最新DX銘柄で学ぶビジネスモデル変革|選定基準・評価項目・事例
最終更新日:2026.03.24
目次
DX銘柄は、経産省・東証・IPAが「企業価値につながるDX」を実践する上場企業を選定する制度です。この記事ではDX銘柄の評価軸や選定プロセス、事例、社内浸透の進め方まで整理し、大企業のDX推進部門・広報・人事が社内ポータルで使える形にまとめます。
DX銘柄の概要
DX銘柄(デジタルトランスフォーメーション銘柄)は、経済産業省・東京証券取引所・IPAが共同で、上場企業の中からDXに取り組む企業を選定し、好事例を波及させる制度です。2015年からの「攻めのIT経営銘柄」を経て、2020年からDX銘柄として選定されています。
また、DX銘柄には関連カテゴリがあります。制度上は「DX銘柄」に加え、「DXグランプリ企業」「DX注目企業」「DXプラチナ企業」などが公表され、各年の発表で企業一覧やレポートが公開されます。
直近の例として、DX銘柄2025は31社(うちDXグランプリ企業2社)が選定され、DX注目企業2025は19社、DXプラチナ企業2025-2027は1社が選定されています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義
経済産業省が推進するDXの定義
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、広義では「ITを浸透させることによって、人々の生活をさまざまな点でよりよい方向へとシフトさせる」という意味です。日本では、経済産業省がDXの定義を発表し、各社での推進を支援しています。
DXの定義
経済産業省が2018年に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を発表しており、その中でDXを以下のように定義しています。
本ガイドラインでは、DX の定義は次のとおりとする。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
DXが必要な理由
経産省は、DXレポートの中で「2025年の崖」について触れています。
これは、老朽化・複雑化しブラックボックス状態となった過去のシステム(=レガシーシステム)を使い続けることで、事業を構成するさまざまなプロセスを状況に合わせて改善できず、またそのデータを利活用することができなくなることを指します。
データの活用ができない場合、日本ではDXの実現ができないばかりか、2025年以降最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があるというものです。
レガシーシステムには、すでに多くのコストや人的リソースが投下されています。維持に莫大な費用がかかるレガシーシステムを使い続けることで、新たなデジタル技術への投資ができず、グローバル競争力の低下を招くことが危惧されます。
この文脈は「DX銘柄」という制度の背景にも直結します。DX銘柄は、単なるIT導入ではなく、デジタルを前提にしたビジネスモデル・経営の変革に取り組む企業を”企業モデル”として示し、DXの促進を狙うものです。
日本企業がDXに取り組む際に困ること
DXは単なるデジタル化ではなく、ITを通じた大きな組織変革です。DXに取り組む際には、製品やサービス、ビジネスモデルの変革において既存の文化や風土が順応できるかどうかが問題となってきます。
例えば、顧客データの取得は将来の商品開発や顧客の継続的なロイヤルティ向上のために欠かすことができません。しかし、売上を第一とする企業文化や企業風土の場合、「顧客データを収集・蓄積・活用する」という意思決定は「個人情報提供に対する顧客の抵抗感から、売り上げが落ちるかもしれない」「現場の手間が増える」等の理由から円滑に進まないばかりか、もし決定しても思うように現場の根付かず、DXは推進されません。
このように、DXを推進するためには既存の風土や文化をも変革していく必要があります。しかし、多くの日本企業においてはIT活用とシステム刷新に気を取られ、DX推進における風土改革の重要性は認識されていないことが多いのです。
DX銘柄の選定プロセス
DX銘柄の選定は、企業が回答する「DX調査」を中心に進みます。DX調査は、東京証券取引所の国内上場企業(プライム/スタンダード/グロース)を対象に実施され、提出は「DX推進ポータル」経由で行う流れです。
