インターナルコミュニケーション

事なかれ主義とは?事なかれ主義が業務に実害を起こす理由と改善策を解説

事なかれ主義の意味とは

事なかれ主義は、単に穏便さを好む態度ではなく、評価理由の不透明さ、発言した人への負荷集中、部門間の情報分断、上司との心理的距離などから再生産される組織現象です。本記事では、傍観者効果や割れ窓理論との接点を整理しながら、業務・規範・社風への実害を解説します。そのうえで、評価制度の見直し、1on1の質向上、ヒリヒリする対話の場づくり、内部通報と相談ルートの設計、ナレッジ共有の運用改善、管理職研修の設計まで、人事・研修担当者が実務で使える改善策を具体的にご紹介します。

事なかれ主義の定義と組織的背景

事なかれ主義とは、波風を立てず、面倒ごとを避けながら物事を穏便に済ませようとする態度や考え方です。まずはこの言葉を、単なる個人の性格ではなく、組織で再生産される行動様式として捉えることが重要です。

事なかれ主義は誰にでも存在するという前提

「事なかれ主義」という言葉は、会社の体質や、日本人の思想を揶揄する場面でよく用いられます。何か不正があっても黙ったまま、なかったことにした結果、組織が不健全になった例は多く存在するでしょう。しかし、日本企業だけが事なかれ主義に陥っているわけではありません。海外においても、社会科学の分野などで、事なかれ主義的な集団心理が証明されています。

ここで重要なのは、事なかれ主義を「弱い人の問題」と切り分けないことです。人は他者の反応を見ながら行動を調整しやすく、社会心理学では、周囲に人がいるほど責任感が分散しやすい現象が古典的に示されてきました。大企業で「誰かが言うだろう」「自分が言うと面倒だ」が起きるのは、個人の怠慢というより、責任が拡散しやすい状況があるからです。

事なかれ主義と傍観者理論との共通点

傍観者効果は、本来は緊急時の援助行動を説明する研究ですが、職場にも示唆があります。誰もが違和感に気づいているのに、誰も最初の一言を言わないと、問題は「存在しないもの」として処理されやすくなります。事なかれ主義とは、まさにこの最初の一言が出にくくなる組織状態だと捉えると、構造が見えやすくなります。

事なかれ主義と割れ窓理論との共通点

犯罪学で知られる「割れ窓理論」は、心理学者のジンバルドの放置車両実験から着想し、社会科学者のジェームズ・Q・ウィルソンと犯罪学者のジョージ・L・ケリングが提唱した理論で、放置された小さな無秩序が「誰も気にしていない」というシグナルになり、さらなる無秩序を招きやすいという理論です。
一方、事なかれ主義は小さな問題を見て見ぬふりし、波風を立てないことを優先する態度です。組織でも、評価理由の説明不足、小さな不公平、見て見ぬふりが放置されると、「ここでは言わない方が得だ」という規範が強まりやすいでしょう。両者に共通するのは、些細に見える問題への対応が、組織や社会全体の秩序に大きく影響するという点です。

事なかれ主義のない組織は存在しない

上記で解説したように、海外においても日本と同様に、個人と社会の関係性について揶揄されることがあります。人は誰でも、自分の所属する集団組織の基準に則って価値判断を下します。言い換えれば、集団組織に判断能力を依存しているわけです。
完全に自分の意見で発言し、物事を自分だけで判断しているという人はいません。つまりどんな社会であっても、「事なかれ主義」を徹底的に排除することはできないのです。
となると重要なのは、事なかれ主義といかにうまく折り合いをつけるかです。広い観点で「事なかれ主義」は「パターン認識」であり、最終的には何も疑問を持たずに受け入れることが多いということです。
ある物事において、問題があったとしてもなかったとしても、すべて良しとして、ありのまま受け入れてしまうことがありませんか?事なかれ主義から距離を置くためには、常に自問自答し、自分たちが物事を疑わずに受け入れていないかどうかを検討する必要があるでしょう。自問自答が行われないと、人々は自然に事なかれ主義に陥りやすくなってしまいます。

完全排除が難しいからこそ、人事には「沈黙が起きても、重要な論点は上がる」「異論を出しても損をしない」運用設計が求められます。ハーバード・ビジネススクール教授のエドモンドソンの研究では、チームの心理的安全性は「対人リスクを取っても安全だという共有された信念」と定義され、学習行動と関連し、その学習行動を通じて成果に結びつくことが示されました。
事なかれ主義対策は、優しい雰囲気づくりではなく、学習と改善が回るチーム条件を整えることだと理解すると、施策の精度が上がるでしょう。

