2023.08.19
システムシンキングとは?意味や定義、メリットやデメリットを解説
目次
システムシンキングは、深い思考で問題にアプローチし、より高いレベルで解決していくために必要な手法です。システムシンキングを行うことで、関係を正確に捉えて、全体へ影響していくメカニズムを見つけることが可能です。システム全体を正しく見ることが可能になり、効果的な行動を選択できます。
ロジカルシンキングやクリティカルシンキングは、問題や解決策を構造化し、詳細を分析しながら筋道を創ります。これに加えて「時間」という概念を加えたものがシステムシンキングです。システムシンキングは動的でありリアリティのある可視化方法と言えます。
この記事ではシステムシンキングのルーツを踏まえて概念を解説します。実際に組織に取り入れる場合のメリットとデメリット、またその際に注意したいことについて詳しくまとめていきます。
システムシンキングとは
まずは、システムシンキングについて言葉の定義やルーツから詳しく学んでいきましょう。システムシンキングは、さまざまな分野において考えられてきた概念です。
システムシンキングの定義
システムシンキングとは、問題を一要素だけで考えるのではなく、全体の現象や大きな問題など、広くシステムとして捉える思考法です。全体像を見ながら理解することで、因果関係や相互作用を理解しながら思考を深めることができます。
ロジカルシンキングやクリティカルシンキングの構造化プロセスを踏んだ上で、関係性や相互作用という時間の概念を組み込み、全体像を掴みます。それにより高いレベルでの問題解決が期待でき、問いやアンチテーゼ、複雑性を理解しながら、改善点を探し出すことが可能です。
システムシンキングのルーツ
システムシンキングは、以下の例のように複数の分野にルーツを持っています。
- サイバティックバネス
制御・通信に関する理論です。1940年代〜50年代にかけて発展したとされています。
- システム理論
社会科学における理論です。1950年代から60年代にかけて発展したとされています。
- システムダイナミクス
システムを数学的にモデル化する手法です。1960年代にマサチューセッツ工科大学(MIT)で生まれたとされています。
- ゲシュタルト心理学
対象を全体として捉える「ゲシュタルト」の概念を強調した理論です。ドイツの心理学の一派で、全体を理解することを重視するシステムシンキングの基盤になったと考えられています。
上記のように複数の理論・手法が影響し、現代のシステムシンキングへとつながっています。
システムと言えば、機械やITを連想されることが多いと思います。概念として一緒ですが、システムは、正確なインプットがあれば、システムをスルーすることで、期待通りのアウトプットが出てくるものです。
しかし、ビジネスにおいても社会においても、当初に立てた計画であるシステムが、期待通りのアウトプットを導きだせることはありません。ビジネスや社会の中に、人や集団、もしくは組織という予測不可能な要素があり、その解明がなされない限りは、システムは動きません。現在におけるシステムシンキングの一番の焦点は人や集団もしくは組織の中にあり、それが大きな変革のポイントであると考えられています。
システムシンキングの時間性と変化の概念
江戸時代の町人文学「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざからは、以下のような事例が引き出されます。
- 強風が吹くと、土埃が舞い上がり、視力の弱い人々の中で目の病気が増える。
- 病によって目が不自由になった人は三味線の演奏指導や門付での演奏によって需要が増える。
- 彼らが使う三味線の製造には猫の皮が必要であり、楽器製造の影響で猫の数が減少すると自然と鼠の数が増える。これにより、鼠が箱型容器を齧るなどの害獣被害が広がり、桶などの需要が増加し、桶屋たちにとって好機となっている。
このような一連の事象を現代の視点で考えると、風が吹けば風力発電による電力量が増え、風力発電関連企業は利益を得る可能性があります。
ただし、需要が増える一方で競争も激化し、価格競争や収益への影響も考慮する必要があります。また、風力発電の製造コストや風の吹き具合にも注意が必要になるといった具合に、システムシンキングは、さまざまな要素が相互に作用し合い、時間とともに変化することを考慮する視点です。
システムの構成要素が変わるとシステムの挙動も変わるため、システムを理解するには時間の流れの中での状態を考慮する必要があります。システム全体の情報量は、部分の総和を超える重要な情報を持っています。
