伴走支援は万能薬か? 伴走される人、伴走する人の条件とは ~シリーズ「変革する人には伴走者が必要だ」③

昨今、ビジネスの分野で「伴走支援」「伴走型支援」という言葉をよく耳にするようになりました。先行きが不透明で正解のない時代において、それぞれの企業が困難なミッションを遂行するために、広い知見や経験を持った社外の伴走者を活用するのは、一見合理的な選択のように見えます。

しかし、本当にそうでしょうか。実際には、伴走支援はどんな課題も解決する万能薬ではなく、誰でも伴走支援さえ受ければ仕事がうまくいくわけでもありません。この記事では、企業に対する伴走支援を長年手掛けてきたコンサルタントの経験から、伴走支援が適しているケースとそうでないケース、また、「伴走される人」と「伴走する人」に必要な条件についてお伝えしていきます。

伴走支援がフィットする課題とフィットしない課題

伴走支援は、組織が困難な局面、複雑な問題に直面している際に効果を発揮します。その一方、たとえ伴走支援を導入してもあまり有効に機能しないケースも存在します。もし、あなたの組織で伴走支援の導入を検討している場合は、以下のどれに当てはまるかチェックしてみてください。

伴走支援が適するケース

伴走支援が適しているのは、これまでの組織内のリソースでは対応できないような、難易度の高い課題に取り組むときです。

何が問題なのかが明確でない場合

業績が下がり続けている、社員の元気がない、離職が多い等、「何かがうまくいっていないが何が原因なのかわからない」場合には、伴走支援が有効です。当たり前すぎて問題だとも思っていなかったことに、さまざまな組織を見てきた第三者の目を通して気付ける場合もあります。

組織内では前例のない、まったく新しい取り組み

組織において前例のない取り組みを始める際、たいていは組織内外の反対意見に直面し、さまざまな関係者との調整が必要になります。また、取り組みに関連する知識や技術を持った外部の専門家に協力を仰ぐ場面も出てきます。このようなケースでは、プロジェクト全体に関してアドバイスやコーディネートを行う伴走者の存在がプラスに働くでしょう。

多様な組織や関係者に影響し、合意形成が困難な課題

多様な関係者の合意形成が必要な場合も、第三者としての伴走者の存在が生きる場面です。どうしても組織内の担当者はこれまでの利害関係や上下関係があり、今後の会社生活もあるためリスクを取りづらく、率直に意見を言いにくい相手や場面が出てきます。そのため、フラットな立場から是々非々で意見することができる第三者の存在が必要なのです。

既存の取り組みの統廃合などにかかわる、センシティブな課題

明確に組織間の利害対立や感情的な反発が予想されるような場面に、社内の担当者が矢面に立つとその人自身や所属部署が悪者になってしまうことがあります。このような場面でも伴走者がクッション役となって間に入ることで、互いに感情的になることなく、しこりを残さずに話を前に進められる場合があります。

伴走支援が適さないケース

以下のようなケースには、伴走支援は適しません。たとえ伴走者をつけたとしても効果が出ず、投資が無駄になるばかりか、状況を一層悪くしてしまう場合もあるため注意が必要です。

あらかじめ問題の原因や解決方法の明らかな課題

問題の原因が明確で、解決方法がすでに見えており、「あとは実施するだけ」という状況であれば、継続的な伴走支援を入れる必要はありません。あなたの組織がどのようなソリューションを必要としているかに応じて、適したパートナーを探して依頼してください。

社内で十分に解決可能な、規模の相対的に小さい課題

組織内の1つや2つの部署で完結するような、規模の小さい課題には、伴走者は必要ありません。担当者の実力不足、上司が多忙で指導ができない、一時的に人的リソースが足りない、などが問題であれば、それはマネジメントが解決すべき課題です。もちろん、外部リソースを投入することで業務がスムーズに回ることはあるかもしれませんが、それは単なるBPOであり、伴走支援である必要はありません。問題を先送りするだけで根本的な解決にはならず、外部リソースに依存し続けることで、社内人材の成長を妨げてしまうリスクもあります