DX銘柄2026の資料では、一次評価・二次評価の二段階で選定し、一次評価では「選択式項目」に加えてROE・PBRも扱われることが示されています。また、DX銘柄への選定にはDX認定取得が必須であることも、同資料内で明確にされています。
参考までに、DX調査2026は2025年12月に回答受付が行われ、2026年4月頃にDX銘柄2026が発表予定とされています(発表会も別途予定)。
DX銘柄の評価項目
DX銘柄の評価観点は、少なくとも「経営ビジョン・ビジネスモデル」「DX戦略」「DX戦略の推進(組織/人材/IT・サイバー)」「成果指標と見直し」「ステークホルダーとの対話」といった柱で整理されています。
DX調査2025の分析資料でも、DX銘柄・注目企業・DX認定企業はデジタルガバナンス・コード3.0に沿った取り組みが進んでいることがまとめとして示されています。なお分析では、DX銘柄企業とDX認定未取得企業の間で「企業間連携」「新たな挑戦を支援する仕組み」「データ連携・データガバナンス」などで差が見られる点も指摘されています。
またDX銘柄2026では、AIの利活用を前提に、AIに関する設問を設けるなど「AIの利活用を一層評価」する方針が明示されています。
DX銘柄とDX認定制度の違い
DX認定制度は、デジタルガバナンス・コードの基本的事項に対応する企業を国が認定する制度で、上場・非上場を問わず活用できます(制度の窓口・事務局にIPAが関与)。
一方でDX銘柄は、東京証券取引所の上場企業を対象に、DX調査等を通じて”企業モデル”を選定・公表する仕組みです。逆に言えば、DX認定は間口が広く、DX銘柄はその先にある”上位ステージ”と捉えるとわかりやすいでしょう。
そして重要な実務論点として、DX認定の取得はDX銘柄への選定対象となるための必須条件として示されています。
DX銘柄に選ばれるメリット
制度上の位置づけから見ると、DX銘柄に取り組むこと(DX調査への回答や自己点検)は、単に”表彰を狙う”だけでなく、自社のDXの現状を整理し、ステークホルダーに説明できる形へ整える行為に近いと言えるでしょう。DX銘柄は「目標となる企業モデルを波及させ、評価を受けることでDXのさらなる促進を図る」趣旨が示されています。
さらに、DX調査に回答した企業にはフィードバック提供があることが示されており、選定の有無にかかわらず改善点を得られる設計です。DX認定側については、認定企業向けアンケートで「DX戦略の推進に効果があった」とする回答が約80%と公表されています。
DX銘柄企業の取り組み事例と学び
DX銘柄とは、東京証券取引所に上場している企業の中から、DXによって企業変革を行い、優れたデジタル活用の実績を上げている企業を選定して紹介するものです。同業界、あるいは他業界でも同じ課題を持つ企業に対して優良事例を水平展開し、国内全体での企業の取り組みのレベルアップを図っています。
ここからはDX銘柄企業のDXへの取り組み事例について解説し、その中からDX成功のカギを探っていきましょう。
DXで密のない現場づくり「株式会社小松製作所」
株式会社小松製作所は、「安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場」を実現すべく、「施工」のDXを図った企業です。建設現場全体をICTでつなぐ「スマートコンストラクション」により、調査・測量、施工計画、施工・施工管理、検査などのプロセスをすべてデジタル化しました。
スタッフの暗黙知で行われていたこれらのプロセスを完全にデータで可視化することで、進捗状況や施工計画をリアルタイムでモニタリングし、コストを最適化しています。現場作業員の数を減らすことで「密」を避けつつ、生産性を向上させている点が特徴です。
この例では現場全体へのICT導入にかかる準備と検討が必要なことはもちろん、多くの社員の業務自体が大きく変わっています。その混乱を抑えながら、いかに社員の納得や共感を得て推進するかが肝要であったと考えられます。
徹底的な自動化によるDX実現「トラスコ中山株式会社」
トラスコ中山株式会社は、販売店やユーザーの利便性向上を実現するために、基幹システムを刷新した企業です。新システムでは「自動化できる仕事はシステムで全て自動化!」をコンセプトに、見積もり業務、商品の在庫管理を自動化し、業務の生産性やスピード・精度アップを実現しています。
こちらも、現場に対してICTを一挙導入することにかかる事前の調査や検討、入念な準備を必要としていました。現場への説明責任や納得を得ることも同様です。同社ではこの課題をしっかりと解決し、現場の大きな混乱を招くことなく、ICTの導入を成功させています。
