パーパス経営の課題とは?現場浸透を阻む「三重苦」と解決の3つの柱【2024年最新調査】
最終更新日:2026.03.02
目次
近年、多くの日本企業が「パーパス(存在意義)」を策定し、経営の軸に据える「パーパス経営」へと舵を切っています。しかし、壮大な理念を掲げたものの、「現場の行動が変わらない」「スローガンだけで終わっている」という壁に直面する経営企画・広報責任者の方は少なくないのではないでしょうか。実際に、経営層の熱量とは裏腹に、現場では冷めた空気が漂う「温度差」が拡大しているケースが散見されます。
では、なぜ美しい言葉で綴られたパーパスは、従業員の心に届かないのでしょうか。また、DXやチャットツールの導入が進んでいるにもかかわらず、組織の求心力が低下するのはなぜなのでしょうか。本記事では、パーパス経営の基礎概念から立ち返り、日本企業特有の構造的な課題を深掘りしていきます。さらに、株式会社ソフィアが実施した最新の「インターナルコミュニケーション実態調査2024」のエビデンスを交えながら、大企業が直面している「情報の三重苦」や「戦略への共感不足」の実態を明らかにします。その上で、抽象的な理念を具体的な現場行動へと落とし込み、真の競争優位を生み出すための解決策を、成功事例とともに体系的に解説いたします。
パーパス経営とは何か
「パーパス経営」の本質とアカウンタビリティ
まず、「パーパス経営」の定義を確認しておきましょう。パーパス経営とは、「企業の社会における存在意義を問い、存在意義を軸にした経営を行うこと」を指します。利益創出を目的とした企業活動は社会の変革と同時に、さまざまな社会問題を生み出してきました。そのような課題を解決する主体として企業が注目を集めたことを背景に、パーパス経営が重要視されるようになったのです。
「パーパス経営」とは「企業の社会における存在意義を問い、存在意義を軸にした経営を行うこと」を指します。利益創出を目的とした企業活動は社会の変革と同時に、さまざまな社会問題を生み出しました。そのような課題を解決する主体として企業が注目を集めたことを背景に、パーパス経営が重要視されています。
アパレル企業のパタゴニアは「アカウンタビリティ」という言葉を使用しています。パタゴニアが使用する文脈では、企業が自然環境を含めた社会全体に対して説明責任を負うことを意味します。現代においては、企業が主役で、自然環境や社会環境が従属すると考えられていましたが、パタゴニアでは逆の立場を取り、自然環境や社会環境が主役であり、人間や企業はその中の一部分に過ぎず、環境や社会が主役であり、企業や人間はその中のプレイヤーであるという考え方にあります。
パーパスという存在意義の「存在」を経済から社会や環境において、社会課題を引き受けていくというのがパーパス経営です。
日本と欧米ではパーパス経営の課題が異なる
パーパス経営を考える際、日本と欧米では経営スタイルに違いがあります。日本では長期的な視点で経営を行い、従業員との関係が重視されます。一方で欧米では短期的な利益追求が一般的であり、日本社会という大きな枠組みにおける“企業の存在意義”を表しています。日本には「三方良し」「企業は社会の公器」であり、日本には創業100年を越える長寿企業が世界で最も多く存在し、日本文化にも、人間が社会や環境の一部に過ぎないというモチーフが、あちこちにあり、パーパスという概念はむしろ日本的とも言えます。
しかし、パーパスをステークホルダーにコミュニケーションするということにおいては、欧米企業と比較して、日本企業は弱いと言っても言い過ぎではありません。例えば、社員や従業員とのコミュニケーションは、大きく違います。欧米企業はジョブホッピングを前提とした社員は企業に所属します。つまり、早期に成果や結果を出し次の転職先で更に良い条件で雇用してもらおうと考えることが普通です。従って社員は、企業から求めれている事や課題を企業からのコミュニケーションを能動的にキャッチアップします。従ってパーパスという根本的メッセージに関して敏感であり理解しようと努力します。また企業側は、下手なコミュニケーションをすれば、社員にそっぽ向かれるため、コミュニケーションには多大な労力を掛けます。
日本企業は長く終身雇用を続けているため、理念やパーパスを共有する事は苦労してこなかった歴史があります。しかし、日本も人材流動性が高まる中、パーパス策定を契機に伝える力や共感する社員を創造する事は重要です。
1. 投資家ニーズの変化(ESG投資の拡大)
