SDGs事例20選と日本企業の課題|世界ランキングと社内浸透の壁
目次
2030年のSDGs達成期限が迫る中、多くの日本企業がサステナビリティ経営を掲げています。しかし、「SDGsウォッシュ」への懸念や、現場社員への浸透不足に悩む経営企画・事業責任者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、フィンランドなどの世界ランキング上位国の取り組みから、トヨタ、サントリーといった国内企業の最新事例までを網羅的に解説します。さらに、SDGs推進のボトルネックとなっている「社内コミュニケーションの課題」について、株式会社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」のデータを基に紐解き、組織全体でSDGsを推進するための具体的な処方箋を提示します。
SDGsへの世界の取り組み方は?ランキング上位国の取り組み事例を紹介
世界の潮流とSDGsの現在地
2015年に国連で採択されたSDGsは、持続可能な社会に向けて世界中のすべての国が取り組むべき目標です。しかし、その取り組み方は国によって大きく異なっています。また、SDGs目標の期限である2030年に向けた現在の達成度も千差万別です。
2015年の採択から約10年が経過し、私たちは今、「行動の10年(Decade of Action)」と呼ばれる重要な局面に立っています。当初はスローガンとしての側面が強かったSDGsですが、現在では企業の生存戦略や国家の競争力を左右する重要なファクターへと変貌を遂げました。特に気候変動問題は待ったなしの状況にあり、脱炭素への移行はビジネスルールの根本的な書き換えを迫っています。
2021年においては、アメリカ・バイデン政権の気候変動対策「グリーンニューディール」政策や、2060年までにカーボンニュートラル(ネットゼロ)を目指すことを表明した中国の動きが目立っており、国際秩序が過渡期にある中でも、大国は大きな方向性で一致していることがわかります。
その後も国際情勢は激動を続けています。ウクライナ情勢や中東の紛争はエネルギー安全保障の問題を浮き彫りにし、一時は化石燃料への回帰も懸念されました。しかし、長期的には「エネルギー自立」と「脱炭素」を両立させる再生可能エネルギーへのシフトが加速しています。欧州ではCSRD(企業サステナビリティ報告指令)が施行され、企業に対して財務情報と同等の厳格さで非財務情報の開示が求められるようになりました。このように、SDGsはもはや「意識の高い目標」ではなく、「グローバルビジネスの参加資格」となっているのです。
それぞれの国で、SDGsはどのように推進されているのでしょうか。この記事では、各国の達成状況と達成度ランキングの上位に入っている国々で行っているSDGsへの取り組みをご紹介します。自社でSDGsの取り組みをはじめようとしている方は、日本国内の事例だけでなく海外事例も参考にしてみてください。
海外の事例を知ることは、単に他国の動向を把握するだけでなく、日本の現状を相対化し、独自の課題を発見するためにも不可欠です。特にランキング上位国がどのように「社会システム」としてSDGsを実装しているのかを知ることは、企業の経営企画やサステナビリティ推進において重要な示唆を与えてくれるでしょう。
SDGs各国の達成状況は?
最新ランキングから読み解く世界の勢力図
「誰一人として取り残さない」ことをスローガンに、SDGsはより良い社会を目指すための17の目標と169のターゲットを定めています。しかし、その具体的な取り組みは国によってさまざまで、達成度にも差があります。
そこで、それぞれの国の状況を把握するために、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)とドイツのベルテルスマン財団が、各国におけるSDGsの取り組みについて年に一度報告書を作成しています。
この報告書「Sustainable Development Report」は、SDGsの進捗を測る世界的な「健康診断」のようなものです。各国の達成度を数値化しランキング形式で発表することで、どの国がリードし、どの国が遅れているのか、そして世界全体でどのような課題が残されているのかを可視化しています。
では、2021年に発表された各国のSDGs達成状況の概要を見てみましょう。
全体の達成度ランキングで1位となったのは、フィンランドです。2020年の3位から順位を上げました。2020年トップだったスウェーデンが今回も健闘し、デンマークが2位にランクインしています。
3位は、2020年に2位にランクインしたデンマークでした。上位3か国を北欧が占めていて、そのあとにはドイツ、ベルギー、オーストリアが続きます。
上位10か国までにランクインしたのは、すべてヨーロッパの国でした。このことから、ヨーロッパでSDGsへの取り組みが特に進んでいる傾向であることがわかります。
【追加・比較分析:2024年〜2025年の最新動向】
この「北欧強し」の傾向は、2024年の最新レポートにおいても変わっていません。フィンランド、スウェーデン、デンマークは依然としてトップ集団を形成しています。なぜこれほどまでに北欧諸国は強いのでしょうか。その背景には、「高い環境意識」だけでなく、「高福祉・高負担の社会システム」や「質の高い教育」、「ジェンダー平等の浸透」といった社会基盤が整っていることが挙げられます。彼らにとってSDGsは「新しく取り組むべき課題」ではなく、「既存の社会システムの延長線上にある目標」として捉えられているのです。
先進国共通の課題:環境負荷と経済成長のジレンマ
しかし、ヨーロッパの国々がSDGsのすべての項目で達成度が高いわけではなく、いくつかの項目ではあまり良い成果が挙げられていません。特に、目標12「つくる責任 つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」の4項目については、世界的に取り組みが遅れていると指摘されています。中には、多くの国でほとんど進展が見られなかった項目もありました。
