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SDGsの問題点と企業が抱える課題の全貌|2025年最新調査と「共感1割」の壁を越える経営戦略

最終更新日:2026.02.13

#サステナブル#SDGs

2015年の国連採択から10年が経過し、SDGs(持続可能な開発目標)は企業の経営戦略において不可避のテーマとなりました。しかし、多くの日本企業が「SDGsウォッシュ」のリスク、サプライチェーン管理の複雑化、そして何より「社員の冷めた視線」という内なる壁に直面しています。表面的なスローガン掲出はもはやリスクでしかありません。本レポートでは、既存の議論で看過されがちな「SDGsの構造的問題点」を洗い出し、弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」の衝撃的なデータ(戦略への共感はわずか1割)を交えながら、大企業の経営企画・事業部門長が今なすべき「本業統合型」のアプローチを徹底的に論じます。

SDGsが内包する構造的な問題点と課題

2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。採択から約10年が経過し、その認知は爆発的に広がりました。世界中で注目を集め、国際機関や各国政府だけではなく、民間企業や個人などさまざまなセクターが取り組むべき目標として捉えられています。

最近では、日本でも多くの企業がSDGsの取り組みを検討するようになりました。経団連の企業行動憲章改定や、投資家によるESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大が後押しとなり、SDGsは「推奨事項」から「経営の参加資格」へと変貌を遂げています。しかし、企業がSDGsを推進する中で、よく直面してしまう障壁もあります。本章では、まずSDGsが抱えている問題点、課題とは何か、その構造的な背景から紐解きます。

企業がSDGsに取り組む前に知っておきたいこと

SDGsの本質を理解するためには、その歴史的変遷と現在の立ち位置を正確に把握する必要があります。単なる流行として捉えると、経営リソースの無駄遣いになるだけでなく、ブランド毀損のリスクすら招きかねません。

SDGsに取り組む企業が増えている

SDGsに取り組む企業が増えている背景には、前身となるMDGsからの大きな転換があります。2000年に国連で採択されたMDGs(ミレニアム開発目標)というものがあります。MDGsは発展途上国をターゲットとし、貧困の削減や初等教育の充実などを目指したもので、主に国や国際機関、NGOなどが注目する概念でした。MDGsは一定の成果を上げましたが、あくまで「途上国の支援」という文脈が強く、先進国の企業が当事者意識を持ちにくい構造がありました。

一方のSDGsは、自然環境の保全や労働環境の改善など、発展途上国だけでなく先進国や世界全体に関わるような課題の解決を目指しています。気候変動、ジェンダー平等、働きがい、技術革新といったテーマは、先進国企業の事業活動そのものと密接に関係します。そのため、企業も社会の一員としてより良い未来の構築に貢献すべきという考えのもと、ビジネスに関連する目標も定められているのです。このような背景の中で、積極的にSDGsへの貢献を行う企業も増えてきました。

同時に、SDGsの認知度も大きく向上しています。
2021年に行われた各種調査によると、日本企業の経営層の90%以上がSDGsを認知しており、多くの人が企業の取り組みに関心を抱いています。2019年、2020年の調査と比較しても、年々認知度を上げていることがわかります。

さらに、一般の従業員の間での認知度も高まっています。従業員3000人以上の大企業では97.5%に達するというデータもあり、従業員300人〜3000人の中堅企業、従業員300人以下の中小企業においても、「知っている」または「ある程度知っている」と回答する割合は8割を超えています。SDGsを推進する企業が増えているほか、統合報告書やサステナビリティレポート、Webサイトなどで非財務情報を開示する動きも標準化してきました。

事業で社会に貢献することは、経営に良い影響を与えるだけでなく、企業ブランドの向上にもつながります。世界的に注目を集めるSDGsにコミットすることは、企業にさまざまなメリットがあるのです。特に、Z世代を中心とした若手人材は就職先選びにおいて企業の社会的姿勢を重視する傾向にあり、採用競争力の観点からも無視できない要素となっています。

