人材育成の完全ガイド|目的から課題、手法、成功事例の徹底解説
最終更新日:2026.07.27
目次
企業が持続的に成長するためには、社員一人ひとりの力を最大限に引き出す「人材育成」が欠かせません。しかし、「人材開発との違いが曖昧」「現場の育成時間が足りない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか?
本記事では、人材育成の基本や目的から、OJT・最新トレンドを組み合わせた効果的な育成手法までを徹底解説します。さらに、令和8年度の助成金情報や、ソフィアの独自調査データを活用した実践的な課題解決ノウハウも大公開。新入社員から管理職まで、自社に最適な育成計画を立てるためのヒントが必ず見つかります。ぜひ最後までご覧ください。
人材育成の基本情報
そもそも、人材育成とは何なのでしょうか。まずは人材育成の定義から確認してみましょう。人材育成とは、企業が従業員に必要なスキルの習得を促すことです。これは単なる知識の付与にとどまらず、企業に貢献できる人材を育成し、業績を上げて経営目標を達成するために行われます。
「人材育成」の目的をより詳しく定義すると、企業の利益を最大化させることだと言えるでしょう。人材は、企業の経営資源となります。この大切な資源を効果的に活用して、企業の競争力を効率よく高めることが人材育成の狙いです。さらに、人材育成は社員のモチベーションとチーム力の向上にも直結します。企業が成長機会を提供することが優れた人材の定着(リテンション)に寄与し、結果として長期的な業績向上を実現するのです。
とくに労働人口が減少している現代の日本では、限られた人材をいかに育成していくかが経営戦略のカギとなります。そのため企業では、全社をあげて取り組むべき最重要課題として、人材育成に取り組むケースが多く見受けられます。
以上を踏まえて整理すると、人材育成とはつまり、企業が業績のために従業員に教育機会を与えることです。そして、パフォーマンス高く活躍してもらうことで、育成にかかった労力を回収していくという構造になっています。つまり人材育成は人材投資であり、研修などを提供することで将来的なメリットを追求していくものなのです。
しかし、人材投資は、投資をすればするほどリターンがあるといったシンプルなものではありません。なぜなら現代においては、今の事業から将来の事業を正しく予想することは、非常に難しくなっているためです。また、昨今の日本は、従来の終身雇用が崩壊してきており、育てた人材の離職割合も不透明です。そのため、人材育成について見通しを立てることは、簡単なことではなくなっているのです。
以下の表に、人材育成の基本的な要素を整理しました。
| 項目 | 詳細な説明 |
| 定義 | 企業が従業員に対し、業務に必要な知識・スキルの習得を促す取り組み |
| 主目的 | 人的資源の活用による競争力の強化と、企業の利益の最大化 |
| 副次的効果 | モチベーションの向上、チームワークの強化、優秀な人材の定着(リテンション) |
| 投資的側面 | 育成(コスト・時間)を通じて、将来的なパフォーマンスでリターンを回収する構造 |
人材育成の変化と社会的背景
世の中の変化が激しい昨今、必要なスキルも年々変化し、そのスピーディーな動きに人材育成は大きな影響を受け続けています。ここではより詳しく、人材育成がどのような変遷をたどってきたのかを見ていきましょう。
多様化の時代の到来
さまざまな要素や要求が同時に存在する多様化の時代が到来し、個人や組織がそれに対応する必要が生じています。さらに現代では、仕事内容が複雑化しています。新たな技術の導入やデジタル化、グローバルな競争環境の拡大などにより、企業や組織はより複雑な業務に取り組む必要があるのです。それに伴い、業務プロセスや情報の管理、迅速な意思決定、柔軟な対応能力なども求められます。
加えてグローバル化の進展や、人々の移動が容易になったことにより、異なる文化やバックグラウンドを持つ人々が同じ組織やチームで共同作業することが増えています。これにより、異なる視点やアイデアが生まれ、多様な解決策や創造性が促進される可能性がありますが、同時にコミュニケーションや調整の課題も生じます。
このような現代のビジネス現場では、柔軟性や適応力、共感力などを備えることが不可欠です。これによって、組織や個人は複数の仕事や役割に適応し、異なる文化やバックグラウンドを持つ人々と協力しながら成果を上げることができます。また、異なる視点やアイデアを尊重し、多様性を活かすことで、イノベーションや問題解決能力の向上にもつながります。
就社から就職への意識変容
昨今の日本では終身雇用制度が弱まり、若年層を中心に、転職して自分のキャリアを切り拓いていくことが当たり前となりつつあります。従来の日本の就職はいわば「就社」を意味していました。しかし、現代では本質的に「就職」と言えるようなかたちになってきています。このような世の中では、育成しても退職してしまう可能性があるため、人材育成の計画を立てるのは困難です。
