HRBP(HRビジネスパートナー)とは?役割・スキル・人事との違いと導入手順
最終更新日:2026.05.19
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ビジネスをとりまく環境が大きく変化している昨今、人事戦略のあり方を見直す必要が出てきています。優れた人事戦略をいち早く取り入れることで、会社の成長を加速させることができます。では、効果的に機能する人事を実現するには、具体的にどのようなことに取り組めばいいのでしょうか。その解決策のひとつとして挙げられるのが、HRBP(HRビジネスパートナー)です。
本記事では、大企業の人事部門長や企業内研修を担当する研修企画担当者に向けて、HRBPの概念から具体的な役割、従来の人事との決定的な違いを詳細に紐解きます。さらに、独自の調査データをエビデンスとして交えながら、戦略人事を成功に導くための導入手順や求められるスキル体系までを網羅的に解説します。
HRBPとは
まず、そもそもHRBPとはどのような存在なのか、その意味と成り立ちから確認していきましょう。HRBPを導入することは、企業にとって何をもたらすのでしょうか。
HRBPの概念
HRBPは「Human Resource Business Partner」の頭文字をとった言葉です。人事部門の枠に留まらず、特定の事業部門やビジネスユニットに深く入り込み、経営者や事業責任者の戦略的なパートナーとして機能するポジションを指します。組織の目標を達成するために必要な人材を明確にし、採用から育成、組織開発までを包括的に担うことが主な目的です。
HRBPの起源を紹介すると、1997年にアメリカのミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのRensis Likert名誉教授であるデーブ・ウルリッチによって提唱された概念です。彼は自著の中で、これからの人事は単なる管理部門ではなく、ビジネスの成果を牽引する存在になるべきだと主張しています。
ウルリッチ教授は、人事部門が営業部門をはじめとする事業部門と連携することで、人や組織に関する部門からの要望を人事に反映させていく機能をHRBPと定義しました。この発想が広くシェアされ、現在に至ります。
また、ウルリッチ教授の著書にインスパイアされた業界実践者によって確立・普及したのが、人事組織を3つの役割に分割する「スリー・ピラー・モデル(Three-Pillar Model)」です。このモデルは『ウルリッチ・モデル』とも呼ばれ、ウルリッチ教授自身は直接の考案者ではないと述べていますが、彼の思想を組織構造として具現化したものとして広く認知されています。
HRBPの具体的な役割
HRBPはどのような役割を担っているのかというと、企業の事業部門に人事の視点を持った人材を置き、それぞれの現場に寄り添った戦略的な運営を行うきっかけを生み出します。それぞれの事業部やチームの風土、採用や育成など、全体ではケアできない内容をサポートします。
結果として、これまでよりも課題解決がスムーズに行われるようになるというプラスの変化が起きやすくなります。人事面から、企業としての成長が加速するのです。
さらに深掘りすると、HRBPは大きく分けて以下の3つの具体的な役割を果たしています。
経営戦略を人事戦略に反映させる
HRBPの最も重要なミッションは、経営陣が掲げる事業目標を達成するために必要な「人材ポートフォリオ(どのような人材が、何人、どの部署に必要か)」を策定することです。ビジネスの状況を的確に読み取り、数年先を見据えた採用計画や後継者育成プラン(サクセッションプラン)を立案します。
各事業部門の課題解決と組織開発
事業部長の右腕として、部門固有のパフォーマンス低下の要因やコミュニケーション不全の問題を特定します。その上で、現場の特性に合わせた独自の評価基準の導入支援や、組織風土の改革に向けた具体的な改善施策を実行します。
変革の推進(チェンジエージェント)
企業が新たな市場に参入する際や、大規模なDXを推進する際など、組織は大きな変化を迫られます。HRBPは、そうした変革に対する現場の不安や反発を丁寧に汲み取り、経営層の意図をわかりやすい言葉で伝達する「架け橋」となります。現場のリアルな声を経営陣へ届けることで、双方向のコミュニケーションを成立させます。
なぜアメリカでHRBPの概念が生まれたのか
