テレワーク拡大で増える在宅勤務の導入手順とポイントを解説!

技術革新、ICTの進化によって働き方が見直されるようになり、またCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響によって企業の事業継続性が問われるようになった昨今、テレワーク、その中でも在宅勤務という働き方に大きな注目が集まっています。企業においては急ピッチで導入に至ったケースも多い中、やはり入念な準備を行えなかったことから、数ヶ月経った今になってさまざまな課題が浮き彫りになっています。

在宅勤務は、企業と従業員のどちらにもメリットの多い勤務形態です。本記事ではこれから在宅勤務を導入したい企業の管理者層、人事部門、システム部門の方々に向けて、在宅勤務のメリットや導入手順、押さえておくべきポイントについて解説していきます。

在宅勤務はテレワークの1つの形

はじめに、在宅勤務=テレワークではないということを説明しておきます。

厚生労働省が定義するテレワークとは、「情報通信技術(ICT; Information and Communication Technology)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」を意味します。これはつまり、自宅以外に移動中や出先、本拠地以外での勤務も含むということになります。

被雇用者のテレワークは、「外勤型テレワーク」と「内勤型テレワーク」の2種類に大別されます。外勤型テレワークは、営業職など外勤の多い職種のスタッフがノートパソコンやタブレットなどのモバイル端末を用いて、外勤中にオフィスとの連絡や情報のやりとりを行う形態で、モバイルワークとも呼ばれます。対して内勤型テレワークは、バックオフィス業務やデスクワークに従事していたスタッフが業務内容に合わせて適切な場所と時間を柔軟に選ぶ形態で、在宅勤務やサテライトオフィス勤務が主になります。

2020年初頭に在宅勤務が急速に広まった影響で「テレワークといえば在宅勤務」というイメージが定着しつつありますが、これはCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)によってモバイル勤務やサテライトオフィス勤務ができなかったことや、企業内で十分な準備期間が用意できなかったことから、在宅勤務以外の選択肢がなかったことに起因します。

在宅勤務導入の目的

在宅勤務導入の目的は、決して新型コロナウイルス感染症対策に限ったものではありません。テレワーク自体がもともと国を挙げて推進されてきたものであり、在宅勤務にはこれまでのオフィス勤務では得られなかったさまざまなメリットが存在します。

企業側のメリット

まずは企業側のメリットから解説します。

・オフィスコスト削減

従業員がオフィスに出社する必要がなくなるため、賃料、光熱費、備品代などを大幅に削減することができます。さらに「フリーアドレス」化を組み合わせることで確保する席数も少なくなり、いずれはオフィス自体を縮小することも可能となるでしょう。

・災害時やパンデミック時などの事業継続性

業務に必要なツールがオフィスに集約されないため(主にクラウド上で管理するようになってきました)、万が一の災害やパンデミックなどに遭遇した場合であっても、従業員が引き続き自宅で業務に従事でき、事業が滞りなく持続します。

・業務効率の向上

在宅勤務は、オフィス勤務と異なりパフォーマンスが見えにくい一方で、成果をしっかりと可視化しなくてはなりません。そのため、従業員一人ひとりが計画性・自律性を持って日々のスケジューリングを行い、能動的に業務にかかわることが求められます。チーム全体が能動的に自分のミッション達成を意識することで、業務効率の向上につながります。また、「外勤型テレワーク」においては営業職のスタッフが移動時間を活用して作業を行えるようになるため、オフィスに戻って作業をする手間が省け、こちらも業務向上に寄与します。

・ステークホルダーへのイメージの向上

後述するように在宅勤務は企業だけではなく従業員や社会にとっても大きなメリットがあるため、在宅勤務の導入をステークホルダーへ告知することは、CSR(Corporate Social Responsibility; 企業の社会的責任)への取り組みを対外的に示すことにもなります。企業の社会的責任を十分に果たしている企業はステークホルダーから好印象を持たれやすくなるといえるでしょう。

・従業員の意識改革

先述のとおり、進捗状況と成果を可視化しなくてはならない在宅勤務では、「業務時間内に終わらせなければ」「業務時間中のパフォーマンスにムラがないようにしなければ」という心理が働き、タスクの処理が自ずと迅速になる効果も期待できます。

・優秀な人材の確保

人材が流動化しやすくなっている昨今、企業は従業員の定着率にも目を向けなければなりません。柔軟な働き方の導入は、人材がそこに在籍し続ける動機にもつながります。

従業員側のメリット

従業員側にも大きなメリットがあります。

・通勤の身体的/精神的負担の軽減

都心部であればほとんどの人が避けて通れない通勤ラッシュによる負担が大きく軽減されます。また、遠方から出社している従業員の通勤時間も削減されます。郊外在住でマイカー通勤だったり、徒歩・自転車で通勤する従業員も、台風や大雪などの悪天候に左右されることがなくなるでしょう。

・居住にかかる負担の軽減

従業員は本社オフィスを起点に住居を構える必要がなくなり、家賃の高い都市部にこだわらずに自分の住みたい、もしくは住みやすい地域を選んで居住することができるようになります。また、場合によっては帰省先や旅行先などからの仕事も可能となり、多くの地方自治体が受け入れを推進している「ワーケーション」と呼ばれる働き方も実現するでしょう。これらは地方創生につながります。

・ワークライフバランスの向上

通勤時間が減り、これまで移動に充てていた時間を従業員が生活に充てられるようになります。家庭内のコミュニケーションや自分の趣味に没頭する時間に使えることはもちろん、就業時間とは別の自主的な学習に充当することもあるでしょう。より高度な業務に挑戦するため、資格取得の学習などに費やす従業員が増えることもありえます。

