人材育成

人材育成の手法一覧と成功の秘訣!階層別の選び方

最終更新日:2026.06.15

#コミュニケーション#組織開発

企業にとって常に課題であり、経営と同じくらい重要になるのが人材育成です。社員の役職や状況によって必要な能力・スキルは変化しますし、とくに昨今では社会の変化が急速で、すべてのビジネスパーソンに学び続けることが求められています。
本記事では、大企業の人事部門長や企業内研修を担当する研修企画担当者に向けて、現代の人材育成に必要な考え方から、効果的な12種類の代表的手法、階層別・目的別の選び方までを網羅的に解説します。競合他社の事例や最新の人的資本経営のガイドライン、弊社独自の実態調査を踏まえ、自社に最適な育成施策を設計するためのヒントを提供します。

人材育成とは

人材育成とは、企業が業績を上げながら成長・発展し、経営目標を達成するために必要な人材を育てることを指します。人材育成で社員が獲得する能力・スキルは多岐にわたり、実務スキル・資格・マネジメントスキル・メンタルスキルなどがあります。

また、人材育成の対象は階層で分かれており、新入社員・若手社員・中堅社員・管理職といった、役職やポジションによって育成の目的が変わることも特徴です。

新入社員であればビジネスパーソンとしての基礎や常識の習得、中堅社員になると専門性のあるスキルや応用的な実務、経営視点など抽象度の高い能力の習得といった目的になるでしょう。大企業においては部門ごとの役割が細分化されているため、全社共通の育成と部門特有の育成を適切に切り分けることが求められます。

人材育成と人材開発の違い

従来の日本のビジネス環境にあった就社という慣行は、ビジネス経験が全くない大学卒業生を採用し、その退職までの期間においてサポートを提供するものでした。日本企業の人事戦略には、「経験のない真っ白な人財」に対して、0からの「人材育成」という柱があり、その中で新人から上級幹部までを対象とした集合研修や定期的なジョブローテーションという形で、特定の職業能力を高めていくシステムが構築されました。また、採用から定年退職までの一貫した雇用形態により、社員のキャリアアップや多岐にわたるスキルの育成を推進していました。

しかしながら、ここ20年ほどで「人材開発」というコンセプトに注目が集まっています。日本企業は多角化・国際化し、それに伴い産業構造も高度化したことにより、部門や業務によって必要とされる能力やスキルが多様化してきています。そのため、共通するスキルや能力だけではなく、専門性の高いスキルも要求されるようになりました。

特に従業員数1,000名を超えるような大企業では、グローバル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の波を受け、既存のビジネスモデル自体が変革期を迎えています。そのため、一律の「育成」から、個々の社員が持つポテンシャルを最大限に引き出し、新しい価値を創造できる「開発」へとシフトすることが急務となっているのです。

代表的な人材育成手法12種類の一覧

現代の人材開発を進めるにあたって、どのような手法を取り入れるべきか悩む人事担当者は少なくありません。人材育成の手法は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下の12種類が挙げられます。

– OJT(On the Job Training)
– OFF-JT(Off the Job Training)
– eラーニング
– ジョブローテーション
– 自己啓発支援(SD)
– 目標管理制度(MBO)
– 1on1ミーティング
– コーチング
– ストレッチアサインメント
– メンター制度
– モデリング
– リフレクション

これらは単独で機能させるものではなく、企業の現状や課題、さらには社員の階層に応じて複数を組み合わせて運用することで、初めて高い効果を発揮します。

各手法のメリット・デメリット一覧

人材育成の手法を選択する際は、それぞれの強みと弱みを正確に把握しておくことが重要です。代表的な手法のメリットとデメリットをまとめました。

 

