アクティブリスニングとは?効果と実践法、管理職研修への活かし方
最終更新日:2026.05.28
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1on1や管理職研修を実施していても、「対話の場はあるのに本音が出ない」「部署間連携が深まらない」と感じる企業は少なくありません。そこで見直したいのが、相手の言葉の背景まで聴くアクティブリスニングです。本記事では、基本概念から期待できる効果、1on1での実践法、管理職研修への定着方法までを体系的にご紹介します。
アクティブリスニングとは
アクティブリスニングとは、聞き手側が話し手の感情を引き出し、話し手側が自分の力で問題解決ができるようサポートする傾聴を指します。日本語では「傾聴」とも訳され、企業・組織の中の人間関係を円滑にするために必要なコミュニケーション方法の1つとして、近年のビジネスシーンで注目されています。
ただ聞くのではなく、積極的・能動的(アクティブ)に、話し手の言語・非言語を含めて洞察するのがアクティブリスニングです。
アクティブリスニングの起源は、現代のカウンセリングの研究手法のひな形を作った米国の臨床心理学者カール・ロジャースとリチャード・ファーソンの二人によって提唱されたカウンセリング理論です。カール・ロジャースが実践していたカウンセリング理論は、現在ではビジネス・スポーツ・医療など、さまざまな領域で活用されています。
アクティブリスニングは、ロジャースのカウンセリング理論の基礎である「ロジャースの三原則」が土台となっています。以下の3つの要素を押さえておくと、アクティブリスニングがどのようなものなのか理解が深まるでしょう。
・自己一致
・無条件の肯定的配慮
・共感的理解
人事部門や管理職研修の文脈では、アクティブリスニングは単なる「感じの良い受け答え」ではありません。相手が自分の考えを整理し、必要な支援や次の行動を言語化できるようにするための、能動的な聴き方の設計そのものです。相づちや共感だけで終わらず、確認・言い換え・問いかけまで含めて実践されて初めて、ビジネスの現場で再現可能なスキルになります。
傾聴とアクティブリスニングの違い
傾聴は一般に、相手に注意深く耳を傾け、受容的に話を聴く態度を広く指します。一方、アクティブリスニングはその傾聴を土台にしつつ、言い換え・要約・オープン・クエスチョン・確認といった働きかけを通じて、相手の理解を深め、相手自身の整理や問題解決を支援するところまで含む実践概念です。
大企業の人事施策で考えるなら、傾聴はマインドセット、アクティブリスニングはマインドセットを現場で再現するための運用スキルと捉えると整理しやすいでしょう。1on1・面接・育成面談・他部署との調整といった場面では、ただ静かに聴くだけではなく、認識のずれを減らすための確認行為が欠かせません。だからこそ、研修では「姿勢」と「型」をセットで扱う必要があります。
自己一致
「自己一致」は、聞き手側がありのままの自分を受け入れ、心理的に安定して話し手の話を聴くために必要な状態です。アクティブリスニングする側自身が不安定であれば、話し手の話を素直に聞けなくなります。話をする話し手を受け入れるためには、まずは自分自身が自分を受け入れ、自己一致する必要があります。これは、別の言い方で「純粋性」と呼ばれるものです。
簡単に言えば、アクティブリスニングする側が、話し手に対して、自分を良く見せたり仮面をつけた状態では、話し手に迫ることはできないため、仮面を外すという意味です。私たちは、社会生活の中で意識・無意識に関わらず多くの仮面をつけています。ここで言う仮面を“バイアス” と言い換えることもできるでしょう。
全ての仮面を外して完全に自己一致するのはなかなか難しいでしょう。それでも自己一致していない不完全さを認め、それも含めて自分を受け入れることで、不安定な心理を落ち着かせる必要があります。
また、自己一致するためには、自分の気持ちや感情を丁寧に伝えることも効果的です。これは、話し手の気持ちや感情を聴きたいという素直な気持ちにおいては、自己一致している状態とも言えます。
アクティブリスニングでは、聞き手が話し手の感情や気持ちを完全に共感することは難しいと考える一方で、聞き手が積極的に話し手の話の内容や態度に注意を払うことで、話し手が胸襟を開くということもあるということが重要です。言葉だけに反応するのではなく、話し手の思考や感情に目を向けていれば、聞き手側の質問も変化してきます。
現場にいるときは、五感(視覚や聴覚など)を使って話し手の話に集中し、話し手に対して全神経を傾ける態度が、自分の姿勢として話し手に伝わると言えます。
1on1や面接の場で、話し手が喋る時間よりも、聞き手が喋る時間の方を少なくしましょうと言われます。これは、カール・ロジャースの自己一致の前提に基づくものです。ただし、自己一致は行動を決定するものだけではなく、アクティブリスニングの姿勢や考え方も重要であるということを確認しておきましょう。
「知ったかぶり」や「同調」という安易な自己一致は避けるべきということです。リスニングする話し手の心理や思考と完全にシンクロすることは不可能です。そのため、自己一致しているかどうかを自信を持って話し手に打ち明け、話し手を理解しているか確認することが重要です。
無条件の肯定的配慮
「無条件の肯定的配慮」は、話し手に対し、聞き手側が評価・好みといったジャッジを下さず、ありのままの話し手を受け入れて話を聴く姿勢のことです。たとえば、話し手が社会的・モラル的に反するような発言をしたとしても、感情的に拒否・否定などはせず、その発言に至るまでの背景や話し手の想いについて肯定的な姿勢で聞きます。発言そのものではなく、発言までのプロセスに注目します。
簡単に言えば、常に自分の意見を保留することが大切です。中立で批判的でない態度を持つことで、話し手は安心して自分の考えを話せるようになります。そうすることで、嫌な思いをすることなく、信頼できる場になります。
他人の話を聞くときに自己の判断を保留する方法は以下のようなものがあります。
- 話し手や状況への共感を表現すること
- 様々な人や文化について学ぶこと
- 他人を受け入れる練習をすること
- 自分が話し手を批判している瞬間を認識し、その考えを受け止めること
この無条件とは、聞き手側のバイアスをできるだけかけないことを指しています。誰しもバイアスのスイッチを切って物事や言葉を認識したり判断したりすることはできません。従って、肯定的な配慮ができるように、自身のバイアスに目に向ける必要があるということです。