事なかれ主義が職場で起きる原因

事なかれ主義は、個人の性格だけで起きるものではありません。評価の不透明さ、意思決定理由の不共有、部門間の分断、声を上げた人への負荷集中などが重なると、組織は「黙っていた方が安全」と学習します。
経済産業省の人材版伊藤レポート2.0が、KPIの背景や理由の説明、CEO・CHROと社員の対話、管理職が社員の動機や意向に耳を傾けることを強調しているのは、その逆の状態が企業価値を下げうるからです。

事なかれ主義が起きやすい職場の特徴

事なかれ主義が起きやすい職場には、いくつか共通点があります。失敗を扱うときに学習より責任追及が前に出ること、評価理由や人事判断の背景が十分に共有されないこと、部門をまたぐ情報流通が会議や人づて頼みであること、そしてサーベイや1on1が制度として存在しても、改善の実感につながっていないことです。こうした職場では、異論や問題提起が「組織の前進」ではなく「面倒ごと」とみなされやすくなります。

評価理由の不透明さと沈黙の関係

弊社ソフィアの調査では、上司とのコミュニケーションの課題として「評価の理由が不明、基準が人によって異なる」が18.6%で最も高く、「放任や丸投げなど指示が無い」が17.7%、「方針決定の理由が不明、判断基準が示されない」が15.4%、「改善点が具体的でない等、フィードバックの質が低い」が15.1%で続きました。
これは、過剰な管理だけではなく、「説明しない管理」も事なかれ主義を生みやすいことを示しています。納得できる評価と判断の背景が見えなければ、従業員は挑戦よりも無難さを選びやすくなります。

部門間の壁と責任の分散

弊社ソフィアの調査では、部署間コミュニケーションの必要性を感じる回答が74.8%ある一方、他部署の情報が十分入ってくるという肯定回答は33.2%にとどまりました。さらに、部署間コミュニケーション促進の施策は定例会議が中心で、何も実施していない企業も一定割合ありました。部署をまたいだ文脈共有が弱い組織では「その論点は自部署の仕事ではない」と責任が分散しやすく、事なかれ主義が温存されます。

事なかれ主義の進化版「言ったもん負け文化」

事なかれ主義から派生した考え方に「言ったもん負け」というものがあります。この言葉は、「言ったもん勝ち」「やったもん勝ち」という勝者の教訓を茶化したレトリックです。日本企業の中で、ミームと思われる現在の大企業の本音を映し出す言葉です。具体的には、反対意見や新しいアイデアを口にすることで、それに伴った行動を強制されてしまいます。さらに、その行動に対して名誉や評価が得られないことが多いという、経験に基づく格言にすらなりつつあります。例として下記のようなものがあります。

Aさん:「このプロジェクト、デザインのクオリティが低いと思うんです。もっとこうした方が良くなるように感じます」
上司:「なるほど、それはいい指摘だね。じゃあ、Aさんがデザインのクオリティを上げる施策を考えて、実行までやってくれる?」
Aさん:「えっ…」

これはコントではありません。実際によくある日本企業のコミュニケーションプロセスです。
この状況は、事なかれ主義の進化版であり、「指摘すること・責任を持つこと・行動すること」と、「余計な仕事が増えること・面倒な役回りが増えること・失敗するリスクを負うこと」が結びついた文化です。これまでの日本企業ではしばしば、発言や行動と、それに見合った評価などが紐づいていませんでした。このような状況では、新しいアイデアや問題点を指摘すること自体がリスクとなり、人々はますます慎重になってしまいます。

この「言ったもん負け文化」が定着すると、改善提案もリスク情報も上がらなくなります。弊社ソフィアの調査では、上司との1on1で「率直に話せている」という肯定回答は58.1%あった一方、「業務遂行やキャリア形成に役立っている」は41.2%にとどまりました。つまり、話せる場を用意するだけでは足りず、発言が業務改善や成長支援につながる実感を持てなければ、沈黙は解けないのです。

ナレッジの所在が分からないと前例主義が強くなる

弊社ソフィアの調査では、ナレッジ共有の課題として「情報がいろいろな場所にあり、どこにあるか分からない」が27.6%で最多でした。「他の部署の情報にアクセスしづらい」も22.5%あり、忙しさを理由に共有時間が取れないという回答も21.3%ありました。こうした状態では、自分で調べて改善するより、前例を踏襲して目立たない選択をしたほうが安全になります。事なかれ主義は、情報設計のまずさからも生まれるのです。