手法名 概要 メリット デメリット
OJT 現場の通常業務を通じて、育成担当者が手本を見せながら指導する手法。 実務に直結するスキルを効率よく習得でき、上司と部下の信頼関係構築に繋がる。 育成担当者の業務負担が大きく、指導スキルによって成果にばらつきが出やすい。
OFF-JT 現場を離れ、研修やセミナーなど体系的な学習を行う手法。 学びに集中でき、専門的かつ体系的な知識をインプットできる。自社を客観視しやすい。 外部講師や会場費などのコストがかかり、現場での実践に繋がりにくいリスクがある。
eラーニング パソコンやスマホなどオンライン学習ツールを活用する手法。 いつでもどこでも学習可能で、教育の質を全社で均一化できる。 独自の教材制作にはコストがかかり、実技や対人スキルの習得には不向き。
ジョブローテーション 計画的な異動や配置転換を通じ、多角的な経験を積ませる手法。 社員の適性を見極めやすく、部門間の連携強化や離職防止に繋がる。 短期的には業務効率が低下し、高度なスペシャリストの育成には向かない。
自己啓発支援(SD) 社員の自発的な学習に対し、企業が費用や時間面でサポートする手法。 社員の学習意欲が高く、実務への支障が少ない。定着率の向上にも寄与する。 成果が本人の意欲に強く依存し、業務に直接役立たない分野を学ぶケースもある。
MBO(目標管理) 社員が個別目標を設定し、上司と達成を目指す仕組み。 達成意欲や自己効力感が高まり、評価基準としても機能するため計画的育成が可能。 定型業務の多い部署では目標設定が困難であり、評価基準の統一が難しい。
1on1ミーティング 上司と部下が週1〜月1などの短い間隔で定期的に行う個別面談。 コミュニケーションが円滑になり、心理的安全性が高まることで部下が相談しやすくなる。 目的が曖昧だと単なる雑談になりやすく、上司の聴くスキルと時間確保の負担が大きい。

 

さらに、大企業において近年重要視されているのが「コーチング」や「ストレッチアサインメント」といった手法です。指示待ち人間ではなく、自ら考えて行動できる自律型人材を育成するためには、ティーチング(教える)からコーチング(引き出す)への移行が不可欠と言えます。

階層別育成における各手法の活用ポイント

人材育成は、対象となる社員の階層によって抱える課題が異なります。そのため、階層別に最適な手法を組み合わせることが成功の秘訣です。

新入社員・若手社員層

新入社員や若手社員の主な課題は、社会人としての基礎力の定着と、企業文化への早期適応、そして離職の防止です。

推奨される手法:OJT、メンター制度、eラーニング

ポイントとしては、実務の基本を体得させる「OJT」を中心に据えつつ、精神的なフォローを行う「メンター制度」を組み合わせることで、心理的安全性を高めます。基礎知識のインプットには「eラーニング」を活用し、指導者の負担を軽減するのが効果的です。

中堅社員・リーダー層

業務に習熟し、後輩の指導やチームの牽引が求められる層です。ここでの課題は、自律的な問題解決力の向上と、次世代リーダーとしての視座の獲得です。

推奨される手法:コーチング、ストレッチアサインメント、アクションラーニング

ポイントとしては、上司からの細かい指示を減らし、「コーチング」によって自ら答えを導き出す訓練を行います。また、現在の能力より少し難易度の高い「ストレッチアサインメント」を与えることで、大きな成長機会を創出します。

管理職層

部門の業績責任を負いながら、部下の育成や経営戦略の推進を担う層です。

推奨される手法:1on1ミーティング(実施者としての訓練)、OFF-JT(高度な外部研修)、ジョブローテーション

ポイントとしては、管理職自身が部下を適切に育成できるよう、1on1ミーティングやコーチングのスキルを磨く研修が必要です。また、全社的な視野を持たせるために、あえて他部門の管掌を経験させるジョブローテーションも有効です。

目的別の人材育成手法の選び方

「誰を育てるか」という階層だけでなく、「何を達成したいか」という目的から逆算して育成手法を選ぶ視点も、企業内研修の企画担当者にとっては重要です。

知識やスキルのインプットを効率化したい場合:現場の時間を奪わない「eラーニング」や、隙間時間で反復学習ができる「マイクロラーニング」が適しています。
キャリア自律を促したい場合:社員自らがキャリアを描き、必要なスキルを学ぶ「自己啓発支援(SD)」や「リフレクション(内省)」を取り入れます。
組織の風土改革やナレッジ共有を進めたい場合:個人に閉じた学びを開放する「ソーシャルラーニング」や、部門を超えた対話を生む「メンター制度」が有効です。

このように、大企業が抱える複雑な課題に対しては、一つの手法に固執せず、複数の手法をブレンドして最適なプログラムをデザインすることが求められます。

人材育成で直面する3つのジレンマ

企業としても社員としても、人材育成は正確に効率的に行いたいものですが、実際にはビジネス現場の状況や社員の意識の違いなどにより、人材育成が上手く機能しないジレンマが起こる場合もあります。

ここでは、大企業において特に直面しやすい、人材育成にかかるコストの問題・社員の内面の問題・チームや組織の課題の3つのジレンマについて解説します。

投資対効果の考え方

人材育成は、企業が業績向上と経営目標達成のために社員のスキル向上を促す施策です。しかし、現代の急速な変化や終身雇用の崩壊により、将来の予測が困難になりました。そのため、人材育成にどれだけの投資をするべきかが不透明なのです。