世界のESG投資額は35.3兆ドル前後となり(2020年時点)、投資家は財務指標だけでなく、「その企業が社会課題に対しどのような姿勢(パーパス)を持っているか」を厳しく評価するようになりました。かつての「株主至上主義」から「ステークホルダー資本主義」への転換が進んでおり、パーパスなき企業は、資金調達の面でも不利になるリスクがあると言えるでしょう。

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2. 消費者の価値観の変化
特にミレニアル世代やZ世代を中心に、「エシカル消費」や「意味のある消費」への志向が強まっています。機能や価格だけでなく、「そのブランドを応援することが社会を良くすることにつながるか」という視点が購買決定要因となっているのです。
3. 人材獲得競争の激化(Human Capital)
「何のために働くのか」を重視する求職者が増えています。優秀な人材ほど、金銭的報酬以上に、自身の仕事が社会に与えるインパクトを重視する傾向があります。明確なパーパスは、採用ブランディングにおける強力な差別化要因となるでしょう。
4. リスクマネジメント(クライシスへの耐性)
不祥事や有事の際、拠り所となる軸(パーパス)がある企業は、判断がぶれず、ステークホルダーからの信頼回復も早い傾向にあります。パーパスは平時の羅針盤であると同時に、有事の防波堤でもあるのです。
日本と欧米ではパーパス経営の課題が異なる
パーパス経営を考える際、日本と欧米では経営スタイルに違いがある点を押さえておく必要があります。日本では長期的な視点で経営を行い、従業員との関係が重視されます。一方で欧米では短期的な利益追求が一般的です。
日本には「三方良し」「企業は社会の公器」という考え方があり、創業100年を超える長寿企業が世界で最も多く存在します。日本文化にも、人間が社会や環境の一部に過ぎないというモチーフがあちこちに見られ、パーパスという概念はむしろ日本的とも言えるでしょう。
しかし、パーパスをステークホルダーにコミュニケーションするということにおいては、欧米企業と比較して、日本企業は弱いと言っても言い過ぎではありません。
具体的には、社員や従業員とのコミュニケーションが大きく異なります。欧米企業ではジョブホッピングを前提として社員が企業に所属します。つまり、早期に成果や結果を出し、次の転職先でより良い条件で雇用してもらおうと考えることが普通です。したがって社員は、企業から求められていることや課題を、企業からのコミュニケーションを通じて能動的にキャッチアップします。パーパスという根本的メッセージに関して敏感であり、理解しようと努力するのです。また企業側も、下手なコミュニケーションをすれば社員にそっぽを向かれるため、コミュニケーションには多大な労力をかけています。
一方、日本企業は長く終身雇用を続けてきたため、理念やパーパスを共有することに苦労してこなかった歴史があります。文脈依存(ハイコンテクスト)な文化の中で、「言わなくてもわかるだろう」という阿吽の呼吸に頼ってきた側面が否めません。しかし、日本でも人材流動性が高まる中、パーパス策定を契機に伝える力や共感する社員を創造することが重要になってきているのです。
| 特徴 | 日本企業 | 欧米企業 |
| 経営視点 | 長期的・従業員重視 | 短期的利益・株主重視 |
| パーパスの親和性 | 高い(三方良し、公器) | 戦略的ツールとして導入 |
| コミュニケーション | ハイコンテクスト(阿吽の呼吸) | ローコンテクスト(明文化・対話) |
| 従業員の意識 | 受動的傾向(終身雇用) | 能動的(ジョブホッピング前提) |
| 課題 | 伝える力・共感させる仕組み | 短期利益とのバランス |
パーパス経営の効果
ここまでパーパス経営の背景を見てきました。では、パーパス経営にはどのような効果があるのでしょうか。大きく2つの効果をご紹介します。
1. 社会からの信頼獲得(ソーシャル・キャピタル)
1つ目は、企業としての存在価値を示すことで社会からの信頼を獲得できることです。企業活動を通して社会貢献に取り組む姿勢を推進すると、取引先や消費者からの評価が高くなります。
たとえば、アパレル企業が環境問題の解決をパーパスとして掲げ、衣類のリサイクルに取り組む活動があったとします。企業活動と社会問題が密接に絡み合うことで、その企業だからこそ成し遂げられる価値を社会に示すことができ、信頼性の向上につながるのです。
2. イノベーションと競争力強化
