インターナルコミュニケーション

システムシンキングとは?大企業人事向けに意味・メリットから実践例まで徹底解説

あなたの組織では、ある制度を改善したつもりが、思いもよらない場所で別の問題が噴き出した、という経験はないでしょうか。システムシンキングは、こうした複雑な事象を深く読み解き、より高いレベルで解決へと導くために必要な手法です。システムシンキングを行うことで、要素間の関係を正確に捉え、全体に影響を及ぼしていくメカニズムを見つけることが可能となります。結果として、システム全体を正しく見渡せるようになり、より効果的な行動を選択できるようになるでしょう。

特に大企業の人事部門や組織開発担当者にとって、単一の部署や制度の変更が予期せぬ副作用を生むことは日常茶飯事ではないでしょうか。ロジカルシンキングやクリティカルシンキングは、問題や解決策を構造化し、詳細を分析しながら筋道を創る手法ですが、これに「時間」や「相互作用」という概念を加えたものがシステムシンキングです。言い換えれば、システムシンキングは動的でリアリティのある可視化方法であると言えるでしょう。

この記事ではシステムシンキングのルーツを踏まえて概念を解説します。実際に組織に取り入れる場合のメリットとデメリット、注意点に加え、最新のインターナルコミュニケーション調査データを交えた実践的な視点から詳しくまとめていきます。

システムシンキングの意味と定義

まずは、システムシンキングについて言葉の定義やルーツから詳しく見ていきましょう。システムシンキングは、ビジネスだけでなく、さまざまな分野において考えられてきた概念です。

システムシンキングの定義

システムシンキングとは、問題を一要素だけで考えるのではなく、全体の現象や大きな問題など、広くシステムとして捉える思考法です。全体像を見ながら理解することで、因果関係や相互作用を理解しながら思考を深めることができます。

ロジカルシンキングやクリティカルシンキングの構造化プロセスを踏んだ上で、関係性や相互作用という時間の概念を組み込み、全体像を掴むのがポイントです。それにより高いレベルでの問題解決が期待でき、問いやアンチテーゼ、複雑性を理解しながら、改善点を探し出すことが可能になるでしょう。

システムシンキングのルーツ

システムシンキングは、以下の例のように複数の分野にルーツを持っています。

  • サイバネティクス:制御・通信に関する理論です。1940年代〜50年代にかけて発展したとされています。
  • システム理論:社会科学における理論です。1950年代から60年代にかけて発展したとされています。
  • システムダイナミクス:システムを数学的にモデル化する手法です。1950年代(1956年)にマサチューセッツ工科大学(MIT)で生まれたとされています。
  • ゲシュタルト心理学:対象を全体として捉える「ゲシュタルト」の概念を強調した理論です。ドイツの心理学の一派で、全体を理解することを重視するシステムシンキングの基盤になったと考えられています。

このように、複数の理論・手法が影響し合い、現代のシステムシンキングへとつながっています。

「システム」と言えば、機械やITを連想される方が多いのではないでしょうか。概念としては一緒なのですが、機械的なシステムは、正確なインプットがあれば、システムを通すことで期待通りのアウトプットが出てくるものです。

しかし、ビジネスにおいても社会においても、当初に立てた計画であるシステムが、期待通りのアウトプットを導きだせることはまずありません。なぜなら、ビジネスや社会の中には、人や集団、もしくは組織という予測不可能な要素があり、その解明がなされない限りは、システムが思うように動かないからです。現在におけるシステムシンキングの一番の焦点は、人や集団もしくは組織の中にあり、それが大きな変革のポイントであると考えられています。

ビジネスにおけるシステムシンキングの役割

ビジネスにおいて、システムシンキングは非常に重要な役割を果たします。現在のビジネスは、経済がグローバル化し、データは膨大になり、消費者や社員の価値観が多様化しています。

そのため、ビジネスの可能性は広がる反面、事象に対する影響因子は指数関数的に増え、複雑に絡み合って構成されているのが実情でしょう。その全体を捉え、要素の関わり合いを鋭く分析することで、ビジネスが抱えている課題が浮かび上がってきます。