なぜHRBPという概念が生まれたのか、その背景を知っておきましょう。発祥地であるアメリカの状況は、どのようなものだったのでしょうか。
労働者の多様性の問題
HRBPが生まれた当時、アメリカの人事領域では、労働者の多様性の問題や、エンゲージメントの問題などさまざまな課題が注目を集めていました。人事において気をつけるべきポイントが増え、これまでにない戦略が求められるようになっていたのです。
たとえば多国籍企業の「ASML」では、人種や宗教、性別、年齢、出身国、障害、性的指向などを問わず、あらゆる人材を雇用するという方針をグローバルな採用方針として掲げています。(ただし、2025年以降、トランプ政権の大統領令への対応としてアメリカ国内ではDEI関連の数値目標の適用を停止しており、各国・地域によって運用に差異が生じる場合があります。)
このようにダイバーシティや多様性を意識して採用や異動などを行う多国籍企業が、多く存在するようになったのです。
また、アメリカの労働力において、女性、少数民族、移民の数が増加の一途をたどりました。それぞれの従業員に対して公平かつ公正に接することを求められ、企業は真摯に向き合い、環境を整える必要があります。HRBPで事業部門が人事と積極的に関わることで、雇用法やあらゆる規制に対する公正さを担保することが不可欠になっているのです。
また、アメリカは先進国の中で出生率の低下が進み、移民流入による人口増加が主な要因となっています。将来的には、2030年前後に死亡数が出生数を上回り、自然減が起こる可能性が高まっているのです。ただし、移民問題は緩やかな人口増加を維持するための要因となっており、労働投入の減少により将来の成長率は低下する見通しです。このため、労働者不足が産業経済成長に影響を与えている状況があります。
公正さを担保する必要性
昨今のアメリカの労働市場では、労働者の多様化が進み、HRBPの重要性がますます高まっています。アメリカの労働力において、女性、少数民族、移民の数が増え、それぞれの従業員に対して公平かつ公正に接することを求められ、企業は真摯に向き合い、環境を整える必要があります。HRBPで事業部門が人事と積極的に関わることで、雇用法やあらゆる規制に対する公正さを担保することが不可欠になっているのです。
そして同様の傾向がアメリカやその他の国々で広まっています。結果、世界規模で多くの会社が人材を取り合うという図式が生まれたのです。人材を奪い合う状況の中、若くて優秀な人材ほど、多くの企業で不足してしまう可能性が出てきます。だからこそ、人事がいかに効率的に、本当に必要な人材を採用できるかが重要視されるのです。
HRBPでは、人事の判断と、事業部などのビジネスの現場における判断をすり合わせていきます。これにより、人事がそれぞれのビジネス目標に即した意思決定を下すことが可能になります。グローバル化により、さまざまな国の雇用法や規制を守る必要が出てきた企業にとっても、HRBPは頼もしい考え方です。労働力が高齢化し、エンゲージメントの必要性が重視されるようになったことも、HRBPへの注目を加速させています。人事は、ビジネス目標を正しく提示し、ビジョンが一致していることを保証することで、従業員が積極的に企業と関わる状況をつくっています。
日本でHRBPが必要とされる理由
アメリカをはじめとする世界規模でのHRBPの重要性は上述の通りですが、なぜ今、日本のビジネスにおいてHRBPの必要性が高まっているのでしょうか。主な理由について考えてみましょう。
ひとつは、デジタルテクノロジーの進歩です。昨今、デジタル技術がめまぐるしいスピードで発展し、今までにないビジネスモデルや新商品が多数誕生しています。このような状況下では、AIやクラウド技術などのテクノロジーにいかに順応できるかが、企業の将来を大きく左右するでしょう。だからこそ、個々の持っている技術的知見を、タイミングよく最適な場所で採用することが、企業にとっては重要です。そこでHRBPによって、できるだけ効率的に人材を配置する必要が出てきているのです。
日本の雇用制度における変化も、HRBPの注目度に大きく関わっています。日本の企業では、従来は新卒を一括採用し、終身雇用を前提に年功序列で評価していく「メンバーシップ型雇用」が一般的でした。しかし昨今は、働き方改革の影響で各々が柔軟な働き方を選択するようになり、雇用も流動化しています。また、若い世代の労働者の人数が減ったことで大手企業と採用を競い合うことになり、自社にとって理想的な人材を新卒で採ることのハードルも上がっています。そのため、HRBPで採用の精度を高める重要性が増しています。