時間とともに影響関係も変化するということは、システムシンキングはある意味では、社会科学や生命学の分野にも通じるものがあります。しかしビジネスの文脈で考えたとき、多くのビジネスパーソンは、ビジネスフレームワークやファクトベースに当て込むことで、静的な整理をしがちであり、経営全体における意思決定もしかりです。社会科学や生命学のように柔軟なものとして捉え、ビジネスをより動的な物に変化していくことを教えてくれます。
システムシンキングの時間と変化を前提とするのであれば、日々の意思決定や企業戦略も限定的なものにすぎず、あくまである瞬間における仮説となります。組織全体や市場で何かが動いているという前提で、焦点となる個々の動きを全体の影響関係を両方捉えることができ、いつ、どこに、どのような介入をすれば、良いかを示しています。
ビジネスにおけるシステムシンキングの役割
ビジネスにおいて、システムシンキングは非常に重要な役割を果たします。現在のビジネスは、経済がグローバル化し、データは膨大になり、消費者や社員の価値観が多様化しています。
そのため、ビジネスの可能性は広がる反面、事象に対する影響因子は指数関数的に増え、複雑に絡み合って構成されています。その全体を捉え、要素の関わり合いを鋭く分析することで、ビジネスが抱えている課題が浮かび上がってくるでしょう。
システムシンキングを使うことで、必要な改善策がわかり、ビジネスの持続可能性がアップしたり、イノベーションが促されたりするのです。
また、システムとして分析することで、必要なビジョンや意思決定にたどり着きやすくなります。既存の因子だけを見ていたら浮かばないようなアイデアや、まったく新しいビジネスモデルが思いつくこともあるかもしれません。システムシンキングは、イノベーティブな発想を促すための手段になるのです。
システムシンキングのメリット
システムシンキングについて、成り立ちや詳しい内容を見てきました。この思考をビジネスに取り入れることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
事象や問題を俯瞰し全体性を理解できる
システムシンキングでは、システム全体を捉えるために多くの事象を客観的に見ることが必要です。
システムは複雑な構造をしていて、ある問題に対処するには、複数の関連要素にアプローチすることが必要だとわかるでしょう。
俯瞰することで初めて、思ってもみなかった着眼点が見つかることがあります。今まで見えていなかった問題を把握できたら、新しいアイデアを得られるでしょう。ある問題に対処しようとして解決方法が見つかっていなかったとしたら、メタ認知で捉えた新しい解決方法が見つかるかもしれません。
システム全体を視野に入れることで、これまでとは異なるジャンルの理論を取り入れる余地が生じる点もポイントです。つまり、ビジネス以外の分野である社会学、哲学、環境等々の知識や理論を学習する大きな機会を与えてくれます。システムシンキングを学ぶということは、影響因子を学ぶということに他なりません。
高度な問題解決や意思決定が可能となる
システムシンキングを行うと、システム全体の関わり合いが立体的に見えてきて、連立方程式のようなかたちで大枠を捉えられます。
経営に関わる意思決定や問題解決の前提のデータや事実は増えるわけですから、むしろ大変だと認識するかもしれません。しかし、現在では情報通信技術の発展から、ビジネスインテリジェンス(BI)や社内ポータルなどを活用し、影響因子のデータが可視化されていれば、誰でもいつもで取得可能であり、日々の変化も追うことも相関を分析することもできます。また、一般的なデータに関しても、生成系AIを用いて意思決定をする前のデータ解析を処理できます。
従って、システムシンキングを活用した意思決定や問題解決とIT技術は非常に相性がいいと言えます。
複数の方程式によってシステムを構成する要素の関わり合いも見えて、ひとつの変化がどのように作用し合って影響が広がるのかがわかるようになり、より現実に沿った未来予測が可能になるでしょう。
ただし、連立方程式を解いていくには高度な技術が求められます。そのため、専門的なスキルのある人に分析を任せるほうが効率よく理想の解決策にたどり着けます。
組織やシステムとして捉えることによりジレンマを引き受ける
組織運営を改善するためには、全体をシステムとして捉え、それを構成する個別の指標や関係性を見直していくことが重要です。要素が相互に影響しあっていることがあるので、関係を正確に捉えて、全体へ影響していくメカニズムを見つけていきます。相互関係を踏まえると、「あっちが立てばこっちが立たず」というジレンマがいくつも存在することに気づきます。
