COVID-19危機から得たコミュニケーションの教訓

ビジネスコミュニケーターの世界団体IABCでは、メンバー向けにオンラインコミュニティであるThe Hubを運営しています。そこに投稿された「COVID-19後に職場に戻ることについて」という質問の投稿に端を発し、コミュニティのメンバー間で議論が起こりました。
この経験をもとにカナダのイルミネート・コンサルティング・グループ株式会社プリンシパル・コンサルタント兼オーナーのシェリー・ノウロスキ氏がWeb会員誌『Catalyst』へ寄稿した、ビジネスコミュニケーターへのアドバイスをご紹介します。

コミュニケーションの専門家は、すでに6ヶ月に渡ってCOVID-19による危機の中で組織の舵取りをリードしてきました。そのことでストレスがかさみ、疲れ果て、影響は私たちの生活のすべてに及びました。一方で、コミュニケーターのグローバルコミュニティでは、互いにサポートし合うユニークな機会を得ることにもなりました。
4月の終わりに、イルミネート・コンサルティング・グループの主催で、世界中から80人以上のコミュニケーション専門家が参加した無料のワークショップを実施しました。

組織の変化を生み出す触媒として

ワークショップの参加者は、まず組織をどのようにサポートしているかを共有しました。グローバルな舞台でコミュニケーションの専門家として仕事をしている仲間たちは、ビジネス戦略の転換、リモートワークへの移行、現場に不可欠な従業員の作業手順の変更、財務上の決定や人員配置の難しい意思決定をサポートしてきました。そのすべてを通じて、彼らは新しいテクノロジーを活用し、新しい戦術を導入し、価値の高い仕事に集中してきました。
多くの参加者は、今回の危機をきっかけに、以前には受け入れられなかった以下のようなアイデアに対して、それぞれの組織で積極的な賛同を得ることができたと述べています。

  • 重役がビデオに出演する(出演に対して特に熱心な重役も存在します)。
  • 外部の主要な関係者に対して隔週で情報発信する。
  • 従業員に焦点を当てた社内向けのストーリーテリングの中で、環境の変化に対処し、従業員の誇りを生み出し、コミュニティに対する従業員の貢献を称賛する (企業の地位を高めることを狙った「売る」ためのマーケティングアプローチではなく)。
  • Yammer、Slack、Teamsなどのコラボレーションツールを導入する。

組織に対する信頼の向上

もう一つの傾向として、コミュニケーションのトーンが変化した結果、従業員の組織への信頼が向上したことが挙げられました。ワークショップ参加者が経験したことは、従業員の63%がメディアよりも雇用主を信頼していると回答したエーデルマントラストバロメーターのコロナウイルス特別レポートの結果と合致しています。その信頼は、リーダーが弱みを開示し、真の自分のまま働いて、思いやりと共感を持ってコミュニケーションを取ることによって引き起こされたのです。
こうして信頼を構築する活動を継続するリーダーには、強力なサポートとなるデータがあります。グレート・プレイス・トゥ・ワークの調査によると、信頼度の高い文化の会社は、株式市場で市場平均の2~3倍のリターンを得ているそうです。企業は、次の信頼構築活動を続行すべきです。

  • 従業員への共感と思いやりを示しながら、(リーダーの例を示して)真の自分の姿で働けるように奨励する。経営陣の自撮りビデオは、社会的に遠い存在と感じられがちのリーダーを従業員に身近に感じさせ、どのように決定が行われているかについて理解を深めるための洞察を提供する。
  • 経営陣によるバーチャルタウンホールミーティングを頻繁に開催する。
  • オンラインによるチームミーティングや、リーダーとの1対1のミーティングを頻繁に行う。
  • リーダーは成功を祝い、感謝の気持ちを表し、悲劇があれば隣に立って支え、自信を示しながらも、私たちはまだすべての答えを持っていないと進んで表明する姿勢が大切。