2つ目は、企業の競争力強化です。社会の変化に合わせて消費者のニーズも多様化していきます。そのような時代で企業が競争に勝つためには、顧客のニーズに応える商品やサービスを提供し続けることが必要でしょう。
パーパス経営を通して企業の存在価値を見直すことで、これまでにないイノベーティブなビジネスモデルを確立する可能性が期待できます。パーパスという「制約」や「高い目標」があるからこそ、従来の延長線上にはない発想(バックキャスティング)が生まれ、新たな市場機会の創出につながるのです。
パーパス経営の課題と事象とは
ここまでパーパス経営の効果を見てきました。では、パーパス経営を行う際にはどのような課題が潜んでいるのでしょうか。多くの企業が「策定」までは進みますが、その後の「浸透・定着」のフェーズでつまずきます。パーパス経営がうまく推進できない事象と合わせて、解説していきましょう。
現場の改革に至らない
パーパス経営は、企業全体にパーパスが浸透された状態で行う必要があります。冒頭でも述べた通り、パーパス経営は社会課題を解決することが大きな目的になっているため、長期的視点に基づいて進めていきます。ところが経営層がパーパスを掲げた段階で満足してしまい、現場の改革に至らないケースがあるのです。
具体的には、パーパス経営を推進する前に従業員への浸透活動が必要にもかかわらず、パーパスを策定したことで従業員の意識改革に効果があると思い込んでしまうケースです。現場としては収益やビジョンに向かって業務を進めている一方、パーパス経営が収益性や事業合理とつながらないと、パーパス経営の浸透を阻害する要因になってしまいます。「社会貢献は大事だが、目の前の数字(ノルマ)はどうするのか」という現場の葛藤を放置したままでは、パーパスは「きれいごと」として処理され、経営への不信感すら生み出しかねません。
パーパス経営による効果を得るためには、パーパスの目的や意図を丁寧に説明し、共有することが大切です。また、パーパス経営によって目指すべき意識改革が進んでいるのか、定期的に確認するようにしましょう。
事業の発展につながらない
パーパスを掲げただけで満足してしまい、取り組みを実行できていないケースの場合、事業の発展につながらないでしょう。パーパス経営の宣言が事業の発展につながらない場合、かえって信頼性を低下させてしまう可能性もあります。自社の特徴をよく分析したうえで、実現可能なパーパスを策定することが大切です。
パーパスを本気で取り入れ、世界をリードすることができれば、日本経済を打開できるような事業が生まれる可能性もあります。以前、京都議定書で環境問題に関する国際協定が初めて結ばれた国際会議が日本で行われたのは、日本の環境技術が高く評価されていたからです。また、日本企業が社会に対して商品やサービスを提供することは、世界に先駆けたマーケティング戦略を展開することにつながる可能性があるのです。
コーポレート部門ごとの暗闘
パーパス経営の失敗の一つは、各部門が異なる解釈を持つことですが、一概にすべて悪いというわけではありません。パーパスは上位概念であり、それぞれの部門で異なるかたちで解釈されることもあります。むしろ、異なる視点から解釈されることは、パーパスの内包性と解釈の幅を広げる機会でもあります。各部門がコミュニケーションを取り、異なる視点からパーパスを捉え、協力することで、より豊かなパーパスの解釈と実践が可能になるでしょう。
ただし、コーポレート部門ごとの暗闘、つまりある部門だけが指導的立場に立って、異なる解釈を排除しようとすることは、失敗の原因となる可能性があります。例えば、広報部は「対外ブランディング」としてパーパスを使い、経営企画部は「中期経営計画」の軸として使い、人事は「採用・評価」に使う。これらが連携せずバラバラに動くと、現場には異なる文脈のメッセージが降り注ぎ、混乱を招いてしまいます。
弊社ソフィアの調査においても、社内コミュニケーションの課題として「部門間(58%)」が最も多く挙げられており、組織のサイロ化がパーパスの統一的な理解を阻んでいる実態が浮き彫りになっています。
異なる意見を受け入れることで、より多様な視点からの解釈ができ、パーパスがより強化されることになります。外部の権威や事例を参考にすることも重要ですが、自社に合わせたパーパスを作るためには、各部門が協力し、コミュニケーションを取り合うことが必要なのです。
現場との距離を感じるパーパス
