インターナルコミュニケーション

パーパスとは?意味やMVVとの違い、メリット、策定事例を解説

近年、ビジネスの世界で「パーパス(Purpose)」という言葉を耳にする機会が急増しています。しかし、「ミッションやビジョンと何が違うのか」「なぜ今、これほどまでに重視されているのか」と疑問をお持ちの大企業の人事部門長や、企業内研修を担当する研修企画担当者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、パーパスの基本的な意味から、企業価値を高めるパーパス経営の実践方法、そして形骸化させずに社内へ浸透させるための具体的なステップや最新の調査データまで、網羅的に解説します。組織のコミュニケーション課題と理念浸透に悩む人事・研修担当者にとって、実践的なヒントとなる情報をご提供できれば幸いです。

パーパスの基本的な意味と定義

「パーパス」という言葉をご存知でしょうか。パーパス(purpose)とは、目的や意図、決意などの意味を持つ単語ですが、ビジネスの世界において近年では、ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVVと記載)やスピリット(クレド)などと同様に、「企業において大事な考え方を指す」新しいキーワードとして扱われています。

この記事では、「パーパスとは何か」「注目されるようになった背景」、そして「パーパスはなぜ重要なのか」について解説し、パーパスブランディングを通じて企業価値を高める方法をご紹介します。

平たく言うと、パーパスという言葉は、元々の「目的、意図」といった意味が転じて近年では、企業や組織、個人が何のために存在するのかという「存在意義」を示す”経営・ブランディング用語”として使われるようになりました。そして、「パーパスブランディング」とは、企業経営をパーパス(存在意義・目的)に基づいて行うことで、ステークホルダーの認知や共感を促進するブランディング手法を指します。

地球規模の気候危機や感染症の問題、国や地域間・社会階層間・世代間における格差の問題、世界的な金融危機などを背景に、従来の市場経済中心の資本主義における限界が露呈しつつある現在、ますます企業は社会に対する責任を問われるようになっています。

投資家や金融機関、取引先や顧客はもちろんのこと、地域社会や求職者、従業員の支持を獲得するには、「この企業やブランドがなぜ社会に存在するのか」「どのように人々や社会に役立っているのか」という存在意義が明確であることが欠かせません。そういった理由で、企業の存在意義を重要視する経営が、昨今のトレンドとなりつつあるのです。

パーパスは、企業の「存在」を経済の中だけにとどまらず、社会全体の中に「存在」を置いた概念です。近代経済学の父であるアダム・スミス以降の経済の登場人物は、通常、市場参加者という場合、売り手と買い手だけに注目しがちです。いわゆる古典派経済学の学者たちもこの二者以外の要因を考えていませんでした。

つまり、彼らにはマーケットを分析する力はあっても、マーケットを取り囲む環境や自然への視点がなく、例えば工場からの環境汚染に対しては一言もありません。
しかし、経済活動は社会や自然の活動を考慮しなければ立ち行かず、この意味において、環境や社会を含めた経済学というものは、20世紀を待たねばなりませんでした。

現在の経済学が社会学や環境を取り入れていることと、SDGsやESGというサステナブルという概念を企業が取り入れることは、ある意味で必然とも言えるでしょう。

このように、現代のビジネスシーンにおけるパーパスは、単なるスローガンや利益創出のための手段ではなく、社会システム全体の中で企業がどのように持続可能な価値を提供するのかという、極めて高い視座に基づく根源的な問いへの答えとなっています。

経営学者の名和高司氏は、これを日本企業に馴染み深い「志」という言葉で表現し、パーパスに基づいた経営を「志本経営」と提唱しています。大企業において組織改革を担う人事部門長にとって、この「社会の中での存在意義」をいかに従業員へ浸透させるかが、今後の重要なミッションとなります。

パーパスとMVV・経営理念・クレドの違い

パーパスは、MVVと混同されたり、同じ意味として扱われたりすることがあります。ミッションとビジョンはパーパスと似た概念であるため、ほぼ同じ意味で使用している企業も少なくありません。MVVを厳密に定義すると、以下のような意味を持ちます。

  • 「ミッション」:企業が果たすべき”使命”や”任務”
  • 「ビジョン」:企業の”展望”や”将来像”
  • 「バリュー」:ミッション・ビジョンを実現するために、企業や従業員が持つべき”姿勢”や”価値観”

