クライシスコミュニケーションとは?トラブル発生後の適切な対処法
最終更新日:2026.04.10
目次
クライシスコミュニケーションは、危機発生時に情報開示を軸としてステークホルダーの不安と誤解を抑え、信頼を維持・回復する活動です。初動は「早く・正確に・誠実に」を徹底しつつ、社内の情報空白を作らず、管理職を通じて従業員へ一貫したメッセージを届けることが重要です。本記事では、初動24時間の手順、体制設計、記者会見対応、社内向け発信、研修・訓練、収束後の学習までを体系的にご説明します。
クライシスコミュニケーションの定義
公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)は、クライシス・コミュニケーションを「情報開示」を基本として、ステークホルダーへ迅速かつ適切に行う活動として説明しています。また、用語辞典でも「非常事態の発生で企業が危機的状況に直面した場合に、被害を最小限に抑えるため、情報開示を基本としてステークホルダーへ迅速・適切に伝える活動」と整理されています。
クライシスコミュニケーションとは
クライシスコミュニケーションとは、企業が不祥事や事件・事故を起こしてしまった場合の、危機管理対応の一種です。企業は、起こった事象について、一般消費者や取引先に対して説明や謝罪をする必要があります。多くの場合はテレビや新聞などのメディアを通してコミュニケーションを取ることになるでしょう。
この際、企業はできるだけ問題を大きくしないように、事実をごまかしたり隠蔽したりするかもしれません。しかし、情報を隠して後でばれてしまうようなことがあれば、企業への不信感が増すだけです。記者会見等に応じることになった場合は、誠実な姿勢で情報を開示することが大切です。
危機コミュニケーションの基本は「最初に、正しく、信頼できる形で、共感を示し、行動を促し、敬意を払う」です。米CDCのCERCでは、この6原則が整理されています。
また、謝罪の場で失言をしてしまうと、さらなる批判を招くリスクがあります。クライシスコミュニケーションには、細かな注意を払うべきポイントがたくさんあります。企業は、万が一に備え、事前にシミュレーションをするなどの準備をしておくと安心です。
クライシスコミュニケーションが必要になる場面
代表的なものには、不祥事(コンプライアンス違反・不正会計・品質不正・ハラスメント等)、事件・事故(労災・工場事故・情報漏えい等)、災害(地震・豪雨等)、感染症やサプライチェーン毀損などが挙げられます。
実務上は「人的被害がある」「生活者の安全に関わる」「事業継続に影響する」「説明責任が生じる」事案は、早期にクライシスコミュニケーションの対象になります。
クライシスコミュニケーションとリスクコミュニケーションの違い
クライシスコミュニケーションと似ているワードに、「リスクコミュニケーション」というものがあります。言葉の響きは似ていますが、両者は異なるものです。
危機管理広報の理論・体系の整理でも「クライシス・コミュニケーション」「リスク・コミュニケーション」は区別され、危機発生後の悪影響低減と、危機発生の予防・備えを伴うコミュニケーションとして整理されます。
クライシスコミュニケーションは、リスクが実際に起きてしまってから、そのリスクに関して情報開示をするものです。一方でリスクコミュニケーションは、リスク発生前に取るコミュニケーションです。
公的機関の説明では、リスクコミュニケーションは「リスク分析の全過程において、関係者間で情報および意見を相互に交換すること」とされ、説明や相互理解の側面が強調されています(食品安全領域)。
たとえば工場の運営によって周辺住民に迷惑をかける可能性がある場合など、取引先や関係者にリスクが想定される場合にその内容を先んじて共有します。リスクコミュニケーションの際は、情報共有だけでなく相互理解を得ることが目的であるため、一方的に情報を伝えるのではなく、意見を交換する場にするように心がける必要があります。
初動24時間でやるべきこと
初動は、後から取り返しがつきにくい領域です。米CDCのCERCでも「危機は時間に敏感(Be First)」「正確さが信頼性を作る(Be Right)」「誠実さ・真実性(Be Credible)」など、初動の原理原則が整理されています。ここでは”24時間”を目安に、やることを優先順位で並べます(業種・事案で調整してください)。