年功給、職能給、役割等級(実質的職能給)、職務給などの人事制度は、勤務年数や能力、役割によって賃金を決めるもので、従来から日本の多くの企業で取り入れられてきました。しかし人材の流動が未知数であるこの時代に、仕事のできない人を雇用し続けることは難しいものです。成果がないなかで賃金を払うのは、成長を見越した先払いであり、育成して長期的に回収できるなら大きな問題ではありませんが、回収する前に退職されては企業のリスクになりえます。つまり、従来の制度はもはや時代に合わなくなってきているのです。
現代ではむしろ、利益の回収が短期的に行えるため、スキルのある中途採用者を採用する、外部に委託する、正社員以外で雇用するなどの方法が適しています。そしてこの変化は、人事制度の構造にも影響し、階層教育の短期化を促しています。階層教育を全社的に変化させるのは大変な作業である上、従来の制度との整合性が取れるとも限りません。教育の対象は正社員だけに絞るのか、受けていない人をどう扱うのかなど、考えるべきことは山積みです。
時代の流れによるスキル必要性の変化
時代の流れに伴って、求められるスキルセットは大きく変化しています。この変化をわかりやすく説明するために、カッツモデルを使用します。
カッツモデルでは、役職やマネジメントの立場を3つに分け、それぞれに必要な能力をテクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルという3つの分類に分けています。
テクニカルスキル
業務を遂行するために必要なスキルです。一例として、業務がデジタル化され、紙からアプリケーション上で行われるようになった場合、デジタルツールの操作やデータ分析のスキルが必要とされます。
ヒューマンスキル
人と人をつなぐスキルやコミュニケーションスキルです。効果的なコミュニケーションや協力能力、リーダーシップなどが含まれます。
コンセプチュアルスキル
具体的な事象や問題を抽象的なレベルで捉え、概念化する能力です。戦略的思考や創造性、問題解決能力などが含まれます。
マネジメントの最下層では「テクニカルスキル」が最も重要であり、一方で「コンセプチュアルスキル」の必要性はそれほど高くないとされてきました。一方、マネジメントの最上層では「テクニカルスキル」はあまり必要とされませんが、「コンセプチュアルスキル」が重要視されます。
しかし現在の状況を考えると、カッツモデルを現代に適用する場合、斜めの区切り線は垂直になっていると言えます。つまり、すべての階層で3つのスキルが等しく重要視されるようになっています。とくに、テクニカルスキルは日々変化していくため、常に学習と成長が求められます。また、コンセプチュアルスキルを重視してきたトップ層は、テクニカルスキルについて正確な理解を持っていないことが多く、改善の余地があると言えます。
人材育成と関連概念の相違点
人材育成は、人材開発とはどう違うのでしょうか。人材開発とは、そもそも従業員が固有に持っているものを活用してスキルを伸ばしていこうというアプローチです。全員に同様の学習をさせるのではなく、より複雑で細かい学習を用意し、これにより個々のスキルと組織の目的をすり合わせていくのです。
具体的には、人材開発は全従業員を対象とし、潜在能力を引き出して組織力を強化することを目指す「活動全般」を指します。一方で人材育成は、特定の階層や役職の社員が、日々の業務に必要な知識やスキルを習得することに重点を置いています。
また、「能力開発」との違いも重要です。能力開発は、特定の専門的なスキルや資格取得に焦点を当て、仕事に必要な能力を補完・強化することを目的としています。それに対して人材育成は、単なるスキルの習得にとどまらず、企業文化への適応や組織内で主体的に役割を果たせる人物を育てるという、より広範な意味合いを持っています。
しかし、人材開発も人材育成も、採用、育成、活躍という人的資本への投資であるという点では一致します。経済学者カール・ポランニーは自著『大転換』の中で、論じた「擬制商品」は、「労働(人間)」「土地(自然)」「貨幣」が商品化していくことを見据えて警鐘を鳴らしました。すでに、土地と貨幣は商品化していますが、いよいよ人材も商品になりつつあり、より複雑な問題が今後現れることは容易に想像できます。
以下の表に、関連概念の違いを整理しました。
| 概念 | 主な対象者 | 目的・焦点 | 期待される成果 主な手法例 |
| 人材育成 | 特定の階層・役職 | 業務に必要な知識・スキルの習得と企業文化への適応 | 業務遂行能力の向上と自律的な課題解決 OJT、メンター制度、階層別研修 |
| 人材開発 | 全従業員 | 潜在能力の引き出しと組織戦略とのすり合わせ | 組織力全体の強化と戦略的目標達成 選抜型研修、自己啓発支援 |