このような状況から、HRBP(Human Resource Business Partner)などの、企業内で対応しきれない人材育成を代替してくれる外注先の台頭は必然と言えます。

現代の産業構造では、能力やスキルを持つ人の価値が重視され、費用対効果の高い人材育成が求められています。しかし、社員の評価の可視化や成長と企業の相関には課題があり、経営者は現代に適した人材育成に対して十分な指針を持っていない側面もあります。人的資本開示という株主要求に対して、投資対効果は求められることになるでしょう。

特に従業員数1,000名を超える大企業では、年間で投下される研修予算も膨大です。そのため、実施した研修が実際の業績や離職率低下にどう寄与したのかというデータを、タレントマネジメントシステム等を用いて可視化することが不可欠になっています。

スキルとモラルの課題への対処

社員が高度な能力・スキルを有することは重要ですが、素晴らしいパフォーマンスを発揮するためには、彼らの考え方や価値観、または動機を適切に持っているかどうかが問題になります。モチベーションが欠けると、優れた能力・スキルを持っていても十分に活かされません。

また、企業との価値観が一致しない場合、社員は行動を促進されず、問題解決に役立つ能力・スキルも十分に発揮されません。そのため、人材育成では、実務に必要な能力・スキルを学ぶだけでなく、動機や価値観を内面化させる学習も同時に行うことが必要となります。

とくに、デジタル機器やツールの場合、使い方や手順の学習に重点が置かれ、社員のモチベーションが犠牲になることがあります。組織内に動機を内在化させる仕組みがない場合、能力・スキルのみを教育することで人材育成やリスキリングを行っても、学習効果は著しく低下します。したがって、人材育成においては、社員の能力・スキルと動機や価値観の学習に同様の注意を払うことが不可欠であり、課題となっています。

この課題に対処するためには、企業理念やパーパス(存在意義)を深く理解させるためのワークショップを行ったり、個人のビジョンと会社のビジョンがどうリンクするのかを上司との1on1ミーティングで対話したりするプロセスが求められます。

人材開発と組織開発の関係

一部の社員が人材育成によって能力・スキルを高めたとしても、チームや部署の中で部下に指示を出す上司の能力が低ければ、部下の能力は宝の持ち腐れとなり上手く機能しないケースがあります。

上司の能力が低い場合、人材育成で能力・スキルを伸ばした部下と、その他の部下との能力差を適切に理解できず、適材適所に業務を割り振るといった采配に失敗することもあるでしょう。その結果、せっかく獲得した部下の能力・スキルを活かせず、チームや部署として良いパフォーマンスが発揮できない可能性があります。一部の社員だけが能力・スキルを向上させたとしても、必ずしもチームや部署全体の生産性や効率の底上げに繋がらないことも、人材育成のジレンマの一つです。

優れた人材が活躍するためには、組織が彼らの成長をサポートする環境を提供することが必要です。そのためには、組織が育成と成長を奨励し、新しいアイデアや取り組みに対してオープンで柔軟な姿勢を持っていなければなりません。また、上司や同僚とのコミュニケーションや協力関係も不可欠です。優れた人材は、周囲との相互作用を通じて成長し、その力を最大限に発揮することができます。

人材育成とHRBPの役割

かつて企業は人材育成という名目で新入社員を育て上げて、一定のマニュアルや行動規範に基づいた業務を担当させることで業績を支えてきました。しかし、バブル崩壊や産業の変化により、業務内容は単純な作業だけではなくなりました。現代においては、顧客や環境の要求に応えるために、現場で思考しコミュニケーションを取りながら現場判断を行う必要があります。

業務は流動的であり、そのためには思考力やコミュニケーション力など、個人がもともと持っている能力を活用しなければなりません。このような状況で、従来の人材育成や開発だけでは、対応できなくなってきました。

そのため、中途採用やフリーランスなどの外部からの人材を迎え入れ、彼らがすぐに成果を出せるようなオンボーディングプロセスや開発方法が求められています。このような課題に対応するために、HRBP(Human Resources Business Partner)と呼ばれる専門家が登場しました。

HRBPは、人材開発だけではなく、戦略的な人材獲得や組織の成果に直結するような取り組みを行います。中途採用やフリーランスの適切な選定やオンボーディングプロセスの改善を通じて、迅速かつ効果的に成果を出す人材を確保する役割を果たしているのです。大企業においては、人事部門の機能をオペレーションから戦略へとシフトさせる上で、HRBPの配置が鍵を握っています。

