デジタルトランスフォーメーション、「やってみた」から始めよう

How to ではなくDone !

連絡手段として生活に欠かせないものになってきている「LINE 」。プライベートのみでなく仕事の現場においてもコミュニケーションツールとして大いに役立つ。その使用が会社の情報セキュリティルールに反している(会社指定以外 の電子機器・ソフトウェアの使用を禁じている企業は多い)ことに目をつぶれば、ちょっとした報告・連絡・相談はこれで足りる。最初は先輩や上司にスタンプを送ることに抵抗を感じていたが、使い始めた次の日にはもうスタンプのやりとりが当たり前になっていた…。

ITの浸透に必要な姿勢は、「How to」ではなく「Done」である。「やってみた」、「もうすでに使っている」、という世界。テクノロジーや新しい概念の受容に必要なのはそういう感覚だ。読者の皆さんの中には、組織のITの浸透や利活用に悩むご担当者も多いことだろう。この記事が何かのヒントになれば、大変嬉しく思う。

あなた自身の仕事はともかく、世界のデジタル化 は進んでいる

1年ほど前に書いたコラムで 、「10年前と現在とで、あなたの仕事はどう変化したか?」という問いかけをした。 私はその後も、コンサルタントという立場で、組織内コミュニケーション改善や、業務変革のプロジェクトに携わっているが、組織の規模にかかわらず、どの企業でも現在進行形の課題となっていると感じるのが、さらなるデジタル化(≒IT化)への変革「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」だ。この言葉が頻繁に活字として登場するようになってから、既に3年は経とうとしているが、今でもよく相談を受ける。

ちなみに、2018年2月にマイクロソフトが発表した調査結果では、「2021年までに日本のGDP(国内総生産)の約50%をデジタル製品やデジタルサービスが占める」「2021年までにデジタルトランスフォーメーションはGDPのCAGR(年平均成長率)を0.4%押し上げる」といった予測が出ている。

変革したい組織。個人のデジタル体験の方が一歩リード

あえて問う。なぜあなたの会社はDX(※)を推進する必要があるのだろうか。

答えは簡単だ。たぶんあなたの会社のIT化、デジタル化が遅れているからだ(あなたの会社が先端を進んでいるならば、もう別の課題に取り組んでいるはずだ)。きっと経営層は変革の必要性をよく認識して経営計画の中でそれを訴えているに違いない。しかし、その声は、組織内のタテとヨコの壁に吸収されて、形になるまでの間になくなってしまっているのだろう。

※本稿では、自社が顧客に提供するサービスのデジタル化と自社内の業務フローのデジタル化を区別せず、広い概念でのDXと表現している

一方で、社員の日常生活におけるデジタルとの接点はどうだろうか? 例えば、スマートフォンで今日の訪問先への交通手段を調べたり、ランチに手ごろな店を検索して比較検討したりする。SNSでは今日のニュースをチェックしたり、友人と連絡をとる。記事で紹介されていた書籍をリンク先のAmazon.comで注文。株価や投資信託の動きをチェックしつつ、ビットコインへの投資を移動時間に検討。家ではもっぱらNetflixで映画を見たり、Spotifyで音楽を聴いたり、ときにはオンライン英会話教室で勉強。友人は、海外旅行の際はAirbnbで宿を探してUberで車を呼ぶそうだ。

そんなあなたが何かのサービスを利用する際、「手書きで何枚もの申し込み用紙を記入」「書類を郵送」「手続きのために店舗に何度も足を運ぶ」「同じサービスに関することなのに、異なる窓口に何か所も問い合わせしなければならない」「オンライン上に製品マニュアルがない」などの状況に出くわしたら「なんて不便なんだ!!」と憤るかもしれない。

私たちが将来にわたって仕事で対峙していくのは、あなたのような顧客である。そして、それはコンシューマー向けの製品・サービスだけでなく、BtoBのビジネスにおいても同様だ。もしあなたの会社が今どき「商品カタログは冊子のみ、注文方法は電話かFAXのみ、決済手段は手形のみ」だったら顧客はより便利なパートナーを探しはじめるだろう。

さまざまなデジタルツールによるコミュニケーションのスピードアップ、業務の自動化によるコスト削減、データ活用による「より個別化された価値提供」などを実現できないことが、ビジネス上のハンディキャップになる可能性もある。 そう、好奇心旺盛な消費者の力を借りて、デジタル化は待ったなしに進んでいく。

DXの進まない組織で生きる、個人としての感性

「そうはいっても、何からデジタル化すればいいのか」「どこの部門が主幹になってDXを進めるのか」「組織文化が変わらなければDXなど無理だ」といった愚痴も聞こえてくる。