サプライチェーン全体をシステムでつなぐことで、自社内だけでなく、販売店やユーザーの利便性も向上させた好事例だと言えるでしょう。
AI/VRなどの最新技術活用によるDX推進「アサヒグループホールディングス株式会社」
アサヒグループでは、DXを各事業会社の「稼ぐ力の強化」「新たな成長の源泉獲得」「イノベーション文化醸成」のための成長エンジンと位置付け、10個の戦略テーマを中心とした計画的なDX「ADX(Asahi Digital Transformation)戦略マップ」を実行しました。
施策の一つとして、トレンドを学習して商品パッケージデザイン案を生成する「AIクリエーターシステム」と、架空の小売店の商品棚を再現するための「VR商品パッケージ開発支援システム」の2つを開発しています。これら2つを連動させることで、トレンドの把握から商品開発までのスピードと質を向上することを目指しています。
10個の戦略テーマは緻密で計画的かつスモールスタートで実行されています。一度に大きな変革を起こして現場の混乱を招いたり事業の継続に不都合が生じたりしないようにするための対策と言えるでしょう。
顧客利便性の追求「東日本旅客鉄道」
JR東日本では、「移動することの価値が問われる時代になった。これからは鉄道会社の枠を超えて、顧客の利便性を追求していく必要がある」という意識のもとに、さまざまなMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)の実現に向けてDXを進めています。
DXの取り組みの一つであるモバイルアプリでは、鉄道以外の複数の交通手段をスムーズに利用できるサービスを展開しています。DXの推進によって世の中にこれまでになかった価値を生み出すことを叶えた事例です。
ロボット活用による世界レベルのDX実現「東京センチュリー株式会社」
東京センチュリーは、デジタルサービスや技術を世界レベルにまで対応できるようさまざまな施策に注力し、DX銘柄となった企業です。
同社ではこれまでアナログ的に行われてきた事務処理をソフトウェア型のロボットが代行できるようにし、さらにそのロボットを一元管理するサーバを構築しました。さらにテレワーク下においても自宅からロボットを操作できるようにしています。
同社の変革は、これまで事務処理を担っていた現場社員の協力なくしては決して実現しえません。現場全体にICTを導入するにあたり、十分に理解と納得を得て取り組んだ好例と言えるでしょう。
データ経営による新業態開発「株式会社ワークマン」
ワークマンでは、作業服市場の飽和を見据えてDXを推進し、新業態への移行を実現しました。これは、デジタルを活用した同社のDXである「データ経営」に基づいた方針です。
ワークマンでは、データを理解し活用することが社員にすでに企業風土として根付いているため、こうしてDXが円滑に成功している背景が推測されます。逆に言えば、社内がデータを理解できない、理解しようとしない風土や文化の企業においてDXを推進することは、ツールを導入するよりはるかに難しいと言えるでしょう。
事例から読み取れること
ここまでの事例は、ビジネスモデルの刷新だけでなく、組織・文化・協業の変化(=”働き方・意思決定・情報流通の変化”)を伴っています。学術的にも、デジタルトランスフォーメーションはビジネスモデルだけでなく協働のあり方や文化の更新にまで及び得る”継続的なプロセス”として議論されています。
また制度面でも、DX銘柄2026でAI利活用がより一層評価される方針が示されているため、今後の事例では「AIをどう事業価値へ接続したか」も読み解きポイントになってくるでしょう。
DX成功企業に共通するポイント
ここまで事例を見てきました。では、DXに成功している企業には、どのような共通のポイントがあるのでしょうか。それぞれについて解説していきます。
新たなビジネスモデル・事業の創造
単に既存事業のITの置き換えでなく、DXによって自社製品やサービスの新しい価値を生み出すことが重要です。DXによって生み出されるものの意義について社員の理解を深め、社内へ浸透させながらでなければ変革はなし得ません。
スモールスタートによる段階的な推進
大きな変革を突然に起こすと、企業内で混乱や反発心、抵抗感が生まれやすいというデメリットもあります。まずは部署を限定するなどしてスモールスタートで感触を掴みながら、少しずつDXを進めていくことがコツと言えるでしょう。
現場を巻き込むコミュニケーションの実践