消費者の購買行動が変わってきていることも、企業の採用活動に大きな影響を与えています。最近ではスマートフォンなどのデジタルツールによって、オンラインショップで物を買う人が増えています。結果、デジタル上でエンドユーザーとつながるのが一般的になり、企業は、いかにリアルタイムでニーズに対応し変化していけるかを問われるようになっているのです。このような変化において、人的資源の重要性は増します。思い描く理想の人材を採用するために、HRBP導入に注目が集まっています。
従来の人事部門は、中央集中管理により、現場のビジネス課題の解決や採用・育成に適切に対応できず、全体と部分の構造的な問題が生じている状況です。
エビデンスから見る大企業の組織課題
本文の主張や内容の説得性を固めるために、弊社ソフィアの調査では(調査時期:2025年10月、対象:従業員数1,000人以上の企業に勤めている現場及びコーポレート部門の方496名、テーマ:「インターナルコミュニケーションにおける課題と対策」等)、大企業における組織構造の課題がより深刻化していることが明らかになっています。
本調査のデータ分析によると、リモートワークなど働き方の多様化が急速に進んだ結果、従来の対面を前提としたコミュニケーション手法が形骸化しています。それに伴い、組織の多層化や「部門間の分断(サイロ化)」が加速し、貴重なナレッジが分散してしまうという課題が浮き彫りになりました。また、1on1ミーティングやエンゲージメントサーベイといった施策の導入自体は進んでいるものの、現場のマネジメント層において「その運用や活用のあり方にばらつきが見られる」ことが大きな論点となっています。
こうした大企業特有の「分断」や「施策の形骸化」を防ぐためには、本社人事が一律のルールを押し付けるのではなく、HRBPが各部門の特性に合わせてコミュニケーション施策を最適化し、現場のマネジメントを直接支援する体制が不可欠なのです。
HRBPと従来の人事との違い
HRBPと人事は、どのように異なるのでしょうか。従来の人事のやり方とHRBPのやり方の違いは、どの点にあるのかを考えてみましょう。
かつて、事業部の人事を行う担当者は、本社人事からの指示をもとに意思決定をするケースが多く見られました。あくまで受け身で、降りてきた内容に従って手を動かしていました。
一般的な人事部門は、過去に戦略性やビジネス課題を無視して業務を遂行していたわけではありません。しかし、今は人事部門が全体で行えることがある一方で、戦略的かつ部分的な最適な投資が必要であり、これによって問題を迅速に解決できる必要があるという状況です。
現代では、中央管理による全体最適を維持しつつ、事業部や現場の課題に対して、戦略的で短期的な解決に焦点を当てる必要があります。HRBPは、事業部の専門的な人事とは異なった役割であり、現場の重要な課題に関連する人材の採用、育成、配置、制度などの側面について、一定の知識や要件整理が求められます。
HRBPに必要なスキル
ここまで、HRBPの必要性や注目される背景について解説してきました。ここからは、HRBPにおける詳しいスキルについて見ていきましょう。どのようなポイントをおさえることでHRBPは実現するのでしょうか。
経営者視点での事業に対する深い理解
HRBPの目的は、さまざまな経営課題を解決し、描いた通りの経営戦略を実現することです。事業責任者と意見を擦り合わせ、効果的な運用を目指しましょう。そのためには、人事にも事業部にも、経営者としての視点で物事を決定できる能力が問われます。
自社の戦略や強みを理解しているのはもちろん、競合他社の状況や、市場全体の状況を明確に把握していることが不可欠です。自社が近い将来どのような状況におかれるのか、具体的なビジョンを描く能力がHRBPに役立ちます。
経営レベルでのPL(損益計算書)の理解
HRBPは、事業部の戦略を支える役割を果たすため、事業のPLを理解する能力が不可欠です。利益を最大化するために、適切な人件費を見極める判断が求められます。また、PLのデータを分析し、報告するスキルも重要です。
そのため、数値分析力を活かし、従業員の離職率や女性管理職比率など、人事施策に関わるさまざまな指標を数値化して分析する力が求められます。さらに、HRBPは事業を運営する現場のメンバーとの連携が重要です。一方的に話すのではなく、人事の立場から現場の状況や課題を適切に把握する必要があります。
