事なかれ主義の意味とは?事なかれ主義が業務に実害を起こす理由を解説

事なかれ主義の意味とは

「事なかれ主義」という言葉は、よく組織を揶揄する文脈で使われます。しかし、その詳しい意味や影響についてしっかり考えたことがある人は少ないかもしれません。

そこで本記事では、事なかれ主義が浸透すると実際にどのような実害が生じるか、実害を防ぐためにはどのような策をとればいいのかを整理します。具体的な対策方法を記載しているので、組織に問題を感じている場合はぜひ取り入れてみてください。

事なかれ主義の意味とは

まず「事なかれ主義」の意味について、整理しましょう。事なかれ主義とは、ある物事に対して、波風が立たないように扱うことです。「事」というのは何らかの重要な事態を指します。「なかれ」は「するな」という意味を持ちます。できるだけ平穏にやり過ごそうという思想や方針を表す言葉となります。

事なかれ主義は誰にでも存在するという前提

「事なかれ主義」という言葉は、会社の体質や、日本人の思想を揶揄する場面でよく用いられます。何か不正があっても黙ったまま、なかったことにした結果、組織が不健全になった例は多く存在するでしょう。

しかし、日本企業だけが事なかれ主義に陥っているわけではありません。海外においても、社会科学の分野などで、事なかれ主義的な集団心理が証明されています。

以下では、その一例を詳しく見ていきましょう。

事なかれ主義と傍観者理論との共通点

「傍観者効果」という言葉があります。社会心理学の分野で使われる、集団心理を表す用語です。英語では「bystander effect」と言います。意味は、何かが起きても自分の他に傍観者がいる場合は率先して動こうと思わないことです。とくに傍観者がたくさんいる場合はより強い影響が発生するとされます。

傍観者効果は、自分ではない他の誰かがアクションを起こすことに期待する心理であり、集団の中で個は他の人々の行動を当てにしてしまうことを示しています。「自分では動かない方がいい」と考える点で、傍観者効果は、事なかれ主義と似ています。

事なかれ主義と割れ窓理論との共通点

「割れ窓理論」とは、心理学者フィリップ・ジンバルドが検証した行動特性です。意味は、人は匿名性がある状態だと「没個性化」して自分を規制できなくなる傾向があり、非合理的、衝動的な行動をとってしまうということを指します。

事なかれ主義は、集団内での行動に焦点を当てており、個人の行動が他の人々の存在や行動に影響を受けることを強調しています。多くの人が同じ状況にいると、他の人が何かをするだろうと期待し、その期待に従うことが一般的です。これは集団心理の一側面を示唆しています。

割れ窓理論も、社会的な秩序や犯罪に対する社会の反応に焦点を当てています。一つの割れた窓(小さな無秩序や犯罪)が社会的な無秩序を象徴し、他の人々にも同様の行動を刺激する可能性があると主張しています。これは、社会内での影響や行動の伝播を考慮している点で、事なかれ主義と共通しています。

事なかれ主義ではない組織など存在しない

上記で解説したように、海外においても日本と同様に、個人と社会の関係性について揶揄されることがあります。人は誰でも、自分の所属する集団組織の基準に則って価値判断を下します。言い換えれば、集団組織に判断能力を依存しているわけです。完全に自分の意見で発言し、物事を自分だけで判断しているという人はいません。つまりどんな社会であっても、「事なかれ主義」を徹底的に排除することはできないのです。

となると重要なのは、事なかれ主義といかにうまく折り合いをつけるかです。広い観点で「事なかれ主義」は「パターン認識」であり、最終的には何も疑問を持たずに受け入れることが多いということです。

たとえば物事において、問題があったとしてもなかったとしても、すべて良しとして、ありのまま受け入れてしまうことがあります。事なかれ主義から距離を置くためには、常に自問自答し、自分たちが物事を疑わずに受け入れていないかどうかを検討する必要があるでしょう。もし自問自答が行われない場合、人々は自然に事なかれ主義に陥りやすくなってしまいます。