事なかれ主義が組織にもたらす実害

声が上がらない組織では、問題がないのではなく、問題が表面化しにくいだけです。心理的安全性の研究では、チーム内で疑問や懸念を表明できることが学習行動と結びつき、その学習行動を通じて成果につながることが示されています。逆に言えば、事なかれ主義が強い組織では、学習と改善の入口そのものが痩せ細っていきます。

事なかれ主義は組織文化・風土の一形態

事なかれ主義は、一人の態度ではなく、組織のなかで繰り返し再生産される文化や風土の一形態です。経済産業省は、企業文化を所与のものではなく、人材戦略の実行を通じて醸成されるものだと位置づけています。つまり人事は、制度や対話の設計を通じて、事なかれ主義を弱めることも、逆に強めることもできる立場にあるということです。

事なかれ主義が生み出す実害の全体像

実害は、突然大きな事故として現れるわけではありません。日々の小さな見過ごし、説明不足、曖昧な評価、部門間の無関心が積み重なり、やがて「誰も言わない」「誰も背負わない」「誰も学ばない」状態をつくります。ここでは、業務レベル、規範や価値観レベル、社風レベル、そして個人レベルに分けて整理します。

業務レベルでの実害

業務レベルで最初に出やすいのは、判断の遅れと品質低下です。違和感や懸念が初期段階で共有されないため、論点が後ろ倒しになり、修正コストだけが高くなります。心理的安全性が学習行動を通じて成果に関わるという研究結果からも、早い段階での発言や問いかけが、実は生産性と品質の前提条件だと分かります。

弊社ソフィアの調査では、ナレッジ共有が十分だという肯定回答は31.2%にとどまりました。情報の所在不明、部署間アクセスの難しさ、更新担当の不明確さが重なると、担当者は「余計な提案をして混乱させるより、前例通りに動こう」と考えやすくなります。これは業務効率の問題であると同時に、改善提案の消失でもあります。

規範・価値観レベルでの実害

事なかれ主義が価値観のレベルまで進むと、組織は「正しいかどうか」より「波風が立たないかどうか」で判断し始めます。そうなると、問題提起は歓迎される行動ではなく、空気を乱す行動として処理されやすくなります。人材版伊藤レポート2.0が、KPIの背景と理由を社員にも説明すべきだとするのは、社員が何を重視すべきかを明確にしなければ、価値判断が曖昧化するからです。

弊社ソフィアの調査では、エンゲージメントサーベイの結果について、実施者の45.5%が「数値を上げること自体が目的化している」と感じていました。数字を追うこと自体が悪いわけではありませんが、数値を上げることだけが目的になれば、現場は本音を言わず、無難な回答や無難な改善だけが増えます。これはまさに、事なかれ主義の価値観がデータ運用に入り込んだ状態です。

社風レベルでの実害

社風のレベルでは、事なかれ主義は「ここではその話をしないほうがよい」という空気として現れます。一見すると落ち着いた職場に見えても、実際には異論が出ず、改善が回らず、人が空気を読み続けるだけになりがちです。割れ窓理論の文脈でいえば、小さな放置が「誰も気にしていない」というシグナルになるのと同じで、小さな違和感を扱わない文化が、より大きな沈黙を招きます。

弊社ソフィアの調査では、職場を良いと感じる要因として「人間関係・上司部下関係」が53.8%で最も高く、「職場環境」が48.2%、「仕事内容・役割」が44.6%で続きました。人間関係が重要だからこそ、それを「波風を立てないこと」と取り違えると、良い関係が率直な対話の阻害要因になります。人間関係を守ることと、必要な異論を言えることは、両立させて設計すべきです。

個人・職場レベルでの実害

個人レベルでは、当事者意識の低下、諦め、成長機会の喪失として現れます。上司との1on1があっても、率直に話してよい理由と、話した内容が報われる見通しがなければ、本音は出ません。弊社ソフィアの調査で、「上司が傾聴してくれる」という肯定回答は63.6%あった一方、「1on1が業務遂行やキャリア形成に役立つ」は41.2%にとどまったのは、そのギャップを示しています。

