インターナルコミュニケーション

グループワークにおけるファシリテーターの役割と実践のコツ

グループワークは、参加者が互いの考えを出し合い、限られた時間で結論や成果物をつくるための有効な研修手法です。一方で、発言の偏り、論点の拡散、合意形成の難しさがあるため、ファシリテーターの役割が成果を大きく左右します。
本記事では、企業の人事部門長や研修企画担当者に向けて、グループワークにおけるファシリテーターの役割と、現場ですぐに使える実践のコツを解説します。

グループワークの目的と概要

グループワークとは、数人規模のグループを作り、決められた課題に対して討論や制作などを行う活動です。新卒採用などの選考でも取り入れられており、候補者のコミュニケーション能力や議論をまとめる力についての判断材料となります。

グループワークと似た活動にディスカッションがありますが、ディスカッションではグループ内での討論を行い、その結果を発表することが主目的になります。一方で、グループワークでは討論の結果に加えて、何らかの成果物を完成させることが目的となる場合がほとんどです。グループワークにおける成果物は、何らかの作業をグループで完成させる、与えられた課題に対する解決策のプレゼンを行うなど、さまざまです。

企業研修におけるグループワークは、単に参加者同士を話し合わせるための時間ではありません。業務上の課題を複数人で捉え直し、自分の意見を言語化し、他者の視点を取り入れ、合意形成まで経験するための学習設計です。厚生労働省の「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」でも、労働者が相互に学び合う環境の整備が重要だとされています。研修担当者は、グループワークを「参加型の演習」としてだけでなく、職場での学び合いを再現する場として設計することが重要です。

特に人事部門や研修企画担当者が押さえておきたいのは、グループワークの成果は「発表の完成度」だけでは測れないという点です。議論の途中でどのような問いが生まれたか、発言の偏りをどう扱ったか、意見の対立をどう整理したか、終了後に職場でどのような行動変容につながるかまで含めて、研修の成果として設計する必要があります。

要点を整理すると、グループワークには次のような目的があります。

・参加者同士の相互理解を深める
・複数の視点から課題を捉える
・自分の意見を言語化する
・他者の意見を踏まえて考えを更新する
・限られた時間内で合意形成する
・研修後の行動や職場実践につなげる

グループワークの種類

グループワークには、目的に応じて複数の形式があります。人事・研修担当者が企画時に判断しやすいよう、代表的な形式をご紹介します。

プレゼン型

与えられたテーマについて議論し、結論をまとめ、発表する形式です。論理的思考力、要約力、説得力、役割分担の力を見やすいため、階層別研修や新入社員研修、管理職候補者向け研修に適しています。

作業型

資料作成、業務改善案の作成、ワークシート記入、プロトタイプづくりなど、具体的な成果物を作る形式です。役割分担や進捗管理、協働姿勢が見えやすく、実務に近い学びにつなげやすい点が特徴です。

ゲーム型

カード、シミュレーション、ロールプレイ、ケース演習などを通じて、参加者が体験的に学ぶ形式です。抽象的なテーマでも参加しやすく、関係性づくりや心理的安全性の醸成にも向いています。

ただし、形式を選ぶときには「盛り上がるか」だけで判断しないことが大切です。研修の目的が知識定着であれば作業型、行動変容であればロールプレイやケース演習、部門間理解であれば対話型のグループワークが適しています。ファシリテーターは、形式ごとの狙いを理解したうえで、参加者の状態に合わせて進行を調整する必要があります。

グループワークにおけるファシリテーターの役割

ファシリテーターの主な役目は参加者に発言を促し、議論をスムーズにすることです。場合によっては、司会進行やタイムキーパーも兼任することもあります。ここでは、グループワークにおいてファシリテーターに求められる具体的な役割について解説します。
ファシリテーターは「場を仕切る人」ではありますが、参加者を自分の考えどおりに動かす人ではありません。あくまで中立的な立場から、参加者が自ら考え、発言し、相互に学び、納得できる結論に近づけるよう支援する存在です。司会者が主に進行順序を管理するのに対し、ファシリテーターは議論の質、参加者の関係性、場の空気、合意形成のプロセスに責任を持ちます。