| 能力開発 | スキルを要する個人 | 特定の専門スキルや資格の取得 | 業務遂行のための専門性の補完と強化 資格取得支援、専門技術研修 |
| 組織開発 | 組織全体 | 組織風土の改革や関係性の構築 | 組織全体のパフォーマンスとエンゲージメント向上 組織診断、ワークショップ |
日本企業が抱える人材育成の課題
2022年5月に経済産業省が発表した「未来人財ビジョン」は、次世代を担う人材を育成・確保するための政策方針と具体的な施策について示した報告書です。報告書では、現在の日本の競争力の低下を指摘しており、1989年のバブル期には世界競争力ランキングで1位だったのに対し、2025年現在は35位にまで下がっていることが示されています。
また、人財投資に関しても、1995年から1999年の期間と現在とを比較すると、投資額は4分の1にまで減少していることが明らかにされているのです。この結果、日本の人財競争力は過去10年間で大きく低下していると指摘されています。
企業が実際に人材育成に取り組む現場レベルでも、数多くの課題が山積しています。例えば、「教えられる人が少ない」「育ててもすぐ辞めてしまう」といった人材リソースの枯渇に関する悩みや、「教育の大切さが社内で共有されていない」「現場の知識が古くて最新技術に対応できない」といった意識・仕組みの問題がよく聞かれます。社員側からも「日々の業務が忙しくて学ぶ時間を取りづらい」という声が上がっているのが現状です。
このように、現在の日本の企業では、OJT(仕事の現場での研修)に依存している傾向があります。ただし、現代は、デジタル技術や他の技術革新の進展に伴い、OJTを提供する上位者や経験者の知識や技術も変化しており、下位者や新入社員に対して効果的なトレーニングを行うことが難しい状況です。このため、従来の教育体系に頼った学習機会や定期的な配置だけでは、現在の人材の能力ギャップを埋めるのは困難と言えます。
働き方の多様化とコミュニケーション分断による課題
このような社会全体の課題に加えて、企業内のコミュニケーション不全が人材育成の大きな障壁となっています。弊社ソフィアの調査(2025年10月実施、従業員数1,000人以上の企業に勤めている現場及びコーポレート部門の方623名を対象)では、現在の企業が抱えるインターナルコミュニケーションの深刻な実態が明らかになりました。
弊社ソフィアの調査では、リモートワークをはじめとする働き方の多様化により、従来の「対面を前提とした情報共有や意思疎通の手法」が機能しづらくなり、抜本的な見直しが求められていることが示されています。組織の多層化による部門間のコミュニケーションの分断に加えて、「ナレッジが組織内で分散してしまい、十分に活用されていない」というナレッジ共有の課題が新たな論点として顕在化しています。
また、マネジメント層の負担も増大しています。同調査によると、1on1ミーティングやエンゲージメントサーベイといった手法の導入自体は進んでいるものの、実際の「運用」や「活用」のあり方には部署間やマネージャー間で大きなばらつき(温度差)が見られると報告されています。非公式なコミュニケーション(社内イベントや雑談など)も含め、関係性を構築する手段が複雑化しており、これらの施策が形骸化してしまうと、現場での効果的なOJTやフィードバックが機能しなくなります。
そのため、上記の数値ギャップや現場のコミュニケーション課題を埋めるためには、教育の提供方法にパラダイムシフトが必要です。単純にOff-JT(仕事場から離れた教育)の費用比較を行うだけでは問題がありますが、デジタル技術や革新的な学習手法を活用することで、現場の経験だけでは得られない知識やスキルを効果的に獲得することが急務となっています。
人材育成は現場主義──HRBPの台頭
日本における人材育成の課題を受け、企業においてどのようなことを行っていけばよいのでしょうか。現代社会では脱工業化が進み、人的資源はますます重要性を増しています。事実、人材は企業の核心であり、人材の問題解決は現場主導で行いながらも、同時に経営陣と協力して全体最適化を目指すことが重要です。したがって、人事部門は経営層と連携し、人材の細かな問題を解決しながらも、戦略的な人材管理を行う必要があります。
これまでの長期的な人材戦略や人事制度、研修体系に基づく成長促進の手法は、理論上は妥当であるものの、既に崩壊の兆候を見せています。企業は、より細かな事業単位のレベルで人材問題を解決する必要性に直面しており、求める人材の理想も変えなければならない場合もあります。
このような状況において注目されるのがHRBP(Human Resource Business Partner)です。具体的には、HRBPは経営層と連携し、経営戦略に沿った人材戦略を策定・実行する役割を担います。現場からの課題やニーズを把握し、それを経営層に伝えることで、人事戦略や人材育成の方針を適切に決定することが求められます。HRBPは、現場と経営の間に立ち、現場の課題やニーズを経営層に伝える役割がある言えるでしょう。