さらに大企業では、事なかれ主義はコンプライアンス・リスクにも直結します。消費者庁の公益通報ハンドブックでは、公益通報を理由とする解雇は無効で、解雇以外の不利益取扱いも禁止されると整理されています。
加えて、公益通報対応業務従事者の指定と内部公益通報対応体制の整備は従業員300人超の事業者には 法的義務として課されており(300人以下は努力義務)、従業員が多い企業ほど「声を上げられる仕組み」は文化論ではなく必須の統治基盤です。

人事が取り組むべき事なかれ主義の改善策

事なかれ主義を防ぐには、「もっと積極的になろう」と呼びかけるだけでは足りません。人事がやるべきことは、発言が不利益につながらない制度、発言が業務改善につながる運用、そして発言を受け止める管理職行動をセットで設計することです。人的資本経営と内部通報制度の両面から見ても、これは現代の大企業人事に求められる基本動作です。

改善策の基本的な考え方

ポイントは、個人の意識改革だけに頼らないことです。声を上げることの意味、声を上げた後の役割分担、評価との接続、相談ルートの安全性まで含めて設計してはじめて、事なかれ主義は弱まります。つまり、場づくりと制度設計の両方が必要です。

「言ったもん勝ち」「やったもん勝ち」の文化と役割づくり

一つめの改善策としては、「問題や悪いことを指摘することこそヒーロー」になれる組織をつくることです。つまり「言ったもん勝ち」「やったもん勝ち」を推進することです。
ここでいう「言ったもん勝ち」は、声の大きい人を優遇するという意味ではありません。問題提起や改善提案をした人が、損ではなく前進の起点になれるように、役割と評価を明確にするという意味です。経済産業省が、KPIの背景や理由を説明することを重視しているのは、社員が何を評価されるのかを理解しなければ、望ましい行動は増えないからです。

人事実務では、提案者が一人で全部を背負う運用をやめることが重要です。改善提案を出した人と、実装責任を持つ人、意思決定する人、支援する人を分け、提案が通った場合の評価や表彰のルールを最初から定義しておくと、「言ったら損」が起きにくくなります。
弊社ソフィアの調査でも、上司とのコミュニケーション課題として評価理由の不透明さが最上位に出ており、評価説明は事なかれ主義対策の中心に置くべき案件です。

「ヒリヒリする対話・ディベート」の場づくり

続いての改善策は、あえて対話やディベートなどの「ヒリヒリするような場」を創ることです。安心・安全という言葉だけでは、人は本音を出しません。論点を明確にし、違う意見を持つ人同士がきちんとぶつかり合う経験を積むことで、初めて「異論があっても関係は壊れない」という実感が生まれます。

この施策は、単発のイベントではなく、管理職研修や1on1の質向上と一体で設計するのが有効です。Edmondsonの研究が示すように、心理的安全性は「何を言ってもよい」雰囲気ではなく、対人リスクを取ってもチームが学習に向かう状態を指します。だからこそ、研修では傾聴だけでなく、問いの立て方、異論の扱い方、評価理由の説明の仕方まで扱う必要があります。

弊社ソフィアの調査では、1on1で「上司が傾聴してくれる」という肯定回答は63.6%でしたが、「役立っている」は41.2%でした。これは、聞く姿勢があっても、対話の設計が浅いと変化につながらないことを示しています。管理職研修では、「最後まで聞く」だけでなく、「なぜそう考えたかを掘る」「評価や方針の背景を説明する」「論点を残して終わらない」までを訓練する必要があります。

アウトサイダーを組織の主流へ

元々の組織にあまりフィットしていないアウトサイダーを組織の主流に持ってくることで、雰囲気を変えることができます。多様なバックグラウンドを受け入れる組織をつくり、さまざまな視点からの意見や提案を歓迎する土壌を作ることで、積極的な発言が増えるでしょう。また、アウトサイダー自身も組織に自然に参加できるようになります。

この考え方は、人的資本経営とも整合します。経済産業省は、多様な人材を活かすうえで、課長・マネージャーが互いのマネジメント方針を参照し、優れた工夫を学び合う環境を整えることを提案しています。つまり、多様な人を採るだけでは不十分で、多様な人の意見が中央で扱われる運用と、その人材を活かせる管理職の能力開発が必要です。
実務上は、中途採用者、他部門出身者、若手、現場に近い職種、拠点人材など、これまで意思決定の中心に入りにくかった人に「論点を出す役割」を意図的に与えるのが効果的です。会議ではチャレンジャー役を固定で置く、プロジェクトでは事業部外メンバーを必ず混ぜる、タウンホールでは匿名質問だけでなく公開質疑も設けるなど、少しの設計で空気は変わります。人事がそれを制度として支えることが重要です。