人事・研修担当者の視点では、ファシリテーターを「研修効果を高める設計者」として捉えることが重要です。グループワークの場で発生する発言、沈黙、対立、脱線、納得感の有無は、研修後の職場実践にも影響します。ファシリテーターは、その場の議論をまとめるだけでなく、参加者が職場に戻ったあとに対話や協働を再現できるよう、学びのプロセスを支援する役割を担います。

ゴールの設定と共有

グループワークにおいては必ずゴールがあります。また、グループワークはより大きな会議やプログラムの一部として行われることもあります。そのため、事前にアジェンダを配布する、ゴールへの意識づけを行うなどして参加者の認識を一致させることが重要です。グループワークにおいては、フィッシュボールなどの参加者の対話を促進し、認識を一致させるための方法が存在します。このような方法も状況に応じて活用するとよいでしょう。

ゴール設定では、「何について話すか」だけでなく、「何を決めるか」「何を持ち帰るか」「どのレベルまで合意するか」を明確にします。たとえば、研修内のグループワークであれば、最終成果物を発表資料にするのか、アクションプランにするのか、参加者一人ひとりの気づきにするのかによって進め方が変わります。

ゴールが曖昧なまま始まると、参加者は発言しにくくなります。反対に、ゴールが細かすぎると自由な発想が出にくくなります。ファシリテーターは、最初に「今日は結論を一つに絞る場です」「今日は複数案を出す場です」「今日は職場に持ち帰る問いを作る場です」といった形で、参加者が安心して議論できる枠組みを示すことが大切です。

傾聴と先導のバランス

ファシリテーターの主な役目は参加者が発言しやすい雰囲気を作り、議論を活性化させることです。グループワークは基本的に参加者が主体で進めるため、ファシリテーターは聞き役に回ります。一方で参加者の理解に誤りがあった場合、議論が紛糾している場合はグループワークに介入して軌道修正を図らなければなりません。

ファシリテーターはあくまで中立の立場を取りながら、結論に至るまでのプロセスを重視した形でグループワークが進められるように参加者を先導することが重要です。
ここで重要なのは、聞き役とリード役を二者択一で考えないことです。ファシリテーターは、参加者の発言を尊重しながら、議論の構造を見ています。誰の発言が多いか、どの論点が抜けているか、感情的な対立が起きていないか、合意したように見えて本当に納得しているかを観察し、必要なタイミングで場に働きかけます。

心理的安全性に関する研究では、チームのメンバーが対人リスクを取っても安全だと感じられることが、学習行動や成果に関係することが示されています。グループワークでも、発言を否定されない雰囲気や、未完成の意見を出してもよい空気があるほど、参加者の学びは深まりやすくなります。ファシリテーターの傾聴や受け止めは、単なるマナーではなく、学習効果を支える重要な行動です。

結論への誘導と布石

グループワークにおいては、限られた時間内に結論を出すことが求められます。しかし、結論を急ぐあまり無理な形で議論を収束させることは望ましくありません。また、議論して決めたことがきちんと実行されるかどうかにも注意する必要があります。グループワーク終了時に次回までに各自がやっておくことや申し送り事項を参加者に認識させ、行動につなげてもらうこともファシリテーターの役割です。

研修でのグループワークでは、結論を出すこと以上に、参加者が「なぜその結論になったのか」を説明できることが重要です。結論だけが残ると、職場に戻ったあとに再現できません。ファシリテーターは、最終的な結論に至るまでの論点、根拠、対立点、合意点を可視化し、参加者がプロセスごと持ち帰れるように支援します。

結論が出ない場合も、失敗ではありません。むしろ、論点が明確になった、前提の違いが見えた、次回までに調べるべきことが分かったのであれば、グループワークとして意味があります。ファシリテーターは「今日決めること」と「次に持ち越すこと」を切り分け、曖昧な終わり方を避けることが大切です。

企業研修でファシリテーターが重要視される理由

企業研修でファシリテーターが重要視される理由は、参加者の学習効果が「講師が何を伝えたか」だけでなく、「参加者がどのように考え、話し、気づいたか」によって左右されるからです。特に管理職研修、理念浸透ワークショップ、部門横断研修、組織風土改革の対話会では、参加者同士の相互作用が成果の中心になります。