人材育成で大切なこと

大前提として人材育成に大切なのは、「なぜやるのか」の目的を明確にすることです。伝統や形式といった形骸化した人材育成ではなく、企業に求められている経営や事業から導き出した、社員に本当に必要な能力・スキルの教育を行っていくことが重要です。

人材育成を良い学習にするには、「なぜやるのか」の目的を明確にし、学習方法や学習コンテンツの質を担保しなければなりません。また、その前段階として、人材育成の担当者が社員にコミットしているかが重要になります。

ここでは上記の前提を押さえながら、個別の人材育成において大切なことについて解説します。

自主性・自発性の向上

人材育成においてまず大切になるのが、育成対象の社員の自主性・自発性を向上させることです。言い換えると「成長への意欲」とも表現でき、能力・スキルの獲得は本人の成長したい意欲によって初めて可能となるため、周囲が後押ししても本人に成長する意思がなければ成立しません。

社員の自主性・自発性を向上させるには、大きく分けて2つの方法があります。それは、「仕事に裁量権を与える」ことと「面談をする」ことです。

「仕事に裁量権を与える」は、普段の業務の中で部下に裁量権を与え、失敗や責任を上司が引き受けるという形を取ることです。任せてみることで責任感が生まれますし、裁量権によって自分から仕事を動かしている感覚を掴むこともできます。裁量によって能動的に仕事と向き合うようになると、曖昧だった仕事の意味を見いだし、やりがいを感じられるようになるため、成長への意欲も湧いてくるでしょう。

「面談をする」は、上司が部下とコミュニケーションを取り、頼れる後ろ盾がいることを認識してもらい、部下が安心して業務に集中できる状態を作ります。その際、部下に対して仕事ぶりだけを評価・指摘するのではなく、業務やプライベートを問わず、抱えている悩みを聞いたり、仕事上必要なフィードバック(課題の共有から解決案の提示)を行ったりするなど、部下に寄り添ったコミュニケーションを行うことが大切です。

部下との信頼関係も深まるため、部下の仕事に向かう姿勢が変わり、成長意欲の促進にもつながるでしょう。自主性・自発性を向上させるためには、普段の業務の中で社員がどのように業務と向き合い、上司とコミュニケーションを取っているかが重要になってきます。

ゴールの設定

目標の設定の大前提として、人的資源が開示され、脱工業化した社会においては、物ではなく人材が事業のコア部分になっていることを押さえておく必要があります。

産業構造において情報・知識・サービスがビジネスの主軸になった現代では、変化の速度が工業化時代とは比べ物にならないほど増しています。そのため、現場主導で人材育成を行い、個別最適の育成ではなく、無駄やコストを最小にする全体最適の育成を目指す必要があります。

その際に課題となるのが、社員に複雑で専門性の高い能力・スキルを学習してもらうことです。事業全体や現場における必要人材の要件を選定し、社内外から必要な情報を集め、それらを人材育成の中で社員に学習してもらうことにより、人材育成の問題が解決します。これらは大変な作業ではありますが、企業にとって多くの利益につながり、費用対効果の高い人材育成の結果を実現することができます。

モチベーションの維持

モチベーションは人材育成において重要であり、「内的モチベーション」「外的モチベーション」の2つに分けられます。

「内的モチベーション」は、好奇心や関心といった、自身の内側に湧いてくる欲求をベースにした動機を指します。仕事や趣味など、興味の対象から発生する達成感や、やりがいといった感覚が「内的モチベーション」に該当します。

一方、「外的モチベーション」は、外部から与えられる報酬・賞賛・賞罰・強制といったものを動機にし、行動を起こす状態のことを指します。ことビジネスにおける「外的モチベーション」は、上司が部下に指示する場合や、やや難易度の高い業務に挑戦し、成長して欲しい場合などに用いられることがあります。

「外的モチベーション」は、瞬間的な意欲の高まりはあるものの、一時的な効果しか得られないと言われており、時間をかけた業務や人材育成においては有用ではない場合があります。

人材育成の場面においては、社員の「内発的モチベーション」を高めることで成長活動を促進し、実践の中で小さな結果を出すことで「外的モチベーション」につなぐことが重要です。

人材能力を発揮できる実践の場

効果的な人材育成を行うためには、人材育成担当者の育成スキルを向上させることも大切です。育成を受けている社員が目標を達成できるように、適切なロードマップを描く「目標管理能力」や、社員が現状の課題や悩みを解決するための助言に必要なティーチングやコーチングなどを含めた「コミュニケーションスキル」が必要です。