これは非常に重要なポイントです。ランキング上位の先進国であっても、大量消費・大量廃棄を前提とした経済活動からの脱却(目標12)や、生物多様性の保全(目標14, 15)には苦戦しています。むしろ、経済発展が進んでいる国ほど、一人当たりのエコロジカル・フットプリント(環境負荷)が大きくなる傾向にあります。これは「スピルオーバー効果(負の波及効果)」とも呼ばれ、先進国が自国内ではクリーンな環境を維持していても、輸入製品の製造過程を通じて途上国に環境負荷を押し付けているという構造的な問題を浮き彫りにしています。
SDGsに積極的に取り組んでいるヨーロッパの国でも、17の項目すべての実現に向けて順調に進めることはできていないのです。
分野ごとの進捗とパンデミックの影響
2021年9月時点、それぞれの項目ごとに見ると、順調な進捗の見られるものもあります。例えば、「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」です。
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大が1つのきっかけとなり、インターネットが今では不可欠なインフラとも言えるようになってきていますが、2018年の段階ですでに世界の人口の90%がネット環境にアクセスできる場所で生活をしていました。また、先進国と発展途上国の間で差はあるものの、研究開発への投資は世界的に増加しています。パンデミックの影響で人々の生活様式が変わっている中、これからも研究開発に対する注力は続くことが期待できます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速は、リモートワークや遠隔教育を可能にし、物理的な移動に伴うCO2排出の削減にも寄与しました。しかし同時に、「デジタル・ディバイド(情報格差)」という新たな不平等を生み出すリスクも孕んでいます。技術革新を誰のために、どのように使うかという倫理的な視点が、今後のSDGs達成においてより重要になってくるでしょう。
また、「目標1:貧困をなくそう」についても改善がみられます。SDGsが採択された2015年と比較し、極度の貧困状態にいる人々の割合は2018年には1.4%減少していました。ただし、感染症拡大の影響により再び状況が後退することが心配されているのも事実です。
「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」は日本でも近年特に注目されている項目ですが、世界的にも取り組みが進んでいます。たとえば、企業で女性の役員登用を増やす取り組みが行われたり、政界への女性の進出が奨励されたりするなど、今まで男女に隔たりのあった分野での女性の活躍が後押しされるようになってきました。また、発展途上国の貧困家庭では女子の教育が後回しにされるような実態もまだ根強く残ってはいるものの、国際機関やNGOなどの活動により初等教育に関する男女差なども改善してきています。
SDGsの達成状況 日本のランキングについて
世界における日本の立ち位置
SDGsへの注目度が世界中で高まる中、日本の取り組みはどの程度評価されているのでしょうか。
SDGsに向けた日本の達成状況
2020年の状況を反映した最新のSDGs達成状況ランキングが2021年に発表され、日本は18位でした。前回の17位から順位を下げる形となりましたが、ヨーロッパ諸国が上位を占める中でヨーロッパを除いた各国の中では最高位です。
日本のSDGsの達成度は、一定の評価がなされていると考えてよいでしょう。
【2024-2025年最新分析】
その後の推移を見ると、日本は2024年のレポートにおいて167カ国中18位(スコア79.9)となっています。2023年の21位からは若干のランクアップを見せましたが、依然としてトップ20のボーダーライン上にあり、欧州勢との差は縮まっていません。アジア地域の中では依然としてトップクラスですが、その背中を追う国々との差は決して安泰とは言えません。
項目ごとに見ると、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、そして目標16「平和と公正をすべての人に」などで高い評価を受けていることがわかります。100%を誇る日本の初等教育就学率やその後の高等教育への高い進学率、それに科学技術の水準の高さやインターネットの普及率などを考えると、納得感のある評価ではないでしょうか。
これらは日本の「お家芸」とも言える強みです。特に質の高いインフラや治安の良さ、教育水準の高さは、持続可能な社会を支える強固な基盤となっています。しかし、これらの強みが将来にわたって維持できるかは不透明です。少子高齢化による労働力不足や、教育現場の疲弊、科学技術予算の停滞など、足元では様々な課題が顕在化し始めています。
日本が直面する「深刻な課題」
一方で、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」については一部改善がみられるもののまだ課題があると指摘されています。国会の女性議員の比率がかなり低い状態にとどまっていることや男女間に依然として賃金格差があることなど、社会的な男女格差が課題となっているのです。
2024年の評価でも、ジェンダー平等は依然として「深刻な課題(Major challenges remain)」、いわゆる赤信号のままです。世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数でも日本は先進国中最下位レベルに低迷しており、政治・経済分野での女性参画の遅れがSDGs達成度全体の足を引っ張る最大の要因となっています。これは単なる人権問題にとどまらず、多様な視点が経営に反映されないことによるイノベーションの阻害や、労働力不足の深刻化といった経済的損失にも直結しています。