階層別の人材育成計画
組織全体のパフォーマンスを効率的に向上させるためには、全従業員に画一的な研修を施すのではなく、それぞれのキャリア段階に応じた「階層別の人材育成計画」を設計し、実行することが極めて有益です。新入社員から管理職まで、各フェーズで求められる能力や役割は大きく異なるためです。
新入社員の育成プログラム
新入社員の育成において最も重要な目的は、企業文化に馴染ませ、業務を遂行する上で必須となる基礎スキルを早期に習得させることです。
基本的な育成方法としては、実務経験を積みながら職場での役割を理解させる「OJT」の活用が中心となります。それに加えて、職場を離れた「Off-JT」を通じて、専門知識やビジネスマナー、コミュニケーションスキルを向上させることも大切です。単なる業務遂行能力の付与にとどまらず、チームワークの醸成や、自ら考えて行動するための問題解決能力の土台を育む教育プログラムが求められます。
中堅社員の育成
中堅社員には、より高度な専門スキルの習得とともに、次世代の組織を牽引するためのリーダーシップを育むことが求められます。
具体的な育成方法として、専門的な知識や業務スキルを深めることはもちろん、小さなプロジェクトのリーダーとしての経験を意図的に積ませることが重要視されます。また、定期的な評価とフィードバックを通じて自己成長を促し、さらなるキャリアアップを支援する体制が必要です。メンター制度を活用して後輩の指導にあたらせたり、異なる職種のメンバーとチームを組むクロスファンクショナルな経験を積ませたりすることで、多角的な視野を獲得させるアプローチが有効です。
管理職の育成研修
管理職の育成では、組織の経営戦略に沿ったマネジメントスキルを強化することが最重要課題となります。管理職には、自部門だけでなく組織全体の視点を持ち、部下のモチベーションを引き出してチームの成果を最大化する力が強く求められます。
具体的なプログラムとしては、リーダーシップ研修やマネジメントスキルの向上を目的とした高度なOff-JTプログラムが機能します。さらに、座学だけでなく、定期的なワークショップやケーススタディを通じて、現場で直面する複雑な人的課題や業務課題を実践的に解決する能力を養う訓練が必要です。効果的な人材マネジメント、目標設定、そして対人影響力を強化することが、管理職育成の核心となります。
以下の表に、階層別の育成アプローチをまとめました。
階層 主な育成目的 求められる重点スキル 代表的な育成アプローチ
新入社員 企業文化への適応、基礎スキルの習得 業務遂行力、ビジネスマナー、チームワーク OJTを軸とした実務指導、基礎知識のOff-JT
中堅社員 専門性の深化、次世代リーダーシップの醸成 専門的課題解決力、プロジェクト推進力、視野の拡大 リーダー経験の付与、メンター制度、多職種連携
管理職 組織戦略の実行、チーム成果の最大化 マネジメントスキル、部下育成力、全社的視点 高度なリーダーシップ研修、ケーススタディ演習
人材育成の代表的な手法
従来の人材育成手法を大きく分けると、OJT(On the Job Training)とOff-JT(Off the Job Training)、そして自己啓発(SD:Self Development)の3つに分類されます。これらを目的に応じて使い分け、適切に組み合わせることが成長促進の鍵となります。
1. OJT(On the Job Training)
職場でOJTトレーナーや先輩の指導を受けながら、実務を通じて業務を学ぶ手法です。実務に直結した指導を直接受けることで、即戦力となるスキルを最も迅速に身に付けることができます。
2. Off-JT(Off the Job Training)
主に会社の制度として組み込まれ、これまでは職位階層ごとに行われる階層別研修などが主流でした。日常の職場や実務から離れて、ロジカルシンキングやプレゼンテーションなどのビジネススキル、あるいは専門知識の研修を受ける方法です。近年では集合研修だけでなく、オンライン研修やオンデマンド形式など柔軟な方法でも提供されています。
3. SD(Self Development:自己啓発)
社員自身が自分自身の能力を高めるために、自発的に行う学習や活動を指します。企業側は、通信講座の補助や資格取得支援など、福利厚生的なプログラムを提供することで社員の自律的な成長をバックアップします。
しかし、これらの中で「研修(Off-JT)」形式で行われるものには課題も存在します。研修の内容が日常の業務や課題に沿っていなかったり、学んだことを業務に適応することが難しいというケースが多くの企業で見られます。階層別研修を例にとれば、人事部門主導で職位横断で共通の研修を実施するのが主流で、一般的なビジネスの理論やスキルの研修を行う、あるいは企業ごとのルールなどに沿った研修を行うというケースが多いようです。
