ファシリテーションとは?意味や目的、必要なスキルを徹底解説!
最終更新日:2026.05.15
目次
効率的な会議を行うために重要なのが「ファシリテーション」です。ビジネスにおけるファシリテーションとは、会議や研修などの場をデザインして目的達成に導くことを言います。しかし、「会議を開いたものの、思ったよりも進まなかった」「納得いく結論が時間内に出なかった」という経験をしているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
本記事では、議論を目的達成に導く「ファシリテーション」という用語について、その歴史や目的、メリットから実践に役立つスキル体系までを網羅的にご紹介します。組織のサイロ化を防ぎ、イノベーションを生み出す組織づくりを目指す大企業の人事部門長や研修企画担当者の方は、ぜひチェックしてみてください。
ファシリテーションとは
ファシリテーションとは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。まずは、言葉の定義について詳しく解説します。
ファシリテーションの意味
ファシリテーションは、英語で「facilitation」と表記します。会社や学校、その他のコミュニティにおいて、中立の立場で関わり、円滑な活動を支援することを指しているのです。そしてファシリテーションの役割を担う人を「ファシリテーター」と呼びます。
ファシリテーションは、1960年代〜70年代にアメリカで開発されました。グループ活動を効率的に行うための手法として、ビジネスや教育の場で活用され定着しています。アメリカを飛び出し世界的にファシリテーションという言葉が認識されてきたのは、21世紀になってからです。
ファシリテーションの定義
ファシリテーションとは、グループやチームの活動を支援し、円滑に進行させるためのプロセスや手法のことを指します。ファシリテーターは、このプロセスを導く役割を果たし、参加者が効果的なコミュニケーションや協力を通じて目標達成に向けて協力するのを支援しなければなりません。具体的には、ミーティングやワークショップのプロセスを設計し、目標やアジェンダを明確化したり、参加者同士のコミュニケーションを促進したり、意見交換や情報共有を支援します。日本ファシリテーション協会(FAJ)の定義によれば、集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習といった、あらゆる知識創造活動を支援し、促進する働きこそがファシリテーションの核心です。
歴史的な背景を紐解くと、ファシリテーションは1960年代から70年代のアメリカにおいて、人間教育や体験学習の分野で開発されました。当初は「エンカウンターグループ」と呼ばれる、グループ体験を通じて自己成長を促す心理学的なアプローチの中で、参加者への働きかけを行う役割としてファシリテーターという呼称が用いられ始めました。これと同時期に、コミュニティ・デベロップメント(地域開発)の分野においても、市民が主体となって地域の課題を話し合うワークショップの手法として体系化されていきました。
その後、1970年代に入るとビジネス分野への応用が進み、会議を効率的に進める手法や、チームによる現場主導型の業務改革(ワークアウト)の推進役として企業内に定着していきます。日本においても品質管理(QC)活動のリーダーが実質的なファシリテーションを行っていましたが、専門技能として明確に認識されるようになったのは21世紀に入ってからです。現在では、ビジネスのみならず、まちづくりなどの社会系分野、そして学校教育や参加型研修などの人間系分野へと、その応用範囲は大きく広がっています。
ファシリテーションは、グループやチームの協力を最大限に引き出し、効果的な意思決定や問題解決を支援する重要なスキルです。そのため、異なる背景や視点を持つメンバーが協力する場でとくに役立ちます。しかし、突き詰めれば、コミュニケーションは勘違いの連続となる場合があります。相手の理解を確認することは難しく、複数の参加者が関与する場合、コミュニケーションの整理が重要です。ファシリテーションは、不可能性を扱う役割であり、コミュニケーションのプロセスに介入して不確かな要素をより確かなものにします。ただし、ファシリテーターはコミュニケーションの当事者ではなく、不可能性を管理して効果的なコミュニケーションを支援する役割を持つということを理解しておきましょう。