発生〜1時間: 人命・安全の確保を最優先に、事実確認の”入口”を一本化します。第一報を受ける窓口(総務・危機管理室・広報など)と、誰が意思決定に上げるかを固定し、情報の混線を止めます。
1〜6時間: 暫定でも「何が起きたか/何がまだ分からないか/次に何をするか」を社内に共有します。危機下は情報が錯綜し、偽・誤情報が流布しやすいことが公的ガイドラインでも指摘されています。だからこそ、確度の高い情報を早く出し、空白を作らないことが重要です。
6〜24時間: 対外向けの一次発表(プレスリリース、Web掲載、問い合わせ窓口設置等)を準備し、想定問答のたたき台を作ります。上場企業の場合、事案によっては適時開示など開示実務が関係するため、法務・IR等と連携し、ルールに沿った開示判断が必要です。
初動で最低限そろえる「一次メッセージ」は、以下の3点を外さないのが基本です。
共感:被害者・顧客・関係者への配慮(Express Empathy)
事実:現時点の確定情報/未確定情報/調査方針(Be Right / Be Credible)
行動:相談窓口、返金・回収、再発防止の見通しなど(Promote Action)
体制と役割分担の設計
危機時に”正しいこと”をしていても、体制が曖昧だと「誰が何を決めるのか」が詰まり、情報発信が遅れます。危機管理能力を計画・確立・維持・継続的に改善するためのガイダンスとして、ISO 22361が示されています。
またISO 31000でも、リスクマネジメントはステークホルダーとの相互作用(interaction)を含み、組織の文脈(人間行動や文化)を考慮することが述べられています。危機時の伝達設計は、まさにこの領域です。
大企業で現実的な”最低限の型”は次の通りです(規模・業態で調整)。
危機対策本部(意思決定): 社長/担当役員、法務・コンプラ、広報、事業責任者、人事、情報システム等
スポークスパーソン(対外窓口): 原則1名+バックアップ(メディア対応の訓練対象)
社内コミュニケーション統括(人事・経営企画等): 管理職への伝達文、FAQ、現場の不安吸い上げ
ファクト収集(現場→本部): 事故・品質・セキュリティ等の専門部署
この体制を「紙で作る」だけでなく、次章の研修・訓練で”動く状態”にしておくことが、実務上の成否を分けます。
クライシスコミュニケーションの適切な対応と対策
では、実際にクライシスコミュニケーションを行うことになった場合には、どのような点に注意すればよいのでしょうか。まず重要なのは、ステークホルダーが求めている情報をつまびらかにすることです。もし事実を偽って情報発信をした場合、企業の信頼を失い、最悪の場合、企業の存続に関わるような大問題に発展してしまうでしょう。
ステークホルダーに対し正確な情報を伝えるためにも、まずは経営のトップが事実を正しく把握する必要があります。現場から細かい情報を正確かつ早急に経営トップに報告することで、ステークホルダーにこれ以上の不信感を抱かれないようにすることができます。
「正確な情報を迅速に提供し、信頼を構築する」ことは、公的ガイドラインでも重要性が明示されています。危機時は”伝えないこと”自体が憶測を生みやすいため、確定情報・未確定情報を区別しながら、更新型で伝える設計が必要です。
有事の際は、根拠のない情報が拡散されていく可能性もあり、慌ただしくなりがちです。特に広報担当者は対応に追われるでしょう。落ち着いて対応するために、日頃からメインで対応するメンバーを決めておくなど準備をしておくと安心です。
CS&Aインターナショナル社”危機管理10戒”
事前の備えの一例として、CS&Aインターナショナル社の設立者キャロライン・サプリエル がIABC(ビジネス・コミュニケーション担当者の国際団体)イベントで発表した”危機管理10戒”が参考になります。
CS&Aインターナショナル社“危機管理10戒”
- 問題を早期に認め、早期に伝える
- 悪いことを良く見せることはできないことを認識する
- 最悪の事態に備える。 危機は、事態が悪化してから後に、良くなっていくものだ。