また、SDGsに取り組むのは、企業だけではありません。
2015年にパリで開催されたCOP21で採択されたパリ協定では、すべての国が温室効果ガスの削減目標を国連に提出することが義務づけられました。

SDGsが抱える課題:8つの構造的ジレンマ

SDGsが抱える課題は多岐にわたります。SDGsの注目度が上がる中で多くの企業が取り組み方を模索しているものの、目に見える成果を出すのは簡単ではありません。なぜでしょうか。それは、SDGsという枠組み自体が内包する構造的な難しさと、現実社会の複雑さが絡み合っているからです。競合分析の観点からも、社会的な問題点として以下の8つが指摘されています。

1. 実現が難しいテーマが多い

最大の課題は、実現が難しいテーマが多いということです。たとえば、SDGsの1つめの目標は「貧困をなくそう」。「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」ことを目指していますが、これは一朝一夕に解決できる課題ではありません。この目標の具体的なターゲットとして設定されているのは、1日1.25ドル(現在は2.15ドル基準などに修正議論あり)未満で生活する極度の貧困の人々を2030年までにゼロにすることや、各国で定義された様々な次元の貧困状態にある人を半減させることなどです。具体的で評価がわかりやすいターゲットですが、難易度は高く、簡単に達成できないことは明白でしょう。

このように、SDGsの17の目標はとても意欲的に設定されているため、短期間で簡単に実現できるものではないのです。企業が「貧困撲滅」に貢献しようとしても、自社のサプライチェーンの末端(例えば原材料の農園)までを完全に管理し、適正賃金を保証することは、従来のコスト構造を根本から覆す必要があり、経営的なジレンマを生じさせます。

2. 社会全体で取り組む必要がある

SDGsが取り上げている課題は、単独の企業や団体だけで解決できるようなものではありません。様々なアクターが協力し合って社会全体で取り組む必要があるのです。SDGsの17番目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」が設けられているのはそのためです。

たとえば、5つめの目標として「ジェンダー平等を実現しよう」が定められています。日本にとっても重点的な課題として指摘されている目標です。世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数において、日本は先進国中で最低レベルに低迷し続けています。

最近では、大企業などを中心に数値目標(女性管理職比率30%など)を定めて女性を役員に積極的に登用するような事例も増えており、徐々にではありますが進捗が見られるようになりました。しかし、中小企業などでの取り組みは遅れがちであることや、国会議員に占める女性の割合が低く政策決定への女性参画が進んでいないことなど、まだまだ男女平等な社会が実現しているとは言えない面も残っています。

また、教育や啓蒙活動により人々の先入観(アンコンシャス・バイアス)に働きかけたり、適切な社会の土壌を築いたりしなければ、本当の意味でのジェンダー平等の実現はできません。こうしたことは、1組織の取り組みではなく社会全体での取り組みが必要です。社会全体を変えるには、それぞれのアクターが様々な観点から働きかけなければいけないのです。

もちろん、それぞれの企業などで組織内におけるジェンダー格差の解消に取り組むのは非常に大切なことです。しかし組織内限りの取り組みに留めるのではなく、社会的な活動に広げていくために、一般の人々を含めた多くの人に関心を抱いてもらうこともポイントになります。

このように、SDGsを達成するためには、社会を構成する様々なアクターが足並みを揃えることが求められています。これが、SDGsの取り組みの難しさでもあるのです。一企業が努力しても、取引先や業界全体の商慣習が変わらなければ、構造的な搾取や環境負荷は温存されてしまうからです。

3. テーマはそれぞれの受け取り方次第

SDGsで設定されている目標に対するアプローチの方法は1つではありません。ゴール(目標)は示されていますが、ルート(手段)は自由です。これが混乱を招く要因ともなっています。テーマはそれぞれの受け取り方次第で、取り組みの内容が大きく変わります。

たとえば、「目標14:海の豊かさを守ろう」を実現するために、プラスチックの利用を規制することで海に流出するごみを削減するべきだと考える人もいるでしょう。これは「脱プラスチック」のアプローチです。