現象学のエトムント・フッサールは、日常生活で自明視している「世界はそこに独立して存在する」という自然的態度の定立を一時停止(括弧に入れる)ことで、意識の純粋な構造を分析するための方法論です。
これを踏まえ、何かを見たり聞いたりして認識する時に、「判断保留(エポケー)」を心がけることで、見えてくるものがあるのではないでしょうか。
現在の日本企業でも、多様性をコラボレーションの機会に変える必要があります。そのためには、自身のバイアスを認識し、無条件の肯定的配慮を創り出すことが求められ、これが多様性を価値に変えるための手がかりとなるでしょう。
共感的理解
「共感的理解」は、聞き手が話し手側の立場になり、感情に共感しながら話し手を理解しようとする姿勢のことです。この時に重要なのが、お互いの価値観・主義主張などはとりあえず横に置いておき、話し手の目線に合わせ、見ている世界を共有するように寄り添うことです。立場や状況が違う場合も想像力を働かせ、できるだけ話し手の立場に近づくことが大切です。
また、話し手が話した内容を自分の言葉で返すことが大切です。これは積極的な傾聴のテクニックで、話し手の考えや感情を正確に理解するのに役立ちます。これにより、誤解が最小限に抑えられ、自分の意見が尊重され、理解されたことが話し手に伝えられます。
さらに、聞いたことを反映する方法の1つとして、「言い換え」があります。
たとえば、部下(話す側)から「子どもが産まれたばかりで、仕事と家庭をどうすれば良いかわかりません」と相談があれば上司(聴く側)は「仕事」と答えれば良いでしょうか。または「家庭」と答えれば良いでしょうか。アクティブリスニングにおける共感は「子どもが産まれた状況の中で、うまく仕事と家庭をバランスが取れない状況にモヤモヤしている気持ちがあるかな?」と質問します。
上記は単純に話し手の言っていることを言い直しているだけかもしません。しかし、話し手の発言や言葉を借りながら、話し手の見えない情動や発言に至る感情をまず引き受けるという姿勢が伝わります。
ワークライフバランスという一般論的には整理されていることでも、各人の個別の事情においては、一般論だけで片付くものばかりではありません。そこの個別事情や個人性に踏み込んでいく姿勢を言い換えることで表出することが共感的理解です。
ロジャースの三原則を企業内の会話に読み替える
自己一致は、わからないことをわかったふりで流さないことです。上司や面接官が知識や権威で会話を支配するのではなく、「いまの話をこう理解したのですが合っていますか」と確認できる状態が、実務における自己一致です。
無条件の肯定的配慮は、発言内容にすぐ賛成することではなく、評価を急がず背景を聴くことです。共感的理解は、相手の感情を自分の言葉で勝手に決めつけることではなく、相手が見ている状況と感情を仮説として丁寧に返し、本人の認識と照合することだと理解すると、管理職研修でも誤解が生まれにくくなります。
アクティブリスニングが今あらためて必要な理由
大企業では、面談制度・サーベイ・チャットツールなど「話す機会」を増やす施策はかなり普及しています。しかし、場があることと、相手が安心して本音を話せることは別です。制度を増やしても現場の会話の質が変わらない限り、1on1が進捗確認で終わる、サーベイが数値報告で止まる、ナレッジ共有が定着しない、といった課題は残り続けます。
現代におけるアクティブリスニングの必要性
急速なテクノロジーの進化やグローバル化・多様化の波を受け、競争が激化している現代のビジネスシーンにおいて、時代に適合した優秀な人材を育成することは、すべての企業の急務です。アクティブリスニングは、そのような人材育成の領域でも注目されており、社員のマネジメント力・コミュニケーション能力の向上が期待されています。
現在、私たちは世界中で多様な人々のさまざまな価値観が交わるデジタル空間にいます。そのため、話し手の状況を理解することは、ますます難しくなっています。情報を整理することはできますが、人々の文脈や情報を結びつけ、状態を理解することは、AIや機械には難しい課題です。だからこそ、状況や状態を確認することが不可欠なのです。
さらに、現代社会はグローバル化・多様化が進んでおり、事業1つを取っても多様な人材が参加しているケースが増えています。しかし、急速な変化に現場は対応しきれておらず、多様なビジネスパーソン同士が相互理解をするための足場が十分にできているとは言えません。そのような状況もあり、物事の見方・考え方・文化的背景が違う者同士をまとめ、マネジメントしながら仕事を遂行できる人材が必要とされています。
ビジネスパーソンのマネジメント力に必要とされる要素には、傾聴力・質問力・フィードバック・関係構築能力などがあります。アクティブリスニングはとくに、傾聴力・質問力を鍛えることに有効です。これによりコミュニケーション能力が向上すると、ビジネスパーソン同士の連携が円滑になり業務の遂行が促進されます。
さらに、コミュニケーションが活性化されると、情報・意見の交換が盛んになります。他者の視点・考えが共有されることにより、ビジネスパーソンそれぞれが自身の業務や事業計画について多角度的に把握でき、仕事全体の質が向上することにも期待できます。
自社の社員同士だけでなく、社外のビジネスパーソンと仕事をする際など、あらゆる人間関係のマネジメント・コミュニケーションにおいて、アクティブリスニングの効力は発揮されます。
弊社ソフィアの調査から見えること
弊社ソフィアの調査では、職場評価の要因として「人間関係・上司部下関係」が最多で、職場環境や待遇・報酬を上回りました。つまり、制度や報酬だけでなく、日常の関わり方そのものが職場体験を左右しているということです。アクティブリスニングは、その人間関係の質に直接働きかける基礎技術として位置づけられます。
同じ調査では、情報共有の施策としてチームメンバーとの定期面談・ミーティングと1on1が上位に挙がっています。すでに多くの企業で対話の「器」は用意されている一方、上司が傾聴してくれている実感や、1on1が業務・キャリアに役立っている実感にはばらつきが見られます。ここから言えるのは、課題は実施有無よりも運用の質にあるということです。
さらに、部署間コミュニケーションの必要性を感じる人は多い一方で、他部署の情報が十分に入ってくると感じる人は限定的でした。ナレッジ共有でも「情報がいろいろな場所にあり、どこにあるのかわからない」という悩みが上位に挙がっています。聞きにくい・確認しにくい・背景が見えにくい状態を放置すると、制度やツールがあっても情報は流れません。ここでも問われるのは、質問しやすく説明しやすい「聴く文化」です。
アクティブ(積極的に)リスニング(聴いている)とは何か?
