経営理念が浸透しない要因とは?浸透ための5段階のステップを解説

人材や働き方の多様化などの影響により、これからの企業理念浸透はますます難しくなっていくと考えられます。
本記事では、経営理念浸透ができない要因と、「Emotional Experience Design(コミュニケーションによる社員の行動変容の段階)」を用いて5段階のステップで進める経営理念の浸透方法について解説します。

経営理念とは

そもそも経営理念とはどんなものなのでしょうか。

経営理念とは、企業トップ(創業者や経営者)が示す、企業の経営における自社のあるべき姿、考え方、価値観です。これは、「企業自身の行動を正当化するためのひとつの枠組み」であるともいえます。
例えば、経営理念を「顧客の課題解決」としている場合と、「社会課題の解決」としている場合では、経営が影響を与える範囲や深度が異なることがわかるでしょう。

渋沢栄一氏の著書「論語と算盤」で語られているように、企業は業績や利益(算盤)だけでなく、社会的な役割や存在意義(論語)を両立していく必要があります。最近では顧客満足度以外にSDGs やMDGs、ESGといった、社会環境に関するグローバルな目標や基準への対応も、経営理念に影響しています。経営理念は、企業の存在意義やあり方を表す企業理念とは異なり、環境や社会の要求、影響を受けて変化するものなのです。

経営理念の浸透が経営成果に与える影響

経営理念が企業内に十分浸透すると、経営成果のいたるところによい影響をもたらします。経営理念の浸透が経営に与える良い影響について解説していきます。

社員の行動指針として機能

経営理念は「わが社の経営はこうあるべき」という思いであり、経営理念が浸透すればその「こうあるべき」に沿って社員が腹落ちした状態で自主的に行動するようになります。これは、経営理念に対する共感とも言い換えられます。

組織の規模が大きくなると、経営の効率を求めるようになります。経営の効率を高めるためには組織を構造化・分業化せざるを得なくなり、管理のための管理業務、仕事を進めるための仕事が増えていきます。こういった状況は往々にして、従業員が何のために働くかを見失いやすくし、社員が自主性を失うきっかけをつくりがちです。
アメリカの経済学者であるラリー・E・グレイナー氏は「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載された論文において「企業成長の5段階説」を提唱しています。この5段階説によれば、社員が自主性を失うと企業は大企業病に陥りやすくなることが指摘されています。

経営理念に沿った行動が社員に定着することで、各々の社員の行動を管理しなくても企業活動が可能になる状態を作ることが、大企業病を防ぐ上では重要となります。ルールや規定だけで人や組織を管理することには限界があるため、現場に自由度を与えながらも、経営理念に基づいた行動指針によって社員や企業を統合するのです。大企業や成熟した組織においては、硬直化した管理体制やルールをより柔軟なものに刷新することを目的に、経営理念や行動指針の浸透に取り組む場合もあります。

社員のモチベーションアップに貢献

経営理念が浸透している状態とは、社員の意欲が十分に上がっている状態であるといえます。社員一人ひとりが自ら進んで経営理念に沿った行動を取ろうとし、それらを協働して全員で実現しようとしている状態は、企業にとっても社員にとっても望ましいものでしょう。
ただし、経営理念を浸透に取り組むことで社員の意欲が必ずしも上がるわけではありません。経営理念を社員のモチベーションアップにつなげるには、社員の状態合わせた浸透施策で社員の感情や意識、行動様式に働き掛けていく必要があります。

