なぜパーパス経営が注目されるのか?背景やメリット、取り組み方について徹底解説
最終更新日:2026.03.02
目次
現在、多くの企業が「パーパス経営」への転換を急いでいます。しかし、単に掲げるだけでは現場に浸透せず、形骸化してしまうケースも少なくありません。弊社ソフィアの調査では、企業の戦略に対して「共感している」と回答した従業員はわずか1割程度にとどまるという衝撃的な実態が明らかになりました。なぜ今、パーパスが必要とされているのでしょうか。そして、どうすれば絵に描いた餅で終わらせず、人的資本経営の核として機能させることができるのでしょうか。本記事では、最新の調査データを交えながら、パーパス経営のメリットと実践の要諦を網羅的に解説します。
パーパス経営とは何か
パーパス経営とは、社会の中において自社の存在意義を経営方針の軸に置くことにより、社会貢献を伴った事業運営を行う経営手法です。パーパス経営が従来の経営手法と大きく違う点は、企業が社会の中に存在する様々な問題に対し、改善に向け社会貢献することを経営の一部としている点です。
パーパス経営と近しい概念にMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)がありますが、パーパス経営はMVVとは別の概念です。MVVは理想像(ビジョン)を持って使命(ミッション)を果たし、バリュー(価値)を創造していくものですが、パーパス経営は自社の根本的な活動の軸(理念)に重きを置く概念で、自社がどのように社会貢献できるかといった、社会(世界)と自社の関係性に価値を見いだしながら活動します。
パーパス経営は日本国内でも次世代の経営手法として注目されており、多くの企業がパーパス経営を取り入れ始めています。有名な企業だと、食品メーカーの味の素株式会社があります。これまで「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニーへ」というビジョンを掲げて経営してきた味の素ですが、全く社内に浸透していませんでした。そこで経営陣が会社の存在意義そのものを見つめ直し、社会課題を解決し、社会と共有する価値を創造する「Ajinomoto Group Shared Value (ASV)」を掲げ、2020年にパーパス経営に舵を切っています。
社会貢献によって社会に多くの利益をもたらすことが重要な時代に適合するため、パーパス経営を取り入れる企業は増えてくることでしょう。
存在意義としてのパーパス
パーパス経営の「パーパス(Purpose)」は、素直に訳すと「目的・意図」という意味合いになりますが、こと経営に関しては「存在意義」と訳される場合があります。社会の中での自社の「存在意義」という意味で、「何を目的にどういった活動をしていくか」といった、企業の理念や大義について指し示す言葉です。
パーパスは、企業の「存在」を経済の中だけにとどまらず、社会全体の中に「存在」を置いた概念といえます。アダムスミスを含む18世紀以降の経済学者は、通常、市場参加者として売り手と買い手に焦点を当てる傾向がありました。しかし、これ以外の要素も考慮するという視点は存在しませんでした。
これまでの資本主義経済、特に1970年代以降のミルトン・フリードマンに代表される「株主至上主義」においては、企業の目的は「株主利益の最大化」であると定義されてきました。しかし、現代においてはこの前提が大きく揺らいでいます。企業は社会、環境、従業員、取引先といった多様なステークホルダー(利害関係者)との関係性の中でしか存続し得ないという「ステークホルダー資本主義」への転換が求められているのです。
パーパスとMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の違いとは?
【追加】多くの企業ですでに導入されているMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とパーパスは、似て非なるものです。これらを混同することは、経営戦略の軸をぶれさせる原因となりかねません。以下の比較表を用いて、その違いを整理してみましょう。
| 概念 | 問いの方向性 | 視点 | 内容の焦点 |
| パーパス(Purpose) | Why (なぜ存在するのか) |
社会・世界 | 社会における存在意義、公益性、「社会の役に立つ」理由 |
| ミッション(Mission) | What (何をするのか) |
自社・内向き | 果たすべき使命、役割、業務の遂行内容 |
| ビジョン(Vision) | Where (どこへ向かうか) |
未来・自社 | 中長期的に目指す姿、到達点、将来像 |
| バリュー(Value) | How (どう行動するか) |
社員・組織 | 価値観、行動指針、判断基準 |
従来のミッションやビジョンが「自社がどうなりたいか」「自社は何を達成したいか」という主語が「自社」にあるのに対し、パーパスは主語が「社会」や「世界」とリンクしている点が決定的に異なります。たとえ利益が出る事業であっても、それが社会にとって有害であったり、存在意義(パーパス)に反するものであれば、それは行うべきではないという強力な羅針盤の役割を果たすのです。
パーパス経営とはどのような経営手法なのか?