ファシリテーターと司会進行・リーダーの違い
ビジネスの現場では、ファシリテーターと似たような役割として「司会進行」や「リーダー」などが挙げられますが、それぞれの役割や目的には明確な違いが存在します。企業内研修を企画する人事担当者としては、これらの役割の違いを明確に定義した上で育成プランを構築することが重要です。
以下の表は、各役割が会議やプロジェクトにおいてどのような焦点とスタンスを持っているかを比較したものです。
| 役割 | 目的と焦点 | アプローチのスタンス | 成功の定義 |
| ファシリテーター | プロセスの進行と支援に焦点を当て、参加者全員の納得感ある合意形成を導く。 | 中立的な立場を保ち、自らは意思決定の当事者にならない。意見を引き出し、整理する。 | 参加者自身が自律的に結論を導き出し、その結果に深く納得している状態。 |
| 司会進行(MC) | アジェンダ通りに時間内でプログラムを進行させることに焦点を当てる。 | 決められた台本や段取りに沿って場を仕切る。議論の深掘りや心理的支援には深く関与しない。 | 予定された時間内に、全ての議題が滞りなく処理されること。 |
| リーダー | 組織やチームの目標達成と、最終的な意思決定に責任を持つ。 | 自身の意見やビジョンを提示し、メンバーを牽引する。最終的な決定権を保持する。 | 組織の目標が達成され、業績やプロジェクトの成果が最大化されること。 |
| コンサルタント | 専門知識に基づき、課題に対する最適な解決策(答え)を提供することに焦点を当てる。 | 外部の専門家として指導や助言を行う。自らが答えを持ち、それをクライアントに提示する。 | 提供した専門的な解決策によって、クライアントの課題が解決されること。 |
ファシリテーターは、会議における議論の内容(What)ではなく、議論の進め方や参加者の関係性といったプロセス(How)に責任を持ちます。参加者の中にすでに存在している知識や経験、アイデアを引き出し、それらを融合させて新たな価値を創造する「知識創造活動」の支援者として機能する点が、指示命令や答えの提供を主とする他の役割とは大きく異なります。
ファシリテーションの目的
ファシリテーションの最大の目的は、会議などでメンバーの「腹落ち感」を醸成することです。会議を行う上で理想的な状態は、参加メンバー各々の知恵とやる気が引き出され、共同しながら積極的に課題に向き合うようになる状態です。
そのような状態を作るために、ファシリテーターはメンバーの「腹落ち」を生み出す必要があるのです。参加メンバーが前向きに課題解決に取り組み始めれば、専門性の高い議論や、多様性に富んだクリエイティブな議論が可能になります。このようにファシリテーションひとつで、グループの意思決定に大きな影響を与えます。
ここでは、以下の3つの観点でファシリテーションの目的を解説していきます。
- 情報伝達と集約
- 理解と共感の促進、関係構築
- 合意形成と意思決定
情報共有や情報集約
会議やディスカッションの初期段階では、参加者が効果的にコミュニケーションするための前提や情報の共有を整えるためにファシリテーションが行われます。情報の共有と集約では、現場での情報のブレを最小限に抑えるためにファシリテーターが導入されます。また、複数の参加者が持つ情報を引き出し、議論や会議に必要な情報を明確にするため、言葉の定義や意味合いを整える役割も果たします。
ここで重要なのは、情報の定義や意味のずれを解消することです。参加者は議論やディスカッションの場で、言葉や非言語的なコミュニケーションを通じて交流します。人間は言葉に反応する生き物であり、発言者の意図に基づいて情報を受け取ります。そのため、情報の誤解や誤解釈はよく起こります。
こうした背景から、ファシリテーターはリアルタイムで行われる複数の参加者間のコミュニケーションのブレに注目しなければなりません。
理解共感促進や関係構築
本音と建て前の二重構造は、コミュニケーションの不可能性の根本的な原因です。この二重構造が存在しなくなることは基本的にありません。