企業の成長に貢献

経営理念の浸透は、社員の現状の行動を変えることつながり、ひいては組織風土変革や企業変革にもつながっていきます。社員の現状の行動を変えていくことで、経営理念に基づいた価値観が社員に根付き、経営理念に沿った行動を社員が自主的にとれるようになります。そして、社員の行動によって組織内のカルチャーが変わり、会社にとっての当たり前が変わり、最終的に企業の成長へとつながるのです。
ただし、企業成長=業績という矮小化された解釈をすると、経営理念の浸透=企業成長=業績、つまり業績=経営理念という矮小化につながってしまいます。企業のあるべき姿(目的)を示すものである経営理念が、目的を達成する一つの手段である「業績」にすり替わり、業績や数字ばかりを追うようになってしまうのでは本末転倒です。
経営理念とは本来、企業活動を通じて組織や社員が学習していくプロセスを形作るものであり、経営理念に基づいた企業成長を業績のみで測れるものではありません。したがって、経営理念の浸透度合いを測る際にも、経営理念に沿った社員の意識・行動が測れるような複数の指標が必要となります。

半数以上の企業が経営理念の浸透に苦戦している

経営理念が必要だと認識している企業自体は多く、経営理念を策定していない企業のほうが少ないでしょう。しかし、HR総合研究所が2013年に行った調査によると、半数以上の企業は経営理念がうまく浸透していないと感じています。

経営理念がうまく浸透しない要因としては、経営理念の重要性が理解されておらず、形骸化してしまっていることが挙げられます。そして今後、経営理念の浸透はよりいっそう難しくなると考えられます。理由としては、雇用の流動化・人材の多様化が進んだこと、「不確実性(VUCA)の時代」とも呼ばれる外部環境の激しい変化などです。かつて存在した成功の方程式は失われ、過去に成功した戦略や、成功した他社の戦略・戦術を真似しても効果が望めなくなりつつあります。

一昔前は、終身雇用が機能していたことで、会社が社員の面倒を一生見るという関係性がありました。しかし現在は、働き方が多様化し、社員の転職や独立は普通のことになっています。そのような環境の中でも社員に自社で長く働き続けてもらうには、組織に経営理念を浸透させ、従業員が経営理念に共感して「この会社にいたい」と思える状況を作る必要があります。

今は日本でも「EVP(Employee Value Proposition )」という考え方が広がっています。これは、社員やステークホルダーに対して企業が、金銭的な面のみにとどまらずどのような価値を提供できるかという概念です。EVPにおいては、賃金や給与、福利厚生と同じくらい経営理念やカルチャーが重要な位置を占めます。つまり、経営理念の浸透は、人材の確保にも大きく影響しているのです。

経営理念が社内に浸透しない3つの要因

具体的に、どのような要因によって経営理念の浸透が阻まれているのでしょうか。ここでは3つの要因を解説します。

経営理念をうまく策定できていない

前段で経営理念の浸透が経営成果に与える影響について解説しましたが、経営理念がどのようなことに作用するのか、何を解決するために存在するのかといった機能面を理解できていなければ、適切な経営理念を策定することはできません。
経営理念の根幹となる部分は社内で考えるべきですが、言い回しや表現の調整(ワ―ディング)や、理念を共有するためのデザイン作成などは外部のコンサルティング企業やデザインファーム、広告代理店に委託してもよいでしょう。ただし丸投げは禁物です。丸投げすると、たとえ格好いいものができたとしても、自社のユニーク性を保てず、社員の共感は得られにくくなります。経営理念を作っただけで浸透できず、そのままになってしまった企業は、数しれません。

経営理念の内容を知ってもらえていない

「せっかく策定した経営理念が額縁に飾られたままで、社員は誰も知らない」いうのは、経営理念の浸透ができていない企業によくあることです。社員側は「経営理念を知らなくても業務は回っている」「今日の仕事を終えることが重要」だと感じています。上から理念を押し付けられると、社員の中に抵抗が生まれます。必要なのは外部講師を招聘して理念を無理矢理社員に教え込むことではなく、従業員が経営理念の価値を感じる体験ができるような取り組みを社内で重ねることです。あくまで「共感」を得るための体験をデザインすることが重要といえます。