一方で、プラスチックを無害化する分解技術を開発するために研究に力を入れるべきだと考える人や、プラスチックを再利用しやすい社会的な仕組み(サーキュラーエコノミー)の構築を検討する人もいるかもしれません。これらは「技術革新」や「システム変革」のアプローチです。

実際、日本のスタートアップや大手企業では、「アップサイクル(廃棄物を高付加価値製品へ転換)」や「フードテック(食料生産の技術革新)」といった領域で、独自の解釈によるSDGs貢献が進んでいます。それぞれアプローチはまったく異なりますが、どれが正しくてどれが間違っているというわけではなく、課題に対してそれぞれが考える解決策が違うだけなのです。組織によって持つ強みは異なるので、強みを活かしやすい取り組みを考えることが大切です。持続可能な社会を実現するための過程には答えがあるわけではなく、各々が考えるべきことです。その際には、自分と異なるアプローチをとっている取り組みを理解しようとする姿勢も重要です。また、他者に自分たちの取り組みを理解してもらうための説明や発信力も必要でしょう。

テーマの受け取り方次第で取り組みの方法は無数にあるため、自由度が高く取り組むきっかけがつかみやすい反面、難しい点にもなっています。「何をやってもSDGsと言えてしまう」現状は、後述する「SDGsウォッシュ」の温床ともなり得ます。定義の曖昧さが、実効性のないパフォーマンスを許容してしまう側面があるのです。

4. 先進国に取り組みが偏る

SDGsの「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」というコンセプトのもと、政府や国際機関、NGOなどの団体、企業、そして個人など、地球上のすべてのステークホルダーはそれぞれの役割を果たさなければいけません。

しかし、先進国に取り組みが偏る傾向があり、SDGsの目指す社会を実現するために積極的な取り組みができるアクターは限られているのも現実です。自然環境や地域社会に配慮して持続可能な世の中を築いていくためには、追加コストが必要となる可能性も高く、経済的な余裕が必要だからです。

SDGsには、地球温暖化の問題を意識した「目標13:気候変動に具体的な対策を」というゴールが設定されています。この目標の達成のために、ヨーロッパを中心とした先進諸国の中には、二酸化炭素の排出量を抑える技術や仕組みを利用して環境に優しい街づくりを進めている事例もあります。欧州グリーンディールなどはその最たる例です。

しかし、すべての国がそうした取り組みを真似できるわけではありません。多くの場合、新技術の導入には莫大な費用がかかるからです。また、現在発展の過程にある新興国(グローバルサウス)は、多少環境に負荷をかけたとしても自国のために経済成長を優先したいと考えてもおかしくありません。「先進国が過去に排出してきたCO2のツケを、なぜこれから発展しようとする我々が払わなければならないのか」という「気候正義」の問題も根深く存在します。

ほかに、「目標3:すべての人に健康と福祉を」「目標4:質の高い教育をみんなに」などは発展途上国で特に重点的な取り組みが必要な項目ですが、実現のためには先進国やNGO、企業などによる経済的な支援やノウハウの伝授が不可欠です。

SDGsへの取り組みは時間も費用もかかるものであり、必ずしもすべてのステークホルダーが同じように優先的に取り組めるものではありません。SDGsと向き合う姿勢や優先課題が国によって異なることも、SDGsの難しさと言えるでしょう。

5. パンデミック下で達成状況が遅れている

2030年までの達成に向けて多くのステークホルダーが少しずつ歩みを進めているSDGsですが、パンデミック下で達成状況が遅れているという事実は無視できません。現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行、およびその後の地政学的緊張(ウクライナ情勢、中東情勢など)により、その進捗状況にも悪影響が生じています。長引くパンデミックとインフレの中、特に健康・教育・所得の観点から見た指標が打撃を受けました。

たとえば健康面では、新型コロナウイルス感染症による健康悪化や死者数の増加ももちろん大きな問題ですが、感染症の流行に伴いほかの病気の治療が満足にできなくなったり予防接種が中断されたりといった連鎖的な悪影響ももたらされています。また、食料の供給チェーンが機能しなくなり飢餓に苦しむ人々が増加しているほか、経済活動が減速したことで職を失った人々も世界中に数多くいます。