弊社ソフィアの調査では、職場を良い職場だと感じる要因として「人間関係・上司部下関係」が54%で最多となり、職場環境や仕事内容、待遇・報酬を上回りました。これは、職場評価において人間関係やコミュニケーションが重要な位置を占めていることを示しています。グループワークは、こうした関係性を学習の中で扱うことができる貴重な機会です。

また、弊社ソフィアの調査では、情報共有の施策として「チームメンバーとの定期面談・ミーティング」が54%、「1on1」が50%、「研修・トレーニング」が50%と、対話を通じたコミュニケーション施策が上位に挙がりました。グループワークにおけるファシリテーションは、研修内だけで完結するスキルではなく、職場の日常的なミーティングや1on1、部署間連携にも応用できるスキルです。

さらに、弊社ソフィアの調査では、部署間コミュニケーションの必要性について「必要だと思う」「どちらかといえば必要だと思う」が合計75%となりました。一方で、他部署の情報が十分に入ってくる状態かについては、前向きな回答と後ろ向きな回答が拮抗しています。つまり、多くの企業で部署間連携の必要性は認識されているものの、情報共有や対話の仕組みにはばらつきがあるということです。

こうした状況では、研修内のグループワークを通じて、異なる立場のメンバーが互いの前提を確認し、論点を整理し、合意形成する経験を積むことが重要になります。ファシリテーターは、その経験を安全かつ効果的に成立させる役割を担います。

グループワーク成功のための事前準備

グループワークは、当日の進行だけで成否が決まるわけではありません。むしろ、研修企画段階での準備が不十分だと、どれだけファシリテーターが頑張っても、議論が浅くなったり、成果物が曖昧になったりします。

事前準備で確認したいのは、次の項目です。

・グループワークの目的は何か
・参加者にどのような行動変容を期待するか
・成果物は何か
・制限時間は適切か
・グループ人数は適切か
・参加者の職位や部署構成に偏りはないか
・事前資料や前提知識は必要か
・ファシリテーターはどこまで介入するか
・発表や振り返りの時間を確保しているか
・研修後の職場実践につなげる仕組みがあるか

グループ人数は、一般的には4〜7人程度が進行しやすいとされています。人数が少なすぎると視点が広がりにくく、人数が多すぎると発言機会が偏りやすくなります。特にオンラインやハイブリッド形式では、参加者の沈黙が見えにくくなるため、グループ人数を少なめに設定し、チャットや共同編集ツールを併用するとよいでしょう。

人事・研修担当者は、ファシリテーター用の進行台本も用意しておくと安心です。台本には、冒頭の目的説明、問いの投げ方、時間配分、介入のタイミング、まとめ方、振り返りの問いを記載します。ただし、台本どおりに進めること自体が目的ではありません。参加者の状態に応じて、問いを変えたり、議論の時間を延ばしたり、発表形式を簡略化したりする柔軟さも必要です。

すぐに使える10のコツ

グループワークにおいてファシリテーターが担う役割は多数あります。ここでは、ファシリテーターとしての役目を果たすために必要な10のコツについて解説します。傾聴、質問、要約、タイムマネジメント、合意形成、場づくりなど、企業研修で使いやすいように「なぜ有効なのか」「どのように使うのか」も合わせてご紹介します。

コミュニケーションのコツ

ファシリテーターに求められる能力の一つがコミュニケーション能力です。ここでは、ファシリテーターが知っておくべきコミュニケーションのコツについて解説します。

コツ① 相手を向いて相槌を打ち、聞く姿勢を示す

ファシリテーターの重要な役割の一つに、参加者が安心して発言できる場を作ることがあります。参加者によっては人前で発言することに抵抗がある場合もあるでしょう。もし勇気を持って発言したとしても、ファシリテーターが無関心な表情をしていたり、否定的なコメントを返されたりすると一気にグループワークへの意欲が薄れてしまいます。

もし発言の内容に誤りがある、議論の本筋が外れているといった場合でも、まず一度は受け止める姿勢が重要です。具体的には相槌を打つ、参加者に体を向けるなどの肯定的なアクションを意識するとよいでしょう。