一方、人材の成長に寄与する割合として、研修が果たす役割はわずか「10%」という調査結果もあります。これは米国のリーダーシップ研究の調査機関ロミンガー社の調査結果によるものです。同社が、リーダーシップが発揮できている経営幹部に対して「どのようなことが成長に役立ったか」という調査を行ったところによると、「70%が経験、20%が薫陶、10%が研修」であることが分かったというのです。
この事実から、人材育成は、研修プログラム(Off-JT)のみを設計するのでなく、現場での経験(OJT)や他者からの助言を統合し、合わせて経験そのものをデザインすることが極めて重要であることが分かります。
最新の人材育成アプローチ
では、現在、人材育成はどう変化しているのでしょうか。世界全体の人材育成担当者や組織に大きな影響を及ぼす、ATD(Association for Talent Development)の国際会議で話題になっている主なトピックスと最新アプローチを解説します。
従業員の個々の課題に、どのように個別化して対応するのか
個々に合わせた育成方法を行う上で欠かせないキーワードが、「パーソナライズドラーニング」と「アダプティブラーニング」です。「パーソナライズドラーニング」は、学習対象者の興味、経験、好みの学習方法、その他の要因に合わせたインストラクションを、個々の学習対象者に提供する手法です。
また、「アダプティブラーニング」は、AIなどの最新テクノロジーを使って、個々の学習者の学習状況や理解度を分析し、それに合わせてコンテンツや方法を適合させることです。こちらは、「学ぶ内容や組み合わせを個人ごとに最適化する」方法であり、一律の研修から脱却する強力な手段となります。
どのように継続して学習してもらうのか
従業員に継続的に学習を行ってもらうためには、「マイクロラーニング」が重要なカギを握ります。「マイクロラーニング」は、1回5分程の動画や、細分化されたWebコンテンツなどの教材を使って学ぶ方法です。学習者は、スマートフォンなどで、好きな時に好きな場所で学習できます。仕事の合間や移動中などのすき間時間を利用して気軽に学習することが可能となります。
マイクロラーニングは短時間で構成されていることから、反復学習がしやすいため、学んだ内容が記憶に定着しやすく、高い学習効果が期待できるメリットもあります。反復学習、または分散学習とは、一般的には「忘れかけたころに再学習する」を意味します。企業の人材育成においては、コンテンツを細切れにする、同じ内容を飽きないように工夫して継続的に短いプログラムコンテンツを提供しながら学習させるシステムが必要不可欠です。
プログラムデザインから経験のデザインへ
より効果の高い人材育成を実施するためには、研修プログラムのみをデザインするというより、経験から何を学んでもらうかを想定し、育成の全体像をデザインする必要があります。経験のデザインについて具体例をご紹介します。
「プロジェクトベースドラーニング」は、複雑な課題や挑戦しがいのある問題に対して、生徒が少人数のグループでの自律的な問題解決・意志決定・情報探索などを通じて解決を目指す学習方法です。これはカナダのマクマスター大学において、大学医学部の創設メンバーによって開発された学習理論で、学習者が主体的・能動的に学ぶ「アクティブラーニング」を実現する手法の1つとして注目を集めています。
「プロジェクトベースドラーニング」を取り入れた研修は、適切な事例問題の提示や基本的な説明を行うなど、学習支援(ファシリテーション)の提供が欠かせません。
このように、最近の研修においては、従来の集合研修の「講師」が、「コンサルタント」や「コーチ」という役割に変化してきています。
日本では馴染みがありませんが、海外では、個人向けのキャリア開発を主務としたアドバイザー職が職業として確立されています。これは、個人のキャリアのゴールから逆算し、どんなコンテンツをどのくらい学習し、どこで経験を積み、ゴールの達成に向かうのか、ということをアドバイスする職業です。プログラムやコンテンツのみを設計するのではなく、経験も合わせてデザインする、という考え方になります。
そのため、プロジェクトベースドラーニングや、インフォーマルラーニングと近い考え方であり、後述するラーナー(学習者)ジャーニーマップを設計することと等しい仕事といえます。
ゲーミフィケーションの活用