パーパス経営とは、社会の中において自社の存在意義を経営方針の軸に置くことにより、社会貢献を伴った事業運営を行う経営手法です。パーパス経営が従来の経営手法と大きく違う点は、企業が社会の中に存在する様々な問題に対し、改善に向け社会貢献することを経営の一部としている点にあります。
これまでのCSR(企業の社会的責任)活動は、本業で利益を出した「余剰」を使って社会貢献を行うという、本業とは切り離された活動として捉えられることが多くありました。しかし、パーパス経営においては、「本業そのもの」が社会課題の解決プロセスであり、利益創出と社会貢献が完全に同期している状態を目指します。換言すれば、経済的価値と社会的価値をトレードオフ(二律背反)の関係ではなく、トレードオン(両立・相乗効果)の関係として捉える経営スタイルといえるでしょう。
パーパス経営と近しい概念にMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)がありますが、パーパス経営はMVVとは別の概念です。MVVは理想像(ビジョン)を持って使命(ミッション)を果たし、バリュー(価値)を創造していくものですが、パーパス経営は自社の根本的な活動の軸(理念)に重きを置く概念で、自社がどのように社会貢献できるかといった、社会(世界)と自社の関係性に価値を見いだしながら活動するものです。
日本企業における実践事例:味の素グループの変革
パーパス経営は日本国内でも次世代の経営手法として注目されており、多くの企業がパーパス経営を取り入れ始めています。有名な企業としては、食品メーカーの味の素株式会社があります。これまで「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニーへ」というビジョンを掲げて経営してきた味の素ですが、全く社内に浸透していませんでした。そこで経営陣が会社の存在意義そのものを見つめ直し、社会課題を解決し、社会と共有する価値を創造する「Ajinomoto Group Shared Value(ASV)」を掲げ、2020年にパーパス経営に舵を切っています。
【追加】味の素グループでは、ASVを「パーパスを実現するためのマネジメントサイクル」として体系化しています。具体的には、従業員一人ひとりが自分の業務とASVのつながりを考え、実行するプロセスを評価に組み込んでいます。さらに、「ASVエンゲージメント」の深度を毎年モニタリングし、従業員がどれだけ自社のパーパスに共感し、行動できているかを可視化・改善する仕組みを構築しました。これにより、個人の成長と企業の成長が同期するサイクルを生み出しているのです。
社会貢献によって社会に多くの利益をもたらすことが重要な時代に適合するため、パーパス経営を取り入れる企業は今後ますます増えてくることでしょう。
なぜ今、パーパス経営が注目されているのか?