経済学に出てくる「マルサスとリカードの穀物論争」は、平たく言えば保護貿易と自由貿易の論争です。この経済政策が国のあらゆる影響因子にどのように影響するか?という議論を英国は1815年~1846年穀物法が廃止されるまでの30年もの間論争していたわけです。現代においてTPPの議論が同様にして政府、有識者、産業団体が、政策に対して議論が分かれ、他国が、経済が、業界団体が、企業が、消費者が、どのような行動をとるかは誰にもわからないということです。
時間的な未来と人や集団という不確実性においては、影響関係を洗い出せば多種多様なジレンマが存在します。
生産個数を向上させるためには、まず、各工程の生産性を詳しく把握し、工程間の関係性を整理し、改善のポイントを見つけることができます。そして、生産性の拡大は品質に影響を与えるでしょう。
品質と生産性は実は相互に影響し合っていることは自明の理です。従って、これを指標化し管理体制を強化し、双方を極限までに高めていった結果、一線を越える社員が出でしまい、数字の改ざんや不正データが増えるという事象は多々あります。社員や組織のモラルや意識はなかなか表立って見えないため可視化も根本的には不可能でしょう。
見えている問題の事象だけを見ても、根本的な影響要因は明らかになりません。生産性と品質の両方を向上させるためには、システムや風土、人間関係など多くの要素を考慮することが必要です。
人や組織に関わる問題は、複雑なジレンマを抱えていることが多く、すぐに解決できない問題を調整しながら事業を推進しなければなりません。ジレンマが存在する中で意思決定を行い、問題を解決していくことが求められます。
見えないものだからと言って無視できないことを理解するのが重要であり、それを完全に影響関係と数値化することは根本的に不可能であったとしても、考慮することが重要です。
このように全体をシステムとして見ることで、意思決定や問題解決において本質的に調整すべきはどの箇所なのかを見つけることができ、有機的なアクションをとれるようになるのです。
システムシンキングのデメリット
システムシンキングはメリットが大きい一方で、注意すべきデメリットも抱えています。それぞれの要素をチェックした上で、気をつけながら取り入れていきましょう。
可視化できる因子データや取得可能な因子データには限界がある
システムシンキングでは、俯瞰的にシステム全体を捉えることになりますが、このとき注意したいのは、目に見える因子データから情報を読み解くには限界があるというこです。
とくに、人と社会を扱っているので、データで可視化できることには限界があります。他社や競合より、より細かくより広範囲にシステムを捉えることができれば、デメリットはメリットに変化します。全体を踏まえて関わりを捉えることは効果的ですが、細かい要素は示されていない可能性があることを常に留意しましょう。
迅速な対応が求められる場合には不向き
システムシンキングは、時間やリソースをかけて分析を進めていく手法です。
システムシンキングには遅行指数と先行指数という指標があり、遅行指数は、過去のデータで問題を把握・分析する指標、先行指数は、未来を予測する指標です。複雑な問題を解決するためには膨大な時間がかかることが予測されますので、迅速に対応すべき状況の場合、システムシンキングは不向きであると言えます。つまりは、完全な意思決定や問題解決などないということです。
組織やチーム全体の解像度を高める必要がある
システムシンキングでは、システム全体を俯瞰的に見ることで問題を解決していきます。さまざまな要素の関係を正確に把握するためには、要素に関する詳しい知識や経験が必要になるケースもあるでしょう。
そのため、特定の人で行うのではなく、組織全体で一丸となって取り組むことが大切です。ただ、全員がシステム全体を理解するための学習には時間がかかることも考慮しておきましょう。
具体的に言えば、可視化され共有化できる影響因子や数字の変化を日々社員の見えるところに置き、経営側は指標と紐づけ情報を公開することで、時間とともに組織やチーム全体で捉えることが可能になります。たとえば企業の意思決定を個人に置換えてみたとき、株式、外国為替(FX)、そしてビットコインなどの金融市場では、定年退職した人から大学生まで、多くの人々がスマートフォンを使って自分の投資資金を取引に投入しています。
