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ダイバーシティ&インクルージョンとは?効果・手順・事例を徹底解説

ダイバーシティ&インクルージョンとは?意味や効果、進める手順やポイントを紹介

昨今、企業においてダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進への注目が高まっています。性別・年齢・国籍などの多様性を受け入れる企業文化は、従業員のエンゲージメント向上やイノベーション創出に寄与し、持続的な成長に欠かせないものと言えるでしょう。本記事では、大企業の広報・経営企画部門の方に向け、D&Iの意味や効果、導入ステップから社内制度構築のポイント、成功事例、導入時の注意点までをわかりやすく解説していきます。

ダイバーシティ&インクルージョンとは

人には人種や性別、年齢など外見上の違いだけでなく、宗教や価値観、性格、嗜好など内面的な違いもあります。「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion)」とは、個々のこうした「違い」を受け入れ、認め合い、生かしていくことを意味します。

ビジネスにおけるダイバーシティは、性別や年齢、国籍、文化、価値観など様々なバックグラウンドを持つ人材を活用し、新たな価値の創造につなげる経営戦略を指します。一方、インクルージョンは「受容」という意味で、従業員がお互いを認め合い一体感のある組織を目指していく考え方です。単に多様な人材を雇用するだけでなく、全員が積極的に参加して能力を発揮できる環境を作ることまで含めて「ダイバーシティ&インクルージョン」と言えるでしょう。

しかし、多様性を認めて受け入れることは容易ではありません。日本企業では歴史的に、画一的な組織を作りマネジメントすることが合理的だと捉えられてきた背景があります。そのため均質性に慣れた従業員にとって、多様な人材を受け入れることには暗黙の抵抗や排他的な反応が起きがちです。どれだけ制度面を整備しても意識が追いつかなければ定着は困難であり、そこでダイバーシティを補完・発展させる概念としてインクルージョンの必要性が認識されるようになりました。つまりダイバーシティで多様な人材を迎え入れ、インクルージョンによって一人ひとりが活躍できる機会を創出し能力を最大限発揮できる体制を整えることが重要なのです。

ダイバーシティ&インクルージョンの考え方は、アメリカで生まれた社会的潮流を背景にしています。たとえば1961年にジョン・F・ケネディ大統領が用いた「アファーマティブ・アクション」は、黒人や女性など歴史的に不利な立場に置かれてきた人々に優遇措置を講じて格差是正と機会均等を目指す施策を指し、日本語では「積極的格差是正措置」と訳されます。また「ポリティカル・コレクトネス」とは差別的な表現や先入観を排除し他者の尊厳を尊重する考え方で、言葉遣いや態度において配慮する慣習を意味します。

これらの思想はD&I推進の前提にありますが、単に優遇措置(アファーマティブ・アクション)を実施すれば直ちに差別や偏見がなくなるわけではありません。社会や文化に根付いた無意識の偏見をなくし、公平性を確保するには、教育や対話を通じた組織全体の意識改革など多角的なアプローチが必要とされているのです。

ダイバーシティ&インクルージョンのジレンマを引き受けていく

ダイバーシティ&インクルージョンを考える際には、ジレンマにぶつかることもあるかもしれません。多様性を受け入れることが大事であると頭で理解できたとしても、それに対してすぐに対応できるかというと、人によっては難しいものです。もし全員が自然に多様性を受け入れられるのであれば、規範や法制度に頼らずとも、多様性ある豊かな社会が形成されているはずです。しかし実際には、年代や国籍、個性レベルでの違いに、大なり小なり左右され物事を考えてしまいます。

ダイバーシティ&インクルージョンを推し進める中では、組織の混乱を招くこともあるでしょう。たとえば、反対意見や別観点から意見が挙がってきた場合、これらの排除は活動に反するため、事態が複雑化し、ジレンマに陥る可能性も考えられます。

ダイバーシティ&インクルージョンは、異なるバックグラウンドを持つ社員が自分の意見やアイデアを自由に共有し、新しい挑戦に積極的に取り組むことが奨励される重要な概念です。これによって、社員の成長意欲が高まり、チーム全体の創造性と生産性が向上することが期待されます。しかし、リーダーや経営陣がダイバーシティ&インクルージョンを強調しながらも、反対意見を聴かない、議論や葛藤から逃げる、人間関係の問題を無視するといった行動は、社員にとって非常に大きな問題です。