とくに、会議やディスカッションにおいては、表面上の言葉や行動を基盤にして議論が行われます。しかし、実際には目に見えない相手の本音や感情、価値観が存在しているのです。ファシリテーターは、この点に注目する必要があります。質問や問いかけ、要約、共有、フィードバックなどの手法を用いて、見えない部分を言語化し共有する役割が求められます。
話し手や議論の雰囲気、規範に対する否定的な感情、議題の内容、参加者の個々の要因など、さまざまな要素によって、ネガティブな感情を引き起こす可能性があります。ファシリテーションは、そのような中で感情や価値観を目に見える形に変換し、言語化や問いかけをすることで、その感情を明確にする役割を担っています。
合意形成や意思決定
議論やディスカッションの目的は合意形成です。そのため、ファシリテーションの目的は究極的には合意形成となります。
しかし、全員が完全に納得できる着地点を見つけるのは難しく、ある程度の妥協が必要です。ただ、内容を十分に理解していない状態であっても、なんとなく良さそうだから合意してしまう「付和雷同」のケースが起こり得るため、注意が必要となります。ビジネスの制約下では、合理性と心理的な納得感というような、相反する要素が存在します。これがファシリテーションの焦点です。
十分な時間をかければ、問題設定や解決策、アイデアが浮かびあがる可能性もあります。加えて、関係性を向上させることもできます。しかしながら、ビジネス環境では、リソースや状況が限られているため、合理性と心理的な納得感の相克を制約の中で行うことが求められます。
なぜ今ファシリテーションが注目されているのか?
ファシリテーションは、高度なテクニックです。しかし、会議の円滑な進行にファシリテーターは今や欠かせない存在と言っても過言ではありません。ここからは、ファシリテーションが注目されている理由について、大企業を取り巻く環境変化の観点から深く分析します。
グローバル化による日本における経営の在り方の変化
日本には、長らく企業経営を支えてきた「3種の神器」があります。終身雇用制度、年功序列型賃金体系、そして企業内組合です。これらの固有の制度は、海外における企業の制度とは異なるもので、大きく差別化された機能です。しかし、グローバル化が進む中で、日本的な経営が世界には通じないという壁にぶつかるようになりました。そこで多くの企業は従来のやり方を一部崩し、多様な感性を取り入れたり、実力主義を推進したりと変化を起こしてきました。結果、企業を構成するメンバーや企業姿勢が変わってきています。
これまでは、同じような価値観や属性の人同士で組織が構築されていたため、「阿吽の呼吸」でコミュニケーションを取れていたところが、グローバル化や中途採用の増加によって難しくなりました。結果、その場をまとめたり、活発な意見が飛び交う状態にするためには、異なる前提を持つ人々を繋ぐファシリテーターの存在が欠かせなくなったのです。
ビジネスの構造の複雑化・サイロ化
さらに現代は、「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる時代です。これは、Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字をとったワードです。個人やビジネス環境、市場、組織が変化を続け、将来の予測が困難である状況を意味する造語となります。
このような状況において、ビジネスはサイロ化しています。サイロ化とは、組織や情報がそれぞれ孤立していて、共有されていないことです。たとえば部門や部署間での連携が取れていない「組織のサイロ化」や、システム間の連携がされていない「システムのサイロ化」が挙げられます。サイロ化は言い換えれば、コミュニケーションが困難になっている状態と言えるでしょう。十分な連携が取れていないメンバーが集まる会議などでは、ファシリテーションのスキルが極めて重要な役割を果たします。
この傾向は、近年の独自調査によっても裏付けられています。弊社ソフィアの調査では、従業員数1,000人以上の大企業において、リモートワークに代表される働き方の多様化により、これまでの対面を前提とした情報共有や意思疎通の手法が限界を迎えていることが実証されています。