アクティブリスニングとはその名称の通り、積極的に話し手の話を聴く姿勢のことですが、具体的に積極的に話を聞いているとはどのような状態なのでしょうか。
たとえば、ある社員が「一生懸命この業務を頑張ります」と発言したとしても、聞き手側には意図が十分に伝わっていない可能性があります。その発言がどのような文脈なのかは、声のトーン・表情・言語・状況などさまざまな背景にもよるため、言語(文章)としての意味だけでは本当の意図はわかりません。
さらに言えば、話し手自身が自分の言いたいことが理解できていない場合もあり、単に感情的な反応が言語として発せられている場合すらあります。たとえば、苦手な社員と一緒に仕事をしたくない無自覚の本心から、取ってつけたような業務の断りの理由を無意識に用意するなどです。
話し手の状況を理解するのは言葉だけや非言語だけでは難しく、聞き手の姿勢として過去の経緯や文脈を考慮し、想像力を使って対話にアプローチしないと深くは理解できません。その深層にある文脈や背景を聴くために、最大限の想像力で話し手の心理にアプローチしますが、話し手の発言に対しては自分の解釈や判断を入れず、判断や解釈を一時的に保留することが重要です。
私たちは、判断や解釈を無しに、物事や言語を認識することはできません。「ゲシュタルト崩壊」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、わかりやすい例として、漢字をじっと見ていると、知っているはずの漢字が見慣れない形に見えてしまうというものです。ある程度長い時間注視していると健常者にも失認の症候が見られるというものです。
コミュニケーションにおいても記号や言語のつながりや文脈が文章や一連の流れとして認識することができなければ、バラバラの情報から意図しない理解のされ方になってしまう可能性があります。これは、コンピューターで言えばバグであり、内蔵されているプログラムが壊れていることと同じです。
私たちは、国籍や業界、組織または、成功体験、失敗体験の中で、ゲシュタルトという認知パターンを獲得しています。これはバイアスの正体であり、バイアスの効用です。このバイアスに着目し、解釈する前に、判断する前に、保留することは訓練が必要です。
本当の意味で、発言以外の話し手側の情報にアンテナを張り、言葉の外にある意味の補足材料をキャッチすることが必要だということです。その意味において、「ロジャースの三原則」が土台になっているアクティブリスニングは、話し手を肯定しながら共感し、話し手の立場に立って傾聴するため、言葉の外にある情報を敏感に受け取ることができます。
積極的に話を聴くとは、話し手の本当の意図を汲み取ることであり、聴き手側の胸襟を開き、感じたことを伝え、確認しながら対話と質問を重ね、話し手の意図を引き受けていくことで、自分の力で問題解決ができるようサポートすることです。それを、アクティブ(積極的に)リスニング(聴いている)と呼んでいます。
単純なコミュニケーションテクニックと言えばそれまでですが、カール・ロジャースの提唱するアクティブリスニングには、コミュニケーションの不可能への果敢な積極性が背景にあることを確認しておきましょう。
アクティブリスニングなしにコミュニケーションは成立しない
私たちの日常的に行っている聴く行為というのは表層的なやり取りが多く、混乱や誤解が生じるようなケースが多々あります。忙しくて挨拶が雑になっただけなのに、「あの人に良く思われていないのでは?」と早合点することがありますが、そのような誤解はまさに表面的なコミュニケーションです。言語や非言語のサインは目に見えますが、それは本質的な意味や解釈ではなく、あくまで手がかりに過ぎません。ハラスメントや過度な正確さから、言葉や外見などを制限することは、問題の是正には役立つ一方で、コミュニケーションを基本的に難しくする可能性もあります。一方で、アクティブリスニングは異なります。真の意味で話し手側の発言の意図を理解するには、意識的に言葉の外にある情報をキャッチするアクティブリスニングが必要になります。
私たちはコミュニケーションができていると考えがちですが、多くの場合、本当の意味でのコミュニケーションが取れているとは言えません。出社時や休憩時にはなんとなくいつもの流れで挨拶し、テンプレートのようなビジネス会話を行い、決まった形で雑談を繰り返していることが多いものです。
このような決まった型ばかりで会話を行い、アクティブリスニングを怠ると、本質的なコミュニケーションを成立させることができず、1on1などの対話や議論による問題の分析も曖昧なものとなりかねません。社員同士の劣化したコミュニケーションが横行するとはつまり、互いを尊重し合い情報を共有する土台が劣化している状態に等しく、組織としての統率力を損ない、企業としての力を失うことにもつながるリスクがあります。
言語や形を制限しても、同じコミュニケーションが繰り返されることはあり得ません。言語や記号レベルで発している内容は同義でも、非言語的コミュニケーションにおいては、微細な変化があります。表情、こわばり、笑顔、など身体的動きや語気、声のトーンなど、日々違いがあります。この機微に神経を傾けることがアクティブリスニングです。
本来の人間のコミュニケーションとは、話し手の絶えず変化する声のトーン・表情・言語・状況を手がかりに、発言の裏にある意識的・無意識的な意図や感情を推察し、総合的に話し手の言葉を受け取ることです。ビジネス上の対話においても重要で、話し手が何に困っていてどのようなサポート・連携を必要としているのか察知するためには、アクティブリスニングによって話し手の発言の本当の意図を汲み取る必要があります。