ダイバーシティ&インクルージョンという言葉は力強い意味を持っていますが、その実践に一貫性がない行動や言動は信頼性を損ない、チームの一体感や成果に悪影響を与える可能性があります。

ダイバーシティ&インクルージョンが注目される背景とメリット

日本で企業が「ダイバーシティ」という言葉を積極的に使い始めたのは2000年以降と言われています。少子高齢化による労働人口の減少や人材構成の変化に伴い、それまで労働力の中心とみなしていなかった女性やシニア、障がい者、外国人の雇用に着目する企業が増えていきました。

しかし、多様な人材を受け入れるためには従来になかったポストの新設働き方の整備といった課題に直面します。この問題を解決する考え方として「ダイバーシティ」が注目されるようになりました。さらに、多様な価値観やライフスタイルを持つ人材の活用は組織内の発想やアイデアの活性化につながるとの期待もあり、イノベーション創出を目的にダイバーシティを成長戦略の一つと位置付ける企業も増加しました。

では、ダイバーシティ&インクルージョンを推進すると具体的にどのような効果・メリットがあるのでしょうか。主なポイントは次の通りです。

イノベーションの創出:
多様な視点が組み合わさることで新しい発想が生まれ、革新的な製品やサービスの創出が期待できます。ボストンコンサルティンググループの調査でも、管理職の多様性がイノベーションの成果と相関することが示されており、D&Iへの取り組みが収益向上につながる可能性が指摘されています。

優秀な人材の確保:
ダイバーシティ&インクルージョンに積極的な企業であることを示すことで、多様な人材の応募を促し、採用力が向上します。国籍や性別・年齢にとらわれず公平な採用を行う企業が増えており、自社にない視点を持つ才能を獲得しやすくなるでしょう。

問題解決力の向上:
異なる知識や経験を持つ人材が集まることで、従来にはない効果的な問題解決策が生まれます。多角的な視点から課題に取り組めるため、対応できる問題の幅が広がり、組織としての適応力・競争力が高まります。

企業イメージの向上:
D&Iを実践し多様性を尊重する企業文化が根付けば、社外からの評価も向上します。平等な機会を提供している企業とのポジティブな印象を与え、求職者や取引先から選ばれやすくなるでしょう。実際に「この企業なら公平な環境で働けそうだ」と感じて入社を決める人材が増えるなど、雇用ブランドの強化にもつながります。

従業員のエンゲージメント向上:
多様性を尊重し受け入れる風土の中で従業員の当事者意識が強まり、モチベーションが向上します。互いの違いを認め合うことで職場の信頼関係が深まり、結果として人材の定着率向上にも寄与します。一人ひとりのスキルアップやキャリア成長にもつながり、組織全体の生産性向上が期待できるでしょう。

以上のように、ダイバーシティ&インクルージョンの推進は経営上の成果につながる重要な役割を果たすと言えます。多様性を活かすことは企業の社会的価値を高めるだけでなく、新たなビジネスチャンスの創出や持続的な成長の原動力ともなるでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョンの主な対象領域・種類

「多様性」と一口に言っても、その対象は多岐にわたります。均質的でないものは全てダイバーシティに含まれるとも言われ、その種類は厳密には無数に存在します。しかし企業が取り組む上で特に焦点となる主な領域としては、次のようなカテゴリが挙げられるでしょう。

ジェンダー(女性の活躍推進):
女性社員が出産・育児などライフイベントを経ても活躍し続けられる環境整備が重要です。2016年施行の「女性活躍推進法」では、企業に対し仕事と家庭を両立できる環境整備や採用・昇進での配慮を求めています。管理職に占める女性比率の目標設定、育児休業・短時間勤務制度の充実などを通じて、女性が能力を発揮しやすい職場を実現します。

年齢(シニア活用):
人口の高齢化に伴い、シニア世代の豊富な経験を活かすことも重要性を増しています。定年延長や再雇用制度の導入、シニア社員をメンターとして若手育成に活用するなど、世代間の協働を促進します。年齢にかかわらず成長できる風土>を作ることで、シニア層のモチベーション向上と人手不足の緩和につなげることができるでしょう。