パーパス経営が注目され始めた背景には、社会や人々が企業に求める役割に変化が訪れていることが挙げられます。これまでの企業は自社の利益を中心に考えた経営を行っていれば良かったのですが、SDGsやESGといった概念が登場し、世界中の国々で社会課題への関心が高まったことで企業も課題解決に向けてアクションを起こす必要が出てきました。ここでは、パーパス経営が注目される背景について詳しく解説していきます。
パーパスを必要とするVUCAと多様性
現在はVUCA時代と呼ばれています。既存のビジネスモデルが通用せず、企業の戦略や人材が多様化したことで、同じ方向を向いて行動できない場面も増えました。そのため、パーパスを策定し組織内に浸透させる取り組みが必要となったのです。
経済成長が終わり、企業は多角化し、地域や業界を越えた連携が増えました。同時に、年功序列や終身雇用などの日本的な雇用システムが崩れ、異なる背景や雇用形態を持つ人々が増えています。これにより、多様な人材を扱うことが求められるようになりました。
しかし、このVUCAな時代において、高度な柔軟性や冗長性が求められるため、効率化組織化されたビジネスモデルと複雑な技術を維持発展するために、ルールやシステムだけでは対応が難しく、権限や責任は移譲せざるを得ず、現場でリアルタイムで判断することが求められます。判断の前提をルールや承認だけに頼ることは不可能です。さらに社会という不確実性を引き受けるのであれば、ビジネスモデルをルールではなく、パーパスなどの中心的な価値観から繋ぐ必要があるのです。とくに現代のビジネスは複雑で不確実性を持っています。時代の変化や不確実性に対応するためには、方法論や制度やルール、ルーティンや固定化はむしろ非効率となる場合があります。変化が増えることにより、その場の判断で行動しなければならない場合は、包含された原則や哲学という組織的な枠組みで判断して動いていかなければなりません。
今までは、統制を図るために全体の仕組みを整理し、システムを導入していました。その結果、アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバーがその著書の中で「ブルシットジョブ」と呼んだ、煩雑化した調整や形骸化した承認などの業務が多数発生し、管理業務の負担が大きくなります(形式主義の危機)。
そして、この段階で成長が停止している企業が圧倒的多数を占めるのではないでしょうか。この段階を脱するためには、企業理念やミッション、ブランドといった価値観や考え方の範囲内で協業するよう全社に促さなければなりません。また、パーパスの策定においては、原則論から考えることが重要だということが示唆されており、これが現代における企業の理想的な状態とされています。
企業の社会的意義の重要性とESG投資の拡大
現在では、社会の課題を企業が解決する時代が来ています。利益のみを追求する企業像が賞賛された時代は終わりつつあると、多くの著名人が発信しているのです。
たとえば、英オックスフォード大学教授コリン・メイヤー氏は、「企業のパーパス(存在意義や目的)は、単に利益を生み出すことではない。個人、社会、自然界が直面する問題の解決策を企業戦略に組み込み、人々の信頼を増やす努力を踏まえ、利益が出る形で人々の幸福に貢献することだ」と主張しています。
【追加】金融市場においても、この潮流は決定的になっています。世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、2018年の年次書簡において「企業は利益を生み出すだけでなく、社会貢献も求められる」と明言し、パーパスを持たない企業への投資を見直す姿勢を示しました。これは「ESG投資(環境・社会・ガバナンス)」の拡大を加速させ、パーパスが資金調達における必須条件となる流れを決定づけました。
社会課題を解決する主体において、国家や地域組織よりも企業法人への期待が高まっており、実態として企業の方が影響力の高い場合も多くあります。実際にTwitter社など、企業の主義主張やスタンスが、そのサービスやソリューションに影響し社会に影響を及ぼしています。しかし、法人は営利集団です。法人が営利以外を目的とし、社会課題を解決するためには、姿勢や価値観がなければいけません。そのために、パーパスが必要とされているのです。
また、組織が社会貢献を目標とする場合、その事業内容も社会貢献につながるものである必要があります。もし、企業の宣言と実態が一致しなければ、「善」から「偽善」になってしまいます。そのため、パーパスを策定する場合は、偽善にならないように注意する必要があるでしょう。
京都議定書は、日本で開催された国際的な環境問題に関する取り決めが行われた国際会議です。日本開催の背景には、日本の環境技術が高く評価されていた可能性があり、また、日本の文化には人間が自然又は社会の一部であるという考え方が根付いており、それも考慮された要素の一つだったのかもしれません。
ミレニアル世代・Z世代の価値観の変化と採用競争
【追加】労働市場の変化もパーパス経営を後押ししています。これからの経済活動の中心となるミレニアル世代(1980年代〜90年代半ば生まれ)やZ世代(90年代後半以降生まれ)は、就職先を選ぶ際に「給与」や「安定」だけでなく、「その企業が社会にどのような影響を与えているか」「自分の仕事に社会的意義があるか」を極めて重視します。
この世代はデジタルネイティブであり、情報感度が高く、企業の欺瞞(グリーンウォッシュなど)を敏感に察知します。彼らにとって、パーパスのない企業は魅力的な就職先として映りません。優秀な若手人材を獲得し、定着させる(リテンション)ためには、明確なパーパスの提示と、それに基づいた誠実な経営が不可欠となっているのです。
ここまで、パーパス経営が注目される背景について見てきました。では、パーパス経営を導入することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
パーパス経営を導入するメリットには何があるのか?