内部通報と相談ルートの整備

企業では、事なかれ主義対策として内部通報制度を軽視できません。消費者庁の公益通報者保護制度で、公益通報を理由とする不利益取扱いは禁止され、内部通報対応体制の整備も求められます。現場の声が上がらない組織ほど、重大な問題は最後まで表に出にくいため、日常の相談窓口、コンプライアンス窓口、ハラスメント相談、内部通報制度をばらばらにせず、「どの論点をどこへ持ち込めばよいか」が明確に分かる設計が必要です。

そのうえで、人事は「制度がある」だけで終わらせないことが大切です。匿名性の扱い、調査の流れ、報復禁止、集計した運用実績の開示までが見えてはじめて、従業員は制度を信頼します。消費者庁の指針解説でも、内部公益通報対応体制の評価・点検や運用実績の概要開示が重要だと示されています。

部署間コミュニケーションを会議だけに頼らない設計

弊社ソフィアの調査では、他部署情報の流通経路は「定例会議・全社会議」が40.1%で最多でしたが、メール配信30.3%、同僚・知人の口コミ28.9%、上司からの共有27.3%、社内ポータル24.2%と、複数の経路に分散しています。会議だけで流す設計では、会議に出ていない人、温度感が見えない人、後から参加した人に情報が十分残りません。公式チャネルと非公式チャネルを両輪で設計し、情報を「聞いた人だけが知っている」状態にしないことが重要です。

同時に、雑談や立ち話などの偶発的コミュニケーションも軽視できません。弊社ソフィアの調査では、雑談や立ち話に良い影響があったという回答は55.8%で、その効果として「相手に親しみや信頼感を持ち、心理的に距離が縮まった」が44.1%、「相手に気軽に声をかけたり相談しやすくなった」が43.8%、「業務上の連携や協働がしやすくなった」が41.2%でした。率直な対話は、公式会議だけで生まれるものではありません。

ナレッジ共有を評価と業務設計に埋め込む

ナレッジ共有は、「善意でお願いします」では定着しません。弊社ソフィアの調査では、共有しても評価されない、どこにあるか分からない、担当が決まっていない、他部署の情報に届かないといった課題が複数挙がっています。だからこそ、共有テンプレートの統一、更新オーナーの明確化、案件振り返りの定例化、ナレッジを活用した側の表彰まで含めて、業務プロセスに組み込む必要があります。

事なかれ主義を減らす研修・対話の設計方法

事なかれ主義を減らす研修を設計する場合、正解を教える講義型だけでは足りません。必要なのは、現場の本音を把握し、管理職の対話スキルを鍛え、制度と場の両方をつなぎ、運用の変化を測定することです。経済産業省の人材版伊藤レポート2.0が示すように、企業文化の定着には、経営陣のコミットメント、社員との対話、現場管理職のコミュニケーションが欠かせません。

最初のステップは現状把握

最初に必要なのは、「何が言えないのか」を測ることです。エンゲージメントサーベイだけではなく、評価理由の納得感、意思決定理由の見えやすさ、1on1の質、部門間の情報流通、相談窓口の信頼性を別々に聞く設計が有効です。
弊社ソフィアの調査でも、サーベイ結果を対話材料として使っている企業は22.6%にとどまり、15.7%が「特に活用されていない」と答えています。サーベイは、実施することより、問いの設計と使い方が重要です。

管理職研修は傾聴だけで終わらせない

管理職研修では、傾聴、問いかけ、フィードバック、評価説明、部門方針の共有を一体で扱うべきです。経済産業省は、管理職が各社員の仕事上の動機や意向に耳を傾け、自発的な行動を促すことを示しています。また、マネージャー同士が互いのマネジメント方針を参照し学び合うことも提案しています。つまり、「本人の話を聞く」だけでなく、「自分の判断基準を言語化して共有する」ことまでが管理職能力です。

対話会・ディベートは業務テーマで設計する

率直さを高める対話会やディベートは、抽象的な価値観論だけでなく、現実の業務論点を素材にしたほうが効果的です。たとえば、「この評価指標は現場にどんな影響を与えているか」「この会議体は本当に意思決定に役立っているか」「そのルールは誰を沈黙させているか」といったテーマで、部門横断に議論させます。大事なのは、議論したことが会議室で終わらず、制度改定や運用変更に反映されることです。