- 人々の安全を常に優先することを忘れない。
- 点数稼ぎのためにするのではなく、信頼性を保護することに集中する
- 道筋を設定しミッションステートメント(使命宣言)を作成しそれを守り続ける。
- 問題となることおよびステークホルダーをマッピングし、状況の進展に応じて修正する。
- 利用可能なすべてのチャネルを使用して、ステークホルダーとコミュニケーションする。
- 危機が長引いても、後退して包囲され身動きできなくならないようにする。その場に踏ん張り続けること。
- 危機の後遺症も管理する。 本当に終わるまで、終わっていないことを忘れないこと。
CERCの「Be First / Be Right / Be Credible」等の原則も、上記と方向性が重なります。複数の枠組みで共通しているのは、危機時ほど”早い・正しい・誠実”を外さないことです。
記者会見やメディア対応のポイント
記者会見や取材対応は、ステークホルダーの信頼に直接影響します。危機時には、言葉選択や発信場所・タイミングが炎上の加速/収束を左右することが、事例分析でも指摘されています。
準備の要点は「一本化」と「想定問答」です。現場・広報・経営で言うことが違うだけで不信感が増幅するため、会見前に必ず事実関係・用語・数字の整合を取ります。最低限そろえると良い実務セットは次の通りです。
一次メッセージ:共感→事実→行動(CERCの型で整理)
想定問答:厳しい質問ほど先に作り、回答不能な場合は「なぜ答えられないか」まで説明
更新ルール:「次回更新はいつか」を宣言し、情報空白を作らない
社内向けクライシスコミュニケーションの強化
危機時は、社外対応に目が向きがちですが、社内に情報が届かないと「憶測」「不安」「離職」「現場の顧客対応のブレ」が起き、結果として社外の信頼も毀損します。危機下で必要なのは、社内外で矛盾しない”ワンボイス”と、現場が動ける情報設計です。
弊社ソフィアの調査では、従業員数1,000人以上企業の回答者のうち「社内コミュニケーションに問題がある」と感じる割合が約8割(79%)に達しています。また、問題を感じる対象は「部門間(58.4%)」「上司と部下(51.3%)」「経営陣と社員(42.1%)」など縦横双方に広がっています。
さらに「業務に関連する情報が共有されない(45.7%)」「共有が遅い(39.5%)」「欲しい情報がどこにあるかわからない(33.4%)」など、情報流通の課題が上位です。危機時はこれが悪化しやすいため、あらかじめ情報の”通り道”を設計しておくことが重要です。
社内向けに有効な打ち手は、次の3層で設計するとブレにくくなります。
経営→全社:トップメッセージ(1枚で要点、更新型)
管理職→現場:管理職用の伝達文+FAQ(現場の質問を吸い上げる)
現場→本部:ホットライン、匿名質問箱、定点アンケート(状況把握)
なお、弊社ソフィアの調査では、経営目標・戦略を「十分把握している」割合が8.5%にとどまるなど、平時から”重要情報が届きにくい”傾向も見られます。危機時だけ頑張っても届かないため、平時からの情報流通改善とセットで設計すると効果が上がります。
研修・訓練による定着化
危機対応は”知識”ではなく”行動”です。危機管理能力を継続的に改善する考え方はISO 22361でも示されています。ただし、研修は「やっているのに効かない」こともあります。
弊社ソフィアの調査では、社内研修・学習コンテンツに対し「受講しても実務に役立たない/役立て方がわからない」が25.8%で最多です。その理由は「現場の具体的なニーズに合っていない(46.9%)」「インプット中心で実践のイメージがわかない(40.6%)」「社内事情を踏まえたカスタマイズ不足(38.3%)」などが上位です。つまり危機対応の研修は、座学で終わらせず、次の設計が必要です。
机上演習(Tabletop):初動24時間の判断を時系列で回す
メディア・SNS対応ロールプレイ:想定問答を使い、言い回しと沈黙のリスクを体験する
管理職向け伝達訓練:現場へ伝える”同じ言葉”を揃える(ワンボイス)
事後レビュー:次回に向けてマニュアルを更新(学習を残す)
研修企画担当者の方は、KPIを「参加率」だけにせず、想定問答の更新回数、初動連絡の到達時間、社内FAQの閲覧率など”危機時に効く指標”を設定すると、形骸化を防ぎやすくなります。