彼らは日々の株価や為替の変動を観察し、それに基づいて意思決定を行っています。金融市場は社会システムと密接に関わっており、人々はその影響環境の中で行動しているのです。このような複雑なシステムに対しても、人間は適切に対応することが可能であると言えます。
システムシンキングを使って問題を発見する具体例
システムシンキングは、非常に膨大な影響因子とデータを取り扱いながら、人や組織などの不確実と対峙するというものであり、実務レベルで使えそうにないと感じている方も多いのではないでしょうか。
例として昨今の企業が標榜する社会課題を考えた場合、経済を超えて社会に企業の存在を置き換えて、逆の視点で企業から見る必要のある社会がどうあるべきかの解を求めるためには、システムシンキングが必重要となります。
ここでは、システムシンキングの構造化した代表的なモデルを紹介し、事例を紹介しながら説明していくことで、実際の実務に役立てるように紹介していきます。
ピーター・センゲのシステムシンキングの4つレベル
『学習する組織~システム思考で未来を創造する』(原題:The Fifth Discipline)におけるピーター・センゲのシステムシンキング(Systems Thinking)は、組織やシステムの動きを理解し、それを通して全体を見る視点が書かれています。システムシンキングを理解するには、以下の要素やレベルが考えられます。
- 事象レベル(Events)
これは最も表面的なレベルで、個々の事象や現象に当てはまります。たとえば、会社の売上が下がったという具体的な出来事がここに当たります。
- パターンレベル(Patterns of Behavior)
事象が時間をかけてどのように進展し、パターンを形成するかを見るレベルです。
一例として、売上が一定期間にわたって減少し続けているというパターンがここに該当します。
- システム構造レベル(Systemic Structure)
パターンがどのようなシステムの構造から生じているかを理解するレベルです。
これは政策、規則、権限、作業手順など、システム内の形式的および非形式的な要素に影響します。
- メンタルモデルレベル(Mental Models)
個々の人々が世界をどのように理解し、その理解に基づいて行動するかという、深層の信念や視点に焦点を当てたレベルです。
これらのレベルは連動しており、上位のレベルが下位のレベルを影響し、形成しています。また、全体を理解するためには各レベルを統合したシステムシンキングが求められます。目先の目標達成よりも長期的に成長し、健全な経営を持続させていくことが大事だと再認識しましょう。
大企業によくある変革ループ
デジタルトランスフォーメーションは、日本企業にとって急務とされています。
2023年2月に公開された独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」によると、218社の調査結果から、業務効率化やアナログデータのデジタル化に関しては、約8割の企業が十分な成果またはある程度の成果を出していると回答しました。
しかし、新規製品のサービス創出やビジネスモデル変革に関しては、約2割の企業しか十分な成果またはある程度の成果を出していないと報告されています。
デジタルトランスフォーメーションの推進に伴い、企業は目標とする姿を描きながら、推進組織やプロジェクトチームを組織し、計画立案や目標設定、管理業務が増加しました。
その結果、現場業務にも負荷がかかり、指標達成のための効率的な作業に集中するような状況が生まれています。
しかし、仕事の意義や意味が薄れると、社員の士気が低下し、結果が出ない場合やフィードバックが得られない場合には、社員はさらに意欲を失い、業務や目標に対する悲観的な見方を抱くようになります。その結果、変革は形式的な儀式になり、業務の改善という無限ループに陥ることがあります。
このような状況では、事象レベル(Events)やパターンレベル(Patterns of Behavior)だけでなく、システム構造レベル(Systemic Structure)やメンタルモデルレベル(Mental Models)にも注意を向けて見ていくとわかりやすくなります。
社員のモチベーション関わるケースは目に見えない部分であり、システムシンキングや組織開発、対話型ワークショップが重要な役割を果たす領域です。これらの要素を適切に取り組まないと、デジタルトランスフォーメーションは困難となるでしょう。