これは、1on1や面接など、特別な場所だけやることではなく、日々の何気ない雑談でも、ルーティン化された進捗の会議でも一緒です。「気にかける」という姿勢こそ重要なのです。
言語や情報伝達だけの論理的なコミュニケーションだけに頼っていては、簡単にチームや職場が崩壊するでしょう。
アクティブリスニングで変わること
アクティブリスニングの効果は、1対1の会話がうまくいくことにとどまりません。社内コミュニケーション・1on1の質・部署間の連携・ハラスメント予防・管理職のマネジメント力など、組織の複数の層に波及します。ここでは人事施策に落とし込みやすい形で整理します。
社内コミュニケーションの活性化
アクティブリスニングを用いた積極的傾聴では、話し手を肯定し受け入れる姿勢で話を聴きます。肯定し受け入れられていると感じた話し手は、真剣に話を聴いてもらえていると感じるため、自己開示したい気持ちが促進されます。アクティブリスニングが常態化し、自己開示が当たり前になることで、話しやすい場の雰囲気を醸成でき、社内コミュニケーションの活性化につながります。
ところが近年では、テレワークなど出社しない業務形態が浸透しており、遠方で働く社員同士の「コミュニケーション」「連携」に関する課題が多くの企業で持ち上がっています。ビデオチャットツールなどを介した対面とは勝手の違うコミュニケーションが発生するため、社員同士のつながりが薄くなっているからです。
また、部門間でのコミュニケーション不足はサイロ化につながるリスクもあるため、早急な対策を講じることが多くの企業で課題となっています。各部門の意図・目的の共有が難しくなり、事業や業務全体の流れが見えにくくなるため、経営に大きな影響を及ぼします。
たとえば、ある企業において、営業部門では価格を抑えた商品を主力にする動きがある一方、生産部門では既存商品の改良や品質の高い商品を開発したい意向がある、といったケースです。対面でコミュニケーションを取っている場合はこのような目的のズレは起こりにくいですが、テレワークなどの対面しない業務形態では、コミュニケーション不足によって社員・部門間での目的の不一致が増える一方です。
もちろん、アクティブリスニングは遠方同士のコミュニケーションにも活用できますが、対面と同じように話し手の言葉の外にある情報をキャッチすることはできません。ビデオチャットツール・チャット・メールなどのやり取りは、対面よりも言葉の外にある情報が少ないからです。それでも、テンプレートのようなやり取りよりは意義があるため、積極的に活用すると遠方同士のコミュニケーションの質を向上させられるでしょう。
ツールやデジタル技術が進んでも、実際には伝達の方法が変わっただけで、言語や非言語のサインは何も変わっていません。これらの進歩は空間的にも時間的にも効率が向上していますが、アクティブリスニングという姿勢やスキルには何ら影響を与えておらず、個々人のコミュニケーションスキルが向上しない限り、コミュニケーションの量が増えても質が低下している可能性があります。
弊社ソフィアの調査では、職場評価の要因として人間関係・上司部下関係が最多でした。これは、コミュニケーションの質が福利厚生や制度の前に、職場体験の中核として認識されていることを示しています。アクティブリスニングは、その人間関係の基礎体力を高める施策として位置づけると、研修投資の意義が伝わりやすくなります。
また、部署間コミュニケーションの必要性を感じる人が多い一方で、他部署の情報が十分に入ってくると感じる人は限られていました。相手の背景や制約を聴かずに情報だけをやり取りすると、共有しているつもりでも理解は進みません。だからこそ、情報伝達の量ではなく、理解確認の質に目を向けることが大切です。
課題解決能力の向上
アクティブリスニングには、話し手側の課題解決能力を向上させる効果もあります。聞き手側は話を聴いている時にアドバイスや原因究明などは行わず、話し手自身が課題解決の方法を見つけ出せるよう促すことを目的に傾聴します。
たとえば上司が部下の話を聴いている時、経験からすぐに答えを教えてしまうと、部下は自力で解決する機会が奪われ成長することができません。アクティブリスニングによって適切な内容・タイミングで質問を投げかけることにより、部下が内省し改善や修正を実践する機会ができ、自分自身で課題を解決した感覚を得ることができます。
上司・先輩社員による誘導的なコミュニケーション(間接的なサポート)があったとは言え、自分自身の力で課題を乗り越えた経験は自信にもつながり、別の業務にも挑戦的な姿勢で挑めるようになるでしょう。このように、社員の課題解決能力を向上させ成長するための手法としても、アクティブリスニングは活用できます。
弊社ソフィアの調査では、1on1そのものの実施は一定程度広がっている一方、業務・キャリアへの有用性評価は分散していました。これは、1on1を「実施したか」ではなく「相手が考えを深められたか」で見直す必要があることを示しています。管理職が結論を急がず、本人の解釈と言葉が出てくるまで待てるかどうかが、1on1の質を分けます。
ハラスメントの抑止
アクティブリスニングは、話し手の発言から本当の意図を聴き取るコミュニケーションです。そのため、会話においては本音に近い意思疎通ができ、互いの感情や主義主張をある程度共有できるため、良好な人間関係を構築しやすくなります。結果、アクティブリスニングによって作られた風通しの良い雰囲気がハラスメントの抑止になり、人間関係におけるトラブルへの対処がしやすい状態になります。