ゲームの要素を研修に取り入れ、没頭して集中できる空間を作る手法(ゲーミフィケーション)の効果も注目を集めています。 TalentLMS(Talent LMS)が実施した「The 2018 Gamification At Work Survey」では、適切に設計されたゲーミフィケーションに基づくトレーニングは、学習者の積極性を高め、動機付けにつながるとされており、組織と学習者の両方に役立つものだと報告されています。ゲーミフィケーションには決まった形があるわけではなく、勝ち負けが明確なディベートなどもこれに含まれます。

ゲーミフィケーションとは?仕事や研修を楽しくする仕組みと企業事例を徹底解説【2026年版】
ゲーミフィケーションとは、ゲームの要素を仕事や研修に応用し、社員のエンゲージメントや生産性を高める手法です。…
エンプロイージャーニーマップからラーニングジャーニーマップへ
そもそも社員のエクスペリエンス(経験)から、エンゲージメントの向上や、人材の能力アップなどにつなげるためには、エンプロイージャーニーマップの作成が必要です。エンプロイージャーニーマップを作成する際のポイントは、社員の目線から考えることです。
新入社員を例に考えると「入社したときに自分はどんなことを期待するか」「入社して自分はどんな問題に直面するか」「それらの場合に自分はどんな心理状態になるか」といったものです。従業員の立場になって彼らが遭遇する体験を快いものへと改善していくために、エンプロイージャーニーマップが役立つのです。
人材育成の観点では、エンプロイージャーニーマップをさらに細分化した、「ラーニングジャーニーマップ」が有用です。これらは入社(新卒・中途)の際のオンボーディング期間や、管理職の登用の際などに用いられます。
「ラーニングジャーニーマップ」は、オンボーディングを達成したのはどういう状態か、仕事上の問題の解決に必要なスキルはどんなもので、どのように活用するのか、といった要素を「学習者の経験(ラーナーエクスペリエンス)」という視点から導き出して、ラーニングの全体像を描いたものです。
人材育成マネジメントの進め方と手順
人材育成は、単に研修を実施して終わるものではありません。持続的な効果を生むためには、体系的な「人材育成マネジメント」のプロセスを回し続ける必要があります。マネジメントを成功させるために、以下の基礎的なプロセスを理解し、PDCAサイクルを構築することが重要です。
現状の課題を可視化する
現在の経営戦略に対する人材の課題を明確にします。まずは「いつまでに、どのような人材が、どれほど必要なのか」を定量・定性両面から明らかにします。その後、既存社員のスキルや業務経験を整理・分析し、理想の人材像との間にあるギャップ(課題)を可視化します。タレントマネジメントシステムなどを活用し、データを一元管理することが推奨されます。
目標設定(SMARTの法則の適用)
課題が明確になったら、目標設定を行います。「目標達成のために具体的に何をすべきか」を明確にし、部下が迷いなく行動できる指針を作り上げます。このとき、企業全体の目標と、部署やチームの目標、そして個人目標がどのように関連しているかを十分に部下へ伝えることがポイントです。関連性が理解できた部下は、自主的に行動するようになります。目標は「具体的(Specific)」「測定可能(Measurable)」「達成可能(Achievable)」「関連性のある(Relevant)」「期限付き(Time-bound)」というSMARTの法則に則って設定することが効果的です。
計画の立案と実行
目標達成のためにより効率的な道筋を立て、実行計画を策定します。対象者の現状に合わせて、OJT、Off-JT、マイクロラーニングなどをどのように組み合わせるか、誰が指導担当(メンター)となるのかを決定します。ここでは、筋道立てて考える「論理的思考力」や、戦略を個人レベルに落とし込む「戦略的思考力」が人事担当者やマネージャーに求められます。
定期的なフィードバックと効果検証
実行した施策の効果測定と、対象者への定期的なフィードバックを繰り返します。弊社ソフィアの調査でも課題として挙げられた1on1ミーティングなどを適切に運用し、コミュニケーションの質を高めながら進捗を確認します。このフィードバックループを通じて、計画の修正や、次の目標設定へと繋げていくのです。
人材育成を成功させるポイント
では、具体的に人材育成を始めていくという場合に、どのような取り組みを行うべきなのでしょうか。実践に移すための具体的な成功のポイントをご紹介します。
現場と経営に必要な人材像の設定
理想の人材像を設定するところから、まずは始めていきましょう。コアとなる人材がそれぞれどのような役割を持ち、どのような知識やスキルを必要とするのかを具体化していきます。同時に将来会社の中核を担うべきコア人材候補者について、理想像に基づいたキャリア形成プラン、マネジメントプランを策定していきます。
この育成理念や人材像は、企業の経営理念やビジョンと密接に連動させることが絶対条件です。方針が明確であれば、社員一人ひとりの成長を促すための統一感ある施策が実施でき、組織全体の成長力に直結します。