パーパス経営で失敗する理由には、現場での理解が困難なパーパス内容や、美辞麗句ばかり並べただけの策定過程があります。そのような内容はときに現場にストレスを与え、パーパスに対する嫌悪感や抵抗が生まれることもあります。これが現場との距離を感じるパーパスの問題です。
こうした問題を解決するためには、現場の意見や状況を考慮しながら、パーパスを策定する必要があります。さらに、時間が経過するにつれ、解釈や意図は変化するため、継続的に対話をし、ビジネスとパーパスを結びつけることが重要です。現場の声を聞き、ビジネスとパーパスをバランスよく考慮することで、失敗を防ぎ、組織のビジョンを実現することができるでしょう。
パーパスウォッシュ
「パーパスウォッシュ」とは、企業がパーパスを掲げているにもかかわらず、実際には何の行動もせず、社会貢献をしているかのように装うことを指します。パーパスには社会貢献が含まれることが多いため、それを掲げる場合には、実際に社会貢献をすることが必要です。言葉と行動が一致していなければ、パーパスは偽善になってしまいます。
特にSNS時代においては、企業の言行不一致は瞬く間に拡散され、ブランド毀損に直結します。「環境に配慮する」と言いながら、下請け企業に過度なコスト削減を強いているような矛盾は、従業員エンゲージメントを著しく低下させてしまいます。そのため、パーパスを策定する場合には、実現できるかどうか慎重に検討する必要があるでしょう。目標や理念が、組織のビジネスと整合性が取れているかどうか、確認することが大切です。
また、社会的な貢献についても、組織の実際のビジネスがその目的を達成することができるかどうか、検討する必要があります。
パーパス策定はゴールだと勘違い
パーパスを策定することにより、企業は社会的貢献を果たすための指針を持ち、社会的責任を果たすことができます。しかしながら、パーパス策定はゴールだと勘違いし、策定しただけで終わってしまうことがあります。
パーパスを策定しただけで業務が一変するわけではありません。関係者からの共感や変化を促すための労力やコストをかけることが必要です。パーパスを策定するだけでなく、実行するための計画や取り組みが重要なのです。コンサルティング会社を入れてきれいな言葉を作った時点で満足し、その後の「泥臭い浸透活動」への予算やリソースが確保されていないケースが典型的だと言えるでしょう。
インターナルコミュニケーション実態調査2024から見る「情報の三重苦」
ここまでパーパス経営の課題を見てきました。では、パーパスが浸透しない現場の実態はどうなっているのでしょうか。ここからは、定量的なデータから紐解いていきます。弊社ソフィアが実施した最新の「インターナルコミュニケーション実態調査2024」のデータを用いて、日本企業における戦略浸透のリアルな障壁を明らかにしましょう。
戦略への共感は「わずか1割」の現実
調査結果によると、会社の戦略に対して「共感している」と回答した従業員は、わずか10%(1割)程度にとどまることが明らかになりました。
多くの経営者が「従業員も理解してくれているはずだ」「何度も説明した」と考えている一方で、現場の9割は戦略やパーパスを「自分ごと」として捉えていない、あるいは内容すら十分に認識していない可能性があります。この圧倒的なギャップこそが、パーパス経営が空回りする最大の要因だと言えるでしょう。
情報共有の「三重苦」が浸透を阻む
では、なぜこれほどまでに共感が生まれないのでしょうか。同調査では、社内コミュニケーションにおける深刻な課題として、以下の「三重苦」が浮き彫りになりました。
| 三重苦の要素 | 現場の状態 |
| 1. 共有ナシ(ない) | 業務や戦略に関連する重要な情報がそもそも共有されない。 |
| 2. 遅い | 情報が現場に届くのが遅く、アクションのタイミングを逸する。 |
| 3. 探せない(見つからない) | 情報はイントラネットのどこかにあるはずだが、必要な時に見つけられない。 |
弊社ソフィアの調査では、チャットツールの導入率は76%に達しており、デジタルツールの導入自体は進んでいます。しかし、「ツールはあるが、情報が流通していない」「ツールが増えすぎて情報が埋もれている」という、ツールの活用度における格差(デジタル・ディバイドならぬ活用ディバイド)が、情報の三重苦を引き起こしているのです。
情報が届かなければ、理解も共感も生まれません。パーパス浸透の前提となる「情報のインフラ」が目詰まりを起こしている状況だと言えるでしょう。
部門の壁が「協力」を阻害する