弊社ソフィアの調査では、大企業特有の「組織の多層化」や「部門間の分断」という従来からの課題が依然として重くのしかかっていることに加え、ナレッジの分散や活用不足という新たな課題が顕在化していることが明らかになっています。企業はこれに対応すべく、1on1ミーティングやエンゲージメントサーベイといったマネジメント施策を導入していますが、現場の管理職にファシリテーションスキルが不足しているため、その運用や活用の精度には大きなばらつきが見られるのが実態です。また、社内イベントや雑談といった非公式なコミュニケーションの機会も変化しており、多様化したコミュニケーション手段の位置づけを再整理し、組織内の対話を効果的に設計するファシリテーターへの期待がかつてなく高まっています。
多様性の中で相手との差異を埋めなければならない
昨今、多様性をいかに大切にするかが問われています。異なる文化や考え方、言語、価値観を持った人同士のやりとりが頻発し、多様な意見やアイデアが出てくるでしょう。それらをうまくまとめて合意形成するためには、従来以上のスキルやエネルギーが必要です。意見が対立し、葛藤が生じることもあるでしょう。それらを価値あるアイデアに変換しながら意思決定をサポートするのが、ファシリテーターなのです。
チームや小集団が価値の源泉であり問題の源泉
昨今の企業ではアジャイル開発が求められています。スピーディーにシステムを作ることでより高次の課題解決を行うのが目的ですが、これはITやソフトウェアなどの変化の多い業界のみならず、既存事業を扱う部署などにおいても同じ傾向が見られます。迅速な意思決定を繰り返し、コミュニケーションを取り合いながら、変化の多い時代に対応していきます。
「大きなイノベーションも短期の小さなチームから生まれていく」という意識は、めまぐるしい変化の渦中にある現代で成功するために不可欠です。強固なチームワークを発揮することで、小集団から価値を生み出していく必要があります。そのプロセスをサポートし、対立を建設的なエネルギーへと変換するのがファシリテーションのスキルです。
ビジネスにおけるファシリテーターの役割
ビジネスにおいてファシリテーターは、多様性や複雑性を調整する重要な役割を担っています。事業や人が異なる考えのもとで関わると、物事は進まずに破綻してしまう恐れがあります。そこをファシリテーターのスキルによって調整するのです。
具体的には、「共感できるテーマを据え置く」「うまくアイデアの共通性を見つける」「いずれかを説得してみせる」など、媒介者として行動します。ファシリテーターは、スムーズで活発な話し合いには欠かせない存在です。そのため、自社のメンバーからファシリテーターを決める他にも、組織開発の初期段階などでは外部のコンサルティング会社に依頼するケースもあります。
ファシリテーターが真に機能するためには、チーム活動における「外面的なプロセス」と「内面的なプロセス」という2つの次元に同時に働きかける役割を理解する必要があります。外面的なプロセスとは、会議の段取りや進行スケジュール、アジェンダの設計といった目に見える形式的な枠組みを指します。これらは会議を滞りなく進めるための前提条件となります。
一方で内面的なプロセスとは、参加メンバーの頭の中にある思考の筋道(論理構成や前提知識)や、心の中で起きている感情の動き、さらにはメンバー間に横たわる心理的な関係性やパワーバランスを指します。ビジネスの現場において、最終的な成果の質やメンバーの納得感を大きく左右するのは、実はこの目に見えない内面的なプロセスの方です。
チームの成果を高めるためには、メンバーの思考の枠組みそのものを変革する必要があります。これには、コーチングのように自己の内面に深く向き合う「内省」のアプローチも有効ですが、ファシリテーションは他者との相互作用を活用します。多様な意見とぶつかり合い、自分との違いを知るプロセスを通じて、個人の固定観念を打ち破り、組織全体の知識創造を促進させることがファシリテーターの真の役割なのです。
ファシリテーションに必要な4つのスキル
ここまで、ファシリテーションの意味や重要性について解説してきました。ここからは、ファシリテーション能力とは一体どのようなスキルなのか詳しく解説していきます。かつては観察力や論理的思考力など個別の能力として細分化されて語られることが多かったスキル群ですが、現在では日本ファシリテーション協会(FAJ)などの定義に基づき、大きく4つのコアスキルとして体系的に整理されています。
