インターナルコミュニケーション

企業ビジョンとは?企業理念との違いや、ビジョンを重視して成長した企業事例を紹介!

企業ビジョンという言葉は、企業理念やミッション、バリューなど類似した概念が多く存在するため、何となく理解していても違いがはっきりしないという声も少なくありません。企業ビジョンを社内に浸透させることが大きなメリットをもたらすのは広く知られていますが、実際に「社員に企業ビジョンが浸透している」と胸を張って言える企業は多くないのが実情ではないでしょうか。

本記事では、企業ビジョンの定義や経営理念(ミッション)との違い、重要性、策定方法、浸透のポイントを解説します。さらに、ビジョンを重視して成長した企業事例や、弊社ソフィアの調査結果も交えながら、企業ビジョンについて詳しくご紹介していきます。

企業ビジョンとは?

企業ビジョンとは、企業が将来的に実現したい理想の未来像を示すものです。言い換えれば、企業として目指すべき「行き先」を全社員で共有するための指針といえるでしょう。

ビジョン(vision)という言葉自体に「展望」「未来像」といった意味があり、経営目標に近い性質を持ちます。多くの企業ではビジョンを長期経営計画と結び付けて策定しており、経営における一種の長期的な「戦略」とも位置付けられます。

実際のビジョンには「〇〇までに売上高50億円を達成」「100万人の顧客に利用されるサービスになる」といった具体的な数値目標や期限が含まれることも多く、企業の成長ステージや取り巻く事業環境に合わせて内容が見直されていくのです。

企業ビジョンと企業理念(ミッション)の違いは?

では、企業ビジョンと企業理念(ミッション)はどのように違うのでしょうか。

企業理念(ミッション)とは、企業の成り立ちや存在意義にかかわる根幹的な価値観や使命を指します。創業者や経営トップの思いが込められており、例えば出光興産株式会社では企業理念の一つに「人間尊重」を掲げています。このように企業理念は「企業として何を大切にし、どのように経営していきたいか」を示した普遍的な指針なのです。

一方で企業ビジョンは、そうした価値観を踏まえて「将来どのような状態を目指すか」を示す目標像です。企業理念(ミッション)が経営者の信念や企業の存在意義を表し基本的に不変なのに対し、ビジョンは社会や事業環境の変化に応じて見直される「未来志向のゴール」と言えるでしょう。

経営理念はミッションに近い概念ですが、ミッションが企業の使命そのものを表すのに対し、ビジョンはその使命を通じて実現したい将来像を明文化したものとも言えます。

なお、企業によってはミッション・ビジョン・バリュー(価値観)をまとめて策定し、経営理念体系を構築する場合もあります。呼び方や定義には多少の違いがありますが、重要なのは従業員全員が同じ方向を向いて将来の目標に向かって努力できるようにすることではないでしょうか。そのために、自社に合った形で理念やビジョンを定め、浸透させることが不可欠なのです。

企業ビジョンを掲げるメリットは?

企業が明確なビジョンを掲げ、それが社内に浸透している状態には様々なメリットがあります。逆に言えば、いくら立派なビジョンを策定して掲示していても、社員に共有・共感されていなければこうしたメリットは得られません。ここでは企業ビジョンが浸透することによって期待できる効果を見てみましょう。

社員のモチベーションが上がる

企業が実現しようとしている未来に社員が共感し、自分自身の将来ビジョンと会社のビジョンに重なり合う部分があれば、目の前の仕事に明確な意味を見出せるようになります。その結果、「会社のビジョン実現のために今何をすべきか」という視点が生まれ、社員一人ひとりの仕事への意欲が高まるのです。

実際、弊社ソフィアの調査では社内報などの情報で従業員の関心が最も高いテーマに「ミッション・ビジョンなどの重要指針」が挙げられており(24.0%)、社員が会社のビジョンに関心を寄せていることが分かります。

社内の意見がまとまりやすくなる

ビジョンが社内に浸透していれば、社員全員が同じ方向を向いているため組織に一体感が生まれます。共通の将来像が「共通言語」となり、意思決定や議論の際にも判断基準がブレにくくなるのです。ビジョンを前提としたコミュニケーションを行うことで、各社員の意見やベクトルを揃えやすくなるでしょう。

社員が行動する際の指針となる

明文化された企業ビジョンは、社員にとって日々の行動や意思決定の拠り所となります。特に過去の成功体験にとらわれがちな組織では、ビジョンを刷新して共有することで、新しい状況に合わせた判断基準を提示できます。経営の現場で陥りがちな「経路依存性」を断ち切り、ビジョンに沿ったチャレンジを促す効果も期待できるのです。

今までの習慣を壊すことができる

企業ビジョンは時間軸に合わせて変えていくものです。新たな企業ビジョンの策定によって、時代や企業の状況に合わなくなった古い考え方や習慣を壊していくこともできます。

企業の事業ステージや時代背景の変化によって、企業の成功を測る指標や、経営の前提となる仮説は変化していきます。すると、これまでとは別のフレームワークを用いて自社の業務を見直す必要が出てきます。時代の要請に合わせて新たな枠組みで自社の事業や業務をとらえ直すには、企業ビジョンから変えていく必要があるわけです。