経営理念を実行レベルに落とし込めていない

経営理念を浸透させるには、社員が経営理念に沿った行動を取った際に「評価された」という「体験」までをデザインすることが必要です。評価されることで、社員は経営理念に基づいた行動を快いと感じ、再び行動したいと感じます。経営理念を実行レベルに落とし込めていない企業は往々にして、この評価や体験がうまく設計されていません。経営理念を評価制度や採用基準の一部に取り込んだり、経営理念に沿った取り組みを表彰する制度を設ける等によって、行動への動機付けをはかりましょう。

経営理念を会社に浸透させる5ステップ

経営理念を会社に浸透させるための手法として、「Emotional Experience Design」が役立ちます。これは、従業員の感情や意識、行動様式の状態に合わせて浸透シナリオをデザインすることで、従業員の共感を醸成し、行動へ動機付けするアプローチです。ここからはこのEmotional Experience Designの5ステップについて解説します。

認知

まずは経営理念の存在について知ってもらう必要があります。策定した経営理念について周知して広く知ってもらったのち、経営理念が策定された理由や背景を説明します。また、経営理念に込められた想いを伝えます。こうして、従業員の経営理念への「理解」を促します。

理解

ただ存在を知っている状態から、その内容をきちんと理解できている状態まで持っていけたら、「共感」を促します。社員一人ひとりの業務と経営理念とのつながりや、経営理念が社員の役に立つことを伝え、「いいね」と思ってもらえる取り組みを行います。
ここまでの取り組みは、外部のコンサルタントや制作会社に任せてもたいていの場合はうまくいきます。社内のコミュニケーションが経営側からの一方的な情報発信に寄っていても、情報の質と量が十分であれば共感を獲得することが可能であるためです。

共感

経営理念は良いものであると、社員に共感してもらえている状態です。ここからは、社員一人ひとりが自信を持って経営理念に沿った行動を取れるよう後押ししたり、経営理念を体現する社員の行動を称賛し、他の社員のロールモデルになるよう支援をしたりと、定着に向けた「実践」をサポートしていきます。
共感を個々の行動につなげるためには、社員に自分事として納得・腹落ちしている必要があり、そのためには理念に関する対話会など双方向のコミュニケーションが必要です。しかし、自社の理念についての対話の場に他社の人間がいることに違和感を覚える社員は少なくありません。共感以降の取り組みは、外注パートナーを中心に行うと逆効果になる可能性があるため、極力社内で取り組みを進めるようにしましょう。

実践

個々の社員が、経営理念を実現する方法を考え実践している状態です。さらにここから、社員が経営理念の実現に向けて「周囲と共に行動する」ことを支援していきます。すなわち、「協働」です。協働のきっかけづくりには、志を同じくする社員が出会えるリアルまたはバーチャルな場の設定など、双方向コミュニケーション取り組みが必要です。

協働

経営理念が完全に浸透した状態です。経営理念を実現するために、社員が周囲と協働しています。しかし、ここで取り組みを止めると、浸透はやがて衰退してしまいます。協働の維持に努めましょう。実際には全社員が実践し、協働し続けている企業など存在せず、組織には常に5つのステップそれぞれの段階の社員が存在しているものです。全社員を完全に浸透した状態にもっていくことを目指すのではなく、リーダーや社内で影響力ある人間にフォーカスして協働を促し、インフルエンサー的な立ち回りをしてもらうことが必要です。

まとめ

経営理念を社内に浸透させる取り組みは、実は「組織内のコミュニケーションをよくする」取り組みと同義でもあります。「横の連携をより強固にしたい」「社内の風通しをもっとよくしたい」といったお悩みと同様の、組織内コミュニケーションにおける課題のひとつといえます。
ソフィアではこうした組織内コミュニケーション課題を解決するために、組織のコミュニケーションの現状を明らかにして改善すべき弱点を見つける「コミュニケーション調査(PCF調査)」を提供しています。

参考記事:全組織の課題を見える化!? 「コミュニケーション調査」は企業の健康診断

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