また、目標14「海の豊かさを守ろう」では、海の状態を表す海洋健全度指数などでの後退が見られました。目標15「陸の豊かさも守ろう」でも、生物の絶滅リスクの傾向を示すレッドリスト指数などにおいて悪化が指摘されています。
これらに加え、目標12「つくる責任 つかう責任」や目標13「気候変動対策」も依然として厳しい評価を受けています。プラスチックごみの輸出や、再生可能エネルギーへの転換スピードの遅さが指摘されています。
アジアにおける平均と比較すると日本のSDGs達成度は高いものの、項目によってはさらなる努力が必要な点も数多くあることがわかります。また、SDGsを達成するための取り組みにはゴールがあるわけではなく、一度状況が改善してもそれを持続させる努力を怠ればすぐに状況が後退してしまう可能性もあります。一度限りではない長期的な取り組みが大切なのです。
SDGsの達成度が高い国々がやっていること
日本企業が学ぶべき視点として、ランキング上位国がどのように「社会システム」としてSDGsを組み込んでいるかを紹介します。彼らの取り組みは、単なる規制対応ではなく、イノベーションの源泉としてSDGsを捉えている点に特徴があります。
フィンランド:行政主導の意識改革とデジタル活用
では、SDGsの達成度を高く評価されている国々ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。いくつか事例を見てみましょう。
フィンランドの取り組み事例
フィンランドはSDGs達成度が高く、上位3カ国の常連です。特徴的なのは、行政が中心となって持続可能な社会構築への取り組みを進める中、社会的にもSDGsの考え方がかなり浸透してきていることです。
フィンランドでは、首相が委員長を務める「持続可能な開発委員会」が強力なリーダーシップを発揮しています。特筆すべきは、若者の参画を重視している点です。「アジェンダ2030ユースグループ」という若者による諮問機関が設置されており、政策決定プロセスに将来世代の声が反映される仕組みが整っています。
首都ヘルシンキの取り組みを見てみましょう。ヘルシンキの観光情報を紹介するウェブサイトには、「サステイナビリティ」に焦点を当てた情報を発信するページが設けられています。このページを訪れた市民や観光客は、どの施設がサステイナブルな1日の過ごし方について情報を得たりすることができるのです。行政が中心となって積極的に持続可能性に関する情報発信を続けることで、人々にとってもSDGsの考え方が身近なものとなってきているのです。
そもそもフィンランドで持続可能性という考え方が注目されるようになったのは、国連でSDGsが採択されるよりもずっと前のこと。「持続可能な開発に関する国家委員会」が設置されるなど、国としても持続可能な社会を活発に推進しています。「コミットメント2050」というシステムを利用することで、企業や個人など社会を担うさまざまなアクターが持続可能性を推進する行動を目標化することもでき、SDGsの概念はかなり一般的なものとなっています。
時間をかけて国を挙げた取り組みを進めることで人々の意識を変えることができるという例として、参考にできるのではないでしょうか。
スウェーデン:ビジネスとサステナビリティの完全統合
スウェーデンの取り組み事例
SDGs達成度ランキング上位の常連国であるスウェーデンも、国が主体となり持続可能な社会の推進を長年行ってきました。その結果、企業のSDGsに向けた意識が高まっているのが特徴です。
スウェーデンの特徴は、「環境技術(クリーンテック)」を主要な輸出産業として育成している点です。サステナビリティへの取り組みがコストではなく「儲かるビジネス」として認識されており、多くのスタートアップが社会課題解決型のビジネスモデルで成功を収めています。
たとえば、ラグンセルスという企業を見てみましょう。ラグンセルスは、企業や家庭などから出た廃棄物を処理する会社であり、断熱材のリサイクルに力を入れています。気候の厳しいスウェーデンでは断熱材は必需品ですが、これをリサイクルして繰り返し利用できるようにすることで、埋め立て処理される量を減らしています。これは、SDGsの目標12「つかう責任 つくる責任」に沿った行動です。
また、ラグンセルスは断熱材のリサイクル事業をデンマークの企業と共同で行っています。目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の精神に基づいた活動で、国境を超えた企業のパートナーシップとしても参考になります。
スウェーデンでは、企業におけるSDGsへの取り組みがかなり活発です。ラグンセルスのほかに、スウェーデン発祥の企業で世界的に有名な家具量販店のイケアも、SDGsの実現に力を入れていることで知られています。たとえば、製品の55.860%以上に再生可能な素材が利用されているほか、エネルギー利用効率の高い家電製品を展開するなど、環境を意識した製品づくりをすることで循環型の社会を目指しています。また、食材は動物福祉や人権、環境に配慮して第三者機関の認定を受けたものを使用したり、女性や移民など多様性に富んだ職場環境を実現させたりと、自然環境、労働環境、ジェンダーなどの様々な側面からSDGsを推進しているのです。
SDGsへの取り組みに関心がある日本企業にとっても、スウェーデンの企業の取り組みは参考になるはずです。
デンマーク:生活そのものをリデザインする
デンマークの取り組み事例