一般的なファシリテーションに必要な能力体系は以下の通りです。
| スキル分類 | 具体的な能力と実践内容 | 求められる資質・周辺スキル |
| 場のデザインのスキル | 会議の目的を設定し、最適な参加者を選定し、議論の進め方を設計します。参加者が安心して発言できる物理的・心理的な環境(場)を構築し、共同意欲を高めるチームビルディングを行います。 | 設計力、事前準備力 |
| 対人関係のスキル | 多様な意見を出し合う「発散」のプロセスにおいて、参加者の発言を深く傾聴し、感情の動きを観察します。適切な質問を投げかけることで本音を引き出し、活発な意見交換を促します。 | 「対人」・「対場」の感受能力、複数のコミュニケーション能力 |
| 構造化のスキル | 飛び交う複数の意見を論理的に整理し、議論の全体像を「見える化」します。矛盾や重複を解消して論点を絞り込み、複雑な情報をシンプルに構造化して参加者の認識を統一します。 | 論理的思考力、情報整理力 |
| 合意形成のスキル | 意見の対立(コンフリクト)を適切に扱いながら、最適な選択肢を選び出す「収束」のプロセスを担います。全員が納得できる結論へと導き、確実なネクストアクションを定めます。 | 問題解決力、場をまとめる力 |
これら4つのスキルを土台として、限られた時間内で結論に導くためのタイムマネジメント能力や、専門的な議論にキャッチアップするための一定の専門性も求められます。
とくに「対人関係のスキル」において中核となるのが「傾聴力」です。優れたファシリテーターは、心理学者カール・ロジャーズが提唱した「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」という3つの原則を体現しています。相手の言葉を評価や判断を交えずにそのまま受け止め、話者の目線に立って感情に寄り添うことで、初めて会議の場に心理的安全性がもたらされます。
また、相手の話を引き出す技術として、参加者とファシリテーターの発言比率を「7:3」に保つことや、相手の言葉を繰り返す「バックトラッキング(オウム返し)」、相手の身振りや声のトーンに合わせる「ペーシング」などの具体的な技術も活用されます。これにより、参加者との間に深い信頼関係(ラポール)が形成され、普段は発言を控えているメンバーからも革新的なアイデアを引き出すことが可能になります。
ファシリテーターに必要なフレームワークとツール
ファシリテーターが前述の構造化のスキルや対人関係のスキルを最大限に発揮するためには、思考を整理し、議論を視覚化するための具体的なフレームワークやツールを活用することが極めて有効です。ここでは、実践の現場で頻繁に用いられる代表的な手法を解説します。
ファシリテーション・グラフィック
議論の全体像を参加者全員で共有するための強力なツールが「ファシリテーション・グラフィック」です。これは、ホワイトボードや模造紙、あるいはオンラインのコラボレーションツールを用い、飛び交う意見をリアルタイムで文字や図形、矢印などを使って可視化していく手法です。議論が空中戦になることを防ぎ、参加者の認識のずれをその場で修正できるため、構造化のフェーズにおいて非常に重要な役割を果たします。
アイスブレイク
会議の冒頭で参加者の緊張をほぐし、発言しやすい空気(場のデザイン)を作るためには「アイスブレイク」の導入が効果的です。アイスブレイクには、心身をリラックスさせる「ほぐし系」、互いの背景を知る「紹介系」、そして本題に向けた気づきを与える「悟り系」の3種類があります。自己紹介の工夫や簡単なワークを取り入れることで、初対面や部門の異なるメンバー同士であっても心理的障壁が下がり、その後の議論が活発化しやすくなります。
ブレインストーミング
多様な意見を効率よく集めるためには、「ブレインストーミング」の枠組みも欠かせません。批判を厳禁とし、質より量を重視して自由にアイデアを発散させるこの手法は、ファシリテーターが対人関係のスキルを発揮して参加者から知恵を引き出す際の基本ツールとなります。
シックスハット法