企業とは年齢・性別・価値観の違う人が集まる場であり、そこにはさまざまな軋轢・すれ違いなどが起きるのが当たり前です。ジェネレーションギャップや性差などは顕著で、上司による部下への指導もやり方によってはパワハラになりますし、性別の違う者同士のコミュニケーションにおいてもセクハラになる可能性があります。
社員の属性を区分し態度や言葉を統制することは、問題の早期解決のようにみえますが本質的ではありません。コミュニケーションの本質自体をしっかりと学び実践することが重要です。言葉や言語に反応するのではなく、意図や背景を聴くという前提のコミュニケーションにすることで、ハラスメントは格段に減るでしょう。
私たちは、見えるものに反応し、感情が支配される生きものです。ハラスメントは誰でも起こり得ることです。しかし、一呼吸を置き、自分と話し手の感情や気持ちに集中してアクティブリスニングをすることで、より良い関係が築かれ、活力ある職場に変わるきっかけになり得ます。
重要なのは、発言した内容を必ずしも意図した通りに話し手が受け取らないかもしれないことを、コミュニケーションの前提にしておくことです。誤解や勘違いが起こることを想定し、社内で共有した上で、ハラスメント等のトラブルが起きた際に早急に申告し対処できる体制を作っておくことも大切です。その体制作りの土台として、アクティブリスニングによって風通しの良い雰囲気を社内に醸成しておくことが必要になるでしょう。
ハラスメント予防の観点でも、アクティブリスニングは有効です。問題が大きくなる前の違和感や、本人がまだ言語化しきれていない困りごとを、早い段階で拾えるからです。発言そのものに反応して処罰か放置かを選ぶのではなく、背景を聴き、必要な支援や是正に接続する土台をつくれることが重要です。
管理職がアクティブリスニングしないとビジネスは成功できない
ビジネスにおいて、管理職がアクティブリスニングによって社員とコミュニケーションを取り、マネジメントする習慣がないと、企業は経営・事業で成功することが難しくなります。
とくに企業は基本的にピラミッド構造になっており、トップダウン形式で意思疎通を図ることが一般的です。ビジネスでマネジメントを担当する管理職は社員の上下関係の仲介役であり、コミュニケーション上の課題・問題が集中することになります。
このとき管理職はアクティブリスニングを実践し、各ポジションの社員の本音を引き出しながら手を取り合えるよう促し、関係性を良好な状態に持っていくことが役割となります。
管理職が機能しないことは社員のパフォーマンスを低下させることであり、企業の経営にも影響を及ぼします。つまり、管理職のアクティブリスニングの実施はビジネスにおいて必須事項だと言えるでしょう。人的資本経営が標榜される現代であればなおさら、メンバーの感情やコンディションをアクティブリスニングを活用しながら聴くことが重要な仕事になりつつあります。
大企業の人事部門長や研修企画担当者にとって重要なのは、アクティブリスニングを個人の性格論にしないことです。「聴ける管理職」を偶然に任せるのではなく、評価者研修・1on1研修・面接官トレーニング・オンボーディング支援の共通基盤として扱うことで、組織的な再現性が生まれます。
では、実際のビジネスシーンではどのように実践すればよいでしょうか。
ビジネスにおけるアクティブリスニングの実践法
ビジネスシーンでのアクティブリスニングのポイント
ビジネスシーンでアクティブリスニングを実施する際、まずは問題を明確にしましょう。ビジネス上のコミュニケーションの背景には、必ず「進めるべき業務」と「解決すべき課題」が潜んでおり、話し手側は聞き手側に対し、行動・意識の変化を促す目的があります。そのため、アクティブリスニングを行う際には、話し手の発言をありのまま受け入れ、目的を察することで解決すべき問題を明確にすることが重要です。
また「話し手側の気持ち」と「話し手側の精神状態」に注意を払い、発言そのものだけでなく、その内面についても意識しておきましょう。とくに日本人は自身の内面や感情について話さない傾向にあるため、気持ち・精神状態に注目することで深いコミュニケーションが取れるようになります。
さらに、話し手の声のトーン・表情・仕草・スピード感などに注目し、相槌・視線・手の動きなどのボディーランゲージやジェスチャーを使って適宜反応しましょう。話し手に対し、話を聴いていることが伝わるように反応することがポイントです。
現場で再現しやすいように整理すると、アクティブリスニングは次の5ステップで実践できます。①相手が何を相談したいのかを確認する、②事実だけでなく感情を仮説として返す、③オープン・クエスチョンで背景を聴く、④要約して認識を合わせる、⑤最後に本人が次に何をするかを言語化する、の順です。
この順番にすることで、聞き手が早く答えを出したくなる衝動を抑えやすくなります。とくに管理職研修では、質問の量より「どのタイミングで要約したか」「本人の言葉を奪っていないか」を振り返る方が、行動変容につながりやすいでしょう。
1on1でそのまま使える会話の型
1on1では、次のような流れが実践しやすいです。まず「今日は何から話したいですか」と主導権を相手に返します。次に「その件で、いま一番引っかかっているのはどこですか」と論点を絞ります。続いて「それは、うまく進まないことへの不安が大きいのか、それとも周囲との調整のしにくさが大きいのか、どちらに近いですか」と感情と事実を分けながら確認します。最後に「ここまでの話を踏まえると、次に試したいことは何ですか」と、行動の言語化に接続します。