MVVは「私たちはこうなりたい」という将来に向けた企業の意思であるのに対し、パーパスは「社会から見て私たちはこのような存在である」「このような理由で私たちは社会に必要な存在である」と、現在の社会の中に企業を位置づけてその存在意義を明確にするものです。

だからこそ、MVVを実現するためにもパーパスは重要なのです。
これらの関係性をより明確にするため、以下の表にそれぞれの違いを整理しました。
人事・研修担当者が社内で理念教育を行う際、これらの概念の違いを従業員に分かりやすく伝えることが第一歩となります。

概念 問いの方向性(英語) 意味・定義の核心 視座の焦点
パーパス Why(なぜ存在するのか) 企業の社会的な存在意義、根本的な存在理由 社会的価値、サステナビリティ、ステークホルダー全体
ミッション What(何をするのか) 企業が日々果たすべき使命や任務 顧客への価値提供、自社の事業活動
ビジョン Where/When(どこを目指すか) ミッションを果たした先にある実現したい未来像 自社の中長期的な成長目標、ありたい姿
バリュー How(どのように行動するか) ミッション・ビジョンを実現するための価値観・行動指針 従業員の日常的な判断基準や姿勢

さらに、パーパスと「経営理念」も混同されやすい言葉です。経営理念は、創業者や経営者の個人的な哲学や信念を言語化したものであるケースが多く、経営トップの交代や時代の変化に合わせて改定されることがあります。一方でパーパスは、個人の信念というよりも「社会に向けた企業の客観的な存在価値」に重きを置いているため、一度策定されると変更されることは極めて稀であるという違いがあります。
また、「クレド(Credo)」との違いも重要です。クレドはラテン語で「信条」や「約束」を意味し、従業員一人ひとりが心がけるべき具体的な「行動指針」を指します。クレドが「個人の行動」にフォーカスしているのに対し、パーパスは「組織全体の存在価値」を示すという点で、対象となるスケールが異なります。
パーパスを考える上では、自社と社会との関係性を見つめ直すこととあわせて、既存の理念やビジョンなどとの関係や位置づけを整理し、全社への浸透をする仕掛けを作っていくことが必要です。パーパスは、存在意義や社会課題といった強力な意味を持つ内容が含まれるため、策定や浸透には慎重に取り扱う必要があるでしょう。

パーパスがビジネスで注目される背景

なぜ昨今ビジネスの世界において企業のパーパスが注目されるようになったのでしょうか。その背景を詳しく見ていきましょう。

経済学者ミルトン・フリードマン氏の「企業の社会的な責任は利益の増大にある」という発言に代表されるように、資本主義社会において企業は、利益を創出することで経済成長を通じて社会の問題を解決するという役割を担ってきました。

株主至上主義の傾向が特に強いアメリカでは、利益を出すことへの株主からのプレッシャーは非常に強いものでした。そのため、今から半世紀ほど前、アメリカを中心とする先進諸国の企業は、“利益を生み出すこと”を活動の中心としていました。

フリードマン氏は、新自由主義の代表ともいえる学者で、格差の拡大を助長するようなそのような議論もある事から、今でも批判の多い人物でもあります。
しかしフリードマン氏が、企業の目的を利益創出に限定したのは、驚くべきことではありません。自由な競争のもと、それぞれの企業が利益を最大化してこそ、それが社会全体の利益にもなるというわけだ。

これこそまさに、アダムスミスが言う「神の見えざる手」であり、フリードマンはスミスの系譜に属する人物であります。しかし、古典派経済学に、環境という外部性がなかったことは、このフリードマンにもそっくり当てはまり、企業の目的が利益の最大化であるというとき、そこに環境や社会に対する配慮はありません。

市場中心・利益中心による経済成長を目指してきた先進諸国の政策やグローバル企業の活動は、大量生産・大量消費のライフスタイルや、環境問題、過重労働問題、富の偏在や金融危機など、さまざまな問題も引き起こしました。
利益追求型の事業モデルが社会だけでなく地球規模で悪影響を与えていることが問題視されるようになり、2000年代に入ってからはCSR(企業の社会的責任)やESG投資が広がり、2015年9月の国連サミットにおけるSDGsの採択などの動きにつながっていきます。