議論が行き詰まった際や、多角的な視点が必要な場面で威力を発揮するのが「シックスハット」(6つの帽子)というフレームワークです。これは、参加者が意図的に「客観的」「感情的」「批判的」「楽観的」「創造的」「管理的(プロセス全体を俯瞰・制御する)」という6つの異なる視点の帽子を被る(演じる)ことで、議論の方向性を強制的に切り替える手法です。参加者は個人の立場や利害関係から離れて自由に発言できるため、斬新なアイデアが生まれやすくなります。
ファシリテーションとは介入と放任の境界地を行ったり来たりすること
議論への介入と放任のバランスも非常に重要です。ファシリテーターが議論に積極的に介入すると、会議の進行が参加者ではなくファシリテーターによって決まってしまい、参加者自身の結論への納得感が薄れてしまいます。逆に、完全に放任してしまうと、議論が盛り上がらず、ただの会話になる可能性があるうえ、対立が生じて参加者の関係性が悪化してしまうかもしれません。
このように、介入と放任のバランスは非常に難しいため、事前の準備が重要になります。たとえば、合意形成の段階を段階的に設けるなど、さまざまなシナリオに対応できる計画を立てることで、会議への介入と見守りをうまく両立させることが必要です。
また、コミュニケーションが良好であれば、結論が出ていなくても議論の内容(「意見が言えたか」「納得したか」「有意義だったか」など、参加者の気持ちや感情について)を振り返ることで、会議の質は大いに上がるでしょう。参加者が腹落ちしている状態をつくり出すということは、実際には「腹落ち」したという感覚を誘引しているかもしれません。参加者自身が決断したという納得感を持つことが重要なのです。
最終的には、ファシリテーターが必要なくても、参加者が自ら議論できる状況を作り上げることが、ファシリテーションの理想的な形です。
ファシリテーション導入の具体的なメリット
ファシリテーションは組織にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。ここからは、企業内研修や組織開発の観点から、導入による具体的な効用を詳しくチェックしていきます。
解像度の高い問題定義と問題解決
ファシリテーションがうまく行われていると、解像度の高い問題定義と問題解決が可能になります。会議などで意見が活発に出るようになり、意見が出なくて会議が進まない、ぼんやりとした意見ばかりで議論が収束しないといった事態を回避できる可能性があります。会議の時間を効率よく使えるというメリットはもちろんのこと、専門性の高いメンバーと深い議論が繰り広げられるので、最終的な問題解決のレベルが高くなることに期待できます。
複雑で専門的な議論や多くの制約が存在する状況では、高いストレスがかかり、各個人の専門性が強力な葛藤を引き起こす危険性があります。逆に言えば、このような状況で適切なファシリテーションが行われることで、革新的で力強い議論が生まれ、イノベーティブでパワフルなアイディアが発展する環境が構築されることでしょう。
新しいアイデアの創出
ファシリテーションでは、さまざまな立場、考え、価値観を持った人が意見を交換します。他人の思考や発想に触れることで、新しいアイデアが生まれることも多いでしょう。専門性の高いメンバー同士の意見は、イノベーティブなアイデアに発展する可能性も期待できます。
ビジネスにおいてアイデアを生み出す場では、すべての参加者が当事者意識を持っています。しかし、とくに複雑で専門的な問題に取り組む場合、参加者はすでに多様なアイデアを実践した経験豊富な専門家です。このような状況で、本当に革新的なアイデアが生まれるのでしょうか。斬新で異彩を放つアイデアを生み出すためには、問題や課題から一定の距離を置くことが必要です。たとえば前述の「シックスハット」を活用し、無責任な第三者や批判者の役割を演じることで、新しい視点を意図的に創出します。斬新なアイデアや革新的な視点は、無責任な立場の人々から生まれることがあるのです。ここでファシリテーションが重要な役割を果たします。狭まった視野から一定の距離を保てることは、ファシリテーションにおける大きなメリットです。
ネクストアクションの明確化
また、会議でいい結論が出ても、実際に行動に反映されるのが遅ければ、勢いを逃してしまいます。ファシリテーションでは、話し合いの結果導かれた結論に対して「次に誰が、何をどうするか」などのネクストアクションが明確になるよう導きます。参加メンバーが結論に腹落ちしている状態で全体に共有されるため、確実に実行に移すことができます。