では事なかれ主義の実害を減らし、組織が軌道修正するにはどうすればいいのでしょうか。事なかれ主義についてもう少し踏み込みながら、考えていきましょう。

事なかれ主義の進化版「言ったもん負け文化」

事なかれ主義から派生した考え方に、「言ったもん負け」というものがあります。この言葉は、「言ったもん勝ち」「やったもん勝ち」という勝者の教訓を茶化したレトリックです。日本企業の中で、ミームと思われる現在の大企業の本音を映し出す言葉です。具体的には、反対意見や新しいアイデアをを口にすることで、それに伴った行動を強制されてしまいます。さらに、その行動に対して名誉や評価が得られないことが多いという、経験に基づく格言にすらなりつつあります。

例として下記のようなものがあります。

Aさん「○○は問題だ!」「○○をもっとこうすればよい!」

Bさん「そうだそうだ」

Cさん「ぜひ、Aさんがやった方がいい、お願いします!」

Aさん「え?私ですか?(あちゃ~また仕事が増える・・評価もされないのに・・・)」

これはコントではありません。実際によくある日本企業のコミュニケーションプロセスです。

この状況は、事なかれ主義の進化版であり、新しいアイデアや革新が必要とされる現代社会における多様性を阻害し、異なる意見や反論を抑制する可能性があることを示しています。にもかかわらず、この「言ったもん負け」文化が常識として定着してしまっている組織も多いのではないでしょうか。先に紹介した「傍観者効果」のように、大きな組織であればあるほど、自分から率先して動かない人が増えます。

事なかれ主義は組織文化や風土の一形態である

事なかれ主義で何も動かずに傍観することは、もはや組織でうまく生きるための暗黙のルールになっているかもしれません。組織的な学習が、組織の価値観となり、常識や前提として深いレベルで植え付けられてしまうのです。時間が経てば経つほどそのサイクルは回り、暗黙の了解は浸透し、逃れることができなくなります。

企業の文化や風土には、二つの側面があります。一方では、組織の成功や安定に貢献する側面があります。しかし、もう一方では、問題を抱える原因ともなり得ます。これは、企業の風土の連続性による「ダブルスタンダード」の問題です。

組織の業績が良いとき、通常は組織文化の変化にはあまり焦点が当てられません。むしろ、成功の秘訣として、既存の組織文化が強調され、固定化されていくことがあります。問題は、この組織文化と実際の経営合理性が一致していない場合です。経営合理性と組織文化が異なる方向に向かっている場合、社員は不安を感じ、時には矛盾を抱えた行動をとることになります。

組織文化そのものが悪いわけではなく、それが現代のビジネスに合わない場合に調整が必要です。要するに、伝統的な文化が必ずしも問題ではないが、現代のビジネス環境に適応する方法が求められるということです。

では、現代ビジネスにおいて事なかれ主義が前提になってしまうと、どのような実害が起こるのでしょうか。事なかれ主義はよくない態度として揶揄されがちですが、本当になくしたほうがいいのでしょうか。次の章では、具体的な例を挙げながら見ていきます。

事なかれ主義はどのような形で実害を産み出すのか?

事なかれ主義や言ったもん負け文化が前提になっている組織では、何もせず傍観することが状態化し、次第に加速していきます。しかし、事なかれ主義による大規模な実害は、いきなり発生するものではありません。事なかれ主義が生まれてから、まずは小さな実害が生まれ、段階的にその影響が広がっていきます。

業務レベルでの事なかれ主義の実害

事なかれ主義が生じると、まずは日々の業務レベルで実害が起こるようになるでしょう。わかりやすい例で言えば、何か仕事でトラブルが起きたり、職場の人間関係に問題が起きたりした際に、見て見ぬふりをするようになります。部下の起こしたミスについて、知らないふりをするなどの行為が考えられます。

事なかれ主義の人は、トラブルに関わることで評価が下がってしまい、面倒なことを任されてしまうことを恐れているのです。仕事への向上心がなく、保守的な姿勢であると言えます。

規範や価値観レベルでの事なかれ主義の実害

事なかれ主義は、次第に規範や価値観のレベルで組織に浸透していきます。「弊社は言ったもん負け文化なんだよ」「だからダメなんだ」という発言がされるようになり、一見批判しているようで必要悪として捉える人が増えていきます。このような環境になると、何か新しいアイディアを出すこともなくなるでしょう。日本企業が抱える重要なテーマである新規事業や社会課題解決などについても、公式の場での発言や提案を避けるようになり、実現が難しくなります。