システムシンキングを用いることで、必要な改善策が見え、ビジネスの持続可能性が向上したり、イノベーションが促されたりするのです。また、システムとして分析することで、必要なビジョンや意思決定にたどり着きやすくなります。既存の因子だけを見ていたら浮かばないようなアイデアや、まったく新しいビジネスモデルが思いつくこともあるかもしれません。システムシンキングは、イノベーティブな発想を促すための手段になるのです。

システムシンキングの時間性と変化の概念

江戸時代の町人文学「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざからは、以下のような事例が引き出されます。

  • 強風が吹くと、土埃が舞い上がり、視力の弱い人々の中で目の病気が増える。
  • 病によって目が不自由になった人は、三味線の演奏指導や門付での演奏によって需要が増える。
  • 彼らが使う三味線の製造には猫の皮が必要であり、楽器製造の影響で猫の数が減少すると自然と鼠の数が増える。
  • これにより、鼠が箱型容器を齧るなどの害獣被害が広がり、桶などの需要が増加し、桶屋たちにとって好機となる。

このような一連の事象を現代の視点で考えると、たとえば風が吹けば風力発電による電力量が増え、風力発電関連企業は利益を得る可能性があります。

ただし、需要が増える一方で競争も激化し、価格競争や収益への影響も考慮する必要があるでしょう。また、風力発電の製造コストや風の吹き具合にも注意が必要になるといった具合に、システムシンキングは、さまざまな要素が相互に作用し合い、時間とともに変化することを考慮する視点です。

システムの構成要素が変わるとシステムの挙動も変わるため、システムを理解するには時間の流れの中での状態を考慮する必要があります。言い換えれば、システム全体の情報量は、部分の総和を超える重要な情報を持っていると言えるでしょう。

時間とともに影響関係も変化するということは、システムシンキングはある意味では、社会科学や生命学の分野にも通じるものがあります。しかしビジネスの文脈で考えたとき、多くのビジネスパーソンは、ビジネスフレームワークやファクトベースに当て込むことで、静的な整理をしがちであり、経営全体における意思決定もしかりです。システムシンキングは、社会科学や生命学のように柔軟なものとして捉え、ビジネスをより動的なものに変化させていくことを教えてくれます。

システムシンキングが時間と変化を前提とするのであれば、日々の意思決定や企業戦略も限定的なものにすぎず、あくまである瞬間における仮説となります。組織全体や市場で何かが動いているという前提で、焦点となる個々の動きと全体の影響関係を両方捉えることができ、いつ、どこに、どのような介入をすればよいかを示してくれるのです。

組織にシステムシンキングを取り入れるメリット

ここまでシステムシンキングの成り立ちや、時間的変化を前提とする内容を見てきました。では、この思考を組織開発や人事戦略などのビジネス領域に取り入れることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

事象や問題を俯瞰し全体性を理解できる

システムシンキングでは、システム全体を捉えるために多くの事象を客観的に見ることが必要です。システムは複雑な構造をしていて、ある問題に対処するには、複数の関連要素にアプローチすることが必要だとわかってくるでしょう。

俯瞰することで初めて、思ってもみなかった着眼点が見つかることがあります。今まで見えていなかった問題を把握できれば、新しいアイデアを得られるはずです。ある問題に対処しようとして解決方法が見つかっていなかったとしても、メタ認知で捉えた新しい解決方法が見つかるかもしれません。

システム全体を視野に入れることで、これまでとは異なるジャンルの理論を取り入れる余地が生じる点もポイントです。つまり、ビジネス以外の分野である社会学、哲学、環境などの知識や理論を学習する大きな機会を与えてくれるのです。システムシンキングを学ぶということは、影響因子を学ぶということに他なりません

高度な問題解決や意思決定の実現

システムシンキングを行うと、システム全体の関わり合いが立体的に見えてきて、連立方程式のようなかたちで大枠を捉えられます。

経営に関わる意思決定や問題解決の前提のデータや事実は増えるわけですから、むしろ大変だと認識するかもしれません。しかし、現在では情報通信技術の発展から、ビジネスインテリジェンス(BI)や社内ポータルなどを活用し、影響因子のデータが可視化されていれば、誰でもいつでも取得可能であり、日々の変化を追うことも相関を分析することもできます。また、一般的なデータに関しても、生成系AIを用いて意思決定をする前のデータ解析を処理できるでしょう。したがって、システムシンキングを活用した意思決定や問題解決とIT技術は非常に相性がいいと言えます。