障がい者雇用:
従業員数が一定以上の企業には「障害者雇用促進法」により法定雇用率(民間企業では2024年4月以降2.5%、2026年7月には2.7%に引き上げ予定 )が義務付けられています。障がい者の採用拡大や職域開拓はD&Iの重要分野です。障がい者ならではの視点はユニバーサルデザインの商品開発などにおいて大きな価値を生みますし、それぞれが得意な業務を担うことで組織の戦力にもなり得ます。企業は職場のバリアフリー化や特例子会社の設立などを通じ、障がい者が能力を発揮できる場を広げています。

国籍・文化(外国人の受け入れ):
国際化や海外市場の開拓には外国籍人材の活用が欠かせません。日本人にはない視点や発想を持つ外国人と協働することで、新たな企業文化の創造やイノベーション創出が期待できます。言語や文化の壁を越えて活躍できるよう、社内公用語の英語化や多言語対応の社内報などでサポートする企業もあります。

LGBT(性的マイノリティ):
性的指向や性自認の多様性に対する理解促進も重要なテーマです。社内で理解が得られないと、当事者にとって大きな苦痛となり優秀な人材を失いかねません。近年、日本でも2023年6月に「LGBT理解増進法」が成立し、国民の理解を深めるための施策が進められています。企業では研修やガイドライン整備、パートナーシップ制度(同性パートナーを配偶者同等に扱う福利厚生)の導入などにより、誰もが自分らしく働ける職場づくりを進めています。

以上のように、ダイバーシティ&インクルージョンの対象は多方面にわたります。自社の事業内容や組織課題に応じて、どの領域の多様性強化が必要かを見極め、適切な施策を講じることが大切です。

ダイバーシティ&インクルージョンを推進するには(進め方のステップ)

ダイバーシティ&インクルージョンによる効果(労働力確保、優秀な人材の獲得、イノベーション創出、従業員満足度向上など)は非常に大きいものですが、短期間で実現できるものではありません
重要なのは、まず「何のために行うのか」という明確なビジョンを持つことです。その上で長期的に継続できる仕組みと運用方法を構築していく必要があります。
早稲田大学大学院の谷口真美教授によれば、企業がダイバーシティに対して取る行動には段階があり、一般に以下のようなフェーズを経ると言われています。

・抵抗: 違いを拒否する(多様性を受け入れない)

・同化: 違いを同化させる(違いを無視する、防衛的)

・分離: 違いを認める(共存するが活かさない)

・統合: 違いを活かす(競争優位性につなげる)

(※谷口真美『ダイバーシティ・マネジメント 多様性をいかす組織』より)

日本企業の多くは残念ながら「抵抗」または「同化」の段階に留まっていると言われます。D&Iを推進するには、まず自社の現状がどの段階にあるかを見極め、一歩ずつ着実に前進することが重要だと言えるでしょう。

では、組織でダイバーシティ&インクルージョンを実現していくための具体的な進め方(ロードマップ)を、ステップごとに解説していきます。

1. 行動計画の策定(現状分析とビジョン設定)

まず自社の組織風土や人員構成の現状を定量・定性の両面から分析し、課題を洗い出します。どのくらい多様性があるのか、従業員の意識はどうか、制度や慣習にどんな偏りがあるか等を調査(アンケートやワークショップの活用など)して把握しましょう。

その上で「何のためにD&Iを推進するのか」という目的とビジョンを明確に定め、経営理念との関連付けを行います。長期的に継続できる具体的な目標(数値目標や達成指標)を設定し、全社で共有することが重要です。

なお、ダイバーシティやインクルージョンといった言葉自体は多義的なバズワードでもあるため、そのまま掲げるだけでは社員や管理職に誤解を与えかねません。D&Iの解釈は幅広く明確に定まっていないため、何をどう取り組めばよいのか社員が迷子になってしまう可能性もあります。
そこで自社の具体的な事業内容や課題に即して、自社なりのダイバーシティ&インクルージョンの定義・方針を構築しましょう。経営トップ自らがその解釈を示し認識を揃えることで、現場にも浸透しやすくなります。ビジョンを示すだけでなく、定期的・継続的なトップからのメッセージ発信も欠かせません。