個別に適したアプローチ方法の選択
理想像を確立できたら、個別にどうアプローチしていくのか、最適解を探ります。従来のイベント型ではなく、継続するプロセスとして学習機会を提供するには、ラーナーエクスペリエンスデザイン(LXD)の考え方が参考になります。たとえば、マイクロラーニングコンテンツをはじめとしたデジタルラーニングを導入すれば、パーソナライズされた学習が可能になります。このように、適切なプログラム・指導をもとに、学習者自身が主体的に目標をもって学べるよう、学習を「体験」として組み立てていく工夫が重要です。
タレントマネジメントシステムの整備
人材に関するデータを統合し、一元管理するのがタレントマネジメントシステムです。タレントマネジメントシステムを整備できれば、人材開発に取り組む際に社員一人ひとりに対して必要なアプローチを選べます。Eラーニングか、上司との対話か、集合研修か、または産業医との面談か、その時々で手法を適切に選べるようになり、人材育成が飛躍的に効率化できます。
社員のモチベーション管理と指導者スキルの向上
対象者の自主性を引き出すためには、「内発的動機付け」と「外発的動機付け」の両面からのアプローチが不可欠です。昇進や給与アップといった外発的動機だけでなく、社員自身の「ありたい姿」や成長実感といった内発的動機に働きかけることで、持続的なモチベーションを維持できます。
また、指導者側(マネージャー層)のスキル向上も並行して進める必要があります。現場の上司が育成に消極的であったり、教え方が分からないという課題を解決するためには、マネージャー自身に対するコーチング研修やマネジメントスキル研修の実施が急務となります。
以下の表に、動機付けの種類と特徴をまとめました。
動機付けの種類 モチベーションの源泉 特徴と影響力 人材育成における活用例
内発的動機付け 自己の成長実感、ありたい姿の実現、仕事そのものの楽しさ 外部環境の影響を受けづらく、モチベーションが長続きする キャリアビジョンの策定支援、裁量権の付与、1on1での傾聴
外発的動機付け 昇進、給与アップ、評価、表彰などの報酬 外部環境の影響を受けやすく、短期的には上がりやすいが下がりやすい 人事評価制度との連動、インセンティブの付与、社内表彰制度
企業における人材育成の成功事例
人材育成の理論を実践に落とし込んだ、企業における成功事例をご紹介します。
ある企業の管理職候補(30代~40代)の次期管理職育成研修を、ラーナーエクスペリエンスの観点から「研修参加前(現場・日常)」「研修参加(非日常)」「研修参加後(現場・日常)」の大きく3段階に分けて、ラーニングジャーニーマップを設計した事例です。各段階では、受講者、およびその上司の情動(感情の動き)をあらかじめ想定し、その情動に合わせて施策を展開しました。とくに「研修参加前」と「研修参加後」の設計が重要になります。
「研修参加前」については、受講者の感情の動きはネガティブなことが多いため、研修を受ける意味合いや期待について発信しながらも、社員の心持ちを探ることが重要です。そこで、経営トップのメッセージをビデオで配信したり、キャリアや研修に関する事前アンケートを行い、受講者の期待感を調査したりしました。また、研修の実施においては、受講者の上司をしっかりと巻き込むことが必要です。事前アンケートを踏まえて、上司と受講者との1on1を実施することで、「研修参加前」の受講者と上司のコミュニケーションを意図的にデザインしました。
「研修参加後」は、受講者の情動は、再びネガティブに転じる、もしくは研修の記憶が薄れていくため、受講者と上司のコミュニケーションを再設計すること、そして、受講者同士が情報共有できる場を設計することが重要です。事後課題を現場で活用する前提の内容にし、受講者同士で結果を共有できるコミュニティをオンライン上に設けたことで、それぞれの上司からのフィードバックや研修講師からの継続的アドバイスを受講者同士で共有することにつながりました。
また、このようなラーニングジャーニーマップを機能させるには、対面でケアし切れないコミュニケーションをシステムで補完していくことが理想的です。この事例では、Office365の機能を使用し、「研修参加前」のトップメッセージはStreamで、事前課題はLearn365(旧LMS365)を使用してeラーニングを実施しました。また、「研修参加後」の受講者同士の共有は、Yammer、プレゼンテーションの共有はShare point onlineで対応し、シームレスな学習環境を構築しました。
その他の成功事例として、新卒新人を短期間でデジタル人財に育てるためのCDP(キャリア開発プログラム)と新人研修体系を連動させて構築し、現場配属後の即戦力化に成功したケースや、独自のマネジメントツールを導入することで、現代の複雑な価値観を持つ新任管理職に深い意識変化を起こした事例なども報告されています。いずれの事例も、研修という「点」のイベントにとどまらず、前後の業務環境を含めた「線」での経験をデザインしている点が共通しています。