パーパス経営は外部へ向けた社会貢献だけでなく、自社の運営にも良い影響をもたらします。どのメリットも企業の存続にとって必要であり、とくに中長期的な経営において効果を発揮する重要な内容です。
意思決定速度の向上と自律的組織の構築
パーパス経営が浸透することによって、企業内で共有される根本的な理念を持つことができます。この共有された理念は、企業の意思決定にも大きな影響を与えます。
具体的には、意思決定を現場で判断することになります。そのため、原則=価値観で考えることが重要です。社員全員が同じ目的を持ち、共有することで、企業の意思決定の速度と質が向上し、突発的な状況にも柔軟に対処することができるでしょう。したがって、パーパス経営の理念が共有されることは、意思決定の速度の向上につながります。
【追加】従来のトップダウン型組織では、現場での判断に迷いが生じた際、上層部の承認を仰ぐタイムラグが発生していました。しかし、VUCA時代においては、この遅れが致命傷になりかねません。全員が「自社のパーパスに合致するか否か」という共通の判断軸を持っていれば、現場レベルでの即断即決が可能となり、組織全体のアジリティ(敏捷性)が飛躍的に向上するのです。
顧客や取引先からの信頼獲得とブランド価値向上
パーパス経営によって社会貢献に取り組むと、取引先や顧客からの信頼を獲得できる可能性が高まります。現在の消費者はリサイクルなどに配慮されたエコロジーな製品を選択する人が増えており、SDGsなどを意識したパーパス経営を行っている企業は、それだけで印象が良くなる場合があるでしょう。
また、パーパス経営に取り組むことにより、社会課題に関心を持つ取引先から信頼を得て、良好な関係性を持ってサプライチェーンを構築することもできます。取引先と良い関係を作ることができれば経営基盤も強固なものとなり、本業の事業も安定して行うことができます。パーパスにおいて社会や社会課題を標榜するのであれば、関係性が中心的価値観となるのです。
競争力の強化と新たなビジネス機会の創出
競争力の強化には、他社が真似できない独自の価値提供が不可欠です。そのため、パーパス経営においては、社会を含めたステークホルダー(社員を含む)に共感や変化を起こすことが重要です。これにより、競合他社と差別化し、新しいニーズを掘り起こしてビジネスモデルを変革することができます。
ただし、パーパスを実行するためには、組織や事業との乖離があっても、社会課題に取り組む姿勢を貫く必要があります。真の社会貢献に向けて努力し、共感を生み出すことができれば、競争力は自然についてくるでしょう。ただし、この取り組みは容易ではないことを念頭に置く必要があります。
組織内でイノベーションが生まれる土壌づくり
パーパス経営を行っている組織は、社員が一体感を持ち、自由に意見やアイデアを出し合える環境を作り出すことができます。このような環境があることで、社員全員が積極的に取り組むことができ、革新的なアイデアや変化を生み出すことが可能です。そのため、パーパスはイノベーションを起こすきっかけになるといえます。
ビジネス現場の変化に迅速に対応するためにも、社内のイノベーションは欠かせません。パーパス経営によって組織に軸を与え、社員全員が同じ方向を向いて仕事に取り組むことで、イノベーションを促進し、時代の変化に柔軟に対応することができる強い企業に成長することができます。
【追加】多様なバックグラウンドを持つ人材が集まる組織において、パーパスは「共通言語」となります。異なる専門性を持つ社員同士が、共通の社会課題解決(パーパス)に向けて議論することで、既存の枠組みを超えたイノベーション(知の結合)が生まれやすくなるのです。
ここまで、パーパス経営のメリットについてご紹介してきました。では、近年注目されている「人的資本経営」とパーパス経営には、どのような関係があるのでしょうか。
パーパス経営と人的資本経営にはどのような関係があるのか?
