若手社員の離職を防ぐ対策:ワークエンゲージメントを高める方法
最終更新日:2026.06.02
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若手社員の離職は「突然増えた現象」ではありません。しかし、採用環境の変化によって”離職の痛み”が増しているのは確かです。本記事では、厚生労働省・JILPTの一次データと弊社ソフィアの調査をもとに、大企業が取り組むべき離職対策とワークエンゲージメントを高める職場づくりを解説します。「採用前の情報提供」「適正配置」「入社後90日の設計」「対話(1on1)」「評価の納得感」——これらを一本の線でつなぐことが、定着への最短ルートです。
若手社員の離職率と採用環境の変化
離職率は横ばい_しかし採用競争の激化が”痛み”を増幅
若手社員の離職に悩んでいる方には意外かもしれませんが、最近になって急に離職者が増えているわけではありません。厚生労働省のデータによれば、入社3年目までの離職率はここ10年でほぼ横ばいの状態が続いています。
「入社3年以内離職率」は、学歴・産業・企業規模などで水準が異なります。厚生労働省の公表資料でも、学歴別に離職率の推移が図示され、年ごとの上下はあっても”長期では大きくは変わりにくい”ことが確認できます。
単年比較だけでは誤解が生まれやすい点に注意が必要です。
しかし、今後は状況が大きく変わってきます。文部科学省「大学への進学者数の将来推計について」によると、大学進学率は上がり続ける一方、少子化によって18歳人口は減少していくことが見込まれています。
大学進学人数のピークは2017年の約63万人で、この2017年大学入学者が社会に出るのが2021年です。
つまり、採用タイミングである2021年から、新規学卒者が減り始めています。新卒採用の難易度は今後ますます上がり、優秀な新卒者の確保は難しくなっていくでしょう。
企業が若手社員の離職に悩む背景にあるのは、実際の離職の増加よりもむしろ、若手社員採用における企業間競争の激化によって、離職時のダメージが増加していることだと考えられます。
特に大企業は、採用人数の総量が大きい一方で、配属先が多様であるがゆえに「職場ごとの定着格差」が生まれやすい構造があります。離職が”全社の平均値”では見えにくく、特定部門・特定職種・特定マネジャーに偏って生じると、育成投資の回収が難しくなります。
また、厚生労働省の若年者雇用実態調査では、若年者定着のための対策として「採用前の詳細な説明・情報提供」「本人の能力・適性にあった配置」「職場での意思疎通の向上」などが上位に挙がっています。
つまり、離職対策は入社後フォローだけではなく、”採用〜配置〜対話”の設計が前提になるといえます。
事業規模が小さいほど離職が多い傾向
厚生労働省の調査によると、事業所規模が小さいほど離職率が高くなる傾向があります。
「新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率」では、1,000人以上の事業所の3年以内離職率が24.7%であるのに対し、5人未満の事業所では56.3%と、2倍以上の差がついています。
中小企業では大企業に比べて給料が低いこと、1人当たりの作業負担が大きいこと、人間関係への不満が溜まりやすいことなど、さまざまな離職要因が存在します。
採用市場で不利な状況にあり、離職時のダメージが大きい小規模事業所ほど離職リスクが高くなります。
そのため、中小企業では大企業以上に、若手社員の離職防止策が重要な課題となります。
一方で大企業は「制度はあるが、運用(現場)にばらつきがある」ことが典型的な課題になりやすいです。
JILPTの調査では、”採用後3か月”の段階で「指示が曖昧なまま放置」「同等業務をいきなり任される」など、初期のマネジメント・コミュニケーションが離職と結びつく示唆が示されています。
若手社員の主な離職理由
離職理由の実態——労働条件・人間関係・職場トラブルの積み重ね