また、コミュニケーションの問題を感じる対象として、「部門間」を挙げた回答が58%と最多でした。
パーパスの実現には、開発・製造・営業・広報など、バリューチェーン全体での連携が不可欠です。しかし、現場では「隣の部署が何をしているかわからない」「縦割りのKPIが邪魔をして協力できない」という状況が常態化しています。この組織的な分断が、全社一丸となったパーパスの実践を阻む大きな障壁となっているのです。
パーパス経営がなぜうまくいかないのかその要因
ここまで課題と実態を整理してきました。では、パーパス経営がうまくいかない根本的な要因は何でしょうか。
要因として、パーパスに掲げられたキーワードが不明確になっていることが考えられます。パーパス経営を掲げる際に美辞麗句を並べ、それっぽい言葉で語ってしまうと、社員やステークホルダーは具体的なイメージができず、共感することができないでしょう。パーパスで掲げた言葉には、経済活動や資本主義という枠組みを越え、イデオロギーや思想的な部分が包含されています。
パーパスは、社内外における一定レベルの合意形成をしたうえで、個別の業務や個別事業とどのようにつなげるのかが大切です。ここに「抽象」と「具体」のジレンマが起こります。
パーパスは包括的であるために抽象度が高くなりがちですが、現場の業務は具体的です。「世界を幸せにする」というパーパスを聞いて、経理担当者が「今日の伝票処理をどう変えればいいのか」を即座にイメージするのは困難ではないでしょうか。
このギャップを埋めるためには、管理や仕組みでマネジメントするのではなく、コミュニケーションでマネジメントする必要があります。つまり、抽象的なパーパスを、各部門や各個人の文脈に合わせて「翻訳」し、意味づけを行う対話のプロセスが不可欠なのです。
パーパス経営の課題を解決するためにパーパス自体を見直してみよう
浸透策を行う前に、策定したパーパス自体に問題がないか、以下の4ステップで見直してみましょう。
STEP1:パーパス経営の重要性を再確認
まずは、パーパス経営の重要性を再確認します。パーパス経営が注目されるようになった背景を考えるとともに、得られるメリットを整理しましょう。背景やメリットが納得できる内容になっていなければ、パーパス経営がスムーズに進むことはありません。
また、パーパス経営が社員にどれだけ浸透して、ステークホルダーが認識できるようになっているか確認します。ステークホルダーとのコミュニケーションを通して、パーパスを可視化し、企業におけるパーパスの習熟度を理解することが大切です。
STEP2:社会への貢献度や実現可能性
次に、社会への貢献度や実現可能性に着目します。パーパスを設定する時に、他社のパーパスを参考にしたり、SDGsの提案を模範にしたりしていると、自社に合っていないパーパスになることがあり、本当に自社の発展につながるのかわからない、かたちだけの目標になるリスクがあります。
また、実現可能性にも着目しましょう。自社の発展とパーパスが紐づいていないと、到底実現できないような目標になってしまいます。パーパスと現場に乖離が起き、社員のモチベーションは不安定、収益の向上にもつながりません。パーパスは、自社が実現可能な目標になっており、かつ社会に貢献できる内容になっている必要があるのです。
STEP3:独自性や潜在課題を意識する
パーパスを掲げる時には、独自性や潜在課題を意識しましょう。どこにでもあるような当たり前のパーパスを掲げると、業界での競争優位には立てません。自社にしかできない独自性を持ったパーパスを考えることが大切です。
例えば、「お客様の笑顔のために」といった汎用的な言葉ではなく、自社の歴史、アセット、独自の技術が組み込まれた、その会社でしか語れないナラティブ(物語)が必要です。パーパスを検討する中で、潜在課題に目を向けましょう。パーパスと社会を正しく結びつけるためにも大切で、社会の潜在的な課題を汲み取れているかを確認するようにしてください。
STEP4:言語化ができているか最終チェック
独自性のあるパーパスを検討した後は、言語化できているのか最終チェックしましょう。理想的なパーパスが策定できても言語化ができないとうまくいきません。
言語化は、パーパスを社員に説明し、具体性のある行動に結び付けるためにも大切です。社員のモチベーションを高めるための言葉選びが重要であり、言語化したパーパスを用いたコミュニケーションを取るようにしていきましょう。
美辞麗句ではなく、社員が口に出したくなる、あるいは判断に迷ったときに立ち戻れるような、力強くシンプルな言葉になっているかが鍵です。