さらに社員の正確な現状(将来的に足りていないスキル・現状の業務に必要なスキル)を把握するために必要な「ロジカルシンキング」も、人材育成を行うためには重要になります。

また、社員には人材育成の研修や学習コンテンツで学んだ内容を活用できる実践の場が必要です。たとえば、語学学習で言うと、座学で学ぶだけでなく、学んだことを用いてネイティブな外国語で話す現地人と会話することにより、自身の語学が本当の意味で使える能力なのかを判断することができます。

自身の話がネイティブな言語を話す外国人に通じた場合に、初めて自分の語学力に確信を持つことができ、学んだ語彙を発揮して積極的にコミュニケーションを取ることができます。人材育成でも、学習した内容を、実践を通して使うことでリアルな手応えを感じることが可能です。また、実務の場で試行錯誤を繰り返すことにより、より高いスキルを持った社員に成長することができます。

内外のリソースの活用

人材育成を安定して行っていくためには、人材育成に関連する企業内の制度を整備することが必要です。現実問題として、人材育成に関係する制度を充実させている企業は多くありません。制度を整備し、準備不足で人材育成が行えない状態を回避することが、人材育成のスタートになります。

人材育成を安定して行うために必要な制度は、以下のものがあります。

– メンター制度
– コーチング制度
– MBO(目標管理制度)
– 1on1ミーティング制度
– ジョブローテーション制度

各制度を簡単に説明すると以下のようになります。

メンター制度は、新卒社員の研修などで運用される制度です。メンターと呼ばれる専任の師匠が新卒社員を担当し、新入社員が働きやすいように配慮しながら、疑問や課題について相談・助言できる状態を作ります。

コーチング制度は、社員との対話を行いながら人材育成を行う手法です。専任のコーチが社員との対話で本音を聞きだし、課題・問題を乗り越えながら、自ら行動していく人材に成長させます。

MBO(目標管理制度)は、企業の業績目標を目指し、個々の社員に目標を設定する制度です。主に、成果主義型の経営を行いたい企業に向いている制度です。

1on1ミーティング制度は、上司と部下が1対1で面談を行い、業務への評価について話し合いの場を設ける制度です。上司と部下の間の評価に対する認識のズレや、業務における意見の相違などを解消することができます。

ジョブローテーション制度は、一定の期間で人事異動を行い、社員に様々な部署や業務を担当させることで行う人材育成制度です。社員が複数のスキルを身に着けることができ、部署や業務間の関連性の視点を得ることもできます。

上記の制度を社内で整備することが難しい場合は、外部に委託するという方法もあります。

インターナルコミュニケーションの課題と対策

ここまで人材育成における様々な手法や制度の重要性を解説してきましたが、これらを現場で実際に機能させるためには、大前提として組織内の「インターナルコミュニケーション(社内コミュニケーション)」が健全に回っている必要があります。

弊社ソフィアの調査では、従業員数1,000人以上の大企業におけるインターナルコミュニケーションの実態において、2024年から2025年にかけて非常に興味深い、そして深刻な課題が浮き彫りになっています。

弊社ソフィアの2024年の調査では、社内コミュニケーションの「今」を徹底解剖するというテーマで、情報発信や媒体の活用状況を探りました。そして続く2025年の調査では、働き方の多様化がもたらした弊害が明確に指摘されています。

具体的には、リモートワークの普及などにより、従来の「対面を前提とした情報共有や意思疎通の手法」が見直しを迫られています。大企業特有の「組織の多層化」や「部門間の分断(サイロ化)」といった従来からの課題に加え、新たに「ナレッジの分散・活用不足」や「コミュニケーション機会の変質」という問題が顕在化しているのです。

このナレッジの分散は、人材育成において致命的です。現場で培われた優れたノウハウが共有されなければ、経験の浅い社員の成長スピードは著しく鈍化します。

また、弊社ソフィアの調査では、対策として「1on1ミーティング」や「エンゲージメントサーベイ」といった取り組みの導入自体は進んでいるものの、その運用や活用のあり方に企業や部門間で大きな「ばらつき」が見られることが分かっています。

制度という「箱」だけを用意しても、それを運用するマネージャーのコミュニケーションスキルや、社内イベント・雑談といった「非公式なコミュニケーション」を通じた関係性構築が伴わなければ、人材育成は形骸化してしまいます。大企業の人事部門長は、単に研修プログラムを提供するだけでなく、組織全体のコミュニケーション・インフラを再設計する視点を持つことが強く求められています。

実務課題を活用した人材育成手法のポイント

より効果のある人材育成を行うためには、現実に則したリアルな課題や問題を設定し、それらを解決するアクションプランを人材育成に落とし込む必要があります。ここでは、リアルな課題を人材育成に落とし込む方法を解説します。