研修の場では、参加者が「この場では話しても大丈夫だ」と感じられるかどうかが、発言量だけでなく発言の質にも影響します。ファシリテーターは、うなずく、要点をメモする、発言者の言葉を遮らない、発言後に感謝を伝えるなど、場の安全性を高める行動を意識しましょう。

コツ② パロット(オウム返し)を活用する

「パロット(Parrot)」とは、相手の発言をそのまま繰り返すような返答をすることを指します。相手の発言を反芻するように返答するため、「オウム返し」と呼ばれることもあります。

ファシリテーションにおいては、参加者の意見を尊重し、意見の出し合いを促進するために、まずは相手の発言を正確に理解し、それをそのまま繰り返すことが重要です。これにより、相手の発言に対する共感や理解を示し、相手との信頼関係を築くことができます。また、パロットを行うことで、意見が飛躍的に変化することを抑制し、参加者全員が議論に参加しやすい環境を作り出すことができます。
パロットは、発言者の意見を評価せずに受け止めたいときに有効です。たとえば参加者が「現場では時間が足りない」と発言した場合、ファシリテーターは「時間が足りないと感じているのですね」と返します。これにより、発言者は自分の言葉が受け止められたと感じ、次の具体的な説明に進みやすくなります。

コツ③ パラフレージングで発言を言い換える

パラフレージングは、相手が述べた内容を自分自身の言葉で言い換えることで、相手の発言を理解しやすくするコミュニケーションの技法です。この技法は、相手が伝えたいことの本質を的確に把握し、相手が理解しやすいように再表現することで、共感的理解を促進することができます。

パラフレージングは、相手の話を理解するために非常に有効な手段であり、相手が自分自身を理解されていると感じることができるため、相手のストレスや不安を軽減することも可能です。また、パラフレージングを行うことで、自分自身が相手の話により深く関与することができ、より意義深いコミュニケーションを実現することができます。

パラフレージングは、議論が抽象的になったときにも役立ちます。たとえば「コミュニケーションが悪い」という発言に対して、「部署間で必要な情報が届かないことが問題だ、という意味でしょうか」と言い換えることで、論点を具体化できます。発言者の意図と違う場合でも、修正してもらうことで理解が深まります。

コツ④ 介入と放任のバランスを意識する

会議を円滑に進めるにあたってファシリテーターの介入は欠かせないものですが、あまりにも介入しすぎるのも良くありません。場合によっては、参加者の自主性に任せた方が議論を活発化し、良い結論が得られることもあるでしょう。
また、会議の終わらせ方においてもファシリテーターによる介入と放任のバランス感覚が求められます。一部の参加者が強引に議論を締めくくったり、ファシリテーターが無理に結論を出したりするようなことがないように注意し、参加者全員が納得のいく形で会議を締めくくることが重要です。結論が出ない場合は、すぐに次回以降の話の流れを考えて、次回の会議を設定しましょう。

研修現場では、この「介入と放任のバランス」が最も難しいポイントです。参加者が自律的に考える余地を残しながら、論点が迷子になったときには戻す。意見の対立が建設的であれば見守り、人格攻撃や沈黙が生まれている場合には介入する。この判断力が、ファシリテーターの経験値として蓄積されていきます。

コツ⑤ あえて2極対立を作る

グループワークの中で発言者が偏っている場合、発言した人の意見がそのままグループの結論になってしまうケースがあります。そのような場合は、「あえてまとまりかけた結論を否定する観点を提示する」などして、2極対立の構図を作ることも効果的です。
明確な対立関係があれば、これまで見えてこなかった論点が現れたり、これまで発言のなかった参加者から発言が出たりするなど、グループワーク全体が活性化することが期待できます。

ただし、対立を作る目的は、参加者を困らせることではありません。見落としている論点を浮かび上がらせるためです。たとえば「この施策は効果がある」という意見が多数を占めている場合、「実施する現場の負荷はどうでしょうか」「反対する人がいるとしたら、どの点でしょうか」と問いを投げかけることで、議論に厚みが生まれます。