複数の方程式によってシステムを構成する要素の関わり合いも見え、ひとつの変化がどのように作用し合って影響が広がるのかがわかるようになり、より現実に沿った未来予測が可能になるでしょう。ただし、連立方程式を解いていくには高度な技術が求められます。そのため、専門的なスキルのある人に分析を任せるほうが、効率よく理想の解決策にたどり着けると思われます。

組織やシステムとして捉えることによるジレンマの引き受け

組織運営を改善するためには、全体をシステムとして捉え、それを構成する個別の指標や関係性を見直していくことが重要です。要素が相互に影響し合っていることがあるので、関係を正確に捉えて、全体へ影響していくメカニズムを見つけていきます。相互関係を踏まえると、「あっちが立てばこっちが立たず」というジレンマがいくつも存在することに気づくのではないでしょうか。

経済学に出てくる「マルサスとリカードの穀物論争」は、平たく言えば保護貿易と自由貿易の論争です。この経済政策が国のあらゆる影響因子にどのように影響するか、という議論を英国は1815年〜1846年に穀物法が廃止されるまでの30年もの間、論争していたわけです。現代においてTPPの議論が同様にして政府、有識者、産業団体が政策に対して議論が分かれ、他国が、経済が、業界団体が、企業が、消費者が、どのような行動をとるかは誰にもわからないということです。

時間的な未来と人や集団という不確実性においては、影響関係を洗い出せば多種多様なジレンマが存在します。たとえば生産個数を向上させるためには、まず、各工程の生産性を詳しく把握し、工程間の関係性を整理し、改善のポイントを見つけることができます。そして、生産性の拡大は品質に影響を与えるでしょう。

品質と生産性は実は相互に影響し合っているのは自明の理です。したがって、これを指標化し管理体制を強化し、双方を極限まで高めていった結果、一線を越える社員が出てしまい、数字の改ざんや不正データが増えるという事象は多々あります。社員や組織のモラルや意識はなかなか表立って見えないため、可視化も根本的には不可能でしょう。

見えている問題の事象だけを見ても、根本的な影響要因は明らかになりません。生産性と品質の両方を向上させるためには、システムや風土、人間関係など多くの要素を考慮することが必要です。人や組織に関わる問題は、複雑なジレンマを抱えていることが多く、すぐに解決できない問題を調整しながら事業を推進しなければなりません。ジレンマが存在する中で意思決定を行い、問題を解決していくことが求められるのです。

見えないものだからと言って無視できないことを理解するのが重要であり、それを完全に影響関係と数値化することは根本的に不可能であったとしても、考慮することが重要です。このように全体をシステムとして見ることで、意思決定や問題解決において本質的に調整すべきはどの箇所なのかを見つけることができ、有機的なアクションをとれるようになるのです。

システムシンキング導入時のデメリットと注意点

ここまでメリットを中心に見てきましたが、大企業においてシステムシンキングはメリットが大きい一方で、注意すべきデメリットも抱えています。それぞれの要素をチェックした上で、気をつけながら取り入れていきましょう。

可視化できる因子データには限界がある点

システムシンキングでは、俯瞰的にシステム全体を捉えることになりますが、このとき注意したいのは、目に見える因子データから情報を読み解くには限界があるということです。

とくに、人と社会を扱っているので、データで可視化できることには限界があります。逆に言えば、他社や競合より、より細かくより広範囲にシステムを捉えることができれば、デメリットはメリットに変化するとも言えるでしょう。全体を踏まえて関わりを捉えることは効果的ですが、細かい要素は示されていない可能性があることを常に留意したいものです。

迅速な対応が求められる場合には不向き

システムシンキングは、時間やリソースをかけて分析を進めていく手法です。

システムシンキングには遅行指数と先行指数という指標があり、遅行指数は、過去のデータで問題を把握・分析する指標、先行指数は、未来を予測する指標です。複雑な問題を解決するためには膨大な時間がかかることが予測されるため、迅速に対応すべき状況の場合、システムシンキングは不向きであると言えるでしょう。つまり、完全な意思決定や問題解決などないということです。

組織やチーム全体の解像度を高める必要性

システムシンキングでは、システム全体を俯瞰的に見ることで問題を解決していきます。さまざまな要素の関係を正確に把握するためには、要素に関する詳しい知識や経験が必要になるケースもあるでしょう。