現代のビジネスにおいて、決定事項や合意形成は、本質的には仮説に過ぎないと言えます。合意形成の質を向上させるファシリテーションは重要ですが、同時にそのプロセスが仮説であるという軽やかさも保持することが重要です。実際には、合意形成を迅速に繰り返し、行動や実践の回数を増やす必要があります。
コミュニケーション能力の向上
副次的な効果として、組織全体のコミュニケーション能力が向上することも挙げられます。ファシリテーションでは、参加メンバーの意見を引き出し、対立する案が出てきた場合には丁寧に調整します。これにより、メンバーは高度なコミュニケーションを行うことができ、一人ひとりのコミュニケーション能力を高めるよいトレーニングにもなるでしょう。学習という意味でも、ファシリテーションがチームに大きく寄与するのです。
また、ファシリテーターを務める人は、とりわけ、コミュニケーション能力を磨きあげることができるのではないでしょうか。参加者自体のコミュニケーション能力が低い場合は、共に学習して進めましょう。とくに重要なのは振り返りです。ファシリテーションの中で、参加者同士がコミュニケーションの過程や結果を振り返ることが大切です。たとえば、「今回の結論に対する納得度」について約10分間振り返るだけでも非常に効果があります。このような小さなことの積み重ねが、コミュニケーション能力の向上につながります。
リーダーシップスキルの向上
同時に、ファシリテーターを担う人はリーダーシップスキルが向上するという恩恵も受けます。会議の進行を調整するのにもリーダーシップは必要ですし、ときにファシリテーターは、参加者が目標をしっかり達成できるか、動き方についてサポートすることもあります。とくに職場やチーム内など、複雑性と多様性が存在する中で、リーダーや管理職はファシリテーション能力が重要です。リーダーシップスキルは、どのような職場でも重宝される基本的かつ重要なスキルです。ファシリテーションによってリーダーシップスキルを高めることができれば、会議以外の場面でもチームをまとめる活躍が期待できるでしょう。
リーダーシップについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
合意できない、納得できないことを解決する手段がファシリテーション
さらに、部門間、チーム間の葛藤処理においても極めて有効です。ファシリテーションは、対立する意見や価値観をうまく調整します。会議ではよく、異なるチームのリーダー同士が対立したり、葛藤を抱えたりするケースが見られます。このような葛藤をうまく処理し、踏み込んだ議論を可能にしてくれるのがファシリテーターの存在です。とくに、ファシリテーターは中立的な立場を保ち、公平なプロセスを導く役割を果たします。これにより、異なる部門やチーム間での意見の対立が和らげられ、対話が促進されます。
会議の参加者全員、100%共感し理解し合うことなどありません。どのような場合でも、個人的な勘違いも含めて、納得できないことはあるものです。対立したときに、互いが理解しあっていて当然だと考えてしまうと、軋轢が生じます。
そうではなく、合意できない、納得できないことを解決する手段がファシリテーションであり、合意できないことから新しい問いやアイデアが浮きあがって来ると考えれば、コミュニケーションはいっそう深まります。専門性も違えば、ビジネスにおける個人の価値観も、立場もそれぞれです。「部門が違うから」「知らない上司だから」と距離をとるのではなく、互いが真剣に向き合うことをファシリテーターは支えます。
ファシリテーション自体は、コミュニケーションの不可能性やジレンマに立ち向かうための機能であり、ジレンマを完全に解決することはできないことを示しています。しかしながら、ジレンマや不可能性に対峙し、受け入れていく姿勢やスタンスが重要です。コミュニケーションとファシリテーションは共通しており、デカルト以来考えることが存在の証明とされてきました。しかし、考えたことが他者に伝わるためには話すことが必要であり、ここからコミュニケーションが始まります。
ビジネスにおいて、複数の利害関係者や社員を協力させることは重要な要素です。そのため、これをうまく行う能力を持つことが職場やプロジェクトチーム、部門間の成功に近づける確かな要因と言えます。