とは言え、数十人~数百人であれば、メンタルモデルレベル(Mental Models)に対する直接的な対話や意味づけの機会を提供することは可能かもしれませんが、この手のワークショップのファシリテーションは、高度に訓練された専門家が必要です。外部活用するにせよ、内省するにせよコストはかかります。
では、数千人、数万人規模の会社では、ワークショップを大人数で実施する場合はどうするかというと、一時的に現場を抜け参加し、また職場に戻るという課題を小分けにして実施します。しかし、メンタルレベルが、ワークショップの参加しているタイミングでは、変化はあるかもしれませんが、また職場に戻れば、効果が消える可能性もあるため砂漠に水を撒いて効果がないのと同様にあまり現実的ではありません。
つまりは、システム構造レベル(Systemic Structure)やメンタルモデルレベル(Mental Models)も同時にアプローチする必要があります。メンタルレベルに対するワークショップや研修などと同時に、規則、権限、作業手順を変えていくということが必要です。
新規事業と組織風土
新規事業と組織風土にはどのような関係性があるのでしょうか。ここでは、新規事業と組織風土の関係性について詳しく解説していきます。
新規事業と既存事業
戦後から高度経済成長期にかけて、日本企業はソニーやホンダを含め、モノづくりにおいて高い能力を発揮し、世界的な注目を集める魅力的な商品を生み出しました。
日本は「イノベーション大国」と評され、革新的な新規事業やイノベーションを次々に生み出すことで世界から注目を浴びました。
しかし、近年では日本のイノベーション力が低下していると指摘されています。グローバルな競争が激化し、新興国や他の先進国が迅速なイノベーションを推進するなかで、先進的な取り組みをしている企業はデジタルトランスフォーメーションや社会課題に焦点を当て、新規事業創出に力を注いでいます。
過去のイノベーションや新商品は既存事業として収益を上げ、それらの事業は企業のブランド、組織設計、社員の意識や風土に結びついて最適化されています。
新たな事業機会を追求するため、予測可能な収益の一部から新規事業への投資が行われまが、新規事業はアイデア出しから始まり、事業化や収益化は予測困難です。
スタートアップがIPOまでたどり着く確率は低く、失敗を許容し学習に重点を置いたとしてもリスクは高いというのが実情です。日本企業の倒産は信用低下につながり、大きな打撃となります。
資金調達が承認されても、市場や顧客の変化、商品開発、販売、組織など、多くの問題に直面し、アジャイルを最大限いかしたとしても行き当たりばったりの場合もあります。
また、新規事業は小規模で始まり、個々のメンバーが複数の業務を担当し、リーダーシップとモチベーションにはビジョンが重要です。成果や結果はすぐには現れず、高速で学習し実行する必要があります。小規模なチームはさまざまな経験を積みながら困難を乗り越え、驚くべきスピードで成長します。
要するに、新規事業と既存事業は収益創出という共通点がありますが、システムシンキングの構造はまるで異なります。そ結果、新規事業は別会社として独立し、大企業がベンチャーを買収するなどの形式もあります。
組織風土が問題だから、新規事業が生まれない
結論から言うと、既存事業と新規事業は共存することができます。実際、多くの企業は過去の歴史を通じて、非連続的な変革や連続的な改善を経験してきました。
既存事業の収益を新たな商機や商品、事業への投資に活用することは、商売において当然の流れです。
ただし、大企業では新規と既存事業とのコンフリクトや組織内の課題が生じることもあります。新規事業を創出するプロセスでは、組織内部でシステム構造レベルやメンタルモデルレベルが一致しないことや、経営意思決定においてもコンフリクトが生じることがあります。また、社員の意識や風土の面でも課題が生じる可能性があります。
そのため、新規事業の創出においては、風土の変革が重要です。風土の変革は、アイデアの発生、提案数の増加、実行プランの拡大、失敗を許容するというループを通じて進むものです。実際のプロセスでは、少ないアイデアや陳腐なアイデアでも、コミュニケーションを通じて実行プランの質や型に関する解釈や意味づけを行います。実行段階では、風土の変革に関する教育や対話を通じて、結果に対する認識や結果に対する支援の姿勢を伝えます。成功や失敗に関わらず、結果に対する認識は伝えられ、風土の変化を促進するのです。
では実際に、
「風土が変わる(メンタルモデルレベルを変わる)⇒アイデアが出る⇒提案数が出る⇒実行プラン増える⇒失敗を許容する」というループになるでしょうか?