2. 人事制度の整備と採用プロセスの見直し

多様な人材が最大限力を発揮できるよう、評価・報酬・昇進など人事制度を見直すことが重要な鍵となります。従来の人事制度は画一的な働き方を前提に構築されてきたため、柔軟な働き方に対応できる制度へ改革する必要があります。例えば以下の点に留意して制度整備を進めます。

a. 職務を明確にする

各ポストの役割・責任範囲を明示し、期待する役割を社員に周知する(何を求められているかを明確化)。

b. 公正で透明性の高い評価制度を構築する

業績やスキルに基づき>誰もが納得できる評価基準を設ける。昇進・昇給のプロセスも開示し、特定の属性による不利がないようにする。

c. 多様性を生かして適材適所を図る

人材の強み・特性を把握し、能力が最大限発揮できる部署・職務に配置する(人材のミスマッチを防ぐ)。

従来の制度からの改革には、社内から抵抗が生じる可能性もあります。そのため、制度変更の意図や新制度のメリットを丁寧に説明し、社員の理解を得ることが大切です。例えば「管理職は一律○年以上の正社員経験者から選抜」という規定を見直し、多様なキャリア背景の人にも門戸を開く場合、評価基準の公平さを示すことで不安や不満を和らげる工夫をします。

また、人材採用の面でも、募集要項や選考プロセスを精査し、性別・年齢等にかかわらず能力と適性に基づいた公平な採用基準を設定します。求人広告で多様性重視の姿勢を明言する企業も増えており、「誰でも活躍できる職場」であることを発信することが優秀層の応募につながります。

3. 勤務形態・職場環境の柔軟化(働き方改革)

様々な事情を抱える人材が働きやすい環境を整備することも欠かせません。育児や介護で時間に制約がある社員、障がいにより通勤が難しい社員などが活躍できるよう、勤務時間・場所に柔軟性を持たせます。例えばフレックスタイム制度や在宅勤務(テレワーク)制度を導入し、働く時間と場所の自由度を高めます。コアタイムなしのフルフレックス制度や週○日在宅勤務可とする企業も増えてきました。

また、外国人社員受け入れに際して問題となりがちな言語や慣習の壁への対策も検討します。社内公用語を英語にしたり、社内資料を多言語化するほか、日本人社員向けに異文化理解研修を用意するなど、スムーズなコミュニケーションを促す施策が有効です。
職場環境の整備にあたっては、実際に社員が使いやすい制度になっているか定期的に見直し、改善を続けることも大切です。制度は作って終わりではなく、現場の声を聞きながら運用を調整し、形骸化させないようにしましょう。

4. 社員・管理職の意識改革と教育(ダイバーシティ研修等)

多様性を受け入れ一体感のある組織風土を作るには、経営陣から現場社員まで意識改革を進めていく必要があります。受け入れる側(多数派)の意識変革はもちろん、これまで主流ではなかった側(マイノリティ人材)の意識向上も含まれます。例えば女性管理職の人数を増やすだけでなく、着任後に孤立しないようメンター制度を設けてフォローアップする、といった取り組みも有効です。

特に重要となるのが管理職層の意識改革です。制度や環境を整えても、現場を率いる管理職の理解やマネジメントスキルが低ければ、多様な部下の能力を活かせず意欲低下につながります。ダイバーシティに対応できるマネジメントスキル(例えば部下の事情に応じた柔軟な対応や、公平な評価・フィードバック、ハラスメント防止の知識など)は、D&I成功のカギを握る重要なポイントです。

しかし現実には、誰もが難しい人間関係に正面から向き合えるわけではなく、「自分が傷つくリスク」を恐れて面倒な対人対応を避けたいと考える管理職も少なくありません。その結果、そうした難局に立ち向かうことを厭わない管理職が不足するという課題も出ています。
ダイバーシティ&インクルージョンに関する管理職研修では、ハラスメント対策など基本知識の習得に留まらず、リーダーがリスクを取りながら困難に対処する重要性を認識させる教育も必要です。実際に最前線で奮闘する現場リーダーを会社が徹底的に支援し、困難な状況に立ち向かう姿勢を評価・後押しする仕組みづくりも欠かせません。

5. 継続的なコミュニケーションの促進

組織における少数派の社員は、その立場上どうしても意見を言いにくい状況に置かれがちです。このことを念頭に置き、日頃から誰もがコミュニケーションを取りやすい仕組みを作りましょう。
例えば社内SNSや情報共有ツールを導入して従業員間の横のつながりを強化したり、気軽に意見交換できるタウンホールミーティングを定期開催するといった施策が考えられます。

せっかく多様な意見を引き出して成果につなげても、一部の社員にしか共有されなければ全体の意識向上や一体感にはつながりません。社内報やイントラネットでロールモデル社員の活躍事例を紹介し、成功体験を組織全体で共有することも有効です。
こうした情報共有と対話の取り組みを継続することで、D&Iの考えが社内に浸透し好循環を生み出します。