パーパスを顧客や従業員に浸透させる方法:ソフィア流「3つの柱」
ここまでパーパス自体の見直し方を解説してきました。では、パーパスを顧客や従業員に浸透させるためには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
パーパスを顧客や従業員に浸透させるためには、インターナルコミュニケーションが重要です。広報活動によって、パーパスの概念や目的、設定に至った背景を顧客や従業員に浸透させていくことが大切です。
弊社ソフィアの調査では、社内コミュニケーションを活性化し、共感を高めるためには「対話」「教育」「ツールの活用ノウハウ」という3つの柱が重要であることが示唆されています。
1. 経営陣と従業員の関係性を近づける(対話)
経営陣と従業員の間に信頼関係がしっかりしていないと、パーパスの浸透はできません。普段から気軽にコミュニケーションが取れる関係性を構築しておき、従業員の自社に対する帰属意識を育む必要があります。
経営陣と従業員の関係性が近くなれば、パーパスに共感してもらいやすく、内容に納得ができるようになります。場合によっては、忌憚のない意見で話し合い、企業の目指すべき目標の整合性が取れるようになるでしょう。
具体的には、以下のような取り組みが有効です。
タウンホールミーティングの進化:単に社長が話すだけでなく、SOMPOホールディングスのように、パーパス実現に向けた全体像を可視化し、対話型のセッションを行うことが有効です。
1on1の活用:上司と部下の対話の中で、「個人のキャリア(My Purpose)」と「会社のパーパス」の接点を見つける作業(ジョブ・クラフティング)を支援します。
2. パーパスに触れる機会を増やす(教育・ツール)
パーパスを従業員に浸透させるためには、パーパスに触れる機会を増やしましょう。認知科学的にも、単純接触効果(ザイオンス効果)により、目に触れる回数が増えるほど好意度は高まります。
例えば、朝会での社長のメッセージによってパーパスの目的を伝えることができます。パーパスはこれから会社が目指すべき目標を掲げているため、社内研修を通して触れる機会を作るのもよいでしょう。
メディアミックス展開:社内報(紙・Web)、動画、ポスター、スクリーンセーバーなど、複数のチャネルを組み合わせてメッセージを届けます。
ツールの活用ノウハウ:チャットツールや社内SNSを導入するだけでなく、「どのような情報を」「どのような頻度で」「誰が」発信するかという運用ルール(ノウハウ)を教育することが重要です。情報の「三重苦」を解消するには、情報のストック(社内ポータル等)とフロー(チャット等)を使い分ける設計が必要です。
3. 自分たちにしかできないパーパスとする(自分ごと化)
また、パーパスの浸透には社員自ら情報発信に携わってもらうのもよい方法です。どうすれば浸透することができるのかを社員が考えることで、目標に向けた行動が無意識にできるようになります。
パーパスは、存在意義であり、存在の証明です。企業のあり方が変化する中で、社会課題を引き受けていくということではありながらも、パーパスは固有でユニークでなければなりません。背伸びせず自分たちにしかできない内容にしましょう。
「自分にしかできない仕事」というパーパスが広がると、自分たちの仕事や事業を意味づけすることになります。これは動機につながります。この特別な存在という感覚は、社員や組織の潜在力を発揮させ、思ってもみなかった発想を生んだり、わくわくする職場になったりします。社員に情熱や意味づけを生み、組織に使命を与えるのです。
パーパス経営の課題を解決する際のポイント:ミドルと評価制度
ここまで浸透させるための3つの柱をご紹介してきました。では、これらを実践する際に特に押さえておくべきポイントは何でしょうか。ミドル層へのアプローチと評価制度について解説します。
ミドル層(中間管理職)へのアプローチ
パーパスを浸透させるためには、現場に近いミドル層へのアプローチが重要です。経営層から直接現場に働きかけることも大切ですが、普段の業務とパーパスをつなげた指示やアドバイスができるわけではありません。ミドル層がパーパスの実現に向けて真剣に取り組むことで、社内にパーパスの考えが浸透していきます。
しかし、ミドル層は「上からのパーパス」と「現場の数字」の板挟みになりがちです。そのため、経営層はミドル層に対し、パーパスに基づいた判断をした場合に、短期的な数字が多少犠牲になってもそれを許容し、評価する姿勢を示す必要があるでしょう。