若手社員の離職理由について、独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)の2025年度の調査を見ていきましょう。
新卒3年目以内に初めての正社員勤務先を離職した原因を見ると、女性のトップは「肉体的・精神的に健康を損ねたため」で34.3 31.8%、男性のトップは「キャリアアップするため」で27.3%となっています。
次点は男女ともに「人間関係が良くなかったため」でした。
1年以内の比較的早期に離職した 若者で回答率が突出して高いのは「健康を損ねた」「人間関係」「自信喪失」でした。
特に「人 間関係」は、勤続期間が1年以内の若者では男性の 39.3%、女性の 46.4%が回答したのに対 し、勤続期間が5年を超えてから辞めた若者の回答率は男性で 20.9%、女性で 29.5%と大幅 に低いのです。
これらの職場や仕事とのミスマッチ要因が勤続1年以内に離職した若者で突出する 傾向は第2回調査でもみられた傾向であり、入職直後の職場や仕事への適応が職場定着にお いて重要であることが改めて確認できました。
さらに厚生労働省の若年者雇用実態調査(個人調査)では、賃金の満足度D.I.が若年正社員でマイナス(不満超過)になっており、賃金以外の項目より相対的に課題が大きいことが読み取れます。
「賃金は制度ではなく納得感(評価・説明)」とセットで扱わないと、若手の不満は解消しにくい点に注意が必要です。
離職理由を「入社前〜入社後90日」で分解すると、対策の当たり所が明確になります。
JILPTが指摘するように、採用後早期の”指示の曖昧さ”や”初期負荷の過大”は離職につながり得ます。ここは研修企画担当者が設計で介入しやすいゾーンです。
若手社員の離職対策の進め方
対策の初手——「若手社員にどう働いてもらいたいか」の定義と設計
離職理由は「労働条件」「人間関係」などさまざまです。しかし、単に”悪い点を潰す”だけでは、定着は長続きしません。
離職対策の初手として重要なのは、「若手社員にどう働いてもらいたいか」を定義し、現状とのギャップを明確にすることです。ここが曖昧なままでは、研修を増やしても1on1を導入しても、施策がバラバラに増えるだけで”効かない”状態になりがちです。
厚生労働省の若年者雇用実態調査(事業所調査)でも、若年者定着のための対策として「採用前の詳細な説明・情報提供」「本人の能力・適性に合った配置」「職場での意思疎通の向上」「昇格・昇任基準の明確化」などが列挙されています。つまり、“期待(採用)→配置→対話→評価”の線で初期設計を揃えることが王道といえるでしょう。
大企業でまず決めておきたいのは、次の3点です。
- 若手に期待する成果(”何ができたら一人前か”)と、そこまでの標準期間(例:90日、180日、1年)
- 成果に至る行動(学習・協働・改善提案など)の定義と、評価・フィードバックの基準
- 配属先(現場)に渡す”育成の最低要件”(OJT・メンター・1on1頻度・レビュー観点)
研修企画担当者が設計できる「入社後90日プログラム」の例をご紹介します。JILPTが示唆するように、採用後早期の”指示の曖昧さ”や”初期負荷の過大”は離職につながり得ます。これを防ぐため、90日を「役割明確化」「関係構築」「小さな成功体験」に分けて設計するのが効果的です。
- 入社初日〜1週:期待役割/禁止事項/相談先(上司・OJT・人事・外部窓口)を明文化
- 2〜4週:業務の”型”を教える(判断基準、品質基準、期限基準を言語化)
- 2か月目:他部署・他職種の仕事を見せる(部署間理解と意味づけ)
- 3か月目:成果レビュー+次の学習計画(”できた”の可視化)
KPI設計も欠かせない要素です。ただし”サーベイスコア”だけで追うと形骸化しやすいので、最低限、①入社3か月・6か月・12か月の残存率、②配属先別の離職率、③上司別の定着指標(1on1実施率・レビュー実施率)をセットで持つことをおすすめします。
ワークエンゲージメントが高い職場づくり
ワークエンゲージメントの定義と重要性