なお、弊社ソフィアの調査では従業員エンゲージメントに最も影響を与える要素は「上司との関係」(40.9%)であり、次いで「同僚との関係」(32.2%)と、人間関係が大きなカギを握ることが明らかになっています。良好な上司・同僚との関係性、すなわち日頃のコミュニケーションが社員の会社へのコミットメント(愛着心や意欲)を高めるという結果です。

反対に言えば、コミュニケーションに問題がある職場ではいくら素晴らしい方針を導入しようとしても浸透しません。実際、弊社ソフィアの別の調査によれば「自社は社内コミュニケーションに問題がある」と感じている社員は全体の79%にも上りました。特に「部門間のコミュニケーション」に課題を感じる声が58%、「部門内(上司と部下)」で51%、「経営陣と社員間」で42%というように、組織の縦横両面で軋みが生じている実態があります。

また、その要因として「必要性に対する共通認識がない」(34%)、「組織の文化や体質」(33%)、「利害関係の違い」(32%)などが上位に挙げられており、問題意識の共有不足や旧来の企業文化がコミュニケーションの障壁になっていることが分かります。このように社内コミュニケーションの活性化こそがD&I推進の土台であることを念頭に置き、双方向の情報共有やフィードバック文化を醸成していくことが重要です。

ダイバーシティ&インクルージョンの具体的な取り組み例は?

最後に、企業が実践している>具体的なD&I推進施策の例をいくつかご紹介します。自社で取り入れていないものがあれば、ぜひ検討してみてください。

外国人の積極採用とグローバル人材活用:
多様性の推進と同時にビジネスの幅を広げる戦略として、外国籍人材の採用を積極的に行います。海外の採用イベントやインターンシップへ参加し、優秀な外国人留学生を獲得する企業もあります。社内公用語を英語にする、社内文書をバイリンガル化するなど、外国人が働きやすい環境を用意することも有効です。異文化を持つ人材の活躍は新しい市場への足掛かりにもなり、グローバル展開を目指す企業にとって大きな力となるでしょう。

女性の活躍推進(ダイバーシティ経営の中核):
女性社員が長期にわたりキャリアを継続し、リーダーとして成長できるよう支援します。具体的には、育児休業からの円滑な復職支援や在宅勤務制度の整備、時短勤務やフレックス勤務の導入など、仕事と家庭の両立支援策を拡充します。また、将来の女性管理職候補に対するメンター制度やリーダーシップ研修を実施し、女性比率の低い分野で積極登用を図る企業もあります。こうした取り組みにより「出産・育児後も活躍できる会社」として社内外にアピールでき、優秀な女性人材の流出防止・確保につながります。

障がい者雇用と職場環境の整備:
法定雇用率の達成はもちろん、障がい者が能力を発揮しやすい職場を作ることが重要です。例えば車いすユーザーのためのオフィスバリアフリー化、筆談や音声読み上げソフトの導入によるコミュニケーション支援など、合理的配慮を行います。さらには障がい者の強みを活かせる業務を切り出して任せることで、生産性向上に寄与させている企業もあります。実際、障がい者の視点はユニバーサルデザイン開発などにも不可欠であり、彼らの参加が新たな市場創造につながった例もあるのです。

LGBTへの理解促進と支援制度:
社員一人ひとりのセクシュアリティの違いが尊重される風土を醸成します。全社員向けのLGBT理解研修を実施し、職場で不用意な偏見や差別発言が起きないよう教育する企業が増えています。
また、同性パートナーを配偶者と同等に扱う福利厚生(結婚休暇や社宅への入居など)の整備、社員がカミングアウトしやすい窓口の設置、トイレの男女区分見直しなど、当事者が安心して働ける制度づくりも進んでいます。社内の理解が深まれば、LGBTの社員が理由なく離職してしまうケースを防ぎ、貴重な人材の定着につながります。

多様な働き方の推進:
ダイバーシティ推進の一環として、社員が各自の事情に合わせて柔軟に働ける制度を整えることも効果的です。例えば、育児・介護中の社員が働き続けられるようフレックスタイム制や在宅勤務制度を導入したり、週休3日制や副業許可によって働き方の選択肢を増やす企業もあります。場合によっては一定条件下で残業免除や時差出勤を認めるなど、一人ひとりの希望に合わせた対応が取れると理想的です。このような施策は障がい者や病気療養中の社員にとっても働きやすさを高める効果があり、結果として組織全体の生産性向上や人材定着率向上に結びつきます。