従来のように問題が曖昧で数値化されない状況や費用対効果が不明確な状況は、これからは減少していくでしょう。タレントマネジメントや組織内データを分析する能力、仮説を立てる力が必要となります。
課題解決能力
ビジネスをとりまく環境は大きく変化しています。その中で、適切に課題を捉え解決していく能力が問われます。まずは目の前の課題を掘り下げて、本質的な課題に落とし込んでいくことが大切です。そして従来の解決方法に捉われずに課題に対する解決案を立案し、取り組みを推進していくスキルが重要です。
たとえば、ある事業部長が「離職する若手が増えているので、何とかしてくれ」と述べたとしましょう。しかし、単に管理職に対する意識改革の研修ベンダーを探すだけではこの問題は解決しません。
まず、「離職の原因は管理職のスキル不足なのか」「管理職の業務負担が高くて若手とのコミュニケーションが不足しているのか」「事業部長の発言からは、管理職のリーダーシップに問題があるのか」「給与面での課題はどうなのか」など、さまざまな側面から事象の要因を調査し分析する必要があります。そのためには専門的な知識が必要です。人事の仕事は機械とは異なり、後戻りができないことを考えると、施策を実行する前に問題を深く考える必要があります。
事業部長自体が問題の原因である可能性も考慮し、適切な対策を講じる必要があるでしょう。教育プログラムの導入や配置転換などの施策が必要かもしれませんが、それを実行するためには経営層の協力と権限も重要です。
コミュニケーションスキル
HRBPが機能するには、従業員一人ひとりのモチベーションが高く保たれていることが不可欠です。モチベーションをキープさせるために、事業部は従業員一人ひとりのリアルな本音を引き出しながら、寄り添っていきましょう。そして、経営者や人事担当者にも適宜共有するようにしましょう。高頻度のコミュニケーションを続けていれば、従業員からの信頼も強固になっていきます。組織風土面でHRBP成功のための土台をつくることができるのです。
人事という仕事は、人や組織という抽象的な要素を、論理的に整理し、周囲に理解させる能力が重要です。経営陣や現場の人々も、人と組織に関する事柄は曖昧であるため、さまざまな解釈が存在します。そのため、しっかりとした論理的整理とともに、コミュニケーションスキル、とくに説得力のある能力が求められます。さらに、現場の本音や実情を明らかにするためには、相手との信頼関係を築き、真摯で丁寧かつ粘り強いコミュニケーションが欠かせません。
現場と経営からの強い信頼
まず、現場からの信頼を得るためには、現場のニーズや課題を理解し、解決策を提案することが重要です。現場の声を受け止め、従業員の意見や要望を反映させることで、現場との連携を図ることができます。また、現場の実情に即した人材採用や配置の判断も重要です。現場の要望に応えることで、従業員は人事部を信頼し、協力的な姿勢で取り組んでくれるでしょう。
一方、経営側からの信頼を得るためには、経営目標の達成に向けた戦略的な人材計画を立案し、実行することが必要です。経営者はHRBPを信頼し、組織の成長や競争力の向上に貢献する人材を確保するよう期待しています。そのため、人事部は経営の視点を持ちながら、採用や評価制度の改善などを行うことが求められます。経営者からの期待に応えることで、人事部は経営陣からの信頼を獲得することができるでしょう。
HRBP体制の導入ステップ
HRBPを導入する際におさえておきたいポイントを紹介します。実際に取り入れる段階に入ったら、一つひとつのステップを丁寧に踏んでいきましょう。
ステップ1:人事戦略の検討と導入目的の明確化
HRBPの導入を決める前に、まずは人事戦略を広く検討し、本当にHRBPが自社の戦略として最適であるのかを考えることが大切です。長い目で見た事業戦略を考慮したうえで、どのように組織をつくっていけばよいか、理想のかたちを描いていきましょう。そして、HRBPの導入を決める際には、どのような目的で取り入れるのかを明確化することが大切です。
既存の人事で事足りるならば、新たなアプローチは不要です。HRBPも人事の側面においては、採用から退職までの基本的な原則は共通です。組織内の異なる部門や事業において、人材の面で全体最適が実現できない場合は、競争力が低下し、スピード感を持って対応することが難しくなる可能性があります。