実践的なファシリテーションの流れ
ファシリテーターが質の高いパフォーマンスをしていれば、会議の充実度も大きく変わるものです。実際にファシリテーションを行う際は、どのような流れでどのような振る舞いをするのがよいのでしょうか。ここでは、準備段階から終了後のフォローまでの一連のフローを解説します。
まずファシリテーターは、会議の責任者やオーナーとの関係作りをする必要があります。自分の具体的な役割や責任を理解し、責任者などとコンセンサスを形成しておきましょう。会議の前に、参加者の顔ぶれからある程度その内容を予測し、準備しておくこともファシリテーターの重要な役割です。具体的なアジェンダの作成や、時間配分の設計といった「場のデザイン」は、会議が始まる前にすでに完了している必要があります。
実際に会議が開始されてからは、心理的安全性を担保し、発言しやすい場を作りましょう。前述のアイスブレイクなどを活用し、全員が会議の目的やゴールについて同じ認識を持った状態でスタートさせることが肝要です。その後は、対人関係のスキルを駆使して多様な意見を引き出していきます。
必要があれば参加者の発言を要約し、ファシリテーション・グラフィックを用いて可視化していきます。対立や緊張が生じる場面では内容を理解して適切に対処し、コンフリクト・マネジメントの手法を用いて意思決定のサポートをしていきます。出された意見をまとめながら、参加者がゴールを見失わないようにするのがファシリテーターの重要な役割です。
議論が収束に向かった後は、全員が納得できる形で合意形成を行い、最後に決定事項とネクストアクションを明確にします。そして、会議の最後には参加者全員でプロセスを振り返る時間を設けることで、次回の会議の質をさらに向上させることができます。
実践的なファシリテーションスキルの習得方法
ここまでご紹介したファシリテーションスキルを実践の場で使いたい場合には、どうすればよいのでしょうか。昨今はファシリテーションの注目が高まっていることもあり、書籍や動画を通してファシリテーションの実践的な方法を知ることは簡単です。
しかし、学んだだけでは実際にうまく活用できないことも多々あります。ファシリテーションは、多様なスキルを同時に駆使して臨機応変に対応するものなので、知識があるからと言ってできるとは限らないのです。表面的な学習だけにとどまらず、実際に実践の場で経験を重ねていくことが、上達には欠かせません。
ファシリテーションスキルを効率的に身につけたい場合は外部機関に頼るのもおすすめです。理論を学びながら、同時に実践とコーチングを重ねることで、専門家からの客観的なフィードバックを得ながらスキルを自分のものにしていきましょう。ロールプレイング研修などを通じて「第三者の視点」を取り入れることは、自分自身の無意識な進行の癖に気づく絶好の機会となります。
ビジネスにおいてファシリテーション自体は、必要性に駆られており、そのスキルはリーダーや管理職の基本的なスキルとして重要性を増しています。職場内でのビジネスの複雑性や人々の多様性が増す中で、外部の専門的なファシリテーターを毎回呼ぶことは、コスト的にも物理的にも難しい状況があります。そのため、大企業の人事・研修企画担当者としては、これらのファシリテーションの能力を研修プログラムを通じて組織内部に内製化していく仕組みを構築することが理想的です。
まとめ
ビジネスにおけるファシリテーションとは、会議や研修などの場をデザインして目的達成に導くことです。参加者のアイデアや主張をうまく引き出し、議論を盛り上げつつ、全員が納得できるような合意形成に導くことがファシリテーターの役割です。
変化が早く将来の見通しが不透明な現代社会では、多様化した価値観や立場、部門が連携しながら課題に向き合うことが必要です。表面的な進行管理に留まらず、参加者の内面的な心理的プロセスに働きかける高度なファシリテーションが求められています。
実践的なファシリテーションスキルを持つことで、会議が円滑になり、スピード感ある課題解決や開発に役立つでしょう。人事部門や研修企画担当者は、組織全体でファシリテーションの文化を醸成し、イノベーションを生み出す強いチームを構築するための施策を戦略的に進めていくことが推奨されます。