近年注目を集めているのが「ワークエンゲージメント」です。厚生労働省は、ワークエンゲージメントを「仕事にやりがい(誇り)を感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ている状態」と整理しています。
学術的にも、ワークエンゲージメントは「活力(vigor)」「熱意(dedication)」「没頭(absorption)」の3側面で特徴づけられる概念として定義されています。
研究の蓄積を整理したメタ分析では、ワークエンゲージメントは職務満足やコミットメントと高い関連が示されており、少なくとも”職場へのポジティブな心理状態を高めるレバー”として、実務上の重要性があるといえるでしょう。
離職対策としてのワークエンゲージメントの活用
人間関係・労働条件・評価への納得感といった離職要因は、裏返すと「仕事に誇りを持てるか」「安心して話せるか」「成長の実感があるか」に直結します。
若手の離職を”止血”するだけでなく、活躍の土台をつくる視点として、ワークエンゲージメントは有効です。
ここで大企業が注意すべきは、「制度はあるのに、若手が効果を実感しにくい」状態です。
弊社ソフィアの調査では、上司とのコミュニケーション課題として「評価の理由が不明、基準が人によって異なる」「放任や丸投げなど指示がない」など、“背景説明・判断基準の共有不足”が一定割合で挙がっています。
ここは離職理由(納得できない・成長できない)と直結しやすい領域です。
同じく弊社ソフィアの調査では、上司との1on1は「義務付け」34.2%、「任意で実施/推奨」28.4%と、導入自体は進んでいます。一方で実施頻度は「半年に1回以上」が30.7%で最頻であり、「3カ月に1回以上」21.1%、「月1回以上」18.9%と続きます。
大企業では”導入=解決”になりやすいので、頻度・質・次アクションまで運用設計することが不可欠です。
エンゲージメントサーベイも同様です。弊社ソフィアの調査では、エンゲージメントサーベイを「行っていない」が29.2%あり、また「特に活用されていない」が15.7%存在します。
さらに「数値を上げること自体が目的化している」と”そう思う/どちらかといえばそう思う”が合計45.5%となっており、スコア運用が逆に不信を生むリスクが示唆されます。
ワークエンゲージメントを高める施策は、「会社(制度)」「職場(運用)」「上司(対話)」の3点セットで設計することが大切です。
厚生労働省の若年者雇用実態調査でも、若年者定着策として「採用前説明」「配置」「意思疎通」「昇格基準明確化」「教育訓練」などが横並びで示されています。研修だけ・面談だけの単発ではなく、線でつなぐことが現実的な進め方です。
大企業の実装イメージとして、次のような流れをおすすめします。
- 採用〜内定:仕事の良い点だけでなく、現実も伝える(期待ギャップを最小化)
- 入社〜90日:役割明確化+相談ルート設計(孤立と不確実性を減らす)
- 配属後:月1回以上を目安に1on1(キャリア・不安・学習計画を扱う)
- 四半期:サーベイ結果を”現場で使う”仕組みに変換(対話テーマ・改善アクションへ)
最後に、部署間連携も見落としがちな離職要因です。
弊社ソフィアの調査では、部署間コミュニケーション促進施策として「何も実施していない」が26.3%あり、実施していても「定例会議・全社集会」48.0%が中心です。
若手が「会社の全体像が見えない」「自分の仕事の意味がわからない」状態にならないよう、研修・OJTと並行して”全社の情報が届く設計”を入れることで、仕事の意味づけ(熱意)を支えることができます。
まとめ
若手社員の離職は「突然増えた現象」ではなく、採用環境の変化によって”離職の痛み”が増した課題です。一次情報が示す通り、打ち手は「採用前の情報提供」「適正配置」「職場での意思疎通」「基準の明確化」「教育訓練」に収れんします。
大企業こそ、制度の有無ではなく”運用のばらつき”がボトルネックになりがちです。ワークエンゲージメント(活力・熱意・没頭)を高める設計として、入社後90日と1on1、サーベイの活用を一本の線でつなげることが、定着と活躍への確かな一歩となるでしょう。