社風における事なかれ主義の実害

事なかれ主義が社風として確立されてしまうと、不正などの大きな不祥事につながります。ある企業では、国内の多くの拠点で製品をめぐる不正が行われていましたが、調査委員会の報告書では、不正を長期化させたのは「言ったもん負け」の風土であると言及しています。改善を提案した人にその処理を丸投げする雰囲気があったため、指摘したがる人がいなくなり、問題が見過ごされていたのです。

また、別の企業では、2015年に新入社員が過労自殺しました。心的ストレスの側面が否定できないとのことで、翌年に労災認定されています。この企業は、労働者への健康配慮義務に違反したとして、厚生労働省に書類送検されました。この事件を機に大規模な働き方改革に着手することになり、労働環境への見直しが長年放置されてきた事実が浮き彫りになりました。

このように事なかれ主義は、目の前の問題を見過ごすことを当たり前とする社風を作ります。それが最悪の事態につながることもあるのです。

事なかれ主義は職場や個人レベルでも実害を及ぼす

事なかれ主義は、組織に所属する個人にも実害を及ぼします。忖度が蔓延し、行き過ぎた配慮を行うようになると、個人は見て見ぬふりを繰り返します。そうなれば組織は内側から崩壊することになり、構成員一人ひとりは所属する場所を失って路頭に迷ってしまうのです。

このような最悪の実害が起こる前に、個人は身の回りの問題や不正行為に対してしっかり発言をすることが大切です。それが企業の存続を助けることになり、結果、自分を含む家族を守ることにもつながります。しかし、内部告発をするとなるとさまざまな懸念点が頭に浮かび、なかなか身動きがとれないのも事実です。告発へのハードルを少しでも下げるために、決められたルートを用意しておき、社内で共有しておくのも手です。

事なかれ主義を予防するためのポイント

このように、事なかれ主義は放置すると大きな実害につながる可能性があります。実害を防いで組織を守りたい場合には、どのようなことに注意すればいいのでしょうか。また、一旦浸透してしまった事なかれ主義には、どのように対処すればいいのでしょうか。事なかれ主義を予防して健全な組織づくりをするための方法を整理します。

「言ったもん勝ち」「やったもん勝ち」の事実とロールを創る

一つめの改善策としては、組織側がわかりやすい評価制度を設けることです。制度を作ることで、社員の行動から事なかれ主義的な言動を減らすことを狙います。具体的には、積極的な行動を推奨したり、問題点を指摘すること自体を評価したりすることです。これにより個人やチームが自分の考えを前面に押し出して行動するようになるはずです。「言ったもん勝ち」「やったもん勝ち」を評価し、自ら動かなければ損をするという雰囲気を作りましょう。

ヒリヒリするような対話やディベートなど場を創る

続いての改善策は、自分の意見をしっかり表現するマインドを組織側が育てることです。積極的に自分の考えを表現し行動するためには、心理的なハードルを超える必要があります。組織側が啓発と教育を行うことで、自然に「やったもん勝ち」でアクションをとれるようになるでしょう。具体的にはワークショップを開催して、ディベートを経験してもらうなど、事なかれ主義を避けたくなるような場の雰囲気を醸成していきます。

アウトサイダーを主流に持ってくる

元々の組織にあまりフィットしていないアウトサイダーを組織の主流に持ってくることで、雰囲気を変えることができます。多様なバックグラウンドを受け入れる組織をつくり、さまざまな視点からの意見や提案を歓迎する土壌を作ることで、積極的な発言が増えるでしょう。また、アウトサイダー自身も組織に自然に参加できるようになります。

まとめ

事なかれ主義とは、ある物事に対して波風が立たないように扱い、できるだけ平穏にやり過ごそうという思想です。事なかれ主義から派生した考え方には、「言ったもん負け」という言葉もあります。組織では、発言や提案、もしくは何か批判をした人が、その案件について指揮をとらされることも多く「意見があっても黙っていたほうがいい」と考える人も多いのではないでしょうか。しかし、事なかれ主義が浸透すると、基本的にはネガティブな影響を受けることになります。実害が生じる前に、対策をとる必要があるでしょう。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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