さらに、感染症の拡大防止と持続可能な社会を実現するための取り組みには、必ずしも相性が良いとは言えないものもあります。たとえばカフェやレストランは、昨今の環境意識の高まりから使い捨てプラスチックの削減に取り組む事例が増えていましたが、感染症の拡大を防ぐために使い捨て容器の使用を再開したというケースもあります。

国連の「Sustainable Development Report 2024」によれば、SDGsの進捗は世界的に停滞、あるいは後退しており、2030年の目標達成は極めて困難な状況にあります。日本においても、ジェンダー平等(目標5)、つくる責任つかう責任(目標12)、気候変動対策(目標13)、海の豊かさ(目標14)などで「深刻な課題がある」と評価されています。

6. ゴールが見えにくく、達成度合いが測定できない

数値目標が設定しにくい定性的な目標(例:平和と公正)に関しては、ゴールが見えにくいという問題があります。明確な数値がないため、達成イメージが湧きにくく、地域や文化によって「達成」の定義が異なることも混乱の一因です。さらに、世界的にSDGsの達成度合いが測定できないというデータ不足の問題も深刻です。特に途上国では現状把握のための統計データ自体が存在しないケースが多く、どこに課題があるのかさえ正確に把握できない状況にあります。

メリットばかりが語られやすいSDGs、取り組む企業が抱えがちな問題点とは?

SDGsに取り組むことによる企業のメリット(ブランド向上、資金調達、人材確保など)は広く知られるようになってきた一方、SDGsに取り組む企業が抱えやすい問題点についてはなかなか語られることがありません。SDGsを進める中でどのような壁に直面するのか、特に大企業の現場で起きている実態を見てみましょう。

自社の事業とSDGsの目標にコミットできない

一つめに、自社の事業とSDGsの目標にコミットできない、つまり経営戦略とSDGsを結びつけることができないという課題があります。この背景にある原因は、SDGsの本質を理解しないまま単なる寄付活動やメセナ活動などの「社会貢献活動(CSRの一部)」と捉えている経営者が多いということです。SDGsへの取り組みは本来、事業とは別枠で行うのではなく、通常の事業活動の中で行っていくべきもの(CSV:Creating Shared Value、共有価値の創造)です。

たとえば、自然環境を守るために植林活動をすることに決めたとしましょう。これだけでは、SDGsへの取り組みとしては不十分です。なぜなら本業とは別枠で植林活動をしたとしても、利益がなくなればその活動をやめてしまう可能性があるからです。持続可能な活動にしなければ、SDGsにコミットした経営をしていることにはなりません。使っている原材料を環境配慮型のものに変更したり、サプライチェーンの見直しをしたりして、本業の活動そのものを自然環境に配慮した形にしなければいけないのです。

しかし、そうした取り組みを進めるとコストは増大し、短期的には利益が減少する可能性があります。業績にネガティブな影響を与えかねない取り組みを率先して行いたい企業は多くないのではないでしょうか。まさに「言うは易く行うは難し」で、本当の意味でSDGsにコミットした経営を叶えるのは非常に難しいことなのです。

一方で環境配慮型のサプライチェーンを構築することは、すなわち持続可能なビジネスモデルを再構築することでもあります。そして、自社の取引先に新しい価値を提供することにもつながります。長期的な視野に立てばそれは必要な投資として自社に利益を生み出すでしょう。「環境配慮型のサプライチェーン」を叶えることは、自社の経営戦略上の課題解決やイノベーションの種になる可能性も秘めているのです。
脱炭素の取り組みが今後世界的にますます加速していくことで、電気自動車への参入が遅れている日本の自動車産業は不利な立場に置かれるかもしれません。その一方で、先進国としての立場から、脱炭素への取り組みをやめるわけにはいけません。利益の追求だけでなく、自社としてSDGsをどう捉えてどうビジネスに変換していくかが重要になります。これは近年、経済産業省が提唱する「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」の概念とも合致します。社会の持続可能性と企業の稼ぐ力を同期させることが求められています。