以上のような具体策を自社の状況に合わせて選択し、組み合わせていくことで、ダイバーシティ&インクルージョンの推進は実効性を帯びます。まずできることから小さく始め、効果を検証しながら拡大していくといったアプローチが現実的です。社内制度の導入だけでなく、社員一人ひとりの意識と行動の変革まで視野に入れ、継続的に取り組んでいきましょう。

先進企業の事例として、P&Gジャパンでは社内で培ったD&I推進の知見をもとに「D&I啓発プロジェクト」を立ち上げ、社外の他企業にも無償提供する研修プログラムを開発しました。その革新的な取り組みが評価され、日本の人事部「HRアワード2016」企業人事部門で特別賞を受賞しています。
また、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループでは「ダイバーシティをさらに発展させる次のステップ」としてエクイティ(公平性)に着目し、違いを価値に変える社内文化づくりを強化しています。このように他社の成功事例から学び、自社のD&I施策に生かすことも有効でしょう。

ダイバーシティ&インクルージョン推進上の課題と注意点は?

ダイバーシティ&インクルージョンを推進する過程では、いくつかの障壁や課題にも直面します。主なポイントと対応策を押さえておきましょう。

企業文化・意識の抵抗:
従来の日本企業の雇用慣行は、個の違いより集団の画一性を重視してきた背景があります。そのため「多様性を受け入れる意識が希薄な企業文化」はD&Iを妨げる要因の一つです。制度を整えても土台となる意識改革に苦慮するケースが多く見られます。まず経営層から現場まで、多様性の重要性を腹落ちさせるための対話や教育に取り組み、全社的な共通理解を醸成する必要があります。
また、「ダイバーシティ&インクルージョン=女性活躍のこと」と誤って認識し、経営戦略としての優先順位を下げてしまう企業もあるので注意が必要です。D&Iは女性支援だけに留まらず経営全般に関わる概念だと正しく理解し、会社の成長戦略の中核に据える姿勢が求められます。

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見):
誰もが自覚せずに抱えている固定観念や先入観も、D&I推進の大きな障壁です。たとえば「女性は管理職に向いていない」「シニアは柔軟性がない」といった思い込みは、その人の能力発揮の機会を奪いかねません。本人は「男女平等が大事」と理解しているつもりでも、無意識に決定の場面で女性を外してしまう、といったことが現実に起こり得ます。アンコンシャスバイアスそのものは誰にでも存在しますが、これが悪く働くと材登用や評価に歪みが生じ、不公平感を生みます。さらに無自覚の差別的発言が人間関係を悪化させ、職場の和を乱す原因にもなります。
対策としては、研修等で自身のバイアスに気付かせる機会を設け、「思い込み」に基づく判断をできるだけ排除するトレーニングを行うことが重要です。例えば管理職研修で採用シミュレーションを行い、無意識の偏見が意思決定に及ぼす影響を体感させる、といったプログラムが有効でしょう。日常的にも、意思決定時に複数人の視点を入れる、人事評価のダブルチェック体制を敷くなど、組織としてバイアスの影響を減らす工夫が大切です。

管理職の理解・スキル不足:
『日本の人事部 人事白書2017』による調査では、「D&Iを推進する上での問題・困難」として最も多く挙げられたのが「管理職の意識や能力の不足」(45.0%)でした。次いで「従来の一律的な価値観が重視される風土」(30.0%)、「個人の意識や能力の不足」(27.4%)、「柔軟な働き方が困難な状況」(26.5%)、「経営層の意識や能力の不足」(24.4%)と続いています。この結果から、多くの企業でミドルマネジメント層の意識改革や、組織に染み付いた従来の価値観からの脱却が難題になっていることがわかります。現場を指揮する管理職がD&Iの意義を理解し、自身も模範となって多様な部下を活かせるかどうかが、現実的な成否を分けます。対策としては、前述のような管理職研修や評価制度の見直しを通じて、「ダイバーシティマネジメントができる管理職」を育成・登用していくことが不可欠です。トップダウンだけでなくボトムアップの提案も拾い上げ、管理職と従業員が一体となって職場改革に取り組む仕掛けづくりが求められます。