ほかの北欧諸国と同じく、デンマークも国全体として環境に対する意識が高いのが特徴です。また、以前は日本のように男女の社会的な格差があったものの、現在は少しずつ改善に向かっています。管理職になる女性が増える一方で、家事や育児に進出する男性も増えるなど、男女の格差が縮小しているのです。このような背景にも助けられ、国や自治体によるSDGs推進の取り組みは功を奏しており、組織や企業も更なる取り組みを進めています。
デンマークには、SDGsの達成度世界1位の名にふさわしい特徴的な取り組みが行われています。世界でも類を見ないような興味深い活動なので、今回はそちらをご紹介しましょう。
デンマークで行われているのは、「UN17 Village」という取り組みです。これは、SDGsの17の目標をすべて達成できるようなビレッジを建設するプロジェクトです。一般に都市部では多くの二酸化炭素が排出されているという現状がありますが、快適な暮らしは守りつつも「サステイナビリティ」の考え方と両立させることを目指し、このプロジェクトが立ち上がったのです。
ビレッジは、2024年秋に完成しました。広さ35,000平方メートルほどの中に、リサイクルされた建材などを使用した5棟の建物が建てられ、800人以上が居住できる街になります。ビレッジ内で利用されるエネルギーは、100%再生可能エネルギー。屋上にはソーラーパネルが設置され、自家発電が可能となるのです。雨水を貯水するシステムが導入され150万リットルもの雨水が利用できるほか、多様な生物の住みかとなるよう、屋上庭園もつくられる予定となっています。
このビレッジは、自然環境という側面のみから持続可能性を目指しているわけではありません。居住地は多様な世代の人々が近隣と関係を築きながら暮らせるようにデザインされ、住人が精神的に健康な暮らしを営むことができるという点も考慮されています。社会的な持続性が生まれるのです。単に再利用した材料やエネルギーのみを使った街づくりではなく、新しい持続可能なライフスタイルを目指すことが目的なのです。
近年、SDGsの複数の項目に取り組む企業や組織は増えてきています。しかし、17の項目すべてをまとめて達成しようとする取り組みは世界にも例がありません。地球上で最もサステイナブルな居住地づくりを目指す野心的な取り組みとして、デンマークの「UN17 Village」のプロジェクトに注目が集まっています。
日本企業のSDGs事例20選|大手からユニークな中小企業まで
ここからは、日本国内で特徴的なSDGs活動を展開している企業の事例を紹介します。競合記事では個人の取り組み紹介が中心でしたが、本記事では経営企画や事業開発のヒントとなるよう、「サプライチェーン改革」「商品開発」「地域連携」などの視点で分類した具体的な企業事例を20選お届けします。
大手企業の先進事例:事業構造の転換とイノベーション
事例1:ファーストリテイリング(ユニクロ・GU)
「服のチカラ」で難民支援とリサイクルを推進
ファーストリテイリングは、全商品をリサイクル・リユースする「RE.UNIQLO」を展開しています。特筆すべきは、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)と連携した「”届けよう、服のチカラ”プロジェクト」です。これは単なる寄付ではなく、小中高生への出張授業を通じて子供たちが主体的に服を回収する仕組みを構築しており、次世代教育(目標4)とつくる責任(目標12)、貧困対策(目標1)を統合しています。
また、2030年度の温室効果ガス削減目標をSBT(Science Based Targets)認定水準に引き上げるなど、サプライチェーン全体での脱炭素化を強力に推進しています。
事例2:トヨタ自動車
「Woven City」と水素エンジンで未来の実証実験
トヨタは、「幸せの量産」をミッションに掲げ、静岡県裾野市に実証都市「Woven City」を建設中です。ここでは、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、AI技術などをリアルな生活環境で検証し、目標11「住み続けられるまちづくりを」の最先端モデルを構築しようとしています。
また、EV(電気自動車)だけでなく、水素エンジンの開発により、既存の内燃機関技術を活用しながら脱炭素を目指す「マルチパスウェイ」戦略を採用。雇用を守りつつ環境対応を進める(目標8、13)姿勢を示しています。
事例3:サントリーホールディングス
「水と生きる」を体現する次世代環境教育「水育」
サントリーは、製品の生命線である「水」を守るため、「水育(みずいく)」という環境教育プログラムを2004年から実施しています。水源涵養林の保全活動だけでなく、次世代への啓発活動を行うことで、持続可能な水資源の利用(目標6)と質の高い教育(目標4)を両立させています。また、ペットボトルの「ボトルtoボトル」リサイクル技術の確立により、プラスチックの完全循環を目指しています。
事例4:良品計画(無印良品)
素材の見直しと給水サービスで行動変容を促す
良品計画は、飲料容器をペットボトルから循環型リサイクル率の高いアルミ缶へ切り替えました。さらに、店舗内に無料の給水機を設置し、マイボトルの利用を促進する「水プロジェクト」を展開。単に商品を売るだけでなく、消費者のライフスタイルそのものを持続可能な形へ変容させる(目標12)アプローチが評価され、「Japan Sustainable Brands Index」でも高い評価を得ています。
事例5:象印マホービン
炊飯器開発の副産物をアップサイクル
象印マホービンは、炊飯ジャーの開発過程で必ず発生する「試食用の炊飯米(ごはん)」の廃棄問題に着目しました。従来は廃棄されていたこのごはんを発酵させ、除菌ウエットティッシュやクラフトビールへとアップサイクルする事業を展開。本業のプロセスで生じるロスを、異業種との共創によって新たな価値に変える(目標12、17)ユニークな取り組みです。
事例6:日本航空(JAL)
CO2排出削減とバイオジェット燃料への挑戦