そして今、利益のみを追求する企業像が賞賛された時代は終わりつつあると、多くの著名人が発信しています。例えば、英オックスフォード大学教授コリン・メイヤー氏は、「企業のパーパス(存在意義や目的)は、単に利益を生み出すことではない。
個人、社会、自然界が直面する問題の解決策を企業戦略に組み込み、人々の信頼を増やす努力を踏まえ、利益が出る形で人々の幸福に貢献することだ」と強調しています。

投資家の評価基準の変化も影響を与えています。サステナビリティやESGに対する関心が高まっているなか、株主だけでなくステークホルダーや社会にも価値をもたらせるかどうかといった社会的意義も、投資家の注目を集めています。
米国ブラックロック社のCEOであるラリー・フィンク氏は2018年に取引先のCEOに宛てた書簡でパーパスの重要性を説き、話題となりました。パーパスを掲げていることは、投資の評価基準の一つとして重要視されるようになったのです。

アメリカのトップ企業が所属する財界ロビー団体であるビジネスラウンドテーブルは、2019年の「企業の目的に関する声明」で株主資本主義を否定したうえで、全てのステークホルダーへの配慮を目指す「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言し、大きなニュースとなりました。

ここでは、アパレル企業のパタゴニアにスポットを当ててみましょう。彼らは「パーパス」という言葉を使わずに「アカウンタビリティ」という言葉を使っています。
一般的に「アカウンタビリティ」とは、職位や職務定義において、職務に従事する社員が自身の活動を説明する責任や説明責任を意味します。

しかし、パタゴニアが使っている文脈では、自然環境も含めた社会全体に対して企業が説明責任を負うことが求められるという意味で使われています。近代においては、企業が主役で自然環境が従属すると考えられていましたが、パタゴニアは逆の立場を取ります。
自然環境が主役であり、人間や企業はその中の一つの「存在」に過ぎないという考え方です。おそらく、企業や人間と社会や環境の関係は変化し、社会の中に企業の存在を据える企業が海外で増えてくることが予想されます。日本企業も、この姿勢を参考にする必要があるでしょう。

こうした背景を踏まえると、現代の企業の存在意義は株主だけでなく”社会のための利益”を追求し、社会課題を引き受けていくという流れに変化しつつあると言えます。今や多くの企業が経営理念に「社会課題の解決」を掲げるようになったのも、このパーパスの考え方が浸透していることを象徴しているといえるでしょう。


個人・従業員にとってのパーパスの意義

従業員にとってのパーパスは、仕事を通じて自分の存在意義を肯定するものです。パーパスは個人にとって働く意義を言語化したものであり、パーパスが共有されることで、自分の仕事に誇りを持つことができます。その結果、従業員は企業に対するロイヤリティが高まり、業務に対する働きがいを実感できる機会も増えるでしょう。

さらに、自分の業務が社会にどのように貢献しているのかを感じられるようになり、エンゲージメント向上が期待できます。
また、働き方の多様化により、人材の流動化が進んでいます。会社と個人の関係を繋ぐものは、雇用契約に関係する賃金や福利厚生のみなのでしょうか。

若年層の労働者にとって、いくらで働くのかということも重要ですが、同等かそれ以上に、「何のために働くのか」ということに、既に重きを置きつつあります。合理的な判断ではなく、感性的な価値観や考え方を下地にした就職活動をしているのです。
特にミレニアル世代やZ世代は、就職先を検討する際に企業の社会貢献度やパーパスへの共感を非常に重視します。彼らはスタートアップなどを選ぶ際にも、企業活動の中に「社会的な存在意義」を求めます。
ある調査では、企業のパーパスに共感して働く社員は、そうでない社員に比べて仕事へのモチベーションが高いことが示されています。

これは、若年層に限ったことではありません。シニアや子供が手がかからなくなった世代などは、むしろ賃金や給与のインセンティブが弱まります。すべての世代において、物理的なオフィスに集まる機会が減少したリモートワーク環境下において、人々を組織に惹きつけ、心理的なつながりを提供する最大の要素が「パーパス」となっているのです。
研修担当者は、ただ業務スキルを教えるだけでなく、従業員一人ひとりの「個人のパーパス(My Purpose)」と「企業のパーパス」を重ね合わせるための内省支援を行うことが、今後の重要な役割となります。

日本企業におけるパーパスの位置づけと社内浸透の課題

海外では、パーパスはその歴史的背景から、MVVとは明確に別物として扱われており、企業に重要視されています。一方、日本企業においてはパーパスが明確化されていなかったり、たとえパーパスが掲げられていても企業理念やビジョンとの位置づけの違いがあいまいなまま運用されていたりする現状が多く見られます。