現場課題の言語化・可視化

人材育成は人材育成方針や人材育成戦略と名付けられているように、長期スパンで設計するのが定石です。しかし、現代のビジネス業界の状況を考えると、長期的な人材育成はビジネスの現場に則さなくなっているため、不可能になりつつあります。

理由としては、現代のビジネスはグローバル化、デジタル化、多様性(雇用の柔軟性)、サスティナブルと、さまざまな要素が組み合わさって業態が複雑化しており、さらに変化の速さも相まって、長期的な人材育成はビジネスの現場に則さなくなっているためです。

実際、現在のビジネスの現場の多くは自律分散型組織で、意思決定や責任は現場に移っています。業務においても企業・地域・業界を超えた連携が増えています。そのため、事業や職場に必要な人材を言語化することにより個別にあぶり出し、必要な能力・スキルを可視化して適切な人材育成を行っていく必要があります。

学習のデザインから経験のデザインへ

人材育成をする際に有効なのは、学習をデザインするのではなく、社員の経験に重きを置いた学習内容をデザインするということです。

経験に重きを置いた学習の例には経験学習がありますが、経験学習は実務を通し、様々な状況で応用の効く能力・スキルを獲得する学習方法で、人材育成で重要な要素が詰まっています。

経験学習を参考に人材育成のフローをデザインすると、

– 実際に業務の現場に立ちながら、課題設定をする
– 有識者に聞くなど、学習コンテンツからリソースを集める
– リソースを実装しながら振り返る

以上の手順でサイクルを回す方法が考えられます。人材育成は座学で学ぶものではなく、研修や学習コンテンツで学んだ内容を業務という実践を通して使用し、トライ&エラーを繰り返しながらより実践的な能力・スキルを磨いていくプロセスが肝になります。

人材育成から職場開発へ

人材育成のためには職場開発が重要であり、組織全体の活性化と社員同士の関係性改善を目指す組織開発が必要です。組織開発と人材開発は異なる概念ですが、相互関係によって組織はパフォーマンスを発揮します。

組織開発と人材開発を両方進めることで、個人の能力向上と組織内の関係性深化が実現します。人材育成には組織開発による円滑な職場環境が重要であり、人材の成長に必要な良好な人間関係を整えることが必要なのです。

人材育成における先進的アプローチ

ビジネス界隈で活用されている学習方法には、とくに人材育成に向いているものがあります。人を育てる人材育成においては、腰を据えてじっくりと学習していくことも大切ですが、できるだけ効率的に低コストで行いたいこともまた事実です。

ここでは、人材育成と相性の良い学習方法について、それぞれの方法の特徴とメリットをご紹介します。

プロジェクトベースドラーニング

人材育成では、経験にフォーカスした学習内容をデザインすることが重要だと前項で解説しましたが、とくに役立つ経験を前提にした学習方法が、プロジェクトベースドラーニング(Project Based Learning)です。

「課題解決型」という学習方法で、自発性・創造性・知識の応用力・コミュニケーションスキルといった、ビジネスで必要なスキルを広く身に付けることができます。米国のK-12教育支援非営利団体(NPO)「PBLWorks」では、「実社会の中で個人的に意味のあるプロジェクトに積極的に参加することで学ぶ教育方法」と定義されており、個人の意思(内的モチベーション)と実践を通した学習の2つに訴求した、まさに人材育成向きの学習方法になります。

マイクロラーニング

マイクロラーニングとは、数分〜10分程度の短時間で学習を行う学習方法です。ATD(Association for Talent Development)という人材開発組織の社長兼CEOトニー・ビンガム氏が紹介したことで知れ渡り、現在ではビジネスをはじめとした、様々な領域・業界で活用されている学習方法です。

学習の方法は多岐にわたり、数分の動画視聴による学習や、クイズ形式の勉強などさまざまです。学習者の時間を取らず、企業側の制作コストが低いため導入がしやすく、要点を押さえた学習や反復学習、マニュアルや社内ルールの共有など、汎用性の高さが利点になります。

1回の学習に時間がかからないため、通勤中や休憩中、プライベートのちょっとした時間に学習するなど、時と場所を選ばずすぐに学習できるのもマイクロラーニングの良さです。クイズ形式の学習ならばその場で理解度をテストでき、インプットとアウトプットを素早く回せるため、学習内容の定着という点でも優れた学習方法です。