繰り返し述べてきたとおり、DXは企業の変革でもあります。企業の文化や風土を変えていくには、現場社員を巻き込んで、トップダウンではなくボトムアップの意見も吸い上げながらコミュニケーションをしっかりと行っていく必要があります。
社員リテラシーの向上
経営層がDXを理解していない状況では、DXの成功は難しいでしょう。逆に、現場がついていけないままDXを進めてしまうのも危険です。刷新したシステムや新たな事業において、実際に動く立場である社員の理解が足りていなければ、システムは活用されず、新規事業も停滞する、といった結果が予想されます。
上記のポイントは、DX銘柄の評価項目である「組織づくり」「デジタル人材」「成果指標」「ステークホルダー対話」とも整合します。つまり“技術”というより”経営と組織の設計”が問われるため、社内巻き込みは制度的にも避けて通れないテーマだと言えるでしょう。
DX推進における社内コミュニケーション設計
ここからは、読者ターゲット(大企業のDX推進部門/広報/人事/社内ポータル担当)の実務に直結する論点として、社内浸透の設計を整理してみましょう。
弊社ソフィアの調査では、従業員数1,000人以上の企業に勤める回答者のうち、社内コミュニケーションに「大いに問題がある」「多少問題がある」を合わせた問題意識が79%に達しました。また問題が起きやすい対象は「部門間」(58%)が最多で、「部門内(上司と部下)」(51%)、「経営陣と社員」(42%)と続き、縦横双方に課題が広がっています。
DXは”横串”の変革になりやすい一方で、このように部門間に摩擦があると、データ連携・業務標準化・権限移譲などが止まりやすくなります。DXの失速を避けるためにも、社内ポータルを含む「情報設計」を最初からDXの計画に組み込むことが重要です。
さらに弊社ソフィアの調査では、発信側(各部門)が「十分理解を得られている」と感じている割合が10%と低く、現場との認識ギャップが示唆されています。同じく現場側では、経営目標や戦略を「十分把握している」が8%にとどまり、「十分共感している」も9.9%と低い結果が示されています。
この数字は、DXにおける「Why(なぜやる)」「What(何が変わる)」「So what(自分にどう関係する)」の設計不足が起きやすいことを意味しています。そこで社内ポータル担当者が押さえるべき設計ポイントを、簡潔にまとめます。
社内ポータルでの”DX浸透”テンプレート(そのまま運用可能)
トップメッセージ:経営ビジョンとDX戦略の”価値創造ストーリー”を、定期更新で可視化します(評価項目の「ステークホルダーとの対話」とも整合)。
現場のFAQ:業務影響(手順・権限・KPI)を”部署別に”整理し、変更点を差分で告知します。
データの扱い:データ連携・データガバナンスの方針を、簡単な図で周知します(「探せない/共有されない」問題の予防)。
成功事例:DXの”成果指標”を、月次で共有します(「KPI→学び→次の改善」の循環をつくる)。
学習導線:デジタル人材育成(研修、学習コンテンツ、ロール定義)をまとめ、自己学習を促します。
最後に、評価設計そのものも重要です。弊社ソフィアの調査では、社内広報の効果測定を「十分実施」している企業が15%にとどまり、33%が「実施しているが不十分」、24%が「今後実施したい」、一方で28%が「今後実施予定もない」と回答しています。この状況を踏まえると、社内ポータルは「アクセス解析」「アンケート」「現場ヒアリング」を最小セットにして、DX推進のPDCAに組み込むのが現実的だと言えるでしょう。
まとめ
ここまで、DX銘柄の概要から選定プロセス、評価項目、企業事例、社内浸透の設計まで幅広くお伝えしてきました。要するに、DX推進のためには、仕組みを整えるだけでなく、文化や風土を変えていく体制づくりも必要だということです。しかしながら、日本企業ではそこまでDXへの理解が追いついていない状態と言えるでしょう。中途半端なDXは逆に内部崩壊を招きかねません。
DX銘柄という制度は、その”あるべき姿(評価軸)”が公開されている点で、社内の共通言語づくりに使いやすい制度でもあります。評価項目(経営ビジョン/戦略/推進体制/成果指標/対話)を社内ポータルへ落とし込み、社内浸透まで設計できれば、DXは「推進部門だけの取り組み」から「全社の取り組み」へ変わっていくのではないでしょうか。
自社でDXを推進するために企業風土・企業文化を変えていきたいという際は、ソフィアまでお気軽にお問い合わせください。