社内コミュニケーションの壁:
D&I推進において情報共有や対話の不足は大きな妨げとなります。先述のとおり弊社調査でも約8割の社員が社内コミュニケーションに問題を感じており、特に部門間・上下間の疎通不足が顕著です。
部門ごとの部分最適に陥り「他部署の事情は知らない」という空気や、現場と経営の温度差があるままでは、多様性推進の取り組みも現場に響きません。まず共通の問題意識や目的意識を醸成するために、経営ビジョンやD&I推進の意義を繰り返し発信し続けることが重要です。「なぜ今これに取り組むのか」が全社員で共有できれば、ベクトルを揃えて協力し合いやすくなります。また日頃から部署間の交流イベントや社内報での情報発信を行い、部署や立場を越えた顔の見える関係を築くことも有効です。コミュニケーション活性化は即効性のある施策ではありませんが、D&I推進を下支えする基盤として最優先で強化すべき取り組みと言えるでしょう。

これらの課題を乗り越えるには、D&Iに取り組む真の意味と享受できるメリットを経営トップ含め組織全体で正しく理解した上で、D&Iを企業の成長戦略の中核に据えていくことが求められます。少子高齢化や人材不足、グローバル競争の激化など多くの経営課題に直面する今だからこそ、ダイバーシティ&インクルージョンを「コスト」ではなく「投資」と捉え、未来への戦略として位置付けることが重要です。

まとめ

ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様性を受け入れるという意味です。性別・年齢・国籍・価値観など様々な違いを持つ人材がお互いを認め合い、それぞれの能力を最大限に発揮できる環境を作る取り組みを指します。

実現することで組織が健全になり、革新的な発想が生まれ、収益が上がるといったメリットが期待でき、社会における企業の評価も向上するでしょう。そしてダイバーシティ&インクルージョンで最も重要なのはコミュニケーションです。経営トップから現場まで一貫したコミットメントを持ち、日々の対話を重ねることで、ぜひ貴社でも積極的にD&Iを推進してみてください。

ダイバーシティ&インクルージョンとは?意味や効果についてよくある質問
  • ダイバーシティとインクルージョンの違いは何ですか?
  • 「ダイバーシティ(多様性)」は組織に様々な人材を受け入れることで、「インクルージョン(受容)」は受け入れた多様な人材が安心して能力を発揮できる一体感ある組織を作ることを指します。それぞれ意味は異なりますが、両輪として機能させることで真の効果が生まれます。多様な人材を採用するだけでなく、全員が活躍できる環境を整えてこそ、生産性向上やイノベーション創出といった成果につながるのです。

  • ダイバーシティ&インクルージョン推進は何から始めるべきでしょうか?
  • 自社の現状把握とビジョン設定から始めるのがおすすめです。まず社内の多様性や課題を洗い出し、「なぜD&Iに取り組むのか」という目的を明確にします。その上で経営陣がコミットし、具体的な行動計画を策定しましょう。例えば、管理職比率や採用方針の目標値を定めたり、人事制度の見直し項目をリストアップするなどです。そして、小さな施策から試行し、効果を検証しながら徐々に施策を拡大していくとよいでしょう。重要なのはトップの発信力と継続性です。経営トップ自らメッセージを出し続け、現場の声に耳を傾けながら進めることで、社員の理解と協力を得やすくなります。

  • ダイバーシティ&インクルージョン導入時の注意点やありがちな失敗はありますか?
  • 一度にすべてを変えようとせず、段階的かつ着実に進めることが成功のポイントです。ありがちなのは、表面的にスローガンや制度だけ導入して満足してしまい、現場の意識や運用が追いつかず形骸化するケースです。これを避けるため、導入段階から現場社員の声を聞き、フィードバックに基づいて制度を改善する姿勢が大切です。
    また、管理職の理解不足も失敗の原因になりがちです。現場を指揮するマネージャーが多様性の意義を理解しないと、せっかくの制度も活かされません。管理職向け研修や評価制度の見直しを通じて、マネージャー自身がD&Iの担い手となるよう促しましょう。
    さらに、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)への対処も重要です。本人に悪意はなくても固定観念にとらわれた言動が障壁となることがあるため、社員研修などで偏見に気づかせる機会を設け、職場の風通しを良くしておくことが肝要です。
    最後に、コミュニケーション不足にならないよう注意してください。制度導入後も定期的に意見交換の場を設け、現場の声を拾い上げることで、「絵に描いた餅」にならず実効性のあるD&I推進が可能になります。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。