担当者に解決の責任や権限がない課題

どれだけ本人の問題意識や当事者意識が大きくても、組織構造上そのご担当者に問題解決の責任や権限がないのであれば、予算の確保や体制作りが現実的でないため、たとえ伴走者がついても成果につなげることは困難と予想されます。まずは直面している問題にかかわる組織内のキーパーソンに働きかけ、しかるべきルートから伴走支援を依頼することをお薦めします。

「伴走される人」に求められる条件とは

あなたの組織の課題は、「伴走支援が適するケース」「伴走支援が適さないケース」どちらでしたか? 伴走支援が適するケースであれば、伴走支援導入の検討を進めてもよいでしょう。ただし、伴走支援さえ導入すれば万事順調に進むかというと、そういうわけではありません。伴走支援を受ける側にも適性があるのです。あなたは以下の条件に当てはまるでしょうか。

非常に強い当事者意識がある

伴走支援を受ける人は、取り組もうとしている課題に対して、組織の中で誰よりも強い当事者意識を持っている必要があります。いくら伴走者に当事者意識があっても、伴走される側の当事者意識が欠けていたら、目的の達成は困難です。なぜなら、伴走者はあくまで担当者の「伴走」をするのであって、実際に組織を動かすのは伴走される側だからです。伴走される側は、伴走者から常に当事者意識を問われ続けることを覚悟する必要があります

業務負荷増大への覚悟がある

伴走支援を受けても担当者の業務は楽になりません。伴走者の支援を受けながら実際に組織を動かしていくためには、伴走者やさまざまな関係者と密なコミュニケーションを重ねる必要があるため、業務負荷は一時的に大きく増えることが予想されます。もしあなたが、自分の手足となって代わりに動いてくれる人のみを求めているのであれば、伴走支援ではなくBPOの利用を検討したほうが良いかもしれません。

成果に対して妥協しない

伴走者がコミットするのは、組織の将来にとってプラスとなる成果を出すことです。そのため、たとえ伴走される側が「ある程度やったからこのくらいでいい」といっても、それが組織のためにならないのであれば伴走者がノーを突きつける場合もあります。伴走者をつけるということは、個人的な都合や自部署の都合を優先し、全体の成果に対して妥協する、ということが許されなくなることであると考えてください。伴走される側は、「何がなんでも成果を出す」という覚悟を、常に伴走者から問われる立場になるのです。


伴走者の役割

では、実際に企業の伴走支援を行う際、伴走者であるコンサルタントはどのようなことをしているのでしょうか。ソフィアの行っている伴走支援における、コンサルタントの役割をご紹介します。

1. 顧客企業に対する理解・観察・洞察

まずはお客様企業に対する情報を集め、理解を深めます。その背景には、「いま目の前にある企業の資産や業績といった数字だけではなく、創業の精神やこれまでの歴史、企業で働く一人ひとりの存在も含めてその会社であり組織である」、という考え方があります。事業報告書などの経営情報や、社史、社内報、社員調査の結果などの情報を読み込み、その会社の過去から現在までのあり方を包括的に理解した上で、今後のあるべき姿について仮説を探っていきます。そこから必要に応じて、経営層との対話や、社員アンケート、ヒアリング調査、観察などを行い、現状の課題抽出と解決方法の検討、必要な施策の洗い出しにつなげていきます。

2. 顧客との関係性構築(巻き込み・広げる)

プロジェクトを進める上では、さまざまな関係者の協力が必要です。そのため伴走者は、取り組みの担当者だけでなく、経営層や管理職など、キーパーソンとなる関係者との関係構築を行います。必要に応じて担当部門以外の部署や社外のパートナーなどの、関係者と会って、取り組みについて対話し、協力者になってもらえるよう働きかけます。

3. プロジェクト設計と合意形成

伴走者は、経営者や担当者の壁打ち相手となってディスカッションを重ねることで、不明瞭な課題の明確化や、取り組みのゴールやプロジェクトのスコープ設定、具体的な施策や計画の立案を支援します。この段階で関係者を集めて、合宿形式でともにプロジェクト設計を行う場合もあります。また、上申資料の作成をサポートし、上申プレゼンや社内説明会を通じて関係者の合意形成を図っていきます。