コツ⑥ 声のトーンや表情の明るさを調整する

ファシリテーターは、グループワークをどのような雰囲気の中で進めていくかについても気を配る必要があります。和やかな雰囲気で進めたいのか、あるいは落ち着いた雰囲気の方がよいのかは議論するテーマによってさまざまです。ファシリテーターの判断で声のトーンや表情を意識的に変えていくとよいでしょう。

特にオンライン研修では、表情や声のトーンが対面より伝わりにくくなります。ファシリテーターは、意識的にゆっくり話す、問いを画面上に表示する、沈黙を急いで埋めない、チャットでの反応も拾うなど、参加者が安心して反応できる工夫を行いましょう。

思考を深める3つのコツ

ファシリテーションにおいては参加者の共通理解を醸成することが求められます。ここでは、ファシリテーターとして参加者の理解を一致させるために役立つコツを紹介します。

コツ⑦ 「具体的に?」「たとえば?」と質問する

参加者の発言を深掘りしてグループ全体に共有することもファシリテーターの重要な役割です。抽象的なテーマについて議論している際、発言者は意図せず難解な用語を使ってしまったり、論点が不明確になったりしてしまうことがあります。このような場合は、ファシリテーターから「具体的に言うとどうなのか」、「例えばどのような例があるのか」といった質問を投げかけるとよいでしょう。また、内容が冗長になってしまってわからないときには「つまり、どういうこと?」と促すこともよいでしょう。このような質問によって、発言者自身も話の内容を整理でき、参加者全員の理解も深めることができます。

抽象的な言葉は、参加者によって意味が異なることがあります。「主体性」「連携」「エンゲージメント」「心理的安全性」などは、研修でよく使われる一方で、人によって解釈が分かれやすい言葉です。ファシリテーターは、抽象語が出たときに「その言葉は、どのような行動として表れますか」と問い直すことで、議論を実践に近づけられます。

コツ⑧ 議論や視点をわざとずらす

当事者として議論を進めている参加者は時に視野が狭くなり、重要なことに気づかないままグループワークを進めてしまうことがあります。しかし、重要な論点が欠けたままグループワークが進むと時間内に目的を達成できなくなります。このような事態を防ぐため、ファシリテーターはグループワークの視点や視野をずらして参加者に気づきを与えることが重要です。

ずらし方の手法として、シックスハット法を利用する方法もあります。シックスハットは、エドワード・デ・ボノ博士によって提唱された、問題解決や意思決定を行うための枠組みです。具体的には、6つの異なる視点から問題を考えることで、より広い視野で問題を捉え、より多角的な解決策を見出すことができるというものです。
また、グループ当たりの人数を少なくすることで議論をコントロールしやすくなります。一般的には4~7人のグループがよいとされています。
視点をずらすときは、「顧客の立場ならどう見えるか」「新入社員ならどう感じるか」「現場責任者なら何を懸念するか」「半年後に振り返ったら何が成功要因になっているか」といった問いが有効です。視点を変えることで、参加者は自分の部署や役割の前提から一度離れ、より広い観点で課題を捉えられます。

コツ⑨ 言語化・可視化・図解化で論点を整理する

グループワークにおいては、専門的な知識を要するテーマや複雑な概念について議論することがあるでしょう。この時、ファシリテーターには議論されている内容をわかりやすい言葉で言い換える、図示するなどして論点を整理することが求められます。特に参加者によって議論の理解度に差がある場合は、合意形成を図るためにファシリテーターが積極的に介入して議論を紐解くことが重要です。

可視化では、ホワイトボードや付箋、オンラインボード、スライド、チャットログなどを活用できます。ポイントは、発言をすべて書き出すことではなく、論点の関係性が分かる形に整理することです。「原因」「背景」「アイデア」「懸念」「決定事項」「未決事項」のように分類すると、参加者は議論の現在地を把握しやすくなります。

コツ⑩ 場数を踏んでスキルを磨く

ここまでで、ファシリテーションにおけるコツを中心に解説してきました。良いファシリテーターになるためにはスキルを磨くことも同様に重要です。
会議において議論がスムーズに進むかどうかはファシリテーターのスキルに大きく依存します。そのため、ファシリテーターの役割を担うことが決まったら、事前にファシリテーションに必要なスキルを養うことが望ましいでしょう。