【追加】近年、日本企業において急速に浸透している「人的資本経営」ですが、これはパーパス経営と密接不可分な関係にあります。経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート2.0」においても、人的資本経営を推進する上で最も重要な要素の一つとして「経営戦略と人材戦略の連動」が掲げられており、その核となるのがパーパスです。
人的資本経営の出発点としてのパーパス
人的資本経営とは、人材を「管理すべき資源(コスト)」ではなく、「価値を生み出す資本(アセット)」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営手法です。
この人的資本の価値を最大化するためには、従業員が「なぜこの会社で働くのか」「自分の仕事は何の役に立っているのか」という問いに対する明確な答えを持っている必要があります。パーパスは、まさにこの問いへの答えを提供し、人的資本経営の出発点となるものです。
個人のWillと組織のMustの統合
人的資本経営の実践においては、リクルート社などが提唱する「Will-Can-Must」のフレームワークが有効です。パーパス経営は、このフレームワークを機能させるための接着剤となります。
| 要素 | 定義 | パーパス経営における役割 |
| Will | 本人が実現したいこと(やりたいこと) | 個人のパーパス。従業員自身のキャリアや人生における目的。 |
| Can | 生かしたい強み・克服したい課題(できること) | 人的資本としてのスキル・能力。リスキリングや能力開発の対象。 |
| Must | 業務目標・ミッション(すべきこと) | 企業のパーパスからブレークダウンされた役割。社会貢献への具体的なアクション。 |
従来、「Must(すべきこと)」は会社からの押し付けやノルマとして捉えられがちでした。しかし、パーパス経営においては、「Must」が「社会課題解決への貢献」という意味を持ちます。従業員が自身の「Will(やりたいこと)」と、会社の「Must(社会的使命)」の重なりを見出したとき、それは「やらされ仕事」から「志(こころざし)のある仕事」へと昇華します。この重なりを最大化することが、エンゲージメントの向上と人的資本の価値最大化に直結するのです。
非財務情報の開示と投資家への訴求
人的資本経営においては、人材育成方針や社内環境整備方針などの情報をステークホルダーに開示することが求められています(2023年3月期決算より、上場企業には有価証券報告書での開示が義務化されました)。
投資家は、単なる女性管理職比率や研修時間といった数字だけでなく、「その企業が掲げるパーパスを実現するために、どのような人材戦略を持ち、どのように投資を行っているか」という一貫したストーリー(ナラティブ)を評価します。パーパスを起点とした人的資本戦略の説明は、企業価値評価を高める上でも不可欠な要素となっているのです。
ここまで、パーパス経営と人的資本経営の関係について見てきました。では、実際にパーパス経営を成功させるためには、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。
パーパス経営を成功させるための具体的なステップとは?