社内にコミットできない:冷める現場、響かない戦略

SDGsのように経営全体に関わる取り組みを打ち出しても、社内にコミットできない、すなわち社内で合意形成ができないという問題もあります。これは経営企画部門が最も頭を抱える問題の一つです。

調査データが示す「共感1割」の衝撃

SDGsが単なる社会貢献活動事業と捉えられていて、事業とは関係ないという意識が社員の中にもある、ということが挙げられます。企業というのは利益の最大化を目指して活動する存在なので、短期的な利益に直結しない活動は組織にとっても二の次になってしまいがちです。

さらに、SDGsへの取り組みを進めるためにはコストや手間がかかります。たとえば一般的に、環境に配慮した材料を使った製造を進めるとコスト増に直結します。また、活動内容を開示するための報告書の作成など、新たな業務も発生するでしょう。積極的にSDGsに取り組んでいる大企業などでも、実際には経営層や関連部門の一部社員しかSDGsの本質を理解しておらず、その他の社員は自社の取り組み内容すら把握していない、ということも珍しくありません。
この「社内の温度差」は、具体的なデータによっても裏付けられています。弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」(従業員数1,000名以上の企業に勤める496名を対象)によると、驚くべき実態が明らかになっています。

このデータから読み取れるのは、以下の深刻な事実です。

圧倒的な不全感:約8割の社員が社内コミュニケーションに問題を抱えており、組織の血流が滞っている状態です。

縦割り組織の弊害:「部門間の壁」が最大のボトルネックとなっており、SDGsのような全社横断的プロジェクト(サプライチェーン管理や脱炭素など)を進める上で、部門を超えた連携が阻害されています。

戦略の空回り:経営層がいくら高尚なSDGs目標やパーパス(存在意義)を掲げても、現場の社員の9割はそれを「他人事」として冷ややかに見ているか、日々の業務に追われてそれどころではないというのが現実です。

また、社内浸透施策として「1on1ミーティング」が54%の企業で導入されていますが、現場からは「効果がない」「負担が増えただけ」という声も多く、手段が目的化している現状が浮き彫りになっています。対話の「量」は増えても、戦略への共感という「質」が伴っていないのです。

SDGsは、「貧困を終わらせ、地球を守り、地球上のすべての人々が平和と豊かさを享受することのできる社会を目指す」という大義を持っています。このSDGsの大義は誰にも否定できないものであるのに関わらず、内容がわかりにくく取り組みづらいという特徴があります。SDGsというテーマの特殊性を理解してもらうためにも、単なる通達ではない、戦略的な社内コミュニケーションによる施策は欠かせません。

サプライチェーンを管理してもしきれない:高まるリスク

より実務的な面では、サプライチェーンを管理してもしきれないという課題があります。サプライチェーンの中で、それぞれのパートナーがSDGsに準じているかどうかを管理しきれないというリスクです。サプライチェーンが複雑だったり関係会社への依存度が高かったりする企業では、すべてを把握するのが難しいと言えます。また、製造や管理を委託先に丸投げしている場合は、SDGsの理念に沿わない環境があったとしても、是正しにくい場合もあります。

サプライチェーンを管理するためには、アンケートなどを実施して定期的に監査することが重要です。運営やマネジメントの体制を把握しようとすることで、ある程度のリスクはコントロールできるようになるでしょう。対外的にSDGsへの賛同を公表しているのに、サプライチェーンの把握・管理が適切にできておらず、何らかの問題が指摘された場合、むしろ企業イメージの低下を招くことにもなりかねません。

EU CSDDDと日本企業への波及

この「管理しきれない」という悩みは、もはや「努力目標」では済まされない段階に入っています。特に欧州(EU)では、企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)が成立し、大企業に対して自社だけでなくサプライチェーン全体における人権・環境への悪影響を特定・予防・軽減・是正することを法的に義務付けました。