わかりやすい例はSDGsです。近年、企業ビジョンにSDGsの考え方を取り入れる企業が増えています。企業ビジョンの変更によってSDGsとの向き合い方を明確に打ち出すことで、業績やこれまでのビジネスモデルよりもさらに重要視すべき経営の指標として、SDGsをスムーズに取り入れることができます。例えば、今までは安価な原材料でコストを抑えつつ自社製品を大量生産・販売していた企業が、たとえ一時的に利益を圧迫したとしても環境に配慮した材料をあえて採用し、環境保護に貢献するといったようなことです。

ビジネスの考え方や価値観、進むべき方向性といった枠組みは、組織学習において重要なものです。状況に応じて自社のビジネスをとらえる枠組みを変えることが、組織の中にイノベーションを生み出します。ただしこれは、組織に企業ビジョンが浸透していることが前提となります。

企業ビジョンはどう作ればいい

企業ビジョンの策定に「これさえやれば良い」という唯一の方法はありませんが、一般的には次のようなステップで進めるとよいでしょう。

自社の事業内容・事業環境を確認する

まず自社の現状を正しく把握します。現在提供している製品・サービスや顧客層、その提供価値を整理しましょう。また、市場規模や競合他社の動向など事業環境の分析も欠かせません。

SWOT分析や3C分析などのフレームワークを用いて、自社の強み・弱みや置かれた環境を客観的に見極めます。そのうえで、自社が今後成長できる余地や、乗り越えるべき課題を洗い出しておきます。

企業の価値観・存在意義を明確にする

次に、自社が「何のために事業をしているのか」「社会にどんな価値を提供したいのか」という根源的な問いに立ち返ります。平たく言うと、企業のパーパス(存在意義)を再確認するステップです。

これは経営層だけでなく従業員も交えて議論し、会社が大切にしてきた文化や理念(レガシー)を共有することで共通認識を図ります。企業の核となる価値観が定まっていないと、その先のビジョンも社員にとって共感しづらいものになってしまうでしょう。

将来の理想像を具体的にイメージする

事業環境の予測や企業の価値観が固まったら、5年後・10年後といった将来の理想像を描きます。「現在から将来にかけて市場や顧客ニーズがどう変化し、それに伴い自社はどう成長・変革すべきか」を現実的に考えてみましょう。

その際、社会課題の解決や技術革新のトレンドなども視野に入れ、企業が果たすべき役割を検討します。将来像を思い描くことで、「変えてはいけない部分」と「変えるべき部分」を見極めることができるのです。

ビジョンを言語化する

最後に、描いた将来像を端的な言葉で表現します。「○○な世界を実現する」「△△業界でNo.1になる」といったように、自社の目指すゴールを誰にでも伝わるシンプルなメッセージに落とし込みましょう。

ここでは前ステップまでに洗い出したキーワードを活用します。言語化したビジョンが、これまで確認してきた自社の使命(ミッション)や価値観と矛盾していないかもチェックが必要です。社内外に発信して恥ずかしくない、実現に向けてコミットできる表現かどうかを経営陣で吟味し、最終決定します。

企業ビジョンを社内に浸透させるには?

せっかく策定したビジョンも、社員に知られ共感されていなければ絵に描いた餅になってしまいます。企業ビジョンを組織に浸透させるためには、トップダウンとボトムアップ双方の工夫が必要ではないでしょうか。以下に主なポイントを挙げます。

評価制度や目標管理にビジョンを組み込む

ビジョンを実現するには、社員一人ひとりが日々の行動でビジョンを体現することが欠かせません。そのため、社員の目標設定や評価制度とビジョンを連動させる施策が有効です。

例えば、組織や部門の目標にビジョン達成に直結する項目を設ける、評価項目にビジョンに基づく行動例を盛り込む、ビジョン体現者を社内報で紹介・表彰するといった仕組みが考えられます。評価・報酬と結び付けることで、社員はビジョンを「自分ごと」として捉え、行動に移しやすくなるでしょう。

ビジョンに関する社内コミュニケーションを活性化する

一方通行でビジョンを掲示するだけでは浸透は進みません。経営層自らがビジョンに込めた思いを社内報やタウンホールミーティングで語る、現場社員との対話の場を設けてフィードバックや意見交換を行うなど、双方向のコミュニケーションが重要です。

実際、弊社ソフィアの調査でも社内広報で最も多く発信されている内容は「経営層からのメッセージ」(42.5%)や「ミッション・ビジョンなどの重要指針」(32.5%)でしたが、従業員エンゲージメントに影響を与える要素としては「会社のビジョン・ミッション」は21.5%に留まるという結果も出ています。