タレントマネジメントシステムなど人材データの活用

人材育成において重要になる事項として、人材データの活用も挙げられます。その際、とくに役立つのがタレントマネジメントシステムです。

タレントマネジメントシステムとは、社員の性別・年齢・役職といった基本情報をはじめ、能力・保有スキルをデータ化し、一元管理しながら分析、戦略的に人材育成や人材配置に繋げられる仕組みです。

タレント(talent)には「才能のある人」「手腕」といった意味があり、 McKinseyのコンサルタントが人材戦略の重要性を説いた書籍においても、文脈上、有能なリーダー・マネージャーといった意味がある、と読み取れます。

人材育成の領域でタレントマネジメントシステムを活用すると、人材育成の成果について適切に知ることができます。主観や思い込みといったバイアスのかかった人の目を通した評価だけでなく、システム内にある社員の人材データからも評価をするため、より客観的で正確な育成結果を把握することができます。その結果、人材育成の方法の改善や追加学習についてなど、次につながる課題を見つけることもできます。

エンプロイージャーニーマップの作成

社員の入社から退職・OB・OGになるまでの道のりをマップに描き、社員の体験価値を向上させる手法にエンプロイージャーニーマップの作成があります。社員がエンプロイージャーニーマップを指針に退職までの計画を立て、より体験価値の高いキャリアを歩むことで満足度・幸福度・充実感を高めることができます。

エンプロイージャーニーマップは人材育成の場面でも重要になります。経験からエンゲージメントの向上や、人材の能力・スキルアップに繋げるためには、エンプロイージャーニーマップで社員目線の体験価値(価値のある経験)を可視化することが必要です。

人的資本経営と最新ガイドラインにおける人材育成

ここまで様々な手法や考え方を述べてきましたが、大企業の人事部門長が育成計画を策定する上で避けて通れないのが「人的資本経営」の視点です。

経済産業省が推進する「人的資本経営」とは、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。これに伴い、有価証券報告書等において人的資本に関する情報開示が義務化、あるいは強く推奨されるようになりました。

企業が開示すべき主要な項目として、経済産業省のガイドライン等では以下の分野が挙げられています。

育成・スキル:従業員一人あたりの教育・研修費用や時間、研修プログラムの種類と対象者、リーダーシップ開発の実施状況など。企業がどれだけ体系的かつ定量的に人材育成に投資しているかが問われます。
エンゲージメント:従業員の愛社精神や仕事に対するやりがい、職場環境への満足度。これを測るためのエンゲージメントサーベイの実施と、結果に基づく向上施策の開示が求められます。
ダイバーシティと流動性:従業員の多様性(男女の賃金格差、属性別の経営層比率、育児休業取得率など)や、採用人数、離職率といったデータを通じ、組織の健全性や公正な労働慣行が評価されます。

さらに、厚生労働省が実施している「能力開発基本調査」の最新の動向(令和6年度等)を見ても、企業が正社員に対してキャリアコンサルティングを行う仕組みを導入する割合が上昇するなど、国全体として社員の自律的なキャリア形成を支援する機運が高まっています。

大企業においては、単に「OJTを実施している」「eラーニングを導入した」という事実だけでなく、それが従業員のエンゲージメントをどう向上させ、最終的にどのような人的資本の価値向上(企業価値の向上)に繋がったのかという「エビデンス」を、タレントマネジメントシステム等を駆使して可視化し、ステークホルダーに説明する責任が伴うようになっているのです。

まとめ

ITテクノロジーの進化・普及により、急速な変化を続ける現代社会において、企業に必要な人材を育てることは簡単ではありません。とくにビジネス界隈の変化の速度は尋常ではなく、「半年前の技術が古い」と言われてしまうほど、新陳代謝が激しく行われています。

そのような現代社会の中での人材育成は、資格やツールといった、具体的な能力・スキルだけを社員に取得させればいいという訳ではありません。思考法・メンタリティ・コミュニケーションといった、現状がどのような変化を起こしても対応できる普遍的な能力・スキルが重要です。

その時代・状況においてベストな人材育成ができるよう、企業側の柔軟性と努力も必要だと言えるでしょう。最新の手法を柔軟に取り入れながら、組織開発と両輪で進めることで、持続的に成長できる強い組織が構築されるはずです。

人材育成で大切なことは?育成の際のジレンマや利用すべき手法についてよくある質問
  • 人材育成において大切なことは何ですか?
  • 目的の明確化

    なぜ育成するのか: 組織の目標達成、個人のキャリアアップ、スキルギャップの解消など、育成の目的を明確にすることが重要です。
    誰を育成するのか: 育成対象者を特定し、それぞれのレベルやニーズに合わせたプログラムを設計します。
    何を育成するのか: 育成したいスキルや知識を具体的に定義します。
    2. 育成内容の設計

