職場で感じる「モヤモヤ」をなんとかしたいあなたへ | Vol.1やっかいな課題と向き合っていくには


【この記事のポイント】
・職場で感じるモヤモヤの正体が、「技術的問題」か「適応課題」かを見極める
・「技術的問題」は、問題の原因が分かれば技術的に解決できるもの
・「適応課題」は解決に当事者の痛みや喪失をともない、その状況への適応が求められる
・“適応課題を生じさせているシステムの一部”として、自分自身を客観的に見てみよう


リーダーが抱える「モヤモヤ」の正体は何なのか

「上司の言いたいこともわかる。自分の立場上、これに取り組むべきだというだということもわかる。この状況だって、誰かが悪いわけじゃない。でも、よりによってなぜ自分なのか、何か釈然としない」
「なぜ、誰も協力してくれないのか。誰も答えを持っていないのか」
「どうせ状況は変わらないのに焦るばかりで、正直もう疲れている」

研修の現場で、リーダーの方からよく聞く言葉です。彼らの言葉に共通しているのは職場や自分の状況に「モヤモヤ」しているということ。私自身も身に覚えがあり、前職でも、そして今の職場でもときに「モヤモヤ」を抱えることはあります。この「モヤモヤ」の正体は一体何なのでしょうか?

例えば、過去の振り返りがされないまま、新たに積み上げられる改善施策。誰のためになっているのかわからない形式的な業務。部門間や部署間の対立。社内調整で忙殺され、顧客のために時間を割けない現状。立ち消えになる新規事業、達成されない目標、遅れる納期と膨れ上がる費用、進まない変革、責任の押し付け合い、諦め顔の同僚たち…。このような組織の問題を解消したいと思ったとき、あなたならまず何をしますか?

本社に苦情を言う、上司に抗議する、問題のあるメンバーを異動させる、便利なITツールを導入する…いろいろな対応が考えられます。もし、原因がはっきりしているのであれば、さっさと対応すればよいのです。しかし、組織で起こる問題は、たいていの場合それほど単純ではなく、さまざまな要因が絡み合って生じています。

技術的には解決できない問題がある

ハーバード大学大学院のロナルド・A.ハイフェッツ教授は、彼のリーダーシップ論において、さまざまな問題を「技術的問題」と「適応課題」に分けて論じました。前者は、問題の原因がわかれば技術的に解決できるものです。そして後者は、解決するためには当事者の痛みや喪失をともない、その状況に適応することが求められる課題です。以下に、ハイフェッツ教授の著書『最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』で挙げられている例を2つ紹介します。

■ケース:1 大企業の合併を成功させる
技術的問題:ITシステムやオフィスを統合すること
適応課題:組織を統合してシナジーを生み出すために、それぞれの企業の価値観や業務の進め方を変更すること

■ケース:2 高齢の母親に車の運転をやめさせる
技術的問題:母親の移動手段を確保すること(タクシー代を払う、友人に送迎を頼むなど)
適応課題:母親が「高齢でも自立して生活できる女性」というアイデンティティの喪失と向き合い、自分で運転ができないという不便に慣れること

要因は明確でないがうまくいっていないこと、明らかに存在しているのに誰も指摘しない問題、やるべきことはわかっているのに進まない改善…、組織においてそんな「モヤモヤ」を感じるとき、そこには適応課題が隠れていることが多々あります。

技術的課題であれば、権限を持った人が適切な判断をしてリソースを投入すれば解決できます。しかし、適応課題を乗り越えるためには、長い時間と大きなエネルギーが必要とされます。慣れ親しんだやり方を変えたり、今まで享受していた利益を手放すことは誰も好まないからです。そこで何が起こるのか。技術的課題のみに手をつけてお茶を濁したり、関係者全員の問題なのに特定の1人をやり玉にあげたり、全員がそもそも課題がないかのようにふるまったり。あなたの組織でも思い当たることはないでしょうか?