制度と運用への接続が研修を活かす

研修だけで空気を変えようとしても、制度が古いままでは元に戻ります。評価理由の説明がされない、提案者ばかりが負荷を負う、相談ルートが不透明、通報制度が怖い、ナレッジ共有が余計な仕事扱い、という状態のままでは、研修でどれだけ「声を上げよう」と伝えても浸透しません。人事は、研修後に見直す制度と運用をあらかじめ決めておく必要があります。

大企業で実行しやすい着手の順序

大企業では、いきなり全社改革を掲げるより、着手順を明確にしたほうが前に進みます。おすすめは、現状診断、管理職研修、1on1再設計、部門横断対話、内部通報・相談導線の点検、ナレッジ共有整備、サーベイ再設計の順です。まず「声を上げても大丈夫」と感じる土台をつくり、そのうえで「声が上がる仕組み」と「声が活かされる仕組み」を重ねると、事なかれ主義は徐々に弱まります。

まとめ

事なかれ主義は、個人の消極性ではなく、組織がつくり出す沈黙の構造です。評価理由が見えない、発言者ばかりが負荷を負う、部門間で情報が流れない、ナレッジが散らばる、サーベイが対話に接続しないといった状態が重なると、誰も最初の一言を言わなくなります。その結果、問題は見えなくなり、改善は遅れ、組織は無難さを最適化し始めます。
弊社ソフィアの調査では、部署間コミュニケーションの必要性は高いのに情報流通の実感は低く、1on1の実施は進んでも有用性は十分と言い切れず、ナレッジ共有にも「どこにあるか分からない」という課題が残っています。

つまり、多くの大企業では、すでに施策はあるのに、施策同士がつながっていないのです。だからこそ、人事には、評価制度、1on1、対話の場、内部通報、ナレッジ共有を別々に管理するのではなく、「声が上がり、活かされる仕組み」として再設計する視点が求められます。

もし自社に「言ったもん負け」の空気があるなら、まず見直すべきは、評価理由の説明、管理職の対話スキル、部門間の情報流通、そして安全な相談ルートです。スローガンだけでは組織は変わりません。制度、場、管理職行動を一緒に変えたとき、事なかれ主義は初めて弱まります。

事なかれ主義の意味とは?事なかれ主義が業務に実害を起こす理由についてよくある質問
  • 事なかれ主義と慎重さの違いは?
  • 慎重さは、リスクを見たうえで必要な論点を出し、対策を考えて前に進める姿勢です。事なかれ主義は、リスクがあるからこそ論点自体を出さず、問題を先送りにしやすい姿勢です。心理的安全性の研究が示すように、学習する組織では「言いにくいことを言えること」が前提条件になります。

  • 1on1を増やすだけでは事なかれ主義は変わらない?
  • 1on1の回数を増やすだけでは不十分です。弊社ソフィアの調査では、1on1で率直に話せるという肯定回答は58.1%、上司が傾聴してくれるは63.6%でしたが、役立っているは41.2%にとどまりました。頻度よりも、評価理由の説明、意思決定の背景共有、次の行動への接続が必要です。

  • 内部通報制度だけでは足りない理由は?
  • 内部通報制度は、重大な法令違反や不正を受け止める最後の安全網として不可欠ですが、日常の違和感や改善提案までそこで受けるものではありません。日々の相談ルート、1on1、部門横断対話、ナレッジ共有とつながってはじめて、「小さな声が大きな問題になる前に上がる」状態がつくれます。

  • 着手点として現実的な三つの優先項目は?
  • 最初の着手点としておすすめなのは、評価理由の説明、管理職の対話スキル、部門間の情報流通の三つです。弊社ソフィアの調査でも、評価理由の不透明さ、部門間情報の不足、1on1の有用性不足が同時に見られました。まずはここを直すと、「言っても変わらない」という学習をほどきやすくなります。

  • 研修だけでは組織文化は変わらないのですか?
  • 研修だけでは変わりません。経済産業省も、企業文化の定着には、CEO・CHROの対話、管理職のコミュニケーション、人事制度との連動が必要だと示しています。研修はきっかけにはなりますが、評価制度、会議運用、通報・相談ルート、ナレッジ共有まで接続してはじめて、文化変容は現場に根づきます。

株式会社ソフィア

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ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。