しかし、前述したようにパーパスは、”社会”という大きな枠組みにおける”企業の存在意義”を表しています。これは、企業が社会から要請されていることであり、自主的に設定するミッションやビジョンとは異なるものです。日本企業も今後、無視して通ることはできないでしょう。

日本には創業100年を越える長寿企業が世界で最も多く存在し、それらの企業の多くは企業理念や社会に対する責任を重視した経営を行っています。日本企業はそもそも、社会という大きな枠組みにおける“企業の存在意義”をかなり過去から明示していました。日本には近江商人の「三方良し」であり、松下幸之助の「企業は社会の公器」という言葉です。

日本には創業100年を越える長寿企業が世界で最も多く存在し、世界の稀に見るサスティナブル企業を創出国かもしれません。
その一方で、2020年に株式会社JTBコミュニケーションデザインが行った「管理職・一般社員を対象にしたビジョン浸透の意識調査」によると、自社のビジョンを「知っている」と答えた人は約5割程度で、全体の半数が自社のビジョンを知らない状態であることがわかりました。

ビジョンは、スローガンのような表現もあれば、具体的な数字と時期を明記した長期経営計画もあります。つまり、パーパスや理念より具体的であり解釈の幅が狭いものです。
パーパスや理念は抽象度が高く解釈の幅が大きいため、腹落ちしている社員はもっと少ない状況にあり、弊社の調査データでも、顕著な傾向が見て取れます。

こうした状態で、仮に企業側が意識的に区別をして「パーパス」という言葉を用いても、現場の社員からは「ビジョンやミッションに似たような”何か”が増えた」という認識しか生まれない可能性があります。
これは組織風土における経営上の弱点とも言えます。だからこそ、パーパスの策定やブランディング活動をきっかけに、企業の理念体系をあらためて整理し、社員への浸透施策を行うことが重要なのです。

弊社ソフィアの実態調査が示す「コミュニケーションの壁」と浸透の阻害要因

素晴らしいパーパスを策定したとしても、組織内に正しく伝播し、現場の行動変容に繋がらなければ意味がありません。弊社ソフィアの調査では、理念浸透を根本から阻む「インターナルコミュニケーションの構造的課題」が浮き彫りになっています。

弊社ソフィアの調査(従業員数1,000名以上の企業に勤める496名を対象とした「フル_IC実態調査2025」)では、実に79%の従業員(「大いに問題がある」20%+「多少問題がある」59%)が、自社の社内コミュニケーションに問題を感じていると回答しました。

コミュニケーションの問題を感じる対象(関係性のボトルネック)のトップ3は以下の通りです。

  • 部門間(58%)
  • 部門内_上司と部下(51%)
  • 経営陣と社員(42%)

さらに深刻な事実として、同調査データからは「自社の経営戦略に対して共感している社員はわずか1割(10%)にとどまる」という現実が明らかになっています。
経営陣がどれほど崇高なパーパスを掲げても、経営層と現場、あるいは部門間に存在する「認識と感情のズレ」が壁となり、メッセージが途絶えてしまっているのです。

加えて、働き方の多様化やリモートワークの普及により、従来の対面を前提とした情報共有や、雑談・社内イベントといった非公式なコミュニケーションの機会が減少し、ナレッジの分散や組織のサイロ化(縦割り)が進行しています。
人事部門長は、パーパスを浸透させる前に、まずこの「部門間の分断」や「上司と部下の関係性の希薄化」といった土壌を改善するための施策を講じる必要があります。

パーパスの具体的な活用方法

会社の存在意義を示すパーパスは、ビジネスにおいて以下のようなシーンで活用されています。それぞれの活用方法の特徴を以下の表に整理しました。人事・研修担当者は、社内の各部門がどのレベルでパーパスを活用しようとしているかを把握しておくことが大切です。