企業がパーパス経営を実践していくには、いくつかのステップを踏む必要があります。日々の業務に落とし込むには段階を経ることが大切で、いきなりパーパス経営を企業として実践するのは不可能だと認識しておきましょう。
ステップ1.ステークホルダーと自社の状況を洗い出す
最初に行うのは、関係各所とのバランスを取るため、自社とステークホルダーの状況を知る下準備です。まずはステークホルダーの分析を行うため、以下の内容について調査を実施します。
- 顧客調査
- 仕入先の調査
- IRに関係する外部評価機関の調査
- PRやブランドについての外部機関の調査
- CSRやSRについての外部評価機関の調査
次に自社についての分析を行います。必要な分析方法としては、以下の手法があります。
- SWOT分析
- コンピテンシー分析
- ケイパビリティ分析
上記の調査でステークホルダーと自社の分析を行い、状況を洗い出したら、次のステップに進みましょう。
ステップ2.パーパス経営の理念を言語化し、社内に浸透させる
調査によってステークホルダーを含めた外部の状況、自社の状況を把握できたら、自社の社員全員に納得してもらう段階に入ります。パーパス経営は、理念と目的を作ったら終わりではありません。社会の中での自社の存在意義、そして具体的にどういった社会課題を解決していくかを社員に理解してもらい、日々の行動に落とし込んでもらう必要があります。
社員全員に納得してもらうには、パーパス経営の背景にある社会への想いや信念といった、社員に共感してもらえる芯のある理由が大切になります。押し付けるのではなく、どうやったら社員に共感してもらえるかを第一に考えて伝えましょう。
【追加】策定プロセスにおいて最も重要なのは「社員の巻き込み」です。経営陣だけで密室で決めた美しい言葉は、現場にとって「他人事」になりがちです。ワークショップやタウンホールミーティングを通じて、社員自身の「Will(やりたいこと)」や「原体験」を引き出し、それがいかに会社のパーパスと繋がっているかを対話するプロセスを経ることで、パーパスは「自分たちの言葉」になります。
ステップ3.実際の経営や事業の中で社員と対話する
次に行う作業は、策定したパーパスをもとに、実際の経営計画のプロセスや日々のマネジメント業務の中に共感と変化をもたらすことです。パーパス経営の理念が抽象概念にならないよう、中長期のビジョン設定や具体的な数値目標を定めることも大切になります。現在の経営状況や社員の業務状況に配慮しながら、丁寧に取り入れるよう心がけてください。
【追加】この浸透フェーズにおいて、多くの企業が課題に直面しています。弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」によると、社内コミュニケーション活性化のために有効な戦略として、以下の「三本柱」が重要であることが示唆されています。
対話(Dialogue):一方的な情報伝達ではなく、双方向のコミュニケーションの場を作ること。経営陣と社員、あるいは部門を超えた対話の機会が、組織のサイロ化(縦割り)を解消し、共感を育みます。
教育(Education):パーパスを体現するために必要なスキルやマインドセットを学ぶ機会を提供すること。階層別研修などにパーパスの要素を組み込みます。
ツール(Tools):社内報、イントラネット、社内SNS、動画配信などを適切に組み合わせ、情報をタイムリーに届けるインフラを整えること。
特に「対話」は重要です。同調査では、「1on1ミーティング」が多くの企業で実施されているものの、効果を実感できていないケースも多いというパラドックス(逆説)が明らかになっています。形式的な1on1ではなく、パーパスに基づいた質の高い対話が求められているのです。
ステップ4.社員の日々の業務や経験とパーパスを繋げる
最終段階では、パーパス経営の理念に則った戦略や計画を練りながら、無理のない範囲で社内に浸透させることが必要です。社員が日常の業務中にパーパス経営の理念を意識しながら行動できるようになることが理想的な状態です。そのためには、トップダウンで押し付けるのではなく、社員一人ひとりがじっくり考える機会を設けることが大切です。
経営理念に基づいて、見直しや学習を行うことができるようになると、社員や組織は学習の礎を築くことができます。この学習は、次の行動を生み出す基盤となります。
ただし、事象や数字をどうとらえるか、それをどう解釈するかという根本的な考え方が必要です。結果を理念やビジョン、パーパスに照らし合わせ、根本的な考え方で振り返ることが、社員の意識を高めることにつながります。
【追加】定着のためには、人事評価制度(KPI)との連動が欠かせません。「パーパスを体現した行動」が評価され、報酬や昇進に反映される仕組みがあって初めて、従業員は本気になります。たとえば、短期的な売上目標だけでなく、「顧客の課題解決にどれだけ深く貢献したか」「チームを超えた連携(共創)を行ったか」といった定性的な行動指標を評価項目に組み込むことが有効です。
ここまで、パーパス経営を成功させるためのステップについてご紹介してきました。では、パーパス経営の実践において、どのような課題や失敗例があるのでしょうか。
パーパス経営の実践における課題と失敗例とは?
