってはしっかり準備して、うまくやろうとするけれど、うまくやるのとノリノリでやるのとは違う。最初に発表するグループより最後のグループの方が、他のチームの発表を見て学んでいることも多いから、アドリブもどんどん出て、より良いものになることがほとんどです。

竹内:「劇なんてできない!」と思っていても、舞台に立ってしまえばどうにかするしかなくなるよね。他のチームがやっているのを見て「やれそう」「やってみよう」「もっとこうしてみよう」と思う部分は大きいと思う。

古川:「正解がないから何でもできる」という面もありますね。とくに即興劇の場合は、台本がないから間違えようもないし、見ている人が勝手に解釈してくれる。ブレストの場合も同様で、「この課題に対して、解決策を出してくれ」といわれると、答えの方向性ができてしまう。そうすると「正解・不正解」にとらわれてアイデアが出にくくなるから、わざと最終目的を教えずに限定的な問いを投げかけたりします。

ファシリテーターは指揮者ではなくPA(音響技術者)

―そうはいっても、研修とかの場に30人いたら必ず3人くらいは、斜に構えて少し引いて見ている人がいませんか?

古川:それは、それでいいんです。その場で一人ひとりがどのような態度を取るのかは、「空間としての場」を準備する段階ではわかりません。異質な態度や考えを持った人を排除して孤立させるのか、その場に必要な要素として受け入れるのかで、結果は大きく変わってきますよね。私自身は、一人ひとりの個性が受け入れられ、それぞれの良さが生きる場を作るのが、ファシリテーターの役割だと思っています。いわゆる、全員が同じ方向を向いた「一体感」ではなくて、それぞれが異なる意見を持っていてもひとまとまりになっているイメージ。

竹内:ファシリテーションも、人と人との相互作用だよね。私はバンドでキーボードを弾いていて、よくシンセサイザーで音作りをするんだけど、人と人が集まって、それぞれの「振動」や「波」が作用しあうのって、それとちょっと似てる。昔のアナログシンセサイザーでは、波形を組み合わせていろんな音を作ってたんですよ。波と波をちょっとずらすと、ラッパの音に聞こえたり、もう少しずらすと弦の音に聞こえたり、無音にもなったりもする。

―つまり、「場の力」とはオーケストラみたいなもの?

竹内:みんなが互いに影響をしあって良い演奏になることもあれば、良い演奏者がいても周囲の音の影響でひどい演奏になったり、無音になることだってある。オーケストラって「場の力」を説明するのにぴったりかも。

―じゃあ、ファシリテーターは指揮者みたいなもの?

古川:指揮者の場合もあるかもしれないけれど、それぞれの音を調整するPA(ライブなどで電気音響設備を操作する技術者)に近いんじゃないかと思います。どの音に注目してどう引き出すとか、飛び抜けた音を抑えるとか。

竹内:場づくりはある程度はファシリテーターによって調整できるけど、個人個人のエモーショナルなところまではコントロールできない。そういった意味でも、「どんな音を出すか」を指揮する指揮者ではなくて、「出た音のバランスを整え、音楽としてまとまりのあるものにする」PAの方が近いかも。

生演奏とライブ中継はちがっていて当たり前

―同じ演奏でも、生演奏を聴くのと、TVやネットでの中継で聴いたり、録音を聴いたりするのでは感じ方が違いますよね。

竹内:それも「振動」とか「波」という点から考えると、同じ空間でダイレクトに振動が伝わるのと、異なる空間にいて通信を通じて伝わるのとの違いということだよね。それぞれが離れた場所にいれば、伝わる振動の強さや幅も全く変わってしまうのは自明のこと。だから、例えば一つの空間に人が集まって、「空間としての場」「瞬間瞬間に生じる場」をダイレクトに感じながらブレストをするのと、それぞれが別の空間にいながらネットでつながってブレストをするのは、まったく質の異なるものだと思う。

古川:たしかに、情報を伝達ができるのと、エモーショナルになれるのとは全然違いますよね。たとえば「ブレストが盛り上がる瞬間」って、人と人が集まってふつうは「1+1=2」になるものが、「1+1=10」になるような感じだと思うんです。これはきっと、一緒にいないと無理ですよね。

―日々の会議の場もオーケストラに見立ててみれば、場の力を引き出すヒントがあるような気がしますね。

古川:人の個性を楽器に例えるのは面白いですね。新入社員には、楽器の使いかたや音の出し方から教える必要があるかもしれない。

竹内:3年トランペット吹いて上手になってきたけど、実はバイオリンをやらせてみたらもっと上手だった、とかもきっとあるよね。

―あと、バランスも重要かも。たとえば、エレキギター10人とバスドラム10人で交響曲をやろうとしても上手くいかないとか、本当は2人でやればすごく良い音がでるのに20人でやってガチャガチャになってるとか。これは会議もきっと同じ。

竹内:たしかに、同じような人間が10人集まるより、全然違う楽器の人が10人集まる方がすごいものができそうだよね。多様性があった方が、深みのある演奏ができそう。

古川:そういえば、「幸せのメカニズム」について科学的に研究されている慶応大学の前野隆司教授によると*、「人とのつながり」は幸せを感じる要素らしいです。ただ、それは人数ではなく多様性による方が大きいらしくて、Facebookで何千人もとつながっているよりも、たとえ10人でも自分とは全然違うタイプの人とつながっている人の方が、幸せを感じている割合が大きいのだそうです。

―「場の力」は、さまざまな人が空間を同じくして相互に作用しあうことで生まれ、そこで関わる人の多様性も大切だということですね。リアルの場を共有することの大切さや、ファシリテーターの重要性がなんとなくわかった気がします。今日はありがとうございました。

*参考文献:
前野隆司(2013)『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』講談社

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漠然と「存在するんだろうな」と感じながらもうまく説明することができなかった「場の力」が、「場の力≒オーケストラ」の例えで少し腑に落ちるものになったように思う。さて、あなたが日常や仕事の中で感じる「場の力」は、どのようなものだろうか?会議の場で、オーケストラは良い音楽を奏でているだろうか?本稿をきっかけに考えてみていただければ幸いである。

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