この型のポイントは、上司が課題を解釈し切る前に、部下本人の言葉で整理し直してもらうことです。上司が結論を出すほどスピード感は出ますが、本人の納得や再現性は低くなりがちです。アクティブリスニングは、本人の思考を深めるために、上司が少しだけ急がない技術だと言い換えられます。
アクティブリスニングから対話へ
ここまでアクティブリスニングについて解説してきましたが、アクティブリスニングはあくまでも話し手の話を聴くための手法であることを忘れてはいけません。アクティブリスニングから対話につなげ、お互いの主義主張・感情などの内面を理解し、許容し合うことが重要です。
具体的には、お互いが交互に話し手・聞き手(アクティブリスニングの実践者)となることで、互いの内面について引き出し合うことが対話の実践です。アクティブリスニングによって双方が発言についての認識を一致させ、互いの立場や内面について想像力を働かせることにより、より深い関係性を構築することができます。
また、アクティブリスニングを行うことによって、話し手側自身も気づかなかった無意識の感情・行動が浮き彫りになることもあります。たとえば、ある業務に対して社員同士で共有していたネガティブな感情について、一方の社員は不安を起因としており、もう一方は怒りを起因としているなど、アクティブリスニングで内面を深掘りするほど根本的な違いが露わになってきます。ビジネスにおいては、この無意識の発露が新たなアイデアや業務改善の種となるため、アクティブリスニングによる対話が重視されるのです。
人事施策として見るなら、アクティブリスニングは単独で完結させるより、対話設計の中で活かす方が効果的です。1on1では本人の状況理解の入り口として、エンゲージメントサーベイ後の対話では数値の背景を掘るために、異動後面談では適応状況の把握に、それぞれ役割が異なります。研修では「どの場面で、何のために聴くのか」までセットで教える必要があります。
オンライン1on1で変えるべきこと
オンラインでは、表情や呼吸、ちょっとした間の取りづらさなど、対面で自然に拾えていた情報が減ります。そのため、対面以上に要約と確認を増やし、「いまの理解でずれていないですか」「少し考える時間を取っても大丈夫です」と明示的に言葉にすることが重要です。
また、カメラ越しの会話では沈黙が気まずく感じられやすく、聞き手が埋めたくなります。しかし、沈黙の直後に相手の本音が出ることは少なくありません。オンラインだからこそ、急いで助言せず、相手が言葉を探す時間を守ることが、アクティブリスニングの質を左右します。
アクティブリスニングの手法と使い分け
アクティブリスニングを行う際には、積極的に使いたい手法があります。「ロジャースの三原則」をベースに実践してもよいのですが、さらに効果の精度を高めるには、具体的な手法を用いることがお勧めです。
ここでは、アクティブリスニングでとくに有効な6つの手法について解説します。
明確化と言語化
話し手の発言の中に潜んでいる本当の感情や事実を見つけ出し、適切な表現に言い換えて聴き返す手法です。聞き手が言語化することでサポートし、話し手自身が気づいていない気持ちや考えを発見できるように促します。
悩みや問題について話している場合、話し手は本心や感情的な反発に気づいていない場合も多く、その影響で問題・課題解決に思考が向いていないことがあります。たとえば、業務内容への不満を口にしている社員が、実は一緒に働く上司・同僚と意見が衝突することのストレスが原因で、業務内容を批判していたりするケースです。
このようなケースも多々あるため、アクティブリスニングの原則でもある「発言の意図への注目」を怠らず、話し手が本当は何を感じ、言いたいのかを明確化していきましょう。その上で、話し手自身に気づいてもらうよう適切な返答を行っていきます。
アクティブリスニングをするには、会話に完全に集中する必要があります。五感をフル活用して話を聞き、話し手に全神経を注ぎます。この積極的な傾聴テクニックを効果的に使うには、携帯電話など気が散るものを遠ざけ、空想を避け、内なる対話を停止します。話し手に焦点を合わせ、他のことを一時的に忘れることが大切です。
また、話し手の言葉や非言語的な反応に着目し、話し手の気持ちを言葉で表現することは非常に大きな影響を与えます。事例や比喩、あるいは聞き手の過去の似たような経験なども有効です。
非言語コミュニケーション
非言語情報は、数値化された比率をそのまま鵜呑みにするよりも、話し手の表情・視線・間・声の強さ・呼吸の変化といった複数の手がかりを総合的に読むことが大切です。アクティブリスニングでは、これらを「真意の証拠」として断定するのではなく、追加で確認すべきヒントとして扱います。
聞き手側の非言語表現も重要です。腕を組まない・視線を固定しすぎない・うなずきや短い相づちで追っていることを示す、といった基本動作だけでも、話し手の安心感は大きく変わります。ただし、テクニックを演じることが目的になると不自然さが出るため、相手に合わせてやり過ぎないことが前提です。
オープン・クエスチョン
オープン・クエスチョンとは、はい・いいえなど単純な返事で返せないような質問を投げかけることです。「トラブルが起きた時あなたはどんな対処をしましたか?」や「課題の根本的な改善部分はどこですか?」など、説明を含めないと返答できないような質問です。