次のフェーズのための5つのヒント

ワークショップが開催された時点では、誰もがまだ危機モードでした。それ以来、私たちは、危機時の全力疾走からパンデミック時の持久走へと移行し、今後何が起こるかについて想定したことの中には誤りもあると学びました。
ワークショップでは、今後数ヶ月間で段階的なアプローチを経て、誰もが職場に戻ってくるものと大まかに想定しました。現在、企業各社は、すべての従業員が安全に戻れるようになるまでには、1年以上かかると予想しています。最近になって、テクノロジー企業のShopifyとTwitterは、オフィスに実際にいる必要がない人は恒久的に在宅勤務にするというポリシーを発表しました。このような予期せぬ紆余曲折は、今後も持久戦を通じて続くことになります。次のフェーズに向けた対処をスムーズにするための 5 つのヒントを以下に示します。

1.情報をオープンにして透明性を保つ

職場復帰の計画において問題となるのは、情報が変化するスピードです。従業員がさまざまな疑問や不安を支えている現状において最善のアプローチは、正直であることです。何が分かっていて、何が分かっていないのか、どんな議論が今なされているのか、そして今後どのように決定が下されるのか、正直に伝えることです。リーダーが不確実性を認識しつつ、社内各層に(理由を示して)洞察を与えることで、従業員は流動的な事情を理解し、たとえ今すぐ答えが得られなくても、自分の質問にやがて対処してもらえるという安心感を得られます。

2.現状把握調査を実施する

今、これまでにないほど、私たちの私生活は、私たちの仕事生活と交差しています。在宅教育、高齢者の介護、個人の健康に関する配慮、公共交通機関の安全性、在宅勤務の好き/嫌い、こうしたことが従業員の職場復帰において配慮すべきことになりました。そのため、継続的に現状把握調査をすることが不可欠になっています。調査は、従業員が今どのような状況か、彼らが懸念している事は何かを理解し、各段階であなたが取るべき姿勢を明確にするのに役立ちます。

3.ビジュアルで示して変化への理解を促す

人々は職場に戻ることを切望しているかもしれませんが、それはかつての通常の就業日に戻ることではありません。健康状態の評価、身体的な距離を保つこと、清掃など、新しい決まりごとが必要です。従業員にとって、これらの変更に一度足を踏み入れ、すべて経験することは、経営側が思う以上に大変です。あるワークショップ参加者は、戻ってくる従業員に対して必要なすべての行動の変化と職場の見た目の変化について、事前に画像やビデオを通じて紹介することで理解を促進し、スムーズに業務をスタートすることに成功しました。従業員が実際に職場に戻ったとき、自分たちは何を予期して、何をすべきか正確に理解できていたのです。

4.「隣の芝生は青い」効果に注意する

ほぼすべての組織には、2つの異なる従業員グループが存在します。現場に残ることが不可欠だった従業員と、在宅で働いていた従業員です。現場に不可欠な従業員は、通勤の必要がなく誰も実際に肩越しに監視する人がいないリモートワークの方がはるかに楽だと思うかもしれません。リモートワークの従業員は、オフィスに行ったり、他の人と交流したりして、家族に24時間365日取り囲まれることがない、平常さを望んでいるかもしれません。
それぞれの従業員グループによる貢献と挑戦を称賛するイベントやストーリー、お祝いをすることは、従業員間の分断リスクを軽減するのに大いに役立つでしょう。

5.長期的なコミュニケーション目標を前面中心に据える

絶えず進化するパンデミックによって、人々は反応モードに終止しているかもしれません。やるべきタスクリストをチェックするのに忙しく、仕事には終わりがありません。危機を通じて、私たちコミュニケーターはリーダーの理解を得ることに大きな成果を上げました。リーダーは、コミュニケーションの価値と、協議の場にコミュニケーションの専門家がいることのプラスの影響を理解したのです。反応モードにおいては、その時々に最も重要なことに集中する時間しかなかったので、コミュニケーターの戦術がより大きな影響を与えました。しかしこれからは、コミュニケーションの長期的な目標に向かって推奨事項と意思決定を意識的に行い、得られた成果を維持し、前進する必要があります。

最後に、重要なこととして、世界中のコミュニケーションの同僚とつながり、お互いに学ぶことの価値を過小評価してはいけません。パンデミック対応の基本である健康と安全の最新情報、新しいテクノロジーの導入、現状把握調査は、多くのフォーラムを通じて共有されているインサイトです。

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株式会社ソフィア

ビデオ・プロデューサー、コミュニケーション・コンサルタント

池田 勝彦

主にビデオ制作で撮影から編集までを担当しています。記事原稿も書いていますが、英語による取材・編集もやりますし、翻訳もできます。

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