CSDDDは2024年7月に施行されましたが、2025年2月のオムニバス法案により適用開始が2028年に延期されました。さらに適用対象企業の基準も緩和され、対象範囲が縮小されています。 直接の対象はEU域内の大企業やEUで一定の売上がある企業ですが、その影響はバリューチェーン全体に及びます。つまり、EU企業と取引のある日本企業(たとえ中小企業であっても)は、取引先から厳格な人権・環境デューディリジェンス(DD)の実施と情報開示を求められることになります。

人権リスク:強制労働、児童労働、劣悪な労働環境など。

環境リスク:温室効果ガス排出、生物多様性の破壊、廃棄物管理など。

これらに対応できなければ、取引停止のリスクに直面します。経済産業省も2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定し、2023年には実務参照資料を公開して日本企業に対応を促していますが、現場レベルでの実装はまだ道半ばです。PwCの調査でも、取引先がCSDDDの対象かどうか「わからない」と回答した企業が半数を超えており、リスク認識の甘さが露呈しています。

企業がSDGsに取り組む前に認識すべきこと

以上の障壁を踏まえた上で、実際にSDGsの取り組みを始める前に、次のようなことを認識しておくのが大切です。

自社のビジョンを見直す必要があるかもしれない

SDGsへの取り組みを内外にわかりやすく伝えるためには、自社のビジョンを見直す必要があるかもしれない、すなわち経営理念や企業ミッションをより社会的な視点でリデザインすることが必要になります。これは、近頃では「企業のパーパス(Purpose)」などと呼ばれています。SDGsに沿った経営は、現代における企業の当然の役割として社会から求められているものであり、その流れは今後も一層強くなっていくでしょう。

しかし、日本はもともとSDGsの考え方が根付いている企業が多くあります。日本には古くから、「売り手」「買い手」「世間」が満足する経営を目指す「三方よし」という考え方があります。近江商人の哲学に由来するこの概念は、現代のステークホルダー資本主義やSDGsと極めて親和性が高いものです。根本的にビジネスを変えるというよりは、見方を変えたり、ステークホルダーに発信するストーリーを見直すだけでも良い場合もあります。
重要なのは、そのビジョンが「壁に飾られた額縁」ではなく、現場の意思決定基準として機能しているかです。

CSR活動との違いを理解する

SDGsへの取り組みを開始するにあたっては、CSR活動との違いを理解することも重要です。「企業の社会的責任」という意味のCSRは、SDGsよりも以前から知られている概念でもあり、すでにCSRに対応するための部署などをもうけている企業もあるでしょう。CSRとSDGsは、どちらもより良い社会を目指す活動という面では共通しますが、少し異なる部分もあります。

CSRは、企業が消費者や従業員、地域社会といったステークホルダーから信頼を得るために行う「経営基盤」という意味ですので、その活動は管理やリスク対応、あるいは利益の再分配としての社会貢献が主体となる傾向がありました。
一方でSDGs(およびCSV)は、企業活動を通して経済的価値と社会的価値を共創するという考え方です。事業活動を通して全社員が一体となって取り組むべき経営戦略であるといえるでしょう。

CSR:利益を出した「後」に社会に還元する(本業の付随活動)。

SDGs/SX:社会課題を解決することで利益を「生み出す」(本業そのもの)。

この違いを明確にしないと、SDGs活動は最初のコストカットの対象になってしまいます。

社内の合意形成に時間がかかる

SDGs推進の活動指針を定めるためには、社内の合意形成に時間がかかることを織り込んでおく必要があります。SDGsというのは企業理念の中核に据えて企業戦略として取り組んでいくべきものでもあり、中長期かつ緻密な計画が必要だからです。

上から押し付けられただけの指針では、社員の合意形成は難しくなります。前述のソフィアの調査結果(共感1割)が示す通り、トップダウンのメッセージだけでは現場は動きません。経営層が常に、従業員の共感できるようなブランド構築のストーリーを発信し続ける必要がありますが、それだけでは不十分です。

また、活動指針は初めに一度だけ合意できればよいというものでもありません。方向性は間違っていないか、社内の認識に問題はないかという観点から、継続的に情報共有や振り返りをする必要があります。コミュニケーションを取り続けることが大切です。

