人材育成を担っている方々は、人材育成のトレンドを捉え、理解した上で社員の能力開発を行いたいと考えることでしょう。

現在、テクノロジーを通じて教育領域にイノベーションを起こす「EdTech」などに代表されるように、能力開発のさまざまな理論や方法が脚光を浴びていますが、それらを押さえるだけでは不十分です。

最新の人材育成・研修の概念や理論の背景や、そこに至る歴史を確認して、自社に最適な人材育成を行う必要があります。

そこで今回は、人材育成・HRの歴史や背景を踏まえた上で、最新のトレンドを解説していきます。

人材育成の歴史

人材育成の歴史は、その時々のの経済情勢、HR全体の潮流など、ビジネス環境の影響を受けて変化してきました。今後も、その傾向は変わらないでしょう。

トレンドを捉えた上で自社の人材育成を見直したい場合、人材育成の歴史的経緯を理解することで、どこに視点を置いて見れば良いかのヒントが得られます。

戦後はOJTが主流だった

1945年の終戦直後から1950年頃までの時期、管理者プログラムなどが米国から導入されました。その後の1950年代から60年代、現場での指導が人材育成の主流となります。

日本の高度経済成長期に本格的に発展したのが、経験重視型の「OJT(On the job training)」です。この時期、日本の産業は製造業を中心に発展します。先輩の技術を、後輩が経験を積みながら覚えていく「OJT」が、主に製造業・重工業で確立されていったのです。

長期雇用を前提とし、多種多様な仕事に長期間従事させ、さまざまな状況に対応できる幅の広い専門性を習得させることが、その特徴でした。

時代の変化を受け、発達する人材育成

1960年から70年代、日本は経済的に安定成長を迎えます。
米国では一足早く「組織開発」という分野が1950年代に発達し、1960年には日本にも米国での心理学研究・行動科学の要素を取り入れた「センシティビティ・トレーニング」などが「組織開発」という名前で広まっていきました 。

しかし、日本でのこの段階の「組織開発」は、優れたファシリテーターの少なさゆえに十分に普及せず、結果として後退しました。

この時代、研修の中に行動科学の知見を活かす考え方は、それほど濃厚ではありませんでした。そういった意味で、はじめて「組織開発」という理論的背景が研修に導入されたこの時期は、日本の人材育成の歴史上重要だったと言えます。

一方米国では、1970年代の経済停滞が、経営学の専門家への需要を高めました。その結果、経営における大学院教育、MBA(Master of Business Administration:経営学修士)が注目されました。

1980年代に入ると、日本においてもバブル経済の好景気を背景に、数々の企業派遣生たちが海外の大学や大学院で学ぶようになりました。
また、製造業の海外進出がはじまり、「国際化」「異文化コミュニケーション」「言語学習」と呼ばれるグローバル人材育成がブームとなりました。

1990年代前半にバブル経済が破綻し、「組織のフラット化」や「リストラ」、「成果主義」が導入されていきました。
組織のフラット化、リストラと新卒採用の抑制により「育てられた経験」も「育てた経験」も乏しい管理職が続出しました。

1990年代後半から2000年代前半にかけて注目されたのは、職場における部下育成の技術である「コーチング」が、管理職への研修に導入されたことです。コーチ・トゥエンティワン(現:コーチ・エィ)が日本に進出、コーチングが普及しはじめたのもこの頃です。

人材育成理論の発展

2000年代には、職場の人材育成機能の立て直しのため、「OJT」を再度強化しようという動きが活発になりました。

団塊の世代の大量退職を前に、若手の育成が課題となりました。そこで、選抜された社員にプロジェクトや業務を割り当て、アクションとリフレクションを促すリーダーシップ開発も行われました。

この時代には、1990年代と比べて、企業の人材開発が従業員全員を対象にするのではなく、将来の活躍が期待できる社員を選抜して機会を配分する動きが生まれてきました。

同時に、「OJT」の重要性が再度認識される中、形式的な「階層別研修」などが見直され、より「実務に効果的な研修のあり方」が模索されるようになりました。

また、これまでにない大きな変化として、教育学の理論や知見が人材開発研究に本格的に流入したことが挙げられます。研修の手法も従来の講義形式から、職場での現実の課題解決を取り扱うアクション・ラーニング型の研修などが取り入れられました。

2000年代には、職場での人材育成、OJTのあり方に対する実証研究が発表されました。

2008年、リーマンショックで長引く不況の中、雇用・キャリア不安が拡大し、2つの変化があらわれました。

一つ目は「研修の内製化」です。自社の社員に研修の企画・実施を担当させる動きが盛んになりました。

二つ目は「組織開発」への再注目です。多様性あふれる職場をいかにまとめ、組織を活性化するにあたり、発達した組織開発が再度注目されています。

また、「戦略人事」という言葉が登場し、業務効率・コスト削減といった役割の他に、人的資産(Human Capital)の最大化が人事のもっとも重要な役割である、という認識が広がりました。この流れから必然的に「タレントマネジメント」という概念が登場します。

タレントマネジメントとは、人材を会社の競争力を高める源と考え、採用から教育、キャリア形成などを一貫して支援する人材管理方法です。個人がどのようなタレント(才能)を持っているのか経験値などの情報を一元管理することによって組織横断的に戦略的な人事配置や人材育成など行います。

このように、経済や企業業績の高成長時代から低成長時代への移行、それに伴う人事制度やHR自体の変化、米国における経営学や人材育成理論の変遷とともに、現時点の人材育成は、より個人にフォーカスし、画一的な人事管理ではなく育成方法を個別最適化していくトレンドの流れの最中にあると捉えられます。