「危機感」ではなく「使命感」を醸成する
ただし、ミドル層の掛け声だけに頼ってはいけません。現場の社員が自分の仕事とパーパスを結び付けることができなければ効果につながりません。現場の社員に対して「危機感」ではなく「使命感」が醸成するような環境構築が必要です。
「変わらなければ会社が潰れる」という危機感をあおり型のメッセージは、一時的な馬力にはなりますが、長続きせず疲弊を招きます。一方、「自分たちの仕事が社会をこう良くしている」という使命感は、内発的動機づけとなり、持続的なエネルギーを生み出します。
使命感のもとでパーパスは育まれていき、仕事の中に自然と浸透していくようになります。また、ミドル層にあたる現場のリーダーは、社員との1on1ミーティングの機会を設け、社員に使命感を与えていくようにしましょう。
評価制度との連動:非財務指標の導入
パーパスを「絵に描いた餅」にしない最強の施策は、評価制度への組み込みです。
富士通の事例では、新たな評価制度「Connect」を導入し、パーパス実現への貢献度や、エンゲージメント、顧客NPS、DX推進指標といった非財務指標を役員報酬や従業員評価に連動させています。
「パーパスを実践することが、自分の給与やキャリアアップにつながる」という仕組みがあって初めて、従業員は本気でパーパスを行動に移そうとします。精神論だけでなく、制度面での裏付けが不可欠なのです。
成功事例に学ぶパーパス経営の実践
ここまで課題解決の方法を解説してきました。では、他社がどのように課題を乗り越え、パーパスを競争力に変えているか、具体的な事例を見てみましょう。
ソニーグループ:テクノロジーと感動の融合
ソニーグループは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurposeを掲げています。このパーパスは、エレクトロニクス、エンタメ、金融と多角化しすぎて遠心力が働いていたグループをつなぎ止める求心力として機能しています。トップ自らがパーパスを語り続けるだけでなく、各事業部がどのようにパーパスに貢献するかを明確化しているのが特徴です。
富士通:評価制度「Connect」による行動変容
前述の通り、富士通はパーパス「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」を掲げ、それを実現するための人事評価制度を刷新しました。ジョブ型雇用への移行とともに、パーパスへの貢献を評価軸に入れ、全社員が「自分のパーパス(My Purpose)」を言語化する取り組みを行っています。
味の素グループ:ASVの自分ごと化
味の素は「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」を掲げ、従業員一人ひとりの「マイパーパス」と企業のパーパスを重ね合わせるワークショップを全社的に展開しています。対話を通じて個人のやりがいと会社の方向性を同期させることで、高いエンゲージメントを実現しています。
まとめ
本記事では、パーパス経営の課題と解決策について解説してきました。まとめると、以下のようになります。
パーパス経営とは、企業が社会貢献するために掲げる目標・意図のことです。パーパス経営の課題解決によって、社会やステークホルダーからの信頼を得ることができ、他社との差別化ができるようになります。
しかし、その道のりは平坦ではありません。弊社ソフィアの調査が示すように、「共感1割」「情報の三重苦」「部門間の壁」といった現実的な課題が多くの企業で立ちはだかっています。
パーパスの浸透のためには、インターナルコミュニケーションが大切であり、従業員が本気で自分ゴトとして仕事とパーパスを結び付ける必要があります。そのためには、以下の3点が鍵となります。
「対話・教育・ツール」の3本柱で情報の流通不全を解消する。
ミドルマネジメントを支援し、抽象的なパーパスを現場の言葉に翻訳する。
評価制度(非財務指標)と連動させ、行動変容を促す仕組みを作る。
パーパスの浸透のためには、経営層だけで進めてしまうのではなく、社内全体を巻き込んだ推進が大切になるでしょう。きれいな言葉を作って終わりではなく、そこから始まる果てしない対話と仕組みづくりの旅こそが、パーパス経営の本質なのです。
あなたの会社では、パーパスは現場に届いていますか?ぜひ本記事の内容を参考に、パーパス経営の課題解決に取り組んでいただければ幸いです。