パーパス経営が失敗する1番の理由が、パーパス・ウォッシュになってしまうことです。パーパス・ウォッシュとは、「パーパス経営の理念を掲げてはいるものの、実際の経営や業務ではパーパス経営を行っていない状態」の企業のことを指します。
「共感」の欠如と組織内のズレ
【追加】弊社ソフィアの「インターナルコミュニケーション実態調査2024」では、衝撃的なデータが明らかになっています。それは、企業の戦略に対して「共感している」と回答した従業員はわずか1割程度にとどまるという現実です。
経営層が熱心にパーパスや戦略を発信していても、現場には届いていない、あるいは「現場の苦労を知らない絵空事」として冷めた目で見られている可能性があります。あなたの職場では、このような状況に心当たりはありませんか?
また、同調査ではコミュニケーション課題を感じる対象として、「部門間」(58%)が最も多く、次いで「部門内_上司と部下」(51%)、「経営陣と社員」(42%)という結果が出ています。
部門間の壁(セクショナリズム)は、全社一丸となってパーパスを実現する上での大きな障壁です。「自分の部署の利益」を優先し、「会社全体のパーパス」が二の次になってしまう組織構造は、パーパス経営の失敗の典型例といえるでしょう。
こうした企業は社会貢献をしている雰囲気を出しているだけで、綺麗ごとによるイメージアップに終始しているだけです。パーパス経営の実践に必要な手順を怠ると、どんな企業もパーパス・ウォッシュになることはあり得ます。パーパス・ウォッシュになるとステークホルダーや社員の信用を失う可能性があるため、パーパス策定の際には実現可能な取り組みであることを重要視しましょう。
具体的な失敗の兆候
以下のような状態になっていないか、自社をチェックしてみてください。
言行不一致:「顧客第一」を掲げているのに、現場ではノルマ達成のための押し売りが横行している。
評価の不在:パーパスに沿った行動をしても評価されず、数字の結果だけが評価される。
経営陣の不在:パーパス策定時だけ社長が出てきたが、その後は現場任せで、経営判断の基準にパーパスが使われていない。
ここまで、パーパス経営の課題と失敗例について見てきました。では、これらを踏まえて、パーパス経営を実践する上で押さえるべきポイントとは何でしょうか。
パーパス経営を実践する5つのポイントとは?
パーパス経営を実践する上で重要になるのが、現在の経営事情と社会貢献のバランスを取りながら要点を押さえることです。要点となるのは以下の5つのポイントで、どれかが欠けるだけでもパーパス経営を行うことは難しくなるでしょう。
1. 社会課題の解決へつなげる
パーパス経営を行う上で前提となるのが、社会課題を解決する目的で活動することです。現在は、環境問題や人権問題、ジェンダー平等の問題、労働環境や経済停滞の問題など、身近な問題から地球規模での問題まで、広く存在しています。そのため、事業や社会貢献を通し、社会課題の解決を目指すことはパーパス経営を行う上での絶対条件になります。
また、パーパスには社会や世界を包含した内容が多く含まれているため、組織が社会「善」を標榜する場合、営む事業も社会「善」に寄与する内容でなければなりません。平たく言うと、言葉と行動は一致している必要があるということです。そうでなければ、偽善に陥る恐れがあります。自ら策定するパーパスが、偽善に陥らないように注意しましょう。
2. 自社の短期利益も長期利益もあきらめない
社会課題と短期の利益は、非常にコンフリクトを起こしやすい内容です。また、長期利益と標榜しても、長期な未来を保証することは難しいでしょう。利益や成果がでなければ、詭弁でしかありません。しかし、この問いがあるからこそ、ビジネスアイディアやイノベーションが起こるのではないでしょうか。
そのためには、自社の利益を得られる取り組みをすることも重要です。いくら社会貢献になると言っても、そもそも自社の経営を傾けるような事業計画では会社が成り立ちません。結果として社員やステークホルダーに損害を与えてしまうこととなり、パーパス経営が逆効果となってしまいます。短期の利益は減少したとしても、長期的に利益がプラスとなるパーパス経営をデザインすることが大切になります。