組織開発と人材育成の同時推進
いくら最新のスキルや高度な知識を身につけても、職場ですぐに活かせるわけではありません。例えば社員がロジカルシンキングを勉強し、実践しようと考えても、現場に戻って実践できるかどうかは別の話です。研修を受けた社員が動機付けされて、実際にイノベーティブな提案をしようと思っても、変化に消極的な職場風土であれば革新的なアイデアは淘汰されていってしまうでしょう。
現実の世界は、研修内のビジネスゲームのようにうまくはいきません。組織ぐるみで一斉に研修を受けることができれば環境も変わるかもしれませんが、大企業においては現実的に不可能です。つまり、個人の能力を引き上げる「人材育成」と、その能力を十分に発揮するための組織風土やスタイル変革を行う「組織開発」は、連動させながら推進していく必要があるのです。
弊社ソフィアの調査で明らかになった「コミュニケーションの分断」や「ナレッジ共有の不足」といった課題も、単なる個人のスキル不足ではなく、組織の構造や関係性に起因する組織開発の領域です。人材育成の成果を最大限に刈り取るためには、オープンな対話が推奨される心理的安全性の高い職場環境づくりを並行して行うことが、遠回りに見えて最も確実なアプローチとなります。
人材育成に活用可能な助成金制度
企業が本格的な人材育成・人材開発プログラムを推進する際、教育コストや時間的リソースの確保が大きなハードルとなる場合があります。このような負担を軽減し、より高度な教育投資を実現するために活用すべきなのが、厚生労働省が実施している「人材開発支援助成金」です。要件を満たすことで、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が企業に対して助成されます。
ここでは、最新の令和8年度(2026年度)に向けた見直し情報に基づく、代表的なコースの概要と支給額の目安をご紹介します。とくに大企業においても活用可能なコースが設定されているため、研修企画担当者は計画段階から要件を組み込むことが推奨されます。
代表的なコース
人材育成支援コース
職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるためのOff-JTや、有期契約労働者等を対象とした訓練が幅広く対象となります。
事業展開等リスキリング支援コース
企業の新規事業の立ち上げや事業展開、またはDX(デジタルトランスフォーメーション)やグリーンカーボン分野など、新たな領域に伴い必要となる高度なスキルを習得させる訓練が対象です。
以下の表は、「事業展開等リスキリング支援コース」における、実訓練時間に応じた企業規模別の経費助成額の目安です(※年度や要件、申請内容によって変動する可能性があります)。
| 実訓練時間 | 中小企業 (助成率:75%) |
大企業 (助成率:60%) |
| 10時間以上100時間未満 | 30万円 | 20万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 40万円 | 25万円 |
| 200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
さらに、訓練経費の助成に加え、訓練期間中の賃金助成として、1時間あたり中小企業は1,000円、大企業は500円が加算される仕組みも用意されています。
ただし、この助成金を利用するためには、訓練開始の1ヶ月前までに「職業能力開発推進者」の選任や詳細な「事業内職業能力開発計画」の策定を行い、計画届を所轄の労働局へ提出するなど、厳密な手続きが求められます。最新の申請要綱や電子申請の対応状況については、必ず厚生労働省の公式案内をご確認ください。
まとめ
人材育成によって、社員が自身の業務における課題を主体的に解決できるよう、確実な行動変容を生み出していきましょう。そのためには、従来のような画一的な集合研修だけに頼るのではなく、個々の課題や階層に合わせて育成方法を最適化することが大事です。
人材育成は、世の中の急激な変化に伴ってさまざまな変容をたどってきました。働き方の多様化やコミュニケーションの分断といった現代特有の課題を正確に捉え、自社に必要な理想の人材像を確立することが出発点です。その理想像に沿って、マイクロラーニングやタレントマネジメントシステムを活用し、学習を単なる座学ではなく「体験」としてデザインすることで、効率よく成果にたどり着けます。最新の助成金制度なども賢く活用しつつ、組織開発と両輪で行いながら、企業全体の人材価値と競争力を力強く高めていきましょう。
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