活用シーン 概要・特徴 期待される効果
パーパスブランディング 自社のパーパス(存在意義)を広く世間に認知させ、共感を得ることを目指すブランディング手法です。従来の利益重視のブランディングとは異なり、パーパスブランディングでは主な目的が認知拡大です。具体的には、商品やサービスの存在意義に対する共感を集めることで、肯定的な反応を消費者から得ることができます。 応援消費の獲得、中長期的なブランドロイヤルティの向上、強固なファンコミュニティの形成
パーパス経営 パーパスを軸にした経営の在り方を指します。従来の利益追求にとどまらず、社会への貢献を目指すことが特徴です。 ステークホルダー資本主義への適応、ESG投資家からの高評価、持続可能な事業成長の実現
パーパスドリブン 組織において全ての事柄の根源としてパーパスを位置づける状態を指します。商品やサービスだけでなく、従業員の行動指針にまでパーパスが反映されているのが特徴です。どのようなアクションを起こす際にも、なぜそれをするのかをパーパスに照らし合わせる状態とも言えます。 意思決定の迅速化、現場からのボトムアップによるイノベーション創出、組織の自律性向上
パーパスステートメント 企業が自身のパーパスをまとめ、言語化した声明です。社内外でパーパスを共有するために使用されます。社内報やウェブサイトに掲載され、従業員に共有されるだけでなく、投資家などのステークホルダーへのアピールにも利用されます。 パーパスの可視化、従業員への「わかる化」の促進、採用広報におけるメッセージの明確化


パーパスを掲げるメリットと効果

ここまで、「企業は社会課題を解決する存在であるべき」という考え方を背景に、パーパスが意識される時代になったこと、パーパスがMVV実現に向けて重要な指標となることについて解説してきました。

しかし、実際に企業でマネジメントや実務に関わっている方の心境としては、「そうはいっても、利益を生むことが一番大事ではないか……」「事業モデルで利益追求をメインにしないで本当に大丈夫なのか……」という疑問も浮かんでくるでしょう。ここでは、企業がパーパスを定義し、実践することで得られる具体的なメリットと効果について、深く掘り下げて解説します。

ステークホルダーからの共感獲得

前述のように、環境問題の深刻化や社会の不平等の拡大、コロナ禍などの影響で企業の存在意義に対する社会の認識が変わりつつあり、これまでのMVVでは必ずしも主眼となってこなかった企業と社会の関わり方が重要視されるようになりました。
コリン・メイヤー氏は著書『株式会社規範のコペルニクス的転回』で、企業の目的は利益の最大化ではなく「人々が抱え、地球上に存在する問題に対する解決策をもたらすこと」だとしています。

パーパスを定義して経営に取り入れるということは、企業が社会とどのような向き合い方をしようとしているかを示すということです。顧客やステークホルダーは企業のパーパスから、社会課題の解決に貢献しようとしている企業なのか、そうでないのか、といったメッセージを感じ取ります。

つまり、企業の外部からの評価を高めるという意味でも、企業にとってパーパスを定義することの重要度は高いのです。

革新や変化の創出

パーパスとはいわば理念であり、企業の哲学です。
哲学とは様々な行動の土台となって立つところです。その土台であるパーパスや理念が共有されていないという状態は、日本人に哲学的思考が不得意であることも要因かもしれません。

欧米の教育機関では、どの分野に進む学生にも、歴史と哲学は土台として学ぶことが求められます。これがリベラルアーツと呼ばれています。ところが、大学教育でも歴史と哲学はあまり、重要視されていません。
成績にいい生徒は理系に行きますし、人気の学部は医学部と工学部です。スキルが重視され、フィロソフィーは軽視されている。だからこそ、企業活動においても最も大事なはずの理念の共有は重要であり、パーパスという刷新を契機として、再度問い直すチャンスかもしれません。

日本企業がもし本気で、経済活動に人間・企業・そして自然環境という第3のファクターがあることをビジネスモデルとして提示できれば、低迷している日本経済の突破口となる可能性があります。
1997年に京都で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書は日本政府がCOP3の開催に立候補・誘致したことが主な理由です。

当時の日本は「COP3の議長国」として途上国支援策「京都イニシアティブ」を発表するなど、積極的な外交姿勢で誘致したことが知られています。この背景にある日本の環境技術がなければなしえなかったのではないでしょうか。また日本文化には人間は自然や環境の一部に過ぎないという考え方があちこちにあります。ひょっとするとこのような点も考慮されたのかもしれません。

八方ふさがりに見える日本経済においても、日本企業が環境や社会の一部として、新しい新規事業や商品サービスを想像していくことができれば、それは、世界に先駆けたマーケット戦略になりえます。
また、働き方の多様化により、人材の流動化が進んでいます。会社と個人の関係を繋ぐものは、雇用契約に関係する賃金や福利厚生のみなのでしょうか。