そのため、特定の人で行うのではなく、組織全体で一丸となって取り組むことが大切です。ただ、全員がシステム全体を理解するための学習には時間がかかることも考慮しておきたいところです。

具体的に言えば、可視化され共有化できる影響因子や数字の変化を日々社員の見えるところに置き、経営側は指標と紐づけ情報を公開することで、時間とともに組織やチーム全体で捉えることが可能になります。たとえば企業の意思決定を個人に置き換えてみたとき、株式、外国為替(FX)、そしてビットコインなどの金融市場では、定年退職した人から大学生まで、多くの人々がスマートフォンを使って自分の投資資金を取引に投入しています。

彼らは日々の株価や為替の変動を観察し、それに基づいて意思決定を行っています。金融市場は社会システムと密接に関わっており、人々はその影響環境の中で行動しているのです。このような複雑なシステムに対しても、人間は適切に対応することが可能であると言えるでしょう。

企業組織におけるシステムシンキングの具体例と実践事例

システムシンキングは、非常に膨大な影響因子とデータを取り扱いながら、人や組織などの不確実と対峙するというものであり、実務レベルで使えそうにないと感じている方も多いのではないでしょうか。

たとえば昨今の企業が標榜する社会課題を考えた場合、経済を超えて社会に企業の存在を置き換えて、逆の視点で企業から見る必要のある社会がどうあるべきかの解を求めるためには、システムシンキングが必要不可欠となります。ここでは、システムシンキングを構造化した代表的なモデルを紹介し、事例を交えながら説明していくことで、実際の実務に役立てるようにご紹介していきます。

ピーター・センゲのシステムシンキングの4つのレベル(氷山モデル)

『学習する組織〜システム思考で未来を創造する』(原題:The Fifth Discipline)におけるピーター・センゲのシステムシンキング(Systems Thinking)は、組織やシステムの動きを理解し、それを通して全体を見る視点が書かれています。システムシンキングを理解するには、以下の要素やレベルが考えられます(これらは一般的に「氷山モデル」としても知られています)。

  • 事象レベル(Events):これは最も表面的なレベルで、個々の事象や現象に当てはまります。たとえば、会社の売上が下がったという具体的な出来事がここに当たります。
  • パターンレベル(Patterns of Behavior):事象が時間をかけてどのように進展し、パターンを形成するかを見るレベルです。一例として、売上が一定期間にわたって減少し続けているというパターンがここに該当します。
  • システム構造レベル(Systemic Structure):パターンがどのようなシステムの構造から生じているかを理解するレベルです。これは政策、規則、権限、作業手順など、システム内の形式的および非形式的な要素に影響します。
  • メンタルモデルレベル(Mental Models):個々の人々が世界をどのように理解し、その理解に基づいて行動するかという、深層の信念や視点に焦点を当てたレベルです。

これらのレベルは連動しており、上位のレベルが下位のレベルに影響し、形成しています。また、全体を理解するためには各レベルを統合したシステムシンキングが求められます。目先の目標達成よりも長期的に成長し、健全な経営を持続させていくことが大事だと再認識したいところです。

人事領域における「合成の誤謬」と手段の目的化

組織になんらかの変革を起こそうとする際、たしかに抵抗が発生します。システムシンキングの文脈で頻出する概念に「合成の誤謬」があります。合成の誤謬とは、ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロの世界では、意図しない結果が生じることを指す経済学の用語です。

たとえば、働き方改革やエンゲージメント向上のための施策が、かえって現場の疲弊を招くケースです。弊社ソフィアの調査(フル_IC実態調査2025)によると、エンゲージメントサーベイ結果の数値を上げること自体が目的化していると感じている回答が半数に迫っています(「どちらかといえばそう思う」34%、「そう思う」11%)。サーベイは従業員の声の把握と職場改善を主目的として導入されたはずが、いつの間にか「スコアの達成」という局所的な目標(事象レベル)にすり替わり、本質的な組織風土の改善(メンタルモデルレベル)が見落とされてしまうのです。