時間はかかりますが、SDGsのような複雑なテーマをしっかり合意形成できる組織風土や社内コミュニケーションシステムがあれば、今後どんなテーマにも対応できる組織に成長できるはずです。

SDGsウォッシュを防ぐ必要がある

SDGsに取り組んでいるように見せかけているものの実態が伴っていないような状態を、SDGsウォッシュ(グリーンウォッシュ)と言います。SDGsウォッシュを防ぐ必要があることは、リスク管理の最重要項目です。企業イメージを高めるために意図的にSDGsウォッシュが行われる場合もありますが、気を付けなければいけないのは、意図せずSDGsウォッシュをしている可能性もある、ということです。

高まる監視の目と「見えざるリスク」

たとえば、サプライチェーンの管理が適切でなければ、下請け企業で不適切な労働や環境に悪影響のある製造などが行われていても気が付くことができないかもしれません。このような場合、たとえ下請けでSDGsの理念にそぐわないビジネスが行われていたことを知らなかったとしても、SDGsウォッシュとして批判されてしまう恐れがあります。
環境省や消費者庁もこの問題に対し、規制を強化しています。

環境省:環境表示ガイドラインの改訂を進め、曖昧な「エコ」「サステナブル」といった表現に警鐘を鳴らしています。

消費者庁:景品表示法(優良誤認表示)に基づく取り締まりを強化。根拠のない「No.1表示」や「100%リサイクル」等の表現は摘発対象となります。

新たな火種「削減貢献量」:自社製品が社会のCO2削減にどれだけ貢献したかを示す「削減貢献量」の開示が進んでいますが、比較対象が不明確だったり、自社の排出量から差し引いて「カーボンニュートラル」を謳ったりすることは、新たなグリーンウォッシュとみなされるリスクがあります。

意図的なSDGsウォッシュは論外ですが、これまでの商慣行などから無意識のうちにSDGsウォッシュをしてしまっている場合もあるので、注意が必要です。特に「実態以上に良く見せようとする」広報バイアスは危険です。SDGsに対する正しい理解と、自社の活動全体の適切なマネジメントを行うことで、SDGsウォッシュを防ぐよう心掛けるのが大切です。不都合な事実(Negative Impact)も隠さず開示し、その改善プロセスを示す姿勢こそが信頼獲得への近道です。

すでにSDGsに沿って経営している日本企業は多い

SDGsというのは2015年に採択された比較的新しい概念ですが、SDGsの根底にある考え方がまったく新しいものというわけではありません。前述した「三方よし」の精神などは、多くの日本企業に古くから根付いているものです。
つまり、すでにSDGsに沿って経営している日本企業は多いのであり、あらためてSDGsに自社の製品やサービスを紐づけなくても、もうすでにSDGsに沿った経営がなされている場合があるのです。

1つ、例を見てみましょう。
総合化学メーカーの住友化学は以前から、「自社の発展のみでなく社会に貢献するような事業を行う」という理念のもとで事業を行っています。これは、まさしくSDGsの考え方の根底にあるものです。

この理念を具現化した取り組みとして、住友化学では、自社の技術を利用して製造した蚊帳(オリセット®ネット)をアフリカなどのマラリア流行地域に提供しています。マラリアは今でも多くの命を奪う病気ですが、貧困のせいで適切な予防策がとれていない地域も多くあります。そうした地域で、蚊帳を提供するだけでなく、現地の企業に無償で製造技術を提供して現地生産を進め雇用を生み出すなど、地域の発展につながる取り組みを行っているのです。

このように、自社技術を利用して社会課題の解決を目指す姿勢は、まさしくSDGsにつながる考え方です。そのため、すでに実践している自社の取り組みをSDGsの目標と結び付けて発信することで、SDGsへのコミットメントを対外的に示すことも可能なのです。ただし、これを「後付けのラベル貼り」で終わらせず、SDGsのレンズを通すことで「さらに何ができるか」「どの社会課題が見落とされていたか」を発見する機会とすることが重要です。