若年層の労働者にとって、いくらで働くのかということも重要視ですが、同等かそれ以上に、何の為に働くのか?ということに、既に重きを置きつつあります。合理的な判断ではなく、感性的な価値観や考え方を下地にした就職活動をしているのです。

人材確保と組織のレジリエンス強化

パーパスは、優秀な人材を惹きつけるための「働く理由」を明確に示します。条件面での競争が激化する採用市場において、自社の社会的意義を明示することは究極の差別化戦略となります。

また、企業の不祥事や、コロナ禍のような急激な外部環境の変化に見舞われた際にも、パーパスは組織を支える重要な役割を果たします。ぶれない軸があるからこそ、社員全員が柔軟に事業のピボット(方向転換)に対応でき、困難な状況から立ち上がるレジリエンス(回復力)を高める効果があります

DXとパーパスの関係性

近年、多くの大企業が取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)とパーパスは、密接な関係にあります。人事部門や研修担当者にとっても、DX人材の育成と理念浸透はセットで考えるべき重要課題です。

DXとは、単なるアナログ業務のデジタル化(デジタイゼーション)やITツールの導入にとどまらず、デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化そのものを根本から変革することを指します。このような大規模で痛みを伴う変革を推し進めるには、組織全体を納得させる強力な「大義名分」が不可欠です。

そこで重要になるのがパーパスです。パーパスという「社会に対する究極の目的」が明確に定義されているからこそ、「なぜ我々はこの事業を変革しなければならないのか」「DXを通じて、社会にどのような価値を提供したいのか」というストーリーを描くことができます。パーパスなきDX推進は、単なるツールの導入や手段の目的化に陥りやすく、現場の反発や疲弊を招く結果になりがちです。

経営トップが自らパーパスを語り、DX推進部門だけでなく人事部門や広報部門が連携して、その大義をインターナルコミュニケーションの力で全社に浸透させる。この体制整備こそが、DXを成功に導くための組織文化の土台となります。


パーパスの策定ステップ

パーパスは、外部のコンサルタントに丸投げして作れるものではありません。自社の歴史と社会の要請を深く結びつける、内省的で丁寧なプロセスが必要です。人事・研修担当者は、この策定プロセスそのものを「次世代リーダー育成」の機会として活用することも可能です。以下に、パーパス策定から実施までの具体的なステップを解説します。

【STEP1】自社の強み(SEEDS)と社会のニーズ(NEEDS)の明確化

まずは、自社にしか提供できない独自の価値観や強みである「SEEDS(らしさ)」と、社会や顧客が抱えている課題「NEEDS(要請)」を徹底的に洗い出します。経営陣へのヒアリングはもちろん、現場で活躍する社員や次世代リーダーもプロジェクトに巻き込み、創業の歴史や過去の困難を乗り越えた経験を振り返ることで、組織のDNAを抽出します。
この「自社らしさ」と「解決すべき社会課題」が重なり合う接点にこそ、真のパーパスの原石が存在します

【STEP2】パーパスステートメントの作成とストーリー化

見出した存在意義を、社内外へ共有するための「パーパスステートメント」として言語化します。この際、単なる事実の羅列や耳障りの良いキーワードの組み合わせではなく、人間の本質に根差した「心を動かすストーリー」として紡ぐことが重要です。

また、「DXで社会貢献する」といった見たままの手段を語るのではなく、その手段の先にある「どのような未来社会を創りたいのか」という深い意義を込める必要があります。
他社には真似できない卓越性と差別性が表現されているか、厳格に言葉を研ぎ澄まします。

【STEP3】パーパスウォッシュに注意した実行と評価の仕組みづくり

策定したパーパスを、実際の経営戦略、事業ポートフォリオ、さらには人事評価制度にまで落とし込みます。ここで最も注意すべきリスクが「パーパスウォッシュ」です。
パーパスウォッシュとは、立派なパーパスを掲げているにもかかわらず、実際の企業活動や従業員の行動がそれに全く伴っていない(言行不一致の)状態を指します。

これを防ぐためには、定期的なエンゲージメントサーベイによる浸透度の測定や、行動指針に基づく表彰制度の導入など、仕組みを通じた継続的なモニタリングが不可欠です。また、評価制度や採用基準にパーパスへの共感度を組み込むことで、組織文化として定着させていくプロセスが求められます。