既存の人事が戦略的な役割を果たすために、必要な権限を付与し、成果責任を負うことができれば、組織を複雑化させる必要はありません。ただし、管理コストが増える可能性があります。あるいは、HRBPのような機能を人事部に統合することから始めることも考えられます。
ステップ2:戦略を実行するための体制の検討
実行にあたって、どの部署がHRBPの設置対象になるのか、人事部の組織体制は今のままでいいのかなど、体制面について深く考えていきます。検討内容を踏まえ、必要があれば組織に手を入れていきます。業務分担に関して、HRBPとは自社において具体的に何を担当するのかを考えることが必要です。現在は採用や人材獲得が主な目的になる場合が多くあります。
また、人事部門はこれまでに主にルーティン業務に注力してきました。しかし今後はHRBPの時代に入ったことで、単純な戦略性を追求するだけの考え方は避けるべきです。問題は組織の構造にあります。重要なのは、社員の自律を促すことで、そのためには権限を持たせることと柔軟性を確保することです。
ステップ3:トライアルの実施
運用を始める際は、まず小さなところでトライアルを行うのがおすすめです。はじめに事業部の中にある小規模な課題に目を向けて着手していきましょう。人事と事業部でやりとりを重ねるうちに、互いについてよく知り、情報共有がスムーズになるでしょう。信頼関係も醸成されるはずです。このように徐々に慣らしながら、取り組む課題の規模を少しずつ拡大していきましょう。
ステップ4:評価指標(KPI)の設定と運用改善
トライアルの結果を正しく評価し、全社展開へと進めるためには、客観的なKPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせません。HRBPの活動成果は定量化しにくい部分もありますが、以下のような指標を用いることが効果的です。
評価カテゴリー 具体的なKPIの例 期待される効果
エンゲージメント 従業員エンゲージメントスコアの改善率、社内アンケートの満足度向上 組織風土の健全化と離職防止
タレントマネジメント 社内公募制度の活用率、適性検査と配置先のマッチング度(適材適所率) 優秀な人材の定着とパフォーマンス最大化
マネジメント支援 月間の1on1実施率、マネージャー向け研修の受講率と実践度 現場リーダーの育成と組織力の底上げ
日本企業のHRBP導入事例
ここまでHRBPの概念や導入ステップを解説してきましたが、実際のビジネスの現場ではどのように機能しているのでしょうか。日本国内の大企業における具体的な導入事例を紹介します。
企業名 HRBPの独自施策・特徴 主な成果と目的
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA) 「HRBPスクラム」の導入:ソフトウェア開発の手法であるスクラムを人事に応用。毎日30分のミーティングや隔週の定例会を通じ、HRBP同士で密に業務や考えを共有。 現場課題へのアクションスピードの最大化と、HRBP個人の孤立化防止。
LINE株式会社 戦略的ターゲットへのテスト導入:設立当初の限られたリソースを、ボリュームゾーンである「エンジニア組織」や成長事業である「Eコマース領域」に集中投下。 現場に伴走しながら「人・組織の戦略的パートナー」としての信頼を獲得し、全社展開への足掛かりを構築。
株式会社カインズ 「DIY HR」の推進:従来の人事部から「人事戦略本部」を独立。HRBPを各事業本部に配置し、変革に対する現場の不安に寄り添う「メンバーの伴走者」として機能させる。 上意下達の文化からの脱却と、変化を恐れない自律的な組織風土の醸成。
これらの事例からわかるように、成功している企業はHRBPを単なる人事の出先機関としてではなく、事業戦略の中核を担う組織開発のプロフェッショナルとして活用しています。特にDeNAのように、HRBP同士が連携してナレッジを共有する仕組みを作ることは、属人化を防ぐ上で非常に有効なアプローチです。
HRPBの研修やオンボーディングは欧米から学ぶものではない
HRBPは、高い成果を素早く出すために、人材を効果的に配置し育成していくものです。そのため社員は、個々でスキルや能力を磨いていく必要があります。自分で自発的に学習して、市場価値を高め、それを会社に積極的に還元する気概が必要です。