ビジョンを浸透させるには、経営層からのメッセージ発信に加えて、現場の声を聞き対話する姿勢が欠かせません。社員が自分の言葉で語れるほどビジョンを腹落ちさせ、日常業務の判断軸として定着させることを目指しましょう。

企業ビジョンを重視して成長した企業事例

最後に、実際に企業ビジョンを掲げて経営に活かしている企業の例をご紹介します。ここでは日本を代表する大企業3社を取り上げ、それぞれが掲げるビジョンの内容と背景を見てみましょう。

セールスフォースの企業ビジョン

クラウド型の顧客関係管理(CRM)ソリューションを提供する株式会社セールスフォース・ジャパン(旧セールスフォースドットコム)は、企業ビジョンとして次のような言葉を掲げています。

『あらゆる人のために、サステナブルな未来の実現を目指す』

同社は地球環境を保護し気候変動に対処するうえで企業が果たす役割は大きいと考えており、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを積極的に行っています。企業ビジョンにSDGsなど持続可能性の要素を取り入れ、イノベーションを通じて社会課題を解決しようとする好例と言えるでしょう。

ソフトバンクの企業ビジョン

多角的な事業展開で知られるソフトバンクグループ株式会社は、次の企業ビジョンを掲げています。

『「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目指して』

同社は「情報革命」を通じて人々の幸福に貢献し、「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目標に掲げています。極めて大きなスケールのビジョンを示しており、そのおかげで通信、投資、テクノロジーなど多岐にわたる事業領域で一貫した方向性を打ち出すことができています。

LINEの企業ビジョン

チャットアプリからスタートし今や総合プラットフォーム企業となったLINE株式会社は、企業ビジョンとして次のミッションステートメントを定めています。

『私たちのミッションは、世界中の人と人、人と情報・サービスとの距離を縮めることです。』

LINEはメッセージングだけでなく様々なサービスをワンストップで提供するプラットフォームへと進化しました。同社のビジョンには、LINEを入り口として人々の日常生活のあらゆる体験がシームレスにつながる世界を実現したい、という狙いが込められています。人と情報、オンラインとオフラインなど、あらゆるものの距離をテクノロジーで縮めることで新たな価値を創出することを目指しているのです。

まとめ

企業ビジョンは掲げるだけでは意味をなしません。ビジョンが社内に浸透して初めて、そのメリットが発揮され組織力の向上に繋がります

企業が単なる業務遂行の集団に留まるのか、ビジョンを核に強い組織へ成長できるのか――その鍵を握るのはビジョンの浸透度合いと言えるでしょう。もし自社の企業ビジョンが十分に浸透していないと感じる場合や、ビジョン策定・浸透に課題をお持ちの場合は、ぜひビジョン浸透支援の実績が豊富なソフィアにご相談ください。

よくある質問
  • ミッションやパーパスとビジョンはどう違うのですか?
  • ミッションは企業の使命や存在意義(=なぜ存在するか)を示すもので、パーパスという言葉もほぼ同義です。一方、ビジョンは将来的に企業が成し遂げたい目標やあるべき姿(=どこに向かうか)を示します。

    換言すれば、ミッション(存在意義)が土台にあり、その上で具体的な将来像としてビジョンが策定されるイメージです。両者に優劣はなく、どちらも経営に欠かせない要素と言えるでしょう。

  • 中小企業にも企業ビジョンは必要でしょうか?
  • はい、企業規模にかかわらずビジョンは重要です。むしろ経営資源の限られる中小企業こそ、ビジョンによって社員のベクトルを合わせる効果が大きいでしょう。

    実際、ある調査によれば企業理念が浸透している「ビジョナリーカンパニー」の約70%が直近5年の業績を向上させているとの報告があります。反対にビジョンのない企業は方向性を見失いやすく、設立5年で約85%が消滅するとのデータもあります。中小企業でも長期的な視野で目指す姿を掲げることが、持続的成長の鍵となるのです。

  • 状況に応じて企業ビジョンを変えても問題ないのでしょうか?
  • 問題ありません。ビジョンは企業の成長ステージや外部環境の変化に応じて見直していくべきものです。

    実際に多くの企業が中期経営計画の策定や経営トップ交代のタイミングでビジョンを刷新しています。ただし、頻繁にコロコロ変えると社員の混乱を招くため注意が必要です。一貫性を保ちつつ、時代に合わせて進化させるのが理想的と言えるでしょう。

  • 企業ビジョンの策定作業は誰が行うべきですか?
  • 経営トップの主導で行うケースが一般的です。ビジョンは企業全体の方向性に関わるため、最終責任を持つ経営者が中心となり策定されます。

    ただし、トップダウンだけで決めるのではなく、現場の意見も汲み上げることが大切です。管理職や若手社員を交えたワークショップを開催したり、外部のコンサルタントの支援を受けたりして、多角的な視点から議論すると良いでしょう。そうすることで、策定したビジョンに社員も共感しやすくなり、浸透施策もうまく進みます。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。