当事者が守りたいもの、失いたくないものは何か

そんな状況を乗り越えるには、状況を変えたいと思う人がリーダーシップを発揮する必要があります。リーダーシップは、組織の階層において上位の人だけが発揮するものではありません。組織でどの位置にいようと、「この状況を変えたい」と思う人が発揮するものです。

少し表現を変えると、適応課題を解決していこうとするのであれば、自分も当事者として、今まで得てきたものを失うことを受け入れ、周囲を巻き込んでいくしかないのです。自分だけ安全な場所にいて何も変わろうとしていないリーダーの発する言葉に、耳を傾ける人はいません。

利害の対立を乗り越えるためには、それぞれの関係者が「何を失うことを恐れているのか」「何を守りたいと思っているのか」、お互いの価値観やその背景を知る必要があります。知るためには、価値観や利害の対立が表面化することを恐れずに、関係者と根気強く対話を続けることです。

先ほどの高齢の母親の運転の例でいえば、ただ子どもが一方的に「危ないから運転をやめてほしい」と言っても母親は運転をやめないでしょう。なぜ自分が母親に運転をやめてほしいのかを伝えるとともに、「運転ができる」というアイデンティティへの思いや運転ができない不便といった母親の「運転をやめたくない理由」に耳を傾け、母親がその痛みと向き合うために自分はどんなサポートができるのか? ということを話し合っていくことです。そうして初めて、この母子は二人の新しい生活を描き、受け入れていくことができるようになります。

自分自身も、課題を生じさせるシステムの一部である

しかし、リーダー向けの研修やワークショップでよく聞かれるのは「ここではできるが、職場ではできない」「ここでは言えるが、職場では言えない」という言葉です。研修やワークショップという非日常の、お膳立てされ心理的安全性の確保された場では可能なことも、普段の職場の複雑に絡み合った人間関係、利害関係、企業風土や制度などのさまざまな制約の中ではできなくなる、というのです。

外的な要因で行動や発言が制約されてしまうのは、ある程度仕方がありません。現実に向き合うと、「適応課題に取り組むには多大な時間やエネルギーを費やすことになるかもしれない」「関係者からの批判を浴びるかもしれない」「信頼してくれている人を敵に回すかもしれない」「組織内の対立を激化させるかもしれない」といった懸念が生じます。それは、あなた自身の痛みや喪失です。「できない」「言えない」という発言は、懸念が現実になることへの恐れ、そして「痛みを回避したい」という思いから出てくるものだといえます。

「できない」「言えない」と感じたとき、あらためて考えてみてほしいのは、これから先あなたが失いたくないもの、守りたいものは一体何なのかということです。適応課題を生じさせているシステムの一部として自分自身を客観的に見ることを、前出の『最難関のリーダーシップ』では「バルコニーに上がる」と表現しています。適応課題はダンスフロアにあり、その中にあなた自身もいます。混乱の渦中にいると全体像が見えませんが、バルコニーに上がってダンスフロアを見下ろすと、ダンスフロアで人々がどのように行動し、関わり合っているのか、その中であなた自身がどう関わっていたかもよくわかります。

あなたが最初の一歩を踏み出すために

もしあなたが職場の「モヤモヤ」に気付き、それをなんとかしたいと思ったならば、できることはただ一つ「モヤモヤの要因の一部であるあなた自身が、自分の痛みと向き合うこと」そして「自分自身が変化し、リーダーシップを発揮すること」です。あなたがモヤモヤに気付いた時点で、すでに組織は変革のスタートラインに立っています。

一口にリーダーシップや対話と言っても、実践することは容易ではありません。痛みに対する恐れを乗り越えて一歩踏み出すためのマインドセットも必要ですし、関係者に働きかけるためにはさまざまなスキルが必要になります。次回以降は、対話で組織の課題に向き合うための具体的な方法をお伝えしていきます。

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株式会社ソフィア

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古川 貴啓

組織の風土、行動を変えていく取り組みを企画設計から、実行継続まで支援しています。ワークショップなどの対話を通して新たな気づきを組織に生みだし、新らたな取り組みを始めるための支援を得意としています。

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