実態としてはほとんどの新規事業創出に、効果を上げている会社は
「アイデアが出る⇒実行プラン増える⇒大胆な意思決定をする⇒失敗する⇒失敗を学習と捉える⇒失敗の評価が変わる⇒失敗の解釈が変わる⇒風土が変わる」です。
最初は少ないアイデアであろうと、陳腐なアイデアであろうと、アイデアを出た結果に対して、社員の解釈を添えて、意味づけを添えてコミュニケーションすることです。コミュニケーションしながら、失敗であろうと成功だろうと、結果に対する認識を伝えており、結果として風土が変わっていったというのが結論です。
組織と人の問題は誤謬だらけ
合成の誤謬とは、ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロの世界では、意図しない結果が生じることを指す経済学の用語です。
たとえば、ある企業がコスト削減のために従業員を解雇したとします。この場合、ミクロの視点では、企業はコストを削減し、利益を上げることができます。しかし、マクロの視点では、従業員が解雇されることで、消費が減少し、経済が停滞する可能性があります。また、ある国が貿易赤字を解消するために輸入を制限したとします。この場合、ミクロの視点では、国内産業が保護され、雇用が創出されます。しかし、マクロの視点では、輸入が制限されることで、消費者は選択肢が減り、物価が上昇する可能性があります。
ビジネスや日常生活でも起こり得る誤謬です。たとえば、ある企業が新製品を発売したとします。この場合、ミクロの視点では、新製品は売れ行きが好調で、利益を上げることができます。しかし、マクロの視点では、新製品の発売により、既存製品の売り上げが減少する可能性があります。
組織になんらかの変革を起こそうとする際、たしかに抵抗が発生します。従業員が変革に対して懐疑的になり、どうしても受け入れられなくなるのはなぜでしょうか。
組織がこれまでの方法論にこだわり、古い技術に固執して変化せずにいると、技術の進歩に取り残されてしまうのはなぜでしょうか。
カスタマーエクスペリエンスを向上するため、工程を分業し、デジタル化によって、より顧客に丁寧でスピーディに対応した体制において、なぜ社員のモチベーションを低下するのでしょうか。これは、単純な局所対応では解決できない矛盾やジレンマが存在するためです。
システムシンキングは、時間的変化と影響関係を可視化することで、新たな要因やジレンマを発見する手法です。
しかし、局所的な対応に固執している限り、問題解決は困難です。組織全体で解決策を見つけるためには、インターナルコミュニケーションが重要です。トップメッセージや全社的なコミュニケーション、対話を通じて意味づけや解釈を共有し、複数のコミュニケーション手法を活用する必要があります。
システムシンキングでよく用いられるツール
システムシンキングでは、思考を体系立てて整理するために、グラフや図、マップなどのツールを用いることがよくあります。以下では、よく用いられる代表的なツールについて簡単に紹介します。
時系列変化パターングラフ
売上やシェア率、市場規模などの定量要素をまとめたグラフです。英語では「Behavior Over Time」略して「BOT」と表現されることもあります。システム思考を使ってマーケティングを行ったり、事業計画を立てる際に役立ちます。
ループ図
さまざまな要素の因果関係を矢印で結び、関係性を可視化した図です。さらに関係性がプラスに作用しているのか、マイナスに作用しているのかも合わせて可視化します。これにより、複数の要素がどのように影響し合ってシステムを構築しているのかがわかります。因果ループ図、英語では「Causal Loop Diagram」と表現されることもあります。
システム・ダイナミクス・モデリング
上記のループ図に、時間経過という軸を加えた考え方です。時間的な経過については先に触れた通りで、システムにおける状況変化には、時間的な流れが存在します。その変化をわかりやすく捉えるためのツールです。