・仕事と育児・介護の両立

これまでは「出社してトラブルがあった際に急いで自宅へ帰宅する」となってしまっていた事態が在宅勤務ではなくなります。育児と介護にかかわる時間自体が減るわけではありませんが、移動時間が削減されるので、うまく家庭の事情に合わせて業務を行うことができるようになりますし、勤怠面のストレスは軽減されます。

社会にとってのメリット

意外と見落とされがちなのが社会的なメリットです。

・環境負荷の軽減

通勤が減るということは、交通機関や車、オフィスの使用が減ることもであり、それはCO2の削減にもつながります。CO2削減は日本だけでなくグローバルな課題であり、在宅勤務の導入は、深刻化する環境問題に対して企業が貢献できることの一つと言えるでしょう。

・就労人口減少の緩和

なんらかの理由でオフィス通勤できなかった人材を雇用できるようになり、就業機会の拡大につながります。社会全体で見るとに大きな雇用の創出にもなるはずです。

・新産業の創出

働き方が変わることで、新たなビジネスが生まれる可能性が大いにあります。また、働く場所を問わない在宅勤務が活発になると、都市部への人口集中問題が解消され、Uターン・Iターンも見込め、先述のとおり地域創生・活性化へとつながります。

在宅勤務導入の手順

在宅勤務は上記のようにさまざまなメリットがありますが、導入にあたっては仕組みやルールを整備する必要があります。これには、業務フロー(在宅勤務へ移行した際に各部門で業務がどのように変わるのかを洗い出し、再構築する)、社内規定(人事規定や待遇を含む)、ITツール(クラウドで利用できる各種ソフトウェアや業務用端末の準備)、コミュニケーション(テキストチャット、ビデオチャット、掲示板、社内ポータル)など、見直すべきものがさまざまです。すべての準備を万端にしてからとはいかなくても、ある程度の見通しとスケジューリングはしておくべきしょう。

導入目的の明確化

在宅勤務は目的ではなく、あくまで手段です。「メリットが多そうだから導入する」という目的では、なんの課題解決やゴールの達成にもなりません。こういった流れの施策導入は、在宅勤務に限らず失敗に終わる可能性が高いのです。在宅勤務のメリットが自社のどのような課題を解決しうるものなのかを事前に明確化しておきましょう。

現状把握

課題を知るには、自社の現状を知る必要があります。
経営層が想定する課題感と、現場が抱える課題とが乖離しているという場合も少なくありません。在宅勤務の導入有無に限らず現場の状況を把握しておくことはなにかしらの経営課題につながりますので、導入前のヒアリングを怠らないようにしてください。

導入計画の策定

ここで先述した「仕組みやルール」を整備するための計画を策定します。すぐに決められるものもあれば、導入後の状況によって決まるものもあるはずです。在宅勤務の導入スケジュールとあわせて包括的な計画を立案する必要があります。

なお、在宅勤務の導入を大きく阻むのが「押印」と「プリントアウト」です。特に押印の文化は現在、その意義が大きく問われています。前者に関しては将来的に電子印鑑を導入すること、後者に関してはオフィスを印刷所代わりに利用したり(機密書類廃棄場所としても)、緊急時にはネットワークプリントの利用規定整備を視野に入れたりを想定しておいてください。

対象範囲の決定

働き方を変える施策のコツは、まず対象を小規模に絞ることです。在宅勤務に移行しやすい部門や人材をピックアップし、限定的に実施してから効果を測定し、その結果を踏まえつつ対象範囲を徐々に広げていくと、無理のない導入が可能となります。

在宅環境の整備

在宅勤務へ移行した際は、自宅にワークスペースが必要になってきます。インターネット回線、会社から貸与する端末、文房具などの備品、机や椅子などのオフィス家具、これらの設備投資にかかる負担をすべて従業員に負担してもらうとなると、不満が上がってくる可能性もあります。一部の企業では、テレワーク導入に伴って従業員に一時金や毎月の補助金を支給しています。また、厚生労働省が「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」という助成金制度を設けているので、あわせて活用してみてください。

在宅勤務の試行・実施

準備が整ったら、あらかじめ指定した対象社員に対して在宅勤務を試行します。おそらく最初は予期しないトラブルの連続で現場に混乱があるかもしれません。これらは該当部門の中だけで解決するのではなく、在宅勤務を主導するコーポレート部門が主体となって改善に努めてください。

なお、全社で在宅勤務が施行されてもオフィスには最低限の人員を残しておきましょう(情報伝達の司令塔になるため)。交代制の出社にするなど、こちらも柔軟に規定を設けてください。

評価と改善

一定期間の実施を経て、効果測定を行います。該当者へのヒアリングや業務進捗の確認などさまざまな側面から評価を行い、改善を重ねていきましょう。

なお、これらの詳細は「情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書」(PDF)として総務省のサイトにまとめられているので、参考にしてください。

これから在宅勤務を導入する企業は入念な計画を!

働き方を大きく変える施策は、突貫工事的に行って後から綻びが見つかると、従業員に過剰な負担を与えるだけでなく、最悪の場合、離職などの事態を招きかねません。逆に、働き方によって現場の課題がうまく解決されれば、企業の発展に大きく寄与するほか、従業員のエンゲージメント向上といった効果にもつながります。

これから在宅勤務を導入する企業においては、これまでの事例やすでに整備されている手順書、助成金、国の支援サービスなどを十分に活用のうえ、円滑な導入を進めましょう。

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