危機収束後の次フェーズへの移行
ここから次フェーズに向けた対処法6選をご紹介します。
組織内への迅速な情報発信
理念の浸透だけでなく、危機的状況の中でも重要なインターナルコミュニケーション。リーダーが組織内にメッセージを発信する際は、以下の4要素を活用するのがポイントです。
・Concern(配慮):共感、感受性、人間性を最優先にします。
・ACtion(行動):あなたが行動することで、スタッフを守り、操業を続け、顧客の要求と期待に応えることへの配慮を示します。
・Context(コンテキスト):組織内外の人々に、あなたの行動の背景にある視点と考え方を伝えます。
・Call to action(行動の呼びかけ):あなたの発するメッセージの結果として、人々に何を考え、感じ、言って、やってほしいかを示します。
この4要素は、CERCの「Express Empathy」「Promote Action」とも方向性が一致します。危機時ほど、共感→行動→背景説明の順で、短く・繰り返し伝えるのが有効です。
まず、危機的な状況下では、多くの場合普段よりも判断能力や解釈スキルが低下するため、キーメッセージはあえてシンプルなものにします。ただし状況は刻一刻と変わっていくため、定期的に情報を最新のものにアップデートすることを忘れないようにしましょう。
透明性の確保と情報公開
リーダーは「今何がわかっていて、何がわかっていないのか」「どんな議論がなされているのか」そして「今後どのように決定が下されるのか」を、従業員に正直に伝えましょう。危機的な状況であっても情報を開示することで、今以上の不測の事態はないと従業員は安心感を抱くことができるでしょう。
危機時は偽・誤情報が流布しやすいため、公式情報源として”更新型の情報提供”を行い続けることが信頼の土台になります。
現状把握調査の実施
従業員が今どのような状況か、彼らが懸念していることは何かを理解しましょう。その情報は、リーダーが取るべき姿勢を明確にするために役立てます。
ビジュアルを活用した変化への理解促進
従業員に求められる行動や、職場の変化について、事前に画像やビデオを通じて紹介します。従業員は、事前に理解することで、自分たちは何をすべきかを正確に理解し、スムーズに対応業務をスタートすることができます。
組織内の分断への注意
同じ組織内でも、グループによって置かれている状況が正反対であるという状況も考えられます。立場によって状況が異なると、一方がもう一方を羨むなどで組織内に分断が生じる可能性があります。リーダーは、全体像を見て、分断が起きないように注意を払う必要があるでしょう。
長期的なコミュニケーション目標の設定
長引く危機の中では従業員は目の前の事態に対処することに精一杯になるかもしれません。だからこそ、長期的なコミュニケーション目標を掲げ、意識的に意思決定を下していくことが重要になります。
危機対応は「終わったら解散」ではなく、学習して更新することで強くなります。この考え方は、危機管理能力を継続的に改善するという国際標準の方向性とも整合します。
まとめ
不祥事をはじめとする緊急事態が発生した際に、企業は取引先や株主、また一般消費者に向けてコミュニケーションを取ります。それがクライシスコミュニケーションです。有事の際は企業に厳しい目が向けられるため、不信感を増幅させてしまうことのないよう、細心の注意を払いながら対応するようにしましょう。
対外的な対応はもちろんですが、社内への対応もおろそかにはできません。危機的な状況から抜け出すためには、インターナルコミュニケーションのスキルが問われます。
特に大企業では、伝言ゲームで情報が変質しやすいため、管理職・現場に届く”同じ言葉”を設計し、研修・訓練で動ける状態にしておくことが重要です。弊社ソフィアの調査でも、平時から情報共有に課題を感じる割合が高く、危機時は一層の設計が必要だと示唆されます。
要するに、企業のダメージを最小限におさえるためにも、インターナルコミュニケーションについてあらかじめ考えておくことが大切です。インターナルコミュニケーションについてのお悩みがある場合は、お気軽にご相談ください。