航空業界はCO2排出量の多さが課題ですが、JALは「2050年ネット・ゼロエミッション」を掲げ、SAF(持続可能な航空燃料)の導入を推進しています。古着の綿から国産バイオジェット燃料を製造するプロジェクトなど、異業種と連携した技術開発にも積極的です(目標7、13、17)。
事例7:セブン&アイ・ホールディングス
ペットボトルの完全循環システム
店舗にペットボトル回収機を設置し、回収したボトルを再びペットボトルとして商品化する「完全循環型リサイクル」を構築。消費者が日常的に訪れるコンビニという拠点を活かし、リサイクルを生活の一部に組み込む仕組みを作りました(目標12)。
事例8:住友林業
木造建築で都市の脱炭素化
高層建築物の木造化を推進する「W350計画」を発表。木材は成長過程でCO2を吸収・固定するため、鉄やコンクリートに比べて環境負荷が低い素材です。都市を「第二の森」にすることを目指し、森林経営から建設まで一貫したバリューチェーンで環境貢献を行っています(目標11、15)。
事例9:味の素
「アミノ酸」で世界の健康課題を解決
開発途上国の栄養改善プロジェクトとして、現地の食文化に合わせた栄養補助食品を開発・普及。ガーナでは離乳食の栄養強化などを行い、乳幼児の死亡率低下に貢献しています。本業である「食と健康」の知見を活かしたCSV(共有価値の創造)の代表例です(目標2、3)。
事例10:積水化学工業
「ごみ」を「エタノール」に変える技術
可燃性ごみを分別することなく、まるごとエタノールに変換する革新的な技術を開発。自治体や他企業と連携し、ごみを資源として再利用する社会インフラの構築を目指しています。廃棄物処理問題とエネルギー問題を同時に解決する画期的な取り組みです(目標7、9、11)。
中小企業のユニークな事例:独自技術と地域密着
事例11:株式会社ワンプラネット・カフェ
バナナの茎から紙を作る「バナナペーパー」
ザンビアのオーガニックバナナ農家で通常は廃棄される「茎」の繊維を利用し、日本の和紙技術と組み合わせて「バナナペーパー」を製造しています。これにより、現地の貧困層に新たな雇用を生み出し(目標1)、森林伐採を減らし(目標15)、廃棄物を削減する(目標12)という、多面的な社会的インパクトを創出しています。
事例12:木内酒造
廃棄ビールをクラフトジンへ再生
コロナ禍で飲食店の営業自粛が続き、大量のビールが廃棄の危機に瀕した際、木内酒造は「SAVE BEER SPIRITS」キャンペーンを展開。廃棄予定のビールを蒸留してクラフトジンとして再生させました。地域資源の有効活用とフードロス削減を、高い技術力とスピード感で実現した事例です。
事例13:日本理化学工業
知的障がい者雇用率7割のチョーク工場
ダストレスチョークで知られる同社は、全従業員の約7割が知的障がい者です。製造ラインの工程を工夫し、障がいのある社員が能力を発揮できる環境を整備。「誰もが働きがいを持って働ける社会(目標8)」を長年にわたり実践しており、ダイバーシティ&インクルージョンの先駆的モデルとして知られています。
事例14:邦美丸(岡山県玉野市)
「受注漁」で海の資源と漁師の生活を守る
漁師が獲った魚を市場に卸すのではなく、事前の注文分だけを獲る「完全受注漁」を導入。これにより、魚の廃棄ロスをなくし、乱獲を防ぐ(目標14)と同時に、漁師の労働時間の短縮と収入の安定化(目標8)を実現しました。持続可能な漁業の新しいモデルとして注目され、外務省の「ジャパンSDGsアワード」でも受賞しています。
事例15:会宝産業
自動車リサイクル技術で世界のごみ問題を解決
使用済み自動車のエンジンや部品をリサイクルし、世界約90カ国へ輸出。さらに、開発途上国に自動車リサイクルの技術移転や工場建設支援を行っています。これにより、現地での不法投棄による環境汚染を防ぎ(目標11、12)、資源循環型社会の構築に貢献しています。
事例16:株式会社坂ノ途中
環境負荷の小さい農業を広げる
「100年先も続く農業を」をメッセージに、農薬や化学肥料に頼らない農業を行う生産者と提携し、野菜の定期宅配や卸売りを行っています。新規就農者のパートナーも多く、持続可能な農業の担い手育成(目標2、8)にも貢献しています。
事例17:石坂産業
産廃処理場を環境教育の場へ
かつて迷惑施設と見られがちだった産業廃棄物処理場を、最新鋭の屋内型リサイクル工場へと変革。敷地内の里山を保全し、地域住民や子供たちが環境について学べる「三富今昔村」として開放しています。地域共生型の産廃処理モデルとして高い評価を得ています(目標11、15)。
事例18:株式会社ユーグレナ
ミドリムシで食料問題とエネルギー問題を解決
微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)を活用し、バングラデシュでの栄養改善プロジェクト(目標2)や、バイオ燃料の開発・実用化(目標7)を推進。「CFO(Chief Future Officer)」として18歳以下の若者を登用するなど、次世代の視点を取り入れた経営も特徴的です。
事例19:大川印刷
「環境印刷」でCO2ゼロを目指す
横浜市の老舗印刷会社である大川印刷は、再生可能エネルギー100%での印刷を実現。インクや用紙も環境配慮型を徹底し、「CO2ゼロ印刷」サービスを提供しています。本業を通じた脱炭素への挑戦(目標13)として、多くの中小企業の模範となっています。
事例20:みんな電力(株式会社UPDATER)
「顔の見える電力」でエネルギーの産地証明
ブロックチェーン技術を活用し、電気の生産者(太陽光発電所など)を選んで購入できる仕組みを構築。再生可能エネルギーのトレーサビリティを確立し、消費者がエネルギー選択を通じて環境貢献できるプラットフォームを提供しています(目標7、12)。
6. 国ごとの達成度の差も目立ってきている
地域間格差の拡大と「取り残される」国々