社内コミュニケーションが重要

SDGsのための企業の行動変革の重要性を理解してもらうためには、社内コミュニケーションが重要です。
SDGsが企業にとって新たなビジネスチャンスにつながることや、企業の持続可能性に関わる重要課題であること、もはや取り組まないことがデメリットでしかないことなどを、企業内で発信し続けることが必要です。

企業におけるSDGsの導入指針については、「SDGsコンパス」によって示されています。

  1. SDGsを理解する
  2. 優先課題を決定する
  3. 目標を設定する
  4. 経営へ統合する
  5. 報告とコミュニケーションを行う

SDGsコンパスには、SDGsの社内理解の推進・浸透のステップが描かれています。しかし、単にこのステップをなぞるだけでは不十分です。弊社ソフィアの調査から導き出された「社内浸透の処方箋」は、以下の3つの要素を有機的に組み合わせることです。

対話(Dialogue):一方的な発信ではなく、1on1やタウンホールミーティングを通じて「なぜやるのか」「自分に何ができるか」を話し合う場。ただし、形骸化した1on1は逆効果です。調査では、1on1が「効果がない」と感じている層も一定数いることが明らかになっており、質の向上が課題です。

教育(Education):研修やeラーニングによる知識の底上げ。SDGsの基礎知識だけでなく、自社ビジネスとの関連性を学ぶ機会。

ツール(Tools):社内報(Web/紙)、チャットツール、イントラネットなどの整備。情報へのアクセス性を高め、部門間の壁を越えた情報共有を促進する。

調査では、1on1ミーティング(導入率54%)や研修(同51%)が多くの企業で導入されていますが、「戦略への共感」を高めるためには、これらを「点」ではなく「線」でつなぐ施策が必要です。

SDGsへの取り組みは、短期的に成果が出るものではありません。間断ないコミュニケーションを行い続けることで少しずつ浸透していくものだと理解し、進めていきましょう。

まとめ

この記事では、企業がSDGsの活動に参入するにあたってどのようなことが課題となるのかを見てきました。SDGsへの取り組みは社会貢献や企業の新しいビジネス創出(SX)、人材獲得などメリットとなる一方、その導入に失敗すれば「SDGsウォッシュ」としての批判や、コスト増による経営圧迫、社員の離反など、経営に大きなダメージを与えます。

それは、SDGsは企業の内部改革の問題ではなく、ステークホルダーからの評価につながるからです。SDGsへの理解を深めると同時に、どのような問題があるのかも把握し、取り組みを始めるためのヒントとするとよいでしょう。特に2025年以降は、欧州の法規制強化や国内の人的資本経営の潮流と相まって、SDGsは「任意の社会貢献」から「企業の生存戦略」へと完全にフェーズが移行します。この変化を先取りし、社内の共感を「1割」から「過半数」へと広げられた企業こそが、次世代のリーダーとして生き残ることができるのです。

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よくある質問
  • SDGsとは何ですか?
  • SDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)は2015年の国連サミットで採択された目標で、「持続可能性」が重要なテーマとなっています。それまで、世界では経済成長に重きが置かれていて、20世紀には各国が大幅な経済発展を遂げることに成功しました。しかしその裏では、自然環境の破壊や格差の拡大など、多くのひずみもあったのです。
    そうした世の中の負の状態を正すため、将来の世代から搾取することなく現在の世代のニーズを満たす「持続可能な開発」という考え方のもと、国際社会が一丸となって取り組みを進めることになりました。このような背景からSDGsが採択され、世界各国でさまざまなステークホルダーがSDGsを推進するようになったというわけです。

株式会社ソフィアサーキュラーデザイン

ソフィアサーキュラーデザイン代表取締役社長、サステナブル・ブランド・コンサルタント

平林 泰直

大手メーカー系コミュニケーション部門での責任者としての実績からデジタルマーケティング、インターナル広報、メディア編集など、企業のコミュニケーションに関わる戦略策定、実行支援をお手伝いします。