パーパス経営の企業事例

繰り返しになりますが、パーパスブランディングとは企業経営をパーパスに基づいて行うことを通じて企業のブランディングを図ることです。企業の存在意義を適切に社内外に発信することで、社員や消費者だけでなく社会からの共感と支持を広く得て、長期的に企業のブランド価値を高めることを目的とします。ここでは、パーパスブランディングの事例をご紹介します。

ソニー

ソニーのパーパスは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」です。
2018年4月に新しく就任したCEOが全世界の社員に対し呼びかける形で、これまでのMVVを見直し、パーパスが決定されました。
CEO室や人事部、ブランド戦略部、広報部などによる「P&V事務局」の先導で、パーパスの社内への浸透を図っています。対外的には、経営方針説明会でCEO自らがパーパスを軸とした経営方針を語るなど、積極的な発信を行ってきました。コロナ禍でエンターテイメントの意義やあり方が見直されるなか、従業員が矜持をもって仕事に取り組めたのは、パーパスのおかげだという声もあります。

ネスレ

ネスレのパーパスは、「食と飲料の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」です。このパーパスに基づいて、ネスレがプラスの価値を与えうる領域として、個人と家族・コミュニティ・地球という3つの領域を定義し、それぞれの分野において2030年までの長期目標と中期コミットメントや数値目標を設定しました。

ネスレは、個人と家族の領域では栄養の提供を、コミュニティの領域では農村開発支援を、地球の領域では環境問題への貢献を掲げています。例えばカカオ栽培において、農村の貧困問題解決や児童労働の撲滅を掲げてサプライチェーンの継続的な改善を実施しており、事業成長と社会課題の解決を見事に両立させています

パタゴニア(Patagonia)

米国発のアウトドアブランドであるパタゴニアは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」という強烈なパーパスを掲げています。同社は、パーパスを経営戦略や事業戦略そのものに深く組み込んでいます。全売上の1%を自然環境の保護と回復のために寄付するだけでなく、2022年には創業者の意向のもと、事業へ再投資されないすべての利益を、地球保護のために分配する独自の組織構造へと進化させました。まさに「得た利益を地球のために使う」という企業活動そのもので、パーパスを体現している究極の事例と言えます。

味の素

味の素は、「食と健康の課題解決」というパーパスを掲げ、「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」と宣言しています。
同社が優れている点は、パーパスの社内浸透の手法です。個人の目標設定とパーパスを連動させた発表会を実施したり、社内SNSを活用してベストプラクティスを共有したりと、インターナルコミュニケーションを積極的に活用しています
さらに、エンゲージメントサーベイを用いて浸透度を定期的に測定し、組織一体となったパーパス経営とDXを強力に推進しています。

トーエネック

設備工事を手掛けるトーエネックは、「いかなる時も、人や社会に”活力と豊かさ”を生み出す快適環境を創り、守る」という使命(パーパス)を掲げています。
同社は、このパーパスを体現する物語として、現場で汗を流す女性社員が初めて現場所長として挑戦する姿を描いた企業CMを制作し、社内外へのブランディングを行いました。
「悩んだ時間、流した汗が誰かの快適になる」というメッセージは、パーパスが現場の日常業務とどう繋がっているかを示す好例であり、従業員の誇りを醸成する優れたアプローチです。

パーパスブランディングの社内浸透方法

企業の社会的存在意義がますます厳しく問われる時代となり、パーパスブランディングは大企業の単なるトレンドではなく、どの企業も積極的に取り入れるべきブランディング手法になると考えられます。

経営者や有識者には注目されているパーパスの考え方ですが、ビジネスの現場で働く人々の理解はなかなか追いついていないというのが現状です。パーパスブランディングを実現するためには、単にパーパスを対外的に発表するだけでは足りません。

まずはパーパスを実際の業務に落とし込むことで、社員にその重要性と自社で働く意義を感じてもらい、社内にパーパスを浸透させる取り組みが必要でしょう。社内において効果的なパーパスブランディングを実施するためには、コーポレート部門による社内発信だけではなく、実際の業務を通じた気づきや、各職場での対話など、双方向のインターナルコミュニケーション施策を通じて社員一人ひとりが納得し、腹落ちすることが欠かせません