SDGsは、すべての国が取り組むべき目標です。けれど国ごとにその達成度は大きく異なり、上位層の国々と下位層の国々ではスコアに倍以上の差がついています。地域的な隔たりが大きく、2020年5月時点ではトップ層の北欧を初めとして、上位20か国に入っているのはほとんどがヨーロッパ諸国です。ヨーロッパ以外では11位のニュージーランドが最上位で、そのほか20位までにランクインしているのは日本、18位の韓国、20位のカナダのみ。反対に、ランキングの下位にはアフリカを中心とした貧困国が並んでいます。
この格差は、単なる経済力の差だけではありません。インフラの未整備、政情不安、気候変動による災害の頻発など、複合的な要因が絡み合っています。特にサハラ以南のアフリカ諸国では、SDGsの基礎となる「貧困」「飢餓」「健康」といった目標において深刻な停滞が見られます。
情勢の不安定な地域では、紛争や災害で居住地を追われる難民が発生する事例が近年になっても絶えず、SDGsの理想とする世界とはかけ離れた暮らしが続いているのです。また、貧困国でなくても、経済格差の広がりや男女不平等などの様々な課題があり、すべての国が高いレベルでSDGsを実現するにはまだ時間がかかるでしょう。
経済的な余裕のある国は、環境保全やパートナーシップの実現などの高いレベルでの取り組みも進めつつあります。一方で、極度の貧困や初等教育の欠如など、より基本的な課題に直面している国も多くあります。今後は、国と国とのいっそうの協力や企業による社会的責任の実現などが、ますます重要となってくるでしょう。
パンデミックと新たな危機の連鎖
パンデミックによるSDGsへの取り組みへの変化
新型コロナウイルス感染症のパンデミックがSDGsの進捗にもたらしている影響も無視できません。感染症の世界的な拡大により人々の生活にも大きな変容が強いられる中、SDGsの多くの項目について、進捗度の停滞や後退が見られています。
たとえば、経済活動が抑制されたことにより世界各地で職を失う人が増え、貧困状態の人々の数が増加しました。物流や人流が滞ってサプライチェーンに影響し、十分な食べ物にアクセスできない状況の人も増えています。人が自由に国境を超えることができなくなる中、観光が重要な収入となっていることも多い発展途上国や島嶼国にとっては、観光客の大幅な減少も大問題です。人々の雇用という観点だけでなく、外貨収入が途絶えることで安定的にモノや社会サービスを供給することも難しくなるからです。
さらに、ウクライナ侵攻による食料・エネルギー価格の高騰がこれに追い打ちをかけました。これにより「SDGsの達成は不可能になったのではないか」という悲観論も一部では聞かれます。しかし、こうした危機こそが、従来の脆弱な社会システムからの転換(Build Back Better)を促すきっかけにもなり得ます。
さらに、世界規模の混乱の中で先進国が受けている影響も大きく、発展途上国に援助する余力が減ってしまっています。経済的支援だけでなくワクチンの供給についても指摘されており、日本や欧米各国では多くの人にワクチンが普及しつつありますが、発展途上国の人々には平等に行き届いていないことが国際的な課題となっています。
感染症の拡大とSDGsの進捗とは一見それほど関連がないように思えるかもしれませんが、実は密接につながっているのです。今後、国や地域ごとの格差を拡大させないような取り組みもさらに重要となってくるでしょう。
国際協調としてのSDGs
SDGsは、アメリカや中国などの大国同士の摩擦を緩和する働きを持つと考えられています。
アメリカ・バイデン政権による地球温暖化防止と経済格差の是正の両立を目指す「Build Back Better(よりよい再建)」や、中国・習近平氏が表明した、2060年までにCO2排出を実質ゼロにする取り組み、カーボンニュートラル(ネットゼロ)など、大国によるSDGsへの対応は活発化しています。
国際情勢における問題は、気候変動だけでなく、各国の格差や移民・難民の問題など多岐に渡ります。今後ますます、国際秩序が複雑化し混乱が増して行くことが予想されています。SDGsという重要な共通目標に向けて国際協調を続けることが、大国同士の対立に歯止めをかけ、国際社会の紐帯の役割を果たすようになることも期待されているのです。
世界を参考に SDGsへの取り組み方のポイント
SDGsを達成するためには、これからさらに各国における取り組みを加速させていかなければいけません。その際、企業における取り組みではどのようなことがポイントとなるのでしょうか。
サプライチェーンから課題を発見
企業がSDGsに取り組む際にまず重要なのが、自社の商流の見直しです。今まで慣習的に行ってきたことや従来からの取引先・商材などに課題はないでしょうか。あらためてサプライチェーンを掘り下げてみると、環境負荷が大きい原材料を使用していたり、下請け企業の従業員が劣悪な労働環境で作業させられていたりするなど、何らかの問題が埋もれている可能性があります。そうした点を洗い出して改善していくことが、持続可能な社会を実現するための取り組みの一環にもなるのです。
現在、企業には「人権デュー・デリジェンス」の実践が強く求められています。自社だけでなく、サプライヤーまで遡って人権侵害リスクを特定し、対処する責任があります。
サプライチェーン上の課題として、わかりやすい一例を挙げてみましょう。近年、中国の新疆ウイグル自治区で強制労働の疑いが生じました。この問題を受け、当該地域に供給網を持つ多くの多国籍企業は迅速に調査に乗り出したりこの地域の企業との取引を停止したりしました。
また、当該地域が自社のサプライチェーンに属していないことを対外的に公表した企業もあります。強制労働はSDGsの理念に沿わず、持続可能な社会の実現に逆行する恐れがあるため、多くの企業がサプライチェーンを見直してメッセージを発信したのです。