オープン・クエスチョンが有効な理由は、説明が必要な質問を投げかけることで、今思っていること・考えていることを吐き出してもらえるからです。また、自分の言葉で説明することにより抱えている不満・不安が軽減し、内側にある思いを打ち明けることで心を開きやすくなるメリットもあります。
アクティブリスニングにおいて、より踏み込んだコミュニケーションを取るためには、オープン・クエスチョンによる問いかけが有効です。
パロット(オウム返し)
パロットとは、日本語に訳すと「オウム返し」の意味になります。たとえば、「取引先の人と喫茶店で打ち合わせしたんですよ」「そうなんですか、喫茶店で」といった流れで、話し手の発言をそのまま返答する手法です。
一見すると話し手が不愉快になりそうな返答ですが、その効果はまったく逆で、話し手側は自分の話が伝わっていることに安心感を得ることができます。また、「今の話は〇〇という認識で合っていますか?」とオウム返しすることにより、話す側が自身の発言を客観的に振り返る瞬間ができ、自分自身と向き合うことにもつながります。
つまり、話し手に安心感を与えながら、自己理解・内省を促す効果があるのがオウム返しです。アクティブリスニングでも重要な手法であるため、ぜひ覚えておきましょう。
パラフレーズ(言い換え)
アクティブリスニングにおけるパラフレーズは、話し手の発言の意図を整理してまとめ、要約したり別の言葉に言い換える手法のことです。
聞き手は話し手の話を聞いた後、話の内容を自分の言葉で言い換えて話し手に確認することで、話し手側に「話を聞いてもらえている」という感覚を持ってもらえます。結果、話し手の聞き手への信頼感も向上し、関係性が良好になるといった効果も期待できるでしょう。
平たく言えば、話し手の感情や気持ちを言語化し、事象と一緒に伝えることです。パロットのように事実を言い直すことに加え、聴き手が話し手の感情を想像して言語化し、事象に沿えて伝えることがパラフレーズの本質です。
ミラーリング
ミラーリングとは心理学の概念で、自分と同じような仕草・行動をする人を好意的に見てしまう心理効果のことを指します。アクティブリスニングでも用いられる手法で、聞き手が鏡のように同じ仕草などを行うことで、話し手に親密感や安心感を持ってもらいます。
代表的なミラーリング対象は、姿勢・表情・仕草・声のトーンなどが挙げられます。気をつけなければならないのは、大げさになったり、わざとらしくやらないことです。話し手と波長を合わせるイメージで、自然に話し手の動作を真似すると良いでしょう。
ミラーリングは、相手のしぐさを機械的に真似ることではありません。相手の話す速度や温度感に合わせて、自分の返し方を少し調整する程度で十分です。わざとらしい追従は逆に不信感を生むため、「合わせる」より「ずらしすぎない」と考える方が実務では安全です。
要約・確認・沈黙の使い方
上位記事で共通して評価されていたのは、言い換えやオープン・クエスチョンだけでなく、要約と確認をこまめに挟む実践でした。たとえば「いまの話をまとめると、課題は優先順位ではなく、関係者との調整の難しさにあるという理解で合っていますか」と返すことで、会話は一気に構造化されます。
また、沈黙は失敗ではありません。話し手が考えている時間を聞き手が守ることで、表面的な回答の先にある本音や迷いが出てきます。管理職研修では、質問技法と同じくらい「待つ技法」を練習させることが重要です。
以下に、手法の使い分けの早見表を示します。
【場面:1on1の冒頭】
有効な手法:オープン・クエスチョン/使う目的:話題の主導権を相手に返す
【場面:話が拡散しているとき】
有効な手法:要約・確認/使う目的:論点を整理し認識をそろえる
【場面:感情が強く出ているとき】
有効な手法:パラフレーズ/使う目的:感情を言語化し、落ち着いて振り返れるようにする
【場面:事実確認が必要なとき】
有効な手法:パロット/使う目的:重要な言葉をそのまま返して意味を確かめる
【場面:関係性が固いとき】
有効な手法:非言語調整・自然なミラーリング/使う目的:安心して話せる雰囲気をつくる
アクティブリスニングでやってはいけないこと
実践方法だけでなく「失敗しやすいポイント」まで明示しておくことで、研修企画担当者は現場で起こりがちな誤用を先に把握しておくことができます。ここでは、大企業で起こりやすい失敗を整理します。
第一に、聞く前に答えを言ってしまうことです 。経験豊富な管理職ほど、本人が話し切る前に「つまりこういうことだよね」「それはこうすればいい」と結論を急ぎやすくなります。これでは、相手の整理ではなく、上司の解釈を押しつける会話になってしまいます。
第二に、評価と理解を同時にやろうとすることです 。面談の場で、評価コメント・改善指導・感情の受け止めを一度に行うと、話し手は安全に話すことができません。育成面談と評価面談で目的を分けるか、少なくとも「今日はまず状況理解を優先する」と明示することが必要です。
第三に、共感のつもりで自分の話にすり替えてしまうことです 。「私も昔そうだった」と語り始めると、一見寄り添っているようで、会話の主役は聞き手に移ってしまいます。共感は自分の経験を披露することではなく、相手の経験を相手の文脈のまま聴き切ることです。
第四に、同調しすぎて論点を曖昧にすることです 。アクティブリスニングは肯定的に聴く姿勢を含みますが、無条件に賛成することではありません。背景を受け止めた上で、「その認識は理解しました。そのうえで、いま動かせる論点はどこでしょうか」と整理に戻す必要があります。