ファシリテーションには、コミュニケーション能力、論理的思考力など一朝一夕では身につかないスキルが必要になります。そのため、普段の業務から積極的にファシリテーターの役割を引き受けて、場数を踏むことも重要です。

ファシリテーター育成では、次のようなステップで学ぶと効果的です。

・ファシリテーションの基本概念を理解する
・良い進行例と悪い進行例を比較する
・短い議論で進行役を体験する
・参加者からフィードバックを受ける
・自分の介入の癖を振り返る
・実務の会議や研修で再度実践する

特に管理職や次世代リーダーにとって、ファシリテーションは会議のためだけのスキルではありません。部下の意見を引き出す、部署間の対立を整理する、変革テーマへの納得感を高める、職場で学び合う文化をつくるといった場面でも必要になります。

弊社ソフィアの調査では、1on1で上司が傾聴してくれていると感じる回答が6割超ある一方で、1on1が業務遂行やキャリア形成に役立っているかについては「どちらでもない」が最多となりました。これは、傾聴の姿勢があっても、対話を実際の行動や成長につなげる設計にはまだ改善余地があることを示唆しています。ファシリテーター育成でも、聞く力だけでなく、問いを立て、論点を整理し、次の行動につなげる力まで扱うことが重要です。

ファシリテーターに必要なスキル

ファシリテーターに必要なスキルは、話し上手であることだけではありません。むしろ、参加者の発言を引き出し、論点を整理し、場の状態を読み取り、必要な介入を選ぶ総合的な力が求められます。

主なスキルは次のとおりです。

・傾聴力:発言の背景や感情まで含めて受け止める力
・質問力:抽象的な話を具体化し、考えを深める力
・要約力:発言の要点を短く整理する力
・構造化力:論点同士の関係を整理する力
・タイムマネジメント力:発散と収束の時間を管理する力
・合意形成力:参加者の納得を確認しながら結論に近づける力
・観察力:沈黙、表情、発言の偏り、温度感を読み取る力
・中立性:特定の意見に肩入れせず、プロセスを支える姿勢

チームトレーニングの効果に関するメタ分析では、チームトレーニングがチームの認知面、感情面、プロセス、パフォーマンスの各成果に影響することが検討されています。企業研修でファシリテーションを扱う場合も、単発の知識付与ではなく、実践、振り返り、フィードバックを組み合わせることで、スキルとして定着しやすくなります。

研修企画担当者は、ファシリテーター育成を「講義で学ぶテーマ」だけにしないことが重要です。実際のケースを使ったロールプレイ、進行役の交代、相互フィードバック、録画を用いた振り返りなどを組み合わせると、参加者は自分の癖に気づきやすくなります。

ファシリテーターと司会進行役の違い

ファシリテーターと司会進行役は似ていますが、役割の範囲が異なります。司会進行役は、会議や研修を予定どおりに進めることを主な役割とします。時間を管理し、次の議題に移り、発表者を紹介し、場の流れを保つことが中心です。

一方でファシリテーターは、進行に加えて、参加者の発言を引き出し、議論の質を高め、論点を整理し、合意形成を支援します。つまり、ファシリテーターは「予定どおり進める人」ではなく、「目的に向かって場の相互作用を促進する人」です。

企業研修では、この違いを理解していないと、グループワークが単なる時間消化になってしまいます。司会進行はできていても、発言者が一部に偏っている、結論の根拠が弱い、参加者が納得していない、振り返りが浅いといった状態では、研修効果は高まりません。ファシリテーターは、見えにくいプロセスに働きかける役割だと考えるとよいでしょう。

グループワークでよくある失敗と対処法

グループワークでは、どれだけ準備をしても想定外のことが起こります。ファシリテーターは、失敗を完全に防ぐのではなく、場で起きていることを読み取り、早めに軌道修正することが求められます。

よくある失敗の一つは、発言者が偏ることです。声の大きい人や職位の高い人の意見だけで議論が進むと、他の参加者は受け身になります。この場合は、「まだ出ていない視点はありますか」「ここまで聞いて、別の意見を持った方はいますか」と問いかけ、発言機会を広げます。