これは極端な例かもしれませんが、サプライチェーン上に労働環境や環境負荷における疑念が見つかった場合はそこを是正することをきっかけにして、組織全体でのSDGsへの取り組みへとつなげていくこともできるのです。
バリューチェーンから自社の強みを見つける
SDGsに取り組むにあたって重要なことは、局所的に見るのではなく、自社のバリューチェーン全体を通して評価することです。サプライチェーンの中には、どうしても環境への負荷をかけてしまうような分野もあるでしょう。しかし、反対にポジティブなインパクトを生み出すことのできる分野もあるはずです。ネガティブな影響は最小限にしなければいけませんが、同時にポジティブな影響を最大化することで、バリューチェーン全体として社会に与えるポジティブなインパクトを増やす、という考え方もできます。
「SDG Compass」という企業向けガイドラインでも、バリューチェーンのマッピングは最初の重要なステップとされています。自社の事業活動が、どのSDGsゴールに対してプラスの影響を与え、どのゴールに対してマイナスの影響を与えているかを可視化することで、優先的に取り組むべき「重要課題(マテリアリティ)」が見えてきます。
SDGsの実現にあたり、自社がポジティブなインパクトを与えることのできる「強み」がどのような点にあるのかを考えてみましょう。たとえば、働きがいのある職場環境が整備されていることや、消費者の手に渡る最終製品がリサイクルしやすい素材で製造されていることなどが、社会に与える正の影響と言えます。こうした点を、SDGsに貢献するうえでの自社の強みとなるでしょう。
課題や強みを自社の取り組みと紐付ける
SDGsへの取り組みにあたっては、見つけた課題を克服したり強みをより発展させたりすることが大切です。たとえば環境負荷の高い原材料を使用していることを課題として認識したのであれば、より環境負荷を抑えることのできる原材料に変更することで負の影響を最小限にすることができます。
リサイクルしやすい製品を製造している場合は、リサイクルをより推進するような仕組みを作って消費者に提供してリサイクル率を上げることで、正の影響をより大きくすることができるでしょう。企業活動におけるこうした工夫の積み重ねが、SDGsの理念に近づくための秘訣です。
自社のバリューチェーンを改めて見直すことで、SDGsの項目に対してどのようにアプローチしていくべきなのかを考えてみるとよいでしょう。
SDGsの身近な例とは?個人・社員ができる取り組み事例
企業のSDGs推進において、社員一人ひとりの行動変容も欠かせません。競合記事でも紹介されている「個人の取り組み」を、企業活動の文脈(オフィスや働き方)に置き換えて紹介します。これらを社内啓発活動に取り入れることで、ボトムアップの機運を高めることができます。
オフィスでできるSDGsアクション
ペーパーレス化の徹底(目標12、15)
会議資料のデジタル化や、給与明細のWEB化。裏紙利用だけでなく、そもそも印刷しない業務フローを構築する。
マイボトルの利用と給水機の設置(目標12、14)
社内の自販機でペットボトルを買うのではなく、マイボトルを持参する文化を作る。ウォーターサーバーを導入し、プラスチックごみを削減する。
適切な空調管理とクールビズ・ウォームビズ(目標7、13)
過度な冷暖房を控え、服装で調整する。オフィスの照明をLED化し、昼休みは消灯するなどの省エネ活動。
フードロス削減(目標2、12)
社食での食べ残し削減キャンペーンや、賞味期限の近い防災備蓄品の配布・寄付活動。
働き方におけるSDGsアクション
ダイバーシティ&インクルージョン(目標5、8、10)
性別、年齢、国籍に関わらず、互いの意見を尊重するコミュニケーション。ハラスメントのない職場づくり。
育児・介護中の社員への配慮と、男性育休の取得促進。
リモートワークの活用(目標8、11、13)
通勤によるCO2排出の削減だけでなく、居住地の選択肢を広げ、地方創生にも貢献する働き方。
これらの活動は一見小さなことに思えますが、全社員が取り組めば大きなインパクトになります。また、こうした身近な活動を通じて「SDGsは自分ごと」という意識を醸成することが、より大きな事業変革への土台となります。
SDGs推進の最大の壁は「社内コミュニケーション」にあり
ここまで先進的な事例や取り組み方を見てきましたが、実際に企業がSDGsを推進する際、多くの担当者が直面するのが「社内の壁」です。どんなに素晴らしい戦略も、実行する社員の理解と共感がなければ絵に描いた餅に終わります。
データで見る「社内浸透」の危機的状況
弊社ソフィアの調査では、日本企業の社内コミュニケーションにおける深刻な実態が明らかになりました。株式会社ソフィアが2024年に実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」によると、企業の戦略や方針に対して「共感している」と回答した従業員はわずか10%(1割)に留まることが判明しました。
これは衝撃的な数字です。経営層やサステナビリティ推進室がいくらSDGsの重要性を訴え、統合報告書を作成し、社内報で発信していても、9割の社員にはその熱意や意図が「自分ごと」として伝わっていない可能性が高いことを示唆しています。「やらされている感」でのSDGs活動は持続せず、形骸化しやすいリスクがあります。
ボトルネックは「部門間の壁」
同調査において、社内コミュニケーションの最大の阻害要因として挙げられたのが「部門間の壁(サイロ化)」であり、回答者の58%がこれを課題と感じています。
SDGsの取り組み、特にサプライチェーン全体の管理やScope3(排出量)の削減などは、調達、製造、物流、営業といった部門横断的な連携が不可欠です。しかし、この「部門間の壁」が存在することで、以下のような問題が発生しやすくなります。
- 情報の分断:
サステナビリティ部門の意図が事業部に正確に伝わらない。 - 部分最適:
各部門が自部門の利益(短期的なPL)を優先し、全社的なSDGs目標(中長期的な価値)と利益相反を起こす。
ブラックボックス化: 特定の部門や担当者に業務が属人化し、ノウハウが共有されない。
デジタルツールの導入だけでは解決しない「三重苦」
近年、DX推進によりチャットツールやWeb会議システム、社内ポータルなどが多くの企業に導入されました。しかし、弊社ソフィアの調査では、ツールの導入が進んだ一方で「活用格差」が生まれ、情報がかえって分断される「情報共有の三重苦」とも言える状況が発生していることが示唆されています。
- 情報の埋没:
ツールが乱立し、どこに何があるかわからない。 - 一方通行:
発信はされるが、現場からのフィードバックがない。 - 心理的距離の拡大:
対面機会の喪失により、気軽な相談や雑談が減り、信頼関係が希薄化する。
単にツールを入れて情報を「通知」するだけでは、社員のエンゲージメントや戦略への共感は高まらないのです。
社内コミュニケーション不全が引き起こす「13の課題」
さらに調査では、コミュニケーション不足が組織に与える影響として、以下の「13の課題」を特定しています。これらはSDGs推進を阻害する直接的な要因となります。
- 精神的なストレスの増加とメンタルヘルスの悪化
- モチベーション(エンゲージメント)の低下
- 人材育成の停滞とナレッジ継承の断絶
- 離職率の高止まりと「びっくり退職」の増加
- 信頼関係の欠如と心理的安全性の低下
- チームワークの機能不全
- 業務の停滞と生産性の低下
- 連携ミスによるトラブルの多発
- 経営層と現場の意識ギャップ(認識のズレ)
- 重要な情報のサイロ化と共有漏れ
- 業務の属人化とブラックボックス化
- 不正・コンプライアンス違反の温床化
- イノベーションの阻害と新しいアイデアの枯渇
特に「9. 意識ギャップ」と「13. イノベーションの阻害」は、新規事業創出やビジネスモデル変革を伴うSDGs経営にとって致命的です。
SDGsを社内に浸透させるための3つの処方箋
では、この「10%の共感」を打破し、SDGsを全社的な運動にするにはどうすればよいのでしょうか。先進企業の成功要因やソフィアの知見に基づき、有効なアプローチを3つ提案します。
「通知」から「対話」へのシフト
多くの場合、SDGsの社内浸透施策は「eラーニング」や「社内報での一方的な通達」に終始しがちです。しかし、価値観の変容を促すには、一方通行のインプットだけでは不十分です。
弊社ソフィアの調査では、1on1ミーティングなどが多くの企業で導入されていますが、それが形式的になり、本質的な対話になっていないケースも見受けられます。
推奨アクション:
タウンホールミーティングの双方向化
経営層が話すだけでなく、社員からの質問や意見をリアルタイムで受け付ける場を作る。匿名で質問できるデジタルツールを活用すると、心理的安全性が担保され、本音の意見が出やすくなります。
部門横断ワークショップ
「自社のバリューチェーンでSDGsにどう貢献できるか?」を、部署の違うメンバー同士で話し合う機会を設ける(例:SDGsカードゲームを用いた研修など)。ゲーム形式にすることで、楽しみながら当事者意識を醸成できます。
「自分ごと化」を促すナラティブ(物語)の共有
SDGsを「国連の目標」や「会社の規則」として語るのではなく、社員一人ひとりの業務や想いとリンクさせる「物語」が必要です。
事例で紹介したファーストリテイリングの「服のチカラプロジェクト」や、象印マホービンのアップサイクル事業などは、社員が自社製品を通じて社会課題解決に関わるという「手触り感」のある物語を持っています。
推奨アクション:
現場のヒーローの発掘
経営企画発信ではなく、現場でSDGsに貢献する工夫をしている社員を社内報やイントラネットで特集する。「あの部署の○○さんがやっているなら」という共感の連鎖を作ります。
パーパスの翻訳
会社のパーパス(存在意義)が、個人の日々の業務にどう繋がっているかを、マネージャー層が翻訳して伝えるための研修を行う。自身の仕事が社会にどう役立っているかを実感できれば、エンゲージメントは向上します。
適切な「メディアとツール」の再設計
情報が届かない、見られないという課題に対しては、情報の流通経路(メディア)の最適化が必要です。全社員に一律の情報を流すのではなく、ターゲットや内容に応じてツールを使い分ける戦略が求められます。
推奨アクション:
PushとPullの使い分け
重要な方針は必ず目に入るプッシュ型(メール、デジタルサイネージ等)、詳細情報はプル型(ポータルサイト)など、動線を設計する。
データの可視化
エンゲージメントサーベイ等の結果を可視化し、コミュニケーション施策の効果を定量的に測定・改善する(PDCAを回す)。
まとめ
SDGsの達成状況とランキング上位の国の取り組み事例を見てきました。SDGsへの取り組みが進んでいる北欧諸国には、いくつかの共通点があります。たとえば、SDGsが採択されるよりも前から国や行政が持続可能な社会の実現に向けた活動を進めていたこと、国主導の取り組みにより徐々に企業や個人に「サステイナビリティ」という考え方が浸透してきていることなどです。
SDGsをすべて実現するためには、長い時間がかかります。けれど、小さな活動を継続することで、社会は少しずつ変わっていくものです。北欧諸国をお手本に、時間をかけても地道にSDGsの達成を目指していくのが大切です。
さらに、日本企業においては、素晴らしい技術や事業ポテンシャルを持ちながらも、組織内の「コミュニケーションの壁」がその力を削いでいる現状があります。弊社ソフィアの調査で明らかになったように、戦略への共感が1割に留まる現状を直視し、部門を超えた対話と連携を促すインターナルコミュニケーション改革こそが、SDGs経営を加速させる鍵となるでしょう。
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