また、同調査では、サーベイの肯定的な回答は経営層(47.6%)・人事部(48.4%)で相対的に高いのに対し、現場社員では(35.0%)にとどまっています。これは、経営陣と現場の間に「システム構造の分断」が存在することを示唆しているのではないでしょうか。システムシンキングを用いてこのジレンマを解消するには、表面的なスコアを追うのではなく、日常的なインターナルコミュニケーションを通じて対話を促し、根本的な要因を洗い出すアプローチが必要となります。

大企業によくある変革ループ

デジタルトランスフォーメーションは、日本企業にとって急務とされています。2023年2月に公開された独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」によると、 日本企業543社を対象とした調査から、業務効率化やアナログデータのデジタル化に関しては、約8割の企業が十分な成果またはある程度の成果を出していると回答しました。しかし、新規製品のサービス創出やビジネスモデル変革に関しては、約2割の企業しか十分な成果またはある程度の成果を出していないと報告されています。

デジタルトランスフォーメーションの推進に伴い、企業は目標とする姿を描きながら、推進組織やプロジェクトチームを組織し、計画立案や目標設定、管理業務が増加しました。その結果、現場業務にも負荷がかかり、指標達成のための効率的な作業に集中するような状況が生まれています。

しかし、仕事の意義や意味が薄れると、社員の士気が低下し、結果が出ない場合やフィードバックが得られない場合には、社員はさらに意欲を失い、業務や目標に対する悲観的な見方を抱くようになります。その結果、変革は形式的な儀式になり、業務の改善という無限ループに陥ることがあるのです。

このような状況では、事象レベル(Events)やパターンレベル(Patterns of Behavior)だけでなく、システム構造レベル(Systemic Structure)やメンタルモデルレベル(Mental Models)にも注意を向けて見ていくとわかりやすくなります。社員のモチベーションに関わるケースは目に見えない部分であり、システムシンキングや組織開発、対話型ワークショップが重要な役割を果たす領域と言えるでしょう。これらの要素を適切に取り組まないと、デジタルトランスフォーメーションは困難となるはずです。

とは言え、数十人~数百人であれば、メンタルモデルレベル(Mental Models)に対する直接的な対話や意味づけの機会を提供することは可能かもしれませんが、この手のワークショップのファシリテーションは、高度に訓練された専門家が必要です。外部活用するにせよ、内省するにせよコストはかかります。
では、数千人、数万人規模の会社では、ワークショップを大人数で実施する場合はどうするかというと、一時的に現場を抜け参加し、また職場に戻るという課題を小分けにして実施します。しかし、メンタルレベルが、ワークショップの参加しているタイミングでは、変化はあるかもしれませんが、また職場に戻れば、効果が消える可能性もあるため砂漠に水を撒いて効果がないのと同様にあまり現実的ではありません。
つまりは、システム構造レベル(Systemic Structure)やメンタルモデルレベル(Mental Models)も同時にアプローチする必要があります。メンタルレベルに対するワークショップや研修などと同時に、規則、権限、作業手順を変えていくということが必要です。

新規事業と組織風土

新規事業と組織風土にはどのような関係性があるのでしょうか。ここでは、新規事業と組織風土の関係性について詳しく解説していきます。

新規事業と組織風土の問題

戦後から高度経済成長期にかけて、日本企業はソニーやホンダを含め、モノづくりにおいて高い能力を発揮し、世界的な注目を集める魅力的な商品を生み出しました。
日本は「イノベーション大国」と評され、革新的な新規事業やイノベーションを次々に生み出すことで世界から注目を浴びました。

しかし、近年では日本のイノベーション力が低下していると指摘されています。グローバルな競争が激化し、新興国や他の先進国が迅速なイノベーションを推進するなかで、先進的な取り組みをしている企業はデジタルトランスフォーメーションや社会課題に焦点を当て、新規事業創出に力を注いでいます。

過去のイノベーションや新商品は既存事業として収益を上げ、それらの事業は企業のブランド、組織設計、社員の意識や風土に結びついて最適化されています。

新たな事業機会を追求するため、予測可能な収益の一部から新規事業への投資が行われまが、新規事業はアイデア出しから始まり、事業化や収益化は予測困難です。

スタートアップがIPOまでたどり着く確率は低く、失敗を許容し学習に重点を置いたとしてもリスクは高いというのが実情です。日本企業の倒産は信用低下につながり、大きな打撃となります。