二つ目は、議論が脱線することです。雑談や個別事例に時間を使いすぎると、結論にたどり着けません。この場合は、発言を否定せずに「今の話は重要なので未決事項に置き、まず今日のテーマに戻りましょう」と本題に戻します。

三つ目は、結論が曖昧なまま終わることです。参加者が「なんとなく良い話だった」で終わると、職場実践につながりにくくなります。終了前には、「今日決まったこと」「まだ決まっていないこと」「次にやること」を明確にしましょう。

四つ目は、対立を避けすぎることです。意見の違いがあるのに表面化しないと、本質的な論点が残ったままになります。ファシリテーターは、対立を悪いものと捉えず、「違いが見えてきたので整理しましょう」と場に出すことが大切です。

オンライン・ハイブリッドのグループワークの注意点

オンラインやハイブリッドのグループワークでは、対面とは異なる難しさがあります。発言のタイミングが重なりやすい、沈黙の意味が分かりにくい、参加者の集中度が見えにくい、対面参加者とオンライン参加者の情報量に差が出やすいといった点です。
弊社ソフィアの調査では、現在の勤務形態について「完全出社」が56%で最多でしたが、在宅勤務を組み合わせた働き方も44%となっており、ハイブリッドな働き方は一定程度広がっています。また、今後希望する勤務形態では、在宅勤務を取り入れた働き方を希望する回答が63%でした。研修設計においても、対面だけを前提にしない工夫が求められます。

オンラインでは、次のような工夫が有効です。

・議論の問いを画面上に常時表示する
・発言順をあらかじめ決める
・チャットや投票機能を併用する
・共同編集ボードで論点を可視化する
・ブレイクアウトルームの時間を短く区切る
・ファシリテーターが途中で各グループを巡回する
・最後に個人の振り返り時間を確保する

ハイブリッド形式では、オンライン参加者が置いていかれやすくなります。対面参加者だけで話が進まないよう、発言順をオンライン参加者から始める、チャットの意見をファシリテーターが読み上げる、対面側にもオンラインボードを使ってもらうなど、情報接点をそろえることが重要です。

人事・研修担当者によるファシリテーター育成

人事・研修担当者がファシリテーターを育成する際は、単に「進行がうまい人」を増やすのではなく、組織の対話の質を高める人材を育てるという視点が必要です。特に、管理職やプロジェクトリーダー、研修講師、部門横断活動の推進者は、ファシリテーションを身につけることで組織内のコミュニケーションを改善しやすくなります。
育成施策としては、まず基礎研修で共通言語をつくります。ファシリテーションとは何か、司会との違い、場づくり、発散と収束、合意形成、心理的安全性などを扱います。

次に、実践演習を行います。実際の社内課題をテーマにして、参加者が交代でファシリテーターを務めます。観察者は、発言の偏り、問いの質、時間配分、まとめ方などを記録し、終了後にフィードバックします。

最後に、現場実践と振り返りを組み込みます。研修で学んだことを実際の会議や1on1、ワークショップで試し、うまくいった点と難しかった点を共有します。この循環によって、ファシリテーションは知識ではなく実務スキルとして定着していきます。

弊社ソフィアの調査では、社内イベントを実施している企業では職場を良いと評価する割合が58%であるのに対し、実施していない企業では28%にとどまりました。また、雑談の頻度が高い層ほど職場評価が高い傾向も見られました。もちろん、これらは因果関係を断定するものではありませんが、対話や関係構築の機会が職場評価と関連している可能性を示しています。ファシリテーター育成は、研修の場だけでなく、日常の会議、イベント、対話会、部門横断プロジェクトの質を高める投資と捉えることができます。

グループワークの成果を職場実践につなげる方法

グループワークの成果を職場実践につなげるには、研修中の気づきをその場で終わらせない仕組みが必要です。特にロングフォームの研修記事や企画資料では、「グループワークの進め方」だけでなく、「研修後にどう活かすか」まで提示することで、読者の検索意図を満たしやすくなります。