    OJTとOFF-JTの組み合わせ: 実務を通して学ぶOJTと、研修やセミナーなど形式的なOFF-JTを組み合わせることで、効果的な学習を促します。
    多様な学習スタイルへの対応: 聴覚、視覚、触覚など、それぞれの学習スタイルに合わせた多様な学習方法を提供します。
    フィードバックの仕組み: 上司や同僚からのフィードバックを通じて、成長を促します。
    3. 育成環境の整備

    挑戦できる環境: 失敗を恐れずに挑戦できるような、心理的に安全な環境を整備します。
    学び続ける風土: 自発的な学習意欲を促進するため、社内外の学習機会を提供します。
    キャリアパス設計: 将来のキャリアパスを明確にすることで、社員のモチベーションを高めます。
    4. 評価と改善

    育成効果の測定: 定期的に育成効果を測定し、改善点を見つけることが重要です。
    フィードバックの活用: 評価結果に基づいて、個々の社員にフィードバックを行い、今後の育成に活かします。
    制度の改善: 育成制度自体を継続的に見直し、改善していきます。
    5. 経営層のコミットメント

    人材育成への投資: 人材育成は、企業にとって重要な投資であるという認識を経営層に持ってもらうことが大切です。
    トップダウンでの推進: 経営層が人材育成を積極的に推進し、組織全体で一体となって取り組むことが重要です。

  • 人材育成の3要素とは?
  • 個人

    1. 能力開発: 知識、スキル、経験の向上を図り、個人の成長を促します。
    キャリアパス設計: 将来のキャリアを明確にし、モチベーションを高めます。
    自己実現・動機付け: 個人の能力を最大限に発揮できる環境を提供します。

    2. 組織
    組織目標との連携: 個人目標を組織目標と結びつけ、組織全体の目標達成に貢献します。
    チームワークの強化: チームで協力し、問題解決能力を高めます。
    組織文化の醸成: 学習意欲を高め、成長を促進するような組織文化を醸成します。

    3. 環境
    学習機会の提供: 研修、OJT、e-learningなど、多様な学習機会を提供します。
    フィードバック体制: 上司や同僚からのフィードバックを通じて、成長を促します。
    挑戦できる環境: 失敗を恐れずに挑戦できるような、心理的に安全な環境を整備します。

    3つの要素のバランスが重要

    人材育成は、これらの3つの要素がバランスよく機能することで、効果を発揮します。例えば、個人の能力開発に注力する一方で、組織の目標との連携を忘れてしまうと、個人の成長と組織の目標が乖離してしまう可能性があります。

  • 人材育成で意識することは何ですか?
  • 目的の明確化

    なぜ育成するのか: 組織の目標達成、個人のキャリアアップ、スキルギャップの解消など、育成の目的を明確にすることで、効果的なプログラム設計が可能になります。
    誰を育成するのか: 育成対象者を特定し、それぞれのレベルやニーズに合わせたプログラムを提供します。
    何を育成するのか: 育成したいスキルや知識を具体的に定義することで、効果的な学習内容を設計できます。
    2. 従業員の主体性

    自発的な学習: 従業員自身が学びたいという意欲を持ち、主体的に学習に取り組めるような環境を整備します。
    目標設定: 従業員自身が目標を設定し、達成に向けて努力できるように支援します。
    フィードバック: 上司や同僚からのフィードバックを通じて、自己成長を促します。
    3. 多様な学習機会

    OJTとOFF-JTの組み合わせ: 実務を通して学ぶOJTと、研修やセミナーなど形式的なOFF-JTを組み合わせることで、効果的な学習を促します。
    e-learningの活用: 時間や場所に縛られないe-learningを活用し、学習の機会を広げます。
    外部研修の活用: 外部の専門家から学ぶことで、新たな知見やスキルを習得します。
    4. 評価と改善

    育成効果の測定: 定期的に育成効果を測定し、改善点を見つけることが重要です。
    フィードバックの活用: 評価結果に基づいて、個々の社員にフィードバックを行い、今後の育成に活かします。
    制度の改善: 育成制度自体を継続的に見直し、改善していきます。
    5. 経営層のコミットメント

    人材育成への投資: 人材育成は、企業にとって重要な投資であるという認識を経営層に持ってもらうことが大切です。
    トップダウンでの推進: 経営層が人材育成を積極的に推進し、組織全体で一体となって取り組むことが重要です。

株式会社ソフィア

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ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。