資金調達が承認されても、市場や顧客の変化、商品開発、販売、組織など、多くの問題に直面し、アジャイルを最大限いかしたとしても行き当たりばったりの場合もあります。

また、新規事業は小規模で始まり、個々のメンバーが複数の業務を担当し、リーダーシップとモチベーションにはビジョンが重要です。成果や結果はすぐには現れず、高速で学習し実行する必要があります。小規模なチームはさまざまな経験を積みながら困難を乗り越え、驚くべきスピードで成長します。

新規事業と既存事業は収益創出という共通点がありますが、システムシンキングの構造はまるで異なります。大企業では新規事業と既存事業とのコンフリクトや組織内の課題が生じることもあるでしょう。新規事業を創出するプロセスでは、組織内部でシステム構造レベルやメンタルモデルレベルが一致しないことや、経営意思決定においてもコンフリクトが生じることがあります。また、社員の意識や風土の面でも課題が生じる可能性があるのではないでしょうか。

実態としてはほとんどの新規事業創出に効果を上げている会社は、「アイデアが出る⇒実行プラン増える⇒大胆な意思決定をする⇒失敗する⇒失敗を学習と捉える⇒失敗の評価が変わる⇒失敗の解釈が変わる⇒風土が変わる」というループを回しています。最初は少ないアイデアであろうと、陳腐なアイデアであろうと、アイデアが出た結果に対して、社員の解釈を添えて、意味づけを添えてコミュニケーションすることが大切です。コミュニケーションしながら、失敗であろうと成功だろうと、結果に対する認識を伝えており、結果として風土が変わっていったというのが結論と言えるでしょう。

システムシンキングでよく使われるツールとフレームワーク

システムシンキングでは、思考を体系立てて整理するために、グラフや図、マップなどのツールを用いることがよくあります。ここでは、組織の問題を可視化するための代表的なツールについてご紹介します。

  • 時系列変化パターングラフ(BOT):売上やシェア率、市場規模などの定量要素をまとめたグラフです。英語では「Behavior Over Time」、略して「BOT」と表現されることもあります。システム思考を使ってマーケティングを行ったり、事業計画を立てたりする際に役立ちます。
  • 因果ループ図(Causal Loop Diagram):さまざまな要素の因果関係を矢印で結び、関係性を可視化した図です。さらに関係性がプラスに作用しているのか、マイナスに作用しているのかも合わせて可視化します。これにより、複数の要素がどのように影響し合ってシステムを構築しているのかがわかります。
  • システム・ダイナミクス・モデリング:上記のループ図に、時間経過という軸を加えた考え方です。システムにおける状況変化には、時間的な流れが存在します。その変化をわかりやすく捉えるためのツールです。
  • システムマップ:システムを構成する要素や、それぞれの関係性を可視化するツールです。図形を線でつなぐことで、システムの全体像と細かい構造を把握できます。
  • レバレッジポイント図:全体に理想的な影響を与えるであろう「レバレッジポイント」を明確に探すためのツールです。システム内の要素を細かく見ながら問題点や改善点を特定します。
  • メンタルモデル図:個人の思考や同期、世界観などを整理して、認知の仕方を表現したツールです。人間の感じ方を踏まえて具体的な検討を行いたいときに有用です。

システム原型(システムアーキタイプ)

システムシンキングを深める上で欠かせないのが「システム原型(システムアーキタイプ)」の理解です。これは、様々な組織や社会で繰り返し発生する「失敗のパターン」をモデル化したものです。

  • 共有地の悲劇(Tragedy of the Commons):各部門が部分最適でリソースを奪い合った結果、会社全体の利益が損なわれるパターン。
  • 応急処置の失敗(Fixes that Fail):短期的な対症療法を行った結果、長期的には予期せぬ副作用が発生し、かえって問題が悪化するパターン。

人事部門はこれらの原型を知っておくことで、組織内で発生しているトラブルがどのパターンに当てはまるのかを早期に察知し、根本的なシステム構造の修正に乗り出すことが可能になるでしょう。

組織にシステムシンキングを定着させるポイント

システムには時間的な変化がつきもので、その変化や成長も含めて多種多様な解釈可能性があります。固定されたものではなく変化し、成長していく、生命体のようなものだと捉えることが重要です。これはシステムシンキングを行う際の前提になる捉え方であり、経営思想レベルで意識したい点と言えるでしょう。