システムマップ
システムを構成する要素や、それぞれの関係性を可視化するツールです。システムを構成する要素やその関係性を矢印や四角形、円などの図形を使って示します。図形を線でつなぐことで、システムの全体像と細かい構造を把握できます。
ストックフローダイアグラム
ストックフローダイアグラムは、ストックやフローを表現するためのツールです。システムを構成する要素やそれぞれの関係性を矢印や四角形などの図形を用いて表現し、線で結んでフローを描いていきます。
レバレッジポイント図
レバレッジポイント図は、全体に理想的な影響を与えるであろう「レバレッジポイント」を明確に探すためのツールです。システム内の要素を細かく見ながら問題点や改善点を特定します。そして、どう改善していけばいいのかを提案します。
シナリオ分析
シナリオ分析は、将来起こりうる複数のシナリオを描くツールです。そのシナリオに対処するための方策を考えることで、システムの変化を予測し、考慮したアクションをとることができます。
メンタルモデル図
メンタルモデル図は、個人の思考や同期、世界観などを整理して、認知の仕方を表現したツールです。人間の感じ方を踏まえて具体的な検討を行いたいときに有用です。
システムシンキングを取り入れるためのポイント
最後に、システムシンキングを取り入れる際に重視したいポイントについて紹介します。システムには時間的な変化がつきもので、その変化や成長も含めて多種多様な解釈可能性があります。固定されたものではなく変化し、成長していく、生命体のようなものだと捉えることが重要です。これはシステムシンキングを行う際の前提になる捉え方で、経営思想レベルで意識したい点です。
多様な視点を組み込む
システムシンキングを行う際は、視点が固定化されないように気をつけましょう。システムとはさまざまな要素が複雑に絡んでいるものだからこそ、多様な視点を取り入れなければうまく機能させることができません。自分の中で多様な視点を意識するのもいいですが、異なる部署・職種の人の意見を聞くと、自分とは前提が異なる視点を取り入れることができます。
プロセスのマッピング、全体をメタでみること
システムシンキングをする際には、ビジネスの細かいプロセスをメタで捉えることが重要です。プロセスをわかりやすくマッピングすることで、問題のあるエリアがあれば把握できます。さらに改善のためのアクションも具体的に捉えられるようになるでしょう。
実践と継続的な改善
システムシンキングによって成果を得たい場合には、実践と継続的な改善が重要です。現状のビジネスプロセスや業務をどう改善するのがいいのかを、実践のなかで見つけていきましょう。そして評価と見直しを何度も繰り返すことで、明確な成果につながるでしょう。
まとめ
問題を一つの要素だけで考えるのではなく、広くシステムとして捉えるのがシステムシンキングです。因果関係や相互作用を理解しながら思考を深めることで、レベルの高い課題解決を促します。組織全体に最適化された課題解決ができるのが、大きなメリットです。
システムは時代や時間経過によって変化していくものなので、全体をメタ的な視点で見つつ、とるべきアクションを常に考え改善し続けることが重要です。ビジネスの持続可能性がアップしたり、イノベーションが促されたりするので、システムシンキングについて見解を深めていきましょう。
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株式会社ソフィア
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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
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