4. プロジェクト推進

社内の合意を得られたら、プロジェクトメンバーとともに施策を遂行します。その際、コーディネーターとして社内外の専門家との橋渡しや、必要な情報や人材などのリソースを調達し、調査分析、ITシステム、メディアやコンテンツ、研修やワークショップなどのソリューションを提供します。また、取り組みに対する効果測定を行い、PDCAを回していきます。

伴走者に必要なスキル

最後に、伴走者になるために必要なスキルを4つご紹介します。社外のパートナーに伴走支援を依頼する際に、相手が伴走者として適しているかどうか判断する基準としてご利用ください。

企業を深く理解する能力

顧客企業を深く理解するためには、ビジネスの基本的な知識はもとより、さまざまな業界についての知識が必要です。また、必要に応じて情報収集や調査・分析を行うことができる能力も必要です。
財務データや調査データを読み解くだけでなく、歴史的な背景や事業内容の推移からその企業の特性を探るためには、さまざまな背景知識も必要となります

組織や経営に関する幅広い知識

組織の中でさまざまな関係者との調整、合意形成を行うためには、それぞれの組織がどのような役割と関係性を持ち、どのような力学のもとに動いているかの理解が不可欠です。そのためには経営の知識や、マネジメントやリーダーシップ、組織開発など、さまざまな知識・経験が必要です。

プロジェクトマネジメントのスキル

限られたリソースを使って、あらかじめ定められた期日までに成果を出すために、伴走者がプロジェクトマネジャーとしての役割を担う場合もあります。そのため、取り組みのスコープ設定や体制づくり、スケジュールや予算の管理、課題とタスクの管理、関係者との情報共有など、プロジェクトマネジメントのスキルや経験が必要です。

コミュニケーションとファシリテーションのスキル

ヒアリング能力やプレゼンテーション能力、文書作成能力など基本的なビジネススキルが必要なのはもちろんですが、伴走者として活動する際には組織内外のさまざまな関係者との関係構築、利害関係の調整、説得・交渉、合意形成など、さまざまなコミュニケーションが必要な場面が多くあります。また、担当者に対してはコーチとして気付きや成長を促し、プロジェクト全体に対してはファシリテーターとして議論の促進や整理、とりまとめを行うなど、全方面へのコミュニケーションが求められます。そのため、コミュニケーション、ファシリテーションの高い能力は伴走者に必須といえるでしょう。

まとめ

昨今、ビジネスにおけるバズワードとなりつつある「伴走」「伴走支援」ですが、伴走される側にはそれなりの覚悟が、伴走する側には相応のスキルが必要とされます。安易な導入は効果を期待できないだけでなく、かえって害悪となるリスクもあるのです。伴走支援の適切な活用に向けて、この記事がお役に立てば幸いです。



よくある質問
  • ビジネスにおける伴走とは何ですか?
  • 経済産業省が近年の経営環境の急激な変化を考慮して、中小企業の経営力立て直しを図るために「経営力再構築伴走支援」の全国展開を進めています。これは、中小企業の経営者と第三者(地域の商工団体や士業、金融機関など)が継続的に対話を重ね、課題設定や課題解決の支援を行うことで中小企業の経営改革と自走化を促していくものです。
    ポイントは3つ
    あくまで走る主体は当事者であり、伴走者は当事者が走れるように支援する
    伴走者は特定の専門性を発揮するのではなく、包括的に支援する
    当事者と対話を重ねながら、最終的には自走を目指す

株式会社ソフィア

代表取締役社長、チーフコミュニケーションオフィサー

廣田 拓也

異なる世界にある共通項を見つけて分断をつなぐことが得意です。最近ではソフィアがこれまで培ってきたノウハウやテクノロジーを活用し、地域の教育分野に力を注いでいます。思考回路と判断基準は、それが面白いかどうか。そして指示命令は、するのも、されるのも嫌いです。だけど、応援を要請されたら馬車馬のように動きます。

株式会社ソフィア

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異なる世界にある共通項を見つけて分断をつなぐことが得意です。最近ではソフィアがこれまで培ってきたノウハウやテクノロジーを活用し、地域の教育分野に力を注いでいます。思考回路と判断基準は、それが面白いかどうか。そして指示命令は、するのも、されるのも嫌いです。だけど、応援を要請されたら馬車馬のように動きます。

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