研修後につなげる方法としては、次のようなものがあります。

・個人のアクションプランを作成する
・グループで決めた行動を職場で試す
・1か月後に実践共有会を行う
・上司との1on1で研修内容を扱う
・部署内ミーティングで学びを共有する
・社内ポータルや社内報で事例化する
・次回研修で実践結果を持ち寄る

厚生労働省のガイドラインでも、学びのプロセスとして、目標のすり合わせ、学びの機会の確保、実践や評価を踏まえることが示されています。グループワークを研修内で終わらせず、職場での実践と振り返りまで設計することが、研修の投資対効果を高めるうえで重要です。

ファシリテーターは、最後に「明日から何を変えるか」を参加者に問いかけるとよいでしょう。大きな変革でなくても構いません。「会議の冒頭でゴールを確認する」「発言の少ない人に問いを向ける」「議論の最後に決定事項と未決事項を分ける」など、小さな行動に落とすことで、学びが職場に移転しやすくなります。

まとめ

ビジネスの場ではグループワークを通してあるテーマに関する議論や検討を進める場面が数多くあります。ファシリテーターとしてのスキルは一朝一夕で伸ばすことは難しいものの、今回紹介したコツを意識して場数を踏むことで上達させていくことは可能です。本記事を通してグループワークにおけるファシリテーションのコツを知っていただき、ビジネスの現場で役立てていただけますと幸いです。
グループワークにおけるファシリテーターの役割は、参加者の発言を促し、議論を整理し、結論や次の行動につなげることです。企業研修では、さらに参加者同士の相互理解を促し、職場での対話や協働の質を高める役割も担います。
人事部門長や研修企画担当者にとって重要なのは、ファシリテーションを個人の話術に任せないことです。目的設計、グループ構成、問いの設計、進行台本、振り返り、研修後の実践までを一連のプロセスとして設計することで、グループワークの成果は高まりやすくなります。

ソフィアでは、インターナルコミュニケーション、研修・ワークショップ、組織風土改革、理念浸透などの支援を通じて、組織の対話と協働を促進してきました。グループワークやファシリテーター育成に課題を感じている場合は、自社の組織課題や研修目的に合わせて、設計段階から見直すことをおすすめします。


  • グループワークにおけるファシリテーターの必要性は?
  • 必ずしもすべてのグループワークに専任のファシリテーターが必要とは限りません。ただし、限られた時間で成果を出したい場合、参加者の立場が異なる場合、対立や沈黙が想定される場合、研修後の行動変容まで狙う場合は、ファシリテーターを置いた方が効果的です。

  • ファシリテーターとリーダーの違いは?
  • 同じではありません。リーダーはチームの方向性や意思決定に責任を持つことが多い一方、ファシリテーターは中立的な立場で議論のプロセスを支援します。ただし、実務ではリーダーがファシリテーターを兼ねることもあります。その場合は、自分の意見を押し通すのではなく、参加者の発言を引き出す姿勢が重要です。

  • 発言しない参加者への対処法は?
  • いきなり名指しで意見を求めると、かえって緊張することがあります。まずは個人で考える時間を設ける、付箋やチャットで意見を書いてもらう、少人数で話してから全体に共有するなど、発言のハードルを下げる工夫が有効です。

  • 議論が盛り上がりすぎた場合の対処法は?
  • 議論が盛り上がること自体は良い状態ですが、目的から外れている場合は整理が必要です。「ここまでの論点を一度まとめます」「残り時間で決めるべきことに絞りましょう」と伝え、決定事項、未決事項、次回扱う論点を分けて終えるとよいでしょう。

  • ファシリテーションスキルの習得方法は?
  • 基礎知識は研修で学べますが、実践力は場数と振り返りによって高まります。研修では、ロールプレイ、相互フィードバック、実務ケースを用いた演習を組み込み、研修後にも会議や1on1で実践する機会を設けることが重要です。

  • 人事部門がファシリテーター育成に取り組むメリットは?
  • 会議の生産性向上だけでなく、部署間連携、管理職の対話力向上、1on1の質向上、組織風土改革、理念浸透などに波及しやすい点がメリットです。ファシリテーター育成は、研修担当者だけのテーマではなく、組織全体のコミュニケーション品質を高める施策として位置づけられます。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。