なぜDXが進まないのか、組織としては以下のような理由があるだろう。
・DXを進めるにあたっての関連部署・部門の連携と調整
・方針決定→上申→予算承認→実施 というウォーターフォール型の手順
・システム又は運用上のセキュリティ保全措置、その検討

あなたが会社に新しいツールやシステムを導入したいと思ったとき、 ユーザーニーズの調査レポートを作成して、デジタル化のアイデアのポンチ絵を描いて、上司に提案する。そして組織のラインにそって上申し、トップの承認を得たら各部門トップを通して他部門の協力を仰いでいく。正しい手順だ。

しかし、着手するまでにどれくらい時間がかかってしまうのだろうか。「結果が出るころにはその技術やアイデアが時代遅れになっている」という嘆きが聞こえそうだ。

他方で、個人としてはどうだろう? 繰り返しになるが、あなた自身や、周囲の社員の多くは、日常の中でさまざまなデジタルツールを使い、生活を便利にしている。

私がここで強調したいこと。それは、DXを推進したいならば、「まず自分でやってみる」ことだ。「こうしたらいい」と提案するのでも「こうやってほしい」と指示するのでもない。まずやってみる。

自部署で小規模な改善や変革を実施し、うまくいったこと、うまくいかなかったことを確かめる。やり方を変えてまたやってみる。そうするうちに、自部署メンバーのデジタルリテラシーが高まり、他部署にも展開できるようなノウハウが蓄積されていく 。

例えば、音声検索や音声入力を積極的に使うとどれだけ業務が効率化されるのか、プロジェクトの連絡手段としてメールを禁止し、メッセンジャーなどのコラボレーションツールにしたらどうか。顧客とのファイル共有は、メール添付ではなくクラウド上のストレージを利用してはどうか。安価に使えて安全な、業務の自動化ツールはないか、etc…

実際、組織内コラボレーションをテーマにした数多くのインタビュー調査の中で、「正式導入が決まったわけじゃないんですけど、トライアルを兼ねてSharePoint使ってみたんですよ」とか、「顧客向けにサービスデジタル化の構想を1ページものの資料で見てもらったら、強い関心を示されたんですよね」などという声をよく聞く。

「まずやってみる」上で障壁となるのは、セキュリティーの問題だ。組織のルールに照らしてどこまで勝手にやっていいのか。どこまで申請するべきなのか。デジタル活用におけるセキュリティーの解釈にも、デジタルリテラシーが大きく関わってくる。そもそもセキュリティーとは禁止や規制が目的ではなく、より便利に、かつより安全に仕事を進めるために「デジタル」という道具を使うためのルールに過ぎない。例えるなら「屋外で火を使う時には水を用意する」「包丁の先は人に向けない」といったたぐいのもの。「危ないから」といって火や刃物を禁止すれば、人はいつまでもそれらを扱えるようにはならないのだ。

個人から組織へ~やってみる、コラボレーションする、行動を広げる

DXを推進するのに、特別ITに詳しい知識を持っている必要はない。また、IT部門の「肩書き」や「立場」を持っている必要もない。生活者としての私たちの視点や気付きが後押ししてくれる。

自分の本来の仕事の範疇を越えた活動が直属の上司に評価されるかどうかは保証できないが、あなたの好奇心や得意分野が社内で知られて、人脈が広がることで、あなた自身の仕事の協力者が増えたり、さまざまな場面で協力を求められ能力を生かせたり、というメリットはあるかもしれない。

実はこのコラムの原稿は、全体の9割を音声入力で作成した。漢字の誤変換や文字の抜け漏れも少なくないので、残り1割の作業は、キーボードとマウスで調整した。誰かに許可を得ずとも実行できる小さな取り組みだが、仕事は大幅にスピードアップした。

まずは、やってみよう。そして、「やってみたい」人どうしでつながろう。組織を変えるには時間がかかるし、システムやツールを導入するにも予算が必要だ。しかし、少なくとも行動を起こしたあなた自身は、既に変わり始めているのではなかろうか。

そうはいっても何から手を付けたらいいかわからない、または会社から期待されているDXのミッションが大きすぎる…等とお悩みの方は、専門家に相談してみよう 。

私たちソフィアは、インターナルコミュニケーションの視点からの現状調査、業務プロセスを踏まえた戦略立案、さらには実施の支援や定着のためのトレーニングなど、 多面的にDXをサポートしている。御社のプロジェクトメンバーの一員として、きっと力になれるはずだ。

関連サービス

株式会社ソフィア

取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント

築地 健

インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。

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