参考記事:
人材育成における課題 従来の人材育成方法は意味がない?個を伸ばす育成方法とは  

人材育成における概念のトレンド

ATD (Association for Talent Development、以下ATD)はアメリカのバージニア州に本部があり、企業や行政組織におけるラーニングとパフォーマンスの向上支援をミッションとした人材開発に関する世界最大の団体です。

最新の人材育成における概念については、ATDのトレンドが参考になります。
そこから、従業員の私生活も含めたキャリアプランに向けて、個々に最適化し、未来に照準を置いた人材育成のトレンドが見えてきます。

 

エンプロイーエクスペリエンス

2015年頃から、「エンプロイーエクスペリエンス」という概念が登場しています。従来からの従業員のエンゲージメントを高める必要性の議論から、さらに一歩進めた概念と言えます。

マーケティングや商品開発の担当者が、製品の効用効果に対する満足度ではなく、「カスタマーエクスペリエンス」という製品を使用する前後も含めた個々の顧客の経験価値を重視するようになったように、人事担当者は個々の従業員の経験による価値をどのように向上させるか、注力しはじめています。また、職務行動や職場におけるキャリアのみにスポットライトをあてるのではなく、私生活も含めたエクスペリエンスの向上をめざす、という考え方が特徴的です。

参考記事:
HR業界のトレンド「エンプロイーエクスペリエンス」とは?向上させるポイントを解説  

個別に最適化する

ATDが運営する最大規模のイベントが、毎年5月にアメリカ国内で開催されている国際会議、ATD ICE (nternational Conference and Exposition、以下ICE)です。
近年のICEにおけるテーマを一部抜粋すると、

  • リーダーシップ・ディベロップメント(Leadership Development)
  • タレント・マネジメント(Talent Management)
  • ラーニングの測定と分析(Learning Measurement & Analytics)
  • ラーニング・テクノロジー(Learning Technologies)

などのラインナップとなっています。
そして、2018年から登場するのは、パーソナライズド・ラーニングとアダプティブ・ラーニングです。

「パーソナライズド・ラーニング」では、学習対象者の興味・経験・好みの学習方法・その他の要因に合わせたインストラクションを、個々の学習対象者に提供します。すなわち学び方を個別最適化する、という考え方です。

「アダプティブラーニング」とは、AIなどのテクノロジーを使って個々の学習者の学習状況や理解度を分析し、それに合わせてコンテンツや方法を適合させることです。こちらは、学ぶ内容や組み合わせを個人ごとに最適化する、という考え方です。

上記2つの考え方の出発点は教育学ですが、同じく教育学を起点としてこの他に「アクティブラーニング」という概念も登場します。

参考記事:
人材開発のトレンド「ラーニング・エクスペリエンス・プラットフォーム(LXP)」とは?  

人材育成手法のトレンド

ここまで見てきたように、現在の人材育成には、①会社生活において個々の従業員が経験から得る価値を未来にわたって向上させる ②学び方/学ぶ内容を個別最適化する、という大きな二つの潮流があります。ここからは、この2つを実現するための育成手法のトレンドを確認していきます。

学習のデザインから経験のデザインへ

学習をデザインするというより、経験から何を学んでもらうかのデザインが重要です。

プロジェクトベースド・ラーニングは、複雑な課題や挑戦しがいのある問題に対して、生徒が少人数のグループで自律的な問題解決・意志決定・情報探索などを通じて解決を目指す学習方法です。カナダのマックスター大学において、教育学者ジョン・デューイによって開発された学習理論で、アクティブラーニングを実現する手法のひとつとして注目を集めています。適切な事例問題の提示や基本的な説明を行うなど、学習支援(ファシリテーション)の提供によって成立します。

例えば、新規事業開発というテーマに何名かをアサインし、社内の上級役職者や社内外の専門家をコーチとしてつける形が代表的です。

参考記事:
エンプロイージャーニーマップとは?作成すべき理由とその効果を解説  

マイクロラーニング

「マイクロラーニング」は、1回5分程の動画や、細分化されたWebコンテンツなどの教材を使って学ぶ方法です。

学習者は、スマートフォンなどのモバイル機器で、好きな時に好きな場所で学習できます。短時間で1回のレッスンが完結するので取り組みやすく、仕事の合間や移動中などのすきま時間を利用して気軽に学習することが可能です。

マイクロラーニングは、短時間で構成されていることから反復学習がしやすいため、学んだ内容が記憶に定着しやすく、高い学習効果が期待できるメリットもあります。

現在、教育学で分散学習のメリットが語られることが多いのですが、企業人教育においても、すべてを集合研修で実施するよりも、短い時間で反復学習できるマイクロラーニングは分散学習に最適と言えます。

参考記事:
「集合研修って仕事の役に立ってる?」組織のお悩みぶっちゃけ劇場 vol.6  

まとめ

これまで見てきたように、人材育成の概念のトレンドは、より個別最適化された学習方法でHRの価値の最大化をめざす流れにあります。

ある社員の業務スキルの現状と開発すべきスキルが可視化された上で、いつ、どのタイミングで、どのような学習を受けたかの履歴が残り、スキルがどのように変化したかというデータを蓄積できれば、個人に最適化された学習方法・学習内容・学ぶ順番がAIによって予測可能という世界も出現しています。

実際に、米軍の教育ではAIによるアダプティブ・ラーニングが実装されており、企業人教育においてもいくつか先進的なラーニングマネジメントシステムが既に稼働しています。
しかし、システムさえ導入すれば理想の人材が育つということは決してありません。自社に必要な人材や活躍する人材の再定義、そしてどのような能力開発が必要かというデザインの後に、技術を導入する必要があります。

最新の人材育成の概念を、その背景とともに理解した上で、自社の人材育成に適合されるにあたり、本記事がお役に立てば幸いです。

参考記事:
人材育成を会社で行うコツとは?これからの人材育成を考える  

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