3. 自社の事業と関連する連続性を大切にする
企業が成功するためには、パーパス策定の際に自社の事業と関連性を持つ内容にすることが重要です。たとえば、食品メーカーにとっては、「食」と「アミノ酸」のようなキーワードが、その事業上の強みや市場範囲、存在価値を示し、集約に対する合理性を規定します。一方で、商社など多角化した企業グループでは、内容が抽象的になります。所属する社員の判断や投資判断が具体化されることで、社員や投資家からの信頼を得ることができるでしょう。
また、パーパス策定の際に自社の事業と関連する連続性を大切にすることもポイントです。自社の強みを理解し、存在意義を定義した上で、自社が行っている事業に絡めて社会貢献活動を実行することが望ましいでしょう。これにより、経験やノウハウの蓄積を活かし、社会貢献を含めた事業形態にも対応できるようになります。自社の事業と社会貢献活動を連携させることで、独自の強みを活かして利益を出すことが可能となるのです。
4. 実現可能なものから少しずつ行う
社会貢献の活動は、自社の資金力や経営状況に応じた実現可能なものにすることも重要です。大きな理想を掲げて事業計画をスケールしたとしても、現在の自社の力でそれが実現できるとは限りません。
まずは自社の経営に負担にならない範囲で社会貢献を取り入れ、小さな結果を積み重ねながら、スモールステップの意識で実績を積み上げていくことが大切です。
5. 組織文化と社員の動機につながるものにする
「パーパス経営を実践するポイント」として、まずは社会貢献の内容を身近かつ直接的に感じられるものにすることが重要です。社員が自分自身で変化を実感できるような取り組みであれば、社員のモチベーションにつながりやすいためです。逆に言えば、社員が自分と直接関係のない社会貢献活動に取り組む場合は、結果がわかりにくいため、社員のモチベーションを維持するのが難しくなるということもあります。また、社員全員が共有できるパーパスにすることも重要です。社員が自分ごととして考えられ、円滑に共有できる社会貢献の内容であることが求められます。
また、パーパスを「上位概念/理念の機能」として、組織内の関係性について考えることが重要です。これらの上位概念や理念は、組織風土や文化に強く影響を与えることがあり、さらには、組織内外の問題を解決するための正当性の担保になります。組織が結合する上での正当性を担保するためにも、上位概念や理念を明確化し、社員やステークホルダーと共有する必要があります。
日本企業では、「仲間」や「家族主義」など、人間関係の在り方が重視される傾向があります。このような関係性は、経済合理性と人間性精神性のジレンマを解決するために機能しています。
しかし最近では、組織が生み出す価値を重視する考え方も増えてきており、社員一人ひとりの能力や集団組織におけるシナジーといった要素が、最も重要視されるようになっています。
まとめ
この記事では、パーパス経営の概念とメリット、実践する際のポイントについて解説し、パーパス経営がなぜ現代で重要なのかをお伝えしました。SDGsなどの概念により、人々が様々な問題意識を持つようになった現代において、社会の中で企業がどのような役割を担い、どういった存在意義を示すのかは、経営においても重要なポイントとなっています。
そのような状況になり注目されるようになったのがパーパス経営で、新時代の新たな経営手法としてビジネスの世界で認知されてきています。実際、これからの多くの企業がパーパス経営に舵を切っていくことは間違いないでしょう。
会社経営を行う上層部はもちろん、社員一人ひとりが自社のパーパス(存在意義)について考え、社会貢献を意識しながら日々の仕事に励むようになれば、充実感とやりがいを持つビジネスパーソンになれることでしょう。
そして、そうした個人の「やりがい」の総和こそが、企業の持続的な成長と競争力の源泉となります。弊社ソフィアの調査で明らかになった「共感の壁」や「部門間の断絶」を乗り越え、真の意味でのパーパス経営を実現するために、まずは自社の現状(インターナルコミュニケーションの実態)と従業員の声に耳を傾けるところから始めてみてはいかがでしょうか。