日本において、多くの人はまだスキルアップの途中段階といえるでしょう。リスキリングを行い、高い意識をもって成長しなくてはなりません。だからこそ、HRBPの研修やオンボーディングは欧米から学ぶものではないと言えます。完全に欧米を踏襲するのでは足りません。本社や人事部が先導して教育を行うのが大切なのはもちろんのことですが、事業部側でも研修などで学びを支援して、活躍しやすい環境を整えることが必要です。
ここで重要な役割を果たすのが、企業内研修を担当する研修企画担当者です。HRBPが機能するためには、現場のマネージャー層に対しても「人事評価の正しい理解」や「コーチングスキル」といったマネジメント研修を提供し、HRBPの取り組みを受け入れる土壌を育成することが不可欠です。
日本のHRBPの問題点
日本においてHRBPを導入する際には、課題があります。昨今のDXによって明るみに出たことですが、IT分野で高い専門性を持っている人はビジネスにおける専門性が不足している傾向にあります。また、逆も然りで、ビジネスのエキスパートはITの専門スキルを十分には持っていません。だからこそ両者が互いを学んで知識をつけていくことが理想とされます。このように専門領域が違う場合は、学びによって専門領域を広げる努力が不可欠です。
これは人事とビジネスの関係においても言えることで、人事の専門家はビジネスがよくわからず、ビジネスの専門家は人事について詳しく知らないという事態が多くの会社で発生しています。両者の知識・スキル面での歩み寄りがなければ、日本企業においてHRBPを導入するまでに時間がかかることが想定されます。日本のHRBPの問題点として、この分断が大きく立ちはだかっています。学びの機会を積極的に設けながら、HRBPを導入するための土壌をつくっていくことが、企業に求められています。
HRBPにおいて、ビジネスと人事を結びつける能力が重要ですが、この両方を理解できる人材はあまり多くありません。ビジネスとITの両方に精通した人材が稀であるように、ビジネスと人事の双方に通じた人材も希少です。
言い換えれば、HRBPを現場の人に担当させるか、あるいは人事の経験を持つ人に現場を担当させるか、という選択になります。ただし、ベンダーマネジメントのようなアプローチは避けた方が無難です。DXと同様に、多額の投資が行われても成果が得られず、結局は管理コストが上昇するだけという結果になる可能性があります。
まとめ
人事部門が営業部門などの事業部門と連携し、部門から人や組織に関する要望を受けながら人事を行う機能がHRBPです。テクノロジーの進歩や雇用制度の変化などを経て、日本企業でもHRBPに注目が集まっています。
HRBPは、労働者の多様化問題をはじめとする変化の激しいこの時代を生き残るために効果的な手段になります。実際に運用する際は、長い目で見た事業戦略を考慮したうえで、どのように組織をつくっていくのか、理想を描いてから導入を進めましょう。
HRBPについてよくある質問
最後に、HRBPの導入や運用に関するよくある疑問をまとめました。
HRBPとCHRO(最高人事責任者)の違い
CHRO(Chief Human Resource Officer)は、経営陣の一員として企業全体の中長期的な人事戦略や組織方針を策定し、人事領域に関する最終的な経営責任を負うポジションです。一方、HRBPはCHROが策定した方針を深く理解した上で、それを担当する特定の事業部門に落とし込み、現場特有の課題解決を直接的に支援する役割を担います。CHROが「全体戦略の司令塔」であれば、HRBPは「現場の戦略実行パートナー」と言えます。
HRBP社内育成で選ぶべき人材像
ビジネスと人事の双方の理解が必要なため、「事業部門で優れた実績を上げ、ビジネス構造を熟知しているマネージャー層」を人事部に異動させ、人事制度や労務知識をリスキリング(再教育)するアプローチが効果的です。または、コミュニケーション能力と論理的思考力が高い人事担当者を事業部門のプロジェクトに参加させ、現場感を養わせる方法も推奨されます。
HRBPが「御用聞き」になるのを防ぐポイント
導入時に経営陣から「HRBPは戦略的パートナーである」という明確なメッセージを発信し、役割を厳格に定義することが重要です。また、給与計算や採用の面接日程調整といった定型業務(オペレーション)は、HR Ops(シェアードサービス)へ完全に切り離し、HRBPが戦略的業務に専念できる仕組み(スリー・ピラー・モデル)をあわせて構築することが不可欠です。