継続的な対話とインターナルコミュニケーションの充実

システムを構成する最大の要素は「人」です。したがって、システムシンキングを機能させるには、組織全体でのインターナルコミュニケーションが欠かせません。

弊社ソフィアの調査によると、部署間コミュニケーションについて「必要だと思う」「どちらかといえば必要だと思う」と回答した人が7割以上に上る一方で、実際の情報の流通は「定例会議・全社会議」が40%と最多で、公式な場に依存している傾向があります。

システム全体をメタで捉えるためには、多様な視点を組み込む必要があります。固定化された視点に陥らないよう、異なる部署・職種の人の意見を聞く機会を意図的に設けることが重要となるでしょう。

1on1と非公式コミュニケーションの活用

メンタルモデルを可視化し、システムを変革していくためには、日常的な対話がレバレッジポイントになり得ます。調査データでは、上司との1on1が「実施が義務付けられている」「任意で実施/推奨されている」企業は6割を超えています。しかし、その頻度は「半年に1回以上」「3カ月に1回以上」がボリュームゾーンとなっており、動的なシステムの変化を追跡するには不十分な場合があるのではないでしょうか。

また、業務に直接関係しない「たまたま発生した雑談や立ち話」について、頻度が高い層ほど、職場を「良い職場」と評価する割合が高い傾向が見られます。雑談や立ち話は、「気分転換・リフレッシュになった」という心理的な効果だけでなく、「相手に親しみを持ち、心理的距離が縮まった」「相手に気軽に声をかけたり相談しやすくなった」など、システム内の関係性を潤滑にする重要な役割を果たしているのです。局所的な対応に固執せず、組織全体で解決策を見つけるためには、トップメッセージだけでなく、こうした非公式なコミュニケーションも含めた複合的なアプローチが必要となります。

実践と継続的な改善

システムシンキングによって成果を得たい場合には、実践と継続的な改善が重要です。現状のビジネスプロセスや業務をどう改善するのがいいのかを、実践の中で見つけていきましょう。そして評価と見直しを何度も繰り返すことで、明確な成果につながっていくはずです。

まとめ

まとめると、問題を一つの要素だけで考えるのではなく、広くシステムとして捉えるのがシステムシンキングです。因果関係や相互作用を理解しながら思考を深めることで、レベルの高い課題解決を促してくれます。組織全体に最適化された課題解決ができるのが、大きなメリットと言えるでしょう。

システムは時代や時間経過によって変化していくものなので、全体をメタ的な視点で見つつ、とるべきアクションを常に考え改善し続けることが重要です。端的に言えば、ビジネスの持続可能性が向上したり、イノベーションが促されたりするので、システムシンキングについて見解を深めていきたいものですね。

システムシンキングについてよくある質問
  • ロジカルシンキングとシステムシンキングの使い分け方は?
  • ロジカルシンキングは、要素を分解し、静的・直線的な因果関係を整理して問題を解決するのに適しています。一方、システムシンキングは「時間による変化」や「要素同士の相互作用(ループ)」を前提とするため、人が絡む複雑な組織課題や、短期的な解決策が長期的な副作用を生むような複雑な問題の解決に適しています。両者は対立するものではなく、ロジカルに要素を分解した上で、システムシンキングで関係性を俯瞰するという組み合わせが効果的です。

  • 現場の社員にシステムシンキングを学ばせるにはどうすればよいですか?
  • 座学で理論を教えるだけでなく、実際の業務課題をテーマにしたワークショップが効果的です。例えば、部署間の対立構造や、ルールの形骸化といった身近な課題について「因果ループ図」をチームで描いてみる等の実践が有効です。また、日常業務の中で「この施策は他部署にどう影響するか?」「1年後にはどう変化するか?」と問いかけるメンタリングを管理職が行うことも定着に繋がります。

  • システムシンキングを活用したコンサルティングは依頼できますか?
  • 弊社ソフィアでは、システムシンキングの考え方をベースにした組織開発、インターナルコミュニケーション戦略の立案から実行支援までをワンストップで提供しています 。アンケート調査や定性インタビューを通じて現状のシステム構造を可視化し、組織風土改革や理念浸透をサポートします。

株式会社ソフィア

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ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。