インターナルコミュニケーションを通じてパーパスを浸透させるプロセスは、「わかる化(認知)」→「語れる化(理解・共感)」→「誇れる化(愛着)」→「役立つ化(行動の判断軸)」→「連帯化(文化の定着)」という5つのステップを踏むことが効果的です。

ここで、人事部門や研修担当者が直面する大きな壁が立ちはだかります。弊社ソフィアの調査では、社内コミュニケーション促進の施策として「1on1ミーティング」を導入している企業が最も多い一方で、皮肉なことに「促進に効果的でないと感じる取り組み」のトップもまた「1on1」であるというパラドックスが明らかになりました。

これは、1on1という「対話の場(制度)」を用意するだけでは不十分であり、上司側の傾聴スキルや心理的安全性に対する理解が欠如していると、若手社員の萎縮を招き、かえってコミュニケーションを阻害してしまう危険性を示唆しています。

この課題を乗り越え、パーパスを現場の隅々にまで浸透させるためには、以下の「対話・教育・ツール」の三本柱をバランスよく機能させることが不可欠です。

  • 対話(Dialogue)の質の向上:経営トップからのトップダウンの情報発信だけでなく、現場のマネージャーとメンバーが「自社のパーパスと個人のキャリア(My Purpose)がどう重なるか」を率直に話し合える、心理的安全性の高い対話の場を創出します。
  • 教育(Education)によるマネジメントスキルの底上げ:制度としての1on1を機能させるため、人事・研修担当者はマネージャー層に対して、コーチング、傾聴スキル、フィードバックの技術を実践的にトレーニングする必要があります。
  • ツール(Tools)の戦略的活用:社内SNSや社内報、動画プラットフォームなどのデジタルツールを効果的に活用し、部門間のナレッジ共有を促進します。味の素の事例のように、ベストプラクティスをツール上で共有し称賛する仕組みが、パーパスの「役立つ化」を加速させます。

インターナルコミュニケーションの手法は数多く存在し、どの手法が効果を発揮するかは組織の状況によって異なります。インターナルコミュニケーションでパーパスブランディングを推進する際にお困りのことがありましたら、「働く人の体験」を中心に置いた組織マネジメント支援をしているソフィアまでぜひご相談ください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。パーパスとは単なる耳障りの良いスローガンではなく、社会の課題解決に向けた企業の確固たる「存在意義」です。
ステークホルダー資本主義やESG投資が重視される現代において、パーパス経営の実践は、投資家からの評価向上や優秀な人材の獲得、そして従業員エンゲージメントの飛躍的な強化に直結します。

しかし、弊社ソフィアの実態調査が示す通り、多くの日本企業では部門間の壁や経営層と現場の分断により、理念や戦略への共感が極めて低い水準(1割程度)にとどまっています。
形だけの「パーパスウォッシュ」に陥らないためには、経営層の強いコミットメントのもと、対話・教育・デジタルツールを駆使したインターナルコミュニケーションの抜本的な見直しが必要不可欠です。

大企業の人事部門長や研修企画担当者の皆様におかれましては、本記事を参考に、自社の存在意義を再定義し、真に社会と従業員から共感・体現されるパーパス経営の一歩を踏み出していただければ幸いです。

お問い合わせ

よくある質問
  • パーパスとミッション・ビジョンの最も大きな違い
  • 問いの焦点と視座が異なります。ミッション(日々果たす使命)やビジョン(将来のありたい姿)は主に自社や顧客を主語とした内向きな目標になりがちですが、パーパスは「社会に対して自社がどのような価値を提供するのか(Why)」という、広く社会全体や地球環境までも主語とした存在意義を示します。

  • パーパスウォッシュとはどのような状態か
  • 立派なパーパス(存在意義)を対外的に掲げているにもかかわらず、実際の事業活動、組織文化、従業員の行動がそれに全く伴っていない「言行不一致」の状態を指します。投資家や消費者からの信頼を大きく損なうだけでなく、従業員のエンゲージメントを急落させるリスクがあります。

  • 社内にパーパスを浸透させるための最初のステップ
  • まずは、策定されたパーパスの背景やストーリーを従業員が理解する「わかる化」から始め、日常業務の判断基準として使える「役立つ化」へと移行させることが重要です。そのためには、経営層からの一方的な発信に終始せず、1on1ミーティングや部門横断のワークショップなど、現場での「双方向の対話の場」を戦略的に設計し、マネージャー層へのコミュニケーション教育を行うことが第一歩となります。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。