第五に、1on1を進捗確認だけで終わらせることです 。進捗確認は必要ですが、それだけではアクティブリスニングの価値は生まれません。本人がどこで詰まっているのか、何に迷っているのか、どんな支援が必要なのかまで聴けて初めて、1on1は育成の場になります。
第六に、聞き手の負荷を無視することです 。アクティブリスニングは万能ではなく、聞き手にも集中力と感情労働を求めます。緊急対応やコンプライアンス案件のように、すぐに指示や判断が必要な場面では、傾聴よりも明確な指示を優先すべきこともあります。だからこそ、研修では「いつ聴くか」「いつ判断するか」の切り替えまで教える必要があります。
アクティブリスニングでは判断と解釈を極力抑えることが重要
私たちは話し手を理解する際、まず自分自身を通して考えます。英語を学ぶように、知っていることから知らないことを学ぶプロセスを逃れることはできません。話し手を本質的に理解することは不可能であり、話し手の発言や印象は私たちの想像の域を出ません。
さらに、中立的で非批判的な態度を保つことは困難ですが、話し手を理解する上で重要です。この態度は、話し手が自由に考えを共有できる安心感を生み出します。こうしたアプローチにより、会話は安全な空間となり、話し手は恥ずかしさや非難を恐れることなく話すことができます。
しかし、このような態度を身につけるのは簡単ではありません。共感を示したり、異なる文化について学ぶことで、より受容的なコミュニケーションを促進できます。また、自分が話し手をどのようなフィルターを通して見ているかを自覚することも重要です。
この論点は、管理職研修で最も誤解されやすいポイントでもあります。判断や解釈を抑えるとは、何も考えないことではなく、自分の解釈をいったん仮説として扱うことです。「私はこう受け取ったが、あなたの意図としては合っていますか」と返せるかどうかが、実務での分岐点になります。
管理職研修へのアクティブリスニングの定着方法
人事部門長や研修企画担当者が重視すべきなのは、単発研修で「いい話を聞いた」で終わらせないことです。アクティブリスニングは知識理解だけでは定着せず、実際の会話場面で使ってみて、振り返って、もう一度修正する循環が必要です。そのため、研修設計も一回完結型ではなく、事前把握・演習・現場実装・フォローアップまでを含めて考える必要があります。
まず、導入前の現状把握を行います。1on1の実施率だけでなく、「上司は傾聴してくれていると感じるか」「他部署に相談しやすいか」「ナレッジ共有の困りごとは何か」といった認識データを取ることで、研修テーマが抽象論になりにくくなります。弊社ソフィアの調査でも、制度の有無より運用実感の差が示唆されており、この把握工程は欠かせません。
次に、研修本編では概念理解よりも実践演習に時間を配分します。ロジャースの三原則を説明したら終わりではなく、1on1・評価面談・異動直後面談・部署間調整・ハラスメント相談の初期対応といった実際のシナリオでロールプレイを行います。その際、評価軸は「話し手がどれだけ話したか」だけでなく、「聞き手が要約・確認・感情の言語化をできたか」に置くと効果的です。
研修後は、現場実装のための共通フォーマットを配布すると定着しやすくなります。たとえば、1on1のメモ欄を「事実」「感情」「本人の打ち手」「上司の支援」に分けるだけでも、聞き方は大きく変わります。マネジャーに丸投げせず、会話を支える最低限の型を組織で共有することが重要です。
さらに、1〜2か月後にフォローアップを設け、録音や逐語がなくてもよいので、実際の会話を振り返る場をつくります。「すぐ助言してしまった」「要約せずに次の質問へ進んだ」といった失敗を可視化すると、行動変容は続きます。研修は一度教えて終わるものではなく、現場での試行錯誤を支援する仕組みとして設計すべきです。
研修設計のサンプル
- 事前診断:1on1運用実態、上司への傾聴実感、部署間連携の課題を把握する
- 基礎理解:三原則、傾聴との違い、やってはいけないことを共有する
- 場面別演習:1on1、面接、他部署調整、相談対応でロールプレイする
- 現場実装:会話メモ、質問例、要約テンプレートを配布する
- 定着支援:1〜2か月後のフォローアップで、成功例と失敗例を持ち寄る
KPIも受講満足度だけでは不十分です。1on1実施率・1on1の有用性実感・上司の傾聴実感・他部署への相談しやすさ・ナレッジ共有の困りごとの変化など、会話の質に関する指標を追うことで、研修の成果が見えやすくなります。
まとめ
本記事では、アクティブリスニングを単なるコミュニケーションのテクニックとしてではなく、1on1・管理職育成・部署間連携・ナレッジ共有の質を高める組織基盤として整理しました。アクティブリスニングは、聞き手が話し手の感情や背景を受け止め、話し手自身の整理と問題解決を支援する傾聴です。制度やツールだけでは埋まらない「会話の質の差」を埋めるために、今こそ見直す価値があります。
大企業では、すでに1on1や各種面談の仕組みはある程度整っています。だからこそ、次に問うべきは「実施しているか」ではなく「相手が安心して話せるか」「本人の言葉で次の行動まで整理できるか」です。アクティブリスニングを管理職研修の共通基盤として設計し、実践と振り返りを繰り返すことで、対話の質は着実に変わっていきます。
1on1の運用見直しや管理職研修の再設計、インターナルコミュニケーション施策との接続でお悩みであれば、現状診断から研修設計・運用伴走まで一気通貫で考えることが重要です。アクティブリスニングを単発スキルで終わらせず、組織の対話文化として定着させることが、結果としてエンゲージメントや連携の土台を強くします。





